男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球RTA   作:飴玉鉛

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ガバはガバを生み、対処しても次なるガバへ連鎖するさだめなのかもしれない


春の香りはガバの香り

 

 

 

 

「久し振りだな、蛇センパイ」

 

 この日を迎えるにあたって、蛇島桐人は淡い期待を懐いていた。

 

 まさかと思ってはいた。聞いた瞬間に鼻で笑い、そんな事はありえないと決めつけてすらいた。仮に期待していた通りだったとして、不利益こそあってもその逆は無いと解っていたが、それでも一縷の望みを掛けていたのだ。

 しかし、やはりというべきだろう。部室にやって来るなり口火を切った青年に、蛇島は己の期待が裏切られた事を悟る。それでもあるかもしれない万が一に全てを掛け、蛇島はとぼけてみる事にした。

 

「おや? どちら様でしょう。生憎と貴方のような人は知らないんですが」

「あ? ああ……そりゃそうか。お互い背ぇ伸びたし、パッと見で気づけねえのも無理はねえよな。俺だよ、天下のパワプロ様だ」

「………」

 

 そんなもの、見ればわかる。確かに蛇島が知っている姿よりも身長は伸びているし、記憶にある幼い顔立ちよりも遥かに精悍になっているが、それでもこの怪物が持つ存在感を忘れられるはずがなかった。

 何よりこんな傲岸な物言いが、様になりすぎるほど様になる青年など、日本広しと言えどこの怪物しかいないだろう。この青年以外が今のセリフを口に出そうものなら、滑稽にしか見えず冷笑を禁じ得なかったに違いない。

 悪あがきだと理解している。だからすんなりと蛇島は諦め、さも顔見知りの成長に驚いたかのように目を見開いてみせた。事実目の前の鬼才は、以前とは比べ物にもならない恵体へ成長していたのである。

 

「ああ飼い主さんでしたか。見違えましたね、ようやく内面に外面が追いついたようで何よりです」

「は、とぼけなくてもいい。どうせアンタの事だ、俺が俺でなくなってると聞いて、そんなもん有り得ねえって切って捨てといて……実は期待してたんじゃねぇのか? 事実なら俺らの関係も破綻するからな」

「はて、なんの事を仰っておられるのでしょうねぇ」

 

 見透かされていても、蛇島は貼り付けた笑みを動かす事はない。

 

 ――パワプロが、記憶喪失になった。

 

 その報は年始に届いた。蛇島の本性を知らない、パワプロを共通の知人に持つ矢部明雄と独自に連絡を取り合い、パワプロの状態を聞き出したのだ。尤も蛇島はそれを聞いた瞬間に、パワプロの虚偽だと断定したが。

 だってそうだろう。身内――友人を含む――にだけ情報を共有する方針らしいでやんす! と矢部は言っていたが、オカルトによってパワプロが魂を奪われて、一時何もかもに無気力になっていただって? 蛇島はオカルトの存在自体に懐疑的だったが、あのパワプロが誰かに遅れを取るところなど想像もできなかった。むしろどうやったら陥れられるのか蛇島の方が知りたい。

 どういうわけかパワプロの身内はオカルトの存在を信じたようだが、蛇島からするとパワプロの存在そのものが脅威(オカルト)である。どうせ洗脳まがいの手法で周りを騙し、よからぬ計画でも企てているに違いない。

 なんせ蛇島とパワプロは、パワプロが記憶喪失になったという()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これで記憶喪失を信じろなどと、冗談にしては程度が低い。やもするとパワプロの背後にもっと危険な怪物がいて、パワプロを介して蛇島を操っていた可能性も無きにしも非ずと思っていたが、どうやらそんな存在はいないようで安心したぐらいだ。……若干、パワプロが健在な事が残念ではあったが。

 

「で……ちゃんと仕事はしてくれてたみたいだな」

 

 パワプロがそう言って部室を見渡す。時刻は早朝だ。日が昇ったばかりの時分。教職員は職員室にいるが、生徒は開校時間になっていないためまだ一人も登校して来ていない。――蛇島と、パワプロを除いて。

 蛇島がこんな時間に部室にいるのは、パワプロにメールで呼び出されたからだ。そうでなければ朝練もないこの日に、こんな場所に出向いてくるわけがなかった。そしてパワプロは単身で、同棲している少女たちに気づかれる事なく出てきている。それはひとえに、蛇島とこうして会うために、だ。

 部室は閑散としていた。聖タチバナ学園高校の野球部は無名とはいえ、余りに不自然なほど。それも当然――使用されているロッカーは二つだけなのだ。それに対しパワプロは満足げで、蛇島は苦笑したい衝動に駆られる。

 

「ええ。部員は早川さんを除いて全員()()()()()()()()()()。おっかないボスからの指示ですからね……仕方がなかったとはいえ心が痛みました」

「ハッ」

 

 蛇島の諧謔に、パワプロは露骨に鼻で笑った。

 

 ――そう。パワプロの指示だ。蛇島は無名の野球部員を退部に追い込み、意欲や能力の低い連中を一掃した。

 

 時にいがみ合わせ、時に弱みを握り他者にそれとなく報せ、素行の悪い他校の生徒を嗾けて怪我を負わせ、または相手に怪我をさせて転校・中退させた。なぜならこれから先、無能どもは邪魔になるからだ。

 パワプロや自分達が目指す甲子園優勝は、程度の低い連中を身内に抱えて成せるものではなく、そんな連中に合わせて質の低い練習をしたり、意識改革のために時間や労力を割くなど無駄でしかない。

 

「なに俺のせいにしてんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言っただけだろ」

「ははは、そうでしたね。ええ、私が勝手にやった事ですよ。ボスは私に何も言っていない……勝手に深読みして、私が独断でやった事でした。まあ次々と部員がいなくなってしまい、私と二人きりになった早川さんは、苦虫を噛み潰したみたいな顔をしてましたがね?」

 

 そうだ。蛇島の独断なのだ。パワプロは一言たりとも部員の排除など指示していない。パワプロの知らない所で、蛇島が暴走しただけの事だ。彼には何も責任はなかった。尤も……パワプロは自身の言動一つで蛇島がどう動くか見透かしていただろう。それなのに止めなかったのだから、蛇島は自らの飼い主の意図を汲めたと判断している。

 

「そいつは大変だったな。ってかセンパイはまだあおいちゃんに嫌われてんのか」

「仕方ないでしょう? 彼女は私が貴方にした事を知っている。世間の評価が偽りと知られているのに仲良くしてくれる訳がありません。お陰様でこの一年は高校球児らしい活動ができてませんよ」

「ソイツは申し訳ありませんでしたねぇ。代わりに元プロ選手にコーチしてもらえるようにしてやったろ。下手な恨み節はやめてくれ。こっちも大変だったんだ、影山スカウトに頼んで、伝手でコーチを斡旋してもらうのはさ。おかげでデカい借りができちまったよ」

 

 無名の高校で志も能力も低い部員達の中で、一年を無為に過ごすのかと思い暗澹たる気分でいたが、パワプロの言うように元プロの指導を受けられたのは非常に助かった。蛇島も早川あおいも、大きく成長できたと言える。

 その点で言えば蛇島はパワプロへ感謝していた。彼は確かに契約を履行している。自分がパワプロに従う事の利があるのだと証明されたのだ。と言っても元プロの指導は、つい先日に約束の期間を過ぎたため終了していたが。

 

「ところで、貴方はどうして記憶喪失のフリなんかしたんですか?」

「あ? 気になるなら教えてやらんでも……いや、知っとくべきだな。いいかセンパイ、これから言うことに一切ウソは無い。本当の事だ。しっかり聞いて頭に留めとけよ」

「……嫌な予感がしますね。聞かないという選択肢はないんでしょうか」

「あるわけねぇだろ。いざとなったら()()すんのは俺とアンタなんだからな」

「………」

 

 藪を突いてしまった。蛇どころか鬼が飛び出してきた気分になり、蛇島は不用意に雑談でもする調子で訊ねるべきではなかったと後悔する。

 しかしパワプロがこう言うということは、聞いておかねばまずいことなのだろう。意識を切り替えて拝聴する構えを取った。

 

「まず俺は記憶喪失になんざなっちゃいねえ。そりゃ分かるよな?」

「ええ。いっそ本当だったら良かったんですがねぇ」

「ははは、面白い冗談だ」

 

 冗談ではない。

 

「記憶喪失になんざなってねえのに、なんでそんな事を身内に吹聴したかっていうとだな。どうもオカルト的な害獣がいるみてぇなんだわ」

「………」

「正気か? って顔してるな。俺は正気だぞ。しかもコイツはマジな話だ」

「……それは、またなんとも反応に困る……」

「別に無理して信じなくても良い。オカルトって言われて飲み込めねえなら、新手の病気か何かだとでも思ってくれ」

「病気ですか」

「おう。寄生虫が病原体だ。感染したら何もかもに無気力になるか、あるいは寄生虫に脳をヤられて体を乗っ取られるんだ」

「……おっかないですね。そんな病気が本当にこの世にあると?」

「無かったら俺が下手な芝居打つ理由がねえだろ? 感染条件はカメラで写真を撮られるのが一点、体を乗っ取られる感染経路は一つのでっけぇ眼球が付いてる、赤いヘルメットを被らされること。この二点に気をつけてくれ」

「………」

「俺が記憶喪失のフリをしたのは、周りの連中にこの病気への警戒を促すためだ。俺がやられたってんなら、周りの奴らは否が応にも信じるし警戒する。現に橘・木村・猪狩の財閥は精神寄生体の手掛かりを見つけ確保したらしい。コイツを撲滅しねえ限り安心できねえぞ」

「……どうやら、本当みたいですねぇ」

「同じことを何度も言わせんな。マジだって言ってんだろ。今回はセンパイの仕事ぶりの確認と、病気の事を直接伝えるために来たんだ。用は済んだし、今度は新入部員として来るからその時にまた会おうぜ。家の奴らに黙って出てきてるんでね、気づかれる前に帰っとかねえと怒られちまう」

 

 言うや否や、パワプロは蛇島に背を向けてさっさと行ってしまった。

 それをなんとも言えない顔で見送った蛇島は嘆息し、手近にあったベンチに腰掛けて、パワプロの気配が遠ざかっていくのを感じながら呟いた。

 

「やれやれ……久し振りに直接会ったと思ったらこれか……これからの二年、便利に使われそうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――桜トンネルに花弁が舞う。

 

 うららかな朝日に照らされた通学路は、涼やかでありながら爽やかであり、新生活の幕開けに相応しい花道と化している。

 

 春の匂いがする風が吹く。六道聖は桜並木の景観を見上げながら歩き、我知らず感嘆の吐息を溢した。

 

 ライトブラウンのブレザーに、赤いリボン、膝小僧より僅かに上に来る丈のスカート。革の鞄を手に提げて、高校生になった自分を改めて自覚する。

 傍らには同様の制服を纏った霧崎礼里と氷上聡里、そして男子の制服を纏った長身の青年――力場専一(パワプロ)がいた。

 礼里と自分、そしてパワプロの三人は、もはや共にいるのが当たり前の間柄だったが、聡里もすっかりこの面子に馴染んでいる。だがしかし、聖から見てもなかなか例を見ないグループになっていた。

 礼里と自分は、昔からパワプロが好きで。聡里はパワプロから告白され、相思相愛の恋人になった。にも関わらず礼里と聖はその関係に割って入り、あろうことか肉体関係を結んだのだ。聖の感性からすると非常識極まりなく、なのに歪な関係から脱却せずにいる。このままでもいいんじゃないか、と思っている自分がいるのだ。――礼里と聡里は恋敵なのに。

 

 パワプロの唯一の女になりたいと願っていても、自分が選ばれる自信がないから今のままの関係を維持してしまう。きっと礼里も聡里も同じ心境だろう。ともすると、パワプロも同じ気持ちかもしれない。

 選べない。完全な膠着状態だ。

 だが他の二人はどうだか知らないが、少なくとも聖は既に割り切っていた。例え今の関係が終わっても、パワプロが野球を続ける限り、自分はパワプロの前に構え続ける。投手と捕手は切っても切れない間柄なのだから。

 いや……これは割り切ったというよりも、考える事をやめたというべきかもしれない。どれだけ悩んでも答えは出ないのだ。正確には、自分にとって都合の良い答え、という事になるのだろうが、思い悩む暇があったら捕手としての技能を磨いていた方がマシだろう。それに確信もある、パワプロは絶対に自分を切る事だけはないと。なぜなら幼馴染だから。パワプロにとって他に望めない捕手だから。そしてパワプロの性格上、身近な人間を粗略に扱うなんてありえないと知っている。

 

 生まれた時から共にいた記憶がない? いずれは戻る。仮に、万が一にも戻らなくても、聖はパワプロという青年を知り尽くしている。また新たに仲を深め合えると考えれば、深刻に受け止めこそすれ絶望するほどではない。

 男女の関係がなくなったとしても、共にいることはできる。それだけで満足だ。あれもこれもと欲しがるような、卑しい在り方でいる必要はないし、またその意味もない。

 

 しかし、予感があった。というより、これも確信している事だ。

 

 春は出会いの季節とはよく言ったもので――

 

「――専一殿っ」

 

 ともすると、自分達の関係性を崩し、全く別の形に変化させる存在が現れるだろう。

 

「久し振りだ、健勝だったか? 今日から学び舎を共にする。何かと世話になる事もあるだろうが、よろしく頼むぞ!」

 

 ――艶のある黒髪をポニーテールの形に結った、白皙の容貌に嬉色を乗せた少女。一目見た瞬間に彼女がパワプロにどのような感情を懐いているかを看破したが、その少女が何者か知らないため聖は困惑した。

 そしてそれはパワプロもだ。唯一、聡里だけが薄い表情の中に渋いものを滲ませたが、なんとなく胸騒ぎがする。

 永遠不変のものなどないように、この少女――直後にその名を知る事になる――柳生鞘花は、聖たちに回避不能の変化を齎す兆しそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 来た! メイン鞘花ちゃん来た! これで勝つる!

 

「お前、闇野か?」

「闇野? 違う。人違いだ」

 

 って礼里ちゃん何ノータイムで鞘花ちゃんに読心チェック入れてんの!? ……管狐かどうか見極めるため? なんで見る必要なんかあるんですか(素)

 これから先、会う人間全てに読心チェックするつもりなの? ふーん、熱心じゃん。まあその方が安心できるなら構わ――ん!?

 

 ……これ、蛇島くんと礼里ちゃん会わせたらヤバイんじゃ……?

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 やめてくれよ……(絶望)

 誰彼構わず読心チェックするとか、こっちの事情も考えてよ、警戒心か強けりゃいいってもんでもないでしょ? プライバシーとか色々考えてくださいよ礼里ネキ! オナシャス! センセンシャル!

 そんな事してまで人の心が見たいってんならしゃあねぇなぁ、見たけりゃ見せてやるよ(震え声) ただし蛇パイセンの心理的プライバシーだけは死守しますがね。ええ、死守しますよ(使命感)

 読まれたらパワプロくんのキャラが崩れちゃうからね、それだけは絶対に許されない、こうなったら本気出すから見とけよ見とけよ〜? ……蛇センパイと礼里ちゃん遭遇までの猶予タイムは何秒っすかね?(計算) 最短半日?

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 タイムの延長、いいっすか?(震え声)

 

 半日じゃ手の打ちようがねぇだルルォ!? せめて一日、できるなら二日時間をくださいお願いしますなんでもしますから!

 こ、こうなったら……こうなったら? どうやったら読心なんか防げるんですか(絶望) 礼里ちゃんの超能力強すぎィ! あ、いや……そうだ、手はある! ここはぱわぷろ時空やぞ! 手はある、あるんだ!()

 

 恐らく金を積むかコネを使うかのどっちかで読心を防げるはず。

 

 う、wikiだ、wiki情報を思い出せ、有効なアイテムや攻略情報は全て記憶してあるんだ……!

 

 ……ヨシ!(確認猫)

 

 

 

 

 

 




あっ……あっ……あっ……(アンケート推移を見ながら)

全然関係ないんですけど、ヒロインが酷い目に合うのがパワポケ、ヒロインが幸せになる(不幸にはならない)のがパワプロだと思ってます。全然関係ないですけど。

感想評価などお願いしますなんでもしますから!

春。運命の香りがしますね。おや?あれは誰だろう…?

  • 金(あったかふわふわ)
  • 闇(あっ……)
  • 紫(データが必要)
  • 緑(おばかさん……)
  • 白(舎弟エリート枠)
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