何十年も野球人生を送った、プロの技術持ちがチート能力(自己ステ弄り)を持って乗り込んだら蹂躙にしかならないので、省略しました。
今回はその点にスポットを当て、(現実のとある怪物選手の記録を元にした)パワプロくんの成績にも言及してます。パワプロくんの無双は高校まで続き、そこら辺から原作キャラが追いついてくるのでシニアもほぼ舞台を整える前段階です。
というわけで高校まで本番とは言えないので、中学時代の今回も実質初投稿です(暴論)
「オレが野手にコンバートした理由?
そうだな……教えてやってもいいが、その前に答えてくれ。橘は見た事があるか? 力場専一の直球を」
力場? まあ、ユーチュープーでなら見たことあるわよ。
「……運がよかったな、生で見る機会がなくて」
はぁ? なにそれ、どういう意味?
「打席に立ったら分かる。なんというか……
オレはあの芸術的なボールを打ちたくて堪らなくなったんだ。あの真っ直ぐを打つには、投球にリソースを割いていられない。だから打撃練習を重点的にやる事にして、半端は出来ないから投手の道を諦めたんだよ」
……投手としての自分に未練はないの?
「舐めるな、そんなものはない。アイツに三打席連続三振を奪われた瞬間に、そんな余分は切り捨てられた。自分の目で直接見たら、もしかしたら橘もオレの気持ちが分かるようになるかもな。
あの化け物を、あの天才を打ち砕く。
今のオレが一番の目標にしているのがそれだ。だからオレは絶対にアイツと同じチームには入らない。オレは敵チームとして力場と相対し、そして倒す。
オレがプロになるには、アイツという壁を乗り越えないといけない気がするんだよ」
† † † † † † † †
一塁手の武秀英、滝本太郎。
二塁手の蛇島桐人、四条賢二。
遊撃手の霧崎礼里、友沢亮。
三塁手の才賀侑人、東條小次郎。
捕手の六道聖、神成尊。
投手の猪狩守、木場嵐士、虹谷誠、阿麻央真。
――個人で最も名声を得られるものは何か。個人で最も富を得られるものは何か。そして個人で最も称賛を浴び、栄光を掴めるものは何か。
それは野球だ。
スポーツと言えば真っ先に思い浮かぶのは野球であり、最もメジャーな競技として認知されている。
他の競技がマイナーの域を出ないのは、スポーツ業界を牛耳らんとする
ともあれ競技=野球の公式は定まっている。故に主要各国の球界は発言力が強く、野球選手の育成に力を入れているのだ。
今や前身が野球選手だった政治家、軍人、科学者は珍しくない。中には零細企業を大財閥にまで成長させた総帥もいる。
スポーツとしての球技が業界を独占している以上、多くの有能な人材が野球に携わっていた事が多いのは必然だろう。極論ではあるが結果として野球とは軍事であり、政治であり、金を生む利権が絡む業界なのである。国力を他国に誇示する、国同士の代理戦争に近い側面もまた有していた。
そして野球を重視しているのは日本政府も同様だ。辣腕で知られる現首相も元は著名な野球選手だった事もあり、日本の球界は幼い球児達にも熱い視線を送っている。そこに如何なる才能が眠っているか定かではないからだ。
そして今、近代に入って以降最も豊作と謳われる黄金世代が出現した。その中で最も注目を集めているのが冒頭の彼らであり、その少年達の世代を纏めて球界は【パワプロ世代】と呼んでいる。
パワプロとは豊作とされる才能の持ち主達の中で、最も飛び抜けて優秀な野球力を持つ怪物の愛称だ。
親しい者がパワプロと呼ぶというその少年こそが、力場専一。投打両面に於いて世代No.1と目される存在である。
――パワプロという少年が一躍知名度を高めたのは、十二歳の時リトルリーグ全国大会にて驚異的な記録を残した事に端を発する。
江戸川リトルのキャプテンを務め、エースで三番打者を務めていたパワプロは、全国大会の決勝にて強豪・猪狩リトルと激突し――規定6イニングの全十八個のアウトの内、初回から打者一巡の九者連続を含む、十七個の三振を奪ったのだ。そして同じ左投手の猪狩守から、決勝ソロホームランを打ち勝利を収めている。
その類稀な実力を称した球界の重鎮に曰く。
『今年のリトルリーグ大会は、力場くんの横綱相撲で終わった。まさに独壇場だったと言えるだろう』
『力場くんは直球の質もそうだが、変化球の多彩さと制球力に長け、スタミナも充分にある。そして
『ただ凄まじいのはそこじゃないんだ。真に注目すべきなのは球速や制球力、打撃結果ではなく、それを支えているフォームの完成度だよ。その点に関して本当に非の打ち所がない』
『あれでまだ十二歳なんだって? 来年から中学生か……投打に於いてあそこまで完成されているのを見ると、末恐ろしいとしか言えないな。彼を前にしたら、才能とはなんなのかと考えさせられる』
『指導者は特に何も教えていないそうだ。一人で勝手に練習して、自分で自分を管理し、自力で育ったらしい。言葉は悪いがね――力場くんはもはや怪物としか言えない。まさに、野球の申し子だ』
――絶賛だった。
だが一人の有識者が褒めると、粗を探したくなるのが人間というもの。その称賛が全国に発信されるや、多くの野球関係者達は力場専一の試合データを繰り返し閲覧し、研究し、重箱の隅をつつくように粘着して――そして粗がない事に脱帽させられた。
粗があったとしてもそれは、個人の性質によるもの。あるいは年齢的な肉体の未熟さからくるものと受け取れるものばかりだった。
貶せるとしたら力場本人の性格だけだろう。時折り力場少年は走塁で暴走して、一塁と二塁の前後を挟まれてタッチアウトを取られる事があったからだ。だがその性格的欠点を除き、欠点らしきものは無い。パワプロ世代で力場を超える選手はいない。少なくとも、今のところは。
それを、その事を、橘みずきは――
――私は、問答無用で理解させられた。
「ストライク、バッターアウト。――見逃し三振だよ、みずきちゃん」
主審の役を買って出てくれたあおい先輩のコールを受けても、私はすぐには反応を返せなかった。呆然と前に立つ力場専一を見詰めてしまう。
瞼の裏側に焼きつく流星の軌跡。世代No.1のど真ん中ストレート。
焼きついたのは、直球の軌跡だけじゃない。大きく振りかぶった、貫禄溢れるワインドアップ。持ち上げられる翼のような右脚。流水のように流れる力の動きとそれを完璧に伝導する投球の型。数え切れないほどの無数の関節が、全身に増設されているのではないかと疑いたくなるぐらい流麗だった。
見るも美麗なオーバースローは、投じた硬球を十全に制御してる。ボールの縫い目に掛かった指の、しなやかで細やかな切り方とリリースの巧みさは、変化球のキレを抜群にするだろう。直球の軌跡を見ただけで、直感的にその事を理解させられる。
プロだ。リトルやシニアの球児とはレベルが違い過ぎる。隔絶した力の差をたったの一打席で分からされた。
……酷すぎる。
何がって、こんなヤツが一年前までリトルにいた事が。
そりゃ全国大会で完全試合の一つや二つやるでしょうよ。私達の世代をコイツの愛称で纏められもするわ。
確かにコイツが一番凄い。コイツの前だと誰もが霞む。パワプロ世代……裏を返せば私達の世代には、パワプロしかいないと言われてるようなもの。
豊作だとか、黄金世代だとか世間じゃ言われてるけど。コイツ一人で豊作、大漁、ボロ儲け。コイツ一人いたらキンキラキンの金銀財宝でしょ。
文字通り格が違う。
きっとコイツのボールを前に、同世代の何人もの投手が心を折られてきただろう。あるいは魅了されてきただろう。今ならアイツ――いけ好かない友沢の言っていた事が分かる。コイツは、理想像だ。プロを目指すなら誰もが憧れるエースピッチャーだ。こんなふうになりたい、こんな球を打ちたい……ベクトルこそ違っても、魅せられている事に違いはなかった。
「………」
構えていたバットを下ろす。
バットが出なかった。反応できなかったんじゃなくて、反応する事を忘れさせられていた。
全球ストレート、三球三振。挨拶代わりに一打席勝負と洒落込んで、世代の顔がどれほどのものかと見物させてもらったら――ええ、そりゃもう見事に魅せられたわよ。
「ハァ。聖……アンタ、こんなのと組んでて嫌になんない?」
同じ投手として嫌になる。悔しさすら湧かない。後ろを振り返って訊くと、ボールを捕球していた名捕手は肩を竦めた。
「私は野球を初めた時から、ずっとパワプロの球を受けてきたからな。特に嫌になった事なんてないぞ。それよりみずき、
「ええ、そりゃあもうポッキリ
聖は心が折れたのかと訊いてきた。私はそれに、鼻を摩りながら答える。
確かに折れた。心じゃなくて、天狗の鼻が。
ずっと胸に抱いてきた自負、自信。あおい先輩は尊敬してるけど、負けてるとは思ってない。猪狩守だろうと、誰だろうと、今は負けてても絶対にいつかは勝つ。――そんな根拠のない強気が、打ち砕かれた。
今のままじゃ、絶対にコイツに勝てない。
多分、それを今知れたのはとても幸運な事だと思う。今より後だったら伸びた鼻は折れないで、変に意地を張っていたはずだから。
「あーあ……男の子だからとか、女の子だからとか、そんなもの超えたところで負けてるね、ボク達」
あおい先輩も、聖の後ろで見てたから分かったみたい。私と同じ気持ちなんだろう。けどやっぱり
私はバットを放り捨てて力場に歩み寄る。近くで見ると、憎たらしいほどイケメンだ。私はニヤリと意識して笑って、肩を軽く叩いて称賛する。
「やるじゃん。特別にアンタのこと認めてあげるわ、
「キャプテン? って……ああ、聖ちゃんから俺の事を聞いてるのか」
「とーぜん。話も聞かないでこんな所に来るわけないでしょ? 作るのよね、野球部。高校で」
「おう。そっちの方が燃えるからな」
ニカって笑う力場は、私みたいな美少女にスキンシップ取られても動じてないわね。って、そりゃそうか。
聖もそうだけど……離れて見てた霧崎って奴も、この私に負けないぐらい可愛いし。小山に氷上だっけ? コイツらも可愛い。力場ったら顔面偏差値が高い面子に慣れてんのね。
「あおいセンパーイ。あおい先輩はどうするんですかー!」
答えは分かってる。分かってて訊いた。すると立ち上がった聖ちゃんの横で早川あおい先輩は苦笑した。
「ボクもその話、乗った。というか乗らなきゃ駄目な気がする。あ、こっち来てみずきちゃん」
「? なんです、あおい先輩?」
「いいから。――コホン。ボクは早川あおい。君達より一個上の、☓☓中学の二年生だよ。シニアは武蔵府中。こっちが――」
「えー、堅苦しいなーあおい先輩は。自己紹介とかそんな改まってするもんでもないでしょ」
「いいからやるの。ボクらはこれから仲間になるんだから、新顔はきちんと筋を通さなきゃだよ」
「しょうがないなぁ……私は橘みずき。よろしくしてやるから感謝しなさいよね」
わざわざ並んで自己紹介とか、なんだかなぁ。あおい先輩ってホント律儀。
私達が名乗ると、力場は人好きのする笑顔で応じてきた。
こういうのを見るとホント、イケメンって得ね。嫌味な感じが全然しない。
「おう。よろしくなあおいちゃん、みずきちゃん」
「……ボク、君より年上なんだけど? 初対面の先輩を名前で、しかもちゃん付けで呼ぶってどうなの、それ」
「いくらなんでも気安過ぎるでしょ……聖、コイツって誰に対してもいつも
「そうだぞ。パワプロは天上天下唯我独尊の俺様野郎なのだ」
「聖ちゃん……? そういう誤解を招きそうな事言うのやめようぜ?」
「『俺様』なのは事実だろう」
「礼里ちゃん!?」
近づいてきた霧崎・聖とイチャつき始める力場。――これで恋愛感情皆無とか、ある意味大物よね。
あおい先輩はそんな力場にどう接したらいいのか悩んでるみたい。後輩のナメた態度を咎めて改めさせよう、って感じじゃないし、そういう事に拘る人でもない。霧崎と聖がキャプテンをどう想っているのかを察しちゃったから、力場との距離感をどうするか決めかねてると見た。
あおい先輩って意外と人見知りするからねー。ここは私が一肌脱いで、コイツらの中に割り込みやすくしてやるとしますか。変に遠慮しちゃうようじゃこの先が思いやられちゃうし。
「ね、キャップ」
「キャップ?」
「アンタ、帽子似合いそうじゃん? キャプテンと帽子を掛けてキャップって呼ぶことにしたから。名前で呼んできたのはアンタなんだし、あだ名で呼ぶぐらいは許しなさいよ」
「別にいいぞ。パワプロって呼ばれ慣れてたけど、違うあだ名も新鮮でいいしな。それはそれとしてどうしたんだみずきちゃん」
「うん。アンタの仲間になって上げる代わりに条件つけたいんだけど、聞いてくれるわよね?」
「おう、なんでも言ってくれ。俺に出来る範囲ならなんでもする」
「流石に初対面の奴にいきなり無茶は言えないわよ……たださ、私達は聖以外のこと知らないのよね。あ、選手としてはアンタと霧崎の事は知ってるわよ? 個人としての事を知らないって言ってんの。だからなんでアンタが三年先の高校を見据えて、仲間集めを始めたのかを教えなさい。強豪の高校に行った方がいいでしょ、普通?」
「あ、それボクも気になる。悔しいけど、力場くんほど巧い投手はボクらの世代にいないもん。スカウトは絶対に力場くんを誘うし、力場くんもプロを目指してるならだけど、強豪校の練習環境の良さはとても大事だよ?」
「……その事ね。まあ話しとくのが筋だな。でもなぁ……うーん……なんて言えばいいんだか……」
「私が説明するぞ。みずきとあおい先輩を誘ったのは私だからな」
言い淀んだキャップの様子に、これは何か面倒な事情がありそうだと察してしまえる。唸るばかりで中々切り出せないキャップを見かねたらしく、聖が尤もらしい言い分で説明役を買って出た。
――それで聞かされたのは、中々に陰湿で酷い今の環境だ。キャップを取り巻くシニアでの状況は芳しくない。チームメイト達は狡猾な事に、大人の目があるところだと到って普通にしてるらしいし。
事情は分かった。もしかしたら出会い方が違うと、私もキャップの事を気に食わない奴って妬んでたかもしれないし、状況を改善するのに労力を割くのも馬鹿らしい気持ちは分かる。
あおい先輩は素直に憤ってるけど、誰もがあおい先輩みたいに真っ直ぐな人なわけじゃない。どうしたって解決できない問題だし、解決したように見えても
ぶっとんだセンス持ってんのに、そこらへんは普通なのね。なんだか逆に安心したわ。完全に俺様で唯我独尊な理由だと思ってたし。
「――なるほどー? 迷惑な先輩に目を付けられてるとか最悪じゃない」
でも事情が分かると親近感が湧いた。
認めざるを得ないほどの天才も、そういう所は普通で人間らしい所があるみたいで。
そうなると一気に惜しくもなった。ガラじゃないのは自覚してるけど、これだけの天才が下らない妬み嫉みで脚を引っ張られてるなんて勿体無い。
なんの問題もない環境で、伸び伸びと成長したらどうなるのかを、見てみたい気がした。だってその方が燃えるじゃない?
「ね、アンタらウチの中学に転校して来ない? シニアも私のとこに入りなさいよ。私の目の届くとこでなら、そんなふざけた真似させないわよ?」
そう言うと、キャップは驚いたのか目を丸くした。
自分で言い出しててなんだけど、結構名案な気がしてくる。うん、そうした方が絶対にいい。寧ろしない理由がないんじゃないの?
高校では一から始める。その事に文句はないわ。私もあおい先輩も、自分の実力がダイレクトで出る勝負は嫌いじゃない。何より最高の教材が目の前にあるのは得難いと思う。投手としてのタイプは全然違うけど、モチベーションを高く保てるという意味でも最高。
でも中学時代のシニアで不遇な環境に身を置き続ける理由はないわよね。
「――いいな、それ。でも親にも話さなきゃだし、今すぐオーケー出せるもんじゃないから、一度持ち帰らせてくれよ」
「ん、もちろんいいわよ」
「決まりだな。今日は顔見せだけって事で解散しようぜ。早速父さん達に話しときたいし。あ、あと連絡先交換しよう」
「おっけー」
「うん、分かった。ボクのも教えるよ」
にしても流石私、冴えてるぅー。
最初は聖目当てで、キャップにゾッコンな聖をどう引き抜くか見に来るだけのつもりだったんだけど、来てよかったわ。
これで本当に甲子園優勝しちゃったら、私のプロへの道も明るいし? ホント得しかないわよ。
――この時。私はとんでもない爆弾の導火線に火を付けてしまった事を、まだ知らずにいた。
でも私は悪くない。キャップを取り巻く人間関係が、私の誘いで加速しちゃうとか……分かるわけないでしょ普通!?
(矢部ぇ! じゃなくてヤベェェェ!? 何がヤバイって断る理由がないのがヤベェ! アカン……このままだとワイのチャートが死ぬぅ! このままじゃ特に付いてくる理由のない聡里ちゃんとの関係が崩れるぅ! どうする、どうするわたし!? どげんかせんといかん、どうにかして聡里ちゃんも付いて来れる理由作らんと連絡取り辛くなるやんけ!
……!
………!!
………せや! 名案思いついたで!
こうなったらもう告白するっきゃねぇですよ! 彼氏彼女になったら付いて来る理由になる! わたしの組んだチャート上、聡里ちゃんは絶対不可欠なんですよ。こんなとこで躓けるもんですか! 幸い聡里ちゃんの好感度は必要分稼げてるはず……賭けるしかない、聡里ちゃんが頷いてくれる事を祈るしか……!)
沢山の評価等ありがとうございます!
次回も小説パートです。最後らへんに実況風にできる、かも…?
なおアンケートは終了です。ハーレムタグが仕事する事になるかも。
皆さんのご協力に感謝します。ただ、女だけというのもアレなんで、男も何人か入れたいです。友沢は無理っすけどね…。
男キャラはほぼ他校のライバルとして出演予定ですが、やはり身内でのライバル関係も尊いと思います(持論)
また次回も見てください。宜しくお願いします。
高校編での仲間(意味深)は誰が良かろうなのです?
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こんなにも辛いのなら、愛など要らぬ!