唐突に始まったアイザックと共に夜の訓練(変な意味ではない)。
正直に言うと、カズキはアイザックと一緒に訓練をするつもりは最初は無かった。と言うより考えもしていなかった、と言うのが正しい。
何せ、カズキはアイザックが朝昼夜と時間の限り全力で職務を全うしている事は良く知っているから。仕事が終わったのなら身体を休めてもらいたい。
なのに 夜の訓練を……より身体を動かし、酷使しかねない事を 共にしようなどとは誰が思うだろうか。
アイザックやハベルが帰宅する際には労いの言葉と、カズラにも了承を貰っている体力即回復秘薬(笑) である日本製 リポD を渡そう、と思っていたのだが……。
剣を振るカズキを見ているアイザックは まるで少年の様。
目をキラキラと輝かせているのだ。
それを見てしまえば 疲れている筈だから、今日は休んだ方が、とは中々言えない。
アイザック本人がやる気全開だったし、お世話になっているのは間違いないし、共にやってみたいのなら、と提案したのである。
それに、多少無理してもあのリポDがあるのである程度はどうとでもなるのだ。
そんなこんなで始まった夜の訓練。
かる~く流す程度に済ませる筈――――だったのだが。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
アイザックは息を切らせながら、鋭い視線を自分に向けている。
この雰囲気だけでも全く軽くはない。
「あの、アイザックさん。きついのならそろそろ……」
と、カズキが促そうとするのだが、首を縦に振る事は無かった。
「いえ! カズキ様が訓練を、そして私が参加する事を許してもらえる限り、共にさせて下さい!」
息は切らせている。
朝昼夜、と疲れも当然出ている事だろう。
だが、それでも時折見せる笑顔を見れば、本当に有意義な訓練になっているんだ、と言う事はよく解る。嫌々やらされている類のモノではない。
カズキ自身も、思ったよりもこの世界で動けている事を実感中である。
ノワールと一緒に剣術訓練をしていたが、相手は人外とはいっても見た目麗しき女性の姿。基本全力、全身全霊で打つ! なんて真似は出来ないので、寸止めを主として行っていた。
訓練とはいえ、真剣に本気で剣術を披露するのはアイザックが初めてだ。
アイザック自身も、最初は知らない型だったので、戸惑いを見せていたが、カズキ―――即ち神の剣術!? と思う様になってからはより目を輝かせたのはまた別の話。
「はぁ、はぁ、はぁ……、カズキ様は武芸達者であらせられるのですね。感服致しました。私もまだまだ精進が必要です」
「あはは。そうですね。此処とは違う……えっと、その……そう、神の国であまたの刃を交えてきましたから!」
「おおっっっ!!」
ますます目を輝かせるアイザック。
その後はこれまではメルエムと言う光の神様! と言う補正がかかってそうだった崇め奉り―――そして称賛する、と言ったものとは違う意味で、凄い剣術である、と言う事を素直な気持ちで何度も何度も称賛されたので、気をよくしたのはカズキだ。
「型、と言うならまた別の型も有りますが……、やってみましょうか?」
と、不意にそう言うと、アイザックは、目をきらんっ! と輝かせて、疲れている筈なのに、凄い速さで迫ってきた。
「ぜ、是非! よろしくお願い致します!!」
バッ! と敬礼し、頭まで下げた。
ここで隙あり‼ っと頭を小突くのもありかな? とか思ったが、アイザックは物凄く生真面目で真っ直ぐ。……日本でもなかなか目にする事の無い好青年だ。
なので、そんな人にズルを―――と言うのは気が引けて、悪戯心をどうにか抑え込んだ。
「解りました。……えっと、この辺りには人は来たりは……」
念のために人払いを――――っと思っていた矢先。
「アイザック様? カズキ様も何をしておられるのですか??」
鍔迫り合いや、数度木剣が当たって響く音を聞きつけたのだろう。ハベルがいつの間にかやってきていた。
アイザックは、満面の笑みで経緯をハベルに説明。
元々、地獄の訓練である、ジルコニア直々の実践訓練。
何度も地に叩きつけられては、蹴り起こされ、敵前で寝るのかと罵倒され、血だらけになっても続く鬼訓練。
そんな訓練でさえ アイザックにとっては大好物。受けられなかった事を悔しがり、受けられたハベルを含む、部下たちを羨ましがる始末な隊長だと言う事はハベルも解っているので、話半分に聞き流していたが、カズキが剣を使っている所は、新鮮極まりなくもあるので、かなり興味をそそられた様子だ。
「侍女に人払いを頼めば大丈夫かと思います。周知もして頂きますので、少々お待ちください」
ハベルはそういうと軽く頭を下げると同時に、駆け足。
「……ハベルさんも興味あり、って感じですね」
「あっはっは! カズキ様とご一緒させていただくのですよ!? 当然の事ではないですか!」
アイザックは、当然だ、と胸を張って笑顔で言っていた。
嘗て、ハベルがジルコニアの訓練を受けるのはもう嫌だ、とかなり駄々をこねていた事を、アイザックはもうすっかり忘れている様子。
単純に、ジルコニアの時は極度に嫌がっていたハベルだったのだが、カズキとの訓練には興味がありそうなのが嬉しいだけなのかもしれないが。
その後、屋敷の侍女に―――そして、ナルソンにも伝わって正式な許可を得た。
元々カズキ絡みの事であれば、余程の事が無い限りは逆らったりはしないので(勿論、過剰反応は無しで)かなりスムーズに終わった様だ。
そして、ハベルが合流した辺りで、アイザックとハベルの2人は、目を輝かせながらカズキの方を見ていた。
アイザックは大体解りやすい性格なのだが、まさかハベルまでこの様に反応するのは意外だったが、一先ず観客が増えたので、カズキも恥をかかないように気を付けつつ、演武の様に実演。
木剣とは別に、手に取り出すのは光の剣。
もう見ている側2人は大興奮。グリセア村の子供たちのそれに等しい感覚だった。
見せるのは二刀流の構えだ。
まるで、舞っているかの様に動くカズキを見て、興奮を抑えつつ アイザックはその剣術の概要を聞いた。
「これは1対多数の時に用いた剣術です。四方八方、波状攻撃、果ては飛び道具にまで想定し、斬り伏せます」
「おおおおっ!」
「凄まじいですね……。大小2本とはいえ、相当の握力が必要かと思いますが」
「はい。勿論です。弾かれちゃったら隙が出来ますし、武器喪失にも繋がりかねませんからね。鍛え込む手首、鍛錬あっての型です」
カズキは得意気に言っているのだが、これは勿論ゲーム内の鍛錬。
アイザック達、軍人のそれとはまったく別次元だ。………軍人の方が120%は辛く険しい鍛錬への道で、こちらは レベル性のゲームであり、ある程度のレベルまで高まれば筋力ゲージも大体向上し、弾かれる要素はほぼなくなる。後はPSをどれだけ磨くかに掛かっているだけで……、つまりあまり大したことはない。
フィクションの世界をノンフィクションな世界に持ってきた自分の力が
「っとと、こほんっ」
ある程度自虐ネタを考えつくした所で、ソワソワとしているアイザックや真剣な眼差しでカズキの光の剣を見ているハベルに提案。
「では、更に実践形式と行きましょうか。ハベルさんもどうです? これは1対多数で使う術なので、アイザックさんと同時に攻撃してもらって結構ですよ」
「!」
まさか、カズキを攻撃するなどと!! と思ったハベルだったが、これは訓練であり、カズキからの提案でもあり、尚且つ これまでで体験した事のない武術。興味をそそられない訳がないし、何よりカズキが望むモノであれば、可能な限り応えたいと常々考えているのだ。
アイザックも【一緒にやるぞ!】と目で言っているので、ハベルも頷いた。
「では、何処からでも良いので、攻撃してきてください。無論、遠慮はいりませんよ? 私の身体がすり抜ける事はお2人とも知っている筈ですし、何ら問題なしです。私も隙あらば反撃はさせていただきます。…………さぁ、どうぞ」
ぐっ、と二刀を構えるカズキ。
確かに相手は神である―――が、1対2の状況。
そして、隊長と副隊長……つまり、部隊のNo1,2の2人。
相応のプライドと言うモノは持ち合わせている。……ジルコニア相手に心を折られかけていたハベルでさえも、2人掛かりなら……、御許しを得ているのなら……、と闘志に火が付く。
アイザックも同じであり、互いに視線を交わすと頷き合い、自分達の訓練でも行っている攻撃陣形でカズキを包囲。前後を取り―――タイミングを計りつつ切りかかったのだった。
――――そして、約30分後。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ハベルとアイザックは、互いに大の字になって地面に倒れ込んでいた。
「……お疲れ様でした」
そんな2人をゆっくりと起こすのはカズキ。
結論から言うと―――― 一太刀も浴びせる事は叶わなかった。
すり抜ける身体故に、当たったかどうか怪しい判定があるだろう、と当初は思っていたのだが、、間違いなく当たっていない。
すり抜ける感覚ではない。
幾度も幾度も手に伝わってくる痺れ、何度も弾かれているのだ。
カズキはまさに縦横無尽。
身体全体を使って大胆な動きで回避したり、思いもよらぬタイミングで剣撃が来たり、更には時には地を蹴り、宙を舞う様に飛び上がり、回転しながら剣を振るう。遠心力と相余って、更に威力向上。
そして、アイザックとハベルも一太刀も浴びてはいない。カズキは終始 それぞれの身体ではなく、木剣に当てる様に心掛けていたから。
手に伝わる痺れが、徐々に木剣を持つ力を、握力を削いでいく。
幾度も幾度もぶつかってぶつかって……、軈て木剣を落とした頃には、もう完全に体力が切れてしまったのである。
「日々、もっともっと精進が必要である、と痛感させられました」
「カズキ様やカズラ様を護る盾となり、剣となる為にも……我々はもっともっと……」
一太刀くらいは、と思っていたが、やはり神は甘くないと言う事だろう。
達成感や充実感は、普段の訓練のそれとはまったく比較にならない。
――――神に相手をしてもらえたのだから。
後日、カズキとの夜の訓練は、アイザックとハベル以外にも見ていた者が居て(人払いと見はりを任されていた侍女)、そこから噂が噂を呼び、アイザックとハベルの2人だけ、と言う事でなく 武を嗜む色んな人達が関わる事になると言う事はカズキは知る由も無かったのだった。
「ええ!!」
「本当、ですか……」
まだ息も絶え絶えな2人にカズキは笑顔で頷いた。
「はい。カズラさんにも了承を得てますよ。これぞ! 神の国で作られた秘薬です! かなり動きましたし、普段の動きとは違うとも思います。きっと疲労以外にも 筋肉痛や関節痛があるかもしれません。そんな時、これを呑めば、体調万全は勿論、以前よりも調子がよくなりますよ」
カズキはスラスラと打ち合わせ通り、秘薬(笑)、ただの栄養ドリンク リポD の説明を2人にした。
実はこれはカズラからの提案だ。
こう説明すると、他の食べ物と差別化が出来るし、日本の食べ物にある特別な効力の隠れ蓑にもなるだろうから。
そして、勿論ながら
「そ、そのようなモノを、我々に……!?」
「ええ。勿論です。後、これを知るのは私とカズラさんだけなので、どうかお2人には内密にして頂きたい所ですが」
「……了解致しました。ありがとうございます」
「カズキ様! 今日は我々に訓練を、手解きをして頂いたうえに此処まで!! 本当にありがとうございます!!」
「いえいえ。私も充実しましたから。(……あれ? 2人の訓練に付き合う形、と言うか剣を教えるみたいな立ち位置になっちゃったの?)」
最初は、寝る前に身体を動かす……ノリで行ったのだが、アイザックが合流して少々変わり、いつの間にか自分が師の様な立ち位置になったみたいだった。
確かに、2人がかりで一太刀も貰わず、身体に攻撃を当てたりせず、武器まで落とさせる所まで行ったとなれば……、そう錯覚しても不思議じゃないだろう。
「また、気が向いた時にでも付き合ってくだされば。あ、勿論強制じゃないですからね? ご自身の仕事を優先してください。私も無理無茶はしませんので。……
「カズキ様………」
「カズキ様ぁぁぁ……!」
アイザックは号泣。
ハベルも尊敬の眼差しを向けた。
その後、腰に手を当てて、リポDをグビグビ一気飲みで飲み干した頃、……直ぐ傍の部屋からカズラの悲痛な叫び、慟哭が聞こえてきたのだった。