さて、復興作業の開始!
と、言葉で言うのは簡単だが、かなり大変な作業だ。
太陽が強烈に大地をギラギラと照り付けるこの地。干ばつに見舞われたって無理もない。
カズキは、その太陽の下で少々ばつが悪い顔をしていた。
何故ならば、自身がこの地で【メルエム】と自称しているから。
最初はメルエムと言う単語についてはよく知らなかったが、バレッタに説明してもらい、この国では、光全般をメルエムと称する。
故に全てを統括する神・リブラシオールと共に、メルエムについては称される文献の様なのは幾つか存在しているのだ。……無論、メルエムが神の様に扱われる事は未だに無かった事なので、カズキとの出会い、メルエムとの出会いは神話の新たな1ページと言っても決して大袈裟ではない。
……そして、何が言いたいかと言うと、【メルエム】とは【光】だ。言うならば、この大地を照らしつくし、日照りから干ばつまでさせて、大飢饉に導いてしまっているのはメルエムの仕業!! となっても何ら不思議ではないのだ。
その辺りを突っ込まれるかな? と多少身構えてはいたが、その様な事は無かった。
カズラに畏怖されているが故にかな? と遠回しに聞いてみても。
【ここまで献身的に、協力してくれるメルエム様なら当然だと思うよ?】
と返ってきたので、それ以上は特に考えず復興の事に頭を集中させる。
出来る事は全てする為に。
何せ、物凄く大変なのだ。
皆の前には、堆肥袋に加え、水車の部品が積まれた数台の荷馬車と大量の荷車、そしてかき集めてくれた人員合わせて300名が集っている。
今はアイザックを始め、それぞれの長に分類するであろう兵士たちが急ぎ足でグループを分けてくれていて、そろそろそのグループ分けも終わりが近そうだ。
グループ分けが終わるまでの間、連れてこられた皆は 一体何をするのかまだ説明を受けていないので、ざわつきながらも、隊列を乱す事無く説明を告げられるまで待機していた。
そして、全ての準備が整った所でアイザックがカズラの前へと戻る。
「グループ分け、完了しました。カズラ様」
「はい。解りました。では、始めましょう!」
カズラの号令と共に、鍬を持ったカズキがニコリと笑顔で肩に担いで行動開始!
それを見たアイザックとハベルがぎょっ!?? としたが、カズラに宥められて一先ず落ち着いた。
「先ずは、カズキさんのやり方をしっかり見ていてください」
「んじゃあ、張り切って頑張りますよー!」
慣れた手付きで、ひょいひょいひょいと、地面を掘り起こす。そこまで掘るではなく浅く・広くと言った感じだ。
そしてその後、布袋の中に詰められている堆肥をいくらか均等に混ざる様に加えていき――――更に土を被せて馴染ませる。
カズラの声に合わせて、カズキもどんどん作業を進めていった。
疲れ知らずな身体であるカズキも、農作業をやる機会等早々ないので、これはこれで新鮮。事前にそれなりに練習していたとはいえ、結構夢中になるものだ、と笑顔のまま 指示された以上にやりそうになっていた。
「っとと、カズキさん早いです。ちょっと待っててください」
「っ――――、失礼しました。つい夢中になっちゃって……」
照れ笑いを浮かべるカズキの姿を見て、釣られて笑顔になっていく面々。
カズキはカズラと同じく、領主の友人、この地の復興を手助けしてくれる外の国からやって来た貴族である、と銘打っているので、少なからず固くなっていた者も居たのだろう。
イステリアの貴族、ナルソンについては全くと言って良い程不満は無い。寧ろ、アルカディアの盾として、戦争から救ってくれた英雄の1人なのだから尚更だ。
だが、それはあくまでナルソンに向けた者だけだ。如何にナルソンの友人だからと言っても……外の貴族については、良くない噂も聞くので、口に出す者はおらずとも、自然に身構えてしまったり警戒してしまったりしても、何ら不思議ではないだろう。
でも、嬉々として作業を手伝っているカズキの姿を見て、それを笑いながら相槌を打ったりしているカズラを見て、何だか強張りを見せていた身体が柔らかくなっていくのを少なからず感じる者が多かったのだ。
それはそれとして――――カズラとカズキは更に進めていく。
範囲にして、約35m程。
「今の作業を大体このくらいの範囲に、なるべく均等になる様にしてくれださい。布袋1つ分を撒き終えたら、まだ撒いていない畑へと移動して先ほどの作業を只管繰り返します。……これを北部一帯の全ての畑に行うんです」
カズキやカズラのやり取りに、何だか笑顔を見せていた面々も……流石にその説明には、笑顔は消えて、驚愕の色一色に染まる。
今は北部一帯の限定とはいっても、この穀倉地帯は半端ではない。半端なく広いのだ。
裏を返せば、それだけの広大な地帯が干ばつによる大飢饉に見舞われていると言う事でもあるので、これでそれが救われると言うのであれば致し方ない事ではある、が……まだ効能も見えていない事もあり、範囲だけを聞くと身体が一気に重くなってくる。
だが、それでも大丈夫、と太鼓判を押すのは一心不乱にまた35m範囲のみを限定して、只管掘り、撒き続けているカズキと、カズラ。
しっかりと計算上の話、机上の話ではあるが、可能の範囲になっている事は証明済みなのである。
日本から持ってきた堆肥、約45t。
それを通常の50分の1に薄めて使用した場合の散布できる範囲は、3712500㎡。
正直解りにくい数字ではあるが、大体簡単に言えば、東京ドームの約79個分の広さだろうか。
その時点で、頭がパンクしそうになるが、人数と時間をしっかりとかけるのでその辺りは問題ない。300人と言う人数も事前に連絡を受けているので織り込み済みだ。
勿論、この計算の中には天災などのトラブルについては一切考慮していないので、何も無ければ、の話にはなるが 約2週間程で達成可能だろう。
カズラが、最初限り目安にしてもらう為の木の板を設置した後戻ってきて説明を続ける。
「あと、カズキさんの行ってる場所は現在見本としているので例外ですが、基本は しっかりと各グループが横一列になって同時に行う様にしてください。先に終わったからと言ってどんどん先に作業を進めては駄目です。散布箇所が重なったりする原因になりますからね」
今も尚、どんどん進めているカズキを見て苦笑いをしつつ、カズラはまだ作業する広さに困惑の色を、堅くなってしまっている人達の顔を見てニコッと笑いながら、やる気燃料になるであろう事も告げた。
「言い忘れてましたが、この作業が完了した暁には、イステール家より給金が支払われます。作業の精度や進み具合によっては色を付けることも考えるので、皆さん張り切って作業に臨んでくださいね?」
やはり、どこの世界だろうが、ご褒美があれば人は頑張れると言うものだ。
ここイステリアに関しては、(恐らくするであろう)戦争を控えている、と言う事もあり、軍事費の方に予算が傾きつつある昨今。
貴族を除けば生活はどうしても苦しくなる。―――悲しいかな、戦争で犠牲となった者たちは、働き盛りの男女。人員の欠如も深刻なモノなのだ。
そこへ、給金とくれば、目の色に力が宿ると言うもの。
ナルソンは 嘘をつく様な領主で無い事も皆が知っているから。
「では、始めて下さい。よろしくお願いします」
カズラの合図で各グループは一斉に作業を開始した。
カズキは、まだ止まる様子はない。追加の袋を要求し、アイザックやハベルが自分がやる、と止めるのだが……、【何だか、こういうのも楽しいですね】と笑顔で返されるので、止めるに止められなかった。
最終的に、カズラに助けを求める形になったのだが……、結果 一先ず 手本として見せた最初の35m四方は カズキとカズラ、そしてアイザックとハベル、ルートの5人で終わらせる、と言う事になったのだった。
最初の35m以上は流石にカズキも手は付けない。
と言うより、夢中になってしまった自分をちょっと戒めている。
何せ、まだ水車の事ややらなければならない事も有り、更に言えば (一応)身分が高い者である設定の自分がずっとここに居ては委縮してしまうのでは? とも思えたから。
軽く謝罪すると、これまた【とんでもございません!!】とややオーバー気味な返答をされたので、カズキはそれ以上は何も言わず、【あ、そうだ!】と話題を変えた。
「身体の調子はどうですか? アイザックさん。ハベルさん」
「! は、はい。凄まじい効果です。今までの疲労感が嘘の様で、寧ろ調子が遥かに良い、と」
「私も同じです。これなら昼夜問わず、不眠不休でお仕えできます!!」
「そ、それは止めて下さいね? アイザックさん……。一応、これはまだ秘密なので、変に噂が立つのも好ましくないですし……、アイザックさんの様な上の人が働きっぱなしだと、下の人たちにも影響を及ぼしそうなので……」
上司が残業をしていると言うのに、部下がとっとと帰ってしまうのは体裁が悪い……と言う事と同じだ。
勿論、それには善し悪しがあるし、残ってまでしなきゃいけないので、いつも効率悪い仕事をしてるから! と日本では言われるかもしれないが、アイザック達にはそれらは全く当てはまらない。ただただ国の為にと愚直に前へ進んでいるから、そんなバッサリ切って捨てられる者はなかなかここには居ないだろう。
アイザックは、カズキの言い分も理解してくれた様で、敬礼をしながら やや抑える事を約束してくれた。……多分。
「それでは、私も水車の方へと行ってきますので、この場をお任せします」
「「は!」」
勿論、穀倉地帯復興に必須なのが水源の確保。
日照り続きで 雨が全く降ってくれなかったのが原因なので。如何に土地に肥料と言う命の息吹を吹き込んだとしても、育つ為の源である水が無ければ話にならない。
なので、水車の技術を提供して、常に水を供給できる様にするのだ。
カズキが居なくなったのを確認すると、ハベルはアイザックに聞く。
「アイザック様。あの秘薬に、これ程の効力があるのなら……、なぜカズラ様はあんなに疲れた様子だったのでしょうか。逆にカズキ様はいつも通りのご様子でしたが」
「……それは、確かにな」
アイザックとハベルは、カズキとカズラの事を思い返しつつ、自身の身体に起こった超回復についても考えてみた。
カズキは昨夜 自分達と手合わせをした上に、早朝、鍛錬をしたいからと試斬台を設置していた。2人の動く量は、ほぼ同じだったが、そこに夜と朝の鍛錬が加わってくると話が変わってくる。
カズキに至っては、35mの半分以上自分1人でやってしまっていて、その後5人で分けて終わらせたと言うのに、いつも通りケロっとしているのだ。……汗さえかいていないようにも感じる。
その点カズラは、動けば当然動いただけの疲労がたまっている様子だ。
昨日も遅くに何やら持病の発作? があったらしいし……。
「……だが、その理由を直接ご本人たちから聴くと言うのもな……。素直に感謝の気持ちを持つだけにとどめておこう」
「そう、ですね。……カズキ様もカズラ様を、と優先されてました。神に序列は無い―――と以前申してましたが、カズキ様がカズラ様を気にかけているのは私も解ります」
ハベルは、以前 グリセア村野盗襲撃事件の際にカズラを気にかけていた時もそうだし、これまでの言動でもそうだ。
カズラに付き従っている……という風には見えない、お互いに尊敬し合っているに近いだろうか。
ならば、ハベルは自分がすべき事は何なのかを改めて心に刻む。
カズキ様の為になる事、それはカズラ様の為にもなる。
「なるべく、カズラ様に負担をかけ過ぎない様、我々で作業日程を調整していくべきではないでしょうか?」
「! そうだな。オレもそう思うよ。復興を急がねばならないとはいえ、今後はきちんとお休みいただく様進言しよう」
「はい」
アイザックは、ハベルからの提言に笑顔を見せた。
明らかにいつも以上に積極的になっているのが嬉しいのだ。神々が降臨される前と後とでは違う。かと言って、以前までのハベルが不良だったか? と言われれば首を横に振る。十分に真面目な青年、副隊長だったから。
「そのかわり、オレ達は今まで以上に精一杯働こう。少しでも、カズラ様の、そしてカズキ様のご負担を減らせるように」
「勿論です。身を粉にして働く覚悟ですよ」
「その意気だ。……頼りにしているぞ、ハベル」
部下の成長が喜ばしい、と表情を綻ばせるアイザック。
ハベルはハベルで、勿論野心はある……が、今の最善の事が、全てが目的の為となる事は解っているので、いつもの打算的な考えは一切捨て、2人の為に尽くす事を改めて心に誓うのだった。
そして、カズキはカズラと合流。
丁度、カズラはジルコニアと話をしている様だ。
「カズラさんカズラさん。向こうで組み立て方指導をしないと」
「ああ! ごめん、忘れてた!?」
ジルコニアとの話が盛り上がっていたのか、集中していたのか解らないが、作業員は話しかけるに話しかけられない様子だった。……まぁ、ジルコニアは領主の妻だし、カズラは、領主の友人となっているので、ズカズカと間に割って入ると言うのはなかなかハードルが高いのだろう。あまりに時間がかかる様ならば、意を決するかもしれないが。
カズキの隣にいたジルコニアは、軽く会釈をした後に、今度は話し相手がカズキへと変わる。
勿論、作業が始まれば 口を動かす前に身体を動かす予定だ。
「カズラさんとは何を話してたんですか?」
「えっと……、水車の話や、脱穀、製粉の話……ですかね? 後は季節。冬の寒さについても幾つかお話をしました」
「へぇ……。ふむふむ。成る程。水車を利用して製粉機にするとかかな。量産体制が整って、問題なく水の供給が出来たなら、作業効率が上がって良いかと思いますね」
水車の話から導き出すカズキを見てジルコニアは少しだけ驚きを見せる。
勿論、カズラとカズキの関係性を考えれば、カズラが知っていることをカズキが知らない訳はないだろう。
ジルコニアも説明を殆ど受けていないとはいえ、【製粉機】と言う話を聞いて、いまいちピンと来ていなかったのだが、まるで打ち合わせをしていたかの様に(実際はそういう風には見えない)、自然にカズキは納得をしていた。
「カズラ様も作業効率が何倍にもなると仰ってましたが、それ程までなのでしょうか? 申し訳ありません……、理解が追いついていないものですから」
ジルコニアは、学が無い事を詫びつつ、カズキに製粉機について聞く。
カズキはきょとん、としていたが、直ぐに両手を振った。
「いえいえ。謝る必要はないですよ。ジルコニアさん達からすれば、未知の道具なんですから。逆に直ぐに理解しちゃったら、それこそ天才ですから驚きますよ」
笑いながらカズキはそう答え、ジルコニアも同じく笑みを見せた。
以前から話を聞くに、カズキは敬われる事があまり好ましくないとの事。最終的には自然にフランクに、と。それはまるで、
あれだけの超常的な力を持ち合わせていながら、まるで相反する感性だと思える。
権力、武力、政治力………――――数ある力の種。
それらは、力が大きければ大きい程、所有した者に傲慢さ、残虐さ、……つまり欲を与えるとジルコニアは思っているから。
カズキはそれらとは一切関係ないと言わんばかりだ。
だからこそ、ここまでの好青年に見えるのだろう。……それはカズラも同じだと思う。ジルコニアの中では、やはり光に成って見せたカズキの方がカズラよりもやや上に見ている節があるが、それはジルコニアだけの秘密だ。
カズラはその見た事も無い道具や知識で自分達を救おうとしてくれているのだから、そもそも序列を考える事こそが失礼に値する。
「水車が組みあがった後に説明する方が解りやすいと思いますが……、水車は 水車そのものが壊れない限り、若しくは水がある限り、水が流れる限り延々と回り続けます。その回る力を、他に活かするというのがカズラさんの言っている製粉機なんですよ。……と言っても、私の説明よりも、やっぱり実際に見た方が良いと思いますが」
「あ、いえ。大体の輪郭はつかめてきてるつもりです。ありがとうございます……」
ジルコニアは、ふんふん、と頷きながら頭の中でどうにか想像を巡らせる。
大雑把な説明ではあるが、2度目の説明を聞いているから。
水車の動きについてはまだまだ想像の域を出ないが、【ずっと回り続ける】と言う点に着目すると見えてくる。
その回転力を他で活かす事が出来るのなら、構造まで考えたら頭が痛くなるが、理解は追いつきそうだ。
……だが、流石に完璧に、とはいかない。それこそカズキの言う通り、実際に水車を見てみないと。
「楽しみにしていてくださいね。カズラさんと協力して、製粉機、脱穀機まで作れば、一般市民の為にもなりますから。効率がかなり上がるので、食糧価格もぐっと下がる筈です」
「! はい。よろしくお願いします。人でも物でも、必要なものは全て用意いたしますから」
ジルコニアの笑顔を見て、カズキも思わず頬が染まってしまいそうになった。
太陽に照り付けられる彼女の顔は、綺麗な銀の髪が光りを更に反射させて、本人が本当に輝いている様に見える。
太陽がジリジリと照り付けてくれているおかげで、どうにか顔が赤いのを誤魔化せそうだな、とカズキは苦笑いしつつ、誤魔化しも含め、咳払いをしていた。
「あ、私もカズキさんには聞きたい事があったんでした」
「こほんっ、っとと、はい? なんでしょうか」
指を口元に当てながら、ジルコニアは笑顔を絶やさずに口を開いた。
「何でも、凄まじい剣術を披露したとか」
「ぶっ!」
カズキは思わず吹いてしまった。
加えて、咽てしまったのか、思いっきりせき込む。
「だ、だ、大丈夫ですか? カズキさん!?」
「あ、はは。だいじょうぶ、大丈夫です。すみません、ちょっと驚きまして……」
ごほごほ、と咳をしつつ、カズキは苦笑いしながらジルコニアにそう答えた。
驚くのも無理はない。
情報が回るのが、正直早過ぎる、と思ってしまうから。
そこまで極秘! 的な事にはしていないつもりだが、アイザックとハベルに付き合い、その夜は侍女たちにも伝わり、朝にはリーゼとエイラがやってきて、軈て―――ジルコニアの耳にまで伝わった。
この間、昨夜と今朝の2回の剣術の練習で、である。
「昨夜と今朝、少しだけ身体を動かそうと思って行っただけで、ジルコニアさんにまで伝わってるとは驚きました……」
「すみません。アイザックとハベルから聴きまして……。その、秘密……でしたか?」
「いえいえ。そんな事はありませんよ? 立場としては ナルソンさんの屋敷、ジルコニアさんの屋敷をお借りしてるので、その領内で内緒にしなきゃいけない様な事はしませんよ」
カズキは、頭を掻きながら笑っていた。
その笑みには少しでも怒ったり、困ったり、と言った色は一切見えないので、とりあえずジルコニアも安心する。これで機嫌を損ねる……と言った事は無さそうだから。
ならば、もう少し突っ込んだ話をしてみたい、と思うのが心情だ。
何せ、アイザックとハベルの2人掛かりで、手も足も出ない剣術ともなれば、剣に多少なりとも腕に覚えのあるジルコニア。
まさに興味津々なのである。
「今度、わたくしとも剣を交えてもらいたいな! と思いまして」
「えええ! じ、ジルコニアさんも、ですか?」
「はい! 私もこう見えて、剣の訓練は―――っとと、私
目を輝かせながら、ジルコニアは一緒に剣を練習させてくれ、と聞き……カズキから 自分以外にも他に居るのか? と思えたから。
「あ、あははは……。今朝、リーゼさんからお誘いがありまして。今度、剣を共に、と」
「まぁ! それでリーゼとの訓練を?」
「あ、はい。時間の許す限りと返事は。何せ、私もそうですが、リーゼさんも忙しい身分ですからね……」
ジルコニアの目がきらんっ! と輝いた様に見えたのは決して気のせいではないだろう。
何故なら、その後 リーゼについて、怒涛の津波の如き勢いで色んな事を聞かされたから。
好意を持ってもらいたい、という感が物凄く見て取れる。
ジルコニアの考えについてはカズキも大体解る……が、今はとりあえず復興第一主義を掲げているので、無難に返答をするに限るのだった。
そして、その後―――作業員たちのお陰で、見事! 水車の設置が完了した。
設置完了まで堰き止めていた水を流し―――水車にまで到達すると、ゴトッ ゴトッ とゆっくり、それでいて確実に回りだす。
回り出すにつれて、自分達よりも遥かに高い位置にまで水を汲み上げ、そして流していく。人力以外を見た事が無い作業員たちは目を丸めるのと同時に、確実に速く水が流れていくのを見て、思わず大歓声を上げていた。
それは、作業を最後まで見ていたジルコニアも同様だ。
「すごいです! グリセア村の水路に流れていた水もこうして川からくみ上げたのですね!?」
「ええ。村の水車もこれと全く同じですね」
「1基ですけど、これで何とか持たせて、後は量産体制に入って頂ければ! 大きな一歩になりますよ」
「はいっ! ありがとうございます!」
ジルコニアも目を輝かせ、子供の様に水車を魅入っている。
そして、製粉機についても、水車が回っているので、あの回転部に何か細工をするのだろうとまで想像が張り巡らせれる様になったので、更に喜びを顕わにした。
「……ん? あれ? ………これは」
そんな時、カズラだけは顔を顰めている。
水車を見ていて気付いたのだ。
回転し始めこそは、順調に回っていたのだが、ものの数秒で変化が顕著に表れた。
「回転速度にムラがある……?」
そこに気付き、カズラは直ぐに話し込んでいるカズキとジルコニアを呼び、現状を伝える。
「ほんとだ。周りはじめの5~6回転までは、一定に見えてましたが……」
「ばらつきがありますね。……その、本来は一定の速度で回転するのですよね?」
じっ、と見てみると解るのだが、ぱっと見ただけでは、問題なく動作している様にしか見えない。でも、集中して見れば明らかだ。回転速度にムラが生じている。
「はい、そうです。部品図面はグリセア村で使ったものと同じものをお渡ししたので、これは部品を作った現場のミスですね。回転速度にムラがあると、水車自体も早く傷んでしまう上に、作業効率も悪くなってしまうんですよ」
折角出来上がったと言うのに、早くに壊れてしまったり、効率が悪くなるとはあまりにも穏やかではない。
それも、各部品に不備があると言うのなら、ジルコニアも責任者なので、責任をより感じてしまう。
「とりあえず、このまま今は動かしておきましょう。効率が落ちても、最悪壊れてしまっても、この水を一刻も早く供給してあげる方が先決ですから」
「ッ……、も、申し訳ございません! 直ぐに原因を調査して作り直させます」
「はい。よろしくお願いします」
だが、それでも不可解な点がある。
グリセア村で使用した図面と全く同じな所だ。
最初は、日本から持ち込んだ水車をそのまま、こちらの世界で組み立てて使っていたが、軈て、その存在が明るみになった時、色々と追及されては困るので、最後には自分達の手で一から作成したのが、2基目の水車だ。
その作った時にバレッタが作成した図面が、今回でも活用されているもの。
あのグリセア村の器具・材料で組み立てる所まで行けたのに、それ以上の人数・人員・物資のあるイステリアで出来なかったと言うのが不可解なのだ。
「僅かに生き残った作物だけでも持たせないと、ですね」
カズラが、色々と考え込んでいた時、カズキがカズラに声を掛けた。
「うん。勿論確認も必要だけど、全部後回し。不良品だろうと何だろうと、水車を使わないと水が送れないからね。とりあえず、明日からの事ですが、ジルコニアさん?」
「ッ! は、はい」
顔を顰め、俯かせているジルコニアに声を掛ける。
「水車の部品製作はいったん中止にさせて貰って、きちんと原因を突き止めてから再開をしましょう。それまでは、先に作ってもらった水車でなんとかしのぐって事で」
「わかりました。早急に対策を立てさせます。………あの、本当に申し訳ございません。私の、私の責任ですわ」
先ほどから表情を落としているのは、やはり責任を一番感じているからだろう。
カズラに依頼されたものを仕上げる事が出来なかった事に対する責任。穀倉地帯の復興のスタート時点で躓いてしまった事に対しても。
「いや、ジルコニアさんだけのせいではないですから。私も無茶な指示を出しましたし。それに大丈夫ですよ。きっと直ぐに良くなりますから」
カズラは不安にさせない様に、とジルコニアに笑顔を見せる。
あまり笑ってもいられない事態ではあるのだが、何をどうしても同じなら、まだ笑っていた方が良い。気を張りつめて、他のトラブルにも見舞われたらたまったモノではないから。
「カズラさんの言う通りです。ジルコニアさん。私の好きな言葉に、【笑う門には福来る】っていう言葉がありましてね」
「え……?」
カズキが指を立てて、ジルコニアにことわざの1つを教える。
「いつも笑顔で溢れる家には、自然と幸運が訪れる、と言った意味です。明るく朗らかにしていれば、軈て幸せがやってくる、とも言いますね。……それに、ピンチにこそ、太々しく笑う事も良いとされてますよ。ジルコニアさんが不安がっていれば、皆が不安になると思いますし、逆にジルコニアさんが笑ってくれてたなら、きっと皆も笑顔になれます。一緒に困難を乗り越えられる、と思えますから」
「っ……そう、ですね」
「私も力になりますので。大変なのは重々承知ですが、最初のトラブル、笑って乗り越えてやりましょう!」
胸をぽんっ、と叩いて笑顔になるカズキを見て、思わずカズラも笑顔になる。
「(調査とか、作業場とかのチェックとか 色々と広範囲なら、
耳元でカズラにそう言うと、カズラも大きく頷いた。
「一息つくには、まだまだかかりそうですけど、カズキさんの言う通りですね。これからもっと大きな事をするんです。これくらい、笑って乗り切ってやりましょうか」
「は、はい!」