ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

26 / 72
26話 騒がしい夜

 

「……はぁ、遅くなっちゃった。ちょっと喋り過ぎたなぁ……」

 

侍女のエイラは、自由時間である夕食の時間に、あまりにも色々と目まぐるしく職場環境が変わった為なのか、そのストレス?の発散の為 時間を忘れて侍女の仲間たちと延々(勿論、時間制限内)とおしゃべりをしていた。

 

そして、気付けばもう深夜である。

 

 

明日の業務も当然待ったなしであるだろうから、少しでも早く部屋へと戻り身体を休めなければならない。

 

兵士たちを始め、全員が一丸となって ここ イステリアを復興しようと弛まぬ努力を続けているのだから、自分達侍女も――――となるのは自然な事なのだが………。

 

 

「………はぁぁぁぁ、どうしたものかしら…………」

 

 

エイラに課せられた業務(・・・・・・・)内容が凄まじく難易度が高く、何よりも成功するかどうかが不透明。かと言って、簡単に【できませんでした】なんて言える筈も無い。

 

ここナルソン邸の後妻……ジルコニア直々の命。

 

 

【カズキとリーゼをなるべく傍に居させる事】

 

 

ジルコニア本人も、このような裏工作に関しては、以前、ナルソンに噛みついたアイザックばりに葛藤があった。あれ程までに優しい神相手に、何故誠実に向き合わないのか、と。

 

夜空を共に見た時、あの流れ星(奇跡)を魅せられた時の事を思い返せば思い返す程に……。

 

 

……だが、それでも、憎き敵国(バルベール)が存在する以上は その想いを押し殺し、例え不敬だったとしても、全ての責は自身にある、と身を捧げたとしても………打てる手は全て打ちたかったのだ。

 

 

 

そんなジルコニアの葛藤や決意は、対面しているエイラにも十分すぎる程伝わる。

 

あまりにも真剣過ぎて、失敗したら何されるか解らない!? と間違った解釈をしてしまいそうになったりはしたが。

 

 

それに ジルコニアに関しては……普段は優しい方ではあるが、やはり、どうしても侍女たちの中で噂になっている件や、軍隊の戦闘訓練の話が頭を過る。

 

 

アルカディアの盾 と称されるナルソンだが、ジルコニアはこの国の英雄と呼ばれる程の豪傑だ。

 

 

訓練の際には、屈強な兵士たちを何度もなぎ倒しては、地に這いつくばらせ、砂利を喰わせる過激な訓練は、兵士たちにとって悪夢そのものであり、その情報は勿論侍女たち間にも実際目の当たりにしたワケでは無いが、噂となって伝わってくる。

 

お給金が以前の倍以上に伸びた金銭面のみをみれば、超高待遇とは言え……あまりにも厳しい業務内容。

それに、ジルコニアからの命令を、そう簡単にできませんでした、なんて事も……到底……。

 

加えて、カズキやカズラの正体についても告げられた。

人間ではなく神である、と。

流石に無条件で信じられる様な話ではない荒唐無稽な話ではあるが、グリセア村で起こった事やカズラ・カズキが来た事で圧倒的な速度で復興が進んでいる、と言うことを考慮すれば、納得できる所もある。

 

 

―――カズキに関しては、何れ見る事(・・・)が出来たのなら、100%信じる筈。

 

 

とも言われている。

 

 

 

神やリーゼをくっつけろ、やら……何はともあれ、ジルコニアの命令……指令は、本当に神経を使うと言う事だ。

 

それに提言の1つや2つする事でさえ、未だに緊張すると言うのに、果たせなかったともなれば………あまりカンガエタクナイ。

 

 

「はぁぁぁぁ……ん?」

 

 

本日何度目になるか解らないため息を吐いた後、ふと前を見ていると、視界の中に見知った者の姿が映る。

丁度夕食の際に話題にも上がった新人侍女マリーだ。

 

何やら、扉の前でうろうろ、と挙動不審な動きをしている。見たところ侍女服はもう着替えていて、寝間着姿。

 

そして、何より あの部屋はカズキの部屋。

 

 

 

「……マリーちゃん? どうしたの? カズキ様に何か用事? 部屋の前で」

「! あっ、エイラさん……」

 

 

声を掛けられたマリーは、エイラの声に少し驚いた様だが、直ぐに相手がエイラであることを認識すると、ほっとしつつ……険しい顔になった。

何やら考え込んでいるのか、普段の仕事ぶりを見せている頃の活発的……とまでは言わないが、常に真剣で、時折笑顔を見せる少女からは想像もできない程の顔。

 

 

「―――あのっっ!」

 

 

軈て、エイラはぎょっ、とする。

 

マリーが決心したのか ぐっ、と息を呑みこみそして涙ぐんで エイラの方を見たから。

 

 

「今から私に夜伽を教えて頂けませんか!?」

「!!??」

 

 

まさかの言葉。

まさかのご教授を求められてしまった。

 

先輩侍女として、後輩には……新人には、解らない所はしっかりと教えるのは業務内容の1つだ。

1つ――――なのだが……、流石にこの内容は無理無理、難題。

 

それに、何よりも……エイラ自身が未経験(・・・)なのだから、教えようがない。耳年増な所はあるにはあるかもしれないが、マリーにマンツーマンで教えれる様な教養は備わっていないのだ。

何せ果ては実践的に教えてくれ、と言われかねない。真面目なマリーなら尚更。

 

 

暫くエイラは放心していたが、その間もマリーは怒涛の寄り切りを見せてくる。

 

 

「私は カズキ様の従者として任命されて、それからずっとお呼びにならなくて……、それにカズラ様も……。こ、こういうのは自分で出向くモノなのかと思って……、で、でも 夜伽のやり方なんて、私は知らない事に気付いて……っ」

 

 

自分自身の不甲斐なさ故に、マリーは涙を流す。

期待してくれた兄、ハベルの為にも粉骨砕身で頑張る所存、と意気込んでいるというのに、まさか最初に段階で迷惑をかけてしまいかねない状況になれば………。

 

マリーは、そう考えてしまうと止まらない。マイナス思考全開。カズキやカズラの人柄を、これまで接してきて解ってきた人柄を鑑みたら、マリーが考えている様な事にならないのは解りそうな事ではあるが、……今回に限っては止まらなかった。

 

エイラに勢いよく抱き着く。

 

「お願いします! このままだと私、ハベル様にご迷惑をかけて……!! 私にどうか夜伽のやり方を教えて頂けませんか!!」

「ひぇっ!? ちょ……っ、 マリーちゃん、落ち着いて! しがみ付かないで……!」

 

 

小さな身体のマリーではあるが、完璧に胴部分にしがみ付かれては、如何に体格で勝るエイラであっても振りほどくのは困難だろう。……強引に突き放すような事は基本したくないのだが、今回に限っては厳しい。

 

人には出来る事と出来ない事があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一報―――その頃カズキはと言うと。

 

 

【夜伽をやり方を教えて頂けませんか!】

【マリーちゃん、落ち着いて!】

 

 

2人のやり取りをバッチリ聞いていた。

と言うより、こんな密接で、それも夜遅く、現代で言う街の音などは殆どしないイステリアの夜に響く2人の(それなりに大きい。それに たまにモスキート音まで有り)侍女の声。

 

聞き逃す方があり得ない。

 

 

「ぁっちゃぁ………、そりゃそーだよね。こういう世界じゃありきたりな接待と言うか、嗜みと言うか……所謂、性接待? ってのはありそうだよね………。ジルコニアさんやナルソンさんが言いつけたとは考えにくいけど。……何せ、オレ一応神様(笑)だし……」

 

 

扉に寄りかかりながら、どうしたものか、と思案するのはカズキ。

 

この世界で出会った女性陣達は、基本皆美人・美少女。ありきたりに言えば街中を歩いていたら、たまに出会ったりする可愛い女の子…… 美少女、美女に出会ったりする、アレを常に。デフォルトに、と言う感覚だ。

多少歳を召した方々にも出会ったが、良い感じの歳の重ね方……と言うべきだろうか、もしも写真と言う技術が出回っていて、アルバムとして残してくれてる様モノなら、間違いなく顔の造形は整っている、と断言できる。

マリーは、少々若すぎると言う点はあるものの、間違いなく美少女、美人に将来なるであろう。(注意※ ロリコンではない)

エイラだってそうだ。

 

中でも、イステリアでトップクラスなのはやはりリーゼ。

そして続いて、グリセア村のバレッタ。

 

……女性にランク付けをするなんて、失礼に値するので、妄想上のみで留めるカズキ。

 

「(いっくら、オレが色々と嫌な事抱えてても、可愛い子達に言い寄られたら、ぐらっ、と来ちゃうんだよなぁ……、男の子だもん)」

 

 

嘗て、こっぴどく振られた経緯がある事はカズラにも、ノワールにも説明している通り、暫くは好いた惚れた、恋愛関係、はお預けで良いと思っていた。

 

思っていたからこそ、現実世界で仮想世界(VRMMO)の世界に逃げてきたのだから。

 

でも、この世界はいわばカズキにとってもリアルになってしまっている。

とんでもない能力、身体を持ってはいてもだ。

なので、ヤッパリ、欲求と言うモノはそれなりには備わっているのだが……。

 

 

「………よしっ」

 

 

カズキは パチンッ、と両頬を叩いて気を引き締めると同時に、背後でまだ言い合っている2人の元へと行く為、部屋の扉をゆっくりと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイラとマリーの2人の話以外はほぼ無音だと言って良いこの廊下で……。

カズキがゆっくりと開く木製の扉の擦れる音、キィ……と言う音は、十分過ぎる程にエイラの耳に届いた。

 

 

「っっ!!?」

 

 

ビクッ! と反射的に振り返るエイラ。

そして、視界に入るのは 顔を半分、身体半分程出したカズキ。

今の会話を聞かれていたのでは!? と危惧していたが。

 

 

「どうかしました? 何か問題でも……? あ、いや その……取り込み中ですか?」

 

 

いつも通りのカズキがそこには居た。

仕事面でのトラブルであれば、いつどの時間でも対処します、と言う気遣い無用、と言う優しさ、大らかさと合わせて、もしかしたら、侍女同士のいざこざで 踏み入って良いモノかどうか解らず、遠慮しがちな面も持ち合わせているエイラ達側に対しての気遣いを魅せてくれる器の大きさ。

 

 

いつも通りのカズキだ。

カズキとカズラ、本当に良い人たちが来てくれた、と心の底からエイラが思っている通りの人物。

 

 

聴かれてない、と咄嗟に判断するや否や。

 

 

 

「―――しっ、失礼しました!!!」

 

 

 

マリーを脇に抱えて、全力ダッシュで去っていった。

マリーよりは体格があるとはいえ、中々に剛腕。火事場の馬鹿力とでもいう力を発揮した。

 

流石のマリーも、本人が居る前で 夜伽を教えてくれ、とは言えず 借りてきたネコの様に大人しくなり、されるがままに抱えられていくのだった―――。

 

 

「ぉぉ……、エイラさん力持ち……」

 

 

と、カズキも似た様な感想。

女性に対して力持ち、と言うのは聊かデリカシーに欠けた評価だとは思っているが、本人が聴いてないのでセーフとしよう。

 

 

とか考えていると、向かって右隣の部屋の扉が 音を立てながら開いた。

 

 

「ん? あれ? ……どうかした?」

 

 

出てきたのはカズラ。

カズラの部屋は、発電機の音がそれなりに入ってくる。カズキの部屋は窓さえ締め切っていれば音は入ってこないし、家電製品も無いから入れる必要も無いので静かだ。

 

だから、エイラやマリーのやり取りを完全には聞き取れてなかっただろう。

ただ、騒がしいな、と思った程度で。

 

 

「ああ、今 マリーさんとエイラさんが何か話してて。直ぐに戻っていったので、特に問題があったとかは無いと思いますよ」

「そっか。……まぁ、あの2人なら問題があれば直ぐに自分達に言いに来てくれるよね……」

「はい、その辺は遠慮なく、と再三伝えてるので間違いないかな、と」

 

 

カズラもカズキの返事を聴いて安心したのか、欠伸を1つしながら 【おやすみ~】と部屋の中へと戻っていった。

 

 

カズキは、カズラを見送った後……。

 

 

「んっ……、夜も遅いし 目立っちゃ不味い。光度を極限まで落として………」

 

自身の光の光度を最小限まで下げるカズキ。

闇状に出来たら一番良いのだが、流石にそこまでは無理そうだった。(それじゃ、ピカピカじゃなくヤミヤミに成りそうだし)

なので、薄っすらと燭台から灯される光に紛れる様に光と光の隙間の移動にのみ神経を集中させて、移動開始。

 

勿論、行先はマリーの所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリーはと言うと……。

 

あの後、エイラの部屋に、マリーは担ぎ込まれた。

そこでは、兎に角【待つ】様にとマリーに言い聞かせる。

 

夜伽に関しては、絶対無いとは言えないので、無責任な事は言えないが、少なくともカズラやカズキが求めてくるまで待つように、と伝えられた。

 

自身の不甲斐なさを……としょんぼりしていたマリーを何とか宥め、気にし過ぎず、尚且つ暴走させない絶妙な力加減で還したエイラはまさにファインプレイだと言えるだろう。

 

元々真面目な性格であり、兄のハベルの迷惑にならない事、力になれる事だけを考えていたマリーだったが、どうにかエイラの説得のお陰で落ち着く事は出来ていたが……やはり気は晴れない様だ。

 

そんなマリーの後ろ姿をカズキは視界にとらえた。

 

エイラの部屋から、出てトボトボ、と歩く後ろ姿はどうにも元気が無いように見える。

普段の日中ならまず見られない猫背なマリーを見て―――やはり、ハベルではないが、可愛い妹には元気に居て貰いたい、と言う気持ちがカズキにも改めて湧いて出る。

 

だから、なるべく驚かせない様に、それでいてバレない様に細心の注意を図ってマリーに声を掛ける事にした。

 

いきなり後ろから声を掛けるのは、間違いなく驚かれるので先回りして マリーがカズキの姿を確認できるように、計らう。時間的に位置的にも、その場所に自身が居る事は不自然極まりないが、この際良いだろう。

丁度給仕室の傍だから、と言う理由も出来ない事はないのだから。

 

 

「ぁ………」

 

 

そして、狙い通り。

マリーはカズキに気付いた。

 

一瞬、カズキが懸念していた通り、どうしてここに? と言う疑問もマリーには生まれていた様だが、微笑みながら右手をヒラヒラと振るカズキを見て思わず小走りになる。

 

「お疲れ様です、マリーさん。夜遅くまで大変でしたね」

「い、いえ! そんな……。私は まだまだです。……出来ない事も、知らない事も、沢山……沢山ありますから……。ですから、カズキ様にも、カズラ様にも。………ハベル様にも」

 

カズキの笑顔に、マリーも微笑みを浮かべるのだが、先ほどのエイラとのやり取り、そして自分自身が何故カズキの元へとやって来たのかを思い出しては、表情を暗くさせる。

 

エイラからは、兎に角 【待つ】様にと指示を受けている。

こちらから過剰に接するのは、侍女ではなく娼婦の仕事だと。そして、日を改めて……そっち方面(・・・・・)も話をすると、エイラには聞かされている。

 

体よく逃げた、問題を先送りにした、とも言えるが、あの場はあまりにも突然の出来事故に、出来る範囲では最適の解をエイラは示したと言えるだろう。

 

 

だが、だからと言って 自分自身が出来ない事には変わりないのだ。

 

 

「(ハベル様の為にも……、カズキ様の為にも………)」

 

 

マリーはギュっ、と裾を握る手を強める。

 

 

そして、意を決した。

 

 

エイラには待つように、と言われたが、まさかこの時間にこの場所にカズキが居るなんて、最早 運命の導きなのだ、と千載一遇のチャンスだ、とマリーは判断した。

 

そして、……恥を忍んでカズキ本人からご教授を。それを必ず完遂して、カズキに気に入られる。もっともっと気に入られる。その結果次第では、必ずハベルの役にも立てる。

 

―――必ずやり遂げる、と胸に誓い、勇気を振り絞って顔を上げたその時だった。

 

 

温かく、柔らかい感触が……頭に感じたのは。

 

 

「マリーちゃんは凄く頑張ってる。……物凄く頑張ってるよ。これ以上はない、って程にね。それは一番オレが解ってるから」

 

2度、3度と頭を撫で……そして撫でた回数だけ頭をぽんぽん、と触り、マリーの両肩に手を置く。

 

じっ、と真っ直ぐその両目を見据える。

 

マリーは、至近距離にカズキの顔がある事に、気が動転してしまいそうになる。思わず赤面してしまい、気を失ってしまうのでは? と思う程だったのだが、先ほどの温かい感触のお陰で、気を保つ事が出来た。

 

「マリーちゃん」

「は、はい!」

「えっとね。……その、実はオレ……さっきのエイラさんとのやり取り、聞いていてね……?」

「はい! ……はい? …………は、、、ぃ……?」

 

折角真っ直ぐ見つめる事が出来たというのに、目を逸らせる事なく見る事が出来ていたというのに、また顔の温度が上がっていくのを感じた。

 

「え、えと! そ、それは、そのっっ! わ、わたし、わたしはっっ」

 

今回ばかりは無理だった。完全に混乱し、羞恥の念もあり、動転してしまった。あのカズキの撫で撫ででも、今回の波は超える事が出来なかった……のだが。

 

「落ち着いて」

 

真っ直ぐ見据えていたカズキの目が少しだけ細く、そして優しくなった。

 

微笑んでくれているのがよく解る。

 

 

「オレからのお願い。……良いかな?」

「はふぃ!! な、なんなりと!!」

「うん。……夜伽の相手、だけどね……」

 

 

気が動転しているマリーとは実に対照的に、カズキは微笑みを絶やさず、そしてまた頭を撫でながら言った。

 

 

「夜伽は、マリーちゃんが、生涯を共に添い遂げる相手に。―――生涯にわたって、病める時も健やかな時も。ずっと添い遂げられる……と想える相手に。願わくば してもらいたい、って オレは思ってるかな」

「ぁ………………」

 

 

カズキはそこまで言うと、今度は照れくさそうに笑った。

 

「あはは。何だか恥ずかしいね。ちょっと臭いセリフ……だった?」

「い、いえ、そんな……っ、そんなこと……」

 

マリーは、目をぎゅっ と閉じてぶんぶんと首を左右に振る。

そして、目を開いた。今度は慌てる事などない。

カズキと同じ様に、笑えているか解らないが……、気持ち的にはカズキと同じ様に笑っている顔を作ったつもりだ。

 

 

「とても、素敵な言葉でした……。誓いの言葉……」

「ははは。うん。オレのせか…… く、国ではね。結婚式…… 婚礼の儀の時に 神様の前で誓うんだよ。幸せにすることを誓いますか? 生涯共にいる事を誓いますか? 明るく楽しい家庭を築いていく事を誓いますか? ってね。勿論、お互いの思いやりが何よりも大事です。………まぁ、お国柄 全ての人間が等しく同じ……とは言えないかもしれませんが」

「素敵です……。とても、素敵です……」

 

 

この世界の文明レベル、貴族制度、奴隷制度等を鑑みると、……極々ありきたりで平凡な幸せをつかみ取るなんて難しいのかもしれない。

 

少なくとも、戦時中……一触即発な現状では、悠長に幸せになってられる暇は無いかもしれないのだ。

 

妻は夫を想い、戦地からの帰還を願う。……ジルコニアは、夜の星々が毒だと称していたが、それは愛し合う男女が、伴侶が居たのなら、夜空の星々以上に時として毒になるかもしれない。

全ての兵士が 愛する者たちの為に、命賭して戦えるワケではないだろう。表面上では言い繕ったとしても、誰も、残して逝きたくない筈だから。家族が待つ場所へ帰りたいと願う筈だから。

 

 

 

でも、カズキは少なくとも……、この笑顔は守りたいと思った。

マリーも納得してくれたようだし、上からの直々の命令、カズラの命令等が無い限り、夜伽騒動はもう多分起きないだろう。

 

 

エイラもひょっとしたら、悶々とさせてるかもしれないが………、きっと空回りに終わる。

それを伝えるのも良いが、何だか互いに恥ずかしい想いをしそうなので、カズキは保留にした。

 

 

 

 

カズキは、自分がこの世界に来た意味を。――――本当の意味で 見出す為にも、手の届く範囲の笑顔は守ろう、と心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり―――カズキの部屋。

そこには、驚く事にカズキだけでなくある来訪者が居た。

 

 

「……んで、ノワは何で此処に?」

「いえ。少しこの周辺……砦周辺に出向いてきてまして。たまたま、立ち寄っただけです。……後、カズキ様はどの様な女性が好みか……と想いまして」

 

 

いつの間にか、ナルソン邸にまで忍び込んできていたのはノワールだ。

こんな場所にまで、驚き目を見開いたのは言うまでもない。

 

 

「忍び込むにしても、場所を考えてくれよ……。変に騒ぎにならなかったか?」

「それは大丈夫です。……皆さんには眠ってもらいましたから」

「それは大丈夫………なのか? 警備とかの観点で」

「私の一定範囲内です。流石に全体に霧をかける事は出来ませんから」

「ふーん……。そんで、さっきのをのぞき見してた、と?」

「………はい」

 

ノワールは、ぷくっ、と頬を膨らませてそっぽ向いた。

こんなキャラだったか? とカズキは訝しむと同時に呆れる。

 

 

「全く……」

 

 

ふぅ、とため息を1つ。

名付けをした当初くらいからか、物凄く懐かれた感が満載だ。年齢は(自身の正確な年齢は測りかねるが……少なくとも精神的には)明らかにノワールの方が上だと言うのに、何だか妹を持った気分になる。

 

マリーと話をしていたからか、よりそんな感情が顕著に表れていた。

 

 

 

「あ、それとお知らせが幾つかあります」

「ん?」

「グリセア村に関しましては、ある程度の範囲には成ろうかと思いますけど、今後はあの様な事が起こらない様に、私達の眷属に任せていただけたら……、と言う旨をお伝えしようかと思いまして」

「……え!?」

 

 

ノワールが来ていて驚いていたが、応対に関しては やや不真面目気味だったカズキだが、今回のに関しては、目を見開いて驚き、そして真剣に聞きなおした。

 

 

 

「そ、それはどういう……? と言うか、以前 あまり人に干渉し過ぎるのは良くない、

って言ってなかったっけ??」

「はい。確かにそう言いました。……ですが、カズラ様が……。いえ、カズキ様がこの世界に来られてから、完全に変わった、と私は確信しています」

 

 

ノワールはやや興奮気味。前のめりで両拳をぶんぶん、と振るいながら話を続ける。

 

 

元々の彼女の印象は、何処となくミステリアス。

 

神出鬼没で 何度もカズラを驚かせたり、時には助けたり……、と記憶は正直曖昧ではあるが、カズキの中でのノワール像、即ち オルマシオール()と認識されているであろう彼女の印象はそれなのだが、今の彼女は 何だかとても活発的で元気なお姉さん、と言った様子だ。

 

勿論、それが悪いとは言わない。言うワケも無い。

 

 

「ありがとう。嬉しいよ!」

 

 

グリセア村を護ってくれると言うのだから。

カズラ……、グレイシオールに加えて、オルマシオールまでの加護があるとすれば、あの村は完璧完全な要塞も良い所だ。大規模な事情が起こらなければ、の話だが、あのウリボウ達にも手に余る様な事が起これば、そこはカズキ(メルエム)の出番だろう。

 

ピカピカの力で強制退場願うだけである。

 

 

カズキの笑顔とお礼に本日一番の同じく笑顔を見せるノワール。

でも……。

 

 

「いや、本当にありがとう! ……んでも、ナルソン邸(ここ)まで入ってくるのはなるべく止めて欲しい……かな。ノワが人前でも認知されて、堂々と正面から入ってきてもらいたい。じゃないと警備に穴が~ とかの色んな問題が発生しそう」

「ぁ……、そ、それはそうですね………」

 

 

ノワールが人の姿で、対象の人前に姿を現す時、所謂催眠術の様な力を用いて、意識に霧をかけ、眠らせてから行動をする。

 

つまり、今日 カズキと対面しているこの場所で、意識を保っているのはカズキとノワールだけであり、他のメンバーは意識を完全に失っているだろうから。

 

それは、部屋に戻って就寝している者たちなら問題ないが、遅くまで仕事をしているであろうナルソン、ジルコニア、そして警備についている近衛兵たちをも深い眠りに落とすと思われるので、1度や2度なら 復興の疲れが……で済まされそうだが、それを頻繁に行われてしまえば、流石に異常に気付くだろう。それに警備兵たちの居眠りは罰則、懲罰ものだ、とも考えられるので、その辺を考慮しても……流石に遠慮願いたい。

 

 

「申し訳ありません……。カズキ様とお会いする事しか考えれていなかった様で………」

 

 

ノワールは、しゅんっ……と表情を落とした。

完全に人の姿になっているのにも関わらず、耳や尻尾が見えて、それも落ち込む様に下がった様な気がしたのは、気のせいではないだろう。

 

カズキは、苦笑いを1つすると、ノワールの頭をそっと撫でていった。

 

 

「また、グリセア村に帰った時にでも沢山会う機会はあるだろうしさ。その辺で手打ちに、ってのはどうかな? また、剣の特訓にも付き合って貰いたいし」

「は、はい! 勿論です!」

 

 

 

項垂れていたノワールだが、カズキの一言でまた元気を取り戻す。

快活、活発、元気なお嬢さんは、何処となく単純化もしてしまったかも……とカズキは思ったが、それはある意味自分のセイだ、と言う認識はしっかりある。

 

名も無い彼女に初めての名を与えた。名付け親と言っても良いのが自分自身であり、1000年と言う気が遠くなりそうな時間、人の一生を10回程は過ごしてきた悠久の時の中で、初めての出来事であったとするなら……。

仕方が無い事だ。

 

 

 

その後、暫くノワールとカズキは楽しそうに談笑を続けた。

中でも専ら盛り上がった? のはやはり前回の続き――――カズキの恋愛事情。

 

ノワールは妖艶な笑みを浮かべたり、室内だから、衣服を脱ぐ―――とわざとらしく露出させたり、と随分楽しそうだったが、何よりも面白かったのは、カズキを袖にした当時の女性に牙を向こうとしてた事だ。

 

 

もし、こちら側の世界に居たなら、七夜は魘されるくらいの恐怖を味あわせる! と息巻いたりもしていたが、あまりにも過激なことを言うので、途中でカズキが諫める。

 

 

 

 

 

 

 

そして―――ノワールは退出。カズキも眠りにつくのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。