翌日。
晴れ渡った空の下で、カズラとバレッタ、そしてカズキは一緒に水車2号機が設置されている川べりに向かって歩いていた。
因みに、1号機はカズラが日本から取り寄せた純日本製のモノ、そして2号機が実際にこちら側の世界で説明を求められたときに説明できる様にと、こちらで手に入る材料を使って制作したモノである。
水路を引くために設置したとのことだ。
でも、本物があるとはいえ、そんなのを作っちゃうところを見ても、バレッタはすでに天才の片鱗を見せている様な気がした。
そして、今 話題に上がるのは以前の軍の人の事。
「なるほど、軍隊は村の視察ついでに行軍訓練で立ち寄っただけだったんですか」
「はい。いつも通りに父がアイザックさんに付き添って村の視察をしただけで、軍隊はイステリアへ帰っていきました。村の皆も上手く立ち回ってくれたので問題は何も起こらなかったですよ」
ふんふん、と口を挟まず カズラとバレッタの横で話の内容を頭に入れて整理するのはカズキ。
カズラからある程度話は聞いていたが、これで間違いない、と確信できた。
村に滞在していたが、軍関係の人物の訪問で一時日本へと避難し、そして ほとぼりが冷めた頃に戻ってくる。素性の知れない人間が村に居るともなれば不正入国を疑われ、見つかっただけで罰せられる可能性だってある。更にアイザックと言う名の軍人は非常に優秀で勤勉。 グリセア村の事をよく知っていて、村人かそうでないかは直ぐにバレてしまうだろうとのこと。
そうでなくてもカズラの身なりはどう見てもこちら側の人種じゃないので、それだけでバレてしまいそうだ。
何も知らない状態なら 成程、理解した。
……で済む話だが ここまで人物名や状況が一致してくると、この先に起こるであろう事も身構える必要があるな、とカズキは思っていた。
現状ではカズラの協力は何よりも重要だ。
能力とかを駆使して立ち回りを図れたら軍部で居場所は出来たりできそうだが、そういうつもりは毛頭なかった。どんな事でも接戦が何よりも面白いのが信条。
他からみれば明らかに理不尽な力で圧倒的にものを言わせてどうこうするのは、はっきり言って趣味じゃない。
気に入って、気に入られて、友達になって、そして 大切な人が出来たのなら、護る為に力を使う。……それがこの世界では一番だと。
「カズキ様?」
「…………」
「あの、カズキ様??」
「っ、と。ゴメンなさい。ちょっと考え事してました。何でしょう?」
バレッタに呼ばれて気付けてなかったが、何度目かで気付く事が出来て振り返った。少しだけ難しそうな顔をして伺い立てている様子のバレッタ。まだやっぱり何処か遠慮がちなのもその表情から判る。
「何かありましたか……? その……」
「いえ、特に何もありません。少し考え事をしてまして……」
「考え事? 軍の人の事かな?」
「はい。……ちょっと会ってみたかったり、とか思っちゃってて。でもそれしたら カズラさんやバレッタさん達皆さんに迷惑が掛かりそうなので やっぱやめよう、って思ってた所でバレッタさんに話しかけられました」
てへへ、と笑いながらそう言うカズキを見て、バレッタも少しだけ表情が柔らかくなる。
カズラの友である、と言う事を聞いても中々直ぐにフレンドリーになるのは幾らなんでも難しいだろう。出会ってまだ1日程度なんだから。
「あ~~、それはオレも判る。気になるよなぁ」
「でしょ??」
「ふふふ。直ぐには難しいかもしれませんが、アイザック様は素晴らしい方です。折を見て少しずつ話をしてみたら、機会が出来るかもしれません」
「おお、それは期待してみたい所です。素性関係聞かれたら中々答えにくいので、その辺りがハードル高そうですが」
「そーですよね。口で説明するのって難しいですし、証明するともなれば尚更。………って、オレは大丈夫か」
カズキは、カズラが所謂神様。グレイシオールである事の説明をカズラ自身がするとなれば、最終的には上手くいくだろうけれど、結構難しいだろうとも思えた。荒唐無稽すぎる気もするから。
でも、自分が証明するのはそう難しい事じゃない、と直ぐに気付く。
バレッタはどういう事? と首を傾げてた。訳を聞いてみようとした丁度その時、水車2号機が見えてきた。
「おっ、良い感じで回ってますね。遠目から見てもムラはなさそうです。……でも」
笑ってたカズラだったが、今は少し申し訳ない表情を作る。
「さっきは軍の人に会ってみたいっていっちゃいましたけど、おそらく今後 バレッタさんに水車の作り方を説明させるためにイステリアに呼び出されるかもしれない、って思ったら、何だか申し訳ない気持ちになります」
「――――あっ」
カズラの言葉を聞いて、カズキも思わず声を上げた。
一連の話を聞いてみたら、確かにその通りだ。持ち込んだのはカズラで、その制作方法も日本で手に入れたもの。でも、それを隠してこの村で開発した事にするともなれば、その白羽の矢が当たったバレッタに説明を求められるのは至極当然の流れだ。……軍の人と仲良くなる~云々も全てバレッタに要らぬ迷惑や心労をかけてしまう事になる。
「………すみません。オレも配慮不足でした」
「い、いえいえ。お2人ともそんな謝らないでください! 私たち村の皆が受けた恩を考えれば、そのくらいお安い御用ですよ」
「うぅ、でも今のオレはカズラさんにおんぶにだっこ状態……。カズラさん! バレッタさん!! 何でも言ってくださいね! オレ、頑張りますから!」
バレッタ達の恩と言うのはカズラがグリセア村を救った事だ。
此処に来たばっかりの自分は何にもしてない。ただ、カズラが友である事を許してくれただけなのだ。
だから、余計に力が入った。貢献をしよう、と。
何でそこまでするの? と思われるかもしれないが、それでもカズキにとっては非常に重要な事だ。自分自身が本当に信用し、信頼される為には。
そして、その後は暫くちょっとした押し問答みたいなのがあったが、カズラが綺麗に纏めてくれて、話題は当初の予定通り水車に。
バレッタが以前アイザックに指摘された部分をカズラとカズキに話したのだ。
「ここの軸の部分です。使ってるうちにすり減ってしまったみたいで……」
ひょい、と2人で軸部分をのぞき込んでみた。完成した時を見てないカズキでも判るくらい摩耗しているのが判るくらいだった。
「あぁ……、これは随分と摩耗してますね。軸が折れる前に気付いてよかったです」
カズラも似た様な印象だった様だ。
今日明日程度では折れないかもしれないが、確実に折れてしまうだろう。突然水源が失われてしまったら混乱してしまうかもしれないので、本当に不幸中の幸いだ。
カズキは、その水車の全体を隈なく眺めていた。話を聞いただけなのと実際に見てみるのとではやっぱり違う。なまじ不自由ない生活をしていた身から考えると、ここまで人の手でやってのけるのはやっぱり感動してしまうと言うものだ。その後、対策をカズラとバレッタは検討しているがカズキは暫く魅入っていた。
摩耗した部分も、確かに危ないし大きな問題かもしれないが、それ以上に感激してて中々言葉が出てこなかった、と言うのが理由である。
そして、水車の全体を隈なく目でなぞった後……ふと小高い丘が見える方角に目を向けた。
ほんと何気ない仕草。理由などはない。ただ、何となく見てみただけだ。何となく――見てみた先に、人影が見えた。その数は3人。
まだ此処に来たばかりのカズキだが、はっきりと判る。ぱっと見た感じ明らかに村人達ではないと言う事が。何故なら格好が明らかに兵士そのものだから。見てはっきりわかる鎧を身にまとい、腰部分には剣が備わっている。ゲームの世界でこの手の兵装は何度か見た事があるから、結構似た様な装備なんだな~と割とどうでもよい事を考えてしまってたので、反応が遅れてしまった。
向こうの3人も気付かれた事がわかったのだろう。逃げ出さない様に、制圧すべく接近する速度を上げてきたから。
自然とカズキはバレッタとカズラの前、あの兵士たちと一番先に対面する位置に立った。そこで漸くカズラやバレッタも気付けた様だ。……誰が来たのかが分かったのと同時に、バレッタの顔は蒼白していく。
「お前たちは何者だ! グリセア村の住人ではないな」
突然の来訪者の正体。以前グリセア村に来た軍人のアイザックとその部下たちだ。
アイザックは部下たちに目で指示すると取り囲むようにわきに回り込んだ。
慌ててバレッタがカズキの前に出た。
「あ、アイザックさん。この方たちは……」
「貴女は黙っていなさい」
アイザックは問答無用でバレッタを黙らせた。アイザックからすれば、バレッタは虚偽の説明をした事になる。信頼していた彼女からの裏切り行為。故に怒りを持っていたのだ。
「さっさと答えろ。それとも堪えられないような理由でもあるのか?」
カズキとカズラを相互に睨みつけるアイザック。
「カズラさん。早速恩を返せそうな場面なんですが、オレが説明しても良いですか?」
カズラは、どう答えるべきか数秒思案していた時にカズキからの突然の申し出が出て少なからず驚いた。アイザックは今でこそ凄い形相で睨んできていて、それだけを見たらあまり良い感情は持ち合わせられないが、以前、バレッタや村長に彼の事を聞いた事があるカズラからすると、悪い人間じゃないのは判る。
でも、カズキは違うだろう。ある程度説明したとはいえ、状況は突然兵士が現れて今にも武器を向けてきそうな状況だ。
非常にまずい気がした。特にカズキの言う
「あ、ああ! 違います違います。変な事はしないですよ。ちゃんと考えてますって」
神妙な顔をしだしたカズラを見て、何を考えてるか分かったカズキは、直ぐに手を振って否定に走った。力についてはカズラに説明しているので、それを使って思いっきり暴れてやる! とでも思われてしまったのではないか、とカズキが思ったから。
確かにできなくはないし、実際に命の危険を感じたら、あの森でウリボウと対峙した時みたいにするつもりだが、人間相手なら、話が出来そうな相手なら、まずは対話は必ずすると決めてるから。
「おい。貴様。説明を求めているのは私だ。……妙なことをすれば即刻対処するぞ」
剣の柄を握り締めるアイザック。怒気も強めていた。彼に取って見れば罪人相手に話をしているも同然だ。なのに、返答無く内輪もめみたいな事をされてしまえば相応の対応をしなければならないだろう。即ち制圧である。抵抗がある場合は即刻切り伏せるとも考えていた。アイザックが持っていた情報では調査対象はカズラと呼ばれる男1人。つまり、今バレッタの隣にいる男で、前にいる男ではない。……そう、2名いるのなら1人でも五体満足で喋れる者が居れば良い、と判断しているのだ。その方が残った方も話をせざるを得ないだろうから。
だが、あくまでそれは最終手段。
罪状は数あれど、村を助けた事に目を瞑るような真似はしない。
「アイザック、さん。で良いですかね? 私たちは こちらの世界の者ではありません。別の世界から来ました」
「………なんだって?」
様々な想定を頭の中で張り巡らせ、いついかなる時でも動けるように備えていたアイザックだったが、全く予期せぬ答えだったので思わず問い返していた。
それは、取り囲んだほかの2人も同様だ。恐怖で頭がおかしくなったのか? と疑う視線なのがよく判る。
「つまり、私たちは神の世界からやってきた、と言ってます。最初からグリセア村へと向かうカズラさんに同行させてもらう予定だったんですが、少し遅れた為 此処につくのが遅れてしまいましたが」
「……………」
全く予想だにしない返答が大真面目に返される状況に困惑を通り越して頭が白くなる感覚がアイザックにはあった。
そして、後ろで待機してるカズラも色々と考えを張り巡らせている。カズキが証明するのは簡単なのは、カズラとて判る。でも、自分も証明を……と考えたら、すぐにするのは難しいのだから。手段は こちらの世界にとっての未知の道具を見せる。実際に日本へと通じる道まで来てもらう、と手段はあるにはあるが、どっちにしても時間がかかる。
そして――― 実の所一番の心配はカズキにあった。
彼とは出会ってほんの1日程度。
申し訳ないが信頼関係等ある訳も無い。此処で自分が売られ、そして 彼の国進出への足掛かりに、と言った考えを絶対にもってない、とは言い切れない。
あの力なら、軍部を預かる彼らに見せれば取り入る事など造作も無いだろう。この世界へとやってきた理由だって、裏が取れてる訳も無い。本当の目的が別にあるのかもしれない。……不安要素があまりにも多すぎたのだ。考えれば考える程悪い方へと考えてしまう。
でも、今はカズキを信じる以上の策は見つけられなかった。
命運を握られたと言っても良い状況だ。
そんな心配を他所に、カズキは続けた。
「カズラさん。神の国ではそう呼ばれてます。でも、こちら側では違う名で通ってる筈です。ね? バレッタさん」
此処でカズキはバレッタに話を振った。
村人の1人である彼女の証言を得る為に。
「は、はい!」
突然話を振られてビックリするバレッタ。そんなバレッタを見て軽く笑みを浮かべるのはカズキだ。
「落ち着いて大丈夫ですよ。……アイザックさん達に教えてあげてください。カズラさんの、……神の名を」
カズキの笑みを見たバレッタは、少し落ち着きを取り戻す事が出来たのか、こくんっ、と頷いた後に数度深呼吸をした。そして、必死に息を整えなおすと……、大きな声で宣言した。
「カズラ様は、グレイシオール様なんです! グリセア村を救うために、来てくださったんです。カズラ様……、グレイシオール様が来て下さらなかったら、村は全滅していました!」
カズキに注視していた筈のアイザック達だったが、頭の中の整理がつかないままバレッタに大声を出されて、また混乱してしまっていた。
それでも、飲まれまいとどうにか気を立て直したのはアイザックだ。
「グレイシオールさま……?」
「ええ。バレッタさんの言う通りです。私はそのお供をしているしがない神族の1人。こちら側の世界ではカズラさんとは違って知られてない筈ですから、名乗っても意味は無いでしょう。カズキでお願いします」
ぺこっ、と優雅にお辞儀をするカズキ。
因みに、カズキは今 スラスラと芝居がかったセリフを言えるのは、これもVRゲームの色んな世界で色んな役? をやってたお陰だったりするので、また別の意味で嘗てのゲームに感謝していたりしている。
そして、アイザックはもう聞こうとはしなかった。呆れ半分の表情でため息を吐くと。
「……この男たちを縛り上げろ」
そう命じるのだった。
勿論、それは想定の範囲内。
「信じて頂けませんか?」
カズキはアイザックの目を見ながら言った。虚言癖でもあるんだろう、と判断した男のそのまっすぐな視線に少なからず驚いたアイザックだったが。
「私は神だ。と言って直ぐに信じる事が出来る方が異常であると私は考えているのでな。それに、神を名乗って民を先導しようとしかねない男を放置するのもあり得ない。裁判では極刑に値する行為だ」
「ふむ……、仕様がありませんね」
「……? なんだ? 抵抗するつもりか? 今すぐに刑を執行しても良いんだぞ」
ちゃきっ、と柄から剣を引き抜くアイザック。
部下の2人も思わず身震いした。単なる不法入国の男の捕縛程度にしか考えていなかったのに、よもやの事態。アイザックを前にしても一切怯まない神を語る男。あまりに現実感から離れた光景だった。アイザックが此処までしているのを見るのも随分昔の話だから。
「いいえ。ただ、私を証明するだけです。……生憎、カズラさんを証明するのは時間が少し、かかると思いますが、私の証明なら直ぐにできますので」
「……ほう? 証明してもらいたいものだ。神と対面できるなど光栄極まる事だからな」
アイザックは後少し、剣を引き抜いた。もう刀身がはっきりと見えており、その刃が太陽の光に反射して鈍く光ってるのがよく判る。バレッタは、ガタガタと震えている。カズキがカズラの友である事は聞いていた。ただ、問題なのはカズラが
カズラも、最早考えるのをやめて、カズキの行く末を見守る事にした。……それ以上何も出来ないのが辛い所ではあるが、どうしようもないのだ。
カズキは、ゆっくりと指を上に上げた。
その指に光が集まるのが目視で判る。取り囲んでいた2人の男も失笑に嘲笑、だったのだが まさかの事態に身体が凍り付いたかの様に動かなかった。それはアイザックとて同じことだ。
力を使えるのは1日1時間だけ。その効果時間のカウントはいつなのか、いつリセットされるのかはっきりと判らない部分はあるが、少なくとも、今は大丈夫だと判断している。何故なら、今朝目覚めてこの場所に来るまで余裕で1時間は超えているのだが、先ほどこっそりと試してみた結果、問題なく使えたからだ。こそっと使った事もあるが、夜と違って明るい昼なら殆どバレない様に使う事が出来た。
なので、少なくとも時間指定ではない。朝、目が覚めてから1時間ではなく、おそらく累計時間。力を1時間継続すると使えなくなる、と言う事だろう。
そして、覚えているのは自動防御効果についてだ。その辺りは制限が無かったので、際限は無い、と推察できる。………命に係わる項目なので 裏を取ってみようとか、確認してみようとかは思わないが。
「(攻撃は無し。と言うか試してないから怖い。……移動系と光の身体の防御くらい、かな)」
カズキはそんな事を考えつつ、指先に更に意識を集中。
昼間なのに更に輝く発光体が人一人分程大きくなった所で、その光が丁度アイザックの背後に縫う様に放たれた。彼を傷つけない様に細心の注意を払いながら。……元ネタ通りの力だったら、アイザックの身体を貫いてしまうから。……最悪爆発するかも? と思ったがそれはカズラに見せた時も大丈夫だったので、とりあえず心配はしてない。
目も眩む強烈な光が周囲に発生し、決して見逃すまいとしてた筈のアイザック達も思わず目を背けた。そして―― 次の瞬間には その場にいた筈の男の姿が無い。
「っ、っっ……!! ど、どこに!?」
アイザックは、きょろきょろと左右を見渡したが、姿が見えない。そんな中、アイザックから見れば正面に居る部下の2人が青ざめた表情で指さした。
「あ、アイザック様……」
「う、うしろ……うしろに………」
その言葉に従い、中々動けない身体をどうにか鞭打って、身体を後ろへと向ける。
そこには、確かに目の前にいた筈の男がいた。
光をまとった姿が、そこにはあった。神々しいを体現したような姿で。
「これで納得していただけましたか?」
微笑みを向けられていたのだった。