ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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33話 トラウマと克服

―――本当にただの偶然だった。 それに仕事上の事とはいえ頻繁に昼夜問わず、彼らの部屋には行き来していた身だったから、と言うのもある。

 

 

両腕をそっと抱き、その身体は僅かに震えている。

震えを懸命に抑えようとするが、完全には抑える事が出来ない。

 

 

だが、これ(・・)は 千載一遇のチャンスでもある展開……とも言える。

直々に呼ばれたワケではない、ただ聞いただけ(・・・・・)だ。

いずれ、呼ばれる事になるだろう。ならば―――先んじた方が更に好印象だと解る。

 

頭では解っている。……解っている筈なのに、異様な程身体が重い。

 

 

 

「いか……、ないと………。じゅんび、を………」

 

 

 

ポツリ、ポツリと、どうにか言葉を絞り出すと同時に、自己暗示をかける様に歩を進める。

部屋の前で盗み聞きをしていた、と思われてしまえば、このチャンスもフイになってしまう。

 

足取りが重い。いつも通ってる筈の廊下が異様に長い。―――もう、長く暮らしていた筈のナルソン邸が、全く別の場所に見えてきた。

 

歩を進める事に、視界がぼやける。あの日(・・・)の我が家の光景が 眼前に映し出されてしまう。

 

忘れたくて、それでいて決して忘れてはならないモノ。燃える様な怒りを、憎しみを、あの悪魔の様な国にぶつける為に、どれだけ平穏を得られたとしても、家族(・・)()の無念を晴らす為に。

 

 

だが、それでも………。

 

 

まるで、その光景にある悪魔たち(・・・・)が嘲笑っている様に見えた。

 

 

【どうせ、その程度のカクゴだったんだろ?】

 

 

嘲笑ってる様に見えた。

 

 

「ッッ、ッッ……!!」

 

 

その度に、ジルコニアは全身の骨が軋む様な感覚がしていたが、歯を喰いしばり、耐えて 逆に睨みかえした。

 

あの時の悪魔に向かって。

 

 

 

 

 

 

「しっかり……、しっかり、しなさい……。ジルコニア。………わたし、自身が狙ってた事、でもあるでしょ……? 自分の娘(リーゼ)まで、宛がおうとした……でしょ? その私が、この体たらくで………、どうする、っていうの……!」

 

 

彼女は――――ジルコニアは、重い体を引き擦る様に再び歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――10数分後。

 

 

カズラは自室へと戻り、カズキはそのまま明日の準備をしていた。

復興の件もあるが、もう1つ発電機を増設したのである。

 

 

「流石口コミNo.1! オススメNo.1! 隣のカズラさんの発電機の騒音より、ずっと小さい!」

 

 

腹の底に響く様な重低音、ドッドッドッ…… と言う音は、このイステリアでは……否、このアルカディア王国、更に東側外の国々、クレイラッツやプロティア、エルタイル、果ては北部の敵国バルベール。……全世界ででもこの場所にしか存在しないと断言できる未来の道具。

 

 

―――と、カズキは、自分が発明したワケでも、自分が購入したワケでも無いのに 何処となくドラえ○んになった気分に浸っていた。

 

 

 

「んん、こっちはリーゼさんやエイラさん、マリーちゃん達にも渡していきたいけどなぁ……、グリセア村のターナさんやニィナさん、ミュラちゃんにも渡したし。……徐々に、って考えたらヤッパリ、ジルコニアさんから始まって、リーゼさん、って感じで上からの方が良いかな? …………効力とか考えたら、ね」

 

 

あはは、と苦笑いするカズキ。

勿論カズキが渡そうと悩んでいるのは日用品、美容品である。

 

こちら側の世界の皆には、その効能は絶大。十全にも影響が現れると言う事は、グリセア村のニィナやターナ、ミュラ達が早速使ってくれて、その効能を大絶賛してくれたから。とてつもない。肌の色艶や髪が輝いているかの様な……、どんな世界であろうと女の子なのだろう。その喜び様は凄まじく、何なら男であり、旦那であるロズルーに勧めた程だった。

 

ロズルーは娘や妻を優先、と言う名目で断っていたが。

 

まだ比較的小さな村であるグリセア村の住人でさえ大騒ぎしそうだったのが、このイステリア、ナルソン邸で起これば、結構な騒ぎになってしまいそうなのも少々怖い。

 

リーゼやジルコニアが怒る様な事はしないと思うが……順番は考えたおいた方が吉。

 

 

「んっし、んじゃあ、それと後は………」

 

 

次は復興の計画書(日本語ver)の書類に目を通す。

穀倉地帯、水車の量産化などの進捗状況と先日 日本から入荷した道具の数々を踏まえて、後々の進捗具合の予想を立ててみた。

 

手作業前提の原始的な道具とはいえ、こちらの世界とは比較にならない程高性能な道具だから、恐らく作業効率は上がる。財政面では宝石(笑)な、ガラス玉、パワーストーンで当面は確保できるという話も聞いているから、皆のやる気を一番出させる事が出来る特別給金の話も持っていきやすくなるだろう。(無論、宝石に関しては、余りにも高価(100円 笑)らしく、販売ルートの選別等やる事は山済みではあるが、嬉しい悲鳴だと言える)

 

 

等々、色々と考えを張り巡らせていたその時だ。

部屋の扉がノックされるのと同時に。

 

 

「ジルコニアです」

 

 

と声が聞こえてきたのは。

カズキは、一瞬 【はて? 何か用事あったっけ?】と首を傾げたが、兎に角 ジルコニアが来たのは間違いないから居留守を使う訳にはいかないし、する理由もない。

用事があるから、夜遅くに部屋まで来たのは間違いないだろうし、考えていた頭を一蹴して直ぐに立ち上がった。

 

 

「ジルコニアさん? どうぞー、あいてますよー」

 

 

カズキの一声で、扉が開いて ジルコニアが入ってきた。

 

その姿を見て、カズキはまたまた、驚く。

 

「!」

 

夜会……庭園で星を見上げるスターウォッチングの時は、チェニックを羽織っていた。と言うより、ジルコニアの普段着は、大体ソレで、それ以外をカズキは見た事がなく……、現在のジルコニアの姿は、脛程までの長さのワンピース。ベージュ色でゆったりとしてる服装。………つまり、寝間着だろうか?

 

 

「…………お待たせ、しました」

「え? ジルコニアさん?? どうしました??」

 

 

何かありましたっけ? と再び首を……だったカズキが、只ならぬ様子。

流石に悠長に構えていられなくなり、胸騒ぎを覚えた。……だが、原因が全くの不明だ。

 

ここイステリア、ナルソン邸にまで帰ってきた時は笑顔で迎え入れてくれたし、風呂まで沸かして容易してくれると言う周到さも有り、まさに至れり尽くせりな状態だったのだ。

 

その時のジルコニアに代わった様子は見受けられない。……が、今は何かが違う。

 

 

「え、えっと……。何か話があるんですね? 今、お茶を淹れますんで、てきとうに座っててください」

「……はい」

 

 

カズキは、部屋の入口にまで入ってきたは良いが、一向に動かない棒立ち状態になってるジルコニアに声を掛けて、テーブルに置かれている水筒を手に取った。ステン製の水筒はまだまだ中身は温かく、香りも心地良いハーブティが入っている。量も問題ないので、ジルコニアと共に楽しめるだけはあるだろう。

 

 

―――と、色々と考えていた時だ。

 

 

ジルコニアが行動を開始。

ゆっくり、緩やかに……それでいて何処か違和感がある動き方で、何故か備え付けられているテーブルではなく、ベッドに腰掛けた。

 

カズキが先ほどまで座っていて、途中で寝転がったりもしていたベッドに腰掛けるのは、何だか気恥ずかしくも感じてしまう……が、それどころではない。

 

 

「えと……、お茶、入りましたよ……?」

「……はい」

 

 

「これは、身体の疲れが取れる効力があるお茶で、カズラさんから頂いたものでしてー」

「……はい」

 

 

「つ、次は多分1ヵ月後になると思うんです、グリセア村に向かうのはー」

「……わかりました」

 

 

会話が続かない。

先ほどまでのジルコニアと同一人物とは思えない程、委縮してしまっている。

 

兎に角、カズキは 日本製のハーブティなら、落ち着いてくれるだろう……と言う希望的観測も込々ながら、水筒からカップに注ぎ、ジルコニアと自分の分を用意してトレーに乗せて、向かおうとしたその時だ。

 

 

「えっ、ええっっっ!?」

 

 

ジルコニアは、極度の緊張からか、身体を縮こまらせていて、今にも泣きそうな表情をしていた。否、既に目には涙が溜まっている。瞬きすれば、直ぐにでも流れてしまうだろう。

 

 

「ジルコニアさん!?? ほんと、どーしたんですか?? っ、な、なにかあったとか??」

「い、いえ、違うんです………! 違う、違うんです……。そ、その……わたし、わたしは、経験、不足ですから……、ちゃんと、できるかどうかも、わかりませんが………」

 

 

案の定だ。

涙が留まる事を知らず流れ続けた。

 

 

「やさしく、やさしくしてください……」

「えええ!! い、いったい何を?? わぁぁぁ!! ふ、服脱ぐのストップ! ストップ!!」

 

 

はらり、と肩口からワンピースが脱げ、胸部の5割程が顕わになるジルコニア。

カズラ曰く……、この世界の人達は下着と言うモノが無いらしい。甲冑なら心配いらないし、厚手のチェニックも特に問題ないだろうが、この柔いワンピースでは、ジルコニアの胸部を隠しきるのには心許ない。

 

あわや、胸部の頂き……が顕わになろうかと言う所で、カズキがどうにか止めた。

 

 

「さ、さいしょから話してみて下さい! お、おれ、私は そう言うのを頼んだつもりはないですよっ!? ジルコニアさんも、いっかい落ち着きましょう!!」

 

 

 

明らかにカズキだってテンパっている様子。

でも、ジルコニアの様な美女の柔肌を見せられて、魅了されず理性が保った事を褒めて頂きたい位だった。

 

 

「え……、え……? で、でも カズキさんは、カズラさんと……」

「??? ど、どう言う事です??」

「すみません。さっき、お2人が話をしているのを……聞いて……」

「????」

 

 

ジルコニアの説明を聞いても、やはり解らなかったカズキは、少々ジルコニア自身にとっては恥ずかしい事ではあるが、詳細をゆっくり話してもらった。

 

 

結論はこうだ。

 

 

本当についさっき、カズラとカズキは、カズキの部屋で話をしていた。

その時、ジルコニアがたまたま別件で部屋の前を通りがかった。

 

 

その時に聞いた話の内容。

 

 

【ジルコニア】

 

 

の単語が聞こえ、自分の話だと思い。

 

 

()にひょっこりきてくれたら嬉しい】

【早くヤって(・・・)もらって実感したい】

最初は(・・・)カズキさんに譲る】

 

 

途切れ途切れではあるが、それらが聞こえてきたとの事だ。

 

確かに……卑猥と思われるかもしれないが、それ(・・)を連想してしまうかもしれない。

日本と言う場所なら兎も角、この世界では特にだ。

 

 

夜に、女性がきてくれたら嬉しく、ヤると言う単語もあり、更には譲ると言う話。

人非ざる力を有するカズキや、様々な道具と知識を併せ持つカズラ達の会話。

男である事。

 

 

連想したって無理はない。

 

 

「うっ、え、えと…… ま、紛らわしい言い方ですみません……」

 

 

ジルコニアが盗み聞きしていた、と言う事になるにはなるが、別に聞かれても問題ないつもりで声量などは気にせず話をしていた。発電機もまだカズキの部屋の前にはセットしていないので、比較的声が外まで通った。

 

様々な条件が整ってしまった結果が今だが、一番怖い想いをしてしまったのはジルコニアだろう。

 

カズキはそれが一番解る。……一番解る。恐らくはカズラよりもよく解る。知っているから。まさか、自分の元へこの展開で来るとは思ってなかった。マリーの時の様に柔らかく諭すつもりだった。

身を挺してまで、身を捧げてまで、自身に仕えなければ、助けない、と言う様な 代償と犠牲を強いる神様には成るつもりは無かった。

 

正しくある者たち、共に暮らして、見て、接してきて、助けたい、と思った人達の為なら、と言う精神のつもりだった。

 

 

だが、ジルコニアが聞いて、そう解釈してしまった以上はもう仕方ない。

 

 

 

カズキは、ベッドの脇に置かれている段ボールの中身を取り出して、テーブルの上に並べた。比較的小柄なテーブルだから、簡単に移動は出来る。持ち上げてジルコニアの前に並べる。

 

 

「これ、カズラさんと厳選した ジルコニアさん達へのお土産なんです。その、神の世界から持ってきた、美容関係の物で、今夜にでも使ってもらえたらな、って」

 

 

先ほどのカズラとの話を思い返しながら、カズキは続ける。

 

 

「帰ってきた時に、日用品(これ)を渡すのを忘れてた、と言う話をカズラさんとしてました。明日でも良かったですし、今夜の内に来てくれたなら渡す事が出来る、とも。………とても良いモノなので、使ってもらって効果を実感してもらえたらな、と思いまして………。カズラさんが譲る、と言ったのは 私からジルコニアさん達に渡す事。その役目を譲ると言う意味で……」

 

 

相手がどう連想するかなんて、正直保証は出来ない。

想像力にお任せするし、客観的に観てもカズラやカズキ、自分達に非があるとは思えないが、ジルコニアの事情を知っている事、夜・ヤル・譲ると言ったモノを使ってしまった事。第一に、ジルコニア自身が怯えて泣いてしまっている姿を見て、ジルコニア(相手)が悪いなんて到底思えない。

 

 

「本当にすみません……」

「あ、は、はい……。わ、わたしの方こそもうしわけございません……。盗み聞きをしてしまった、私の不徳の致すところ……で……」

「……い、いえ、でも よくよく考えてみると、私達にも……」

 

 

「「…………………」」

 

 

誤解は解けたと言って良いと思うが、気まずさだけは払拭出来るものではない。

最終的に沈黙が部屋に訪れてしまった。

 

永遠とも思える時間が流れ、淹れたハーブティが冷めてしまいそうなのを忘れる。

 

泣いてしまったとはいえ、これから情事を秘め事を逢引を、と言うカクゴで臨んだつもりのジルコニア、それを察したカズキ。

 

気まずいなんてモノじゃない。

 

 

先に沈黙に耐えられなくなったのは、どうやらジルコニアの方だった。

 

 

「ご、、ごめんなさい。本当にごめんなさい……。そう、ですよね。そもそも私なんかにそんな事……、カズキさん達が話すワケも、申し付けるワケもありませんよね……。屋敷には綺麗な娘も沢山いますし……。盗み聞きした上に、勘違いまでして、ほんとにバカみたいで………」

 

 

自身を卑下にする言葉を吐き続ける。

見る者が見れば、大貴族をも上回る存在に見初められた、と言う誉れ高い状況……だが、それが勘違いだった。いたたまれなくなる気持ちも解る。

 

だから、カズキもかける言葉を、気持ちを慎重に見極める事にした。

恐らく間違いないジルコニアの事実。知っている者の1人として。

 

 

「ジルコニアさん」

「は、はい……」

 

 

最初は怒られるとでも思ってしまったのだろうか、子供の様に震えていたが、そんな彼女にカズキは真剣な顔つきこそは変えないが、慌てふためいていた表情を一新し、それでいて柔らかく言い聞かせる様に告げる。

 

 

「ジルコニアさんの、その涙の本当の意味も。……抱えてしまっている胸の内も、……私には理解しきるのは難しいです。……ですが、自身をそんなに追い詰めないで貰えるとありがたい」

 

 

続いて、ニコリと微笑みながら続けた。

 

 

「それに私は、ジルコニアさんの味方のつもりですからね? ほら あの夜、一緒に流れる()を見た時から、はっきり決めたつもりでした。だから 私を信じて下さい。私の出来る限りの事はしますから」

「あ、あ………」

 

 

ジルコニアの目に溜まる、流れる涙。

恐怖故の、恥辱からの涙の質が変わった気がした。

 

時折見せるカズキとはまた違って見える。

 

いつも楽しそうにしているカズキ。

グリセア村やこの城下町の人にも近衛兵たちにも、アイザックやハベル、マリー、エイラ、そして リーゼにナルソン、ジルコニア自身。分け隔てなく見せてくれる笑顔。

 

大変な事であっても笑顔を見せる様にしているカズキ。安心できる笑顔。

何を恐れる必要があるのだろうか、と思わせてくれる位安心できる笑顔だった。

 

ジルコニアはそっと涙を拭うとその笑顔に真っ直ぐ向き合う。

 

 

「カズキさん……、その、ごめ「ごめんなさい、は無しにしましょ?」ぅぇっ!?」

 

 

改めて、非礼を詫びる為に謝罪を、と思ったが、完全に出鼻挫かれてしまったので、思わず変な声が出る。

 

 

「それに、ま……、まぁ これは私の考えですが」

 

 

カズキは、こほんっ、と咳ばらいを1つしつつ、話を続けた。

 

 

「こういうその……夜伽? みたいなのは 生涯を共に添い遂げる相手に。……生涯にわたって、病める時も健やかな時も、同じくずっと添い遂げられる相手が一番だ、と私は思ってますから。望まぬ形、逢瀬、それは心に傷を付けちゃいますからね」

 

 

指をぴんっ、と立ててジルコニアにそうはっきりと伝えた。

 

最初はマリーの名を思わず出してしまいそうだったカズキだが、どうにか個人名は出さずに済んだのは僥倖だろう。何せ、マリーの名を出して、伝えれば ジルコニアがカズキに夜伽を申し付けられた時は、と伝えていたのだから、よりジルコニアが罪悪感を感じてしまう切っ掛けに成り兼ねなかったのだ。

 

 

「ふ、ふふふ………。とても素敵だと思います……」

「!(良かった。笑ってくれた)」

 

 

住む世界が違ったから、余りにも理想を押し付けているのではないか? と危惧したが、ジルコニアの笑顔を見てカズキはほっとした。

 

 

暫く、何気ない会話が続いた。

ジルコニアも徐々にではあるが、元の彼女に戻りつつある。元気を取り戻しつつある。

 

そんなジルコニアを見て、またカズキはホッとする。

 

理想の押し付け……、そうマリーの話をするとすれば、彼女は生まれながらに奴隷の身分だった。出生は選べない。生まれた瞬間から。本人に選択肢など無い。……自由があるとは言えない環境で育った。

 

そして 漸く解放の兆しが見えてナルソン邸へとやって来ている。

 

そんな彼女なのだから、例え心は別だったとしても、自由になる為に、兄妹共に幸せになる為には、夜伽の相手だって決して辞さない。

カズキの言い分は、不自由ない幸せな世界で、素敵な人と、パートナーと出会って出来る恋愛模様の延長上。この世界では 比率的にどちらかと言うと絵巻物(夢物語)の分類に入りそうだ。価値観の違い、その押し付けでない事を安堵しつつ、ほっとしていたのもつかの間……。

 

 

「カズキさんが相手なら……良いですね……。幸せだと、確信が出来ますね……」

 

 

先ほどの様子は一体どこへやら。

目元を拭ったとはいえまだまだ目が赤いのは兎も角、乱れかかった服装、仄かに赤く染まる頬、今更だが風呂上りだろうから、全体的に淡く染まっているのが、ますます大人な色気を演出している。

 

 

「私、カズキさんなら……」

「じ、ジルコニアさん? 私は 不倫も推奨しませんからね!!」

 

 

ススス、と近付いてくるジルコニアに、今度はカズキが顔を赤くさせながら 両手を前に出して制した。

 

すると、ジルコニアは 最初から解っていた、と言わんばかりに笑顔で笑いながら、ワンピースをしっかりと羽織りなおす。

 

 

「うふふ。冗談です。おかげ様で元気が出ました。……ありがとうございます」

「じょ、じょーだん……、も、もう! 元気出たならそう言ってくださいよ……。ビックリしてしまいますって」

「そうですか? 私でも……イケます? さっきも言いましたが屋敷には可愛い娘が沢山居ますけど……。私はカズキさん的にはどうです?」

「えっと、ジルコニアさんは、素敵な女性(ひと)で、って もうっ! ジルコニアさんは オレに何を言わせたいんですかーー」

 

 

夜のナルソン邸に楽しそうな声が僅かに漏れ出す。

最初の事を考えたら、本当に良かった、とカズキはからかわれているのを理解しながらも、そう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、暫くして 自室へと戻ったジルコニア。

その両手には、カズキとカズラからのプレゼントである日用品・美容品があり、それらを自室のテーブルの上に置くと、身体中の力が抜けたのか、ドサッ、と音を立てて座り込んでしまった。

 

 

「ッ………カズキ、さんに……、すくわれた……」

 

 

不意にそう呟く。

もしも、あのまま――― あのままの精神状態で、カズキと会話を交わす事なく、この部屋に戻って来ていたらどうなっていたか、簡単に想像が出来る。

 

零れ出る嗚咽。咽び泣き続ける姿。

震える身体は止まる事を知らず、ただただ止めようと藻掻き、自身を抱きしめ続けていただろう。

 

 

夜伽に呼ばれる事。

 

 

 

カズキの身体は、あの日…… 本当の姿を見た時から、人のモノではない、と理解していたが、それでも 光を発する事、光に成る事以外の時を思えば、普通の人間と何ら変わらない。

接すれば触れる事だって出来る。共に汗を流す事も、笑い合う事も、出来る。普通の人の様に扱って欲しい、とカズキから言われていたが、ふとした時、メルエムである事を忘れてしまいそうなまでに、彼は()だった。

 

 

だからだろうか、夜伽に呼ばれる事は、いずれひょっとしたら自身が呼ばれるかもしれない事はカクゴしていた筈だった。

 

カズキのモノになれば、見初められれば、きっと寵愛を授けてくれると思うから。カズラだって無視できない筈だ。同じ神々同士、夫々の寵愛する者を守りたいと思うのは……自然な事だと思うから。

 

だから、可能であれば、夜伽相手となりお気に入りになる事だって辞さないつもりだったというのに………、カズキの人柄を知っている、知っていた筈なのに、あの時 脳裏に過去の記憶がフラッシュバックし、怖くて怖くてたまらない自分が居た。

 

そして、カズキに、カズキの優しさに救われるまでの自分がどうしても情けなくなってしまう。

 

 

「……あの時とは違う筈なのに。……あんな風に、汚される訳じゃないのに。……あんな光景を見せられるワケもないのに」

 

 

カズキに限って、光の優しい神様に限って、そんなワケが無い。今なら直ぐに解ると言うのに、あの時の自分はどうかしてしまった。

 

 

 

「お父さん……、お母さん……、フィリア……。家族(・・)に……、皆に顔向けできなくなる……所だった」

 

 

 

あのまま、子供の様に泣き続けていたら、きっと後悔していただろう。

カズキの優しさが無ければ、後はもう自分は何も出来ない。エイラやマリー、そしてリーゼに頼るほかなくなる。術がなくなる。

 

 

でも、今は違う。前を向く事が出来る。立ち上がる術を、与えてくれたから。

自身の心の傷(トラウマ)を克服する術を与えてくれるから。

 

 

まだまだ、時間はかかるかもしれないが、必ず。

家族に報告をするために……。

 

 

 

 

ジルコニアは、涙を拭いさると、抜けていた力を改めて入れ直す様に立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

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