ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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34話 せめるリーゼさん

 

 

 

色んな意味で大変だった夜も更け―――朝がやってくる。

 

日の光が差し込み、まるで自分の光と溶け合ってる様な感覚を覚えながら……カズキの意識は覚醒した。

 

 

「………いや、単純に昨日の心労が残ってるだけ………。そんなロマンチックなのないって」

 

 

覚醒と同時に、勝手に自分にツッコミを入れてカズキは、ゆっくりと身体を起こした。

 

考える事はただ1つ。

ジルコニアとの1件……カズラの耳に入れておくか否かを悩む。

 

 

カズラと自分の会話を聞いてジルコニアが勘違いをした。

 

カズラにもある程度は、今後とも誤解を招きそうな発言、言葉に注意を促す為に……とも思ったが、今は ジルコニアにとって触れられて欲しくない場面でもある筈だ、と思いとどまった。

 

だから、カズキはカズラに相談と言う名目でジルコニアの事を話すのは止めておこうと結論。

そもそも、他人の心の傷を妄りに広めて良いモノではない。

 

そう結論付いたその時、部屋のノック音が聞こえてくる。

 

 

「どうぞー大丈夫ですよ」

「おはようございます、カズキ様」

 

 

カズキの招き入れる声と共に部屋の扉が開かれ、そこから朝一番の笑顔の挨拶と共に彼女が入室。

完全に部屋の中へ入って再びマリーが深々と頭を下げて挨拶をした。

 

色々と悩む事が多くなった気がするが、これが本当の1日のスタート。

カズキはマリーが入ってくるまでに、表情をしっかりといつも通りに直す様に務める事ができ、マリーと笑顔で挨拶を交わす事が出来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の挨拶もそこそこに、カズキは身支度。

もう恒例になっている朝の訓練だ。そこにはリーゼも来ているので、1人のんびりと時間を使って準備するつもりは無い。

 

リーゼの早朝訓練の予定時間(スケジュール)に関してはエイラより聞いている。

 

リーゼ自身が合わせる様に、と言っているのだが、そこは多忙極まりない彼女の1日(スケジュール)。どう考えても自分がリーゼに合わせる方が良い、と言う事で本人には内緒の方向性で、エイラから時間を聞いたのである。

 

この時、そのちょっとした優しさかもしれないが、それに触れて エイラやマリーが笑っていたのは言うまでも無い。

 

 

「じゃあ、マリーちゃん。行ってきます」

「はい!」

 

 

元気な笑顔で見送れるのも心地良いモノだ、と思いつつカズキは部屋を出ようとして……1度止まった。今日の事、マリーに言っておこうと思っていた事があったのを思い出したから。

 

 

「そうそう、今日はカズラさんから扱う食材の保管方法や場所の指導を受けると思うケド……」

「あ、はい! 聞いております」

「あははっ。えっとね~。うん! 結構、いや多分 すっごくビックリすると思うんだ……。だから先に心構え、とかをね? 私から詳細を教えちゃうのも有りだと思ったケド、やっぱり実際に見た方が解りやすいか。ただ、ビックリしちゃう事は確かだから、覚悟しといてね」

 

 

ニコッ、と笑いながらウインクするカズキに、マリーは頬を赤らめながら頭を下げて【畏まりました!】と元気に言葉を添えた。

 

 

マリー自身もカズキだけでなく、カズラの食事係も任命されているので、その辺りの事は聴いている。カズラやカズキ(厳密にはカズラのみ)の2人には出す食事、材料が違う事も知っている。理由までは解っていないが、ジルコニアやハベルからは、【口に合わなかった】とだけしか聞いていないから。

 

 

でも、マリーはそれが本当の事だとは思っていない。

 

 

2人の優しさに触れているからだ。

仮に本当に口に合わなかったとしても、底なしの優しさを持っている彼らが、作った食事に対して、料理に対して、文句を言ったりする姿が想像がつかない。

 

それに、周りと同じ事(・・・・・・)を強く求めているカズキの事も見て接しているから。

 

だから、何か自分達には知らない事情がある、とは思いつつも、それらには一切関与しない関知もしない。

 

ただただ、自身が仕える事が出来ている相手に幸運と多大なる感謝を想いながら、日々を全うする事だけをマリーは考えているのである。

 

 

 

 

 

 

そして、その後―――。

 

 

カズキの言う通りだ。マリーはビックリ仰天した。ビックリする、と伝えられていたから それなりには、身構えていたつもりだったのだが、予想を遥か上に行く代物を前に、そのちょっとしたカクゴ? は霧散する。

 

 

カズラが説明したのは、冷蔵庫(・・・)の取り扱い方法とその中身の説明だ。

 

驚くのは無理もない。

冷蔵庫、と呼ばれる見た事の無い箱状の物体を開いた途端、精霊の光が内部に宿り、明るく照らされた。

それどころか、明らかに室温よりも遥かに低い温度、冷気が開いたと同時に中から漏れ出し、思わず身体が震えた。

 

 

食材の鮮度を保ち、長持ちさせる為に気温を下げている……と一頻り説明は受けたが、全く理解が追いつかない。

更には食材を凍らせられる場所もあって、更に更に更に驚く。

冬でもないのに氷が量産されている事にも驚き驚き驚く。

 

 

 

カズキのウインクの意味、此処で漸く理解出来た。

そして、何だか今も……今の自分を見て笑っている様に感じる。

確かに、注意を促してくれたのはそうだが、何処か含みのある、悪戯っ子の様な笑みがマリーの瞼に焼き付いて離れない。

 

 

「(……ぅぅ、なんだ いじわるです……)」

 

 

マリーはそう思いながらも、本心の部分は 嬉しい事には変わりない。

撫でられた頭を一撫でし、カズラの説明をしっかりと頭の中に留めようと努めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ナルソン邸、庭園にて。

 

早朝の訓練場として扱われている場にて、汗を流している影が2つ。離れた場所でもう1つあった。

 

「ハァっ!!」

「っうん。良いよ、良いよ、その調子!」

 

 

踏み込み、打ち込み時の裂帛の気合。何より迷いなく打ち込む姿勢とその位置。どれをとって見てもよく解ると言うモノだ。

 

 

彼女が―――リーゼが日々研鑽を積んできたのだと言う事が。

 

 

ぶつかり合ってこそ、本質が見えてくる。何処かで聞いたことがある話ではある。

カズキ自身も決して絵空事ではない、と思っている。

 

武の腕前とその人間の性質は、リンクしないだろう……と何処かでは思っているが、少なくともカズキにも解るから。リーゼの日々の積み重ねが。

 

 

足取り軽やかに、再びリーゼと間合いを取り、もう一度打ち込んでこい、と言わんばかりに手招きする。

そして元来、リーゼ自身も負けず嫌いな所があるから、それを挑発と受け取り、より気合を込めて一刀入魂。

 

自身の母、ジルコニアの剣術を記憶の中で揺り起こす。

 

ジルコニアの強さは、実際に打ち合ったワケではなく、観ていただけなのに、まるで身に染みているかの如く理解している。

どれだけ修練を、訓練を重ねてもたどり着けない、と思わせる程の頂きにいると言う事が。

女である事を忘れさせられる程、圧倒してきた数々。目にも止まらないスピード、反応の速さ。……そして何より実戦経験の差。

 

リーゼ自身には、決して模倣出来ない代物かもしれないが、ジルコニアの姿を目に焼き付けて、自分の最高を全て出す勢いでカズキに突進した。

 

幾重にも重ねるフェイント。数多の偽物の中にたった1つだけ紛らわせている本身。

 

 

まさしく最高の一撃を―――!

 

 

「っ!!」

 

 

びゅんっっ! とカズキの目先を、その空間を 訓練用の木剣が切り裂く様に通り過ぎた。

僅かに髪の毛に当たったのだろうか、光の粒子が瞬いている。幸いな事に彼女にはバレない程微細な光の粒子が舞い、そして毛先を泳がせた。

 

 

 

「お見事!」

 

 

 

カズキはそう言うと剣を腰に戻した。

リーゼは かなり力を入れていた様だ。まだ小刻みに身体が震えている。

 

 

会心の一撃である、と感じたのと同時に、その一撃は躱されてしまうと言う事も読めた。

悔しいが、まだまだ自分は髪の毛1本掠らせる程度しか、カズキに追いつけていない事を理解。

 

理解するのと同時に、見えなかった頂きに、少し近づけたかもしれないと言う僅かな達成感もあった。

 

 

「(毛一本掠め取っただけで、達成感を得られるなんて………)」

 

 

以前までの自分なら笑い飛ばす事だろう。

その程度なのか、と。志が低い、と。

 

でも、そう思ってしまうのは、カズキの大きさ(・・・)を、目で見える範囲を更に超えた大きさを、間近で肌で感じ取っているからこそだろう。

 

 

「ありがとうございました」

「お疲れ様でした」

 

 

汗を拭うための布タオルをエイラから受け取り、何処かさっぱりとした様子でカズキはリーゼの隣に立って告げた。

 

 

「ほんとスゴイね。日に日に上達するの、ってこういう事を言うんだなー、って今まさに実感してるよ」

「はいっ! カズキ様にそう評価して頂けて、私も嬉しいです。……でも、まだまだ頑張りますので、見ていてくださいね」

 

 

ニコッと輝く笑顔に見惚れそうになる。

それをどうにか顔の汗を拭う所作で誤魔化すカズキ。

 

そして、誤魔化すついでにリーゼに1つだけ聞きたい事が有ったので、出来るだけ自然に不自然な風にならない様に聞いた。

 

 

「リーゼさん。ジルコニアさんは今朝は大丈夫そうかな? その……昨日、何だか疲れてる様だったから」

 

 

それは勿論。

 

昨夜の1件は話さず、見て接して、感じたからリーゼに心配になって聞くカズキ、を演出したつもりだ。心配している、と言うのは演技でも何でもない。本気で思っている。

 

昨日の夜の1件の後、ジルコニアは笑ってはいたが、負担になってないか? 日頃の疲れと相余り、精神への負担に昇華されて翌日に尾を引いてないか?

 

ただでさえ実務が鬼程忙しいのだから、身体は第一に考えて貰いたいのだ。カズラに頼んで完全回復薬(リポD)を幾らか渡す手筈も直ぐに整えれる。

 

 

と、色々と深刻気味に考えていたカズキだったが。

 

 

「お母様は、今朝 こちらへ来る前に、お会いしましたが、特に様子は問題ない様に思えました。グッスリ眠れたと、昨日よりもお元気な姿で……」

「! そっか、それは良かった……」

 

 

ほっ、と撫でおろすカズキ。

 

それを見たリーゼは……少々曲解した方向で自身のセンサーが警鐘を鳴らせていた。

 

ジルコニアの身を案じているという事と昨夜のジルコニアの事。

彼女の姿こそ見ていないが、夜遅くまで起きていたという事は解っている。

 

 

「(まさか、お母様と………? 幾らクレイラッツの有力者で凄腕の剣士だからって領主の妻をなんて……、そんなまさか………。でも、カズキ様は そんな感じ(・・・・・)はしないんだけど………)」

 

 

リーゼとて目利きは優秀だと言える。

接してみて大体の人柄を察知し、個々においての対応策を変えてきている。

 

これまで 自身が目的の面会。

明らかに下心満載な人物は、察知するまでも無いが、領主と言う立場を利用する野心が見え隠れしている者や一緒になると兎に角面倒くさくなりそうな者、ほんの僅かな相手の印象、直感に似た心の機微にまで、人を見続け、接し続けてきて養われてきたもう1つの特技。

 

 

それら培われてきた技能を総動員させて、カズキやカズラの人柄は一通り察したつもりだったが……、まさかの盲点だった。

 

ここまで訓練に熱を入れる様な事までは考えてなかったが、カズキの人柄を見て、はっきりと決めた。好印象を向けて、本気で落とすつもりだったと言うのに、まさか意中の相手が自身の母?

 

 

「……(いや、結論付けるには少しばかり早計……。でも、油断するワケにはいかないわ……。万が一 相手がジルコニア(お母様)だったとしても)」

「?? どうしました?」

「あ、いえ。なんでもありませんわ。……今日も本当にありがとうございました。カズキ様」

「あはは……。まぁ 今日も1日始まったばかりだからね。正直お礼を言うのはまだ早いと思いますよ? ここから、より頑張りますから」

 

 

数ある面会を重ねてきて、これ程までに贅沢な優良物件が2つ。

本気を出す、と初めて決めた相手なのだ。例え不倫をしていたとしても、自身の両親であり、その善し悪しは兎も角……負けるワケにはいかない。

 

 

笑顔で握り拳を向ける未来の相手――――。

 

リーゼはロックオンし、決して逃すまい、と瞳の中の炎を更に猛々しく燃やすのだった。

 

 

傍で観ていたエイラは、何処となく察した様で ただただ苦笑いをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、早朝の打ち合わせにて。

 

 

「おはようございます。カズラ殿」

「あ、おはようございます、ナルソンさん、ジルコニアさん、リーゼさん。それにカズキさんも。あぁ、オレが一番遅かったですね、すみません」

 

 

打ち合わせに使っているダイニングにて、部屋に入ってきたカズラに先に気付いたナルソンが挨拶を交わし、他のメンバーも頭を下げる。

カズキも同じく挨拶をしたのだが、カズラは一番遅かった事を気にしている様なので、少々苦笑いを交えながら答える。

 

 

「私も先ほどついたばかりですよ。……あはは、流石に汗だくでこの場に参加するワケにはいきませんからね」

「うぅん、朝から稽古とは、ほんとスゴイ……(身体バキバキなのに、絶対マネできない……)」

 

 

カズキが早朝訓練をしている事。

アイザックやハベル、そしてリーゼも含めて相手をしている事は把握している。

それに、カズキの告白でその技量はズルである、と言う事も聞いているが、カズラ自身はそうは思っていない。力は兎も角、精神面は カズキが培ってきたものの筈だから。

 

 

「ふふふ。私もまた、ご一緒させてください。凄く興味がありますので」

「あ、はい。良いですよ。……何だか、大所帯になってきましたね、もうアイザックさん達から広まったのか、何人かの近衛兵の皆さんにも声を掛けられましたから。後、マクレガーさんにも、かな? うーむ……復興の仕事や各皆さんの通常業務の妨げにならないと良いけど」

 

 

恥ずかしそうに頭を掻くカズキにナルソンは改めて注目。

 

ナルソンも訓練(それら)の報告は受けている。

まだ日も浅いが、事細かに書かれた詳細を網羅している。

 

ナルソンは、【アルカディアの盾】の異名を誇り、先の大戦では その妻 ジルコニアは【常勝将軍】と称され、他国にもその異名は轟いている。

そして、自身が受け持つ領地の兵力にも当然信頼しているし、この国のトップクラスの実力と言っても良い兵士が揃っていると言う自覚もしている。

 

神の力を疑ってはいない。だが、人の心に作用するか否かはまた別だ。

 

 

「カズキ殿。ありがとうございます」

「ええ! まさかですけど……ナルソンさんも参加する! なんて言いませんよね? 流石に容量(キャパ)オーバーですよ?」

「ふふふ。興味は尽きませんが。まだまだやらなければならない事が多い故、私は退いておきましょう」

 

 

リーゼが頬を膨らませているのが見える。

ジルコニアが好奇心を剥き出しに観ているのが解る。

 

光に集っているのが解る。

 

 

復興の方、豊穣の神様(グレイシオール)については、最早語るまでも無い。

神々に囲まれた我らアルカディアは、これ以上ない程の幸運だ。

 

 

問題は山積みではある、がここから国は上昇していくだろう。

 

 

ナルソンはそう確信出来るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――その後。

 

 

 

「カズキ様………私………」

「!!!」

 

 

 

場所はランタンの灯りが僅かに周囲を照らすのみの空間。

誰も居ない密室と言って良い場所。

 

 

そんな場所で2人きり。

 

 

リーゼ(・・・)と2人きり。

 

 

 

 

―――えっと、えっと……、ちょっとまって? どうして、こうなったんだっけ?

 

 

 

 

上目遣い、灯りに照らされただけとは思えない紅潮した頬。

 

その圧倒的な破壊力のある美貌を存分に堪能しながら、世の男にとっては実に贅沢な悩みだと思われるかもしれないが、カズキは混乱極まっていた。

 

そのオーバーヒートしそうな頭でカズキは、懸命に事情を思い返すのだった。

 

 

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