ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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38話 やきもちリーゼさん

 

「え゛………」

「さ、晒し、首……ですか……」

 

 

それは井戸掘り作業を終えて、皆で水浴びも終えて、強い日差しで身体を乾かしながら、戻る時の事。

 

カズラが、それとなくジルコニアに聞きだしたのである。エイラが言っていた事。カズラが持ち込んだ日本食が、祝福の力だと思っていないかどうかの確認を兼ねて。

 

その話の流れで、ジルコニアが知る切っ掛けになってであろう、グリセア村を襲った野盗の話になったのである。

 

 

聞いた話は主に、野盗に対する尋問の内容。

グリセア村を襲う明確な意図があったのか? そして組織的だったのか?

今後襲われる可能性。あまり考えたくない事柄ではあるが、ある程度は知っておかないといけない事なのだ。

 

幸い? な事に常習的に人を襲っている連中だった事、全員を捕らえたので、それ以上の規模ではない事は確認された。

 

それと同時に、村人たちの力がバケモノの様に強かったと言う事実も、ジルコニアは知った様だ。血相を変えて、特に何もするつもりは無い、知っているのは自分とナルソン、エイラの3人だけ、と言う話をして、謝罪までしてくれた。

 

 

だから、この話はこれまでだな~~、と思っていた時、ふと野盗たちの今後についてを聞いてみたら……、冒頭の様な内容の解答が返ってきたのである。

 

唖然、絶句と言った様子なカズラとカズキの2人とは実に対照的に、あっけらかんとしたまま、淡々と答えてくれた。

 

 

「はい。正直に話してくれたので、苦痛が少ない様に、斬首刑にと……。処刑方法についてもご相談した方がよろしかったでしょうか」

「い、いえいえいえ」

「だいじょーぶですよ! 一切口出しするつもり無いです! 完全な管轄外ですのでっっ!」

 

 

カズラとカズキは慌てて、2人同時に首と手を左右に強く振った。

野盗相手に、いちいち罪状を決める裁判など起こす事は無く、即死刑。

 

恐ろしい世界だ……、と現代日本、未来日本出身な2人は戦慄を覚えたのだった。

 

 

「カズキさんの方の日本でも……?」

「ええ。廃止の声は上がってます。昔からずっと変わらず。でも、反対派の方が圧倒的に多いので、実現には至らず、って感じですかね…………」

「………うーむ。厳しい罰があっても悪事に手を染めるって事は、やっぱ、法も大事だけど、治安、経済も大切なんだよね……」

「襲わなければ食べれない、って言う人も、中には居るのかもしれないですから。……だからと言って許容する訳にはいきませんし、そもそもグリセア村……、このアルカディアは戦争を経験したばかりですから、情けはかけず、全力で……だと思います。オレも幾ら色んな世界経験してるとはいっても偽りの世界、でしたから。流石に現実世界で、となったら………」

 

 

グリセア村を襲った野盗は、村長のバリンを筆頭にたった数人規模で、捕虜を2~3人残して、後は躊躇せず全滅させてしまった様なので、死生観がかけ離れている様だ。

 

それが間違いだ、と言うつもりは無いし、郷に入っては郷に従えともいう。

そこはカズラも解っている様子だった。

 

カズキはカズキで、数多な世界を渡り歩いてきたゲーム脳だと自負している身ではあるが……流石に一応? ここは現実世界。ゲームの様に、と瞬時に割り切ったりは出来そうになかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、イステリア家に戻った所で、次の視察へ。

 

 

「おぉ……、ここがイステリアの軍事施設――――」

「話には聞いてましたが、此処に来るのは初めてで、何か圧倒されますね……」

 

 

リーゼの案内で、イステリア軍事施設へと来ていた。

 

普段、カズキは部屋の窓から出れば直ぐにある開けた庭で剣を振ってたので、直接施設を使用していない。カズキの話題が広がって、正直カズキの部屋の外がちょっとした訓練場になりつつあったりもしていた。

 

やはり、そんな急ごしらえな場所ではなく、しっかりとした目的を持って作られた施設は、圧巻であり、圧倒されると言うものだ。

 

 

カズキの意思も聞きつつ、カズラもそれなりに興味を持っていたので、軍事関係についても確認する事にした、と言うのが切っ掛けだ。

休戦中とはいえ、数年後には戦争再開は確実だと言われてるアルカディア王国。

カズラやカズキの申し出は、ナルソンにとっても大変喜ばしい事であり、恐縮しつつ、見せて欲しい、と頼んだのはこちら側だと言うのに、逆に感謝の意を受け取る事になった。

 

解っていた事だが、改めて状況が切羽詰まってるのが、ナルソンの言葉から解る。

 

大飢饉もそうだが、敵国(バルベール)との争いは。

過剰に介入するのは、正直悩ましい所ではある。軍隊全員に日本食を分け与えれば、あのグリセア村でさえ、超人の村化してしまったので、かなりの強化に繋がるかと思われるが………、そこまでは踏み込めない。

 

 

「近衛兵以外は、この施設で全員、訓練を行っています。今の時間なら、広場での訓練でしょうから、行ってみましょう」

「ありがとうございます、リーゼさん」

「おぉ……、それはそれは。ある意味良かった、と言った方が良いのかな?」

 

 

カズキは、周囲を見ながら腕を組み、唸らせていた。

リーゼは、カズラの感謝を受け取りつつ―――カズキの方にも目をむける。

 

 

「ある意味良かったって?」

 

 

リーゼの疑問をカズラが先に聞く形で、カズキに聞いてみた。

すると、カズキは苦笑いをしながら告げる。

 

 

「いえ。あの庭を使わせてもらってた事が、です。……話題が近衛兵止まりになってくれてる様なので。こういう本格的な場所で行っていたら、今の比じゃないな~~、って思いまして~~」

 

 

頭をポリポリと掻きながら告げるカズキ。

カズラも、それなりに顔を出した事はある(参加はしてない)が、それこそ、それなりに大所帯になりつつあった。

 

御馴染みなのは、リーゼやアイザック、ハベル、ルート……そこから伝わりに伝わって、近衛兵たち、果ては侍女たちの影もチラチラと見え始め―――ジルコニアやナルソン、更には訓練教官であり、アイザックの叔父でもあるマクレガーまで。

イステリアの重鎮全揃い、なんて時もあったから。

 

それはそれで充分大所帯なのだが、近衛兵だけでは、当然ながら兵力のほんの一握り。犇めき合うこの場で、実演でもしようものなら、余裕でアレ以上の人だかりができる未来がよく見えると言うものだ。

 

 

「ふふふ。とても実りのある訓練になりそうですね、カズキ様」

 

 

直に体感し、メキメキと力をつけて言っているリーゼだからこその感想。

でも、カズキは苦笑い。

 

 

「復興の方を疎かにする訳にはいきませんからね………。アレ以上の規模になるのはちょ~~っと……」

 

 

復興の件をダシに使っているいるが、本人自身のキャパシティを超えちゃいそうだ、と言うのが本音である。

目立つ事は決して得意であると言えないし、その辺りは、ピカピカな身体だから、仕方ないと受け入れているのだが……剣術の訓練は話しは別である。

 

「ふふふっ」

「あははは。カズキさんを師として、憧れとして集まる兵士さん達が増えそうですね?」

「ぅ……、それは光栄なんですけど………、流石にそろそろ抑えて欲しいな~~、なんて?」

「そうですね。秘密―――と言う事にしておきましょう。私としては、私達だけの(・・・・・)秘密、と言う事にしたいのですが、もう屋敷では広がってますからね」

 

 

朗らかに笑みを浮かべるリーゼ。何処となく頬も仄かに赤く染まっている様に見えて、全てが絵になる仕草だ。

 

 

――――リーゼを知ってるカズキ。ジルコニアにもせっつかれてるカズキ。知っているだけなのと、実際に体感するのとではワケが違う。……いつもいつも、身震いする程、リーゼには驚かされるばかりなのだった。

 

 

 

 

そして、その後は敷地内を案内される。

 

木造平屋の建物が等間隔でいくつも並んでおり、改めて足を踏み入れるとその規模の大きさには驚かされた。

用途は、兵舎・武器庫・病院・食糧庫など多岐にわたり、国の存亡を担う使命を抱いている兵士たちが集う場所と言う事も有り、1つ1つの作りがこれまで見てきた中でも当然ながらトップクラス。

そして、見張り塔は物々しい雰囲気を更に演出していた。

 

 

「―――そう言えば、バルベールとの国境付近で砦を作ってると以前聞いた事があるんですけど、その砦とこのような要塞とでは造りは別物なんですか?」

「完全に別物というわけではありませんが、国境付近の砦は、この要塞よりも更に大規模なものですね。軍団の駐留を前提として、街の機能も備えているので、砦と言うよりも、城郭都市と言った方が正しいかもしれません」

「……成る程。イステリアの街を小さくしたような、と言った感じです?」

「はい。そう言ったイメージで問題ないと思います」

 

 

リーゼは、カズラやカズキ、夫々の質問に対して一切の淀みなく答えて見せた。

その知識の量はやはり半端ではない。日頃からの努力の積み重ねが、此処ででも解ると言うものだ。

 

 

「(―――まぁ、だから色々と発散(・・・・・)するんだろうなぁ。絶対仕方が無い事だと思う)」

 

 

将来は間違いなく国を率いる立場になるだろう。

この年端もいかない、あどけなさが残る少女の肩にはそれだけのモノがのしかかっているのだ。

 

 

だから、誰も見てない所くらいは――――とカズキは改めて思う。

でも、これはプライベートな事だし、妄りに言うのも知ってるのもおかしいから、カズラには告げてない事実。

 

 

普段のリーゼしか知らないから、やっぱりカズラが知れば衝撃が走るだろうなぁ、とも思えていた。

 

 

「?? カズキ様、どうかなされましたか?」

「い、いえいえ。大丈夫ですよー。凄く勉強されてるんだな、と感心しきっちゃいまして」

「そ、そんな。私はまだまだですよ……」

 

 

鋭いのか、或いはただの偶然か。

咄嗟に思いついた誤魔化し方は100点満点の出来だと思うが、リーゼの勘は侮れない……と改めて思うカズキだった。

 

 

そして、更に先へと進んだところで、一際立派な鎧を付けた、初老の男がリーゼに気付き、走ってきた。

遠目からでは解らなかったが、誰なのかは直ぐに判明する。

 

 

「リーゼ様、カズラ様、カズキ様。お待ちしておりました。既に準備は整っておりますので、いつでもご指示を」

「ありがとう、今日はよろしくね」

「「お疲れ様です、マクレガーさん」」

 

 

リーゼが会釈すると同時に、カズラとカズキもペコリと頭を下げた。

アイザックの叔父であり、ここの訓練教官であるマクレガー・スランだ。

 

カズキは勿論の事、カズラとも面識がある。―――主に、早朝訓練時で、だ。

 

 

「こちらこそ感謝を。―――リーゼ様、そして お二方に視察され、皆の良い刺激になる事でしょう」

 

 

マクレガーは視線を兵士たちへと向けた。

どうやら、3人が来る前に、言われていたのだろう、視線を向けると同時に、ピタリと整列していたから。

 

 

「それでは、最初にお見せするものは、重装歩兵の基本的な動き方でよろしいですか?」

「ええ、それで構わないわ。騎兵と弓兵の準備も大丈夫?」

「勿論です。いつでもお披露目できる状態になっております」

「ありがと。内容はこの間話したものでお願いね」

「かしこまりました」

 

 

マクレガーは一礼すると、整列している兵士たちの元へと走っていった。

 

 

「ふぃ……、聞かされてたとはいえ、わざわざ私達の為に、段取りを組んでもらうのってやっぱり悪い気がするよな……」

「あ、それ思いました。……ちょっぴり余計な事頼んじゃったかな、って」

「いえいえ、マクレガーも言ってますが、お2人のお役に立てる事なら全く苦になりませんし、兵士たちにとっても好ましい事でもあります。どうか、遠慮などなさらずになんでも私に御申しつけ下さい」

 

 

恐縮している2人に手を振って問題ない事を告げるリーゼ。

これは本心からの言葉だ。

 

近衛兵だけに留まっている、とカズキは思っている様だが、噂話と言うモノの広がる速度と規模を少々甘く見ている、とリーゼは思っていた。

 

アイザックやハベル、そしてマクレガーにジルコニア。……この国のトップクラス、果ては戦争を知る者たちをも上回る武を持つ者として、話が伝わり―――それとなくマクレガーが言い聞かせてる部分も加わって信憑性が増し……カズキやカズラを見る目は今まさに、見た通りなのである。

 

当然、主に武の担当はカズキなのだが、同じ位に居る、と言う意味では武は担当外と公言してるカズラも同等なのである。

 

 

 

そうこうしている内に、兵士たちの準備は整った様で、マクレガーの号令が訓練場に響き渡った。

端から端まで聞こえるかのように、かなり大きな声。拡声器でも使ってるのか? と思いたくなる。

 

 

「歩兵中隊!」

 

 

重装歩兵たちも、負けじと声を張り上げる。円盾を身体の前に構えて、鎧に辺り、鈍い金属音が響いた。

 

 

「密集隊形!」

 

 

次の号令で即座に互いの距離を詰めて、言葉通り密集隊形をとった。

 

左右には槍を構えられる程度の隙間しか空いておらず、素人がみれば、アレでどうやってあの大きな槍を……と思えてしまうだろう。

 

だが、その疑問は即座に霧散する。

 

 

「槍構え!!」

 

 

最前列の兵士たちは掲げていた槍を左手に添え、そのまま前方に向けて突き出した。

隙間がない、と思っていても、まるで接触する事なく、適正な幅、と言わんばかりにスムーズに移行していた。

そして後ろの者たちは、槍を斜め上に構えて、更に後ろの者たちはより傾斜を付けた状態で槍を斜め上に構えた。

 

 

「おお、ファランクス隊形か。初めて生で見た………」

「生、と言う意味ではオレも同じですね。迫力がまたスゴイ」

 

 

カズラもカズキも感嘆の声を上げる。

 

ファランクス隊形、別名重装歩兵密集方陣と呼ばれる全面に攻撃力を集中させた戦闘形態だ。

 

ただ、当然前方の身に集中、と言っても差し支えない形態なので、左右からの攻撃には非常にもろい。なので、何等かの方法で側面を守りつつ、ファランクス陣形の兵士たちは、ただただ一点を貫くのだろう。

 

 

「他領や他国のものと比べると、イステリアの重装歩兵が持つ槍はかなり長いので、目新しいかもしれないですね。お2人の国のものとは、だいぶ様相が違いますか?」

「えっと……、まぁ違うと言うか……」

「うーん……」

 

 

言葉に詰まる。

折角包み隠さず全てを見せてくれてると言うのに、これでは印象悪くなってしまいそうだ。

だが、だからと言ってどうやって説明すれば良いのだろう?

 

現代日本では自衛隊が専守防衛で頑張ってくれてるが、まず槍は持たない。重火器が主流だし、そもそも最新のものにでもなれば、人じゃなく兵器が主流になりつつある。対面して刃を交え、命のやり取り……、究極の白兵戦と言って良いような戦はもう起こらないだろうから。

 

それぞれが口籠っていた所で、マクレガーの号令が更に続き、何とか誤魔化す事が出来た様だ。

 

号令が続き、そして一糸乱れぬ仕草を持って応える兵士たち。

日頃の訓練の賜物である、と言う事が良く解る。

 

 

 

その後もリーゼに色々と質問をした。

演目ではなく実戦ではどんな形になるのか、や問題点等も含めて。

 

リーゼも全て淀みなく答える。

カズラは主に復興をメインで考えてくれてる大貴族(リーゼが聞かされてる身分)なので、軍事的な知識は持ち得てないと判断した様子。何を言われる事も無く、ただただ丁寧に細かく細部にまで説明をしてくれた。

 

 

「それにしても―――やっぱりリーゼさんは凄いですね。日頃からの鍛錬、それに勉強。尊敬しますよ」

「ありがとうございます。将来は私が軍を率いる立場になりますし、幼い頃から武器の扱いや戦術については学んでいるんです」

「主に武器関係は私もまさに太鼓判ですよ、カズラさん。何せ刃を交えてますからね?」

「そこは私も疑う余地なし、ですよ。毎朝訓練頑張っているのを直に見ているんで」

 

 

リーゼが剣だけでないのは解っている。

槍から投擲、全ての武器の取り扱いには精通している。……しておかなければならないのだ。

 

だからこそ、日頃から鍛錬・勉学に勤しんでいる。……だからこそ、空いた時間に、はっちゃけるのだが………。

 

 

「リーゼ様には天賦の才がありますからな。将来は優れた軍団長として、戦場で活躍されることでしょう」

 

 

丁度、ある程度の役目を終えたマクレガーが戻ってきた。

 

 

「えっ、そんな私に天賦の才なんて……、それより、投石器をお見せしたいのだけど、どこかに無いかしら?」

「教練用のスリングとスタッフスリングがあります。少々お待ちを……」

 

 

照れ隠しをしつつ、マクレガーも解っています、と言わんばかりに笑みを見せながら近場の兵舎へと入っていった。

 

ものの数秒でマクレガーは、投石器……、半円形の革のカップが2本と縄紐で結びつかれた武器、スリングと1mほどの長さのその先に、それが結びつけられた武器。

 

スタッフスリングを持ってきた。

 

更に付け加えるとするなら、大きな木の板が貼り付けられた的も持っている。

 

 

「お待たせしました。リーゼ様がお使いになられますか?」

「―――え?」

 

 

それは予想外の進言だった。マクレガーのアドリブには、一瞬言葉に詰まってしまうリーゼだったが、軍事に関しては素人である、と傍から見て解るカズラは勿論、極めてレベルが高い武を修めてるカズキも、興味深々にマクレガーの手に握られている投石器(スタッフスリング)に釘付けになっている。

 

間違いなく興味は向けられている。

 

そんな2人の姿を確認した後に、リーゼは小さく頷くと、マクレガーから受け取った。

 

 

「石弾と鉛弾のどちらになさいます?」

「鉛弾にするわ。的を用意してくれる?」

「かしこまりました。距離はいかがいたしますか?」

「近めでお願い。直射するわ」

 

 

リーゼのリクエスト通り、弾は鉛弾、距離は短めに設置した。

短め、とは言っているが、目算で約30m。十分長い距離だと言える。

 

 

「リーゼさんは投石器も使えるんですね?」

「おぉ……、まさに武芸百般」

「っ、いえ、それ程までは……。でも、一応訓練は積んでおります。それに久しぶりなので、当たるかどうか、不安ではありますが……。危ないので、少し離れていてください」

 

 

煽てられて、またまた気恥ずかしくなったリーゼだったが、武器を構え、的を射る様に眼光を向ける姿になると、雰囲気が一変した。

 

鉛弾入りのカップを回転させる。

その回転速度は、凄まじく、風を切る音が辺りに響いてくる。

 

限界まで遠心力を高めた所で、握っていた紐の片方を離すと、リーゼが言った通り、直射で放たれた。

 

ほんの一瞬の出来事。鉛弾は的の中央に命中し、木が爆ぜる様な渇いた音を立てた。

 

 

「―――お見事!」

「ど真ん中ですね!」

「おおおっ! それもあんな遠い的に、スゴイです」

「ふふふ。早朝訓練を知るお二方もご存じの通り、ああ見えてリーゼ様は努力家ですからな。剣の訓練だけでなく、数ある武芸を、身に着ける為に、人知れず隠れて努力、訓練を重ねているのでしょう」

 

 

カズラやカズキ、マクレガーだけでなく、いつの間にかファランクス隊形での訓練を終えていた兵士たちも歓声を上げていた。

リーゼが投擲すると言う事を聞き、皆が注目していたのである。

 

リーゼが慕われているのがよく解る光景だ。

 

 

「……マクレガー」

「いやはや、これは失礼」

 

 

ほっと肩の力を抜いてたリーゼがマクレガーを睨むと、マクレガーは笑いながら取って付けた様な謝罪をする。

 

 

「カズキ殿はどうですかな? こちらの方は?」

 

 

笑いながら謝罪しつつ、リーゼから渡されたスタッフスリングをカズキに見える位置で持って聞いた。

 

 

「あははは。私は生憎剣術・体術を専門としてましたので。飛び道具は収めてないんですよ。だから、リーゼさんはマクレガーさんの言う通り、本当に凄い人だと思ってますよ」

 

 

両手でパチパチパチ、と惜しみの無い称讃をリーゼに向けた。

 

そう、カズキは飛び道具は得意とはしてない。

何せ、これまで渡り歩いてきた世界で、銃の様な飛び道具は一切使ってないからだ。

 

……まぁ、道具を使わない遠距離攻撃主体だったから。ファンタジー世界で言えば魔法

、気弾の類。

 

この世界でではピカピカのレーザー。

例外的には、剣を使って、鎌鼬の様に遠方の敵を仕留めたりもしていたが、完全に使い方を間違ってるも同然なのである。

 

 

「(まぁ、カズキさんなら、飛び道具なんて使わなくても……だからかな? それにしても、ああ見えて(・・・・・)ってなんだろ?)」

 

 

横で聞いていたカズラは、カズキと共にリーゼに拍手を送りつつも、カズキが考えている事を推察するのだった。勿論、カズラの正解。

 

そして、一番気になったのは、マクレガーの【ああ見えて】発言だったりする。

 

 

 

「マクレガー教官! 全て滞りなく終了致しました!」

「うむ。ご苦労だったカリニム」

 

 

そして、訓練を終えた後の報告―――恐らく小隊長的な位の人物だろうか、部下たちを待機させ、1人だけで走って報告に来ていた。

 

 

だが、ここで妙な違和感に気付く。

マクレガーと話をしていた筈なのに―――いつの間にか、視線を向けられている。……カズキに。

 

 

「あ、あの……どうかしましたかね?」

「っ!! 申し訳ございませんっ、失礼しました」

 

 

腰を90度折り曲げて謝罪をする姿を見て、思わずこちらが怖気づいてしまう。

 

 

「いえ、眼が合っただけで、そんな謝らなくて大丈夫ですよ! 私に何かあれば、遠慮せずに言っていただきたいと思ってますので。勿論、私にできる範囲での事にはなっちゃいますが」

 

 

「ぁ………、これって」

「え、えーと……」

 

 

カズキがカリニムと話しをしていて、その流れから大体何かを察したのはカズラだ。

リーゼもカズラと同じ結論に達したのだろう、思わず苦笑いをしていた。

 

 

「ありがとうございます。教官」

「うむ。これ以上、粗相のない様に心掛けるのだぞ」

「申し訳ございません。了解致しました」

 

 

マクレガーの言葉を受けて、カリニムは姿勢を再び正して、カズキを見て告げた。

 

 

 

 

 

「カズキ殿、お噂はかねがね! 曰く武術の頂点におられる方だと。剣術を極めたと。―――どうか、私とも刃を交えて頂けませんか!?」

「――――……え?」

 

 

 

 

 

それは―――甘いと痛感させられた瞬間でもあった。

 

イステール家の近衛兵までに留まっているだろう、と思っていたのだが、どうやら噂が噂を呼び、より大きく強く高く、盛大に肉付けされて、この大規模な場所にまで伝わっていた様だ。

 

 

武の頂点に立つ御仁であり、アイザックは勿論の事、戦争では常勝将軍と呼ばれ、訓練時では誰もが叶わず、地をなめさせられれう程の豪胆ジルコニアでさえも及ばず―――……と、耳を塞ぎたくなる言葉を沢山真っ直ぐ向けられる。

 

隊長格の男達は、皆素直で真っ直ぐなのだろうか……?

アイザックだけが例外だと思っていたのだが……、どうやらカリニムも通じるモノがあるらしい。

 

 

 

 

 

 

その後、想定外だったとはいえ、出来る事は~~と言った手前、引くに引けなくなったカズキは、時間の許す限り、剣で友好を結ぶ事になる。

 

 

 

仕舞にはリーゼも加わり、更に更に顔を出しに見に来たジルコニアまで加わった。

 

 

 

「え――――っ!! なんでジルコニアさんがここに?? 一体いつの間に??」

「ふふっ。お呼ばれしちゃいましたので、来ちゃいました♪」

「そんな楽しそうに言われても……」

 

 

朗らかに笑って見せるジルコニア。

 

訓練時に、あんなジルコニアの顔を見るなんて――――と、この時今日一番。カズキの強さに沸いたどよめき以上のモノが、沸いたのはまた別の話。

 

 

 

「………カズキ様。お母様といつの間にあんな仲良く……………」

 

 

 

外で見ていたリーゼ。

最初こそは普通だったのだが、徐々にチクチクと、胸に何か棘で数回刺される様な感覚に見舞われ続けるのだった。

 

 

 

 

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