井戸工事が完了して、更に数日後の午後。
イステリアの高級商業区画へと訪れているのは、カズキとジルコニア。
いつもとは違う服装を見に纏っており、ジルコニアも簡素な無地の平民服、カズキはグリセア村でプレゼントされた衣類一式を身に着けている。
2人の中で面識が無いのがジルコニアだけではあるが、彼女は領主の妻であり、国の英雄とも称される常勝将軍の誉れ高き存在。
もしも、この世界に映像文化が進んでいたなら、100%市政にまでその姿は轟いている事だろうが、恐らく大丈夫だろう、と言うのが、ナルソンの意見。
ジルコニアもそれは解っているのか、服装と同じく、簡素な変装を施していた。ヘンそう、と言っても髪を首の後ろで結んでいる程度。……正直変装になっているの? と問われればジルコニアを知る者からすれば、首を大きく横に振るだろう。
だが、本人も一般市民と顔を合わせる事は滅多にないとの事なので、まぁ、大丈夫だろう、と言うのが最終的なカズキの意見である。
本来ならば、カズラも一緒に―――と思っていたのだが、復興作業でまだ仕事が残っている事と、以前カズラとカズキの2人でこの店へと訪れた事、老婆と面識が十分である事を考慮して、カズキとジルコニアの2人での訪問となった。
これに関してはカズキは予想外だった……のは言うまでも無い。
変にカズラも連れて行こうとするのは正当な理由着けが出来ず、どれもこれも違和感満載だったので……、ジルコニアと2人で訪問を了承。
少々訝しむ様子が見て取れたが、直ぐにいつもの表情に戻っていたので、別段気にする様子が無かったカズラとジルコニア。
ただ―――カズキは何となくではある。朧気でもある。もう正直忘れちゃってる部分は確かにあるのだが……、記憶の片鱗を掬い取る事が出来たので、何となく―――ではあるが、
「この雑貨屋です。カズラさんが2度、私が1度。まぁ、カズラさんに紹介された、って形で2人で来たんです。カズラさんに限っては2度目でしたし、贔屓にしてくれるかな~、って ちょっぴり打算的な目的も有りましたが」
カズキの案内で、ジルコニアは案内された……が、その顔は険しい。
カズキの前で見せる物とは程遠い、と言える程に。
「………こんな堂々と店を構えているのに、法の目をかいくぐって詐欺行為を行っているとは……」
以前、カズラからは聞かされていた。
最初に訪れた時、老婆……老婦人に数点買いたたかれたと言う話。
流石に2度目ともなると、帳簿を見せて貰った事もあり、適正価格で取引してくれたが、それも、1度目、カズラと一緒に来ていたミューラの存在が無ければ危うかったかもしれない、と言うのが感想である。
2度目は大丈夫だったから~~と言って後も大丈夫か? と問われれば中々難しい面はあるだろう。そもそも詐欺行為を一度でも行ってれば、信用等ある訳がない。
安心させておいて、また―――ともならないとも言えない。
と、強く懸念、警戒を抱いているのは、主にナルソン達イステール家だ。
「常習的に詐欺を行ってるかどうかは、解りませんよ? カズラさんにアドバイスをしてくれたらしいですし、私の時は最初から猫かぶりじゃなくて、素の対応をしてくれてましたからね」
「素……? ……まさか、カズキさんに無礼を?」
「え、えーと、それは私の身分は隠してるので、怒らないで下さいね? 大丈夫なんですから。と言うか、普通の扱いが嬉しいので!!」
素の対応、と言う言葉を聞いて、更に険しい表情を、物騒な威圧感を見せるジルコニアだったが、直ぐに諫めるカズキ。
メルエムである、と言うのは当然ながらあの老婦人にはしていないし、一客人、口コミで訪れただけの異国の大金持ち、で話は通っているのだ。
「……なら、不問に致します」
取り合えず、不問にしてくれて良かった、と肩を撫でおろした。
ピカピカな身体の癖に、何だか心臓が痛くなるカズキ。ちゃんと人間である? 気がしてそれとなく嬉しくも思うのだった。
「それはそれとして、詐欺で歴を上げている店だと言う事は疑いようのない事実ですね。……正直な所、このような者の手を借りるのはあまり気が進まないのですが……」
「あははは……、その辺りはどうか折れて頂けたら。事前にカズラさんを含めて皆で話し合いましたけど、やっぱりこの際使える物は何でも使うべきで、優先されるべきは人命、国です」
表情を曇らせていたジルコニアだったが、直ぐにその顔は息を潜める。
代わりに、きょとん、とした表情を見せて そして楽しそうに笑みをこぼした。
「ふふふ。そうですね。カズキさんの……、カズラさんの言う通りです。細かい事に気を掛けている場合ではありません。国の危機は間違いないのですから。―――カズラさんや、それにカズキさんと出会えて、もう平和になっちゃったような気がして、緩んでしまってました。申し訳ありません」
「あははは。それはそれで光栄ですね。でも、ジルコニアさんもそうですが、皆さん気を引き締めるべき所はしっかりとしているのは、私の目から見てもはっきりと解りますから。多少緩んでも、それこそ目を瞑りべきだと思いますよ? 気を張り詰め過ぎるのも身体に毒ですから」
「――――はいっ!」
カズキもニコッ、とわらって応える。
ジルコニアはその笑顔を見て、朗らかに笑った。無邪気であどけない笑み。幼少期に置き忘れていたジルコニアの素の笑顔。それが徐々に表に出てきている。そんな感じがするカズキだった。
だが、ここからは気を引き締めなければならない場面だ。
「カズキさんは、問題ないかと存じます。……ですが、私は警戒を強めておきますからね。この手の詐欺を行う店は、用心棒の1人や2人、置いていてもおかしくありません。―――カズキさんの手を煩わせる事なく、私がカタを付けさせていただきます」
ジルコニアはそう言うと、マントに隠れた背中側の腰に手を当てて言った。
交渉が思うように行かず、不穏な流れになって用心棒の様なモノが出てきた場合は、カズキではなくジルコニアが相手をする、と言う事になっている。
逆にカズキ自身が恐縮をしていた様だが、それでも―――やっぱりカズキは
勿論心配はしていない。何せ、ジルコニアの実力の程は、カズキ自身が良く知っているからだ。数多の兵士たちと刃を交えて、比べてみたら―――正直 男女含めてジルコニアが圧倒していると言う評価。贔屓目無し、文句なしに軍配はジルコニアだ。
それ程までの剣の実力者。一介の用心棒風情が太刀打ちできる人じゃない。
でも、それでも女性だから―――……と思ってしまうのは、未来とはいえ平和な国日本からやってきた男の子だから。数多な世界を渡り歩いてきたとはいえ、仮想世界。現実世界ででは、やっぱり、女の人の前に立つのは、男の子! 的な考えが拭えなかったりもするから。
でも、大なり小なり
「解りました。勿論、ジルコニアさんばかりに負担を掛けたりはしませんよ? 私もこれでも剣士。―――血が騒いじゃいそうなので、ひょっとしたら混ざっちゃうかもです」
同じくカズキも腰の剣に手を当ててつつ、ニコっと笑いながら、そして片目をパチンとウインクしながら言った。
殺伐とした雰囲気だった筈なのに、何処か穏やかな気配が出てくる。
「……適材適所、と言う事でカズラさんは来なくて正解だったかもしれませんね。グレイシオールは慈悲と豊穣、と伝わってる通り、武を修めてる訳じゃないですから」
「ふふ……。そうですね」
2人は笑い合う。
傍から見ても、殺伐とした空気が霧散した事はある意味良かったのかもしれない。
それだけ、相手に警戒される心配がなくなる可能性が高くなるのだから。
「(うーむ、こういう仕事は市政に幅広く支持されていて、人気も高いリーゼさんには無理だよなぁ………。
カズキは、剣の柄から手を離し、思い出したかの様にジルコニアに聞いた。
「そう言えば、リーゼさんの予定は、この街での用ではないんですか?」
「ああ、リーゼでしたら、きのう1日、面会続きで今日は休ませる事にしたんです。リーゼに求婚してくる貴族は他領からもあとを絶ちませんから……」
「うへぇ……、そんなに大勢いるんですか。……話には聞いてましたが、ジルコニアさんの口から改めて聞かされると、とんでもないですよね」
苦笑いしながら言うジルコニアに、改めてリーゼの幅広い活躍? に身震いする。
「器量よしで、人気も高く、仕事熱心。将来を見据えて努力を惜しまず……、他領でも有名ときた。完璧超人だ、って言われても私は頷きますよ、メルエムのお墨付きです」
「!! ならば、メルエム様のお隣でえ尽くさせても良いかと思うんです!? どうです? 以前言ってた通り、1度お付き合いしてみると言うのは??」
「っっ!?? や、ややや、ちょっとちょっと、ジルコニアさん落ち着いて! それにほら、面会に来る中で良い人がいるかもしれませんし!」
物凄い勢いに圧されそうになったカズキだが、他領からやってくる者たちの中で、意中の相手が居るのでは? と話しを返す。
朧気な記憶が確かなら、リーゼはカズラに想いを寄せる筈―――だが、あのブレスレットの件も有り、それは少々ズレが生じてきてても不思議じゃない。……と言うか、カズキ自身がターゲットになっちゃってる。(親愛のブレスレットを頂いてるから)
確かに、
ジルコニアは、他に良い人~ と聞いて少し考えたが、首を横に振っていた。
「うーん……、今の所はそう言った話は聞きませんね。本人からの話ですが……。それどころか、少々問題のある相手もいますし……」
「―――――――……それって、【ニーベル】と言う男ですか?」
「! はい、そうですね。ちょっと、クセのある方でして……、イステール領との大口商業取引の責任者なので、邪険にするわけにもいかなくて……」
ジルコニアは、カズキの見事に当てて見せた晴眼に驚きつつ……、少しだけ胸騒ぎがした。
カズキが、何かに、誰かに、……
何か深い訳があるのか? と思えていたが、現状 ニーベルと言う男がクセの強い男とはいえ、先ほどの通りの商業取引の責任者。豪商と言って良い存在。邪険にする事は出来ないのだ。――――少なくとも、現時点では。
「リーゼも、多くは言いませんが、苦労させていそうで……」
「そう、ですよね。心身共に休んで貰って、また明日から元気よく。……うん、元気が一番です」
カズキは、負の感情を振り払うようにしながら、笑顔を作る。
ジルコニアもそれに倣って、笑うのだった。
そして―――到着した店の中へと入っていく。
「こんにちは―――、買い取ってもらいたいものを持ってきましたよ」
カズキの一声で、店の奥から何かが動く気配、物音を感じた。
チラリと視線を動かしてみると、以前訪れていた時と同じ様に、店奥に座って、帳面を付けていた様だが、手を止めて立ち上がっていた。
「はい、いらっしゃい―――、やっぱり聞き覚えがあると思ったら、お前さんだったかい」
老婦人は顔を上げると、ニヤリ、と含み笑いを見せていた。
「はい。ちょ~っと散財しちゃったので、また買い取ってもらえたらな、と思いまして。勿論、私だけじゃなく、この間一緒に来ていた彼の分も一緒に」
「ふふふっ、そうかいそうかい。そりゃ、イイもん大量に持ってきてくれてそうだ。いくらでも買い取ってやるから任せておきな。―――っと、所で、そちらの姉さんは?」
笑っていた老婦人は、笑みを一度止めると、視線をジルコニアへと向ける。
ジルコニアはきょろきょろと店内を見渡した後、笑みを止め訝し気な視線を向けてくる老婦人に微笑んだ。
「―――この者の妻ですわ! 夫に無理言って、一緒に連れてきてもらいましたの!」
「ほうっ、こりゃまた随分と綺麗な嫁さんだね。お前さん、可愛らしい顔してなかなかやるじゃないかい」
「!! そ、それはその……どうも、デス」
事前打ち合わせをするの忘れてた。
強烈な出来事は、朧気、薄っすらとだが、輪郭を帯びているが、やはり覚えていない事が圧倒的に多過ぎるので、こういった不意打ち気味な展開にはカズキは当たり前だが弱い。
思いの外、身体を密着させるジルコニア。
遠慮していたら、演技だとバレるかも……、と言う懸念もあるだろうが、それにしても身体を密着させてくるジルコニア。簡素な服だから、彼女の柔らかい部分がハッキリと腕に当たるので、顔が一気に紅潮してしまうのが止められない。
「そ、それはそれとして! 取り合えず宝石です! 宝石!! 色付けてくれたら嬉しいですよ!!」
慌てて軌道修正。
紅くなってるの誤魔化せれる様に。
照明設備が整ってないのが幸いした。こればかりはピカピカで誤魔化す事が出来ないから、明るい時間帯とはいえ、中は薄暗い。赤い顔はきっとバレてないだろう。
「ちょっと待ちな」
老婦人はそう言うと、店内の隅に置かれていた《準備中》とこちらの世界の文字で書かれた看板を取り、入り口に設置した。
「これでよし。念のため、奥の部屋で話すとしようか。前と同じ部屋さ」
「了解です」
大口の取引、これまでにない程の金銭が動く話だ。当然の措置だろう。
準備を整えた所で、店の奥の戸を潜った所で―――。
「皆、お疲れ様、今日も精が出るね」
カズキが一番早くに挨拶をしていた。
ジルコニアが続いて中を見てみると、奥の部屋には、女の子が6人いた。
歳は大体6歳~10代半ばくらいまでと言った所だろうか、女の子たちは針やナイフを手に靴や手袋と言って革製品の製造に当たっている。
「カズキ様っ!」
「こんにちはっ!!」
製造する手を止める訳にはいかないけれど、カズキに挨拶はしたい、と思いつつ、色々葛藤がありながらも、精一杯出した結論ははち切れんばかりに笑顔で挨拶、だった。
「前に来た時も、この子達と話したんですよ。チップを弾んだら、凄く喜んでくれて」
「そう、でしたか(うーむ………)」
どういった関係? とジルコニアは首を傾げかけたが、カズキが先に説明したので、納得した。
グリセア村での子供達の人気、屋敷ではマリーが宛がわれと、幼い子の扱いに長けているのは今日に始まった事じゃないだろう。
少々、たらし疑惑? 幼女趣味? と言ったあまりに罰当たり(笑)な事を考えてしまったジルコニア。
以前は、カズラに対して、同性愛疑惑をかけていた事もあり、別段珍しい事でもない。
それに、特にカズキに気付かれた様子は無い。
「お前たち。今日の仕事はおしまいで良いよ。今日もこっちのお客さんが大盤振る舞いしてくれる。また、臨時賃金期待しときな」
老婦人の一言で、場が沸いた。
「こんなお客さん、他に居ないんだからね。あんま期待し過ぎるんじゃないよ。それに今はまだ昼過ぎだ。この間教えた丸石を拾いに川にでも行ってみたらどうだい。そこにある籠持っていって良いから」
あぶく銭も良い所だ。
それに極めて珍しい。まさに稀有。希少種。そんな人物がカズキと言う人物なのだ。
超がつく程お金持ちであり、それを鼻にかける訳でもなく、誰とでも分け隔てなく接して、裏表も見られない。
長年接客業をしてきた老婦人だからこそ、解る。
ほんの少しのやり取りで、仲良くなった所を見てもそうだ。―――因みに変な下心が無いのも確認済みである。
「じゃあ、そこの椅子にてきとうに腰かけておくれ。どれ、茶でも出そうかね」
老婦人が茶を用意―――と移動しようとしたが、カズキは両手を振った。
「いえいえ。今回は前回の様に長居が出来ないんです。この後少々予定が入ってまして。なので、お気遣いなく、直ぐに商談、取引に入ってくれて大丈夫ですよ」
「ん。そうかい? それならそうするとしようか」
カズキが断りを入れると、上げかけた腰を下ろして再び対面する形になった。
カズキが言わなければジルコニアが言っていた所だったりする。
「さて、今日はどんなものを持ってきてくれたんだい?」
「前回持ってきた宝石をもう数種、同系統のものをいくつか用意してきましたよ」
ズダ袋から布の小袋を取り出した。
カズキからそれを受け取ると、老婦人はどれどれ、と中の宝石を取り出して手のひらに載せる。
「ほう、これもまた、見事な品だね」
満足そうに頷いた。
今回も同じ様に取引をするだろう、とこの辺りでカズキは確信した。
因みに、今回持ってきたのは、前回のとは少し違う。色々とアドバイスを貰い、透明度は無く色が濃い物を選出。
真円にカットされた、ラピスラズリ、トルコ石、紅水晶。
「―――よし。1つ7000アルで買い取ろう。3つで21000アルだ」
「! ぜ、前回より1000もupしてません?? え、え? 前回より透明度は無いですし、寧ろちょっと下がるかも、って思ったんですけど……」
「なに。正直、アンタやもう1人の兄さんが持ってくるのは、どれもこれも希少すぎて大雑把な額しか提示出来ないんだよ。1000単位なら、誤差程度だと思ってくれて良い。―――それに、あんたは特別さ、とは言えないねぇ。長くおまえさんとは取引を続けたい、と言う意図も当然ながらあるから」
「おおお……、それを聞けば聞く程、カズラさんが最初にヤられちゃったのが気の毒な気がしてきます」
「―――……そりゃ、悪かった、って前にも言っただろう? だいぶ買い叩いたんだよ。あの兄さんは脇が甘かった。……一緒に来てた小さな嬢ちゃんが来てなきゃもうちょっとやってた」
悪かった、と言う割には悪びれた気がしないのは気のせいだろうか……?
まぁ、所謂騙される方が悪い。商売の中での戦いと言うモノは、シビアだ。
だが、ガイエルシオール……商売の神に誓ってる面はある様だから、そこまでのあくどい事はしないとは思うが。……女の子たちを雇っている面を見ても。
「あの……前回の帳簿、を私にも見せて貰ってもよろしいですか?」
「ん? ああ、嫁さんの方は前に来てなかったからね。デカい取引だ。気にもなるだろ。ちょっと待ってな」
そう言うと、すぐに立ち上がって店に戻っていった。
「大丈夫そうでしょ? やっぱり、色々と面倒を見てくれる人に悪い人はいませんよ。……………多分」
「ふふふ。最後に、
少し笑った後、次は考え込む。
「ただ、一度に取引できる数と、販売経路が気になりますね……」
「それは確かに。……イステリア家から、出回った、ともなれば、探りを入れてくる可能性だってありますし、何処に流れるか、も気になります………」
色々と話し合っていた所で。
「ほら、これが前回の宝石の売値だよ」
「あ、私が買い取ってもらった宝石ですね? えーっと………」
「《琥珀色の黒曜石》――――42000アル」
「……、カズラさんが売ったやつより高くなってる……」
商売上手なのだろう、末恐ろしい、と老婦人に目を向ける。
「まぁ、二度目ってのもあるし、最初吹っ掛けた時、まだ行ける感じがしたんでね。頭はそこまで痛めなかったよ。―――そう言う訳で、嫁さんの方にもしっかり言っておくが、今後おまえさん達との取引で嘘は一切無しだ。ガイエルシオール様に誓ってね。……今後も、お互い上手くやっていこうじゃないか」
「わー……素敵な笑みですねーー。あ、それはそれと、もう1つ話があって―――」
「あ、カズキさん。ここからは私が話を………」
ジルコニアが名乗りを上げようとしたその時だ。
【クレア―――――っ!! いないの――――――!?】
店内に聞き覚えのある声が響いてきたのは………。
「(――――ああ、やっぱり)」
カズキは間違いない、と一瞬で把握。
記憶の扉が勢いよく開く!! とまではいかないが、誰が来たのかは、100%正解できるだけの自信は持てた。
「っと、ちょっと待ってな」
老婦人、クレアと呼ばれた老婦人は直ぐに立ち上がると、店の方へと戻っていった。
「………ジルコニアさん?」
「あ、はい。えと……、今の声って……」
「はい。聞き覚えが……と言うか、間違いなく」
ジルコニアは入り口をまじまじと見つめた。
カズキはただただ苦笑い。
そして、2人同時に口を開いた。
「「リーゼ?」さんですね?」