ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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41話 大空に舞う

 

「わぁぁ、わぁぁ! カズキ! 凄い凄い!! 私こんなの初めてっ!」

「ははっ。はしゃぎ過ぎて手を放さない様にだけ、気を付けてね?」

「もうっ、大丈夫だよっ! それに、カズキがついててくれるんだから。私を落っことしちゃうなんて、しないでしょ? 私、カズキの姫なんだから!」

「勿論ですとも。お姫様」

 

 

 

薄暗い夕闇の中、月も顔を出していた。

 

その月下、雲一つない空を自由に泳ぐ光がある。

 

驚く事に、それは流れ星の様なモノではない様だ。瞬く事なく宙を駆け回り、軌道が変わり、とあまりに現実離れし過ぎている光景だから。

 

 

そんな夜空に、リーゼの陽気な声が響き渡る。

 

本来なら騒然とするだろう光景だが、2人の高度は知覚するには難しい、不可能だと言える高さなので、誰にも気付かれていない。

 

2人だけの空間を演出していた。

 

 

リーゼは、あのクレアの雑貨屋の時とは、うって変わり、彼女は幻想的な世界、まるで絵巻物の登場人物にでもなれたかの様だ、と子供の様に燥いでいた。

 

綺麗な月明りに彩られながら、リーゼは心ゆくまで彼の魔法(・・)をその身で感じ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――それは、遡る事数時間前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色付き黒曜石を大量に、か……」

 

 

一先ず、リーゼの本音部分露呈による謝罪会は切り上げて、商談に入る。

先ほどの様な個人間での商談ではなく、イステール家、領主との商談。クレアにとってこれまででも一番大きな仕事になるだろう。

 

いつも以上に真剣なのか、はたまた通常運転なのかは解らないが、差し出された歪な形の青色ガラスを手にしているクレアは真剣そのもの。

 

 

「――何とか目立たない様な形で、他領か他国に売ってもらいたいのだけど、出来るかしら? 引き受けてくれるなら、領内でのあなたの身の安全は保障するわ。それに、今後の商売でも融通を利かせてあげれると思うの」

「ほう、それは引き受けなければどうなるか分からないぞ、ってことかい?」

「そうは言ってないわ。もし引き受けたくないなら、お互い今日の事は全て無かった事にすれば良い」

「―――ふむ。【今日のことは】ね。……まぁ、私にとってはいい儲け話には違いないね」

 

 

クレアは、手に持ったガラスを置いて、テーブルの隅に置いてあったインク瓶と羽ペンを引き寄せて、ジルコニアに向かって告げた。

 

 

「解った。引き受けよう。ただし、扱う品物が希少な上、高額だから、換金までにはかなり時間がかかるよ。仕事の代価は今後領内での商売や土地の融通、衣類と家具の卸の優先権でどうだい? これなら、そちらから回される宝石販売の手数料はタダで構わないよ」

「………商売と土地の口利きは問題ないけど、卸関係については、この場で判断できないから、戻ってナルソンと検討してみるわ。とりあえず、それで仕事を引き受けてくれないかしらね」

「ふむ。……どうしたもんかね」

 

 

クレアは腕組すると、考え込む様に唸った。

 

 

「受けてくれるなら、私の方も融通利かしますよ! こう見えて、さっきクレアさんが言ってる様に、有力者なので。繋がってるのは、お得ですよ~~」

 

 

うんうん唸ってるクレアに、出来る範囲で陽気に振舞うカズキ。

イステール家が絡んでいるが、正直なところ、宝石を後ろで根回しをしているのは、間違いなくこのカズキと言う男と、そしてもう1人。最初にここに来たカズラと言う男の2人で間違いないだろう。

 

聞いていた話、かなりのお人よしである事は解るし、店の子供達が直ぐに懐いた所を見ると、悪人と言う訳でもない。目利きはそれなりに利くから、クレアもその辺りは解っている。

良い繋がりが増える、ひょっとしたら、イステール家よりも大きな繋がりが? とメリット部分をクレアは頭の中でまとめ始めたその時だ。

 

 

「クレア………」

 

 

追撃、とでもいうべきだろうか。

沈黙を守っていたリーゼが静かに、そして何処か縋る様に声をかけてきた。

その表情を見ると、どう断れと言うのだろう?

 

同性の自分から見てもかなりの美少女であるリーゼの求婚を断るなんて、カズキ(コイツ)は本当に男なのか? とも思えた。

 

それに何より、リーゼには色々と高価なシロモノを流してくれる上客みたいなもの。カズラやカズキが来なかったら、間違いなく最上客だった。

持ちつ持たれつな関係性だったとはいえ……情と言うモノも当然ながらある。

 

 

 

「わかったよ。とりあえず、それで引き受けよう」

 

 

クレアがそう言うと、リーゼは再びカズキに目を向けた。

目が合うと、カズキは軽く頷いて見せてくれたが……、やはりリーゼは しゅん……とした様子でテーブルに目を落としていた。

 

 

「卸優先権は、まあ ある程度つけておいてくれればそれで良いよ。後で都合のつく品物のリストを作って寄越して遅れ」

「わかったわ。でも、あまり期待はしないでおいて」

「既存の利益との絡みもあるだろうだからね。そこは解ってるから安心しな」

 

 

アッと言う間に商談をまとめ始めた。

希望の卸が実現しないかもしれない、と言う状況になったのだが、それでも決断力は凄いものがある。

 

更に言えば、商談相手は、ジルコニア―――つまり、このイステリアの領主、トップが相手なのだ。

一切怯む事無く堂々と構えている姿勢に脱帽。

 

 

「はぁ……、やっぱクレアさんこそが凄い。イステール家お抱えの商人になって貰うのはどうです?」

「かんべんしとくれ。あたしゃ、ある程度の自由にやれてるからこそ、色んな横の繋がりが生まれるのさ。そんなデカい所に繋がった日には、相手がそっぽ向く可能性だって出てくる。何より、肩が凝りそうだから止めとくれ」

 

 

クレアは手をぶんぶん、と左右に振ってそう告げた。

領主抱えの商人ともなれば、金銭面だけでなく地位も相応に約束されるものなのだが……、クレアはこのスタイルを好んでいるのだろうか、首を縦に振らなかった。

 

そして、何処かではそう言うだろうな、と解っていたカズキはただただ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

カズキの提案については、ジルコニアも【その手が……】と少なからず思った。色々手綱を引いている方が、首輪をつけている方が今後とも都合が良い。

だけど、あっさりフラれたので、その企みも霧散だが、強くツッコム事なく淡々と続けた。

 

 

「流通経路の仲売人との件だけど、こちらの商人を同行させることは可能かしら?」

「無茶いわないでおくれ。できるわけがないだろう」

「そう。……あと、契約書に署名する前に、明日もう一度屋敷でお話できるかしら。報酬内容をまとめなおして、契約書にも記載しておくから。仕事内容と合わせて、その時、もう一度話を詰める事にしましょう」

「わかったよ」

 

 

この場では署名する気が無いジルコニアに、クレアはため息を吐きながらも頷く。

相手が相手だ。そう簡単にはいかないのは解っていたが、とり合えず取って喰われたりはしないだろう、程度には思っている。

 

 

「ありがとう。明日の午後、都合の良いときに来てくれれば良いわ」

「あいよ。午後の適当な時間に伺わせてもらうよ」

「話はまとまりましたね。では、今後ともよろしくお願いします」

 

 

タイミングを見計らって、カズキも頭を下げた。

 

 

そして―――ある意味商談よりも大変そうな相手に目を向ける。

まだ俯いてしまっていて、こちらを向く気配が全く見えないリーゼだ。

 

 

「リーゼさん。とりあえず、一緒に帰りましょう。帰ったらお話を」

「………はい」

 

 

リーゼはそれを聞くと、しょぼくれた表情のまま、よろよろと立ち上がった。

 

慌てるエイラ、ギロリっ、と睨むクレア。

2人にはそれぞれ大丈夫、とカズキは 身振り手振りで説明するのだった。

 

 

 

 

 

 

帰宅後。

 

取り合えず、カズキは今日の話が終わったらカズラに連絡を~~と告げているので、その時にリーゼの事は話す事にするつもりだ。

黙っている事も考えたが、今後の付き合いを考えても、カズラだけ知らないのは正直リスクにしかなり得ない。

 

朧気になってるが、ここからより絆が深まって、より発展させていく事になる。……それは、朧気だろうと何だろうと、見てみたら明らかだ。

カズラの日本からの技術に加えて、多方面に顔が利くリーゼ。合わさればどれ程までの効力を生むのかなど考えるまでも無い。

 

 

 

色々と考え込んでいると、漸く部屋へと到着。

 

リーゼとカズキの2人だ。

 

ジルコニアは、カズラを連れてナルソンの所に向かっていて先ほどの交渉の結果報告を2人に行っている。

エイラは、夕食の支度にとりかかっている。

必然的に、場はリーゼとカズキの2人だけになる。

 

 

「リーゼさん。そんなに気を落とさないで下さい。私は本当に怒ってないんですよ? あの時だって、何か他人事(・・・)のように感じてたので、上の空だっただけで。あ、お茶入りました。どうぞ」

「はい……。ありがとうございます………」

 

 

カズキの説明を聞いても、表情を改めない。

やや、笑顔ではあるが、それでもぎこちない。普段の笑みとはかけ離れている。

 

普段のそれが全て演技じゃない事くらい、カズキだって解っていた。

何より、剣を交えた間柄だ。

 

本気じゃない訓練など、リーゼはしないし、時折、合間に見せる笑みこそ自然なモノ。カズキはエイラの次くらいに、リーゼの自然な素顔、笑顔を見ている人物の1人でもあるのだ。

 

 

だからこそ、今の状況は決して好ましいモノではない。

 

 

「あの、カズキ様……。本当に申し訳ありません。でも、失礼な事を言ってしまいましたが、私は本当にカズキ様の事を」

「ストップストップ! 好いた惚れた、は自由だと思いますが……、そこは申し訳ありません。怒ってないのは事実ですが、リーゼさんの言葉を聞いた後、【そうですね、ありがとうございます】っと応える事は出来ません。取り合えず、あの時の事は置いときましょう」

「うぅ……、やっぱり、怒ってます……よね」

「いいえ! ……ああ、いや 怒ってた方が良い、のかな。その方が筋としては……」

「っ……」

 

 

あそこまで言われて、信じられないのに怒ってない、と言うのはあまりにも不自然な気がする。

信用できないから、興味もなく、怒る事以前の問題、と言う話もありそうだが、それはあまりにもリーゼが可哀想なので、口が裂けても言えないし、言うつもりもない。

 

あまりに特殊極まりない境遇な今の自分だな、と苦笑いをしながら告げた。

 

 

「剣を交えた間柄ですよ。リーゼさんがいつも一生懸命だって事も、激務の中、解放された自由時間で、あの……その、ああやってはっちゃけちゃうのも理解出来ます。日頃の事を考えたら、尚更です。――――でも」

「………っ」

 

 

カズキは真っ直ぐにリーゼを見据えて聞いた。

 

 

「偶然リーゼさんの本音を聞いて、本来なら怒る場面かもしれません。だまして既成事実を、お金の為に、とも捕らえれる内容でしたからね。……私的には怒ってるつもりは無いんですが、……何も無く、赦されるのをリーゼさんは良しとしますか? 後々、気まずくなったりしません?」

「そ、それは……」

 

 

赦して貰いたい。でも、怒ってないと聞いて、そのまま有耶無耶にするのも正直嫌だと思っている自分も居る。

 

エイラやクレアしか聞いてない、と思ってたとはいえ、カズキに好意を持っていたのは事実だ。皆の手前、気を許せる皆の手前、強気発言、行き過ぎた発言をしてしまっただけなのだ。あまりにも幼い思考回路だと、過去の自分を諫めてやりたい気持ちになる。

 

カズキに好意を持っているのは事実なのだ。

金銭面だけじゃない。切っ掛けはそうだったかもしれないが、人柄に触れて、剣を本気で交えて、国を助けてくれて……想いを寄せない方が嘘だ。

 

 

だからこそ、赦して貰いたい―――が、自分が心の底から好意を持った相手。恋愛して、求婚して、結ばれる――――領主の娘である以上、地位の高い人間である以上、そのような絵空事は無理だと思っていた。

 

だけど、叶うかもしれない相手が出来て……、そんな相手に……。

 

 

 

「うんっ! やっぱり、これが一番の解決法、かな?」

「……えっ?」

 

 

 

罪悪感が渦巻いていたリーゼの頭の中に、極めて陽気なカズキの声が入ってくる。

 

 

 

「今後はさ? お互いに素の状態で接する、って言うの。蟠りもまだまだあるかもしれないけどさ、ちょっとずつ、ほら、クレアさんやエイラさんと話をする時みたいに。敬語とか演技ッポイ部分? とかも、もう要らない。―――リーゼさんは、否定するかもしれないけど、私……オレは知ってるからね? 本音な部分。……剣を本気で交えた間柄なんだから、ある程度は解っちゃうんだよ」

「っ、え、そ、それは……。でも、演技は――」

「じゃあ、言い出しっぺなオレから呼ぶね。―――リーゼ」

「!」

 

 

敬称無しに呼び捨てでリーゼの名を呼んだ。

演技か、そうでないかを見破る事は、カズキならば容易い。

と言うか、最初に出会い、リーゼの事を思い出した時点(・・・・・・・)で、解っている。朧気とか、過去の記憶が曖昧とか、そんなのは関係なく、解るのだ。

 

 

「困惑するのは当然だし、いきなりなんて、無理! って思われるかもしれない。だって、エイラさんとは長い付き合いだろうし、クレアさんとエイラさん程じゃ無いにしろ、長い付き合いだと思う。いきなり難易度が高い、って思われるかもしれない。―――でもね、オレも、いや、オレだけじゃなく、カズラさんも。リーゼとは仲良くしていきたい。個人的に仲良くしたい、って言う面もあるけど、これはきっとこの国にとっても良い事だと思う。……なんの打算も無く、素の状態で言い合えるからこそ、迅速に対応したり、言い繕わず直接言える事になるから。――――だから、まずは友達から。友達になってほしい」

「友達……友達、ですか」

「うん。出来ればカズラさんともね。復興の要はカズラさんだし、あの人もリーゼさんの事は凄い凄い、って毎日のように言ってるから、……だから」

 

 

にこっ、と笑うのは、何処か儚い笑顔。

何処か懇願しているかの様な笑顔。

 

赦しを乞うているのはこちらだと言うのに、その笑顔にリーゼは吸い寄せられる。

だからこそ―――

 

 

「こちらこそ、宜しくお願いします!」

 

 

リーゼも笑顔に戻る事が出来た。

ぱっ、と顔を輝かせてるいつもの笑顔。無理をした笑顔ではないものがそこにあった事に、安堵しつつ―――。

 

 

「宜しくね! あ、後敬語も無しにしようか。――――っとと、カズラさんも交えた方が良いね、これ」

「ぅ……、わ、解りました。、いや、えと……、わ、解った……」

「あはは。ぎこちないケド、ここからゆっくり頑張ってこ? ほら、カズラさんを連れてくる理由って他にもあるんだ。オレ達の素性の絡みになってくる。リーゼはクレイラッツの有力者、って勘違いしてるみたいだから。―――流石にカズラさんの事をオレが話すのは違うかな? って思ってるし」

 

 

自分の痴態を他の人にも知られてしまう……のには、物凄く抵抗があるが、今回ばかりは仕方ない、と甘んじて受け入れるしかない、と思うよりも先に驚いた事がある。

 

 

「えっ! カズキ様って、いや カズラ様も、クレイラッツの方じゃないんですか!?」

 

 

これは地味に驚くべきポイントである。

以前エイラと色々と考察をしていたが、地理的な関係、様々な物資を届けた時にかかった日数。それらを考慮すると、敵国(バルベール)を除いたとすれば、クレイラッツしかありえないのだ。

 

バルベールの可能性も絶対無い―――とは言えないのかもしれないが、それこそ 地理的・距離的な問題より、ジルコニアの態度の方が説明が出来ない。

 

 

「あ、また敬語になってるよ」

「! あ、っご、ごめんなさ……、ごめん」

「―――ぷっ」

「!!」

 

 

思わず笑ってしまいそう……と言うか、吹き出してしまったカズキに不服そうな視線を向けるリーゼ。

先ほどと比べたら、断然良い。自然なやり取りで安心出来る。心底良かったと思える。

 

自分が知る世界とはもうかけ離れているが、ある意味良かったのかもしれない。

色々と問題は抱えてしまっているが、今は取り合えずヨシとする。……と言う事で。

 

 

「じゃあ、カズラさん呼びますね~~」

「あぅ……」

 

 

リーゼは萎れてしまった。

恥ずかしいのだろう、と解っていても、笑ってしまう意地悪さは許して欲しいモノだ。

メロメロばんばんの方がある意味強烈だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして―――丁度カズラもナルソン・ジルコニアとの話し合いが終わっていたので、直ぐに呼ぶ事が出来、事情を粗方説明。

 

 

当然ながら、普段のリーゼを見ているから信じられない、と言わんばかりに驚いてしまっていたが、色々と話しをするうちに納得した様だ。

 

中でも、やっぱり一番強烈だったのが……。

 

 

「め、メロメロばんばん……」

「あははっ。強烈だよね~~♪」

「もう、や、止めてくだ……、じゃなく、やめてっ勘弁してっ! もう私の中では今日のあの時、あの瞬間が黒歴史になっちゃったんだからっ!」

「暫く弄っちゃうのは許して欲しいかな~? って」

「ぅぅぅ…… か、カズキのイジワル……」

 

 

若干敬語になるが、名前の方は敬称を付ける事なく呼べるようになるのに、思ったより時間がかからなかった。

まだ、カズラには時間がかかっている様だが、取り合えずカズキは大丈夫な様子。

 

 

 

「それで、もうそろそろ明かしても良いかな? って思ってカズラさんを呼びました。クレイラッツの人間だって思われてるみたいだから」

「あぁ……確かに、位置的にはその国しかないだろうから、当然と言えば当然だよね。……うん。オレも問題ないよ。と言うか、その方が色々と都合が良いかもね。カズキさんの言う通り」

 

 

カズラも了承し、ちゃんと説明をする事になる。

 

 

 

「まず、オレの方だけど、出身はグリセア村の雑木林の奥にある、別の世界から来たんだよ。村の人やナルソンさん達には、グレイシオールって呼ばれてる」

「………え?」

 

「それで、オレはそのカズラさんの友達。グレイシオールの友達で、メルエムって呼ばれてるよ。名の由来に関しては、この話が終わったら直ぐに証明するから安心してね」

「………え? え?」

 

 

矢継ぎ早に明かされる事実に、流石の聡明なリーゼもついていけない。

頭に【?】マークが幾つも幾つも並んでは消えて、を繰り返している。

 

 

「ほら、グレイシオールの言い伝え……聞いた事あるかな?」

「えと、それはありま、……あるけど、カズラさん……、カズラが、そのグレイシオールだって言うの? それと、メルエムって確か……神話の中に出てくる光の総称、だったと思うけど……」

 

「「そうっ、そのとーりです!」」

 

 

イェーイ!! と2人でハイタッチを繰り広げて改めて自己紹介する2人に、思わず笑いそうに……と言うより、ここは呆れそうになる方が正しいかもしれない。

 

軽い感じで紹介されたと思ったら、相手は神でした――――なんて、何処の世界の神話だ、絵巻物だ、と思ってしまうから。

 

 

「先ずは、カズラさんの方の説明、だね。オレの方はもう実は説明方法ちょっと考えてて。―――前に言ってたやり方でやってみようかな? って」

「おぉぉぉ、リーゼにやっちゃいますか。カズキさんロマンチスト……」

「あははは……、色々肩こっちゃいそうな場面だったからさ。思いっきり楽しんでもらおうかな? って思って。怖かったら加減するケド、リーゼの様に身体能力が高い人なら大丈夫だと思う」

「――――な、何だか、不穏な気配がするんだけど、わ、私大丈夫? やっぱ許さない、神罰! みたい事になったりは……?」

「しないしない」

 

 

カラカラ、と笑いながら、話を切り上げて―――カズラの部屋へと直行。

 

出入り禁止を言い渡されていた部屋だが、中を初めて覗いてみると―――……、カズラが手で招いて、色々と見せてくれた。

驚くべきオーバーテクノロジーの数々。

 

エアコンから冷蔵庫、ノートパソコン、山の様に積み上げられた段ボールと言う軽くてそれなりに丈夫な素材。

 

暑い季節だと言うのに、冷房が吹き、物凄く涼しい。

冷蔵庫から取り出された氷入りのお茶が、物凄く冷たくて美味しい。

 

 

「涼しい~~~!! 冷たくて美味しい~~~!! なにこれ~~」

「わははは。そうだろうそうだろう!」

「何だかニヤニヤしちゃいますね♪」

「だね! お、そうだった。リーゼと初めて会った時に驚かれたライターを先に見せた方が良かったかな……っと、あったあった」

 

 

初めてイステリアへ来た時の事。

それは、カズキがここへ来る前の事だ。

 

街中で、エイラと出会い頭に衝突して、転んだ弾みでリーゼの元へとライターを落としてしまったのだ。

 

それでヒドイ騒ぎになったのは、今ではもう良い思い出となってる。

 

火を操る妖しい男だと言うのに、何の御咎めなしにしたリーゼの懐の深さも、あの時に知った。

 

 

 

「凄いっ……、火が簡単に、こんなに簡単に……こんな便利な道具が皆使えたら、助かるだろうな……、火おこしって凄い大変だから……」

「あぁ、確かにそれはそうだよな」

「キリモミ式は重労働ですからねぇ」

 

 

毎回キリモミ式で、摩擦で火おこしする訳ではなく、灰の中に火種を保存しているやり方で行っている――――が、当然ながら火なので注意が必要だし、何時までも持つと言う訳でもないので、大変だ。

 

 

「でも、あまりにも目立ちすぎるから、普及は考えてないんですよ。内政どころの騒ぎじゃなくなるからね」

「それを言えば、オレの存在もバレちゃったら、国中が大騒ぎしそうなので、より慎重に~ですよ……。まぁ、リーゼとは友達だし、ちゃんとしなきゃだけどね」

「う、う~~ん、カズキやカズラが神様だって知られちゃったら、大変だもんね。それくらいは解るけど――――それで、カズキはメルエムって言ってたけど、どう証明するの? もう、これだけ見せてくれたら正直十分なんだけど?」

 

 

 

疑ってない。

道具の数々には、この世界ではあり得ない光源が広がってる。

 

冷蔵庫の中は明るいし、パソコンだって明るい。何なら、エアコンのLEDの光だって色とりどり、3色の色で彩っていて、この世界には無い光だらけだ。

 

リーゼにとって疑いの余地が無い事であっても、カズキにとっては弱い事には変わりない。

 

 

「よっしゃ、んじゃ、メルエムさんを紹介しますよー! と言う訳で、カズラさん。ちょっとリーゼと一緒に行ってきますね? 3人移動はちょっと目立ちますし、待ち時間(・・・・)を持て余しちゃいます」

「うん、了解! ちょっと色々纏めなきゃいけない事も多いから、行っておいでよ」

 

 

カズラに挨拶をして、リーゼを手招きする。

そして、リーゼがカズラの傍に来た所で。

 

 

「物凄く驚くかもしれないけど、大丈夫だから。カズキさんを―――メルエム様を信じて。グレイシオールから太鼓判です」

「わ、解った」

 

 

少々――――どころか、非常に気になる事ではあるが、付いて行けば直ぐに解る。

カズキの部屋も直ぐ傍だから、直ぐに解る。と思っていたが、どうやら向かう先はカズキの部屋じゃない。

 

 

「屋上へ。今日はハベルさんに伝えてるから、見張りはいないよ。秘密にするにはうってつけの場所だよね、屋上って」

「え、ええ。一体何を……?」

「それは到着してみてのお楽しみ」

 

 

笑顔のまま歩いて歩いて―――リーゼにとって何も珍しくないナルソン邸の屋上へと来た。

見張り台としても利用できるので、ここらではかなり高い方に位置する場所だ。

 

 

そんなカズキは、驚く事に、大の大人、成人男性の平均身長よりも遥かに高い壁、2~3mはある屋上の縁へと、梯子も使わずひょいと駆け上がった。殆ど一瞬で昇って見せたので、目を見開いた。

身体能力が高いのは知っているが、あの跳躍力は正直人間のソレじゃない気がしてならない。

 

 

「メルエム、ってリーゼは光だって言ったよね?」

 

 

夕闇が辺りを支配し、月が仄かに出てきた場面で、カズキの身体は何処か神々しく光っているかの様にリーゼには見えた。

気のせいか? と眼を凝らしてみつつ……。

 

 

「う、うん。誰かの名前、とかじゃなくって、光そのもの。導いてくれる光、とか助けてくれる光、とか慈悲の光、とか。沢山出てくる言葉だから、正直、名前って感じはしなくて……」

「ふふ。そりゃそうだね。オレも、こっちで聞いて同じ様に思ったもん」

「え? ――――っっ!?」

 

 

今度は、気付いたら、本当に気付いたら。瞬きすらしてないと言うのに、目の前にカズキがやって来ていた。

目と鼻の先に居る。息が吹きかかる程の距離に居る。

 

思わず転びそうになったが、それはカズキが支えた。

 

 

「ごめんごめん。ちょっとビックリさせ過ぎちゃったね」

「え? ええ???」

「じゃあ、ちょっとお手を拝借して」

 

 

リーゼの手を握ると、その手を中心に鮮やかな光が生まれた。

黄金色の空の下でリーゼの手の中にある光は、温かみを感じる。その光は、リーゼの全身を包み込む様に広がると、彼女の身体を宙へと浮かせた。

 

 

「ひゃ、わ、わわわ、な、っっ、えええ!?」

「落ち着いて落ち着いて。大丈夫だから」

 

 

直ぐ傍にはカズキが居る。

目の前にカズキは間違いなくいる。だけど、おかしい。

 

 

「こ、これ、宙に浮いて………」

 

 

ほんの少しではあるが、足の下の感触が無くなってしまっているのだ。

 

ほんの数⑩㎝程ではあるが、地面から足が離れてしまっている。

屋上の感触ではなく、柔らかいのか、温かいのかよく解らない、感じた事のない感触が足の下にはあった。

 

 

「ゆっくり、ゆっくり、あの見張り台の上まで、行くね」

「えっ? あ、あ………っ」

 

 

リーゼは息を呑んだ。

カズキがそう言うと、徐々に身体が宙に浮いていくのだ。

 

まるで夢の様。夢幻の様。

空を飛ぶ夢は見た事がある。

鳥になって大空を翔る夢。

 

それと全く同じ感覚だった。

 

 

 

ゆっくり、ゆっくりと空へと上がっていき、軈て見張り台の更に上、屋根の端に腰かけていた。

 

 

「これがオレだよ。―――メルエム。そのままの意味。オレは()なんだ。光に成る事が出来る」

 

 

証明するのは簡単である、とここに来る前に聞いていたが、これは確かに疑いの余地が無い。

現実か夢か、と混乱はしても、今起こっているこれは、事実なのだから。

 

ほっぺを抓ってみても……十分痛い。

 

 

「あはははは。夢じゃないよ。現実だ。―――リーゼだけじゃなく、成り行きだけど、アイザックさんやハベルさん、ナルソンさんにジルコニアさん、後エイラさんも知ってる」

「―――エイラも?」

 

 

ここは驚く感情―――は一先ず沈めて。何で自分より先にエイラが知ってるのか? とやや妬いている様子なリーゼ。

 

 

「あ、あははは……。オレ達の正体をジルコニアさんからそれとなく聞かされてたんだって。だから、光の事も知ってるのかな? ってオレが思ってたら、実は細かな事は聞かされてなかったらしくてさ。……勢いで見せてあげたら即倒しちゃってて」

 

 

リーゼは説明を聞いてみて―――納得した。

確かに、こんな現象を見せられたら、驚きのあまり倒れてしまっても不思議じゃない。

 

 

「でも、一緒に宙を飛んだのはリーゼが初めてだからね?」

「っ―――う、うん」

「あはははっ! してやったり、驚いた顔、頂きだね~♪」

「むっ!」

 

 

横で朗らかに笑うカズキを見て、頬を膨らませるリーゼ。

 

だが、それ以上に聞いてみたい事があった。

 

 

「ねぇ、カズキ」

「うん?」

 

 

意を決して聞く。

 

 

 

「もっともっと、空を飛べたり―――するのかな?」

「!」

 

 

 

リーゼが聞きたかった事。

いや、リーゼの願いとでもいうべきか。

 

 

もっと、空を飛んでみたいとの事だ。

 

確かに、不思議ではない。

今、私の願い事。それは翼が欲しい。背中に翼を、鳥の様に、白い翼を。……この大空に、翼を広げて、飛んでいきたい。

 

そう願ってもおかしくない。

 

そんな歌が、歌詞がある程だから。

 

恥ずかしそうな、それでいて期待に満ちてる様なリーゼの素顔。

そこには、当然演技のソレは一切ない。

 

それを見たカズキは、歯を見せながらニッ、と笑うと。

リーゼに跪く様にし、手を広げながら告げる。

 

 

 

 

「よろしいですよ、リーゼお姫様。姫様に今、空を飛ぶ魔法をかけて差し上げます」

 

 

 

 

雰囲気の良い幻想的な黄金色の空に包まれた場で、思わず言ってしまった気障な一言。

顔が赤くなりそうだったが、リーゼも負けずと劣らない程紅い。

でも、空の色に混ざり込んで、十分誤魔化す事が出来そうだ。

 

 

 

 

 

カズキは、ゆっくりと頷くリーゼの手を握り―――この大空へと大きく飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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