「いてて……、ぅぅぅ……」
「だ、大丈夫ですか? カズラさん」
グリセア村へと到着―――はまだまだ先。
この整備・舗装されてない荒れ地を馬車で進むのが、まだ数日残っている。
まさにカズラにとっては地獄の一言。
現代の道路がどれだけ偉大なのか、身に染みて理解した様だ。
「うん、大丈夫……。でも、幾ら何でもあの馬車揺れすぎ……4日も続くと大変……」
「馬車、と言うより場所……、やっぱり道の整備は必要ですかね?」
「そう、だね……ある程度目処が立った後、一番最後になると思うけど……」
腰を摩りながらゲッソリしてるカズラを見て、やっぱり何だか申し訳なくなるのはカズキである。
光に成る事が出来る彼の身体能力は当然ながら群を抜いていて、三半規管が弱い~何てことも無ければ、ゆられにゆられて腰を痛める、なんてことも無い。
しんどくなったら、しれっと浮いてたりもする。
能力の使い方間違ってない? って思う様な、ちょいスキルを使って乗り切ったのだ。
因みに普段は、ピカピカの力でグリセア村へ一直線!
直ぐ到着、だが今回は行動を共にしている。
「(―――……う~~ん。1時間能力制限縛りは何処行ったのかな? ゲームの世界だけ?ここでは関係ない? それとも攻撃手段だけかな?)」
4日間も移動、と言う中で、能力使用最長時間を試してみたりしたのだ。
一応、データは捕れたが、皆が辛そうなのを見るのは良い気分ではない。緩和する事が出来たらよかったんだけど、生憎そこまで万能と言う訳でもなさそうだ。
大人数での移動だから、一緒に空を飛ぶ~なんて事も出来ないし。
特に視界に入るのはリーゼ。
彼女もゲッソリとしていて、エイラが気を使っている様子。
「オリーブの香りで、ちょっとは楽になれば……」
「うん……。オレにも効果があったら良いんだけど、こっちの人限定だからなぁ……」
日本食だけでなく、こちらの世界では、香水の効果も絶大だったりする。主にバレッタが色々実験してくれたのだが、目を見張る程の回復力やら、催淫効果であの引っ込み思案なバレッタが、カズラに抱きしめて欲しい、と懇願する事が出来る程で……、まぁ、つまり あまり危ないモノは買わない様にしよう、とカズラと決め合ったりした。
リーゼなら大丈夫だろう、と言う事で。
「はい、リーゼ。これの匂いを嗅いでみて? 気が楽になるよ」
「ぅ……、あ、ありがと………」
侍女たちには気丈に振舞ってたリーゼだが、カズキの前ではそれなりには素を魅せれる様になってきている。……勿論、なるべく他の人に見られてない範囲内に限り、ではあるが。
「わ……、良い香りが………。気持ち良い、ね。これ……」
「ん。気がまぎれたなら良かったよ。はい、エイラさんの分」
「わ、私もですか!? そんな貴重なモノ頂けませんよ!?」
「いやいや、そんな遠慮なさらずに。マリーちゃんにも上げましたし、エイラさんに上げない~なんて、差別したくないですよ。ほらほら、貰ってください。気分が晴れますよ」
リーゼを見ながらそう言うカズキ。
エイラも、リーゼを見る。先ほどまでゲッソリとしていて、今にも吐いてしまいそうな様子だったのだが、程よく頬には赤みが見られる血色も良い顔に戻っている。
神々の道具の効力の凄まじさを改めて垣間見た気分だ。
「エイラー。あんまり、拒否し過ぎるのも失礼になっちゃうかもしれないわよ? 天罰があったりするかも………」
「はははは。そうそう。……エイラさんに断られちゃって、しょんぼり~~、です……。……って、リーゼ? 天罰は無いからね?」
「あはははは!」
楽しそうにしてる2人を見て、安心感が沸くのと同時に、弄られてるので、焦って慌てたりすると言う、非常に珍しいコンボを受けるエイラ。
「っっ~~~~! わ、わかりました。ありがとうございますっ!」
ここは神々に感謝しつつ、施しを受けようと、エイラは香水の入った小さな小瓶を受け取り、その香りを堪能するのだった。
その後は、ジルコニアにも~と思っていたのだが、彼女は平気そうだった。
「カズキさんは大丈夫そうですね」
「あははは……。何だかカズラさんに申し訳ないですけどね。はい‼ 私は大丈夫ですよ~! ジャンジャン、働けますよ!」
「うふふ。ありがとうございます」
ジルコニアは楽しそうに笑って応えてくれてる。
この分じゃ、香水、精油関係は大丈夫そうだ。
そして、最悪ドーピング処置として、リポDも十全に持ってきているから、準備万端。
「ジルコニアさんは、カズキさん印の秘薬を貰ってますし、がぶ飲みしながらもっともっと頑張れる! って感じですかね? あ、私も似たようなのカズラさんから貰ってますんで、いつでも言ってくださいね」
「が、がぶ飲みしながら頑張るのは、絶対いやです……。それ、さっきカズラさんからも言われちゃって……」
「へ? どういう事です?」
カズラは絶賛休憩中。
星を見上げながら寝転がっている最中だ。
話は聞こえてない様子。
だが、特に聞かれる事を気にする様子は見せないジルコニアは、先ほどあったやり取りをカズキに伝える。
「カズラさんがその、大変そうだったので、お身体を大事に、と。今、倒れられでもしたら、私が死んじゃいます、って言ったら―――――」
「なるほど、そこから秘薬がぶ飲み、ですか。贅沢な使い方ですね~」
「そ、そんな使い方したくないです!」
効力はとんでもないのだが、精神面がキツイのだろう。
なまじ体力は持っても、膨大過ぎる仕事量を考えたら、げんなりしてしまうのは無理はない。
カズキの場合は、冗談抜きで、人の何百倍も働いてるも同然の成果を見せつけてはいるものの、能力に頼っただけの能力バカ化しているも同然なので、やっぱりちょっぴり悪い気がしなくもない。
「カズラさんは、草葉の陰で応援してる~、なんて言っちゃって……」
「おお、成る程! では、私は満天の空の上から見守る事にしましょうか!」
「や、やめてください~~~、見捨てないで~~~!」
「うわわわわ、じょ、じょーだんですっ! じ、ジルコニアさん!? く、くっつかないで………」
がしぃっ、とくっつく……どころじゃなく、抱き着いてくるジルコニアにカズキは思いっきり顔を赤く染めた。
ベストタイミングだったのか、その場面をしっかりとリーゼに見られてしまい。
「あああああ!! 何してるの、カズキっっ!!」
「な、何もしてないっ! じ、ジルコニアさん揶揄ったら、逆襲されちゃっただけーーー!」
わーわー騒いでいたら、直ぐ近くで、クスクス笑う声が聞こえてくる。
当然ながら、その声の主はジルコニアだ。散々楽しんだ後。
「もう、カズラさんといい、カズキさんといい、私をいじめるからですよ?」
と言って、悪戯っ子の様に笑いながら離れる。
因みに、普段は確実に見る事が出来ないジルコニアの姿。
普段は、凛々しく、訓練時は鬼の様な形相で叩き潰してくる鬼教官ジルコニアの珍しい姿―――をお目にする事が出来たのは、侍女の数人とリーゼ、カズキだけだった。
「この感じじゃ、グリセア村に到着するのは早くても7日後……」
「沢山の道具やら人やらを、オレの力で飛ばせれれば良いんですけどね………。流石にそれは危ないです」
「それは駄目っ!」
「「!」」
リーゼとカズラ、カズキの3人で話をしていた際、カズキが持ち前の能力、ピカピカの能力をどうにか応用~と考えていた矢先。運び屋風な事を口に出していたら、リーゼが真っ先に手を×にして首を横に振った。
「ど、どーしたのリーゼ」
「駄目なモノは駄目っ! そもそも、出来ないんでしょ? なら、危ないからしちゃ駄目だよっ! カズキは平気でも、他の皆が落ちちゃったら怪我するかもだし、トラウマになっちゃっても大変じゃん?」
「ん……それもそーだけど。大丈夫だよ? 元々、危ない事する気無いし」
「んっ、なら良し!」
リーゼは安堵した様に、エイラから貰ったパンを頬張っていた。
鬼の様に固さのあるパンなのだが、問題なく食べる所を見ると、リーゼの顎も常人よりは遥かに強靭な様だ。
「ふふ。話を戻そうか」
リーゼの考えを大体察したカズラはただただ笑う。
あの夢の様な体験を。空を2人で飛び、夜空、満天の星空の下、空を飛ぶシチュエーション。
女の子でなくても憧れると言うモノだ。
それをお気軽にポンポンとされたら、って考えたら……リーゼにとっては良い気は絶対にしないのだろう。
何なら、体験する女の子は1人で良い、自分だけ! と思ってるのかもしれない。
直接聞くワケではないが、あのカズキのピカピカ空を飛ぶは、実は緊急避難的な対応でも考えているので、それは時と場合で、納得してもらうが。
「今回作業に当てる市民には、部分改修後の本改修、後々の街道整備などの仕事にもついてもらって……、うん。だから今回工事が終わった後も解散にせず、契約は継続にしてままの方が良いと思うかな?」
「成る程……、ある程度資金には余裕が出せそうだから、失業者の受け皿としては問題ないよね。雨季の間は別の仕事、例えば街の防壁の工事とか……。うん。私は賛成。お母様とお父様にも伝えておかないと……、って、そうだ。ねぇねぇカズラ、それにカズキも」
「「ん?」」
色々と考えを張り巡らせ、今後のスケジュールもリーゼなりに組み込みながら、別の興味を持った事を思い返して、カズラ達に聞く。
「カズラやカズキの国って、他の人……神様はいるの? オルマシオール様とか、ガイエルシオール様とか」
「えーっと、いるといえばいるよ。それっぽいのが色々と」
「ですね。……言い伝えとか、遡って確認してみれば、割りとえげつない系統の神様だっているし」
「そ、そう」
光に成れるカズキ。明らかな人外、その気になれば世界を掌中に納める事だって余裕で出来てしまう、まさに光の神であるカズキをもってして、えげつない、と言わしめる神がいる事に、リーゼは身震いをした。
カズラは慈悲と豊穣の神だ。絶大な効力を持つ多彩な道具を操り、人々を助ける食料や医療関係のモノを持つ優しい神。……それでもえげつない、と称する神がいると言うカズキに対して、笑いながら頷いている。
一体、どれ程の神?
会う事があるのだろうか?
と、戦慄を禁じえない……が、状況が状況だ。正直怖ささえ感じるが、カズキやカズラが要れば、きっとダイジョブ……と思い直し、リーゼは思った事を伝える。
「えっと、それっぽい分野の人達が居るんなら、直接手伝って貰えば良いんじゃないかな? だって、カズラは慈悲、だから救済と豊穣が管轄なんでしょ? カズキは光……え、えーーっと、全部包み込んでくれる優しい、温かい……なんでしょ? 何も管轄外な事を2人してやらなくてもいい気がするんだ」
確かにその通りだと思う。リーゼの言い分も最もだ。
だが、まずカズラが齎した恩恵は、この地により古くから伝わっているグレイシオールの伝説を遥かに凌ぐ程の事を起こしている。
更に言えば、メルエム、光の神は 伝承に残るだけで具体性は皆無。夜に瞬く星々、月には神様が住んでいるんだよ~~、程度の御伽の世界の話で、現実性のある伝承は何一つない。当然だ。ただの光の総称がメルエム、と呼ばれているのだから。
実際に人間の世界で降りてきて、世界を照らして~~~くらいだろう。
だが現実を見ればどうか?
2人は、あれやこれやと手を伸ばしては、超人的な実績を、迅速に……、いやいや、速攻で残しまくっている。
人手不足をものともせず、大規模な工事(基本破壊系統)を一晩で1人で終わらせたり、不思議な道具ですさまじい効能を齎したり、等々。
御伽噺所の話じゃない。
「あははは。まあまあ、皆事情があってこれない人ばっかりだからさ? でも、オルマシオールはこの世界に居るよ? 住んでる」
「「え!?」」
リーゼだけでなく、カズラまで驚いてカズキを見た。
カズラにはそれとなく伝えていた筈だが……、連日の激務のせいか、忘れてしまったのだろうか?
リーゼと殆ど同時に驚いているから、リーゼ自身もカズラが驚いていた事に気付けてなかったのは良かったかもしれない。
「あのグレイシオールの森で、ね? ただ、あまり人前じゃ姿を見せてくれないからさ。会わせて~~って言われたら、難しいケド」
「……あ(成る程。……黒い女性の事、かな。確か、の、の…ノワール…さん、だったかな)」
カズラも思い出したのだろう。
ウリボウ達の事、その中で人の姿になれる黒い女性、ノワ―ルの事を。
「そっか……、戦いの神様だから、もっともっと皆連れてご挨拶に来れたらな、って思っちゃったけど…」
「そ、それはどうだろう? また会えたら聞いてみるよ」
「え? カズキは直ぐ会えるの? なら連れてって欲しいなっ」
「うう~~ん…………」
ノワールの姿を思い返しながら、カズキは考え込む。
何せ、彼女は女性だ。リーゼも女性。凄く慕ってくれているのは、カズキにも解るし、リーゼの話題、他の女性の話題になると、頬を膨らませる程アカラサマになりつつある。
直接会う、なんてことになったら………。
「(いつ、オレモテ男になったんだよ、自意識過剰か? でもなぁ……)」
色々と考えを張る巡らせていた時。
「あんまり、困らせちゃダメよ? リーゼ」
「お、お母様!? い、いえ、私はそんなつもりじゃ……」
いつの間にかやって来ていたジルコニアに諫められた。
カズキの仕草、表情から何となく読めたのか、リーゼに聞こえない様にそっと耳元で……。
「ひょっとして、女性、なのですか……?」
「っ!?」
ズバリ、図星を当てられてしまった。
困ってる部分を的確に。
いない、と思っていたカズキに女の影アリ。
「え? え? カズキ、お母様と何話してるの??」
「うふふ、リーゼ。大変ねぇ」
「え? ど、どーいうこと……!?」
きゃっきゃうふふ、とガールズトークを楽しむ母子。
困った顔のカズキと、そんな2人に置いてけぼりにされかけてるカズラ。
「多分、この会話も聞かれてると思うんだよねぇ、ノワには」
「へぇ……今度会う時大変ですかね?」
「いや、まぁ。聞き分けが悪いってワケじゃないし……、どーだろ? 他のウリボウ達は、止めて、って言っても平伏しちゃうから、ノワの存在は有難いと言えばそうなんだけど……………物凄く大変そうな気配。もうビンビンに」
「モテモテですね~~♪ 女運が悪いって言ってたの、撤回する?」
「っっっ!? そ、そー簡単に治ったりしないと思ってますっ! それ言うなら、カズラさんだって、バレッタさんにちゃんと決めちゃってくださいよっ!?」
何だかんだで、カズラとカズキも、男同士の色恋? トークを楽しむのだった。