「ジルコニアさん、あれから話せなかったんだけど……、大丈夫だった? カズキさんも帰ってこなかったし……」
「あ、いえいえ。遅くなっちゃいましたが、ちゃんと帰ってきましたよ? 森の…… 皆にちょっとお礼をしてて、遅くなっちゃって」
ジルコニアと共に、故郷の村で鎮魂を捧げた後、暫く彼女の傍にいた。
共に全ての墓を手入れをし、花を供え、改めて祈りを捧げた。
その時、いくつか話をしたが……、ジルコニアとカズキの2人だけの秘密だ。必要な事であれば、カズラやリーゼにも話す事はやぶさかでも無いが、必要性を感じないし、ジルコニア自身から口止めをされている訳でもないが、非常にデリケートな話だ。
語るとするなら、彼女の口から語られるのが良いだろう。
「それとカズラさん、すみません……、前に言ってた食料の件ですが……」
「ああ、減っちゃったみたいだけど、それは大丈夫。グリセア村の傍だし、直ぐに日本に帰れるから、買い出しに行く事も出来るし」
「うぅぅ……想定していた以上に、長……オルマシオールが気に入っちゃって。おまけにハク達も尻尾ぶんぶん振って、凄かったんで……」
「あははは。気に入ってくれたならこっちも嬉しいよ。お菓子で交渉事が出来るなら、ね? 何でもかんでもカズキさんに頼るだけじゃなく、オレ自身の力も存分に使わないと! 小さな力かもですが」
「小さくないです。40億って力も大概、ヤベーと思いまよ」
ウリボウ達事、オルマシオールとの事については、もう事前に説明していて、改めて謝罪をしたカズキ。
昨夜、以前話をしていた食料のお礼で皆に渡したら、大層気に入ったらしく、涎だらだら、尻尾ぶんぶん、と大変だった。
子犬の様な瞳で、きゅんきゅんすり寄ってきて、もっともっと、と強請る姿を見れば、大きさは兎も角、愛らしさが全面に出たウリボウ達は、愛玩動物と言っても差し支えない状態だった。
唯一、美味しいモノに目を奪われなかったのは、ノワだけだろう。
彼女も彼女で、美味しそうにしていたが、
―――深く詮索はしないが。
その後、いつも通り……どころか、何処か晴れ晴れとしているジルコニアに案内され、私財を積んだ荷馬車や職人たちとも、放棄された農場へとやってきた。
「……かーずーきー。ほんとのほんとに、お母さまとは何も無かったの?」
「天地神明に誓って」
「てんちしんめー?」
「あー、えっと。リブラシオールに誓って嘘じゃないよ、って事で」
「ふーん……」
因みに、晴れ晴れとしたジルコニアの様子はリーゼも当然ながら気づいていて、昨夜―――カズキと何かあったのでは? 蜜月が? 逢引が?? と、結構な剣幕で根掘り葉掘り尋問されそうになったが……、ある程度事情が知ってるリーゼだから、魂の供養の件以外は全て話した。
当然、何も変な事してない! と慌てて説明して、何とか納得して貰ったりする。
「(うーむ。神様的なオレで、前も普通の人間なら~~って、言ったのに、リーゼのバイタリティはほんと凄い……)」
ある意味感心、とカズキは苦笑い。
リーゼ程の美人、美少女に迫られたら、顔が赤くなってしまうのは不可避だからしれーっと、ピカピカな力で誤魔化してたりはするが、人非ざるモノでも物怖じせずにリーゼはブレない。
勿論、それにはちょっとした訳の様なモノもあるが。
「……触れるもん。くっつけるもん。あったかいもん」
リーゼは、カズキの裾を少し握って引っ張った。
気付かれない、負荷のかからない僅かな力で。
その後、暫くの間付きっ切りで行動を共にするのである。
それはそれとして、今は氷池を作る仕事だ。
「おぉぉ……、改めて見ると、カズキさんの仕事量やっぱヤバいですよ」
「あはは。オレにとってはほんの一瞬、ですけどね」
平地になっている農場。
細かな作業は難しいが、ピカピカの力を使った大胆な仕事は大部分が済んでいる。
他の人が見て、目を丸くしない様に、事前に準備は整っている、と言う旨は伝えており、イステール家主導で行った作業なので、探りを入れたり、神々的な力の関与などとは皆思わないだろう。
事情を知る一部を除けば。
「後は水車を使って水を引いて、排水用の溝は人力で多少ほって、大部分が完成ですね。木々も撤去してくれているので、落ち葉等が入る事も無いでしょう」
「ええ。一応、柵は拵えておきましょう。さて、さっそく作業指示をだしていきますよ」
ここから先は、単純な破壊!! 的な作業じゃない。
文明の利器―――モルタル作りだ。
その製造方法を、事前にしっかりと予習してきたカズラが全体に説明。
実際にカズキと共に、モルタル作りを実演して見せ、それに疑問を持った職人たちには、丁寧に説明を続ける。
「こんな感じで、出来上がったモルタルはヘラを使って、丁寧に塗って平らにしてください」
「あ、石灰は人体には毒なので、口には布を巻いてくださいね? 気分が悪くなったら直ぐに申し出てください」
安全第一! とヘルメットを被ってにこやかに話す。
無論、職人たちは石灰の危険性を理解しているので、問題は無いのだが、その使用用途が解らない様子。
「石灰は虫よけの為ですか?」
「いえ、石灰を砂や土と混ぜて、水で捏ねると時間と共に固まるモルタルが出来るんです」
石灰はモルタルの原材料の1つ、と説明。
「雨が降ったら溶けてしまうのでは?」
「このモルタルは、例え水の中でもしっかりと固まる特殊なものですから大丈夫です。陶器片を混ぜると、水硬性のモルタルが作れるんです。あ、でも土砂降りの様な雨だと流石にダメなので、その場合でも作業中断してくださいね。小雨なら大丈夫です」
1人1人丁寧に説明を繰り返す。
無論、ある程度端折ってる部分はあるが。
例えば、水硬性モルタルは、人口ポゾランの効果。焼いた粘土に含まれる可溶性シリカと水を混ぜ、石灰の水酸化カルシウムが反応し、ポゾラン反応を起こす―――と、the・科学と言って差し支えない。
学校の理科の授業をしては理解するのも大変だろうし、実践で行い、実際に固まったモルタルを見せれば、論より証拠―――となる。数式やら反応式やらは必要ない。
因みに、この技法はこちら側の世界でも十分出来る様にと調べた結果《ローマン・コンクリート》と呼ぶ古代ローマで使われたものを採用していたりする。
この山岳地帯では、稀に黒曜石が産出する事前情報や、カズキの地質学の事前調査(採取)をして、簡単に火山性土を用意できる。
立地的にも最高の場所なのである。
「次にろ過装置ですが、使う石や木材は綺麗に洗うようにしてください。材料が汚れていたら元も子もありませんから」
ろ過装置については、事前説明はしている。
組み立て時から見ているし、実際に水を通し、綺麗な水が出てきているのも見てるので問題ない。
「氷池の大きさは―――申し分ないから、大分時間短縮になったよ、カズキさん」
「ふっふっふ。ピカピカのコントロールは大分上手くなりましたよ! 不必要に自然破壊をする訳にはいきませんからね……。メルエムとしても」
「流石!」
最初は、
なので、ノワやオルマシオールと一緒に、ある程度暴れても大丈夫な場所を選出して貰って、そこで付き合ってもらったりしている。
閑話休題。
「―――では、作業を開始してください。必要な物資があれば、今のうちに言ってくださいね」
カズラの号令により、スタート―――となる前に。質問があると職人の1人が手を上げた。
「この先に廃村があると聞いたのですが、そこの建物を解体して、薪として使ってもよろしいでしょうか? 鍋や鍬などの道具も残っていれば使いたいのですが……」
「!!」
「あ……」
廃村の件。
地理に詳しい、土地勘のある者等が居れば、ここに村がある事を知っていてもおかしくない。
でも、想定していなかった。言われて初めて、理解し、そして慌てる。ジルコニアの件があるから。
だから、断ろうとした時、一番早くに前に出たジルコニア。
「構わないわ。好きに使って。ただ、あそこにはお墓がたくさんあるから、それらを踏みつけたり、荒したりしない様に注意してね。余裕があったら、お墓の手入れもしてあげて頂戴」
「畏まりました」
ジルコニアに一礼すると、それを最後に職人たちは動き始めた。
夫々の労働者たちに作業分担をさせていた様で、迷いなく皆が動き始めたのである。
ある程度の穴は開いているので、細かな修正部分がまず始まった。
「ジルコニアさん」
「―――ふふ。大丈夫ですよ」
声をかけたカズキに対し、ジルコニアは振り返って笑顔を見せた。
「昨夜、お別れは済みましたから。……カズキさんのおかげで」
「……はい。そう、ですね」
ジルコニアはそういうと、カズキに近づいて、額を胸に当てた。
誰も見てない(多分)様にして。
「ありがとうございます」
「もう、沢山貰いましたよ?」
「沢山、沢山私が言いたいんです」
「ふふ。そうですか。では、沢山受け取ります。私もたくさん、言いますね? ……ジルコニアさんの味方です」
一連のやり取り。
下心は一切ない、と言えるのだが……はた目からはそうは見えない。
無論、見ているのはひとりだけ。
「な、ななな! お母さま!! カズキっ!?」
そう、リーゼ1人である。
「ふふ。ごめんなさい。少し、躓いちゃって」
「はい。大丈夫です」
ずっとリーゼは見ていた訳じゃない。
後ろから、抱き合ってる? 様にも見えた瞬間に声を上げただけなのである。
あまりにも自然なやり取りを2人は見せるので、訝しがりながらも……。
「む―――。ほんとでしょうね?」
「ほんとほんと」
ニッ、と屈託のない笑みを見せるカズキ。
訝しむリーゼ。実に対照的な2人だ。
「まさか、お母様と不倫……」
「してないから。神様だとしても、
ズビシッ、と軽くリーゼの額にチョップを当てて、笑うのだった。
昨夜の事も、同時に思い返す。
母と父……そして妹。
今は亡き、家族。
悲惨な死を……、その末路を見てきたジルコニアにとって、今も尚、悲願を、復讐を遂げる事が出来てない事に罪悪感を覚え、圧し潰されそうになってしまった事が多々あった。
でも、家族と最後の別れ。
魂が形どり、ほんの一瞬だったが、再開を果たした家族の顔は皆笑顔だった。
会えた事、最後の最後で言の葉を交わす事が出来た事、それだけで幸せだ、と。
最後に、幸せになれ、と背を押してくれた。
それは、復讐など考えずに、自身が幸せになる事を―――と頭を過ぎってしまう。
でも、だからと言って奴らを赦せる訳ではない。
幸せになる為にも―――前に進む為にも。ナルソンと交わした約束、村を手に懸けた仇を取る、本懐を遂げるまでは……。
カズキにそれを包み隠さず話した。
軽蔑されるかもしれない。
思いとどまらせる為に、自分を想ってくれたのに……と顔を暗くさせたが。
【ジルコニアさんの味方】
カズキはそう言って微笑んでくれたんだ。
そして、カズキ自身も綺麗事で終わらせて良い話じゃない事くらい解っている。
対岸の火事、川向こうの火事、川向の喧嘩、……他人事。
痛みを被ってない者が何言ってもダメなのだ。
だからこそ、事情を知る自分が出来る事は見守る事しかない。事情を知っているからこそ。
「カズキ……。じゃあまた、今夜あたり、夜のデートしよ? それでチャラって事で」
「チャラって…貸し借りとか、してたっけ?」
「そ、そもそも、神様が人妻と不倫疑惑持つだけで、だめじゃんっ!」
「わーーー、声でっかい! してないしてない! 冤罪反対! って、わかったわかった。約束するから」
「なら、よしっ」
最終的には、押し切られる形でリーゼと夜のデートを確約。
無論、ムフフな、大人な、ピンクな付き合い―――と言う訳ではなく、夜空の遊泳。空のデートである。
勿論、夜にはグリセア村に向かうから……その辺りどうしよう? とカズキは悩むのだった。