ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

50 / 72
49話 霧の中の邂逅

 

「うーむ……、やっぱしカズキさんと一緒に行ってたら良かったかな? 結構荷物多くなったし、色々相談もしてみたかったし」

 

 

 

 

 

日本に帰還したカズラは、取り合えず先に前回の河川工事の一件で継続的に世話になっている建設会社に赴き、図面の見方・工事内容等の確認をしてきた。

 

仮想工事と言う名目で行われていたのだが、取締役は妙にノリノリ。カズラ自身の羽振りも当然良いから、童心に戻りつつ、自身の勉強にもなりつつ、実際に工事をする訳でもないから、お気楽で楽しく仕事が出来る、と終始頬が緩みっぱなしだったのが印象的だ。

 

山から水道橋~噴水。

町の全域に上下水道引く。

 

 

次々とアイディアを出してはひっこめ、全て実現できるだけの財力と労働力を持ち合わせているカズラだったが、あまりにも内容が世界観離れしすぎているので、丁重にお断りを入れつつ、肝心の河川工事面では、ノートにメモを取り、専門用語を勉強して取り組んだ。

 

如何せん、ある程度の勉強をしておかないと、大きな工事が出来ないし、イステリアの職人たちに説明も出来ない。

 

 

「そうだ、百科事典のソフトも入れとかないと。わざわざ日本に帰って調べてきて、ってあまりにも効率悪すぎるし」

 

 

当然ネット環境の無い世界。

本で学ぶ事は出来なくもないが、ネットのありがたみと言うのが今更ながらわかるというものだろう。

 

 

「ふっふっふ、なんといっても一番の収穫、一番の目玉はソフトウェア会社! 異世界(アルカディア)の言語で書き込めるソフト作成も完了した事!」

 

 

イステリアにパソコンを導入して活用しているのだが、如何せん日本語ベース。ローマ字とか日本語とかは、イステリアではただの暗号にしかならない。

勉強熱心で、速攻で覚えてしまうバレッタの様な天才が何人もいるならまだしも、あそこまでの天才はイステリアでもいないから、簡単にパソコン操作を覚えてもらう、なんて無理なのだ。

 

そこで最大級の効力を発揮するのが《オリジナルフォントを作って、それに文字などを連動させる》事だ。

 

 

パソコン業務を覚えてくれれば、飛躍的に作業効率が増す事間違いない。

印刷機だけでも、革命が起きるレベルだ、とナルソンが言ってた様に、その印刷機に描く文字を自分達で入力する事が出来るのなら、………もはや革命超えちゃうかもしれない。

 

 

 

「ふふふ……、取り合えず まぁ、現実逃避はこの辺にして、と」

 

 

 

盛大な独り言をいったんカズラはやめた。

自分の家だから、周囲には当然誰もいないから出来る事だ。

 

今日1日、日本で購入してきたもの。

 

 

食糧(オルマシオール)

酒類(バリン達他)

 

 

 

段ボールに沢山入れて買ってきたのは良いが、これまでは2人で運んでいたという事と、1人は圧倒的な力を持つ人だったという事をすっかり失念してしまっていたのだ。

 

山の様に積み上げられた段ボール箱、どうにか屋敷へと入れる事は出来たが……。

 

 

「農業運搬車の出番、だよなぁ」

 

 

当然 手でもって入国なんて大変すぎるから、肥料を何トンも運び、大活躍をした農業運搬車の出番だ。

軽トラックでも購入した方が良いか? とも思ったが、今大量に物資を異世界に運べるものは、農業運搬車しかない。

 

 

ただ――――それでも一人で積み込む作業も大変なのだ。

 

 

カズラは暫く荷物の山と目で格闘した後。

 

 

 

 

 

 

「―――――うん。応援要請しよう」

 

 

 

 

 

 

 

日本に行く前は、買い物大丈夫だから~~とカズキを置いてきたのに(リーゼ達の為とは言え)、今更手を貸して欲しい―――なんて、情けない気もするが、こうなったら仕方がない。

今か今かと待っている皆の為にも……恥を忍んで頼み込もう、とカズラは決めて、一先ず異世界へとつながる扉を開けて、アルカディア王国へ。

 

 

 

時刻は、日本時間で18時30分程。

 

 

 

「急がないと。バレッタさん達にもあまり時間かからない、って言っちゃったし」

 

 

買い込んだ荷物はとりあえず屋敷へ置き去り。

ボストンバッグだけを片手に、小走りで向かうと……。

 

 

「お、雨降ってたのか」

 

 

一面水浸しの地面が広がっているのが目に見えた。

どうやら、かなりの大雨だったらしく、あちらこちらに小さなぬかるみが出来ていた。

 

 

「ん。このくらいなら問題ないか」

 

 

だが、農業運搬車が泥濘に足を取られる~までの心配はなさそうだ。

 

ただ、その代わりに大変そうなのは。

 

 

「……こりゃ凄い。初めてみたここまでの霧は」

 

 

ぬかるんだ地面、そして数m先さえキチンと把握できない程、雑木林にかかる濃い霧。

 

まだ日本では夕日が差す時間帯だというのに、こちら側では完全に日が落ちてしまっているので、一寸先は本当に見えない闇状態。ペンライト程度じゃどうにもならない。

 

 

「……ピカピカの実ってほんとにすごいよなぁ」

 

 

こんな時に、ぼそっ、と口に出してしまうのはやっぱり、カズキの能力。

ピカピカの実ならば、霧くらい簡単に吹き飛ばしてしまいそうだし、そもそも、森全体に明かりをともす事だって容易だろう。

村人やイステリアから来た皆が驚きそうだから、そこまで大規模な事はしないが、少なくとも、こんなペンライトとは比べ物にはならない。まさに月とスッポン。

 

 

 

でも、村までの道のりは一本道。迷う事なんてないだろう、とそのまま雑木林へと足を踏み込み――――。

 

 

「やばい。迷った」

 

 

カズラはものの見事に遭難してしまった。

まっすぐに歩いていた筈なのだが、どうやらこの霧でホワイトアウト状態となってしまった様だ。

 

 

「―――森で野宿かぁ。朝になって霧が晴れれば良いんだけど、と言うか霧が晴れても森から抜けれるかな? ……こう言う時、携帯が使えないのって凄く不便。おまけにオレ頼り過ぎだろ、カズキさんに」

 

 

例え霧が深くかかっていたとしても、例え現在位置が解らなかったとしても、電話して助けを呼べば一瞬で解決だ。

 

……あまりにも頼り過ぎな思考を持ってしまっている事を今更ながら恥じる。

 

形上ではあるがお給金を出しているし、本人も働く気満々やる気十分だったから、沢山頼ったのだが……、一人では何もできない駄目神様になってしまっては目も当てられない。

 

 

「いない人便りとか、情けないの通り越してる。兎に角、朝になったら生木を燃やして狼煙でも上げようか。自分に出来る最善はソレだな……」

 

 

ポケットに常備していたライターを擦る。

しのばしておいて本当によかった、と安堵する。

 

 

「……そういえば、ここの森で初めてノワールさん……、オルマシオールさん達に出会ったんだっけ? 今じゃいろんな所に散ってるらしいけど……」

 

 

ぬかるんでいない木の下に腰を掛けて、カズキが言っていたことを思い返した。

 

カズキは最早ウリボウ使いと言っても良いくらい手懐けていて、カズラの事に関してもちゃんと言っているらしい。

更に言えば、定期的に御馳走をふるまっているから、もう普通の動物の肉、それも人間の肉なんて美味しいと思えなくなってしまった、らしい。

加えて、なんといってもカズキの匂いがカズラからもおそらくする筈だから、遭遇したとしても襲われたりしないだろう。

 

 

「――――……って言っても、虎サイズの犬、なんだよなぁ……、某山犬くらい大きいって話の」

 

 

幾ら襲われないと言っても、恐怖心はある。

恐怖そのものだと言って良い。

軽く口を開ければ、人間の胴体なんか簡単にすっぽり入ってしまい、更にその俊敏な脚力を考えれば、あっと言う間に間合いを詰めて攻撃されかねない。

 

 

悪い風に考え過ぎて、寒気がしてくるカズラ。

 

 

 

「大丈夫、大丈夫……。うん、バレッタさんやカズキさん、皆に心配かけちゃってるし、帰る事に集中しない、と……」

 

 

 

頭では色々と考えている筈なのに、木に背中を預けて、体重をかけると……どうやら昼間の疲れが出てきた様だ。次第にうつらうつらと船をこぎ始めた。

 

 

「―――――カズラ様、カズラ様」

「ん………」

 

 

カズラがそのまま寝入っていると不意に声を掛けられ、身体が揺すられる。

寝ぼけた目で顔を見上げてみると、そこには遠出用の軽装に身を包まれた若い女性がカズラの肩に手をかけていた。

 

 

「良かった、気づかれたようですね。お怪我はありませんか?」

「あれ……? ひょっとして私の事を探しに来てくれたんですか?」

「はい。カズラ様の事をよろしく頼む、と仰せつかっておりますので」

「私を? ……えと、すみません、初めて会いますけど、部隊の使用人の方、ですよね? 頼んだのは、アイザックさんとか?」

「あ、いえ、私は――――」

 

 

ここでハッキリとカズラは彼女の全体像を見た。

その肩よりも長い黒い髪は、色艶が出ていて鮮やかの一言。加えて黒い瞳も印象的だ。

松明の炎に揺られて、彩られた彼女は、何処かミステリアスさも醸しだしていて、非常に魅力的な人だとカズラは思った。

 

だからと言って、初対面から口説いたりはしないが。

 

 

「オレですよー、カズラさん」

「うわっ!?」

 

 

そんな時だ。

ふわりと上から降りてくるのと同時に、声をかけられたのは。

 

無論、よく知る人物。何せ凄く光ってる。

こんな濃霧状態の中で、これほどの輝きを見せるのは、この世界でも日本ででも一人しか知らない。

 

 

「カズキさん!?」

「はい! お疲れ様です」

 

 

ニッ、と光と共に笑顔で降りてきたのは、光の化身カズキである。

 

 

「ノワ。カズラさんが見つかったら直ぐにオレに知らせて、って言ったのに」

「すみません。私もカズラ様とお話をしてみたかったのでつい……」

「え? ノワ? それって……」

 

 

降りてきたかと思えば、親しそうに女性と話すカズキ。

別段珍しい光景ではないのは確かなのだが、引っかかるのはその名前である。

 

確かに、カズキの口から【ノワ】と言っていた。

 

 

「もしかして……、ノワールさん? カズキさんが名付けた、黒いウリボウの……」

「はいっ! その通りです」

 

 

ノワは嬉しそうに返事をした。

カズキから頂いた名前、嬉しくて仕方がない、と言わんばかりに。

 

実際に会ってみると、非常に綺麗、美人と言って良い容姿だ。

そんな彼女が、実は黒いウリボウだった―――なんて、誰に言っても信じてもらえないだろうな、とカズラは思う。

 

 

因みに、名を嬉しそうにしているノワを後目に、少々気恥しそうにするのはカズキ。

 

 

「実はカズラさんが戻ってきたのは解ってたんですよ。オレがハクに……ウリボウ達にちょっと余計な事言っちゃってたので……」

「え? 余計な事?」

 

 

カズキには探知能力~の様な力は出来るのかもしれないが、今の所はやろうとしてないし、やるつもりもなく、カズラも知らない。

だから通常であれば、カズラの異世界帰還などカズキに察知する事は出来ないとされている――――筈だったのだが。

 

 

「カズラさんが、また美味しい日本のごはんを持ってきてくれるよ、ってハクたちに言ったんです。そしたら、多分カズラさんが戻ってきたタイミングだと思うんですけど、嬉しそうに森の中に走って行っちゃって」

 

 

苦笑いしながら話すカズキ。

聞き入っていたカズラだったが、次第に目が慣れてきたのか、或いはカズキの光のおかげなのか、うっすらと濃霧の向こう側に幾つもの大きな影があるのに気付く。

 

 

 

 

「きゅおんっ!」

 

 

 

 

そして、その中の1匹が濃霧の中をかけて、中にまで入ってきた。

 

 

「うわわっ!?」

「ってコラ! ハク! ステイ! ハウスっ!」

 

 

クンカクンカ、とカズラに向かって鼻を摺り寄せる。

カズラの現在の状況をハッキリ知っているカズキは、どうにかハクを宥めた。

 

 

「ちょっと待ってってば。ほら、カズラさん何も持ってないだろ? まだご飯はお預け! つーか、ちょっと前に食べたばっかりだろ?」

「きゅん………」

 

 

今の今まで尻尾を勢いよく振っていた筈なのに、確かに、カズラからは美味しそうな香りがしてないのと、カズキの言葉でごはんがない、と悟ったのか、尻尾も垂れ下がり、寂しそうに後ろに下がって腰を下ろした。

 

 

「すみません、カズラさん……」

「あ、あははは。ちょっと呆気にとられちゃいましたけど、大丈夫ですよ。オレもノワールさんとは一度会ってお話してみたい、って思ってましたし。どのみち、この霧が晴れるまで、少なくとも朝まで待つつもりだったのに、とても助かりました」

「あ、いや――――その……、実は、この霧もノワの仕業で……」

「へ?」

 

 

カズキはそう言うと、申し訳なさそうにノワが一歩前に出た。

 

 

「申し訳ありません、カズラさん。私達が貴方と話をする為に、少し術を施しまして……私達のいるこの辺り周辺の人間は、意識を保つ事が出来ない状態となってます。この霧は、その影響で……」

「え? これ術……? えっと、催眠術、みたいな?」

「言いえて妙ですね。今頃、この森周辺にもしも人がいたら、皆眠ってると思います。何せ人目を忍んで色々と行動しないと、……ほら、皆の姿見られただけで、大騒ぎになっちゃいますから」

「ああ、たしか……に、……………お? …ぉぉぉ、………確かに、それもそうだね……」

 

 

 

大騒ぎ、と言う言葉を聞いて間違いない、と確信した。

何故なら、前方より……ずし、ずし、と大地を揺らさんが如く、更に一際大きなウリボウが姿を現したからだ。

本当にデカい。

確かにデカい。

物凄くデカい。

 

セリフを言ってもらうとすれば、【黙れ小僧!!】が物凄く似合いそうな風貌だ。

 

思いっきり頭からかじられそうな勢いだ。

 

 

 

「貴公がグレイシオールだな!? 私は今、オルマシオールと名乗っているこの者達の長だ。まずは礼を言わせてくれ!」

 

 

「ひょあぁっ!?」

 

 

厳つい風貌、猛獣と言った雰囲気――――な筈だったのだが、物凄くフレンドリー。

先ほどのハクと呼ばれたウリボウばりに尻尾を揺らし、涎も垂らし、物凄い勢いで顔を近づけてきた。

元々圧倒されてた上に、今度はこの勢い。……思わずカズラがのけぞって尻もちをついた。

 

 

「オルマシオールも落ち着いて……。ハクにも言ったけど、今はごはん無いからね? カズラさんボストンバッグ以外手ぶらだし。そんな匂いしないでしょ?」

「あ、いや、その……それはそう、なのだが。解っていたのだが、……すまない。……抑えきれなかった」

「ほんと、いつの間に皆して食いしん坊キャラになったのやら……。(まぁ、ごはん前にした犬って感じと言えばそうかな……)っとと、カズラさん、大丈夫ですか? なんかすみません」

 

 

尻もちをついたカズラを引っ張り上げるカズキ。

確かに圧倒された。

 

霧の件から、遭難しかけて驚いて、更に見知らぬ女性が現れて、カズキも現れて、驚きの連続――――だが、ここまでくると、もう笑うしかない。

 

 

 

「あ、あははははは。大丈夫ですよ。何だか皆さん、ほんと親しみやすくて親しみやすくて。実の所会うのは結構緊張してたんだけど、どっか行っちゃいましたね」

「……これでも最初は大変でしたんですがねぇ」

 

 

 

大層な歓迎をしてくれたカズキは、最早...遠い記憶だ、とちょっぴり懐かしみ、それとなく聞いていたノワとハクが申し訳なさそうにしていたので、しっかりあとフォローもするのだった。

 

 

 

 

「ほいほいっ、っと」

 

焚き木をかき集めて1つにまとめ、指先から【弱ビーム】を発射。

濡れていても、ここまでの光熱(・・)なら問題なし、ノワが持っている松明も問題なし、あっと言う間に火が付いた。

 

 

「凄いですよね……やっぱり。あ、その能力使う感覚ってどんななんですか? 結構気になってたんですけど、聞けてなくて」

 

 

光を操ってるカズキを見て、いくつか浮かんでいた疑問をカズラが投げかける。

そもそも、ファンタジーな力、アニメな力、漫画な力である特殊能力は一体身体の何処に力を込めれば良いのか? 皆目見当がつかないのだ。

 

某ゴムな身体の人間は、思いっきり腕を引っ張ったらそのまま伸びる――――と解りやすい部類ではあるが、光人間は身体の何処に力を入れたら光になるのか皆目見当もつかない。

 

 

「あ、そこやっぱ気になりますよね? オレもそうでしたし」

 

 

あはは、と笑いながらカズキは説明。

VRゲームをし始めたころは、カズラの様な疑問は少なからず頭の中にあった。

 

この世界は、VRゲームとは違うから、100%同じ……とはならないと思うが、大体は同じだろう。

 

 

「簡単に言えば、イメージ、ですかね? 自分は指先からビーム出せる~、身体から光出せる~~って、頭の中でイメージして、トリガーを引くイメージもする。すると、現実に顕現します。なので、力を籠める~~って言うのは特に無いかな?」

「おぉ……、なるほど。イメージですか。イメージ、イメージ……。それも結構重要そうですよね。力をコントロールするって意味じゃ」

「それは勿論! なんたって光人間ですよ? 気を抜いちゃったら、あっと言う間にグリセア村どころか、隣国の空にまで行ってしまいますし、下手に見られたら大騒ぎになりますし、その辺は気を使っちゃいますね。もう慣れてきてますが」

 

 

カズキは、以前の事業で山の中に氷室様の穴をあけた事や井戸掘りの穴などの事を思い返しつつ告げた。

光……、電気の無い炎の明かりで生活するこの世界において、光は強烈過ぎる。

だから、目立たない様にそれとなく練習したりしていた。……だが、それでもあの光爆発(笑)は、無理なので、皆が見てないであろう、眠っているであろう時間帯を狙って発射したのだ。

(ちなみに、その光を何名か見ていて、拝んでいた事をカズキは知らない)

 

 

「カズキ様のお力は本当に神々しいですよね……。永らく生きてきた私達ですが、比肩するものがありません」

「あはは……そりゃもう。?? ノワさんは、ノワさん達はそんなに長く?」

 

 

ノワの言葉を聞いて、気になるポイントがあったので、光については終わりにし、ノワの方を見た。

女性に年齢を聞くのはどうか、とも思ったが、特殊な事例である事は間違いない筈なので、意を決するカズラ。

 

 

「そうですね。かれこれ千年程は」

「――――――――――」

「スケール、違うでしょ? そりゃ、ウリボウだって話す様になったり、人化の術やら催眠術やらを会得したり、色々出来るようになっても不思議じゃないって、思いません?」

「……だね」

 

 

猫も●●●年生きれば化け猫、妖怪の類になる、と言う伝承も少なからず日本でもあるのだ。勿論、彼女達を妖怪、などとは呼びたくはない。言うなら――――。

 

 

「精霊、ってイメージが近い、かな」

「賛成です。色んな術が使える中で、人の魂を看取ったり、送ったり出来る所も見てますから。イメージぴったりです」

「そう、ですね」

 

 

あはは、と笑う3人。

因みに、ハクやオルマシオールは一応周囲の警戒をしている為か、話の輪の中には入って来ない。

別に来ても良いのだが、彼らも色々と気を使っているのか、或いはごはんがないからか、のどっちかだ。多分後者の方なのでは? とも思ったりしている。

 

 

「すみません。カズラさんにも、聞いておいてもらいたい事がありまして」

「? はい、構いませんよ」

 

 

軽く笑みを浮かべながら談笑を続けていた時、ノワの声の雰囲気が変わる。

それは真剣なものだった。

 

 

「後、4年です。本来なら、後4年で、沢山の命が失われる事になっていたんです。―――人も、獣も、大勢」

「4年? ……ああ、それって休戦協定の期限切れまでの事、でしたよね? ……ちょっと待ってください。失われる事(・・・・・)になっていた(・・・・・・)って、どういう……」

 

 

バルベールとの休戦条約についてはカズラも知っている。

だから、ジルコニアも特に警戒し、確定の様に言っていたが、それは攻め込まれるのが確定している訳だった。

 

でも、ノワの言い方ではまるで、滅んでしまう……、アルカディア王国が滅んでしまう様な言い方だったから。

 

 

 

「はい。全ては決まっていたんです。攻め込まれて、追い立てられて、何もかも焼かれて、それでおしまいだったんです。……ほんの数か月前まで、すべて」

 

 

 

ノワは悲しそうな顔をしていた。

だが、それも直ぐに息をひそめる。

 

辺りに立ち込める濃霧に負けない程の輝きが、直ぐ横で発生したからだ。

それは目が眩むほどの強烈な輝き―――の筈なのに、不思議と痛くない。そして何より温かい。

 

 

 

「それは全部過去(・・・・)だよ。もう過ぎた悪夢に過ぎない。……オレ達がいる。絶対、絶対にそんな事にはならない」

 

 

 

全て焼けて終わる。

国も家も物も……人も。

 

 

この世界で出来た大切な人たちの未来が永遠に閉ざされ、笑顔が苦痛に満ちた、絶望に満ちたモノへと変わってしまう。

 

 

何の原因でこの世界に飛ばされたかはわからないが、そんな事は絶対にさせない、とカズキは(イメージ)を強く籠める。

 

 

 

「はい。その通りですね。変な言い方をしてしまってすみません」

 

 

ノワの顔色が変わった。

真剣なものから、柔らかくほのかに赤い顔。まるで慈しむ様なそんな顔に。

 

 

 

「カズラ様がいらっしゃって、どんどん霧が濃くなって何も見えなくなって……、カズキ様がいらっしゃった後は、霧の中に一筋の光を視ました。もう、そこには焼かれた国も、人も、ありませんでした」

 

 

 

いつの間にか、ノワの傍にはオルマシオールが、ハクが、皆が揃っている。

 

 

 

「私達の未来も、明るくなったんです」

 

 

 

ノワはまた笑うと、カズラを見た。

 

 

「改めて、お礼を。……助けてくださって、ありがとうございます」

「あ、いえ、そんな……。オレが出来る事なんて、カズキさんに比べたらちっぽけで……」

「そんな事無いですってば。オレが出来ない事をカズラさんがして、カズラさんが出来ないことを、オレがしてるだけです! 二人三脚、で良いじゃないですか」

 

 

座っていたカズラをカズキはひょい、と起こした。

 

 

「ノワ、そろそろ?」

「はい。その通りです。……霧が晴れます。長く術を使い過ぎていた様なので」

 

 

 

カズキがノワにそう聞くと、いつの間にか、ノワが持っていた松明の火が一瞬で消失。

カズキが起こした火だけが残り、火の照らす範囲が狭くなったかと思えば、オルマシオール達の姿が掻き消えた。

 

闇に同化した、と言うのが正しいだろう。

 

 

 

【我々も、深く感謝を】

 

 

 

その言葉だけを残して。

 

 

「しっかり、オレに捕まっててくださいね? カズラさん。足に力が入らないかもしれないので」

「え? ぁ……ぁれ?」

 

 

カズキに言われるまで気づけなかった。

自分の足で立っていた筈なのに、まるで地面が無くなってしまったかの様な浮遊感に襲われると同時に、足から力が抜けてしまった。

カズキが支えてくれてなかったら、また尻もちをついていた事だろう。

 

 

「催眠中みたいなもの、ですからね。よいっしょっと」

「っ……、あ、ありがとう」

「いえいえ。皆。ごはんはまた明日、って事で」

 

 

カズキがそういうと、先ほどまで神秘的? ファンタジー? な雰囲気を演出していた筈なのに。火の光が消えて、闇に溶け込んで、声だけがして――――相応の雰囲気だった筈なのに、へにゃ、っと崩れ落ちた。

 

尻尾をぶんぶんと振らす音、涎を垂らして、ハッハッハッ、と鼻息が荒くなる物。更に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かたじけない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルマシオールの一際大きな声。

何だか楽しくなって、今すぐにでも取りに帰りたい気分になった程だ。……流石に、この状態での運転は危ないので、実際には行わないが。

 

 

「ノワ。カズラさんはオレが送っていくから」

「はい。今日は本当にありがとうございます」

 

 

ノワとの別れの挨拶後は、完全に気配も消失。霧も晴れて、一寸先も見える様になって――――直ぐに森を抜ける事が出来た。

 

あれほど歩いた筈なのに、抜け出れる気配さえしなかったというのに、ほんの数m先に行けば村の門、松明の明かりが見える。

 

 

ここまでくれば、カズラもすっかり調子を取り戻したようで、軽い足取りでバレッタやバリンのまつ屋敷へ。

 

 

「おかえりなさい、カズラさん。カズキさん。ご飯できてますよ」

「ああ、ありがとうございます。バレッタさん」

 

 

どうやら、時間感覚にも干渉してくる様だ。

少なくとも、もう夜遅く。深夜になっているだろう、と思っていたのに日本から帰ってきてまだ1時間もたっていないのだから。

 

 

カズキは軽くウィンクをする。

あまり、妄りに神との謁見? の様なものを話さない方が良い、と言う判断。

バリンが下手な気を遣う可能性もあるし、何よりバリンとは今日は酒盛りの約束がある。

 

 

「おお、カズラ様、カズキ様。これは失礼をしました。すっかり寝入ってしまってましたな」

「流石バリンさんです。――――ひょっとして、この匂い、香りに感づいて、夢の世界から戻ってきましたか?」

「!!!」

 

 

ひょい、と取り出したのは、カズラに頼んでいた銘柄の酒。

大量の食糧はまだ運べていないが、酒類、バレッタに頼まれていた本などは、ボストンバッグに入っている。

 

それをスルスルスル~~っととりだしたら、バリンは子供の様に目を輝かせた。

 

 

「お、おぉぉぉぉ!?? た、確かに夢見ておりました! よろしいのですか!? 本当に宜しいのですか!?」

「はい、勿論! って言いたいですが……構いませんかね? カズラさん」

 

 

買ってきたのはカズラだ。

まるで、自分が御馳走~かの様に言うのはちがうな、と苦笑いしつつ、カズラの方を向くカズキ。

無論、カズラがそんな意地悪を言うわけもなく。

 

 

「よろしいので、好きにやってください」

 

 

ニッ、と笑う。

するとバリンはカズキから受け取った酒瓶を抱えて踊りだし――――そうな勢いで喜んで、新しい升を、人数分の升を取りに行った。

 

 

 

「オルマシオール様とは……?」

「はい。会えましたよ」

「バレッタさんの事はバッチリ伝えてますし、聞いてますからね? 【よくやってくれている】との事です」

 

 

会う事は、バレッタも知っていた。

カズラを迎えに行くカズキから聞いていたのだから当然だ。バレッタも相当気にしていた様で、ほっと胸を撫でおろし、頭を下げていた。

 

 

 

「カズキさぁん! カズラさぁん!!」

「は、はははは。バリンさん、そう慌てないで。何処にも逃げませんって」

 

 

実際に、升を手に、小躍りしながらスキップしながらと忙しいバリン。ずっこけたりはしないだろうが、少々危なっかしいので、手を貸す為にカズキは立ち上がった。

 

 

「聞いていた通りでした」

「聞いていた通り? えと、それは私の……」

「いえいえ。違いますよ。オルマシオールさん、と言うよりノワさんの事ですね。凄く綺麗な女性でした」

「――――――――」

「えぇぇ?」

 

 

 

なんでそんなことをバレッタに言っちゃうの?

 

と一瞬思ったのは言うまでもない。

 

確かに、ノワールたちと話をしていた事、既に決まっていた未来については黙ってよう。明るい未来の話だけを伝えよう、と打ち合わせはしていた。

そもそも、戦争の話は良い話じゃない。バレッタの母、バリンの妻もその戦争で亡くしてしまったのだから、戦争関連の話はNGで、とも言ったが……、まさかバレッタに面向かって開口一番、【ノワは綺麗だった】なんて……。

 

 

「ちょ~~っと、デリカシーが……」

「これは美味しい!! ほらほら、カズキさんも!」

 

 

「あ、あれ? バレッタさん?」

「知りません」

 

 

完全にご機嫌斜めになってむくれてしまったバレッタを窘めるのに、時間を要し、次第に男3人で酒盛りまで始まってしまった。

 

 

最終的には朝までまっしぐらコースとなり――――最後はぶっ倒れるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。