ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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52話 嫌なヤツ

 

 

「お待たせしました、ルートさん」

「!! ハッ! カズキ様もお疲れ様でございます!!」

 

 

やっぱり、アイザックの……スラン家の血筋だなぁ、と改めて思わされるのがこのルートだ。

昨日今日の付き合いじゃなく、それなりに長く一緒に夜間訓練をしてきた間柄だと言うのに、未だに慣れる事がなく、出会った直後から直立不動&敬礼。

フランクに、普通に、なんだったら友達に、が心情のカズキも流石にルートやアイザックは、そういう性分なんだ、と半ばあきらめて笑っている。

 

 

「ふふ。どうです? 身体は鈍ってませんか?」

「ハッ! ご心配をありがとうございます! 私は日々の訓練を欠かしたことはありません! 大丈夫です!」

「ですよね。じゃあ、始めましょう」

 

 

無から有を、光の剣を形成するカズキ。

これはルートじゃなかったとしても仕方がない事。あまりに神秘的だから、昨日今日じゃない、と言われても恐らく年単位の付き合いだったとしても、この神々しい光景に慣れを生じさせるなんて有りえないと断言できる。

 

 

「よろしくお願い致します!!」

「あ、勿論終わったらしっかり秘薬飲んで貰いますからね? これは(メルエム)の指示です! 拒否駄目です」

「りょ、了解であります!」

 

 

秘薬事リポD。

 

最初こそ、そのような貴重なモノを、おいそれと受け取れませんっ! と拒否をしていたルートだったのだが、毎日の訓練に加えて復興事業にも尽力を尽くし、更には時折力を抜いて休む事も大切だと言うのに、生真面目な遺伝的な性格が災いしたのか、不眠不休で働き続けてる。アイザックも見習う~と言いつつ働き続けてる。

 

これで、復興の兆しが見えない類ならば、途中で倒れてしまっていたかもしれないが、現在、完璧に目に見える形で復興が進んでいき、国が持ち直すどころか、歴代稀に見る復興を遂げる神話にも刻まれそうな歴史の場面に立ち会い、働ける事が出来てきる! と、嬉しさのあまり謎パワー全開でやっちゃってくれてるのだ。

 

誰かが強制的にでも休ませてあげないと、正直ヤバい、と思ったのはカズラ&カズキである。

なので、一番権限があると言っても過言ではない神々からの信託ともなれば、ルートやアイザックも拒否は出来る訳もなく、だ。

 

働けば働く程潤うなんて、まさにバブルか……。

 

 

「おおっ、今の踏み込みは素晴らしい! 太刀筋も驚きましたよ。日に日に上達していってるとはこの事なんですね」

「はっ! ありがとうございますっっ」

 

 

剣術には型と言うモノが存在し、基本の型から応用まで、ルート自身にはまさに身体にしみ込ませている。

だが、型に囚われすぎると、ある程度知る者ならば読み易い攻撃になってしまうだろう。

特に、戦闘が基本な世界を行き来し続けてきたカズキにとっては猶更で、ある程度の読みを駆使して、剣をさばいていたのだが、ここにきて意表を突く攻撃やフェイントを織り交ぜてきたルートに目を見張った。

 

決して侮ってる訳ではないが、それでもこんな忙しい時期での急成長。曲がりなりにも稽古をつけてる側とすれば嬉しくなってくる。

 

 

「では、そろそろ私の二刀を受けてみますか? アイザックさんやハベルさんがやってたヤツです」

「―――――えっ!! ほ、本当ですか!?」

「え、ええ。(別に勿体ぶってた訳じゃなだけど……、基本の型が二刀だったし)」

 

 

どうやら、ルートの中では昇格試験? を超えたらカズキの本気(疑)モードと対戦する事が出来る、と言う認識だったらしい。

だから、アイザックやハベルはもうその域までいっていると言う事で、自分も追いつかなければ、と目標とし日々精進していた様だ。

 

 

「(何だかルートさんに悪い事しちゃってた? でもそれがモチベーションになってたって言うなら、そう悪い事でもない……かな?)」

 

 

ぶんっ、と再び光の剣を、二本目を形成。

 

 

「おおおっ――――!!」

「(そ、そんな子供の様な、キラキラした熱い視線を送られちゃったら……)で、では」

 

 

熱烈な視線、憧憬の眼差し、加えて熱心な信仰心。

それらを一身に受けたカズキ……、今も尚、子供の様に向けられ続けているカズキは それに応えてあげよう、と満更でもない様子で意気揚々と己の力を見せ、胸を貸し続けるのだった。

 

―――因みに、その後アイザックとハベルが合流。更に賑やかになったのは言うまでもない事であり、いつも通りの光景である。※業務の都合上、残念無念な様子のジルコニアは欠席。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁ~~~……、なーんかオレだけこんなゆっくりしてて良いのかな、って思っちゃうなぁぁぁぁ………、まあ、やるべき事はやってるつもりだけどぉ……」

 

 

荷解きを終えて、ある程度の汗をかく仕事を片付けたカズラは、先に風呂に入らせてもらった。

大理石で拵えてある浴場の広さときたら、思う存分羽根を伸ばせると言うモノで、色々と配慮をしてくれているのか、使用中なのは一人だけ。直ぐ外でマリーが待っている事を考えたら、少々気恥ずかしさも覚えなくもないが、その辺はそろそろ慣れも出てきている。

(エイラは、カズキ達の夜の訓練の見張りに立っている)

流石に脱衣所にまでは入って来ないし、男女で分けられてる訳でもないので、他の誰かと(異性)バッタリ――――なんて事も起こらないから大丈夫だろう。

 

そんなラッキースケベなイベントが起きてしまったら、未来永劫弄られてしまいそうな気がして止まない。なぜか100%の確率でバレッタにバレてしまう未来も視える。

 

 

 

「ぁぁぁ………、ほんと良い湯………」

 

 

 

それは兎も角、邪な念はこの極楽浄土には無用。

身体の芯まで温もりを堪能し続けるカズラだった。

 

 

 

ある程度さっぱりした所で着替えて部屋に戻る。

パソコンのセットアップ、オリジナルフォント作りなど、デスクワークはまだまだ残ってるので、眠たくなる前にある程度片付けておかないといけないから。

 

 

「ん? おお、クッキーだ。誰からだろ? ……それと、手紙?」

 

 

開いてみると、そこにはエイラの名が記されていた。

 

 

『お疲れ様でございます。本日は夜のお茶会の開催が業務の都合上、出来そうにないとお聞きしましたので、クッキーをお持ちしました。よろしければ食べてみてください』

 

 

 

「ぉぉ……、簡単に文字教わっといてよかった……。ホント、エイラさん達だって忙しいだろうに、ありがたい。―――――いただきます。……美味いっ」

 

 

さくっ、と良い歯応えと塩味が聞いた味付け。聞いていた通りの甘さがないこの世界のクッキー。それも美味しい。酒のつまみにもってこい! だと言えるが、生憎まだ業務が残っているのでそれはおあずけ。

 

 

味を堪能しつつ、用意するのは当然パソコン。

パソコン本体のセットアップはある程度は日本で終わらせてきたから、後は電源を繋いで起動して――ソフトをしっかり確認するだけだ。

 

 

「なになに……、オリジナルフォントを造ろう……、手書きの文字をスキャナで取り込む……、これって字が綺麗な人がやってくれた方がありがたないな。お世辞にも上手いとは言えないし。オレ達」

 

 

デジタル時代。

学生時代に培ってきた硬筆、書道などはどうしても衰えている。

だが、こちらの世界はアナログが主流だから、皆字が上手いのだ

 

 

「ふむふむ、意外と簡単だ。聞いてた通り。後は文章作成ソフトとかに作ったフォントを対応させれば良いってわけか……、書類作成の効率も向上しそうだ。……うーむ、エイラさん達にも手伝ってもらえたら……、あ、不味い。それだとパソコンから覚えて貰わないといけないか。直ぐに頼めそうにないなぁ。…………上手く使える人って言ったら、カズキさんだけど、これ以上ないくらい働いてくれてるし、こういう事務仕事を任せるのって違う気がするし……………やっぱり、頼れるのはバレッタさん、かなぁ」

 

 

色々試行錯誤したり考えたりしていくうちに、最後に思い浮かべるのはバレッタの存在だった。無論、好意を持ってくれている事やくっつけようとしている周囲の事もあって……と言うのも否定できないが、何よりバレッタは天才なのだ。

直ぐに覚えてしまい、日本の知識もみるみる内に吸収。百科事典を手にしたバレッタは、最早その辺の大学生どころか……学者レベルと言ったって良い。

 

 

「……傍にいてくれたら最高に心強い。……この際、色々言われるのは十分目を瞑れるくらいには最高に心強い。―――――でも、居ないもの強請りだよなぁ。十分過ぎる程恵まれてるってのに、何言ってんだって感じ。……これ以上は罰が当たりそうだ。グレイシオールなのに」

 

 

自虐ネタを入れるカズラ。

そもそも、今はカズキも居る。その上バレッタまでとなったら、まさに文武両道……、文のバレッタと武のカズキ。

そんな2人を常に手元に、なんて強欲が過ぎる。

 

 

「それに村の人にはなるべく迷惑をかけない、って決めたのはオレ自身だ。その辺はカズキさんも解ってくれてるし、さっさと済ませれるトコだけやっちゃおうっと」

 

 

夜はまだまだ長い。

パソコン関係が終われば冷蔵庫内のチェックと補充。

外に耳を澄ませてみれば鍔迫り合いの音が重なって聞こえてくる。

 

今も尚、動き続けてる人達がいるのだから、とカズラも身体に力を入れ直して、仕事をし続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

 

 

「では……、昨晩の話の続きですが、まず水車の件についての面会。それは私が対応致します」

「お願いします」

「よろしくお願いします」

 

 

色々と探りを入れられてくる現状で、やはり領地のトップであるナルソンからの説明の方が説得力が遥かに増す事だろう、異議があるわけもなく進行。

 

 

「水車はイステリアの技術者が作った事にする予定です。職人たちと口裏も合わせてあります。幸い、手押しポンプや製材機などは試作機ができたばかりで話は漏れていない様です」

「え、それってまだかかりそう、って言ってたヤツですよね? もう出来ちゃったんですか」

「ええ。職人たちは 頑張ってくれました」

 

 

職人の頑張りは当然だが、それに加えて、ここでもリーゼの活躍もある。

日頃の行い、人柄、それらが全面に良い方面に言ってるリーゼからの激励や労いの言葉は、身内の万の賞賛にも勝るものだ。

 

 

「それは良かった……。試作機の方はどんな具合です?」

 

 

カズラもカズキ同様、もう少し時間がかかるものだと思っていたので、嬉しい誤算に頬を緩ませた。

 

 

「はい。製材機と既存の水車を改良した動力水車の試作機が完成しまして、とりあえず使用に耐えられそうだとのことです。ですが、手押しポンプの動作に少々難があり、水漏れが発生して動作不良を起こす事もある、とのことで」

「なるほど……、因みに、どの部分が駄目だったりします?」

「制作当初は問題なく動作していたとのことで、何日か使わずにおいておくとピストン部分から水漏れが起こると職人は言っておりました。恐らくはピストンに使用している木材が乾燥すると収縮してしまう事が原因だろうとの事で、替えの部品を用意しておく必要があるとのことですな」

「試作機ですからね。常時フル稼働って訳にもいきませんし……、毎日使うって事で、様子見、あわよくば改善、って感じで出来そうじゃないですか?」

「それはオレも思った。後最近かなり空気が乾燥してるのも原因だから、寧ろ推奨したいかな? どうです? 毎日使うって案は出てます?」

 

 

手押しポンプのピストンには木玉と呼ばれる円錐台の形をした部品が使われている。基本的にはゴム製品が一般的なのだが、この世界、イステリアではゴム製品を手に入れる事が出来なかったので、代用したのだ。

 

やはり、今後の事を考えると日本製に依存し過ぎず、こちらの世界で幅広く使えるものを模索していかなければならない、と言うのは皆も納得済みだ。

 

 

「あまり長く使い続けると、今度は逆にピストン部が膨張して詰まってしまい、ハンドルが動かなくなってしまうとのことですな。かなり微妙な調整が必要とのことなので、ピストン部分を制作する工房は一か所に限定して、専門に作らせることにしました」

「――――成程」

 

 

ナルソン程の男ならば、この程度の提案など最初から……寧ろ職人間でもしっかりやっている事だろう。殆ど素人に毛が生えた程度、大急ぎで日本で調べた程度の知識しかない自分達より遥かに有能で頭の回転が早い人だから。

 

だからこそ、もう結論部分を聞く方が良いだろう。

 

 

「量産開始できそうですかね?」

「はい。製材機に関しては量産が可能です。手押しポンプは政策に手間がかかるので、時間がかかりそうですが、試作中の鍛造機が完成すれば、多少早く制作できるようになると思われます。私の提案なのですが、今後予定されている製粉機の施策を一旦取りやめ、製材機と鍛造機の両方を優先させてはどうかと思うのですが」

「異議なし、ですね。先が十分見据えて居る方を後に回し、厄介な方を先に片付けてしまう。最善だと思います」

「こちらも同感です。早めに手押しポンプの数だけでもそろえてしまいましょう」

 

 

カズラやカズキの太鼓判を聞き、仄かに表情を緩めるナルソン。

如何に主導しているのは自分達だと言っても、やはり相手が相手。相応に気を遣う事だって当然ある。……カズキの申し出は非常にありがたい事にはなるのだが、なかなかに難しいと言うのが現実なのだ。

 

 

 

「かしこまりました。では、次の話なのですが……」

 

 

 

だが、今はまだまだ片付けなければならない問題は沢山あるから先に進もう。

 

 

 

「隣のグレゴルン領との潮の取引で問題が発生しました」

「塩、ですか?」

「!」

 

 

塩、と言うワードを聞いて、少々頭に引っかかるのはカズキだ。

この感覚には覚えがある。

 

つまり、元の世界での記憶に関する事柄だ。何か引っかかりを覚える、と言う事は恐らく高い確率で悪い事が起きる。肝心な部分がハッキリと思いだせないから、グリセア村への野盗襲撃事件も後手に回ってしまった。

 

物凄くもどかしいが、こればかりはどうしようもない。

まるで他人事の様に思えるが、どうにか思い出してもらわないといけない。

この世界の自分の頭に働きをかけるほかないのだ。

 

 

「現在、領内で使っている塩は西のグレゴルン領と南のフライス領から輸入しているものです。……ですが、先日グレゴルン領の商人から塩の取引規模を縮小したいとの申し出がありました」

「…………」

「え? いきいなりですか? 一体何があったんです?」

 

 

グレゴルン領、商人。……重要なピースが揃いつつある。

 

 

「それが、グレゴルン領の沿岸で天候不順がここ最近続いているとかで、製塩作業が行えない、と商人は言っていたのですが、……どうにもよくわからない部分がありましてな」

「解らない部分とは?」

「4日前にこの辺りにも雨が降りまして、漸く日照りは終わりを迎えたようなのです。おそらくグレゴルン領でも雨が降り始めただろうとは思うのですが、製塩作業に支障をきたす程の天候不順が以前から続いていたとは予想外でしてな。この時期にそこまで長雨が続くことは珍しいものでして」

「今までの取引では問題なかったのですか?」

「はい、昨年の同時期は量も価格もいつも通りでした。こんな事は今回が初めてです」

 

 

カズラは首をかしげる。

天候不順で製塩作業が出来ない、と言うのは確かにあるだろう。どうやって製塩をしているのかはグレゴルン領の事は何も知らないから解らないが、原始的なやり方の筈だ。熱量を以て蒸発させて、塩分抽出を行っている筈。つまり、天候に左右されるのは当然の事だろう。

 

だが、ナルソンがおかしい、と判断すると言う事は、それほどの規模の不順が起これば領主である彼の耳にも届いていてもおかしくない事だ。それが突然……、きな臭いと思ってしまうのは仕方ないだろうか。

 

 

「カズキさんはどう思……っ」

「――――――――……」

 

 

いつの間にだろう。

何だか声がしなくなった為、カズラはカズキの意見を求めようとそちら側に視線を向けたその時、一瞬寒気がした。

カズキの横顔が、真顔なのだ。無、と言う表情が一番近いかもしれない。

怒っている訳ではなさそうなのだが、何かを考えていると言う訳でも無さそうだと言うのがカズラの考え……だが、兎に角寒気がした。

 

 

「………グレゴルン領との潮の取引は、他に何処がありますか?」

「! 我が領とフライス領、そして王都くらいでしょうな」

「それ以外の可能性は?」

「はい。ほぼ無いかと思われます。隣のクレイラッツの塩の取引は我が領がグレゴルン領の間に入って卸しをしている状態なので、事前に連絡なしに取引を行うと我々と摩擦が生じます。事実を隠蔽してまで行うメリットは皆無だと。………そして、後は隣接しているバルベールになりますが、休戦状態だと言えど、敵国。商業取引は王家から自粛するように指示が出ております。それにバルベールも長い海岸線を持っているので、製塩も行っています。グレゴルン領の塩は高品質で人気もありますが、現状でそれを理由に大規模な取引を行うといった事は無いでしょうな。以上の事から、考えにくいかと思われるのが現状です」

「……そう、ですか。ありがとうございます」

 

 

カズキとナルソンの話を聞いて、ややカズキの様子が不可解な感じがするものの、先ほどの様な寒気は無い。

その代わり、最悪の想定が頭を過った。

そう―――グレゴルン領が、裏切っている可能性だ。

 

バルベールと言う敵国に内部事情を塩と一緒に横流しをしているのではないか? と。だが、グレゴルン領とイステール領の関係性について、疑いをもつだけの関係性も無ければ付き合いも無い自分が言った所で、変な言いがかりだ、と相手を怒らせるだけに終わってしまいそうにはなるが……。

 

そもそも、先の戦いを共に戦い抜いてきた盟友である筈だから、あまり解った風に口をきく訳にはいかない。

戦争について詳しく知らないのに、軽々しく裏切りものの存在など、口に出してはいけいない。

 

 

「そうなると、バルベールが大金をつんでグレゴルン領から塩を買っている、ってのもありえないですよね。グレゴルン領としても危険を冒す事になりますし、バルベール側からすると、敵国に資金提供するって事になるでしょうし」

「ですね。国力が敵国に渡る事は互いに避けたい筈ですから。そう言った穴から崩壊していく可能性だって決して0じゃない」

「そうなのです。なのでことさら不思議でしてな。まぁ、どちらにせよ取引が縮小されることには変わりがないので、フライス領から輸入を増やさざるを得なくなりました」

「あ、そうか。フライス領から買えばいいですもんね。そっちの商人とは話はしたんですか?」

 

 

塩の取引をしているのが1カ所しか無ければ死活問題だったかもしれないが、リスクを鑑みて、複数抱える、と言うのは最初から考えていたのだろう、とも思える。

 

 

「はい。来ていた商人に相談した所、可能な限り融通する、と申されましたが、生産が追い付かない可能性の方が高いと言われまして。フライス領には今まで何かと無理な他の身ばかりをしているので、こちらとしてもこれ以上強くは言えません。かといって塩の価格が高騰するのも困りますし、何とかならないかと思いまして」

 

 

塩の価格が高騰すると言う事は市民の家計を圧迫すると言う事に他ならない。

上手く循環させ、市民に活気が生まれなければ復興の妨げにもなるだろう。

 

 

「……製塩の技術提供、はどうでしょう? カズラさん」

「ああ、それは考えてました。こちらからの技術を提供するので、グレゴルン領が駄目なのであればフライス領の海岸線で製塩を―――と言う話はできませんか?」

「利権の絡みがあるので簡単にはいきませんが、技術提供の身を行うというのでは問題は無い筈です。……ですが、我々が製塩技術を有していると言うのもおかしな話になってしまうので、現地に赴き、試行錯誤するふりなどをして、共同開発と言う形にする必要はあるかと。……それでもだいぶ苦しいですが」

「海が無い場所で塩、ですからね。……変に疑いを駆けられてしまうのも後々問題になりかねませんし……。でも」

「ええ。塩が足りなくなるのは死活問題なので、そこは何とか押し通しましょう。結果的にフライス領も潤う結果ともなれば、無碍には出来ないと思います」

 

 

解決する為には仕方がない。

ナルソン自身も苦しい、と表現はしたが出来ないとは言っていないので、つまりそういう事だろう。

 

 

「かしこまりました。製塩作業強力の打診をしてみます。我が領からフライス領までは大きな川が流れているので、物資輸送のコストも安く済み、塩の増産が軌道にのれば更に塩の価格を抑えられるでしょう。グレゴルン領との取引量もなるべく減らさずに済むよう、交渉に当たる文官に対応させます」

「よろしくお願いします」

「お願いします。―――――それと、すみません、ナルソンさん。1つだけ教えて貰いたい事があるのですが」

 

 

カズラもホッと一息置いた時、カズキから何やら質問がある様で一息つく暇もなく、頭はカズキが聞きたい内容について意識を向けた。

 

 

 

 

「グレゴルン関係、塩とかの取引をする商人って―――以前聞いたアレ……じゃなく、ニーベルと言う名の男、だったりしましたっけ?」

 

 

 

 

カズキの言葉に、一番大きく反応を見せたのは、リーゼだ。

幸か不幸か、そのリーゼのおかしな様子に気付く事が出来たのは、向かい側に座ってるカズキ、そしてカズラだけだ。

 

元々今日は疲れているのか、元気がない様子が見受けられたが、その名をカズキが出した時の様子が、更におかしい。

それとカズキがどういう意図で、ニーベルと言う男の名を出したのかも疑問が残る。

確か、リーゼにしつこく求婚を迫っていた男で、セクハラ三昧な男で、つまり『死ねば良いのに』と思われる様な男だ。

 

 

 

 

「(えっ……、それってつまり……)」

 

 

 

 

 

ここで、カズラの中でもピースが嵌った……気がした。

リーゼの様子がおかしいのと、グレゴルン領の商人がそのセクハラ三昧な嫌な男ニーベルである事、更にカズキのあの無の顔。寒気がした顔。

 

色々と考察に考察が重なり、軈て1つの結論に導き出される寸前の事。

 

 

 

「ええ、その通りでございますが……? ニーベルがどうかなさいましたか?」

「ああ、いえ。アレ、とかソレとか言ってた相手だったかなぁ、と思っただけで。大した事ではないですよ? すみません話を遮らせてしまって」

 

 

 

カズキはぺこり、と頭を下げた。

ナルソンは話の意図がわからなかったが、特に気にする様子はない。

 

それは良かったのかもしれない。

 

 

 

 

もう、カズキの中ではしっかりとピースが嵌っている。

ニーベルと言う男について。

 

 

細部に至るまで、とは言えないが、間違いなく嫌な男だと言う事がハッキリと。

 

 

 

 

リーゼの顔を見た瞬間から最後のピースが嵌ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

だから、カズキはリーゼの方を見る。

 

リーゼの方を見て、そして微笑んだ。

 

安心して良いんだよ、と口に出さずとも伝わる様に。

 

 

カズラは寒気がした様だが、リーゼにはそれがしっかりと伝わったのだろう。元気が無さそうなのは間違いないが、それでもそれなりには復活を果たす事が出来た様だから。

 

 

「――――――!」

 

 

その時だ。

リーゼは思わず驚き声を上げそうになったのは。

かろうじて堪える事が出来たのは、カズキの方を見ていたから、だろう。

 

部屋の中の明かりを利用した光の粒子の移動。

いつの間にか、リーゼの身体を包み込んでいた。周囲には気付かれない程のほんの僅かな灯。

 

 

 

 

「………ありがとう、カズキ」

 

 

 

 

それがカズキであると言うのは直ぐに解った。

だからこそ、誰にも聞き取られない様な大きさの声で、感謝の念を伝えるのだった。

 

 

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