ゲームしてたら異世界に来てました。   作:ハイキューw

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6話 領主との面会

「―――すごい食事でしたなぁ」

「おなかいっぱいです……!」

 

ハベルがご馳走してくれた夕食は、本当に豪勢なモノだった。

色とりどりであり、見た目でも楽しめる何とも鮮やかな食卓。当たり前だが殆ど初めて食べる食事。

でも、味は似通っている物が多いので、全く未知の触感だったり味覚だったりはしないので

【日本だったらこの料理だろうな】

と別な意味でも楽しめる食卓だった。

 

……が、その食後だ。カズラが違和感を感じられたのは。

 

「確かに凄い料理でしたね。まさか、帰ってきて直ぐにあんな豪華な料理を出してもらえるとは……って、あれ? カズラさん? ……大丈夫ですか?」

 

直ぐ横でせわしなく腹部を摩り続けるカズラを見て驚いているカズキ。何か食事に当たったのだろうか? と心配した。

横で座っていたバレッタも同じで、直ぐにカズラの元へ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「…… おなかの調子が、ちょっと………」

「え!! だ、大丈夫ですか!? 痛いんですか!?」

「カズラさん! 持ち物に正露丸とか整腸剤的な内服薬あります? 無ければ一度戻ってみます。オレなら直ぐにグリセア村にまで行けますので!」

 

光に成れるカズキは、まだ試した事はないがその気になれば、某猿の様に光の速度……とまではいかないかもしれないが、かなりの高速で移動する事が出来るだろう。今は外はまだ真っ暗なので注意しなければならないが、基本的に夜間外出をしている者は居ないので、その辺は誤魔化せそうだ。

 

ただ、カズラの屋敷から日本へと戻れたとして……、ジェネレーションギャップがある可能性もあるが、大体判るので大丈夫だ。……だが、それ以上に厄介な事がある。

それは金銭面の問題。

……当然カズキは文無しなので、そこはカズラに頼むほかない。

 

「あ、いや 大丈夫。……違う。お腹が空いて……目が回りそう、なんです……」

「え? あ、あれだけの量で……って、(……あっ! 思い出した……)」

「お腹がすい……え?」

 

バレッタとバリンは心配そうにカズラを見ていて、カズキはカズラの身に起きた事を把握した。 持ち物バックの中をガサゴソ、と漁って 中から缶詰を数種類。主にフルーツ系を取り出してカズラに渡す。

 

「多分、こちらの世界のモノと私たちの世界のモノとでは、勝手が違うんだと思います。食べてみて下さい」

「あ、ああ…… そのつも……っ!!」

 

立ち上がって受け取ろうとしたその時だ。足に力が入らず、思わず倒れそうになるのをどうにかバレッタが隣で支えた。

 

「す、すみません…… なんか、ふらついて……」

「カズラさん!!」

「カズラさん!! 無理に立たなくて大丈夫です! 兎も角、何かお腹に入れ直してください! 向こうの食糧を!」

 

カシュっ! とカズキは勢いよく缶詰を開いてカズラへと渡した。

カズラの状態、手が震えていて、明らかに力が入ってない様子。脱力感にも見舞われている事だろう。つまり、低血糖症の症状。

勿論、原因が別にある可能性も決して否定は出来ないが、どうにか思い出す事が出来たカズキにとって、その可能性が限りなく高いのだと自信はあった。もしも、それで駄目なら、ハベルやアイザックたちには悪いが、どうにかして一度日本へ帰って救急車を呼んでもらわないといけないが。

 

色々と心配をしていたが、カズラも自分の今の症状が以前かかった事があるのを思い出して、手渡された缶詰の中身を勢いよくかき込んだ。

 

 

「あ、ありがとうカズキさん。もう大丈夫……これ、低血糖症っぽい」

 

顔色が良くなっていくカズラを見て、カズキはほっと胸を撫でおろした。

どうやら、自分の記憶違いでは無かった、と。

 

「はぁ…… 本当に良かったです。カズラさん。……えっと、前に勉強しました。血糖値が極端に下がると手の震えや脱力感に見舞われる……って」

 

バレッタも以前、カズラと一緒に勉強していた内容を思い返しながら、原因系を口にしていた。スラスラ~と口から出てくるバレッタを見てやっぱり凄い人だな、と改めて感心していた時、バレッタと目があう。

 

「カズキさんは凄いです。カズラさんを一目見ただけで直ぐに気付くなんて…!」

 

ぱぁ、と花開く様に笑顔になった。

カズラの調子が悪くなった時は顔が真っ青になって気が気じゃない様子だったが、今は心底安堵してその反動が顔に現れているのだろう。カズキは僅かに照れ笑いを浮かべた。

 

「あはは。私にも似た様な経験がありますからね。それにしても大事なくて本当に良かったです。カズラさん」

「うん。ほんとありがとう。……でも、おかしいよこれ。だって本来これは空腹時になる症状な筈だし……」

 

カズラは、頬杖をついて考え始めた。

 

色々と仮説を考えてみると、この世界の食糧にはほとんど栄養素が含まれていないのでは? と言う事で纏まりつつあった。

それなら説明がつく現象が沢山あるからだ。

 

衰弱しきっていた村人達を持ち直したのが日本から持ち込んだ食糧。

無論、飢餓に苦しんでいる所に食料を持ち込んだのだから、当然持ち直すだろう、と思うかもしれないが、そんな単純ではない。村人達の回復力が尋常ではないのだ。

以前、日本から持ち込んだ肥料を使って作物を育てようとした所、あっと言う間に育ってしまった。一晩でだ。ジャックと豆の木の童話宜しく(流石に大きさに関しては大袈裟だが)、巨大化までしてしまった。

裏を返せば、この世界の人間は超低燃費で暮らしていると言う事になる。栄養素0でも生命維持が可能であり、普通に生活している。……日本の常識を遥かに超えた究極生命体と言えるだろう。

 

勿論、様々な検証をしてみないと裏付けが取れないので、今は仮説に過ぎないが……。

 

 

その後、バレッタが再び心配して声を掛けるまで、カズラは考察を続けていたのだった。

 

 

「カズキさんは問題ないのですか……?」

 

バレッタは、カズラが問題なく回復したのを見届けた後に、カズキの方を見て聞いた。

カズラとカズキの食事の量は殆ど同じだ。こちら側の世界に来て日も浅い事もあり、色々と興味津々気味に、手を伸ばしては味を見ていたので、ややカズラより多い程度。

でも、カズキはカズラの様な症状は出ていなかった。寧ろ、カズラの様子に気付く程だから、全くをもって問題ないようだ。

 

「そう、なんですよね。私は何ともないみたいなんです」

 

カズキは、手をグッ、パっ、と何度か開いては握り締め、を繰り返して力の入り具合を確認していた。末梢神経障害みたいなのは起こっていない。寧ろ、イステリアに来た時からテンションが上がっているその余韻がまだ消えていないくらいだった。

 

カズラも心配気味にカズキを見ていた。そして、バレッタやバリンに至っても、先ほどのカズラの様子を見たばかりだったので、大丈夫、と言っても心配は拭えない様子だったのだが、カズキは、カラカラと笑いながら答える。

 

 

「まぁ、私はこんな身体ですし? 大丈夫なんじゃないでしょうか」

 

指先をぴかっ! と目が眩まない程度に光らせて、光の筋を作り、壁を照らしながら遊んでいる。笑顔で遊ぶ様子を見た3人は、とりあえず本当に大丈夫なのだろう、と言う事で安心するのだった。

 

カズラも、カズキに関しては同じ日本人である事は間違いないと思っているから、同じ様な低血糖症が出てもおかしくない、寧ろ出る可能性の方が高い、と踏んでいたのだが、元居た時代が違う……と言うより此処へ来た手段が根本的に違うので、本質的な違いの検証の仕様がない。そもそも、カズキの身体の構造こそが調べようがない事でもあった。

 

なので、万が一何かあった時の為だけ注意しよう、とお互いに言い合って終わりにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日某時刻。

イステリアの領主ナルソンの元に、耳を疑うような報告が入ってきた。

報告者の名はアイザック。つい数日前に グリセア村の調査に派遣した相手であり、普段からよく知る者なので、信頼性は間違いなくある……のだが、流石にこの報告を即座に信じる事は出来ない。耳を疑う他無いのだ。

 

「……アイザックよ。もう一度言ってくれ。いったい誰が現れたって?」

 

アイザックが来る前までは執務室にて手元にある書類を一瞥していたのだが……、思わずそれらを落としそうになったので、机の上に片付けて改めてアイザックの顔を見た。

アイザックは、全く変わりなく、いつもの真面目さを更に向上させたかの様な視線と姿勢で再度報告。

 

「はい! グレイシオール様とメルエム様がグリセア村に現れました」

 

物怖じせず、あっさりと言ってのけたアイザック。

自身の耳を疑う余地も無い答えが返ってきたのを確認できたのは良いが、一体何を口に出せば良いかナルソンは迷い、その間が静寂の時となって場に漂う。動いているのは蝋燭の火とその火に照らされている2人の影のみだ。

 

 

漸くいつもより重く感じる口を開けたのはナルソン。

 

「あー……、その、なんだ。まずはグレイシオール様の件だが、言い伝えに出てくる【慈悲と豊穣の神】の事か?」

「そうです。村の水路に水が流れていたことも、飢餓によって村が壊滅しなかった事も、すべてはグレイシオール様がグリセア村に救いの手を差し伸べて下さったことによるものでした。メルエム様はそのグレイシオール様のお供をしている、と」

「にわかには信じがたい……が、その、なんだ。もう一つ聞きたかったのはそのメルエム様、についてだ。元々【メルエム】と言う言語は 全ての【光】を象徴する、その総意だった筈。……知る限りではあるが、名では無かった筈だが?」

 

眉を再び寄せるナルソン。

まだまだ耳を疑う内容が続いてはいたのだが、現象の前にまず素朴な疑問をアイザックに投げかけていた。

ナルソンが言う様に、【メルエム】と言うのは 光 の意味。

それはこの世に存在するもの全て。夜に瞬く星々の光から、夜の街を照らす灯の光までありとあらゆる光を総称して【メルエム】と呼ぶのだ。

神話の伝承にもナルソンが知る限りでは、メルエムと言う名の神々は存在していない筈であり、グレイシオールの伝説にも出てきていない筈だった。

 

この時、今まで間髪入れずに返答してきたアイザックだったが、初めて口を噤んだ。

 

どう説明すべきか、それ等を考えて居ただけで特に深い意味は無かったのだが、ナルソンにとっては アイザックの実直な性格を考えると珍しい部類に入る。故にその沈黙にも何か裏があるのではないか、と疑心暗鬼だったが、それらを考えている間にアイザックは口を開いた。

 

「メルエム様は、【我々の住む世界には 自身の名は伝わっていない】とおっしゃっておりました。……そして、私たちが呼ぶ神の名は【メルエム】と称しなさい、と」

「アイザック。それをそのまま従っただけだ、……と?」

 

ナルソンの視線が更に鋭くなる。

子供の絵空事では無いのだ。いきなり光と称するメルエムを名乗り、且つ何の疑いも無くそう呼称するアイザックの真意を知る為に。

 

アイザックは、その視線を決して逸らせる事無く、そして何より淀みなく答えた。

 

「メルエム様に関しましては、今私の口からナルソン様に伝えるより、……実際にメルエム様とお会いになればわかります。……断言、出来ます」

「……おまえ自身がメルエム(・・・・)様を見た、と。そして信じるに至った、と」

「はい。……私はお会いし、そして数々の無礼を、とんでもない不敬を働いてしまいました。メルエム様にもグレイシオール様にも。お二方は赦すと言ってくださいましたが、悔やんでも悔やみきれません………」

 

アイザックは悲しげに表情を曇らせると視線を落とした。

対するナルソンは、まだまだ訝しむ視線を崩してはいない。

 

そして、少し間を開けて、アイザックは再び視線を戻し、歪んだ表情を引き締めなおすと一番大切なことを伝えた。

 

「ナルソン様。明日の朝一番で、会っていただきたい方々がいます」

 

訝しむ視線を向けていたナルソンだった。アイザックの言葉を疑いつつも一言一句頭に入れていた矢先のアイザックの言う会ってもらいたい相手。

この話の流れを考えたら……、いや、考えるまでも無く判る。今度は表情こそは殆ど変わっていなかったナルソンの表情が変わった。

 

「……おい、まさかとは思うが―――」

「私がお会いした神々……、グレイシオール様とメルエム様です」

「! 冗談の類――――ではないのだな」

 

決して目を逸らさないアイザック。

その視線はあまりにも真剣そのものだ。疑心暗鬼、そして現実感も沸かない話ではある、が アイザックの言っている事が真実だとすると、事は大事である。真実であるからこそ、この実直で真面目なアイザックが此処まで心酔するに至った……と裏付けも取れるが……。

 

「だがしかし、今から向かうのでは間に合わないだろう。このイステリアへと来ていると言うのなら話は別だが……っ! おい、まさか……!」

「はい。お2人は現在ルーソン家の屋敷に滞在していただいております。本来ならば私の家にご案内すべきだったのですが、何分極秘のうちに行動せねばならなかったので……現時点でグレイシオール様、メルエム様の存在を知っているのは、私と副長のハベル、そして部下2名、グリセア村の住民のみです。部下の2人には他言しないよう厳命してあります」

 

淀みなく伝えられる神との謁見。

最早冗談―――とは露とも思っていないが、それでもここにきて漸くナルソンは 何やらとんでもない事態が起こっている、と言う実感がわいてきていた。

神が現世に姿を現す、と言う言い伝え以外では前例のない事件だ。

これ以上ない程に、慎重を期する必要があるだろう。

 

そして、もう1つの可能性。

 

そのグレイシオールとメルエムが偽物である可能性だ。

アイザックの事は信頼し、信用もしている。その人柄も判っている。……そのアイザックをやり込めた、と言うのならとんでもない極悪人と言う事になるのだ。神の名を語る、と言う事も既にそうではあるが。

 

故に、その2人の神が本物であるかどうかもしっかりと見極めなければならないだろう。

 

ナルソンはそう決意すると、アイザックに言う。

 

「よし、ならば朝一番に時間を取ろう。……それで、グレイシオール様とメルエム様は、私に会って何を話したいと申しておられるのだ?」

 

グレイシオールとメルエムに会うと言う返事に、ほっと安心し、僅かに力を抜いたアイザックだったが、直ぐに気を引き締めなおした。まだ伝えきっていない重大な事だからだ。この国を、未来を左右する。

 

「はい。飢餓に苦しむ我々を支援してくださると申しておられます。先ほど話した道具の作り方、作物の増産方法……それらを教えて下さるとか。ほかにもなにか目を付けば助言いただけると」

「それはありがたい話だが―――」

 

そこまで聴けば、本当に気前のいい話と感謝する……ではなく、不信感が拭えない。

 

ナルソンの顔を見て、アイザックは信じられないのも無理はない、と内心苦笑いをしていた。

 

だが、今報告すべき全ての事を伝えた。そして会う約束も取り付けた。

ならば、もうアイザックが言うのはただ1つだ。

 

 

「ナルソン様。本物です。お会いすればわかります。グレイシオール様とメルエム様。……メルエム様は」

「……そうだな」

 

 

自信満々、と言った風にアイザックにナルソンは尚も質問しようと思ったが、明日になると解る、と言うアイザックの意見に同意してそれ以上の追及はやめにした。

本物だと信じ切っているが故に……、悪い言い方をすれば、洗脳の類でもされているのであれば、アイザックの口から出るのは、最早肯定の言葉しかないだろう。

 

そして、会う約束をした以上。……最終的には自分自身の判断に委ねられているのだ。

自分達が見た事もない道具や知識は勿論確認させてもらうが、アイザックが特に会うのを推奨している様子のメルエムについては未知数なので、より気を引き締めなおさなければならない、とナルソンは考えていた。

 

「それでは、私はハベルに明日の面会時間を伝えに行ってまいります」

 

アイザックはそう言って頭を下げると、足早に執務室を出ていった。

 

そしてその数秒後―――今度は執務室にナルソンの後妻 ジルコニアが入ってきた。

 

「差し入れ持ってきたんだけど、何かあったの? アイザックが部屋を出るなり走っていったみたいだけど」

 

はて? と首を傾げるジルコニア。ナルソンの館で走る、などとアイザックにしては珍しい行動だ。慌てていたとしても、あそこまでわき目も振らずに走っていくのは余程の事がないと考えにくい。

 

「ああ。実は今―――」

 

ジルコニアにナルソンが説明をしようとした時、ふと1つの手を考えた。

それは、メルエムではなく、まずグレイシオールだと証明できるかどうか、こちら側から仕掛ける事が出来る手。

 

「ジル。……確か、北西にある山岳地帯の出身だったな?」

「ええ。もう誰も住んでないけどね。それがどうかしたの?」

「ひとつ……協力してもらいたい事がある」

「?」

 

色々と判らない事が多い、と言わんばかりの表情をしているジルコニアにナルソンは先ほどアイザックと話した内容と自分の思いついた内容を合わせて、説明を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

ハベル邸にて朝食を済ませた後、ハベルと共に馬車にて領主の館へと向かっていた。

 

少なからず、人通りを楽しみにしていたカズキだったが……、流石に朝の7時だと言う事や、ここは貴族街。高級住宅街沿いの大通りは閑散としていて、すれ違う人は殆ど居なかった。なので、夜の時には見られない昼の風景を馬車から楽しんでいた。

 

そしてカズラは、陽気なカズキを見て 色々と凄いな……と半ば感心する。もしも――カズキの様な力を自分が持っていたとしたら、あんな風になれるのだろうか? と考えたが、難しい気がしてならない。……いや、強大な力を持ってしまったら、その力を利用して――――とかそっち方面に行ってしまう、と言うのが一番あり得そうな内容なんだけれど、そんな気配は毛ほども感じさせないし、しない、と言っているカズキはやっぱり凄い、と。

結局結論するとカズラの中で、何度も何度も【凄い】と言う単語が踊っていた。

 

バレッタとバリンは、ただただ緊張し、身体を固くさせていたのだった。

 

 

その後――検問の様な所を通り抜け、アイザックとも合流し、領主邸の入り口、と言うより要塞、駐屯地を思わせる門をくぐり……そして居住区へと足を踏み入れた。

 

進んでいって、軈て大きな扉の前に立つ。

アイザックは扉の前にて足を止めて、ノックをした。

 

「ナルソン様、アイザックです。昨夜、お話しした方々をお連れいたしました」

 

アイザックがそういうと、直ぐに扉が開いた。

 

領主ナルソンとの対面である。

 

 

「ナルソン様、こちらの方が、カズラ様、カズキ様です。後ろの2人はグリセア村のバリンさんとそのご子女のバレッタさんです」

 

ここで、まずはカズラが一歩前に出て頭を下げた。

 

「お初にお目に掛かります。カズラと申します」

「私はカズキと申します」

 

続いてカズキも頭を下げる。

 

これらは、それとなく事前に打ち合わせをしていた。

神に対して先に名乗らせたり、頭を下げての挨拶みたいなのは……とアイザックは止めようとしたのだが、カズキが笑顔で【郷に入っては郷に従え】と言うことわざを使ってアイザックを説得(勿論意味も教えた)と言う変な形になって話はまとまった。

カズラに関しては、会社員時代の挨拶が身に染みているので、極めて自然な流れだ。神非ざる~と、アイザックの様に一瞬考えたが、カズキの郷に入っては~の件で、幾らでも言いようがある、と言うワケでこの形となったのである。

 

 

それを聞いたナルソンは同じくごく自然な流れで答える様に頭を下げていった。

 

「グレイシオール様、メルエム様。我が屋敷までご足労いただきありがとうございます。私はこの領地を治めている領主のナルソン=イステールと申します。アルカディア陸軍イステリア方面第1軍団長も兼任しております。以後、宜しくお願い致します」

 

何処か仄かに微笑みも浮かべ、深く頭を下げるナルソン。

グリセア村に伝わる領主の話とはやっぱりかけ離れてるな、と改めて思うのはカズキだ。

 

そんな時だ。

 

「「っ!!? ナルソン様!?」」

 

突如、アイザックとハベルがなぜか驚いた様に声を上げた。最初は領主が頭を下げた事に~と考えられたが、それを言うなら神であるカズラやカズキが頭を下げた事の方が驚き度は高い筈だ。

 

カズラは頭に幾つも【???】を浮かべていると、アイザック達の事は気にせず、横にいたジルコニアが続けて頭を下げた。

 

「私はナルソンの妻のジルコニアと申します。アルカディア陸軍イステリア方面第2軍団長を務めています。この度は、グレイシオール様、メルエム様がイステール領に支援を行ってくださると言うことで、本当に感謝しております。もし、よろしければ道具の作り方や農業だけではなく、軍備についても助言を頂ければと思うのですが………」

 

「「じ、ジルコニア様まで、一体何を!?」」

 

同じく、ジルコニアに対してもアイザックやハベルはテンパっていた。

此処までくると、何かがある―――と勘づくのは当然の事だ。アイザックやハベルは間違いなく自分達を信じている。……と言うより信じざるを得ない状況である。

方やナルソン側は違うだろう。如何に部下が説得をした、会う約束をした、とはいっても、いきなりカミサマがやってきた~はいそうですか、で済む筈もない。何か、何かをする筈なのだ。

 

「(えぇっと……、確か ここは…… えーっと………)」

 

カズキは頭の中で必死に記憶のタンスをこじ開けようと努力していた。生憎今回のこれは、妙に硬く、鍵も幾つも仕掛けられている様で、どう頑張っても開けれなかった(思い出せなかった)。ナルソンやジルコニアの事は判るのだが……。

 

でも、黙ったままなのは頂けないので、口を開く。

 

「道具や農業についての助言は出来ますが、軍備については何分管轄外なものでして、ご期待に沿うのは難しいかと思います」

 

カズラの淀みない返答に、今度はジルコニアとナルソンは少しだが、驚きの表情を作って顔を見合わせていた。

 

「先ずは、飢えに苦しむ民の皆さんから、ですね。軍部に関しましては、カズラさん同様、私も専門外で助言は難しいですが、幾分か力になれる事はあるかと思います」

 

カズキの返答に驚き以上に目を輝かせるのはジルコニアだった。

最初のカズラの返答で、――――色々と確信が持てた。

 

そして次。専門外、と言う言葉の先にある幾分かの力、である。軍部を預かるジルコニアにとって、……彼女にとって、その言葉が今回特に聞きたかった事だったかもしれないからだ。

 

カズラは、よく判らないテンションな4人の事より、カズキの返答に内心ちょっと冷や汗ものだった。

 

カズキとの打ち合わせの時、農業関係、慈悲と豊穣の神様だから、そちらの関係の話を中心に行われる筈なので、まさか軍について助言を求められるとは思ってもみなかった。

やんわりと断ったが、カズキはそうではなく、何かしら手を貸すと言ってしまった。……専門外である、と保険は入れているようだけれど、あまり軍関係に手出しをするのは好ましくないと考えていたのだ。ただ、そういう事を話したワケでもないので、信頼しよう、と結論付けた。

 

 

「「おお………!」」

 

 

まだテンパっていた2人は、何を感動したのか判らないが、声を上げていた。

 

 

「……では、早速要件を話したいのですがよろしいでしょうか」

「あ、はい。ではそちらのイスをお使いください」

 

 

そして、此処から始まる。

長く、険しい復興への道。イステール領土の救済へ。

 

 

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