「取り合えずもうちょっと説教しとく。恋する乙女の秘密、それも恋愛関係の暴露は重罪なんだよ!」
「は、はいぃぃぃ………」
「あはは……、アイザックさんはホントにもう」
もうちょっと~と言いつつかなり長くなりそうな予感がする和樹だが、仕方ないと割り切ったりもしていた。
でも、アイザックの物凄く真面目。
それは美徳ではあるし、部隊を任せられている身であるならば、上に立つ者であるならば、当然の資質である―――と思うが、流石に男女関係の色恋沙汰、恋愛関係にその性質は毒と成りうる。
今回でアイザック自身が改めて身に染みている様だ。
シルベストリアにしこたま怒られて、小さくなっているところを見たらよく解るので、後で飴役を買って出よう、と和樹は思った。
アイザックもきっと同じ過ちを二度繰り返す様な愚者ではない。最初から和樹も知っている。
だからこそそれを糧として今後とも頑張って貰いたい、と思う。
「ん? あれ?」
ふと、視線をシルベストリアやアイザックとは反対方向に向けてみると、1人の少年の姿が有った。勿論名は覚えている。コルツと言う名で、ミュラと特に仲良し。和樹が来ている間も、ミュラはコルツの手を引いて自分の所へと来ていた事が何度もあった。
どうやら、彼もちらちらとこちらを伺っていた様で、それもあって和樹と目が合ってしまった様だ。慌てて目を逸らせる。
その仕草に違和感を覚える。いつもいつも遊んで欲しいとせがむ村の子達は目が合ったらいつも目を輝かせて手を振ったり笑顔を見せたりしている。コルツの場合は少々歳が上だという事もあり、甘えたりな年齢時期が過ぎたのかも、とも思えたが、曲がりなりにも【神様(笑)】な和樹に対してあの様な顔を見せて逸らせるというのはおかしい。
いや、よくよく考えてみたらコルツが見ていたのは自分ではなく、どちらかと言えばアイザックかシルベストリアに対してで――――。
「…………ぁ」
ゆっくり、それでいて朧気に、ほんの少しだけ記憶の扉が開くのを感じる。
なんの嫌がらせなのか、ハッキリ全てを教えてくれるわけじゃないのがもどかしい所ではあるが、コルツに対しては少しだけ思いだす事が出来た。
「よっと。どーしたの? コルツくん」
「わぁっ!?」
和樹は、一瞬にも満たない速度でコルツの隣に来て座った。丁度腰掛けやすい大きさの小さな岩が傍にあったのは僥倖。コルツ側からすれば、突然消えて、突然隣から話しかけられてしまったので、驚いてしまうのも無理はない。
和樹の御業に対しては視た事が有るので、初めてという訳ではないが流石にこれは慣れる事は無い様だが。
「か、カズキさまっ!?」
「へっへ~~。驚いた?? 驚いた?? オレ、結構最近驚かされてバッカリだったからさ? ちょ~~っと大人気なくコルツくん、驚かせてみました! ……ごめんねっ?」
「い、いえ! そんな事ないよ! すっげぇぇ!!」
ペロッ、と舌を出す和樹。
コルツは驚き顔の後は何処か無理した驚き顔、笑顔を作っていた……。神様(笑)じゃなくてもそのくらい解る。
「何かあるなら、このカズキさんに話してみてくれて良いよ。それとも、話せれない内容だったりする?」
「あ、いや、その………」
「ま~個人のプライバシーに首を突っ込むのは余り宜しくないのは解るよ。ほら、例えばミュラちゃんとの事とか」
「!! ……?? え? なんでミュラの話が出るんですか?」
「……おやや?」
結構一緒に居るから、それなりに意識したり、両想いだったり片思いだったり……、即ち男同士の恋バナとやらに花を咲かせる事だって出来る筈! (自分は失恋メインな視点しか出来ないが)
と思っていたが当てが外れた様だ。コルツは先ほどのムリした顔ではなく、純粋に意味が解らない、と言った様に首を傾げていたから。
「こほんっ。それは兎も角……。直球で行くよ。コルツくん、アイザックさんと何かあった?」
「ッ………」
シルベストリアは村に来たばかりだし、元々子供好きであり、あっという間に溶け込んで大人気、なのは見てて解る。
だからこそ十中八九アイザック関連————と推理出来るが、これが間違いない事は推理するまでも無く、解っていた。ほんの少し開いた
「その、おれ、おれ……っ」
コルツの顔が途端に真っ青になる。
まるで自分がいじめている様に思えてしまうが、それでも聞かなくちゃいけない。
ここで、ちゃんと聞いて、少しでも解決して、少しでもコルツの心に自分が残っておかなければならない、と和樹は強く思った。
何故なら――――――
「コルツくん。……ちょっとシルベストリアさんやアイザックさんの視線が気になるかもしれないね。だから2人だけで話せる様にしようか」
和樹はそういうと、指先をひょいと立てて上に向ける。
すると、その指先から昼間だというのにも関わらずハッキリと見える光の筋が現れた。
それは、自分達の頭より少しだけ高い位置で止まり、軈てまるで四方八方に流れる滝、光の滝の様に包み込んだ。
そして、光は2人を呑みこむと完全に外界から隔離された様な空間が生まれた。
必要最低限度の光の幕だといはいえ、もしも、周りに誰か見ていたら驚くかもしれない。
でも特に気にはしてない。
生憎自分の正体を知っている者達ばかりだし、幸いな事にシルベストリアはアイザックへの説教に夢中。アイザックも本気で悪いと思っているので、頭を下げているので恐らく気付かれない。仮に気づかれても直ぐに解るだろう。……結構騒ぎになるかもしれないから。
例え騒ぎになったとしても、今ここで―――。
「ここにはオレとコルツくんの2人だけだ。何か悩みがあるなら聞く。これでも神様、って呼ばれる事が多々あるからさ? それくらいさせて欲しいよ。この村は、村の皆はオレにとってもかけがえの無い存在だから」
「…………ぅ、ぅぅ」
コルツは、そんな和樹を見て大粒の涙をボロボロとこぼしはじめる。
胸に溜めていた想いの全て。謝罪の全て。それらを全部和樹に対して吐き出させた。
曖昧な記憶しか持たない和樹にとっても、この行動は後々に間違いなく功を齎す。
まさにここが分岐点だった。
元々和樹と言う異端な者がやってきた時点である程度の未来は変わったが、更に未来に変化が起きるのだった。
和樹とコルツの内緒の話。
ピカピカな力を使ってでの内緒の話は幸運にも誰にも悟られる事なく終了。
ただ、シルベストリアはいつの間にか和樹が居なくなっていて、コルツの方に向かっていた事(その時には既にピカピカ解除)、コルツが涙目になっていた事などに驚いてはいたが、コルツ自身が良い笑顔だった事、和樹も勿論笑顔だった、と言う事もあり深く考える事はしなかった。
ただ――――アイザックの説教に夢中になり過ぎていたせいもあってか、魚は一匹も釣れず、結果はボウズだったりする。
その後、アイザックは先に駐屯地へと戻り―――シルベストリアと和樹の2人は後少しだけ、子供たちの相手をしていた。
その合間合間で、落ち込むシルベストリアを和樹は慰める。
「釣れない事もありますよ? そーんな落ち込まなくても」
「うぅぅ……、私やっぱり釣りの才能なくて……」
「あははっ。ま、釣りって結構難しいですよね。釣れる人はほんと釣れるし、何か裏技でもあるんじゃ? って疑いたくもなりますし。上手い人を真似てみた所で上手くいくとは限らないのも何だか理不尽って感じもしますし」
「!! か、カズキ様も思いますか!? カズキ様ならどうしてますか!?」
釣り談義に花を咲かせる~と言うより、子供たちは皆見事に釣りあげてるのに、シルベストリアだけ釣れてないのが悲しくて悔しくて、今度こそ! と息巻いている、と言う面もある。
「どう、か……。うーん……」
「…………!!」
「や、期待に満ちた顔しちゃって……。やっぱり根気、かなぁ」
「……デスヨネ」
「期待に応えられなくて申し訳ない……」
「そ、そんな事ないですよ! 何事も一歩ずつ、精進していくのみだと改めて勉強になりましたので!」
やっぱりスラン家の皆さんは真面目に全てを糧とするんだなぁ、と和樹は頬を緩ませる。
すると、和樹の隣にミュラがやってきて、裾を引っ張りながら―――。
「カズキさま~! おうた! おうたうたって!」
リクエストをされちゃった。
日本の童話関係、番組で流れる《こどものうた》はやっぱり子供たちには刺さる様子。
以前は個人的に和樹自身が大好きだった英語の洋楽を歌ったりして、それが神の言語!! と大はしゃぎしてたりもしていたが、やっぱりある程度通じる方が理解できるし、楽しい様だ。
何なら、子供たちも時折歌ったりしてるから。
「はいはい。んじゃ、後もうちょっとだけ、ね? よっし、シルベストリアさんも歌いましょうか?」
「……ふぇ!?」
「簡単な歌ですから、直ぐに覚えますよ。カエルの歌って言う曲で―――一緒にどうぞ」
顔を赤くさせて最初は戸惑い躊躇い、遠慮がちだったシルベストリアだったが……、子供たちからの期待に満ちた目、和樹の一押しもあって恥ずかしそうにしながらも了承。
カラオケ大会に突入した。
歌唱力については―――――――個人情報の観点から詳細は省くこととする。
その後、数日間に渡って周囲の工事関係に精を出しつつ、グリセア村の子供たちの相手もしつつ―――充実した日々を送った。
特に和樹が数日間グリセア村に居る、と言う事実は子供たちをこれでもか! と歓喜させて、大喜びされた時は和樹も思わず頬が緩む。
仕事関係で仕様が無いとはいえ一良が居ない事に負い目を感じ、自分だけで申し訳ない、とも思っていた所があるのだが、一同皆が心の底から喜んでくれている事をその身で感じ、和樹はただただ気恥ずかしそうに微笑みながら過ごしていた。
「……でも、やっぱしバレッタさんには申し訳ない!! って思っちゃうなぁ……」
「ふぇっ!?」
バリンの家でお世話になっているので、必然的にバレッタの世話にもなっている。
料理をしてくれたり、風呂を沸かしてくれたり、更にはマッサージまで………本当に困っちゃう、赤くなっちゃう、勢いで至れり尽くせり。物凄く尽くしてくれているのだ。
「あ、一良さんやっぱり連れてこようか? リーゼに駄目っ! って言われてるケド、やっぱし一緒に空飛んだらあっという間で――――」
「だ、大丈夫ですよ! カズキさん! 私は、私自身の力でカズラさんに、カズラさんとカズキさんのお傍に居られる様にならないと駄目、なんです。だから、本当に大丈夫です。……でも、ありがとうございます。カズキさん」
一良の事は会えない時もずっと想い続けているのがよく伝わってくる。
そして、和樹に頼めば簡単に会う事が出来るが、それをヨシとしていない面も非常に好感が持てる。
バレッタは天才であり、ヤル気にも満ちている努力家でもあり……。完全無欠を目指しているに違いない。どこまでもストイックだ。
「りょーかいです! オレに出来る事なら何でも言って下さいね? いつでも力になります!」
「ふふふ。ありがとうございます」
ぐっ、と力瘤を作る仕草をすると、バレッタも楽しそうに嬉しそうに笑った。
「あ、でもリーゼ様の事は宜しいのでしょうか……?」
「……………ま、まぁ ちょっ~~とばかり怒られちゃうかもしれないけど」
予定よりも2~3日オーバー気味になっている。
ピカピカ使えばすぐに帰れるのは帰れるんだが……、結構夢中で仕事して、皆と一緒に火を囲んで食事して、コミュニケーションとって、……バレッタやシルベストリアとの約束アリ、子供たちとの付き合いアリ。色々してたら、忘れていたのだ。
頬を思いっきり膨らませているリーゼの姿が簡単に目に浮かぶ。
カワイイのはカワイイんだけど、妄想上のソレを揶揄ってしまうと、リーゼぱんち! が飛んできた。コワい。
そんな和樹の様子を見て、バレッタは大体察した様でクスクスと笑い。
「私は、カズキさんとリーゼ様の事、応援しますよ。その……カズキさんも沢山、私の事を応援してくれている様に、私ももっともっと、沢山応援します」
「へ?」
両手をぎゅっと握り、ぶんぶんと上下に振り、ボディランゲージ全開で表現。
「本当に、素敵だと思います。だって、神様と結ばれる。……まさに、神話の一節に立ち会えるのですから」
「………あはははは、バレッタさん? バレッタさんには、オレの事ちゃぁんと説明したつもり、なんですけど……。オレ、神様違います」
「はい、勿論聞いていますよっ?」
「えぇ……」
ニコニコ、と笑うだけでバレッタは特に何も言わないし、変えない。
確かに和樹の言う通り。凄い力を持っていても人間である、普通の人間である、と言う事はバレッタは疑っていない。
でも、それでも……。
皆を笑顔にする和樹の姿は、まさに光そのものだと思っている。
グレイシオールとはまた違う光の温かさ、それがこの人だから。
そして、翌日。
「漸く、漸く時間が取れました! カズキ様!」
「本当にお疲れ様です。シルベストリアさん。あ、でも――――」
「はい、勿論! アイザックから聞いてる彼女に教えた後に是非とも!」
「ふふふ。シルベストリアさんが疲れてなければ、幾らでも」
和樹、グリセア村滞在最終日。
漸くアイザックとシルベストリアは、説教が終わって……ではなく、バレッタとの時間を作る事が出来たので、合流した。
勿論、和樹との手合わせも漸く。だから、朝からシルベストリアははち切れんばかりの笑顔だったのである。
「シルベストリアさん、物凄く嬉しそうですねー」
「それは勿論。私も彼女の気持ちが分かります。何せ、カズキ様にご指南いただけるのですから。身に余る光栄に胸いっぱいとなってしまいますよ」
「あははは。そうですよねー」
他も一切手を抜かず、子供たちと遊ぶのも全力で、それでいて面倒見もよく……物凄く働いているのだが、絶対につかれてると思うんだけれど、元気いっぱい。まさにアイザックもその気があるし、強引に休ませなければならない、と思った時も何度もあったし、リポDを上げてどうにかこうにか、と思った事も幾度もある。
でも、本当に無尽蔵のスタミナを持つのは事実で、特に光栄極まる、と言った時には、正しく
そうでもなければ、激務の中夜の稽古開催日、皆勤賞など絶対とれない。
「あ、キミがバレッタだね」
「は、はい!」
そうこうしている間に、バレッタとも合流した。
バレッタもアイザックが指定した通り、ピッタリの時間にやってきた様だ。
「アイザックやカズキ様から聞いてるよ。物凄く才能があって努力家で、武術も極めたいんだってね?」
「えええ!? そ、そんな大それた事は……」
慌ててるバレッタを見て、和樹はニヤニヤ、と笑う。
どうやら色々と誇張されちゃった、と気づいたバレッタは少しだけ頬を膨らませてぷるぷる、としている様だが、シルベストリアがカラカラ、と笑いながら説明。
「あっはっは! 良い具合に緊張解れたんじゃない? 流石はカズキ様ですね」
「え! そ、そうでしたか……」
「ふふふ」
バレッタは初めてシルベストリアと合うから絶対に緊張している事だろう。
だから、それをほぐす為に、一芝居~と買って出てくれたのだ! ………恐らく。
「極める云々は兎も角、私も絶賛精進中だしね。一緒に頑張ろう? 真面目にやれば結果はかあらず付いてくるから」
「は、はい! 頑張ります! よろしくお願いします!」
「じゃあ、アイザック。しっかり引き受けたからね」
「はい。剣術から騎乗まで、貴族の子弟が習う一通りの指導をよろしくお願いします。机上についてはある程度乗りこなす事が出来るようになれば十分ですので」
「ん。了解」
シルベストリアはニコッ、と笑った。
そして、バレッタも気を引き締め直した。
優しそうな人で安心したし、緊張も解れたけれど、それでも全ては自分次第、自分のやる気次第でどうとでも変化する事を知っているから。
気を緩めない様に、真剣に、全力で――――と。
「じゃあ、オレも今日が最終日だから――――――」
そこに、和樹が声を上げて、腕をくるり、と回した。
すると、聞きなれない音が周囲に鳴り響く。
初めて聞く、きぃぃぃ、と言う甲高く、それでいて金属音の類ではなく、どう形容して良いか解らないが、その音の根幹部分を見れば、全て理解する事は出来た。
光輝く剣を、和樹が手に持っているから。
「バレッタさんとシルベストリアさんの2人に、しっかりと神様(笑)剣技、見せてあげないとね」
シルベストリアは目を輝かせ。
バレッタは話は聞いていたが、初めて見る神の御業に唖然とするのだった。