一良とリーゼはイステリアの街中にある一軒のレンガ工房を訪れていた。
和樹が中々帰ってこない、とぶー垂れていたリーゼだったが、流石に仕事モードとなると顔つきが変わる。
【和樹成分が足りない~】
【お母様と不倫なんて~】
【もしそうだとしても正妻は絶対私~】
【そう言えば何かマリーも怪しくない~?】
などなど。
一良やエイラがその度にフォローをしていたあの時が嘘のようだ、と苦笑いするしかない。
ジルコニアもジルコニアで、リーゼを揶揄うのが楽しいのか、はたまた何やら思う所があるのか、意味深に笑うだけだったので、更にリーゼが頬を膨らませて~と言ったループに陥ってしまっていたりしたのである。
「……今、変な事考えてるでしょ? カズラ」
「いやいや。そんな事ないですよ~?」
「嘘っ! 目ぇ泳いでるよ! もうっ! 言ったでしょ? 仕事はきっちりするんだから」
そして、彼女は中々のエスパーだ。その辺り和樹が言った通り。邪な考えについてはそのエスパー能力が遺憾なく発揮して詰めてくる。
頬をぷくっ、と膨らませる仕草をする。
―――こういう所もチャームポイントなんだな、と和樹の気持ちが解る気もしていた。普段、『こうでなければならない』を着飾っているリーゼ。
素の自分を出せる場面などそうは多くない筈だ。勿論、和樹に大部分は任せるつもりだけれど、ほんの少しでも気を抜ける存在となれたら良いな、と一良は思った。
――それ以上の深い意味はない。
何故だか時折一良の脳裏に過るバレッタの姿。
それが浮かぶ度に、言い訳の様に深い意味はないよ、と頭の中で呟き続けるのだった。
そうこうしている内に、レンガ工房の親方である白髪の老人が出てきた。
すると、一瞬で元の表情にリーゼは戻して会話を始める。変わり身の早さの極致をそこに見た! と一良は驚いていたが……直ぐに切り替える。
「ろう石と石臼で粉々に砕いたら粘土とよく混ぜて普通のレンガと同じ様に整形して干しておくんです。事細かな詳細はこちらの紙に書いてある通りで」
「ふむふむ、粉にしたろう石を混ぜると火に強くなる……ですか。色々な場所の粘土を採ってきて何度も試しましたが、ろう石を混ぜた事はありませんでしたな」
新たなる技術に子供の様に目を輝かせていた。そして、一良が渡した皮紙に目を通し感心しっぱなしで顎を擦る。
でも、大丈夫だとは思うがここで釘をさす一良。
「そのレンガの製法は極秘なので外部には漏らさない様にお願いしますね。恐らく今まで作られていたレンガとは耐熱性が段違いですので。他国に製法が漏れると厄介な事になりますから」
「やはり! 私も技術者の端くれ、想像はしておりましたぞ! これは完成が楽しみですな。感想が終わったら、最優先で焼き上げる事にしましょう」
「あ、いいえ。そのレンガは別の窯で焼くのでそのまま置いておいてください。後で回収にきますから」
グリセア村にはバレッタお手製のレンガ窯がある筈なので、焼成作業はグリセア村で行う予定だ。
高炉に使う耐火レンガは長期間にわたって酷使する事になるので、どうせ創り上げるのなら現在の最高峰、最高の環境で作り上げたい、と思うのは半ば必然と言うモノだろう。
「別の窯? ここよりも質の良い窯を持っている工房が他にあるのですか?」
「いえ。質……と言うより、別の場所にろう石を使ったレンガで試験的に作った窯があるんですよ。そこならばより高温でレンガを焼く事が出来るので」
一良の言葉を聞いた途端、また目を輝かせた。
いや、これは先ほどの
「それはあれですかな? 最近噂になっているグレイシオール様のお力添え……という」
「!」
直感はした。でも、内容には驚きを隠せれなかった。想像だにしなかったワードが飛び出てきたからだ。
だからこそ、一良は顔に思いっきり出てしまったのだろう。
「おや? 違いましたかな? もう巷じゃかなり噂になっていたのでもしや、と思ったのですが……」
「そんな噂が……。私の方には届いてませんでしたね。因みにどんな話なのか教えて貰っても宜しいですか?」
和樹からもそんな話は聞いていない。
と言うより、見た目派手で影響力が有り、幾度も目撃情報? に近い話が上がっているのは
だからこそ、一良はある意味 自分自身であるグレイシオールの話が出てより強く反応してしまったのだろう。
一良が色々と考え込んでいるとは露知らず、白髪老人職人は意気揚々と続ける。
「今年の夏ごろ―――ですかな。グレイシオール様が領内に現れて、あちこちの村や町を救っている、と言う話です。時折光輝く何かを夜空に見た、と言う話も上がっており、神降臨の現実性が日に日に増している所ですな」
「へ、へぇ……。えっと、光と言えばメルエム~と言う話は聞いたのですが……」
「無論! 【闇夜を照らす一筋の光の目撃話】。それが最も有名ですな。全てを照らす光、と言う意味であるメルエム。グレイシオール様と合わせて凄い事になっておりますぞ。他にグレイシオール様の話で有名どころで言えば、穀倉地帯を復活、水車と言う道具の知識を我々に与えてくださった、とか」
「ぉぉ、ふわっ、とした感じじゃなくてかなり具体的なことをしてくれる神様なのですね……。光の話は夜の空に―――なんて神々しい話! って感じがしましたが、より現実的な話になりましたね……」
「わはははは。合わさってこそ、信ぴょう性がより増す、と言う事ですな! 噂の1つではありますが、メルエム、と言うのは光の総称なのですが、一柱の神である、と言う噂も出回っておりますぞ。メルエムシオール、と呼ばれないのは、
眉唾な情報、御伽噺の類に分類される様な話なのだが……、このアルカディア王国が恐ろしい勢いで復興して言っている事。
和樹自身はかなり注意しているとはいえ、松明の明かり以外は何もない世界での和樹の光はあまりにも明るすぎる事からどうしても目撃者がいてもおかしくない事。
ここまで合わさってより信ぴょう性が増した、とあるのは仕方がない事なのかもしれない。
信仰心の高い国なのだから猶更だ。
「もしかしたら、と私も期待はしておりました。神々が我々の国を、イステール領を気にかけてくれているのなら、お会いできるかもしれない、と。……少々残念ですが、仕事の方はしっかりと頑張らせていただきますよ。……いまだかつてない勢いで復興・発展していっている。……明るい未来が見える。その兆しが見えている。気合が入りますな」
愉快そうにハッキリと言い切る彼を見て、穏やかに笑うのはリーゼ。
確かに、一良や和樹が来てくれたおかげで、未来が明るいと確信は自分達は出来ている―――が、市井の人達が同じ意見を持つか? と問われれば、まだまだ道半ばである、と思っていたからだ。
でも、時間をかけて必ず心からそう思わせて見せる、とリーゼは常々思っていた。
だから、彼の言う明るい未来。兆し。その言葉がとても嬉しいのだ。
「ところで、その試験的に作ったレンガ窯を私も見てみたいのですが、見せて頂くことはできますか?」
「ええ。それは勿論。こちらとしても是非見て頂きたいです」
こうして話をつけて、一良達は礼を言ってその場を後にするのだった。
その帰り道にて。
一良とリーゼは現状に対してそれぞれ思っている事を言っていた。
「やっぱり噂は広まっちゃうか~~。でも仕方ないよね。カズラの技術や道具は秘匿にすればある程度抑えれるとはいえ、流石にカズキの光は目立っちゃうから」
「確かに……、でも噂を恐れて~なんて考えてたら今の速度は生み出せてない、ってのも事実なんだよなぁ。……ほんと、ほとんど一瞬で大穴開けたり、井戸の水源まで掘り抜いたり。間違いなく和樹さんが居なかったら年単位で遅れてる箇所が出てくるよ」
噂話なんてモノは尾ひれが付くのが定番だ。
でも、和樹の場合真実そのものが出回ってしまっている感がある。あれ以上尾ひれをつけようと思ったら、空から金の輪っかをつけた白ひげふさふさなおじいさんが降臨してきた! とか何とか、本人が現れた~レベルにならなければ、と思ってしまう。
あくまで、光を目視した。その光源を見た、と言う市民が増えている、と言うだけなのだから。……まぁ、本当に言った全員が見たかどうかはまた別の話だろう。見栄を張っている~と言う可能性だってあるが、それはそれ、だろう。
「
「え? なんで??」
「だってほら。水車の作り方教える~って、名前とまったく関係ない気がするんだよね。技術とか知識の神様の行いだ、って言うなら解るんだけど」
グリセア村に齎した事は、確かに慈悲と豊穣~となるだろう。極貧の寒村。飢餓と病に苦しんでいた村人を救い、食料を与え、作物をアレほどまで育て上げた。……十分通じる。
でも、出回っている水車の技術とやらは、あまり繋がらない、と言うのが一良の考えだ。
「そう? 別に変だとは思わないけどなぁ。あっ、そう言えば以前カズキにも聞いたんだけど、カズラたちの世界の神様って、どんな人達なの? えっと、カズキが教えてくれたのは……、あまてらすおおみかみシオール様、だったかな?」
「……え? 天照大神……シオール?」
「うん。外にも幾つか名前は教えて貰えたけど、細かな詳細は聞けてなくって。なんせ遊んでたからね? この機会にちゃんと聞いておこうかな、って」
一良の疑問を他所に、リーゼは聞きたい、聞いてみたい欲を全面に出している。
和樹と一緒に居る時は、復興も大事だと思うけれどリーゼ的には甘えたい……つまり、イチャイチャしたい欲の方が強く出る様なので、話を更に深堀しなかったのだろう。
和樹が苦笑いをしているのが容易に想像できる覚え方をしているが。
「取り合えず、しおーるって、《~を司る神》って意味だったよね? それは除けて。シオールはこっちの世界のお国柄で、オレ達の世界じゃ天照大神様、だけで良いから」
「あ、そうなんだ」
「そうだよ? じゃないと、オレは《一良シオール》になるし、和樹さんだって、《メルエム》って言うのが神様的な名前になっちゃってるんだから、《メルエムシオール》になって、更に《和樹シオール》になっちゃうじゃん」
「うーん……お国柄、かぁ。私の場合はずっと違和感なくグレイシオール様、オルマシオール様、ガイエンシオール様って呼んでたから、改めてメルエムシオールやカズラシオールになっても違和感ないかな?」
「そっかそっか。そう言われれば確かにそうかも」
こればかりは慣れるしかないだろう。
取り合えず、日本の神様に関しては《シオール》は必要ない、とだけ改めて教えておく一良だった。
数日後グリセア村側(鉄の大鉱脈側)にて。
部隊編成を施し、技術者を含めた人員がバレッタの指示の元、鉄の大鉱脈がある場所へと案内されていた。
和樹の空からの視察、写真の技術も合わさって、より効率よく移動する事が出来たので、これ以上無い速さだと言えるだろう。
「図面で説明した通りです。ここら一帯の岩壁、この模様を目印にして考えてくれたら良いです。それと河原に山積みになっている石にも鉄鉱石がかなり含まれていますので、まずはそこから改修するのが良いかと思います」
最初こそは自信がない……と消極的な姿勢だったバレッタだが、いざ始まってみると、リーダーとしての気質、資質は十分備わっていると思える。
集まった全員が、感心した様に頷いているし、ナルソン、ジルコニア、アイザックらがバレッタについて説明したとはいえ、年端も行かぬ少女に教わる事に抵抗が~と、何人かが出ると予想をしていたのだが、一切なかった。
偏に彼女の力量の高さを体感したからなのだろう。
「ふふふ」
和樹もうんうん頷きながら、笑顔でバレッタを見ていた。
彼女は天才である。その才覚はきっと今に国中に広がって皆に周知される事だろう、と疑ってない。比較的早くにその機会を得られた事も良かった、と何処か親心ながら観ていたりしていた。
「あの……カズキ様?」
「ん? はいはい、なんでしょう、アイザックさん」
そんな感慨に耽っていた時、アイザックに声を掛けられた。
笑顔のまま、アイザックの方を向くと、少し訝し気な表情のアイザックがそこに居た。
「以前に、空から見させていただいた時は解らなかったのですが……、山の向こうに幾つもあがっているあの煙はいったい……?」
「ああ、アレは確か炭焼きをしている、と聞きましたね。私が此処に来る時は大体空からですから、煙が出ない様に配慮~って考えてくれてたみたいですけど、もうそんなの気にしなくて良いよ、と説き伏せましたので。今は数人交代でグリセア村の人が焼いてくれてるみたいです。この山のスペシャリストになってますから、何か不明な点があれば、皆に相談するのも有り、ですね」
「成る程………、それにしても、ほんと凄まじいですね……末恐ろしくも……っと、申し訳ありません!!」
思わず本音がぽろっ、と出てしまったアイザックは直ぐさま頭を下げた。
恐ろしい、等と不敬が過ぎる、と自身を戒めながら。
でも、当の和樹はカラカラと笑っていた。
「あはははは! アイザックさんのその感覚、きっと正しいですよ。だって私だって凄い! ……やばいっ! いやいや、こわっ……ってバレッタさんに対して思っちゃう事、ありますもん。光の私に言わせる程、バレッタさんは凄まじい才覚を持ってるんですよ。それが、村に向いて、国に向く。……未来は明るいですね」
「そ、そうですか……。そうですね!」
不敬かも、とかなり落ち込み気味になってしまったアイザックだったが、持ち前の和樹の明るさと同調で、どうにか持ち直した様子。そしてバレッタに対する評価も更に向上した。
アイザックの性格と言うのもあるが、何より光の神である和樹をも畏怖させる彼女に対して畏怖の念を覚えてしまうのはある意味仕方がないのかもしれない。
「あ、カズキさん! 今日、すみませんが……」
「はいはい、了解ですよー」
笑い合っている時、バレッタが戻ってきて声をかけてきた。
どうやら、ある程度の説明が終わり、皆各々作業に入っている様だ。その辺りも非常に速い。イステリアからやってきた人材も、皆優秀な人ばかりだから、滞りなく作業が進むだろう。その辺りは一切心配はしていないが。
「どうなされました?」
「いえ、これからバレッタさんをグリセア村に送ってくるんですよ。ここ数日、グリセア村付近に帰省してましたが、作業時間の都合やら、他の色々やらでバレッタさん村に戻れていないので。ですから、こちらはアイザックさんやハベルさんにお任せしますね。私もグリセア村の方に用事がありますので」
和樹はニコッと笑ってアイザックに言った。
バリンや村の友達の事、会いたい人は沢山いる事だろう。バレッタも一良に会えればそれで良い、みたいな所があるにはあるけれど、やっぱり想い人と家族・友人は天秤にかけてはいけない、と思う。
「了解致しました。お任せください!」
アイザックはバレッタを見て唖然としていた表情を改めて、胸を張って敬礼をした。ハベルがこの場に居たら、彼もまた同じ様にしていただろうな、と和樹は苦笑いしつつ手を振ってバレッタと共にグリセア村へ。
因みに、ジルコニアやナルソンは一度イステリアに戻っている。
空の旅延長をしれっと彼女から打診された時は少々大変だったが(リーゼの顔が浮かんだりした)、仕事もあるから、と流石にナルソンに窘められ、後日改めて~と言う事に落ち着いた。……条件にリーゼをちゃんと説得して欲しい~、とそれなりに和樹は訴えたのだが、意味深な微笑みで返されるだけだったりする。
「さて、バレッタさん。ちょっとお手を拝借」
「っ、は、はい!」
「そんな緊張しなくて大丈夫ですからね? リラックスリラックス。……それと、バレッタさんもジルコニアさんみたいに
和樹と共にグリセア村に戻る事。
これに関しては、ただ強化されたバレッタが走って戻る~と言う訳じゃない。
和樹に光速で運んでもらう、と言うのだ。
あの空の旅で、バレッタが考えた事。
もしも、一良に何かが有った時、自分も一緒に連れて行って欲しい、と和樹に懇願したのである。必ず力になるから、と。
その願いを和樹は聞き入れた。でもいきなりだと危ないかもしれないので、その練習に~と鉱山からグリセア村の距離で一緒に帰ろう、と言う事になったのだ。
でも、バレッタの脳裏に一番浮かぶのはリーゼの顔だったりする。それでもやっぱり一良の為に……、その想いが強く脳裏のリーゼには何度も頭を下げてどうにか解って貰った(自己満足)。勿論、イステリアに戻ったら謝罪はするつもりだ。
因みに和樹の中ではジルコニアの姿が浮かんでいる。
バレッタと一緒に、今回の空の旅を経験して、色々と責めてくる~と言った映像だ。バレッタはそんな事する子じゃなく、一良一筋だと言う事も解っているんだけど、ちょっぴりジルコニアが悪戯っ子になって画策して~~等と連想してしまうのはある意味仕方がない。
バレッタはそんな和樹を見て口元に手を当てて笑った。
「ふふふ。しませんよ。私はしません」
「ですよね。言ってみただけです。だってバレッタさんは一良さんですから? 乗り換える~なんてしませんもんね?」
「し、しません! 大丈夫ですからっ! 警戒なんてしなくて大丈夫なんですっ!」
釘を刺す形にした和樹。その辺りは疑ってないけれど、念のため一応。
ちょっと揶揄いたい衝動も有るには有ったが、そこまでではない。
そして、バレッタは和樹の手を取った。
すると、和樹の手からバレッタの手へ光の領域範囲が広がって行く。軈て、バレッタの身体そのものが光に包まれたかと思えばそのまま宙に浮いた。
「ある程度は緩和出来る仕様らしいので、慣性やら温度やら酸素濃度やらは大丈夫ですが、如何せん視覚みたいな五感はどうしようもないので。頑張って慣れていきましょうね?」
「は、はい! よろしくお願いしますっ!」
バレッタの中にあるのは全ては一良の為。
彼女の凄まじいとさえいえる精神力と一良への愛の深さは、光の体感を精神力でねじ伏せて、あっという間に和樹が定めている高度と速度に慣れてしまった。
その結果更に和樹を驚かせてしまうのだった。
「———いや、ほんとバレッタさん凄いですね。も、いい加減凄い以外の言葉が浮かばなくなっちゃいました。語彙力皆無だこりゃ」
「えへへ。そうですかね? ありがとうございます、カズキさん。あの、それで私も緊急時に一緒に連れて行っていただけるのでしょうか」
「はい。これだけ対応する事が出来たバレッタさんなら太鼓判ですよ。……まぁ
時と場合。
それをやや強調して言う和樹の目は真剣そのものだった。
いつも笑顔で笑っている印象が強い和樹だが、この時ばかりは少し違う。
時と場合……。
バレッタにとって、一良に対して何かが有った時。危機的な何かが有った時、もしも、傍に居なかった時。……直ぐにでも駆けつけれる様に、とお願いした。
そして、一良に降りかかる危機的な何か、と言われて連想するのはどうしてもバルベールとの戦争だろう。
時と場合、と言う言葉の中にはきっとそれが含まれるのだとバレッタは直感的に解った。
もしも戦争が起きてしまって、それに巻き込まれて――――戦地にもしも赴く時、きっと和樹は連れて行ってはくれないだろう、と。
「どうしました?」
「いえ! 何でもありません」
バレッタは手を振った。
正直、あまり甘えすぎる訳にはいかないと思いつつ和樹を頼っている自分に矛盾と自己嫌悪を覚えてしまう。
だからこそ、出来うる事を、どんな小さな事であっても2人の力になれる様に務める事を改めてバレッタは決意するのだった。
そんな時だ。
「バレッタ―――――!! カズキさ――――――んッッ!!」
大きな声と掛けてくる足音がする、近づいてきたのは。
「あ、シルベストリアさ―――――ぐはっっ!!」
その勢いのままに、和樹とバレッタに跳び付いてきた。
「会いたかったですよ! カズキさん! それにバレッタも!!」
「ひゃあっ!!」
腹筋ダイブ! の一撃を受けて和樹はよろめき、そしてバレッタも腕で首を回されて思わず押し倒されそうになってしまったが、どうにか堪えた。
「いたたた……、お、落ち着いて落ち着いてシルベストリアさん!」
「えへへへ~~って、すみません……! 姿を見たら思わず……」
シルベストリアは思わず飛びのいた。
よくよく考えたら、神様と言えども、家族以外の男性に……異性に跳び付くなんて初めての事だ。また会えたことに対して嬉しい気持ちでいっぱいだったのだが、その後直ぐに羞恥心が襲ってきて、顔を真っ赤にさせながら飛びのいた様子。
ある程度落ち着いた後、和樹も笑いながら挨拶。
「元気そうで何より。また直ぐ来る~って言っておいて、少々期間が開いちゃってごめんなさい」
「いえ!! また会えただけでも本当に光栄ですからカズキさん! それにバレッタも。こんなに早く帰ってくるなんてビックリしたよ」
顔を真っ赤にさせながらそう言うシルベストリア。
因みに、公務中は兎も角、剣術稽古の時やこう言った絡みの場合、フランクに柔らかく話をしよう! そう言う口調で宜しく! と和樹はお願いした結果、かなりシルベストリアにも心を開いて(懐かれて?)貰えた。
アイザックの家系は超真面目である、と認識をしていたから、中々難しいのではないか? と和樹は思っていたんだけれど、シルベストリアはスムーズに受け入れてくれたので非常にありがたい。……けれど、異性に
公私をしっかり分ける所は流石の一言で、そのギャップも何だか面白いと言うのは内緒の話だ。
「カズキさんに連れてきてもらいましたから。それに村の……家の様子が気になったので」
「そっかそっか。キミは本当に良い子だね。バリンさんもこんな優しい娘をもって幸せ者だよ」
「同意します。バレッタさんはメッチャ良い子!」
「あ、いや、その……。えへへ……」
いつの間にか、和樹も加わってバレッタを褒めちぎった。
「イステリアでもバレッタさんは大活躍ですからね。鉄の大鉱脈発見とか、まさに世紀の大発見、ってヤツですよ」
「ですよねですよね~! ほんっと、バレッタもひょっとして現世に降り立った神様の内の1人~って言われても私は驚きませんよ?」
「あ、あぅあぅ、そ、それは言い過ぎですよぅ……」
最終的に、バレッタが真っ赤になって俯いてしまったので、その辺りで示し合わせて止めにした。
―——それのせいで、標的が和樹になってしまったりする。
「カズキさん、噂話を小耳にはさんだんですが、真偽を確認しても良いですか?」
「噂話?」
何でも答える~と言いたい所だが、ある程度の守秘義務はあると和樹は思ってる。
ナルソンを始め、ジルコニアらも和樹の判断なら問題ない~と言いそうだけど、その辺りは神様権力、権限を笠にするみたいな感じなので好んでいないからだ。
だから一応気を付けていたんだけど――――。
「リーゼ様とくっついた、って言うのは本当なのかな?」
「ぶっっ」
噂話は想像の斜め上だった。
変な所に唾が入って思いっきり咽てしまった。
「な、なんでそんな噂が?」
「えー結構有名だよ? 2人で街中デートしてたーとか。近衛兵が付いている筈だから、もう公認の仲になってる~とか」
「あー……それは……」
よくよく考えてみれば……、考えてなくても、リーゼは結構大胆に街中で発言している。あの街中のデートの時は《付き合ってる》を男女の仲的な話ではなく、《買い物に付き合ってる》と言い換えて笑った事が有ったが……、あの後にリーゼの反応、対応を思い返してみれば、誰もが微笑ましそうに頬を緩めていたのがよく解る、と言うモノだ。
何だか、あのアイザックでさえ間違いなく失恋になると言うのにも関わらず、目を輝かせてみている節があるから、自身の恋心、失恋なんてどこ吹く風……。それ程までに心酔している……と考えたら少々背筋が寒くなっちゃう所ではあるが。
「その辺りはどーなんだい? バレッタ」
「はい! とても仲睦まじく、私も見ていて幸せな気持ちになれますよ!」
「ば、バレッタさん……」
バレッタは、これ見よがしに惚気話を聞かせている。
ちらっ、と顔を見てみると……可愛らしく笑って舌をぺろりっ、と出していた。どうやら、散々恋愛ネタ、一良ネタで揶揄った事に対する細やかな仕返し~と言った感じだろう。
「本当だったんだー。いや~残念だなぁ。私もアタックしようかな~って思ってたのに、リーゼ様を相手にするのは無理無茶だ」
「えぇ………、シルベストリアさんって確か以前好きな人いる~みたいな話してませんでしたっけ?」
「あっははっ! それはそれ、これはこれ! でしょ?」
「あーもう。ものすっごくフランクな対応嬉しいですよー。まったく! それこそ噂じゃ
「あははははっ! ……ん? ちょっと待ってください。
その後も、
丁度その頃————イステリアでは。
「いや、リーゼって飲みこみメチャクチャ早いな……。もうパソコン使いこなしちゃってる……」
「……………集中してる。過去最高に集中してるから、だよ」
パソコン業務を行ってるのは主に一良のみだった。でも今回リーゼも使いたい、手伝いたい、と言う事もあって使い方を教えたのだ。……物凄い集中力を発揮して、瞬く間に使いこなして見せる姿は驚きを隠せれない。
まるで、バレッタのようだ、と思った一良は決して大袈裟ではないだろう。この世界に存在しない完全オーバーテクノロジーであるパソコンを、一良自身も使いこなせてるか? と聞かれれば正直首を横に振る様な代物を、こうも容易くやってしまうのだから。
でも、それには理由がある。
「……カズラだって、お母様のあの顔、見たでしょ?」
「うん? ジルコニアさんの?」
「そ。……帰ってきた時のあの顔」
もうブラインドタッチまでかますリーゼ。
カタカタカタ………と、キーボードをタイピングしつつ、既に帰ってきているジルコニアの事を話題に出した。
「あの艶々した顔、見たでしょ? 顔も赤くなっちゃってて…………ああああ、もうっっっ、もうっっっ、もうっっっっ!!」
リーゼは憤慨!! しつつも、手元は滑らか鮮やかなブラインドタッチ。
「今もなんか変な感じしたし! なーんか、カズキが誰かとイチャイチャしてる! って感じしたし! ああもうっっ、早く帰ってきてよーーー!!」
口では盛大に文句言ってるのに仕事は完璧。
「……きっと、仕事に没頭していないと、色々と大変なんだと思われます」
「あははは………だろうねぇ」
一良はそんなリーゼを生暖かい目で見守りつつ――――エイラに入れて貰ったお茶を堪能するのだった。