この話は初老ぐらいの年齢であることを前提にお読みください。
「あらお嬢様と妹様、何をなされておいでで?」
そうリビングで2つの影にそう問いかけた咲夜、つい先ほど、掃除を終わらせたばかりである。
既に初老の仲間入りをした彼女は昔のようにほぼ紅魔館の全体の掃除を全て担っているが、昔ですら時を止めて掃除を行わなければやっていられない広さであるのに、今では咲夜の体の老化から能力の維持が難しく。掃除にすら時間がかかるようになってしまった。
自身の体の変化に少しだけ恨めしく感じながら、リビングでふと2つの影を見つけた次第であった。
『お嬢様』とは言うまでもなくこの館の主 レミリア・スカーレット
『妹様』とはそのレミリアの妹であるフランドール・スカーレットである。
『フランドール・スカーレット』
レミリア・スカーレットの妹で、レミリアと翼と対照的に歪さと輝かしさを併せ持つ異様な翼を背中に生えている。
彼女は能力である『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』と情緒不安定ゆえに紅魔館の地下で495年ほど閉じ込められていた過去を持っているが、今では、多くの人や妖怪との交流を経て大人しくなられ、そのような過去は見る影もなくなっている。
「んー?写真の整理よ。文屋の烏から貰ったものが溜まってきたのよ。」
「私は暇だからお姉さまを手伝ってるの。」
写真に目を通し、こちらを一瞥もせずにそう仰るお嬢様とえへへとはにかむように笑い、こちらに手を振ってくる妹様。
「言ってくだされば私がやりましたのに」
「だって、咲夜は写真が嫌いでしょう?」
「……そういう態度はあまりとらない様に気を付けていたつもりでしたが」
お二方に近寄り、目を通してらっしゃるアルバムに目を向けながらそう言う
「貴女のご主人様を馬鹿にしないほうがいいわ。もしかして、魂を抜かれるとかそういう話かしら?」
「いえ、ただ若いころの自分を見るのが嫌なだけですわ。仕事にかかる時間が顔の皺の数が増えるとともに長くなり、今では息一つ乱さずに行える仕事が随分と少なくなってしまいました。それでつい昔の自分と比べてしまうので、そんな過去の自分を思い返さないように、写真から離れているだけです。自分に嫉妬するなんてお恥ずかしい話ですが。」
「ふーん、難儀なやつね。」
人間は吸血鬼よりも当然短い寿命だ。そんなことは解り切ってる。でも、体の老化とともに徐々に私の居場所がここには無くなってしまうのではないかという一抹の不安が私を苛むことがある。お嬢様のことだからそんなことはないと断言できる。しかし、思ったとおりにできないということは意外にも精神的な影響が大きく作用する。
―――私はこの紅魔館のお役に立てているのか
「お嬢様はお嫌ではありませんか?皺の増えた私が、動きが鈍くなっていく私が」
「べーつーにー?貴女をここに置いた時からこうなる未来は解り切ってたことよ。それなのに実際に老いた咲夜を嫌だ嫌だというなんて、人間として生きている貴方への最大の侮辱でしょうに。かっこ悪い奴に私はなる気はないわ。」
「……そうですか」
「安心なさい。まともに動けるうちは馬車馬の如くキリキリ働かせてあげるわ。」
「はい、ありがとうございます。」
……そうだ、私はそんなことを心配する必要はないはずだった。お嬢様のお傍に控えて、お嬢様が求めるがままに。
お嬢様は私を必要としてくれているから。私はここにいる。そんなことを疑うなんて、主人への裏切りに過ぎないのではないか。
私の体に潜む不安が一気に払われる感じがする。たった一言だけなのにそれに救われるような気がして。感謝の言葉を口にした。
「それにしてもさ、お姉さまって写真の写り悪いよねー。かっこつけようとして締まりのない顔ばっか。」
「何かしら?我が愛しき妹、はっ倒すわよ。」
若いころの自分を見るのは少しだけ、ほんの少しだけ妬んでしまうけれども、お嬢様や妹様と昔の思い出を共有できる今の時間が、この思い出が、私が紅魔館に存在しているという事実を刻んでいるような、そんな感覚を感じられる。
私は紅魔館が誇るメイド長 十六夜咲夜だ。
これからも、この先も。
そう思わせてくれるこのアルバムも、この写真も、今は好きなのかもしれない。
この甘美な時間も今は私の物だ。