今日の朝はとてもよく晴れていた。陽射しがあたり全体を光で包みこむように、鳥たちが今日の快晴に感謝の言葉を告げるように囀っている。
紅魔館の正門では一人の女性が門に寄り掛かったまま静止している。
淡い緑色のチャイナドレスに身を包み、髪は赤く腰まで伸ばしたストレートヘアーで、側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしている。
瞑想でもしているのか、彼女の顔は周りから伺うことができないほど俯いている。
そこへ紅魔館内から老婆といえるほど年の取った女性ががやってきて、正門の彼女を見つけると、ため息をつきながら松葉杖をついて近寄っていく。
そして
ナイフを手に取り、彼女の額に突き刺した。
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「全く……。散歩がてらに外の様子を見に来たらまた昼寝とはね。相変わらず変わらないわねぇ」
「あはは……。すいません」
数分後、赤髪の女性と銀と白の髪が入れ混じった老婆が正門の前で会話している。
老婆は言わずとも知れた『十六夜咲夜』であり、年をかなり取った彼女は松葉杖を使っての歩行を余儀なくされ、彼女の仕事は妖精メイド達が彼女に教わりながら引き継いでいる。
いたずら好きな妖精メイド達も流石に咲夜に従順であるようだ。
額にナイフの刺さった赤髪の女性は『
この紅魔館の門番を務めており、武術に秀でた妖怪である。人付き合いがよく、侵入者には『気を使う程度の能力』を駆使して撃退する彼女だが、
仕事中に昼寝といった、職務怠惰も少なくはない。
「本当に気をつけなさいよ、こうして起こしに来ることなんてもうできなくなるんだから。」
「……」
咲夜の足は松葉杖を使わなければいけないほど弱くなり、体も背を伸ばして立つこともままならないほどに弱ってきている。
咲夜はじきに自分で歩くこともできなくなってしまうだろう。それは、誰の目にも明らかだった。さすがに陽気で明るい美鈴も返す言葉がなく、黙ってしまう。
「……だから、待っていますよ。」
「え?」
2人の間に数秒ほど気まずい雰囲気が流れてしまったものの、その雰囲気を破ったのは美鈴だった。柔らかい眼差しで咲夜を見ながら微笑み、待っていると告げた。
「私は、いや、私達はまたあなたが来る日を、あなたと過ごす日を待ってます。幾年月が経とうとも、変わらずにずっとここで。だから、またあなたの手で起こしに来て下さいね。その時を楽しみにしています」
「……どこまでも私を目覚ましの代わりにする気とは、いい度胸ねぇ」
「あはは、そんな睨まないでくださいよぉ」
「はぁ……」
―――私は一応、この館のメイド長をしてる紅美鈴です、よろしくお願いしますね!咲夜ちゃん!
―――すごいですよ!咲夜ちゃん!すぐに覚えちゃうなんて!
―――大丈夫ですよ、ちょっと油断しただけですから、こんな傷、すぐ治ります。って咲夜さん!? 泣かないでくださいよぉ、大丈夫、大丈夫ですから、ね?咲夜ちゃん。
―――咲夜さん、異変解決ですか?真冬で寒いでしょうからマフラーをどうぞ、いえいえ!無事に帰ってきてくださいね!お待ちしてます!
「まぁ、考えてはおくわ」
「―――はいっ」
そうやって満面の笑みを浮かべた彼女は、昔と変わらないきれいな笑顔だった。
咲夜は立ち上がり、紅魔館内へと足を進めた。
―――それに、また、あなたのいる館を守りたいから―――
後ろの方でそんな声が聞こえた気がした。
まだナイフが刺さってます。