完璧で瀟洒な老従者   作:たぶくむ

5 / 8
お気に入りと感想が一つ一つ増えていくごとに励みになります!
ご愛読ありがとうございます!


愛も変わらず美しい君へ

咲夜は目を覚ました。

 

紅魔館に住んでから既に50年ほど、もしくはそれ以上経つが、とっくに体を満足に動かすことが叶わず、いたるところに皺が見られる。

 

昔の若々しい咲夜とは似ても似つかないほどの老婆と化しているものの、何となく、気品さと言葉にできない美しさが不思議と感じられる。

 

 

どこにもいけず、ただ自室で一日を過ごしている彼女であるのだが、咲夜は多少の不満足も感じていない。

 

 

紅魔館のみんなが時折、咲夜の部屋に訪れてくるし、パチェリーやその使い魔である小悪魔が気を利かせて本を持ってきてくれるからである。

 

 

今日も咲夜は近くにあるソファに座り、テーブルの上の本を読んで一日を過ごそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

トントン

 

 

ドアのノックにはっと気が付いた。

 

 

時計の針を見ればかなりの時間が経っていたようだ。

年をとると時がたつのが早く感じられる。

 

 

よくもまぁ本にかなりの時間を費やしてしまったものだ。

これではパチェリー様のことを言えないわね。

 

と思いながら、はい とドアの向こう側にいる誰かに返事をした。

 

 

ガチャリ 

 

 

「咲夜、元気?」

 

 

ドアが少し開いて、隙間からひょこんと顔を出したのはお嬢様の妹であるフランドール・スカーレット(妹様)だ。

 

 

「はい、いつもとお変わりなく、元気ですよ妹様」

 

 

「そう、それはよかった。お邪魔するね。」

 

 

ドアをお行儀よく閉め、とててて と効果音が付くような歩き方で、咲夜の隣に座った。

 

 

相変わらず、妹様は見た目相応の無邪気さ、子供らしさで咲夜は微笑ましく感じる。年齢はあちらの方が上であるというのに。

 

 

「紅茶のご用意でも致しましょうか」

 

 

「ううん、いいよ、私がやるから。咲夜に負担はかけられないからね」

 

 

せっかく妹様がいらっしゃったのだ、紅茶の一つでも入れるべきだと重い腰を上げようとした咲夜をフランはやんわりと制し、フランは席を立って紅茶の準備をする。

 

 

「申し訳ありません、妹様にこのような事をさせてしまうなんて」

 

 

咲夜は誰かに何かをしてもらうことはこれが初めてではない。

 

彼女が自室で一日を過ごすようになってからは紅魔館の住民が彼女の部屋に訪れるのだが、咲夜がそんな彼女たちをもてなそうと、紅茶やお茶菓子などを用意しそうとしても、彼女たちはそれを制し、自分たちで用意してきたり、咲夜の部屋の掃除を手伝おうと申し出てくれる。

 

美鈴であったり小悪魔であったり、はたまたレミリアや咲夜に恩義のある妖精メイド達が、だ。

 

それは全て咲夜の体を気遣ってのものであり、咲夜はその気遣いに感謝はしているものの、申し訳なさも感じてしまう。

 

 

「咲夜、それは言わないお約束、だよ」

 

 

うふふと笑いながらフランはティーカップに紅茶を注いで咲夜に出す。

 

 

咲夜はありがとうございますと感謝の言葉を述べながら、紅茶が注がれたティーカップを手に取り、香りを楽しみながら一口飲んでみる。

 

 

口に含むと何とも懐かしい味が、よく親しんだような味がほのかに感じられ、紅茶を自分自身で入れてきて、多く飲んできた咲夜にもおいしいと感じられる一品だった。

 

 

ほうっ と息を吐き、ティーカップを置いて、感想を待っている子供のように、翼をぱたぱたとさせているフランに咲夜は向き合う

 

 

「とてもおいしいです。かなり上手になりましたね」

 

 

と笑顔で感想を述べる。

 

 

「そ、そう?よかった!まだたくさんあるから、たっくさん飲んでね!」

 

 

それから咲夜とフランは2人きりの会話をしばらくの間楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしても人間って、本当に早く死んじゃうんだねぇ。

ちょっと前は綺麗な顔してたと思ったのに、気がついたらもう皺だらけのお婆ちゃんだよ。

この手もまぁ、随分とくたびれちゃって。

やっぱアレ?働かせ過ぎた?

駄目だよぉ、ちゃんと疲れてたんなら言わなきゃ。お姉様は面倒なことは何でもかんでも押し付けるんだから。私もだけど。

まぁ、今更な話か。」

 

 

咲夜とフランはまだ話していた。

 

ティーポットの中は空になり、ついでにとフランが持ってきたお茶菓子もなくなった。

 

 

頬杖をつきながらフランは言った。

 

 

 

「ふふ……。でも私は今の自分は、嫌いじゃないですよ」

 

 

咲夜は自分自身の手をフランに見せるように

 

 

「この顔や手に刻まれた、みすぼらしい皺もシミも傷も何もかも、

あなた方に振り回され、散々な目にあって、たまに辛抱たまらず喧嘩して、そうやってここでずっと生きてきた、その証ですから。

だから私にとってこの姿は、千の金貨にも万の宝石にも勝る宝物です」

 

 

「そっか……。羨ましいね、そんなものを持ってて」

 

 

「あげませんよ、いくら妹様の頼みでも」

 

 

「それは残念」

 

 

「ふふ…」

 

 

「…咲夜」

 

 

「はい」

 

 

頬杖をついていたフランが咲夜に向き直った。

 

 

「咲夜が、紅魔館に来たときから、私は凄く変われたと思うの、最初は私の狂気と能力(ありとあらゆるものを破壊する程度の能力)のせいですぐに壊れちゃうと思って気にも留めてなかった。ひどいことを言ったりもした。でも、咲夜はそんな私を避けないでまっすぐに受け止めて、お姉さまの、レミリア・スカーレットの妹としてじゃなく、私、フランドール・スカーレットという一吸血鬼として見ててくれてた。」

 

フランは自身の能力とそれの弊害である狂気が原因で自ら地下室に閉じこもって400年以上も過ごしてきた。

咲夜が初めて紅魔館に来た時、フランはまだ小さくも美しい咲夜を傷つけないように邪険にしてきた。

しかし咲夜は変わらず、何を言われてもフランを避けようともせず、変わらずフランと接触し続けてきた。

 

しかしある日、ついに自分の狂気が咲夜の前で牙を剥いた。

咲夜は人間だから、壊れてしまう。半ば諦めと同じようにフランはその狂気を受け入れてしまった。

 

が、咲夜はフランを銀のナイフで無力化をするばかりか、咲夜が生きていることに涙を流しているフランに

 

『妹様、私は大丈夫ですよ。ここにいます。』

 

と慰めてくれた。 フランが咲夜に懐くのもこの時ぐらいだ。

 

 

 

「咲夜は沢山のことを教えてくれたし、多くの我儘を聞いてくれた。時に注意してくれたり、頭を撫でたり、ほめてくれたり、本を読んでくれたり、壊れちゃったぬいぐるみを直してくれた。」

 

 

「私ね、咲夜が私のお母さんだったらなって、ううん、咲夜ってお母さんだなって思っちゃった。」

 

 

「……」

 

 

「咲夜とずっと一緒にいられたらなぁって思ったり、咲夜とお別れしたくないなぁって思っちゃったりするんだけど、咲夜は人間として死ぬことを選んだんだよね?」

 

 

「はい」

 

 

「だったら私が口出しする権利はない。私の我儘で咲夜を縛り付けたくはないもの。これ以上咲夜に迷惑はかけたくない、私がしっかりしなきゃって、思うようになってきたの」

 

 

咲夜がいないと寂しいけどね とフランは付け加えた。

 

 

フランはおもむろにソファから立って、咲夜に向けて片膝をついて、咲夜の左手を取る、それは騎士のように。 そして、手の甲に接吻した。

 

 

「咲夜がメイド長として、ここにいてくれてありがとう。いつまでたっても咲夜はやっぱり綺麗だよ。」

 

 

「身に有り余る光栄ですわ。 妹様、いえフラン様、昔と見違えるほどに素晴らしい方になられましたね」

 

 

「おかげさまでね」

 

 

にっこりとフランは笑い、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。

 

 

「幸せそうで何よりだよ。咲夜」

 

 

振り返って満面の笑みでそう言って見せた。

 

 

「はい。」

 

 

 

 

咲夜も笑顔でそう返した。

 

 

 




親からの愛を貰えずに成長してきたフラン様は咲夜とかに母性を求めてたりするのかなぁと勝手に妄想したり。


この話だけ異様に長くなりました。








おやすみなさい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。