カラカラと何かを動かす音が聞こえる、太陽が沈み、少し薄暗くなった霧の湖に車いすに座っている老婆とそれを押している翼の生えた少女が歩いている。
紅魔館の主レミリア・スカーレットとその従者十六夜咲夜である。
翼の生えた少女がレミリア、老婆が従者十六夜咲夜である。
「申し訳ありません、お嬢様、車いすを押していただくなど、本来であれば御傍に仕えるべきであるはずなのに」
車いすに座っている咲夜がレミリアにそう言う。
「構わないわ。それにしても、酔狂なものね、その体でわざわざ霧の湖まで行きたいなんて、ね」
「ふふ……。そうかもしれません。でも、ここが、私とお嬢様が初めてお会いした場所ですから。」
随分と年をとった咲夜、四肢を満足に動かすことも叶わず、一日の大半を寝て過ごしている咲夜がふと目を覚まし、主人であるレミリアに霧の湖まで連れて行ってほしいとお願いしたのだ。
レミリアは願い通り、霧の湖まで車いすを使って咲夜を連れて行ったのだ。
月に照らされて、てらてらと綺麗に輝いている湖がよく見渡せる場所までレミリアは車いすを引いていった。
静かな場所で、様々な昆虫が音色を奏でているこの場所で、咲夜は目をつむって静かに耳を傍立たせる。
するとカチャカチャと音がするため、目を開けてその音の方向を見るとレミリアがとこから取り出したのかティーカップ等の紅茶セットを準備している。
「お嬢様?いかがなされましたか?」
「せっかくこんなところにまで来たのだから、紅茶でも飲まないと損でしょう?」
「でしたら、私が準備いたします。こんな時ぐらいは私に淹れさせてください」
「……まぁそうね、せっかくだから、2人で淹れるとしましょうか。共同作業も悪くはないわ」
「はい、ご所望とあらば」
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そういえば一つお聞きしたいのですが。終ぞお嬢様は私に人をやめるよう言うことはありませんでしたね。何故でしょうか?
あー……、大した理由じゃないわ。
私はお前の人生から自由を奪った。
ココで生きる以外選択肢なんてお前になかった。
それの正否やお前がどう思ってるかは置いといて、事実として、ね。
だから、十六夜咲夜を終えるか続けるかぐらいの自由は、お前にやろうと思った。
それだけよ。……なにかしら、その顔。
いえ、愛されているなぁと。そうですか、そうですか……ふふ。
……。じゃあ逆に聞くけど、何故お前は終わることを選んだ?化物になるのは嫌だった?
いいえ。私もまた、別段人間の尊厳がどうとか、そういう大層な理由があるわけではありません。
ただ、もしお嬢様の眷属になってしまったら、私まで日傘が必要になってしまいます。
そうなったら、お嬢様の日傘をさしにくくなってしまいますわ。
不老不死になった場合なら、従者としての勤めは全うできそうですが、もしかしたら私が取り残されるかもしれない。
お嬢様のいない永遠を考えると、気が狂いそうです。
とまぁ、色々と考えてみた結果、人間の従者して一生を終えるのが、一番幸せだという結論に達した。
ただ、それだけです。
おーおー、愛されてるわねぇ私は。
ええ、もう取り返しがつかないほどに。
それは不治の病のようですわ。
やめなさい、こっ恥ずかしい。
湖を眺めながら、咲夜とレミリアは隣合わせて座りながら、話し込んでいた。二人とも、手にはティーカップを持ちながら。
「思えば、いろいろなことがありましたね」
と、咲夜は昔を懐かしむ、いや、振り返るように話していく。
「異変を起こして、博麗の巫女に退治されてしまったり、異変を解決するためにお暇を与えたり、ロケットを作ったり、全てはお嬢様に元に居なければ味わえない刺激的な日々でした。」
「……。」
「お嬢様、妹様、美鈴、パチェリー様、小悪魔、妖精メイド達、異変が解決されるごとに幻想郷に移り住む方達、多くの出会いと交流を通して、私の中で止まっていた時計が、動き出して、私の思い出が次第に彩り豊かになっていきました。」
「ここで、もしお嬢様に拾われなかったら、私とお嬢様が出会う運命が無かったら、そう、最近は考えるようになりました。」
「まぁ、巡り合わなかった仮定の運命の話ですから、今の私たちには関係のないことですが。……ただ、一つ確信をもって言えるのは」
「お嬢様にお仕えして、お嬢様の右腕となれて、私咲夜は、悔いのない、至上の喜びでございましたわ」
「そう、私も十六夜咲夜という唯一無二の忠義者を持てて、果報者よ」
「こら咲夜、カップを落とさない、割るな」
「こら咲夜、寄りかからないで」
「こら咲夜 ねぎらいの言葉ぐらい聞いていきなさい」
―――ありがとう、今少しだけ、眠りなさい。我が愛しき咲夜。
月に照らされた霧の湖に、一つの影。
一人の少女が老婆を横抱きにして歩いていた。
その少女の頬に流れる一滴の雫は、雨であろうか、それは誰にも知る由はない。
残り一話 after のお話です