「さぁ〜てさて、うまく事が運んでいたら良いんだけど。」
志久たちがいる日本から遠く離れた場所に建てられている家の中で、1人の青年がソファーに寝っ転がりながらグラスを傾けていた。
「あの少年はできるだけ大きく育って欲しいんだけどな〜」
青年は穏やかな微笑を浮かべ、近くにいる女に話しかける。
「少年とあの娘が出会って何日ぐらい?」
女は静かに
「7日です」
とだけ答え、口を閉ざす。
「そっか、じゃあそろそろか」
青年はご機嫌そうにまたグラスを傾ける。
「つまりもうすぐで少年があの娘と一緒に初めてを経験するということかな?」
「言い方に悪意しかないですね、もう少しましな言い方は考えつかないんですか?」
冷たい女の返しに青年は全く動じずに
「そうかそうか、できるだけ喰えるものは喰ってきて欲しいものだね」
と、言うと青年は満足そうにグラスに入っていた赤い液体を飲み切った。
一方その頃.....
「志久くん、私たちの目標、覚えているわよね?」
「はい、まずはハーフ生産計画の破壊
その次に孤児たちの保護ですよね?」
志久達は今、赤木が運営する孤児院の近くにある廃ビルの屋上にいる。
「中に入ったら赤木が迎撃用に飼ってあるキメラ達が襲ってくる可能性が極めて高い。今志久くんが吸血鬼になりかけていること加味しても失敗すれば命の保証はないわ。覚悟はいい?」
「もちろんです」
「じゃ、手筈どうりにね」
ルナさんが屋上から跳び、孤児院の裏側に回り込む。
「さてと、行きますか」
オレは軽く跳んで孤児院の真正面に着地する。
多少痺れはあるが、骨にヒビが入ったりはしていない。
「子供たちはルナさんの異能で眠らせてるから音がしても起きてないよな」
そっと呟き、数秒呼吸を整えてからオレは孤児院に突入した。
(狙うは一点、孤児たちの飯を作る調理室の地下にある食料品倉庫に偽装した人体実験場だ)
オレは一切物音をたてずに疾走し、問題なく調理室まで侵入した。
(ここが境界線、だな)
地下室に降りる梯子には当然蓋がしてあり、鍵も掛かっている。
敏感になった五感が、この先にいる
"何か"を感じ取っている。
今まで自分が過ごしてきた世界とは別の世界の"何か"だ。
鍵の暗証番号はルナさんの情報網と異能の力を使っても入手出来ず、強引にぶち破るしか選択肢がなかった。
(覚悟の準備は....もう済んでる!)
オレは吸血鬼の力を使って梯子の蓋を強引にぶち破ると同時に穴に飛び込んだ。
スタッ
(着地までにかかった秒数から逆算して...
だいたい地下14~15メートルぐらいか)
一旦周りを見渡すと明らかに雰囲気が違った。
(広いな...そして綺麗に整理されている)
部屋は、某ゾンビゲーム終盤の研究所のように綺麗に整理されていて、それがより一層異質さを醸し出していた。
恐らくルナさんの異能と同じような力を使って空間を圧縮されているのだろう。
見取り図での食料品倉庫より遥かに広い。そして何より...
("いるな")
オレがそれの存在を視認した時、
ガラガラガラ!
何かが上に引き上げられるような音と共に
グルるるる!
体長5メートル程の狼型のキメラが3匹、近くの檻から出てきた 。
(チッ、対応が速いなどこかに監視カメラみたいなのがあるかもな。)
しかし今はそんなものを悠長に探している時間はない。
オレはキメラたちの真っ正面に立ち、大声でどなった
「来やがれ!暴れるしか能がない犬畜生どもが!」
詳しい意味は分からないだろうが、宣戦布告ということは分かったのだろう、1匹のキメラが唸り声をあげながらオレに突進してきた。
(さあ、こいよキメラ共!近づいてきたやつからぶっ飛ばしてやる!)
オレは横っ跳びでそれを躱し、顔面に拳を叩き込む。
それで相手は吹き飛び、動かなくなった。
(いける!以前のオレなら太刀打ちできなかったけど、今のオレなら闘える!)
その時後ろで咆哮が轟いた。
それも前にいるキメラの咆哮とは比較にならない程の威圧感で。
(あ、まずいなコイツ)
視認しなくてもわかる、この強烈な威圧感、後ろにいるやつは前にいるヤツらとは格が違う。
「クソ!」
オレは直感に従い、真上に跳んだ
次の瞬間....
ドガガガガガ!!
この下...つまりほんの少し前までオレが居た場所を巨大な質量か通りすぎ、近くにあった大きな本棚などを呆気なく粉砕していった。
(なっ!コイツ!他のキメラも!)
その巨大な生物は、オレのいた地点を通過し、前にいた三体のキメラをも挽肉にしていた。
凄まじいパワーとスピードだ、いくら今吸血鬼になりかけているオレでもマトモに喰らえば恐らく即死だろう。
(ああ〜今のオレの状況ってあれじゃん、四面楚歌っていうか、まな板の上の鯉というか、ティガレックスの前のポポというか、要するに著しく悪いというか)
その生物はゆっくりと後ろを振り向き、オレを視認した。
姿は...そう、ライオンとヒョウを足して2で割ったやつのでかいヤツというか、
ヒョウにライオンのたてがみをつけたような姿で、それを見たオレの本能が告げていた
「やめておけ、こいつには勝てない、闘ったら死ぬ」
と。
もちろんそんな事をとっくに分かっている。しかしオレはあえて自分の顔に笑みを貼り付け、絶対に死んでたまるかと決意しながら、恐怖で震える膝を励まし、情けなく、しかし堂々と、
「こいよ、番犬...いや、番猫か...まぁどっちでもいい、こいよ、時間、稼がせて貰うぜ」
オレはそいつに言い放った。