赤い弓兵は空を見上げた。そこには見えない硝子越しに一人の男が立っていた。
それは邪の道へと歩を進めた『もう一人の自分』だ。弓兵は溜め息を吐き捨てながら、得た「答え」に背いた『自分』に負けたくないと願った。そして、その願いを形にした時のことが走馬灯のように甦った。
「貴様は……全く持って報われないな。『答え』を得たか得られなかったかでこんなにも違うとは……。」
黒い肌の男が眉をひそめる。男は目の前の敵を更に睨んだ。
「さて……お前は俺にこう言いたい筈だ……『理想を抱いて』……」
黒い男は無言で飛びかかり、銃剣で敵を切り裂こうとする。
それを防ぎながら『無銘』は続ける。
「『溺死しろ!!』とな!」
「ウァァァァァ!!!」
黒い男の体に皹が入る。だが、男は攻撃を続ける。その身が朽ち果てようとも自信の『悪』を貫き通すために。
「チッ!!」
BBが作り出した空間内では、依然としてBBが有利であることを悟りながらも自分の体に鞭を打ち付けるメルトリリスは舌打ちをした。
「あらあら、メルト?身体を動かすので精一杯になってますねぇ?」
「メルト!」
「貴様!奏者への隠し事とはそれか!?あやつは早々勘づいておったが…!」
「!黙ってなさい!敵の戯れ言に惑わされないで、さっさと!」
メルトが怒鳴ると、通信が入った。
「言われなくてももう準備は終わらせてる!化粧等で人を待たせておいて、化粧より難しい作業で待たされたらこれか!これだから女ってのは!!」
その声は文豪として有名なアンデルセンによるものだった。
彼はエンターキーを押す。すると、BBは空間から引きずりだされ、ムーンセルへ突き落とされた。
「なっ!?」
「残念だったな!」
「えい!!」
大きな拳がBBに炸裂し、BBを更に階層の下へと落としていった。
「くっ!!!」
「BBをさらにあの低俗なチャンネルと引き離したわね。でも、油断しないで!」
藤丸はマシュと対峙していた。マシュは藤丸の動きをよく見ていたのか、剣筋を回避さながら確実に彼を追い詰めていく。藤丸は「盾の騎士」としてのマシュを見ていたが、眼前にいるのは───
「太刀筋だけでなく、オレの動きも読まれている…!」
「あぁ、そりゃお前をずっと見てきたんだ…。こちらが変化球投げなきゃ、詰むぜ?」
藤丸の相棒の一人であるアークミネルバの提案は的を射ている──だが、藤丸の頭にそれが浮かんではこなかった。結果として、鎧と外套は傷付き身体も赤く汚れていた。
戦略を練りながら睨み合いを続けていると、敵の剣士が急に膝をついた。
「!?マシュ!」
「Aaaaa!セン…パイ……っ!コンナニモ!アイ……シテル…ノニ!!!ナゼ……あの女に!!!!」
マシュは藤丸に対する愛と憎しみの間で狂いながら苦しんでいた。
「……攻撃を仕掛ける今しか!!」
藤丸は血のように赤い刃を手に持ち、構えた。
「ブラッディ────」
藤丸が技の構えに入ろうとした矢先──標的の姿はそこには無かった。
「ハッ!!」
彼は冷や汗を額から垂らしながら、背後からの気配に意識を傾けた……そしてそれを素早く斬る。
「!気を付けろ!!今の気配は罠だ!!!!」
「しまった!!!」
上から剣が落ちてきて右肩に入った。
斬撃は鎧を貫通し、藤丸の肩から大量の赤い噴水が舞い上がった。
「大きな一撃を喰らったのか!!?」
「何やってるんだ、マスター!!」
藤丸の苦戦は他のサーヴァントにも影響が起きた。
「……!魔力が上手く回らん!」
「フフフ、もう終わりですかぁ?なら、潰れてください」
「!」
エミヤも劣勢を強いられていた。
「マスターの魔力が弱まっているようだな…。単独行動で私はどうにか動けるが……」
長引いてもカルデア側がじり貧なのは誰もが分かっている。
藤丸が倒れ、サーヴァントたちが消滅するのも時間の問題なのはカルデア側の皆の頭に浮かんだ最悪の光景だ。
「なら──」
「答えは───」
「たった一つ!!!」
ネロ、藤丸そしてエミヤは動き出した。
「「「うぉぉぉぉ!!!!!」」」
其々の眼前の敵から見れば、無謀な突撃にしか見えなかった。もちろん、彼らの考えていることはあまりにも愚直そのものであった。
それは残った魔力を全て「攻撃」に変えること。
「リップ!あの皇帝を援護するわよっ!!」
「は、ハイ!!」
「即席トリオに負ける私ではありませんっ!!」
「やって見なくては……分からんだろう!!??」
BBは桜色の光線や衝撃波でネロを後退させようとする。
しかし、巨大な爪と胸がそれらを無効化した。
「BB!貴女の攻撃はぎゅ~っとして圧縮しました!!セイバーさん、私を踏み台に!!」
「助かるぞ!パッションリップ!!」
ネロはリップを踏み台にし、BBの上空を捉えた。BBは空を制する敵機を撃墜しようと試みるが大きな拳が妨害。
その上には刃のようなスケートを履いた少女サーヴァントが立っていた。
「や、ヤバい!」
「遅いわっ!」
BBの足元には広大な水が敷かれており、それが渦へ変化した。
「行くわよ!行くわよ!行くわよ行くわよ!!」
その渦がBBを呑み込み水が爪のように皮膚をかき乱した。
ようやく水の暴力から解放されたと思った途端にメルトリリスが目の前にいる。
そして、放たれたのは鋭いハイキックだった。
「弁財天五弦琵琶『サラスヴァティー・メルトアウト』!!」
水浸しになったBBが次に見た光景は……黄金の劇場であった。
「ま、まさか!!」
「うむ、そのまさかである!劇場の幕が挙がったからには、貴様はここで負けるのだ!!」
白い薔薇がその刺を剣に変えて突進する。それは霞み斬りの要領で横を通り、月の癌の野望を焼き尽くした。
「星馳せる終幕の薔薇『ファクス・カエレスティス』!!」
「ワタシは……『あの人』にもう一度……会いたかっただけなのにぃぃ!!!」
火柱がネロたちの勝利を表すかのように舞った。
「マシュ……お前は俺なんかをそこまで見ててくれたんだな。…ありがとう、でもな。もうオレは『そちら』にはいねぇからよ……」
「Aaaaa!!!Senpaaaiii!!!!」
黒い女豹が血に染まった牙を振るいあげる。
『災いの剣は最愛の者を傷付ける──そして、振るった者は最後をの者と共に死を迎える』
その言葉を想いだしながらも傷が浅い左腕に武器を携える。
そして、カウンター斬りを入れようとした途端に今まで見た記憶や記録が甦った。
青い髪の少年と戯れ、女海賊と赤い皇帝が闘った記憶。
SERAPHでは多くのマスターとサーヴァントが血を流し、ある宗教が栄え、混沌と化したとされる記録。
しかし、それは青年の覚悟と比べれば小さなことであった。
「過去は変えれなくても……未来は変えてみせる!!!」
剣と剣が火花を生んだ。刃が地面に刺さる。
「………E………?」
首を傾げた隙を見逃す人類最後のマスターでは無かった。
空かさずマシュの霊基の歪んだ部分のみを斬り落とし、正気を取り戻させた。
「コフッ……」
「柳生流・峰打ちだ。」
災いの剣を砕いた影響か、剣によって負った傷が瞬時に消えた。
「やっと、儂の回復能力が戻った。よくやったな、小僧…いや藤丸立香。」
「リツカで良い。」
藤丸はホッとしながらマシュを担いで皆の元へ急いだ。
「干将・莫也!!」
エミヤの二対の短剣が羽のような形状を取りつつ長く伸びた。
羽を落としてやろうと黒い猟師が銃の引き金を引くが、羽は簡単に折れなかった。
そこで、猟師が長刀でエミヤを壁に叩きつける。
「皆殺しにシテヤル…!!」
猟師ことエミヤオルタが特殊な弾を込める。
しかし、彼は違和感を覚えた。煙の中から赤いほうの『自分』がいないのだ。
「どこを見ている?」
何処からともなく、矢と剣が飛んでくる。これをなんとか避け、獲物の居場所を特定した。
しかし、そこは銃で撃つには死角となった。
「I was born of…」
「させるか!」と心の中で叫びながら、黒い男は走った。
そして、目標である赤い背中を撃った。だが、そこにあったのは布だけであった。
「何をコソコソト!」
「何処を見ている?」
後ろから声が聞こえる。しかし、振り向かえって見るとそこには見覚えのある聖剣を携えた男がいた。
「永久遥か黄金の剣『エクスカリバー・イマージュ』!!!」
剣は黄金の光と衝撃を発しながら大きな爆発を生んだ。
「そうか……これが貴様の『答え』か……」
光の中で闇に堕ち自分を嗤った男は懐かしさのあまり笑った。
「おーい!」
「!マスター!」
藤丸はネロたちと合流し、マシュをリップに預けるとボロボロだが息があるBBを上から睨みながら次のことを要求した。
「マシュをカルデアに返せ!そして、このSERAPHでの真実が本当かを話して貰うぞ!」
BBは自身が負けた真実を突きつけられ、悔しそうに顔を歪ませる。しかし、メルトリリスの顔を見つめると悪魔のような笑顔を蘇らせた。
「メルトリリス……私が今からすることは貴女に向けた罰です。」
メルトリリスはそんなBBの発言に訝しげな態度を取ると、BBは藤丸に叫んだ。
「藤丸立香ぁぁ!!何故貴方が並みのサーヴァント以上に強いのか!何故、月の聖杯戦争に参加したサーヴァントの顔に見覚えがあるのか!何故このムーンセルを懐かしく思うのか!!その答えはただひとつぅ!!」
「止めなさい!それ以上言わないで!!」
「チッ!余計な真似を!!」
メルトリリスとアンデルセンがBBの口を封じようと走り込む。
二人の取り乱した姿を見て余裕な笑みを浮かべるBB。そして、衝撃の事実がBBの口から伝えられた。
「それは!貴方が!以前行われた、ムーンセルでの聖杯戦争において!勝者である!現嫁セイバーさんことネロさんのマスターこと、岸波白野の生まれ変わりそのものだからです!!ハハハハ!ハハハハ!!」
狂った笑いを浮かべるBBの首に刃を向けるメルトリリス。
藤丸はただ、茫然と立ち尽くすことしか出来なかった。
「嘘だ。BBは俺を騙そうとしている。だって俺は……」
しかし、記憶がビデオのように再生された。
岸波白野のデータを見ているときに感じた『自分が覗かれているような感覚』そして化粧室で見た奇妙な自分の鏡姿の正体を知ることになったのだ。
すると、再び頭痛が藤丸を襲った。それも普通の人間ならば発狂しても可笑しくない物だ。
「ウぐ……ア…ぐ……ぐわぁぁぁぁ!!!!!」
藤丸の髪が砂嵐に見舞われたかのように、一部分に茶色がかかった。
「奏者!しっかりしろ!奏者!!」
次回予告 藤丸はサーヴァントたちのサポートによりどうにか安静し、活動を再開した。
そして、秘密の最深部へと向かう。
一方で教会ではマーブルが妖しげな口調でアーノルドを傀儡と化し……
次回 Fate/Seraph Memory 『悪尼』