ARMORED CORE ブライアンサー 作:さすまた
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その日、地球の遥か上空、高度400Kmに位置する宇宙空間で、ある極秘の軍事作戦が行われようとしていた。ノイズの膜に被われた音声が、電波に乗って真空の暗闇を飛び交う。その声は、任務の中核を担う一人の男性の耳に届いていた。
『追跡班、両機の現在位置を報告』
『作戦高度に到達。予定軌道に乗った』
『軌道投入に問題発生。高度が足りない』
『確認した。以後は単独でのオペレーションに切り替える』
『了解。直援に切り替え。アーマーシフトをセブンに移行』
『通過。エリア88に侵入』
オペレーターの音声信号が次々と発せられる。作戦は滞り無く進行しているように見えた。
『了解。これより、NUSA国際宇宙ステーションに接近します』
スピーカーから芯の強そうな女性の声が流れる。オペレーターからの報告の後に続いて、次の指示を飛ばす。
『了解。作戦最終軌道に投入開始。減速行動に移る』
オペレーターが、それに応じて状況を展開させる。
『第一弾、全エンジンを点火。燃焼を開始』
音声が聞こえた直後、輸送ポッドが激しい明かりを放って、暗闇の中に幾何学的なシルエットを浮かばせた。
『S1Cジェット、燃焼終了。減速を確認』
『第一弾、ブースターユニットを切り離せ』
ポッド本体から4つのブースターユニットがゆっくりと分離する。そして、充分な距離に達したところで推進装置が作動し、本体の軌道を外れ、宇宙の暗闇の中へと消えて行った。
『分離を確認。電装系をチェック。異常なし』
『了解した。ENエネルギーの燃焼タイミングはオート。第二弾全エンジンを点火』
二度目の点火によって、暗闇の中に局所的な明かりが灯る。ポッドの周囲には、大量のデブリが浮遊していた。
『S1C燃焼終了。圧力弁を閉鎖』
『第二弾、ブースターユニットを切り離せ』
ブースターユニットが本体から分離すると、本体を見送る星屑となって消えていった。
『減速行動を終了』
『最終作戦軌道への投入準備。機首を反転。回頭開始』
『降下角度、確認。誤差、修正内』
機体は、細かく推進装置を噴射しながら体勢を整えてゆく──。
その全貌は、二本の大きな支柱に挟まれた大きな楯であった。支柱は末広がりの三角錐で、まるで電波塔の足下にロケットエンジンを積んだような無骨な形をしていた。
『相対速度、再計算。座標高度を再確認。すべて問題なし』
『軌道最終修正完了』
『180℃回頭完了』
『了解。交叉起動への遷移スタート。これより、作戦行動に移る』
『現時点で全てのリモート誘導を切る。以後の制御はローカル』
『──Ok.GOOD LUCK』
機体は、ゆっくりとした浮遊状態から一転して、重力に引き寄せられるようにして急降下を始めた。
白いヘルメットと耐衝撃スーツに身を包んだ男性は、コックピットの中で次々と状況を伝える映像に意識を集中していた。
『目標との交叉起動に乗った。接触まであとハチマル』
『目標物を確認』
『接触地点に変更なし』
『シフトMを維持。問題なし』
操縦レバーを握りしめながら、様々なスイッチを押して機体の微調整に努めていた。
『用意はよろしいですか? 聞こえていますね?』
「ああ」
その時、コックピットにアラートが鳴り響き、正面の映像が切り替わった。
『目標宙域に反射波あり。妨害が入った』
『自動防衛システムの質量兵器だ』
次の瞬間、ポッドの進行方向に多数の爆発が発生した。急降下中の機体は、そのまま爆発の中へと突っ込んでいく。
『爆散流発生。到達まで5・4・3──……」
「────ッ!!」
バットで鉄板を殴ったような音と共に、激しい衝撃がコックピットを襲った。
男性は、機体の揺れに体を奪われてうめき声を上げる。無数の破片が、突然降り始めた雹(ひょう)のように次々と機体に衝突していく。
『続いて第二波の衝撃に備え』
『接近中の物体を識別。アンノウン(未確認)』
レーダーがそれを捉えて間もなく、超高速の飛行物体が、機体目掛けて突っ込んで来た。飛行物体は、円盤状の本体の平面に二本の爪を生やし、それを前方に突き出した状態で体当たりを仕掛けてきた。
「AMIDAか。厄介だな」
AMIDAの爪が、機体に突き刺さる。アームを展開し、爪を左右に開いてそれを引き裂いた。AMIDAは、失った機体に向かって、すぐさま散弾式の酸を浴びせる。
操縦席で前のめりになったサー・マウロスクは顔をしかめていた。彼の操る機体は、酸を浴びて表面が溶け出していた。
「デスク(事務職)、キサラギ社の遺物がなぜここにある」
マウロスクは、予定外の乱入者に苛立ちを向けながら、特攻を仕掛けて来るAMIDAを弾き返して応戦する。
『なぜここに配備されているのか、不明です。しかし、なにをすべきかならお答えできます。障害の排除です」
「説明になっていない」
『まさかとは思いますが、エイダス社のNo.9ともあろうリンクスが、旧時代の生物兵器に弱音ですか?』
先程まで漂っていた静寂の中の緊張感はどこかへ消え、宇宙空間は一瞬にして物理的な戦場と化した。再びネクストACの装甲板に食らいついたAMIDAを、振り払う。
「──いいだろう。No.9の格ってやつを見せてやるよ」
マウロスクは鋭い眼光で無数のAMIDAに標準を合わせる。ショルダーパックに積んである誘導式ミサイルを発射した。
正確な射撃によって次々と飛行物体を破壊していく。
『迎撃に夢中になるあまり、本来の目的を忘れないでください』
「言われずとも──っ!!」
ネクストACは、取り付かんとするAMIDAの合間を縫うようにして華麗に躱して宇宙ステーションに近づいていく。
「!? ……おい! どうなっている!?」
マウロスクが驚愕の視線を向けた先には、目標物となる黒い固まりが浮かんでいた。目標物は、巨大なコンテナだった。
だが、ブリーフィングで確認していた取り付け位置が違った。
「あの位置では、軌道修正が追い付かない」
『回収を最優先。機体にダメージを与えてでも』
「貴様達デスクの連中はいつもそうだ。安全圏から指示を飛ばすだけ、イレギュラーが起こっても“やり遂げろ”と簡単に言いやがる」
目標物のコンテナに向かってアームから三発のワイヤーロープを発射する。ワイヤーロープの先端が、コンテナの表面に張り付いて固定される。その ままの勢いでコンテナを追い越した機体は、ワイヤーの反動を利用して減速し、そのままワイヤーを巻き上げて目標物へ急接近して行った。
「っっっ! 減速!!」
コンテナにしがみついた。進行方向に対して反対側へ、ブースターに点火。巨大な火柱が二本吹き出して、目標物の慣性を沈めて行く。
「8、7、6、5、4……」
燃料を使い切ったブースターは、その役目を終えて機体から切り離されると、推進装置を噴射して軌道の外へと進路を向けた。
『情報に不備があったことはお詫びいたします。ともあれ、ミッションコンプリートお見事です。エイダス社NO.9の手際、しかと目に焼き付けさせていただきました』
マウロスクは、息を荒げて胸を大きく上下させた後、呼吸を落ち着かせて外の景色に目をやった。
『AMIDAの追尾範囲からも離脱成功。残りは大気圏突入の際に燃え尽きるでしょう。そのまま維持してください』
女性の声が無線から流れる。
「了解……」
無事に任務が果たされ、マウロスクは緊張の糸を緩めた。
しかし──。
休む暇もないまま、突然コックピット内にエマージェンシーアラートが鳴り響いた。モニターには、即座に状況を解析したコードが表示される。
Warning!!
Ulterior
Lypanes Pelponer
Adlyote Taserldd
Pattern Esioldan
Pattern Bertonay
Pattern Analysis:Enemy
:Unknown
:Unknown
:Unknown
:Unknown
「また不明機? AMIDAか? いや……違う……」
マウロスクは顔色を変えて周囲を見渡した。しかし、なにも見当たらない。
『識別信号を受信。不明信号が高度600kmより高速で接近中』
オペレーターの音声が届く。目を凝らして機影を捉えようとする。すると、米粒ぐらいの大きさが徐々にでかくなっている対象に気がついた。
マウロスクはその光景を目にし、怯んだ。
「バカな……ネクスト機……!? こちらは大気圏突入体制に入っている! コンテナを抱えたままでの迎撃は不可能だ! どうする!?」
通信士へ激を飛ばした。マウロスクの駆る機体は、コンテナを連結している状態で大気圏への突入を開始してしまっていた。超高熱と重力の圧がかかる中での戦闘は、自殺行為。マウロスクはそのことを理解していた。
『上層部に……しています! ──……同じ条件下のはず……その──』
オペレーターからのノイズ混じりの音声が、通信不良で途切れる。
「チッ、一分一秒を争う事態で……役立たずがッ!」
マウロスクは苛立ちを押さえ切れずに、機体とコンテナの連結を素早く切り離そうとイジェクトのスイッチを押した。しかし、成功したというメッセージがポップアップしない。
「くっ、どうなっている!? モニターを……!」
すぐさま映し出された映像を肉眼で確認すると、目を疑う光景があった。
「虫もどきがっ! コンテナにも張りついていたのか!」
無数のAMIDAが触手と爪を使い、マウロスクのネクストACとコンテナを繋ぐように輪を作っていた。
「なぜこいつらはセンサーに反応しなかったんだ……いや、それよりもこのままでは降下角度が維持できん! 分解する!」
マウロスクは果敢に切り離しを試みるが、ウネウネと触手を伸ばしたAMIDAが許さない。外部からの熱と圧とで可動部位の臨界点を突破し大爆発を引き起こす。
「ぐあっ!」
衝撃でコックピット内が激しい揺れに襲われる。姿勢を戻した時には、左肩から先が完全に失われていた。
「ぐうううぅぅぅ……」
見るも無惨な姿になってゆく機体に、触手はさらに絡もうと襲いかかる。爆発の衝撃を繰り返し浴びたマウロスクは、思わず目を瞑った。
「バカな。こんなくだらない任務で、俺は──」
呟きには、死の現実を受け入れられないと嘲笑う戒(いまし)め全てが詰まっていた。
死。
初動の遅さは致命的。
対応力、判断力の欠如は論外。
時間は待ってくれないからだ。
だからこそ、迅速に、最善の手を打たなければならない。
それこそが一流の証明だ。
できなければ、死ぬだけ。
そう自負していたはずなのに、死が間近に迫っている現実に頭がついてきていなかった。
しかしーー。
次の瞬間、紫色の光が一直線に伸びたかと思うと、強力な電磁砲が一瞬のうちにAMIDA諸共、触手を蒸発させ、細切れの藻屑へと変えてしまった。
そして、マウロスクは、唖然とした表情で発射された方角を見た。
「低出力のビーム砲か……? バカな。あの距離から……そんなのは不可能──ぐっ!?」
近づいてくるネクスト機の機影を最後に、電子機器がショートを起こし、誘爆した際の衝撃でマウロスクは気を失った。
コンテナとマウロスクは切り離された。それぞれが青い光を放ちながら大気圏へ突入し、成層圏へ溶け込んで行った。
「……──希望の光、絶望の光………全人類を巻き込んだ戦争が、はじまるのね」
戦闘が起きた宇宙空間の遥か彼方で、その光景を眺める一人の女性の姿があった。金髪の女性は、事の顛末を全て予見しているような表情で、地球に向かって降下する光を見ていた。