夢破れた世界から少女は何を見る   作:chee

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楽永if、楽紅if、楽錆if、、、どれも素晴らしいものばかりですが、そんなユニバースには必ず恋敗れる少女が存在する。

そう、ヒロインちゃんです。

今回は楽紅ifの世界線のヒロインちゃんの短編を書いてみました。



………あえてヒロインちゃんの誕生日に落とすネタでもないなこれ。
っていうかもっと大量にあふれる楽玲の中でひっそりと投げるつもりだったのにぃ!!!


ヒロインちゃんの場合

とてつもなく足が重い。

これ以上前に進みたくない。

だって……だって……もうすぐ()と会ってしまうから。

いつもなら嬉しくて顔を赤らめてしまうでしょう。

昨日もそうでした。

()に毎朝会えることはうれしくてたまらないはずです。

でも、今日は違う。今日だけは違うんです。

 

 

昨日の、()()()()()()を見てしまったから。

 

 

 

 

【旅狼】

 

秋津茜:夜分にすみません!

 

秋津茜:皆さんにご報告があります!

 

鉛筆騎士王:どったの茜ちゃん?

 

オイカッツォ:珍しいね

 

サンラク:や、ちょ、まさか

 

サイガ−0:どうしたんですか?

 

秋津茜:実はですね……

 

サンラク:待て!待て!秋津茜ェ!!

 

ルスト:サンラクうるさい

 

京極:で、秋津茜さんどうしたの?

 

秋津茜:私、サンラクさんとお付き合いさせていただくことになりました!!!

 

サイガ−0:………………………………

 

鉛筆騎士王:えっ

 

オイカッツォ:えっ

 

ルスト:えっ

 

モルド:えっ

 

京極:えっ

 

サンラク:いや、その、はい

 

サイガ−0:……………………………はぇ?

 

 

 

 

あれからチャットは見ていません。見ているだけで心の中の()()()が壊れてしまいそうだったから。昨日は、もう何がなんだかわからず、ただ涙が止まらなくて、ずっと泣いていました。今でも泣きそうです。

 

でも、気持ちの整理はしなくちゃいけません。そして、言わなきゃいけないんです。昨日言えなかった『おめでとうございます』を、楽郎君に。

 

でも、今それを言うとまた昨日のように泣いてしまいそうで……

 

 

 

「あ、玲さん。おはよう」

 

「………ッ!!!」

 

 

 

楽郎君。いつもなら会えて嬉しいはずなのに、今日はもう少しだけ会いたくなかった。それでも、楽郎君に会えただけで私の心は躍ってしまいます。

 

「ぁぅ……おはようございます……!!」

 

「うん。ごめんね、昨日は騒がしくて…」

 

「…ぉ………昨日って、チャットの…」

 

「そうそう。茜の」

 

「…ぉ………私最初の方しか見てなくて…」

 

言いたいです。言いたいけど、言いたくないんです。

言えません。言わなきゃいけないんです。『おめでとうございます』って、言わなきゃいけないんです。なのに、言えません。

 

「なるほど。あのあとは基本的に俺がペンシルゴンとカッツォにイジり回されてただけだよ。おかしいよな。茜は放置で俺だけ集中砲火だなんて」

 

「ぇと……ハハハ」

 

乾いた笑いが込み上げてきますが、心の底からは笑えません。楽郎君が『茜』と口にする度に私の心に鈍器で殴られたかのよな衝撃が走ります。こうして話しているだけで、楽郎君は秋津茜さんと本当に付き合っているんだなぁ…って実感が少しずつわいてきて、やっぱり辛いです。

 

「最終的に茜が惚気始めて…ほかの奴が便乗して…本当に辛かった……」

 

「大変だったんですね……」

 

改めて楽郎君の顔を見ると少しげっそりしていました。これ、夜通しやってたんですかね。

 

「挙句の果てには『これ、毎日続くから。当たり前でしょ?覚悟しなよサンラククン』だってよ」

 

「ご…ご愁傷さまです?」

 

「それでも、後悔はしてないよ。茜と付き合い始めたことは」

 

「その…好き…なんですか?」

 

聞いてしまってからハッとしました。私がこの答えを聞いてしまったら………

 

 

 

 

「……うん。好きだよ」

 

楽郎君が、ニコッと笑った。

 

 

 

 

「ぇぁ……」

 

……楽郎君、本当に秋津茜さんが好きなんですね。

 

伝わってしまった。理解してしまった。

その笑顔は、私が好きになった笑顔で、私が憧れた笑顔で。楽郎君が『好き』って気持ちをめいいっぱいに乗せたその笑顔が、私の胸に刺さる。

その笑顔を引き出したのは、私じゃなくて秋津茜さんで、とても悔しくて、妬ましい。

 

 

それでも、

 

 

 

楽郎君の笑顔は、どうしてこんなにも私の心を昂らせるのでしょう。

 

 

 

はじめて彼の笑顔を見て、あれから彼の笑顔を追い続けて、そして昨日、彼の隣にはいられないことが決まった。それでも、彼の笑顔が見たいと思えます。

 

「あの、楽郎君」

 

「ん?」

 

「おめでとうございまひゅッ………」

 

ずっと言えなかったその言葉は、思ってたよりも自然に口から出ました。

……噛んじゃったけど。

 

「……」

 

「……ップ」

 

カァァ……っと顔が熱くなる。恥ずかしくて、とても居心地が悪くなるんですけど、今に限ってはこれがとても心地いい。少なくとも今、あなたの笑顔を私だけが見ることができるんだと思うと、こんなにも嬉しくなってしまいます。

 

「笑わにゃいでくだひゃいっ……!!」

 

「はは……いや、ごめんごめん」

 

あぁ……やっぱり、私、楽郎君が好きなんですね。たとえ秋津茜さんと楽郎君が付き合っているのだとしても、こうやって楽郎君と話しているのはとても楽しく感じてしまえます。

 

 

 

「ありがとう。玲さん」

 

「……うひゃぁ」

 

 

 

楽郎君の笑顔はやっぱり眩しくて、この人を、この笑顔を好きになってよかったって心から思えます。

 

たとえ楽郎君が秋津茜さんのことを好きなんだとしても、私はまだあなたの笑顔を追いかけていたいです。あなたと一緒に笑いながら、遊んでいたいです。

 

 

 

 

 

だから楽郎君、もう少しだけ、私に片思いをさせてくださいね?




サンラクがヒロインちゃん以外と結ばれるユニバースでも、きっとヒロインちゃんはサンラクにアプローチをかけてたし、たとえサンラクが秋津茜や鉛筆と結ばれることになっても、彼女の努力はこの上なく貴いもので、なかったことになってはいけないんだと思います。

たとえ叶わなかったとしても、彼を思い続けることがヒロインちゃんのヒロインちゃんたる所以なのではないか。たとえ行動に移せないようなクソザコヒロインちゃんでも、サンラクを慕うというただ一点においてのみはどんなヒロインよりも、それこそそのユニバースでサンラクと結ばれるヒロインよりも強いものなんじゃないか。

どんなに厳しい状況だったとしても、ヒロインちゃんにはただひたすらにサンラクを、サンラクの笑顔を追い続けてほしい。それが僕の解釈であり、願いです。尊い。尊い。



最後に、ヒロインちゃん誕生日おめでとう!!

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