何が起こったのかは自分でもよくわからなかった。
いや、言ってしまえば簡単で。幸せな夢を見て、楽しい夢に浸っていた。そんな私が、ただ夢から覚めて、現実を見せられた。それだけ。
ただいつも通りだったゲーム中。
でもテンションはやたら高かった気がする。
そのテンションに身を任せて、私は何を口走ったんだっけ?
細かい事は何も覚えていないけど確かなことが一つ。
気がついたら私はカッツォのヤツに告白していて、
……気がついたらフラれていた。
「……わっけわかんない、私」
カッツォの事が好きだった。
きっとそれは紛れもない事実で。
その気持ちを自覚したのは本当に最近だったのだけれど、きっと私は長い間無自覚に彼のことを想い続けてきたのだろう。今思えば、きっと私のそんな気持ちを私よりも鋭敏に察知していた鉛筆のヤツがよく私とカッツォが二人になるように計らっていてくれたと思う。
そんな彼との二人の時間がとてもとても楽しくて。
私は自分の気持ちを自覚した。
彼氏というコンテンツには何ら興味ない。それが私のスタンスではあったけれど、そんな彼氏彼女というガワをかぶってもっとカッツォといられるのであれば、きっとその方が楽しいからなんて自分の中で結論を勝手に出して。
そんなその場だけの昂ったテンションで告白をして、フラれた。あっけなく。
受け入れてもらえる確信なんて当然なかった。でも、なぜかフラれる光景は全く想像してなかった。自信があったわけじゃない。ただ考えなしだっただけ。そんなバカの顛末なんて、当然一つ。
『え……ごめん、流石にお前のことはそういう目では見れないな……』
そのカッツォ言葉が、ずっと頭から離れない。
「もう……なんで……」
部屋の中で一人落ち着くと、さっきまでは微塵も出なかった涙が、ポロポロとこぼれ始める。暗い部屋に一人きりで誰にも見られていないのはわかっているけれど、なんとなく私らしくもない泣き顔をしてるのが恥ずかしくなって、膝に顔を埋めた。
なんでフラれたか、そんなことは分かり切っている。永遠とつるんでいて色目で見ないような奴だ。あの永遠を。そんなやつを私が落とせるわけがないんだ。
恋は盲目なんて言って、周囲のことを全く見ずに恋に全力を注ぐようなヒロインはたくさんいるけれど、私の場合見えなくなっていたのは自分自身。やっぱり人はそれぞれ『身の丈』っていうものがあるわけで。相手は日本の誇るトッププロゲーマー。そりゃ半分タレントみたいな仕事もしているアイツなら当然目も肥えてるだろうし、私なんか、私なんか……
現実っていうのはやはり残酷で。夢から覚めて冷静になった思考は夢の中で私が見ないですんだ、見ないようにしていた自分というものをむざむざと見せつけてくる。
…もう、勘弁してくれ。
その時、『ぴろん』って音が耳に届いた。顔を上げて涙を拭うと、携帯が通知を告げていた。手に取って確認すると、そのメッセージの送り主は……鉛筆戦士。
◇
鉛筆戦士:大丈夫?おねーさんがアフターケアに来てあげたゾ!
鉛筆戦士:それにしても思い切ったね~。まさかいきなり告白しちゃうなんて。私もカッツォくんに聞いた時は驚いちゃったよ。
鉛筆戦士:私にはそんな本気じゃないなんて言っていたけど、それでも直接フラれるとしんどいでしょ。ほら、しばらくはおねーさんがサンドバッグになってあげるから、気持ちを吐き出しちゃうといいよ。通話でもつなぐ?
◇
「……余計なお世話だよ。馬鹿」
通話は繋ぐ気にはなれなかった。
今鉛筆に泣きついたらきっと言っちゃいけないことまで言っちゃいそうで。だってアイツは私よりもずっとずっと女として魅力的で。それは私が手に入れようとすらしていなかった物だから。ないものねだりすらしようとしてこなかったものだから。
だから、私がここまでショックを受けていることは鉛筆のヤツに知られるわけにはいかなかった。
そもそも、何でここまでショックを受けているのかは私自身わかっていないんだ。確かに大事な初恋でこそあったけれど、私の好きはまだ『何となく』だったはずで、そんなに本気でもなかったはずで。たとえフラれても、本来ならけろっとその場で友達に戻れるような、そんな軽い恋のはずだったんだ。
だから、私は、大丈夫じゃないといけないんだよ。
◇
サンラク:だいじょぶ。ほっとけ。ばーか。
◇
そう軽いノリで返した指はいまだに震えていた。そう、大丈夫。大丈夫なはずなのに。
鉛筆には見栄を張ったが、やっぱり余裕はない。何度も『大丈夫』と自分に語りかけるたびに自分が全然大丈夫じゃないのを見せつけられるようで。何も考えたくない頭が冷静に自分を見つめなおすたびに、どんどん涙は溢れ出してくる。
さっきから頭の中で反芻しているのは当たり前のことばかり。それなのに、そのはずなのに。こんなにも苦しい。
「……こんなんで明日からどうすんのさ私」
アホみたいに明るくて快活なのが私の売りなんだから、いつまでも泣いているわけにはいかない。そう思って一つ大きな笑顔を作ってみる。
「ッ……」
だけど、明かりの消えた携帯端末の暗い画面に反射した私の顔はまだぐしゃぐしゃの泣き顔だった。
あぁ、わたし、だめだ。
「……ごめん」
明日から、本当なら今すぐVRに潜ったとしても、笑顔でもう一回
お前と話すことを考えるだけでこんなにも苦しくなってしまう。お前と顔を合わせることを考えただけでこんなにも顔が歪んでしまう。
だから、ごめん。
きっと私は私の思っている以上にお前のことが大好きすぎて。それが叶わないとわかっていても、いや、わかってしまったからこそ、少なくとも今の私ではまたお前と馬鹿笑いしながらゲームするなんてきっとできないから。
手の中にある携帯の電源をもう一度入れて、開いたのはいつも使ってるチャットアプリ。その『カッツォ』の名前をドラッグして……
「ごめん。ありがと。だいすき」
画面からその名前が消えたのを確認すると、やっと微笑みが一つこぼれた。
涙は、止まらなかった。
やっと書けまして満足です。
冷めて、覚めて、醒めてしまった頭でひたすらに回る自己嫌悪。そんな卑屈な感情もあうなって。
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