ジュリエッタから彼の話を聞いた時の私は夢や絵本といった架空の人物の話だろうと思っていた。しかし、話を聞いているうちに友が話していた面白い奴と当てはまっていき、私は目を細めていた。
字の読み書きが出来、家事全般をこなせたのは友の率いる傭兵団の中でも最年少だったからであった。面白い趣味をしていたからという理由で拾った友は、少年に世界を教え、戦場を教えた。そして、わずか数年でモビルスーツを乗りこなし、白兵戦も長期戦にならなければ我が友と並ぶ程の腕前になった少年はある日を境に傭兵団から姿を消したという。
「あの時は流石の俺も驚いた」
傭兵団を抜けるとは言ったそうだが、行き先は言わなかったらしい。行くあてもないだろうからとギャラルホルンに推薦したが、聞いていた名前の人物がギャラルホルンにやってくることはなく私は首を傾げた。
それから幾許かの年月が流れて、届いたのは火星独立運動の知らせ。厄祭戦を終え、地球や月の統治活動をしているギャラルホルン以外では士気も練度も足りずに、各コロニー内で暴動が起きてしまった。その一部を諌めてもらうために、彼らにも裏で働いてもらった。ギャラルホルンでは手が行き届かない組織や人間の始末。傭兵団に頼む仕事ではなかったが、信頼のおける彼にしか頼めないものだった。
だが、火星の独立運動は成功した。ハーフメタル利権を手に入れ、クーデリアは地球でも名の通った革命家となった。
さらにそれから1年、火星独立運動を推し進めるクーデリア・藍那・バーンスタインを地球に送り届けた火星の武装組織、鉄華団。地球にまで活動を広め、私の政敵であるマクギリス・ファリドと知己のある組織。ギャラルホルンに頼らない軍の編成や、夜明けの地平線団を壊滅させるといった活躍はマクギリスとの繋がりがなくとも私にとっては目障りな存在だった。
しかし、構成員のほとんどは子供。潰すのは容易いが殺すほどでもない。仲間を数人失うことになるが、少々痛い目に遭ってもらって身の程を知ってもらおうと思ったが。
「まさか、この私が知ることになるとはな」
我が友の策略はことごとく外れ、しかもいつの間にか違う人間の立てた脚本にすり替わっていた。その脚本の著者こそが、我が友が育て、ジュリエッタの慕っていた男にして、鉄華団地球支部長、星原・モーリノという男だった。
友いわく、名前は変えていたが見た目は背が伸びただけであまり変わっていなかったそうだ。しかし、所詮は子供の集まりであり、また間者として利用しようとしたラディーチェから得られた情報では大したことない男だと自らの情報収集を怠ったことが友の敗北だった。
瞬く間に事態は終息し、その功労者は私の前へとやってきた。細身の体に逆立った紫色の髪。寒がりなのか首に巻かれた長いマフラーが特徴的なキザっぽい雰囲気のある男というのが私から見た彼への第一印象だった。
1対1で話がしたいと言った星原に、友は薄く微笑んで部屋から出る。頼み事があるとは聞いていたが、なんだろうかと平静を装いつつも私は身構えた。彼には友と私の繋がりを示す証拠が握られており、強請るには格好の好機だろう。しかし、彼は私にイオクの動きを止めて欲しいと宣った。それに私は訝しんだ。理由を聞けば火星でモビルアーマーらしきものが発見されたから。それだけで? と私は彼へと問いかけた。理由としては弱すぎる。モビルアーマーが見つかっただけでイオクが飛び出すとは思えない。だが、彼は1枚のタロットカードを引き抜いた。これが理由だと。未熟で早計なイオクでは何をするか分からないと。バーナム効果と言うやつだろうか、言われてみればそうだがと頷きはするも鉄華団の陰にいるマクギリスの存在がチラついている私はイオクを向かわせないにしても、何かしらの手は打とうと策を巡らせた。しかし、星原はマクギリスにも同行させないと言ってきた。それでいて、イオク以外なら私の部下を来させてもいいと。わけが分からないと瞬きを繰り返す私に、次喧嘩売ったら殺すと遠回しに告げた星原は私に背を向けた。
なるほどと私は友が見せた微笑みと同じものを浮かべていた。友の言葉も、ジュリエッタの思い出も決して過大評価や空想ではなかった。あの男は間違いない。本物だ。そう確信できた。それは以後の活躍でも見て取れた。生まれる時代が早ければアグニカ・カイエルにも並ぶ英雄にもなったかもしれない。そんな男だった。
そして、私は決めた。ボードウィン卿のように子宝に恵まれず、ファリド公のように後ろ盾を磐石にするでもなく、ただ次代を残して死ぬ予定だった私にも、手元に置いて見ていたい者ができた。彼なら、星原・モーリノならば、私が作ろうとした社会を、世界を作れるかもしれないと。
だが、私には子がいない。彼と私を結びつける繋がりがない。養子に迎えようにも、彼は気味悪がるだろう。ならばと、彼に恋慕の情を向けるジュリエッタを娘に迎えて、彼と婚約させればと考えたが……やはり、無理があったかと他の策を練る。
「あ、おじさま、ラスタル様! 私、結婚することになりました!」
「ラスタル様!? アァアカチャンッッ!?」
月に一度の焼肉会で唐突にジュリエッタにそう言われて、私は持っていた串が手から離れていった。それをイオクが慌てて取ろうとするも、串の先端が刺さって悲鳴を上げるイオクへの心配の言葉よりもジュリエッタの報告が気がかりだった。
「おっ! やっとか!」
「はいっ! やっとお兄様も私を1人のレディとして認めてくれました!」
話を飲み込めていない私と違って我が友は上機嫌にジュリエッタと杯を交わすと自分の事のように喜ぶ様が見えた。
「おい、ジュリエッタ」
「なんですかヴィダール……じゃなくて、ええっと……」
「ヴィダールでいい。それで、彼は君の婚約者を知ってるようだが、相手は誰だ」
マクギリスが動く気は無いと知り、更には星原からバエルを使ってギャラルホルンと世界を変えるという子供の描いた幻想のような計画を聞いたヴィダールは復讐への気持ちも薄れ、公の場以外では仮面を外すようになった。そんな彼もジュリエッタの婚約者が気になるのか、尋ねる。
「お兄様に決まってるじゃないですか」
何を言ってるんですかと真顔で返したジュリエッタに、ヴィダール……いやガエリオは私の方へと目を向けた。
「私も今知った。……ジュリエッタ、その話はいつ」
「一昨日の夜です! お兄様が火星支部の宿舎まで来てダイヤのリングをくれたんです!」
ほら! と輝くダイヤのついた指輪という見慣れないものをつけているなと思っていたが、まさか彼から貰ったものだったとは。
「そうか、それは……よかったな」
「はい!」
寝る間も惜しんで彼とジュリエッタをひっつける方法を考えたというのに、まさかあちらから動くとは。まったく、我が友のことを余計に責められなくなってしまった。私の書いた脚本は捨てるしかないようだ。
「うむ! めでたいなジュリエッタ! それで式や披露宴はどうするのだ!?」
痛みが引いたのか復活したイオクが祝辞を述べると、ジュリエッタはパクリと焼きとうもろこしを咥えながら言う。
「にゃんですかそれ?」
「なんだ貴様知らないのか。いいか、結婚式というのは結婚したという式のことだ!」
「ひりょうえんは?」
「物を食べながら話すな! まぁいい! 新婚だからな許してやろう! 披露宴と言うのは披露する宴のことだ!」
「まんまですね」
字面だけを見ればそうだし、間違ってるとは言えないが……披露宴に関しては他に言い方があっただろうと苦笑してしまう。
「何はともあれめでたいことだジュリエッタ。おめでとう」
「ありがとうございます! ラスタル様!」
ピョンピョンとその場で跳ねるように嬉しさを表すジュリエッタに微笑みがこぼれる。
「よし! ならば、今日は祝宴だ! 特上の肉を焼くぞ!」
「今すぐお持ちしますラスタル様!」
「では、野菜は俺が焼きましょう」
「 よし、新郎も呼んでやろう!」
一同が盛り上がる中、ジュリエッタは食器を置いて、我々へと口を開いた。
「あ、お兄様……じゃなくてだーりん? は来ないと思いますよ」
「む? 何故だ? というか、今日も呼んだのに来てないではないか!」
友の言う通り、この前マクギリスと共に招いた時の帰りに今日も来てくれると嬉しいとは言ったが……。賞金首退治で忙しいのだろうと思っていたがどうやらそういう訳でも無いらしい。
「今日はエーコさんの日ですので! 私は明日なので!」
「……?」
男性一同何を言っているのか分からないと顔を見合わせると、友は合点がいったのか「まさか!」と声を上げた。
「はい、だーりんは人気者なので、私とあと2人の女性と結婚しました!」
下手するともっと増えるかもですけど、まぁ私がナンバーワンなので関係ありませんね! と胸を張るジュリエッタに私の胸中は穏やかではなくなった。誰と誰だという焦りと、それがマクギリスや他のセブンスターズや政治家や活動家などに通じていないかという不安。それらが押し寄せてきてぞわりと背筋に嫌な汗が浮き出た。
吉報かと思いきや、もしかすると我が人生始まって以来のピンチかと思ったが……そんなことは無かった。そうわかるのは少し先のことである。
おかしい……オルガとの話を書くはずだったのに……なんで肉おじに……? そういえば、感想欄でハーレムはないですって言ったんですけど、ありますねぇ! ありますあります! ホモはうそつき。