第六幕 ひとときの日常
『イッセー、朝早くごめんなさい。少しいいかしら?』
アーシアの転入から数日。
日曜日の早朝に、リアスからのモーニングコールが。
世間一般の男子高校生の中では、早寝早起きを守っている一誠はその電話を受けてから、五分で家を出た。
これも日々の賜物だ。
「ごめんなさい、こんな朝早くに呼び出してしまって」
「いや、いつもこのくらいには起きてますし。それよりどういった用事ですか?」
リアスが来るように言ったのは一誠の家から徒歩で数分の小さな公園。
そこには私服姿のリアスが待っていて、電話をしてから十分以内で着いた一誠に驚いていた。
「えぇ。…もう少しで来るはずなのよ」
「まだ、誰か来るんですか」
その言葉の直後、スタスタと足音が聞こえた。
音のする方向に視線を向ける。
金色の長い髪を揺らしながら白いワンピースの上にライムグリーンのカーディガンを羽織っているアーシアが。
「おろっ?…ど、どうしてアーシアさんがここに」
「ふふっ。今から貴方のお宅に向かってもいいかしら?」
「お、俺の家ですか?一体なんで…」
そこでリアスはさらに笑みを深めつつ、一誠に向けて妖艶さを感じさせる瞳を向けながら呟く。
「アーシアのホームステイの許可を得るためよ」
「ほ、ホームステイ…??」
「なるほどなるほど。それでアーシアさんはホームステイ先を探しているという訳か」
「そういう事なら、私も賛成よ」
一誠はアーシアとリアスと共に自宅のリビングに横並びで椅子に座っていた。
交渉役を担うリアス。その隣でアーシアは姿勢を気にしながら背筋を伸ばす。一誠は、その二人についていけず、急展開さに圧倒されている。
「はい。本来なら私と共に暮らすのも良いと考えたのですが、幾分私もまだ学生の身。アーシアにも頼りやすい大人の方が近くにいてくれた方が彼女の為にもなるかと、思いまして」
前もって学校側を通して一誠の両親にホームステイの件を書類として検討してもらうようにリアスが手配していたらしい。
元々、リアスの本家、グレモリー家は人間界はともかく異形の者達の世界では知られている名家の一つ。
そのグレモリー家が悪魔やその関係者が人間界で設立した施設の一つが駒王学園。
リアスがアーシアの編入といった手続きを簡単に手配出来たのはそう言った理由があったからだ。
「アーシアさんはどうしてこの家をホームステイ先に?」
腕を組み、悩ましげな顔を浮かべていた一誠の父ーー兵藤五郎は、朗らかな笑みを浮かべつつ、アーシアに問う。
「まだこの国に来て少ししか経ってない私をイッセーさんは助けてくれて、その…とても安心したんです。だから、だからその…」
「そういう事ね……。リアスさん、アーシアちゃんのホームステイ、私達はぜひ歓迎させてもらうわ!」
言葉に詰まるアーシアを見て、バンッと机を叩いたのは一誠の母ーー三希。
リアスから伝えられたアーシアの事情(悪魔や堕天使といった事情は抜きにして上で)を知ったうえで彼女のホームステイを断る理由など彼女には無かった。
「あぁ。勿論、こんな我が家で良ければ歓迎させてもらうよ」
一家の大黒柱たる兵藤五郎の一言で、アーシアのホームステイは日曜の昼下がり中、緩やかに決定していった。
アーシアが一誠の自宅にホームステイという理由で共に住む事が決まった翌日。
一誠はクラスの男子たちに机を包囲されていた。
「イッセー、お前はイイやつだった。だが、我々の契りを破り、異端の道に走ったお前は俺たちの手で処分しなければならない」
「ああ。さぁ、アーシアちゃんとどこまでしたんだ。ま、まさか・・・・もう最後まで致してなんてーーごふっ!!」
何かを言いかけた元浜は脳内で一糸纏わず体を重ね合わせる一誠とアーシアを思い浮かべて、何故か吐血。クラスの女子等から冷たい視線を浴びている。
その隣で、彼の名を叫ぶクラスの男子達。
「だ、誰か助けてくれ…」
小さく溢れた一誠のSOSは、誰にも届く事もなくクラスの喧騒の中に溶けていった。
「なるほどねー。まぁ、転校してきた金髪のカワイイ転校生を既に堕としたって噂が広まってるからな。敵は多いぜ、イッセー?」
「堕とした…、何故そんな事に」
昼休み、基本的に開放されている駒王学園の屋上で一誠と匙は其々の昼食の弁当を食べている。
「まぁ、この学園は女子が多いからな。噂とかそういったのは大好物だしな」
「人の不幸は蜜の味って奴か。…どうしたものか」
「まぁ、この手の話は時間と共にって奴さ。けどよ、お陰であの金髪のお嬢さんには変な虫が集る事もなさそうだぜ?」
そう言って、唐揚げを口に運ぶ匙はゆっくりとそれを咀嚼した後、先程までの笑みを少し抑えて、真剣な表情に。
「でもまぁ、もっと変な虫が集る事になるかもしれねぇや」
「…やはり、結果は」
「あぁ。あのアルジェントさんがグレモリー先輩の眷属になってからの最初の数日間だけはあのはぐれ神父の目撃情報があったけど、ここ最近はパッタリ無い。恐らくはお前への警戒や足が付くのを気にしてるんだろうよ」
下手にアーシアを監視すれば一誠に見つかり、それが長引けばフリードやその裏に居る黒幕への足取りをリアスやソーナに掴まれかねない。
リアスの兄、ソーナの姉は冥界の長でもある悪魔の王ーー魔王。
そのことを聞かされた時は驚きこそしたが、今ではありがたいと素直にその力を借りている。
「いざって時は、俺も手を貸すぜ。…お前に比べたら、ちっぽけな力からもしれねぇけどよ」
そう言って黒い龍脈が装着される腕を見つめる。
瞳には確かな決意を秘めており、一誠は隣に座る友人の成長を感じていた。
「あぁ、是非とも頼むよ」
「アーシアちゃん、今日も学校は楽しかった?」
「はい!クラスの方達とも仲良くなれましたし、部活でもみなさん親切にしてくださるので」
その日の夕飯時、一誠とその両親にアーシアを加えた四人でリビングの机を囲みながら談笑に花を咲かせる。
特にアーシアと三希の二人はホームステイが決まってから非常に仲を深めている。
「一誠から見ても、アーシアちゃんは大丈夫なのか?」
「あぁ、クラスの皆とも打ち解けてるからその辺は問題はないよ」
静かに尋ねた五郎の問いに素直な感想を返して、そうかと呟く五郎。
この二人の温度感は女性陣に比べて低い。
元々一誠がテンションの高い性格なのもあり、この温度感で落ち着いている。
「何かあればアーシアちゃんをサポートするんだぞ、一誠」
「勿論」
短い言葉のやり取りを交わし、男二人も女性陣の会話に混ざらんとする。
そんな形で兵藤一誠の新しい日々は過ぎていく。
その一方で彼に近しい人物に、さらなる混乱が巻き起こることを一誠はまだ知らない。
皆様も体調には気をつけてください。
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