REGAIN COLORS   作:星月

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選択肢

「——報告は以上です」

「そうか。急の対応、ご苦労だった」

「はっ!」

 

 一通りの報告を終え、三輪と米屋の両名は指定された席に腰かける。

 

「身体的特徴、記憶内容に加えて習慣まで確認できたのならば十分だろう。彼は拉致被害者として対応するべきだ」

「そうですねえ。日本人というのは間違いないでしょう。ただ――何らかのトリガーの働きで、彼が操られるあるいは記憶が再び操作される罠が仕掛けられているという可能性は? そのあたりはどうでしょうか? 鬼怒田開発室長」

 

 忍田は早々にライを保護すべき対象であると考えて断じた。対して根付はまだ敵の罠である危険性が捨てきれないと鬼怒田に意見を求める。

 

「その可能性は限りなく低い。トリガーが仕掛けられていればたとえ未知の技術であろうとその形跡が見つかるはずだが今回はそれはなかった。新たに変化が起こるような事はない」

「なるほど。それならば確かに敵の仕掛けという線はなさそうだ」

「『埋伏の毒』を警戒するのは仕方がないですが、あまりにも仕込みが大きすぎます。彼がスパイと考える必要はないでしょう」

 

 トリガーによる仕込みがあるならばボーダーの技術があれば発見できるはずだ。鬼怒田の説明を受けて根付は納得して引き下がった。

 近界民(ネイバー)の計略を疑うのは仕方がない。だがあまりにも怪しすぎる為にその可能性はないと唐沢も補足した。

 

「彼が日本人であり、近界(ネイバーフッド)から何らかの形でこちらに戻ったという事でこの件は結論をだして良いと私も考える。気になるのはなぜ近界民(ネイバー)はわざわざそのような事をしたのかという事だ」

 

 討論を聞き、ひとまずライが敵ではないという結論を出したうえで城戸は全員が抱いていた疑問を呈する。

 何故ライ一人だけが解放されたのか。

 わざわざ拉致した相手を返す理由がない。取引であるならばまだ理解はできるが今回はそうではなかった。必要なくなったとしても処分すればいいだけのはず。

 

「それは、確かに」

「罠でないというならば理由が読めませんねえ」

「まさか近界民(ネイバー)に最後の情があったとも思えませんし」

 

 やはりこちらは答えがすぐに出なかった。皆首を傾げ、その理由を探るもその真相は理解できない。

 

「あるいは、こういう混乱を生み出す事だったんじゃないですか?」

 

 すると林藤が停滞する会議に一石を投じた。

 

「混乱だと?」

「ええ。具体的な狙いなんてない。怪しいものをこちらの内部に送る事で混乱させる事が狙い。事実こちらは少年の対応でもめている。対応方針で組織に亀裂を起こせれば、と」

「……ふむ。ありえなくはない、か」

 

 なにせボーダーにとっても初めての事例だ。まだ拉致被害者の救出作戦もたてられていない中、受け入れ態勢は当然整っていない。その中で突然一人だけ解放されたとなれば確かにもめごとは生じるだろう。それが敵の狙いでは、という林藤の意見は確かに一考に値する。

 

「確かにその可能性が最も可能性が高い。自力で脱出したとも思えない以上は林藤支部長の仮定の上で考えるとしよう」

「こりゃ光栄」

「ならば次の議題は、彼をどのようにして取り扱うか、という事だ」

 

 城戸はこれ以上議論を重ねても明確な答えは出ないと考えた。一度この話題を終え、さらに議論を進める。ライに対して具体的にどのような対応を取るかという話へと移った。

 

「調査しましたが彼に関する戸籍は見つかりませんでした。やはり先の侵略で消えてしまったものと思われます」

「さすがに名前に関する記憶まで弄る必要はないでしょうから、『警戒区域へ立ち入ったものに対する記憶措置を行って帰宅させる』という方針は無理でしょう」

 

 当然のことながらライの戸籍は見つからない。忍田の報告を聞き、根付は本来の対応は難しいだろうと結論付ける。そうでなくても家族が殺害されたという報告がある以上はこの選択は難しかった。

 

「トリオンの問題からも難しいでしょうな。彼はどうやらトリオン量が多い。下手に一般人として解放すればまた近界民(ネイバー)に襲われるリスクがあります」

 

 さらに鬼怒田もトリオンの話に触れ、その方針は危険であると語る。

 トリオン量が豊富な人間ほど近界民(ネイバー)に狙われやすいという報告が上がっていた。たとえ彼を普通の生活に戻しても再び襲撃されてしまっては元も子もない。

 

「となると、彼をボーダー隊員として迎え入れるのが最善ではないですか?」

 

 ならば結論は一つだろう。

 林藤が考えを打ち明けた。紅月ライをボーダー隊員として迎え入れるべきだと。

 

「それは、考えなかったわけではないが」

「だが仮にも拉致被害者を組織に迎え入れるのは……」

 

 組織の一員となれば監視もできる。ボーダーが関与しないところで近界民(ネイバー)に襲われるリスクも少ないだろう。

 悪い考えではない。他の面々も案として頭の中にはあった。

 しかし事件に巻き込まれた者をその事件に対応させる組織に所属させるという事には抵抗がある。全員の顔に迷いが浮かんだ。

 

「……どうでしょう。一度、彼をこの場に呼んで本人の意志を聞いてみては?」

 

 そんな中、唐沢が口を開く。

 ここから先の話は当事者を交えて決めるのが最善であると彼は考えた。

 

「――いいだろう。三輪隊はこれより被害者の下に向かい、彼をこの会議に参加するよう説得してくれ。もちろん彼の体調や心境が厳しいようならば後日でも構わないと伝えてほしい」

「わかりました」

 

 重要な決断だ。それが賢明だろうと城戸は三輪隊に命令を下す。指示を受け、二人は足早に会議室を後にした。

 

 

――――

 

 

「——って訳だ。まだ結論は出てないんだが、一度会議に出てくんねえか?」

 

 医務室に戻った米屋はライに大まかな会議内容を伝え、彼の同意を求める。

 ライは読んでいた本を閉ざし、少し考える仕草の後に二人へ声をかけた。

 

「その前にいくつか聞いてもよろしいですか?」

「おう。何だ?」

「このボーダーという組織についてです。そしてボーダーが戦っている近界民(ネイバー)という存在について」

「ああ、やっぱり気になるか」

 

 質問を聞いた米屋は一度三輪に視線を向け、彼が頷いた事を確認して解説を始める。

 拉致が起きた際はボーダーという組織はなかったし、近界民(ネイバー)という存在も認知されていなかったから仕方がないだろうと詳細に話した。

 この星とは異なる世界にも人やその人々が作った兵器が存在する事。2年前にその一団が攻め寄せ、多くの犠牲者を出した事。侵攻作戦の際、ボーダーが組織として初めて表舞台に登場し、以後この三門市に(ゲート)を誘導して攻撃を防いでいる事。

 大まかな流れを説明すると、ライは満足したのか大きく頷く。

 

「ありがとうございます。本当に想像もつかない程大きな話だったんですね」

 

 その言葉に嘘はなかった。当初ライが想定していたものよりも事態は大きく、そして悪いものだ。

 

(この世界でもまだ争いが起きている。僕が知る機械とはまた別の兵器や敵との戦いが繰り広げられているというのか)

 

 ただの戦争ではない。未知の敵との戦争が繰り広げられている。この世界の仕組みをしったライは心の中である覚悟を決めた。

 

「大丈夫か?」

「ええ。すみません、長々と話させてしまいました。——会議、僕に参加の要請が来ているんですよね。行きましょう。案内お願いします」

「そうか。ならばついてきてくれ」

 

 考え込む彼を心配に思ったのか三輪が声をかける。その声に頷き、ライは立ち上がった。

 問題はないという彼の意思を聞き、三輪を先頭に医務室を後にする。

 

 

――――

 

 

 再び場面は移り、会議室にて。

 

「ようこそ。紅月ライ君、だったな」

「はい」

「私はボーダー最高司令官の城戸だ。君の無事が確認できてよかった。まずは、救出が遅れてしまった事を謝罪する。本当にすまなかった」

 

 名前を確認すると、城戸が椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。

 

「いえ、ボーダーが普段から人々を守るために戦っているという話をお二人から聞きました。ですからどうかそのように頭を下げないでください。僕はこうして無事に助かっただけで満足しています」

「そうか。そう言ってもらえるのはありがたい。改めて、よく無事でいてくれた」

 

 ライが穏便に済ませようとふるまう事で下手に話はこじれずにスムーズに進む。城戸は重ねて彼の無事を喜ぶように言葉を紡いだ。

 

「さて、君にとっては戻ってきて早々に申し訳ないのだが。三輪隊の二人から聞いたかもしれないが、我々も君をどのように対応すべきなのか検討している最中だ」

「はい」

「こちらでも調査を進めたが君の家や関係者は見つかっていない。その為以前と同じ生活は難しいだろう」

 

 ここで城戸は間をおいて彼の様子を窺う。だが特に大きな反応がなかった事を確認してさらに話を続けた。

 

「こちらとして君に提案する手は二つある。一つはこちらから仮の住居を用意し、新たな生活を送ってもらう事。もちろん相応の支援を用意させてもらう。そしてもう一つは、君にも三輪隊の隊員のようにこの組織の一員として加わってもらうという事だ」

 

 ライにとってもボーダーにとっても大きな選択を迫る。明確な正解はない難しい話題だ。城戸も、静観を決め込んでいる周囲の者たちもすぐには答えは出ないであろうと考えた。

 

「……質問をしてもよろしいでしょうか?」

「勿論だ」

 

 予想通りすぐに答えるという事には至らず、ライは城戸に質問の許可を求める。了承を得て、ライは疑問を抱いていた事を城戸に投げかけた。

 

「新しい生活の事はわかります。ですがボーダーへの紹介を勧める理由です。隊員とは誰にでもなれるようなものなのですか?」

「いいや。そういう訳ではない。もちろん支援する側に回るのならば基本的に制約はない。だが戦闘員になるとなれば、個人が持つトリオンの量が求められる」

「トリオン?」

 

 聞きなれない単語にライが繰り返し尋ねる。

 

「隊員が使う武器専用のエネルギーと考えてくれればいい。これが多ければ多い程隊員としては有利になる。そして、近界民(ネイバー)からは狙われやすくなる」

「ッ!」

「君を隊員に誘ったのはこれが理由だ。検査の結果、君のトリオン量は常人より多いとわかった。おそらく君が拉致されたのもこれが理由と考えられる。そして、今後もあり得るのではないかと予想された。これが理由だ」

「なるほど。よくわかりました」

 

 自分が組織へ誘われた理由を知り、ライは納得したのだろう。『大丈夫です』と言ってそれ以上尋ねる事はなかった。

 

「すぐに答えを出す必要はない。君もこちらに戻ってきたばかりで思う所もあるだろう。一度この話を」

「いいえ。この場で十分です」

 

 話を持ち帰ってよく考えて欲しい。城戸の言葉は最後まで語られず、ライの返答に遮られる。

 

「僕をボーダーに入隊させてください。支援する者としてではなく、可能ならば戦闘員として」

 

 しかもあくまで自分の意志であると明言して、彼はボーダーの入隊を志願した。

 

「……本当にそれでいいのかね?」

「はい」

「君がどのような選択をしようとも生活に支障は出ないように支援はする。だが、入隊したならば以降は君を一隊員として接する事になるだろう。これを聞いても意志は曲がらないか?」

「問題ありません。条件なんて関係ない。あくまでも僕の意志として入隊を希望します」

 

 城戸の再三の問いかけを受けてもライの決断は揺るがない。問答にすぐに答え、迷いはないと態度で示した。

 

「ふむ。……わかった。ならばその方針でひとまず進めさせてもらおう。今日はこちらで空いている部屋を用意する。そこで過ごしてくれ。後日正式な手続きを進めよう」

「わかりました」

「細かいことは三輪隊が案内するように。何かあれば彼らに尋ねてくれ。三輪隊はしばらく防衛任務は空くようにこちらで調整しておこう。彼を気遣ってやってくれ」

「了解しました」

 

 方針が決まり、城戸はこれから先の事を話すと三輪に後を託し、三人は会議室を去っていく。当事者がいなくなった後、ここまで話に加わらなかった者たちもようやく口を開いた。

 

「驚きましたね。まさかこんなにもあっさりとこちらの提案に乗ってくるとは思いませんでした」

「まあ選択肢があってないようなものでしたからねえ。再び自分が襲われるリスクがあると聞けばこうするしかないでしょう」

「それを考えると少し申し訳ない気持ちになってくるな」

 

 やはりライがこの場でボーダーの要請を飲んだ事が話題に上がる。

 皆今日一日で彼の扱いが決まるとは思ってもいなかった。まさかここまで話が早く進むとは良くも悪くも誤算と言える。

 

「後は三輪達がやってくれるでしょうが……」

「そうだな。先も言ったように、入隊後は彼をあくまでも一隊員として扱うように。特別扱いはなしだ。念のためA級部隊の隊員全員に彼の事は話しておこう」

 

 手続き以外の世話は三輪達が上手くやってくれるだろう。年代も近く見えた。問題はないはず。

 

「勿論、彼が近界民(ネイバー)と何らかのつながりがあるとわかった場合は、適切に処分(・・)する」

 

 ——あとは、彼が入隊してからの行動次第。

 城戸のその言葉を最後に会議は終了を迎えた。

 こうしてライはボーダーとしての生活を送っていく事となる。

 

 そしてライがこの世界にやってきてから早3週間が経過。

 

 

 

「これより入隊式を始めます。新入隊員の方々は第1ホールにお集まりください」

「よし、行こう」

 

 年に三回行われるうちの一つ、1月4日のボーダー隊員入隊式。

 ライはC級隊員に与えられる白い隊服に身を包み、この世界での新たな始まりを迎えようとしていた。




来馬、今の鈴鳴支部二人が入隊する時期です。

ちなみにトリオン量が多いってどのくらい多いのかをさらにわかりやすく他のキャラと比較して説明しますと……
あの射手最強と言われる二宮隊長を倒したと噂が流れている我らがワートリ界主人公・三雲修の4.5倍程です。
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