REGAIN COLORS   作:星月

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ボーダー入隊編②
鮮烈


 ボーダー隊員入隊式用に装飾が施されたロビーに正式入隊を果たしたC級隊員たちが所狭しと集まる中、壇上に一人の男性が上がり、彼らを一瞥して式辞を述べる。

 

「ボーダー本部長、忍田真史だ。君たちの入隊を心から歓迎する。三門市の、強いては人類の未来は君たちの双肩に掛かっていると言っても過言ではない。それを常に意識し、日々研鑽に励み、正規隊員を目指してほしい。——君たちと共に戦える日を待っている」

 

 手短に、新入隊員たちのやる気を駆り立てるような想いを込めた言葉で締めて、忍田は最後に敬礼した。

 まだ彼らはスタート地点に立っただけだ。ここから忍田が語る、『共に戦う』ことができる正規隊員に昇格できるのは一握りだろう。

 だからこそ今はまだ余計な言葉は不要だった。

 後はボーダーの顔と呼ばれる者達に託すのみ。 

 

「私からは以上だ。この先の説明は嵐山隊に一任する」

 

 忍田の指名を受け、4人の男女が忍田と入れ替わる形で壇上に上がる。

 今までテレビで何度も目にしてきた有名人が勢ぞろいしている光景に、たちまち新入隊員たちから黄色い歓声が上がった。

 

「嵐山隊! テレビに出てた!」

「本物の!」

「わぁーっ。嵐山さん!」

 

 赤いジャージ風の隊服に身を包む嵐山、木虎、佐鳥、時枝。オペレーターである綾辻を除く嵐山隊のメンバーが一列に並んで新入隊員たちの前に立つ。

 名の知れ渡る、容姿も優れた美男美女が至近距離にいるとあって周囲は一気にざわめきだした。

 

「ふむ。さすがの人気だな、アラシヤマ」

 

 そういえば学校の時もすごかったな、と空閑が学校での騒動を思い返して独り言をつぶやく。

 他の隊員が訓練生共通の白い隊服を着こなしている中、彼だけが玉狛のエンブレムが刻まれた黒い隊服に日本人には珍しい白髪、非常に小柄な体形と少しこの場では浮いているような存在。下手すれば彼の方が嵐山隊よりもよっぽど注目を集めそうな姿なのだが、空閑はそこまで意識していないようだった。

 周囲が浮つく中、空閑だけは落ち着き、感心した声をあげる。

 

「あーあー。はしゃいじゃって」

「素人まるだしだな」

 

 いや、彼だけではなかった。

 空閑のすぐ隣に陣取っていた3人の男。嵐山隊に対して空閑とは正反対の印象を抱いているのだろうか、同期が騒ぐ様子を冷たい目で眺めている。

 

「ふむ? なあ、今のってどういう意味?」

 

 何か裏の事情を知っているのだろうか。

 興味本位で空閑が3人組に声をかける。

 

「あっ? なんだこいつ?」

「頭白。外人か?」

「いいよ。教えてやる。無知な人間ほどあっさり踊らされるって話だ」

 

 突然の声掛けに二人が対応に困る中、3人のリーダー的存在のオールバックの少年が空閑の疑問に答えた。

 彼いわく、『嵐山隊は宣伝用の部隊』、『実際は顔で選ばれただけ』、『実力が伴っていないマスコット部隊』という事らしい。

 ボーダーに通じている者ならば誰でも知っている事だと得意げに語る姿からは嘘をついている気配はなく、空閑の視点からも彼の口から黒い煙は見られなかった。

 

「……本気で言ってるのか? ウソではないみたいだが。まさかコウヅキ先輩みたいなタイプか?」

「いや、おそらく違うだろう。無知ゆえに情報に踊らされているとみえる」

「ふむ。そんなとこか。まあ明らかに様子が違うしね」

 

 まさか先日交戦した先輩隊員と同タイプなのかと疑問を抱くが、懐に忍ばせたレプリカの言葉に追従し、無用な心配だろうと警戒を解く。

 空閑が3人組と他愛のないやり取りをしている間にも嵐山隊の説明が続く。

 まずは入隊指導をするにあたって、先に狙撃手組だけが指導員である佐鳥に続き、別の訓練場に移動する段取りになっているとのことだった。

 

「一人で大丈夫か? 千佳」

「うん、ありがとう」

「しっかりな、チカ。また後で会おうぜ」

「うん。遊真くんもね」

「はーい。それじゃあ狙撃手組はこっちねー!」

 

 三雲が彼女を心配する中、空閑の応援を背に受けた雨取が小さく手を振って一足先に会場を後にする。

 他にも狙撃手を希望する隊員たちが佐鳥の後ろに続き、式典会場から去っていった。

 狙撃手希望者全員が移動したことを確認し、嵐山たちは残った攻撃手・銃手希望者たちへと向き直る。

 

「じゃあ改めて。攻撃手組・銃手組を担当する嵐山隊の嵐山准だ。まずは——入隊、おめでとう」

 

 簡潔な挨拶と、歓迎の決まり文句を口にする嵐山。

 その彼と視線があったような気がして三雲は小さく会釈し、空閑も手を振って応えるのだった。

 三雲と空閑は近界民の中学校襲撃時に嵐山隊と直接会話を交えており、嵐山が彼の弟と妹二人を助けてもらった事で恩を抱いている。今は公平な立場で立っているとはいえやはり無視はできなかったのだろう。

 

「先ほど忍田本部長も言っていたように君たちは訓練生だ。防衛任務に就く為にはB級に昇格し、正隊員にならなければならない。ではどうすれば正隊員になれるのかを先に説明しよう。皆、自分の左手の甲を見てくれ」

 

 嵐山に促され、新入隊員が一斉に自分の左手へと視線を落とす。

 そこには4桁の数字が刻まれていた。

 この数字が今起動している戦闘用トリガーをどれだけ使いこなしているかを数値化したものだと嵐山は語る。多くの人間は1000ポイントからのスタートであり、この数字を4000まで上げる事がB級すなわち正隊員昇格の条件であると。

 

「仮入隊の間に高い素質を認められたものはすでにポイントが上乗せされている。それが即戦力としての期待だと受け取ってもらって構わない。その心構えで励んでくれ」

 

 そう嵐山が続けると、先ほど空閑が話しかけた3人組が数字を見せつけるように左の手の甲を体の前にかざし、得意げに笑う。

 皆彼らの方へ振り返り、そしてその数値にざわついた。

 リーダー風のオールバックの男が2200、そばかすの男が1900、ニット帽をかぶった目つきの悪い男が2100の数字であった。

 空閑もまだポイントが1000であり、スタート時からすでにほぼ二倍もの得点が離されているという状況という事だ。だから先ほども得意げだったのかと空閑は納得の表情をうかべる。

 

「このポイントをあげる方法は二つある。週二回の合同訓練で良い結果を残すか、ランク戦でポイントを奪い合うかだ。まずは君たちには訓練から体験してもらう。ついてきてくれ」

 

 ようやく隊員たちが落ち着いた頃を見計らって嵐山が説明がそう続け、先導すべく会場を後にする。

 彼の後ろに続いて残った新入隊員たちも訓練場へと向かうのだった。

 

「いよいよ正式訓練か。ようやくだな、リーダー!」

「待ちに待った俺達のデビューだ」

「ああ。弱者たちに見せつけてやるとしよう。強者の戦いというものをな」

 

 早くも来る戦いに心を躍らせる3人組。

 しかし、彼らは知らない。

 この新入隊員の中に、数々の歴戦を潜り抜けてきた本当の強者がいるという事実を。

 

 

 

————

 

 

「さあ、狙撃手志望の諸君。ここがオレたちの訓練場だ」

 

 場所が変わって、狙撃手訓練場。

 部屋に辿り着いた新入隊員たちを、佐鳥が手を広げて出迎えた。

 

「広い……!」

「これが本当に建物の中なのか!?」

 

 10フロアをぶち抜いて作られた部屋は奥行きが360メートルもあり、屋内とは思えない部屋の大きさに皆驚きを隠せない。

 

「やっぱいつ来ても広いなー。……あっ!」

 

 ただ一人、感心した声でつぶやいたのは夏目だ。

 あちこちを見回して、さらに佐鳥の後ろに控えている指導役の正隊員である東、荒船、そしてライの姿を見つけ、小さく会釈する。

 ライも彼女の反応に気づいて軽く笑いかけるのだった。

 

(緊張はしてなさそうだな。今日は訓練といっても練習で終わるとの事だし。むしろ、気になるのは……)

 

 夏目がいつもの調子であることに安堵したライは他の新入隊員たちへを視線を移す。

 彼女を含め、新入隊員は合計8名いた。その中には、夏目以外にもライが見覚えのある姿もあった。

 

「まずは訓練の流れ、そして狙撃手用トリガーの種類をしってもらうよ。えー、今期の狙撃手志望者は1,2,3……7人か」

「佐鳥、違うよ」

「えっ?」

 

 指導する相手を順に数えていく佐鳥だが、一人足りない。

 見落としに気づいたライが即座に警告すると、ライの指摘の直後、夏目のほぼ真後ろから一際小さな手がおそるおそる上げられる。

 

「あ、あの。すみません。8人です」

「うおっ! ホントだ! ゴメン、オレが女の子を見逃すなんて! ゴメン、マジでゴメン! 8人ね!」

 

 挙手したのは雨取だった。

 小学生と見誤ってしまうほど小柄な体が夏目達の影に隠れて見えなかったのだろう。

 雨取がおずおずと前に出ると、佐鳥が何度も謝罪の言葉を繰り返す。

 

「さすがライ。女の子となると見逃さねえな、お前は」

「イコさんみたいな言い方はやめてくれよ、荒船。資料で確認を済ませていただけだ。それより——東さん」

「ん? どうした?」

 

 小声で茶化してくる荒船を軽くあしらい、ライは東へと声をかける。

 

「あの小さな女の子、何か話を聞いていますか?」

「いいや。俺の方には何も話は来ていないが。何かあるのか?」

「……いえ。それなら構いません」

 

 東にさえ何も事情が伝わっていないという事ならば、迅がサプライズとして雨取の情報を本部に隠していたのだろう。

 ライは旧弓手街駅で見た彼女のトリオン量を思い出した。

 あれほど巨大なトリオンキューブは見た事がない。多くのボーダー隊員としのぎを削ったライでさえ経験のないものであった。あの射手の王・二宮でさえも凌駕するだろう。

 

(一応心配で指導員に参加してみたが、東さんが知らないならば大きな問題はないな。まあ、最低限の警戒だけはしておくか)

 

 もしもあのトリオン量が訓練で暴発したり基地を破壊するようならば一大事だが、そんな未来がありうるならば迅が前もって東、最低でも佐鳥たちに警告しているはず。

 とりあえず注意しておくことに越したことはないだろうと、ライは今一度新入隊員たちへ視線を戻すのだった。

 

「——よし。じゃあ早速正隊員の指示に従って、各自訓練を始めよう!」

「はい。それじゃあ一人ずつレーンに入ってくれ。どこでも好きな場所で構わない」

 

 一通り説明を終え、佐鳥の声を合図に訓練が始まる。

 ライも彼の言葉を引き継いで新入隊員たちへ移動を促し、その指示に従って皆移動を開始した。

 各々が狙撃手の基本的トリガー、イーグレットで早速練習を試みる。

 慣れぬ狙撃とあって多くの者は狙いが定まらない中、早くも的の枠内を撃ち抜いていく者もいた。

 

「うん。良い調子だ」

「あっ。どもっす!」

 

 その一人が夏目だった。ライが小さな声で語り掛けると、夏目が人懐っこい笑みを浮かべる。

 

「今はあくまでも体験という名目になっている。気負わずに、当真やユズル達が教えてくれたことを思い出しながら続けてくれ」

「——了解!」

 

 指導してくれた隊員の名前を耳にし、夏目の表情が引き締まった。

 今一度引き金を引くと、銃は的の中央からわずかに逸れた位置を貫いた。

 順調な結果と言えるだろう。

 彼女は問題ない。そう判断してライは視線をさらに奥、雨取の方へと向ける。

 雨取も一発目で枠内を捉えていた。見事な腕と言えるだろう。

 しかし一発目を撃ち終えた雨取は何かを探るように視線を右往左往している。

 何か不都合があったのか。ライは声をかけようか迷ったが、彼よりも先に雨取が近くで控えていた東を呼び止めた。

 

「あの……」

「うん? どうした?」

「撃った後、走らなくて良いんですか?」

 

 彼女の疑問に、東、ライ、佐鳥、荒船と教官役の4人が目を見張る。

 他の訓練生たちは意味が分からず懐疑的な表情を浮かべていたが、正隊員たちは皆、彼女がそこまで意識しているのかと、感心していた。

 

「えーと。今は走らなくて良いんだよ」

「あっ。そうなんですか、すみません」

 

 東が優しい声で諭すと、雨取はすぐに頭を下げる。

 すると二人のやり取りを見ていた訓練生たちの間で「当たり前だろう」と笑い声が飛び交った。

 

「狙撃手は走んないでしょ。隠れて撃つのが仕事なんだから」

「えへへ……」

 

 夏目もその一人だった。

 彼女の指摘を雨取は笑ってごまかしている。

 だが、狙撃手の意識としては雨取の発言は正しいものだった。

 

(今日の訓練が終わったら後で教えておかなきゃな)

 

 彼女らの受け答えを見守っていたライは訓練の後を考えて小さく息を吐いた。

 彼は仮入隊の期間、夏目に狙撃の術に関して指導はしてきたが狙撃手としての指導はしてこなかった。

 基本的に狙撃手は近接戦闘に向いていない為位置を知られると大きく不利になる。相手の接近を防ぐことを目的に数発ごとに狙撃地点を変える即時離脱が基本的な立ち回りだ。だからこそ雨取の話の通り、撃った後はすぐに走る。

 本来はB級に上がってから、正隊員となってから教える事であるためにライもセオリー通り教育はしなかったのだが。

 折角知る機会を得たのだから、これを逃す手はない。些細な出来事を記憶に刻む事で強く意識するだろう。

 

(同期がすでにここまで意識しているとなれば意欲にもつながるはずだ。……しかし。雨取千佳。彼女の師匠はすでにB級にあがると確信しているという事になる。玉狛支部で狙撃手の指導ができるとなれば、レイジさんか)

 

 同時に彼女の師匠であると予想される木崎の顔を思い浮かべ、ライは小さく笑った。

 奇しくもボーダーで二人しかいない完璧万能手が教えを施す狙撃手二人が同期入隊を果たしたというわけだ。しかも同年代の女の子。互いに競い、切磋琢磨するだろう。

 

「それじゃあ、次は狙撃手用トリガーの紹介をするね」

 

 一通り皆が狙撃を体験し終えたタイミングで佐鳥が説明を再開する。

 新入隊員たちも体験した万能タイプのイーグレット、弾速特化型のライトニング、威力特化のアイビス。

 それぞれ起動した現物を全員に提示した。

 

「こっちも、そうだな。女の子二人に試し打ちしてもらおっか」

「あっ」

 

 さらにアイビスの威力をわかりやすく体験してもらおうと、佐鳥が雨取と夏目、二人を指名する。

 だが雨取のトリオン量で大型トリオン兵用のアイビスを使うのは危険だ。下手すれば本当に基地が破壊されかねない。

 これはマズいと、ライは制止を呼びかけようとして、だがライはその言葉を飲み込んだ。

 

「どうした?」

「いや、なんでもない」

 

 ライの様子を不審に思った荒船が尋ねるも、ライは曖昧に言葉を濁す。

 

(通常の任務や訓練では彼女と関りがない僕が口を出すのはマズい。実際見た方が東さんたちも納得するだろうし、ここは見守るとしよう。——彼女の力を試すチャンスでもある)

 

 ライが雨取のトリオン量を知るきっかけになったのは、旧弓手街駅での戦闘だ。

 当然だが内密の任務で知った事であるため、あまり口外して良い話ではない。下手に説明して雨取の方が口を滑らせてしまう恐れもある。

 何より実際の威力を東たちに、夏目たちにも見てもらった方がよいだろう。その方が強く印象に残ることとなる。

 ライにとっても彼女のトリオン量を推し量る良い機会だ。

 

「荒船。ここを少し頼む」

「ん? 構わないが」

 

 万が一に備え、ライはその場を荒船に預けて訓練場の側面へと移動した。

 

「じゃ、君からね。アイビスであの大型近界民の的を狙ってみよう」

「わかりました」

「よーし。構えて。3、2、1。……発射!」

 

 佐鳥の声に従い、雨取がアイビスを構え、狙いを定める。

 カウントが迫る中、照準はそのままに、ゆっくりと引き金に添える指に力をかけて。

 引き抜いたと同時に、爆音が室内にとどろいた。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

 

 爆弾が爆発したような轟音。

 けた違いな威力が衝撃波を生み、周囲へと伝達していく。

 近くにいた佐鳥が思わずたじろき、後方に控えていた新入隊員たちが後ろずさり。

 東や荒船も予想外の衝撃に目を見開いた。

 

「——エスクード!」

 

 ただ一人、嫌な想定をしていたライだけは動揺しなかった。

 爆音からこの後に起きる事態を察し、備えとして的の真後ろにエスクードを素早く展開する。

 すると持ち主の声に従って巨大な壁が地面からせり上がった。

 一枚、二枚、三枚とアイビスが的に直撃する寸前でかろうじて防御壁が完成する。

 あらゆる攻撃を無効化する強固な壁。これまでも多くのボーダー隊員たちの攻撃を防ぎ切ったものだ。

 その3枚の盾を、的を射抜いた銃弾はいとも簡単に打ち砕き、さらに勢いそのままにボーダー基地の外壁をも撃ち抜いていった。

 

「…………」

「…………」

 

 銃弾が空に消えていく。

 爆音が鳴りやんだ室内は静寂に支配され、驚きのあまり誰も身動き一つ取れなかった。

 皆が言葉を失う中、この原因の主は壊れた機械のようにギシギシと聞こえてきそうな程ゆっくりと後ろに振り返り。

 

「その……ご、ごめんなさい……」

 

 青ざめた表情で、謝罪するのだった。




祝、100話到達!
そのおめでたい話でチカの基地破壊という衝撃っぷり。……やっぱり威力おかしい。
到達記念に何か催しをしようと思います。Twitterで意見を聞いたりするかも。
改めてこれからもよろしくお願いします!
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