REGAIN COLORS   作:星月

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初日

 ライが夏目に新たな指導方針を提示し、訓練をし始めた頃。

 隊員たちの話題の主であった三雲達は本部へ迎えにきていたレイジの車に乗って玉狛支部へ帰途についていた。

 

「仮にもまだ本人がボーダーにいるって言うのに、ニノミヤさんの言い方は中々酷かったな。よっぽど仲間に裏切られたことを気にしてるのかね」

 

 その途中、空閑が先程の二宮との会話を思い返して口火を切る。

 まだ当事者が近くにいないのならば話は理解できた。しかしそうでもないのに親しい相手をあそこまで厳しく批判できるものなのかと疑問を呈する。

 するとその問いに運転手であったレイジが少し間を置いて語り始めた。

 

「無理もないだろう。元々二宮隊は、鳩原の密航という罪の責任を取る形でB級に降格したからな」

「えっ!? そうなんですか!?」

 

 突如告げられた事実に三雲は目を見開く。彼が入隊した時にはすでに二宮隊は降格処分の後だったために知る由もなかったのだ。

 

「表向きの発表では鳩原は重要規律違反で処罰を受けたと言うことになっている」

「ふむ。レイジさんも鳩原さんのこと知ってるの?」

「俺と鳩原は師匠が同じ兄妹弟子というやつだからな。その繋がりだ。——この内容を知っている人物は非常に限られている。他所では誰にも話すなよ。再発を防ぐ、という意味でもな」

「……はい」

 

 大切な身近な人物が事件に関与していた三雲や雨取には特に木崎の忠告が身に染みる。

 二人は揃って大きく頷き、先輩たちの信頼は裏切らないようにしようと改めて誓うのだった。

 

「ちなみにその鳩原先輩は今どうしているんですか? 少なくとも今は二宮隊には所属していないようですけど、どこか他の部隊に入っているんでしょうか?」

 

 ふと三雲は鳩原の現在の立ち位置が気にかかり、木崎に問いかける。

 先ほど二宮は鳩原の事を元二宮隊と語っていた。そのため現在は二宮隊に所属していないことはわかるものの、A級に所属していたほどの実力者が今でも個人でいるのか、それともどこか他の部隊に加わったのか純粋な興味を持って尋ねる。

 するとレイジは意外そうな表情を浮かべて三雲に問い返した。

 

「聞いていないのか? 二宮だけではなく、紅月もその場にいたのだろう?」

「えっ? なぜそこで紅月先輩の名前が……?」

「今の鳩原の所属が紅月の部隊だからだ」

「えっ!?」

「マジか。——いや、だからあの場にコウヅキ先輩がいたのか。納得」

 

 告げられた真実に皆表情が固まる。

 確かに説明はされなかったものの、よく考えれば知る者が数少ない事件であるならば、その話の場にいたライが無関係のはずがなかった。

 

「でも意外だったな。今日も前会った時もコウヅキ先輩は単独か他の部隊の人と動いていたから、他にチームメイトはいないものだと思ってた」

「僕も村上先輩達からは紅月隊は隊長が一人で得点を重ねていると聞いていたし……」

「まあそこはあいつと、あいつの部隊が少々特殊な立ち位置だからな」

 

 先日の三輪隊との衝突や三雲の師匠である村上たちとの会話から勝手に紅月隊の印象を抱いていた二人はこぞって衝撃を受ける。

 確かに何も知らない者からすればライや紅月隊はその変遷も重なって非常に複雑なもの。勘違いするのも仕方がない事だとレイジは説明を続けた。

 

「紅月は単騎性能が高い上に、元々様々な部隊と組んで動く事が多かった。そういった面も買って二宮が紅月隊に託したのだろう。鳩原も最近はクラスメート達をはじめとした他の隊員とも上手くやれていると紅月から話も聞いているしな」

 

 木崎はあえてライも密航事件に関与していた事は伏せる。これを語ろうとすれば彼の複雑な事情も語らなければならない可能性もあったためだった。ある意味鳩原の事件以上に慎重さを求められる案件であるため、少なくとも今の三人が知る必要はないだろうと口を噤む。

 

「ふーん。レイジさんってコウヅキ先輩の事も詳しいんだ。やっぱりそれも師匠繋がり?」

「いや違う。そもそも俺は紅月に鳩原の事を勧めた一人だからだ。それでたまに連絡を取ったりしている」

「……なるほど。そこにも繋がりが」

 

 ひょっとしてコウヅキ先輩って人望の鬼なのか?

 本部所属であるにもかかわらず、支部所属の木崎にまで信を置かれている先輩隊員に空閑は感嘆した。

 

「そういえば先ほども他の隊員の方が紅月先輩を指して異性にモテるみたいな事を言ってましたけど。勧めたというのはやはりそう言った点からもですか?」

 

 一方の三雲は印象的だったライと生駒とのやりとりを思い浮かべて、男としてのカッコ良さなどもあるのだろうかとライの噂に関する話から半信半疑でレイジに問う。

 

「いや、単純に日頃からの積み重ねとあいつが持つカリスマを買ってだな」

「本当にカッコいいやつだった……」

 

 しかし木崎は三雲の疑問を真っ向から否定した。

 やはり先ほどの二人のやりとりが特殊だったのだろう。三雲はすぐさま彼の悪い噂に関する内容を頭のなから放り捨てた。

 

「……ただ、その鳩原先輩も狙撃手なんですよね? それなら今後は狙撃手の合同訓練では会うかもしれないですけど、私はできるだけ離れた方が良いでしょうか?」

 

 するとここまであまり話に参加していなかった雨取が口を開く。

 雨取と鳩原は同じ狙撃手のポジションであり、狙撃手は合同訓練で正隊員、訓練生を問わずに同じ時間を過ごす事になっていた。

 相手も関係者の身内が相手となっては色々思うところがあるだろう。それを雨取は不安視していた。

 

「そこまで深く考える必要はないだろう。問題はあったが、本人は真面目で弟子も取ったりするなど隊員として優秀だ。その弟子も確か雨取と同い年と聞いたし、おそらく相性は悪くないと思うぞ」

「そうだったんですね」

 

 木崎の口添えを聞いて雨取はほっと胸を撫で下ろす。

 性格に問題もなく、他に親しくなれそうな相手と近しい存在ならばその相手を介して通じ合えるかもしれない。

 先ほども年齢が同じ夏目と最終的には上手く交流できたのだ。きっと上手くいくだろう。

 まだ幾分かの不安は残っているものの、雨取は深く考え込まずに狙撃手訓練に備える事とした。

 こうして空閑達に取ってのボーダー初日は終わりを迎えていく。

 

 ————

 

 入隊式から数日が経過。

 空閑はこの日も合同訓練に参加するためボーダー本部を訪れていた。

 彼は地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練、戦闘訓練とこの日行われた四つの訓練全てで一位の成績を叩き出し、合計80点という高得点を獲得する。

 これで前回の得点と入隊時の得点を合わせて空閑の個人ポイントは1100点。まだ合同訓練の獲得ポイントだけでは昇格に必要な4000点には程遠い数値ではあった。

 

「——なるほど。それで後はランク戦で稼いでいくわけか」 

「そうなるね。個人戦を勝ち上がっていく事が一番の近道だ」

 

 時枝は共に個人ランク戦のブースに入り、パネルを操作しながら説明する。

 少しでも早く部隊を組むために、空閑はポイントを稼ぐ手段を求めていた。そこで何か手段はないかと時枝に訪ね、合同訓練が終わるやすぐに個人ランク戦へと場所を移したのである。

 

「ポイントが高い相手とのランク戦ほど貰えるポイントも高くなるから、自信があるなら積極的に狙っていくと良いよ」

「了解です。じゃあ、早速やっていこうかな」

「うん。頑張って」

 

 ポイントは多く貰えるに越したことはない。

 空閑は早速現在個人ランク戦に参加している者達の中でも得点の高い者へと挑戦を申し込んだ。

 程なくして提案が了承され、空閑は仮想戦場へと転送される。すると彼の眼前には先日の入隊式で嵐山隊へ批判を繰り返していた新人三人組の一人が空閑と同時に出現してきた。

 

「なっ!? お前……!」

「おっ。この間の新三バカ一号だ。じゃ、よろしくお願いします」

「ぐがっ……!」

 

 ぺこりと会釈する空閑を見て相手の表情が凍りつく。

 おそらくはポイントだけを見てただの新人だと甘く見ていたのだろう。

 数秒後、あっさりと敵を撃破した空閑はその後も連勝を繰り返し、次々と個人ポイントを荒稼ぎしていくのだった。

 

「さて、今日はこんなところか。一休み」

 

 その後もランク戦を繰り返し、十分な個人ポイントを得た空閑は休憩のためにブースを離れ、ラウンジへと場所を移す。

 自販機で買い物を済ませておつりを手にしたものの、ふとした表紙に彼の掌から小銭がこぼれ落ち、百円玉が地面を転がっていった。そして数メートル転がった先で、そこに立ち尽くしていた隊員の足に当たり、力なく地面に横たわる。

 

「おろ……?」

 

 その相手の顔は見知ったものだった。

 

「好き勝手に本部をうろついてるな、近界民(ネイバー)!」

「たしか、重くなる弾の人」

 

 目の下にクマができており、いつも以上に厳しい顔つきの三輪に睨み付けられ、それでもなお空閑は平然としている。

 その様子が余計に苛立ちを増幅させ、三輪は場所も選ばずに大きく舌打ちをするのだった。

 

 

————

 

 

 その頃、空閑たちの付き添いで本部に来ていた三雲は気まずい時間を送っていた。

 飲み物を片手に休憩室の一角に腰かけていたのだが、周囲から送られてくる視線の数々が非常に痛々しい。

 

「あのメガネが噂の……?」

「風間さんに勝ったってやつか!」

「しかも二宮さんから直々に呼び出されていたって」

「マジかよ!? 個人ランク二位と三位に注目されてるってこと!?」

 

 周囲のひそひそ話が耳朶を打ち、さらに三雲の心境を追い詰めた。

 

 (今すぐに訂正したい。そしてこの場から逃げ出したい! でもできない……!)

 

 風間に勝ったといっても連敗の果てに二度は通じない手で勝ち星を一つ掴んだだけであり、通算で見れば三雲が大きく負け越している。

 その後の二宮とのやり取りもあくまでも彼が見聞きしていた内容を問われていただけだ。決して彼の実力を勝ったというわけではない。

 しかし直接尋ねられたわけでもないのにわざわざ三雲の方から見知らぬ相手に否定しに行くのも気が引ける上に、二宮とのやり取りは先日木崎からも他言はしないようにと指摘されたばかりだ。そのために三雲は下手に弁明することもできず、待ち人である相棒が早く帰ってこないかと必死に祈るのだった。

 

「——ねえねえ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「えっ。な、何かな……?」

 

 すると茶髪の小柄な少年——緑川が三雲に近づき、声をかける。

 突然の呼び掛けに動揺しつつ、三雲は緑川へと視線を移して要件を聞いた。

 

「その肩のエンブレム、玉狛支部のだよね? ひょっとして玉狛支部に所属してるの?」

「あ、ああ。そうだけど」

 

 隊服に刺繍されている玉狛専用の紋章を指差して緑川が問いかける。確かに他の人にはないものだし、注目されても仕方がないかと三雲は深く考えずに答えを返した。

 

「この前までは本部に所属していたけど迅さんに誘われて転属したんだ」

 

 その三雲の言葉に緑川の眉がピクリと反応する。

 

「——へえ。そっか。あんたが例の人、ね」

 

 目の前の人物が何者かを察した緑川は口角を上げて三雲をじっと見つめるのだった。

 

 

————

 

 

 足元に転がった硬貨を拾い上げると、三輪は空閑にそっと突き出した。

 

「どうも」

「ふん」

 

 空閑の礼を聞き流し、三輪も目的を果たそうと自販機で清算する。

 彼の行動や表情からは先日見せていたいつ襲いかかってくるかわからない程の覇気を感じられなかった。

 不思議に思った空閑は思いのまま三輪に問いかける。

 

「今日は元気ないけど、何かあった? 前はすぐに銃撃してたのに」

「状況が違う。すでにお前がボーダーに入ったならば、お前を殺すのは規定違反になる」

「なるはどね」

 

 感情的な人間かと思ったが、規律はしっかりと守るタイプらしい。だからこそ余計に悩んでいるのだろう。

 

「おっ!? 黒トリの白チビ、ボーダーに入ってたのか!」

「うむ。頑張っとるかね、諸君」

 

 すると別の方角から新たに明るい声が響く。

 声の主は米屋と陽太郎だ。陽太郎を肩車し、傍に雷神丸を連れて米屋がゆっくりと階段を降りてきた。

 

「ヤリの人とようたろう……? どんな組み合わせだ?」

「俺はクソガキ様のお守りだよ」

 

 米屋の説明によると、米屋は玉狛のオペレータである宇佐美のいとこであり、その宇佐美と烏丸は少し前まで本部に所属していたのだと言う。

 今も時間があれば本部に顔を出しているらしく、玉狛支部に籍を移した現在も交流は続いていたのだ。

 

「それより秀次、お前は会議にでなくて良いのかよ?」

「すでに風間さんに体調不良で休むと伝えてある」

「ん? 調子が悪いのか」

「そーじゃねえよ。近界民(ネイバー)はぶっ殺すものだって感じだったのに、最近は逆の方針が続いて頭の中で整理ができてねえんだ」

「そんなやつにわざわざ話すな!」

 

 軽い調子で教える米屋にすら三輪は強い口調で当たり散らした。

 たまらず米屋も「悪い悪い」と宥めるも彼の苛立ちは募るばかりだ。

 

「そういえばお姉さんが近界民(ネイバー)に殺されたんだって?」

「なっ。なぜお前が知っている!?」

 

 知るはずもない空閑が三輪の過去を語りだし、三輪はたまらず声を荒げた。

 打ち明けてしまった米屋がとっさに視線を逸らすなか、空閑は淡々と話を続けていく。

 

「本気で復讐したいなら手を貸すよ」

「なにっ!?」

「おれの相棒なら、お姉さんの仇がどこの国のトリオン兵なのか、絞り出せるはずだよ」

「——黙れ。お前の力なんていらない。近界民(ネイバー)はすべて敵だ!」

 

 空閑の提案は非常に魅力的で、目的の達成だけを考えるならば乗らない手はなかった。

 だが三輪の心がそれを許さず、空閑を真っ向から拒絶する。

 

『もしも恨んでいるような存在があるとするならば。それは——守りたいと願いながら二人を守れなかった、僕自身だ』

「そのはず、なんだ……!」

 

 まるで自分に言い聞かせるような様子の三輪の脳裏には、最後に親友と交わしたやり取りが思い浮かんでいた。

 

「秀次? どこへ?」

「——会議に出る」

「ったく。変に考え込んじまって」

 

 背を返した三輪は一人、会議の場所へと足を向ける。

 そんな後ろ姿は見ていて痛々しく、米屋は「仕方がねえな」と頭をかいた。

 

「そうだ。お前、今暇か? 時間あるなら約束してた勝負しようぜ」

「正隊員と訓練生ってできるの? この前会った風間さんは俺が昇格してからって言ってたけど」

「ポイント無関係の練習試合ならできるぜ。風間さんはプライドがあるから、やるならランク戦でやりたかったんだろ。でも俺は楽しければそれで良いんだ。ほら」

「そういうことなら」

 

 三輪の殺伐とした空気をかき消すような明るい口調で、米屋は空閑の背中を押して行く。

 空閑としても断る理由はなく、今のボーダーのトリガーで正隊員を相手にどこまで戦えるのか試したい気持ちに刈られ、彼に押しきられる形で陽太郎たちと共に対戦ブースの方角へと向かっていった。 

 

「おっ? なんだ? 人だかりができてるな」

 

 その道中、休憩用のスペースでいつも以上に人が集まっているのを米屋が気づく。

 しかも誰かの傍に集まっているのではなく、その空間を中心に少し離れたところで複数の隊員が各々ヒソヒソ話をしているような不思議な形であった。

 どういうわけだと覗き込むと、その中心のテーブルには三雲と緑川が向かい合う形で腰かけている姿が見える。

 

「——そっか。三雲先輩って言うんだ! 玉狛にはいつ移ったの?」

「えっと。去年の年末くらいかな。僕の他にも入隊する二人がいたから、そのときに一緒にね」

「じゃあ例のイレギュラー門の事件の時くらいか。あの時も三雲先輩が活躍してたんでしよ?」

「ま、まあ一応……」

  

 緑川が体を乗り出すほどの勢いで捲し立てていた。

 表情も年相応の非常に朗らかなもので、まるでずっと前から知っていたかのような接し方に三雲はかえって困惑する。

 

(なんか、懐かれた……!?)

 

 相手はこれが初対面だった。それは間違いない。

 だがそうとは思えないような緑川の態度を前に三雲はただ聞き手に徹するのが精一杯であった。

 

 

————

 

 

 同時刻、狙撃手用の訓練室では狙撃手の合同訓練が行われていた。週二回ある合同訓練の中、本日の訓練内容はレーダーサーチ訓練。レーダーで指示された的を探しだして撃つ。指示された的以外は撃っても得点としてカウントされない。一つ当てると次の的を指示され、制限時間内に撃てた的の数で成績を出されるというものだ。

 入隊式の後、正隊員を交えた訓練は初めての中で訓練生たちが自分の現在地点を知ることとなる。

 

「130人いて、その15%以内だから、えーと。……大体20位くらい? あー、さすがにそうすぐには行かないか」

 

 夏目は頭の中で昇格に必要な順位を計算し、まだ届かない領域に気づいて後頭部をかいた。

 本日の狙撃手の合同訓練に参加した隊員は130人。その中で夏目は45位という成績を残していた。

 本人は悔しがっているものの、初めての合同訓練であれば十分好成績と呼べるもの。だがこれでは満足できないと夏目は口を尖らせる。

 

「もう少しは上にいけると思ったんだけどなー」

「でも出穂ちゃんも凄いよ。動きが速かったし……」

「そういうチカ子の方が順位上じゃないの! これが上級者の余裕か!?」

「そ、そんなつもりじゃ……」

 

 フォローしようとした雨取は43位。夏目よりも成績が上とあって夏目は両手で握り拳を作ると、雨取の側頭部を左右から圧迫する。

 

「それに二つしか順位が違わないし、そんなに気にすることじゃないって」

「だからこそ余計に! ちょっとの得点や減点で競っている相手に負けるんだって、あたしは教えられたんだから」

 

 先日のライの説明を思い出して、夏目は歯を食いしばった。

 雨取と接戦だった今だからこそ余計に彼の言葉が彼女の中で重くのしかかる。

 おそらくは一発の違いが順位をわけた。そしてこの一発が、場合によっては正隊員になれるか、なれないかを分けるかもしれない。実際の順位を目の前にして師の教えが今一度深く刻み込まれた。

 

「見てろよチカ子! あたしの方が絶対に早く昇格してやるから!」

「うん。一緒に頑張ろう」 

「……まあ、別にいいんだけどさー。ま、負けないから!」

 

 師匠たちの期待に応えるためにも燃え上がる夏目であったが、当のライバルが呑気な声で共に上がることを誓い合うために、夏目は肩透かしを食う。

 これがA級を目指す者の器量なのか。

 それでも勝利までは譲らないと、改めて決意を固めるのだった。

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