訓練生であるC級隊員は週に二回開催される合同訓練への参加が認められている。
訓練は4種類あり、其々の訓練の結果に応じて
入隊式の日に行われた戦闘訓練の他、地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練が用意されている。
どれも防衛任務において欠かせない訓練だ。
皆正規隊員の指示の下、訓練に参加していく。そんな中、ライはこの訓練でも非凡な成績を収めていた。
戦闘訓練。複数の
一位 紅月、二十点
五位 来馬、二十点
地形踏破訓練。ダッシュや跳躍など機動力を活かし、仮想フィールドである住宅地の素早い移動を行う訓練。高低差が激しい建物が乱立する住宅地を移動し、素早く目的地へ到達する。
一位 紅月、二十点
四位 来馬、十七点
隠密行動訓練。同じく仮想フィールドとなる市街地での隠密行動を行う訓練。小型
一位 紅月、二十点。
六位 来馬、十八点
探知追跡訓練。仮想フィールドの森林でレーダーを使い行う訓練。ターゲットとなる
一位 紅月、二十点
四位 来馬、十八点
ライはその日実施されたすべての項目で満点を収めて訓練を終えた。
訓練を終えてトレーニングルームを後にすると、彼はC級ランク戦ロビーへと向かう。
フロア二つ分という広い空間は訓練生が
「ふうっ」
ロビーに移動すると自販機からペットボトルの水を一本購入し水を含む。トリオン体とはいえ水分補給などが不要になったわけではない。乾いた喉を潤わせ、一息ついた。
「お疲れ様。凄いね。満点を取るなんてビックリしたよ」
「ありがとうございます、来馬先輩。多少三輪隊の隊員から鍛えてもらいましたので。彼らの指導の賜物ですよ」
「三輪隊ってA級の!? なるほど。それであれだけ動けていたんだ」
同じく飲み物を手にして隣に腰かけたのは、彼と同期入隊を果たした来馬だ。
入隊した日に軽く自己紹介をしていたのですでに面識はあった。彼にはボーダー内に知人がいると伝えていたが、その知人が精鋭部隊の隊員と聞いて納得して頷く。
「そういう来馬さんも受験勉強で忙しい中、あれだけ動けるのだからすごいと思います」
「あはは。受験は勿論大変だけど、身体を動かしたいって気分があるからね。支部の方でもたまに訓練の練習をしたりしていると結構良い気分転換になるんだ」
「へえ。支部の方でもできるように設備が整っているんですね」
「そうなんだよ。紅月君も良ければ今度見学に来るかい?」
「ええ。——来馬先輩たちの受験が終わって落ち着いたら、伺おうと思います」
「是非とも。歓迎するよ」
穏やかな口調で話す二人。ライもそうだが、来馬は彼以上に温和な人物だ。行動の一つ一つに育ちの良さが現れており、彼の人柄の良さが窺えた。
来馬のような人が同期で本当に良かったとライは思う。彼のような存在がいればボーダーの中でも上手くやっていけそうだと実感できた。
「そういえば、鈴鳴支部はオペレーターの方も一緒に入隊したんでしたっけ?」
「うん。今ちゃんって言ってね。中央オペレーターとして仕事しているよ」
「それじゃあ彼女と一緒にチームを組む予定なんですか?」
「勿論。彼女と、あと二人次の入隊式で入る予定の隊員がいるんだ。この四人でチームを組むつもりだ」
話題は来馬のチームメイトの話に。本部所属とは異なる鈴鳴支部所属の来馬だが、今期は彼を含め二人の隊員が入隊を果たした。さらにもうすぐ二人の隊員も加わり、4人でチームを組むのだと来馬は語る。
「ならば来馬先輩は先にB級で待っておきたいですね」
そう言ってライが笑うと、同意を示すように来馬も笑った。
確かに後輩が来る前に正規隊員となり彼らと部隊を組む時を待ちたい。ライは知らない事だが、来馬は二人の中でも特に一人の後輩はすぐに頭角を現すだろうと確信を持っていた。
だから彼の足を引っ張らないようにせめて正規隊員になっておきたい。来馬の気持ちが一層強まった。
「さて、この後はどうするんだい? 僕は今ちゃんと合流する予定だけど……」
「僕は用事までもう少しあるので、それまで
「そうかい? それじゃあまたね」
「ええ。また訓練の時に」
飲み物を飲み終えると、二人は各々の次の行動に移る為にその場で別れる。
「さて、行こうかな」
一応時計を見て時間を確認した。
まだ充分余裕はある。一戦といわず二、三戦は出来るだろう。
B級に昇進できれば防衛任務にも参加が可能になり、
「あーっ!!」
「うん?」
その道中、突如横から大声が響いた。
何かあったのだろうかとそちらに視線を移すと、白い髪の少年がライの方を見ながら指差している。白い隊服を着ているのでおそらく同じC級隊員だろう。
「いた! いたぞ!」
「さっき訓練でトップだった人ですよね!?」
「……ああ、そうだけど」
一緒にいた同い年くらいの黒髪の少年と共に詰め寄ってくる。
訓練の話題を振られ、ライはようやく理解した。言われてみれば、先ほど合同訓練で見かけた顔である。
「俺は小荒井! 同じC級隊員っす!」
「同じく奥寺です」
「そうか。僕は紅月、よろしく」
名乗りに応じ、ライも短く名を告げた。
C級隊員 小荒井登
C級隊員 奥寺常幸
二人は名前を聞くと、目を輝かせてライを問い詰める。
「今まで訓練とかいなかったっすよね!? スカウトっすか!?」
「誰か師匠とかいるんですか? 訓練の動きがすごかったです!」
「とりあえず落ち着いて。合同訓練は今日が初めてだよ。この前入隊したばかりだから。そしてスカウト組ではない。師匠は、何度か三輪隊の隊員に相手をしてもらったな」
「三輪隊!?」
「あのA級の!?」
説明すれば先ほどの来馬と同じような反応が返ってきた。
本当に彼らから教えてもらってよかったとライは心底思う。精鋭部隊の名前を出せば皆それで納得してあまり深くは聞いてこない。経歴をあまり話せないライにとって彼らが持つイメージは非常にありがたいものだった。
「なるほど。そういう事ならあの動きも納得ですね」
「——あの。お願いがあるんですけど。俺らとランク戦しませんか!?」
だが話はまだ終わらない。理解した二人はライに勝負を持ち掛けた。
入隊した時期は自分たちの方が上なのだから自信があるのだろう。同時に先ほど訓練では及ばなかった為にそのリベンジを兼ねているのかもしれない。
いずれにせよライも個人戦を行おうとしていたのだ。断る理由はどこにもない。
「勿論、いいよ。今からでいいかい?」
『はい!』
ライが了承すると、二人は揃って返答した。
――――
「あッ!」
左胸を一突きされた小荒井は衝撃に目を見開く。
ライ対小荒井。【五本先取勝負】
ライ 〇〇〇〇〇 5
小荒井 ××××× 0
「なっ!?」
刀を振り下ろそうとした瞬間、空いた胴体を横一閃に切り落とされ、奥寺は離脱した。
ライ対奥寺。【五本先取勝負】
ライ 〇〇〇〇〇 5
奥寺 ××××× 0
二人との戦いで一本も失う事なくライが勝利を収める。
「マジかー!」
「……強すぎる!」
どちらも幾度となく
だがあまりにも圧倒的だったためか不思議と悔しさよりも相手の強さに対する尊敬のような感情が浮かぶ。このような事、訓練生としての戦いの中では初めての事だった。
「まだ君たちは中学生くらいだろう? まだまだこれからだよ」
「そうは言っても俺達の方が先に入ったのに!」
「いつか必ず一本とってみせます!」
ライが言う通り二人はまだ中学生だ。これからが伸び盛りと言える。しかしこの頃は負けん気も強いというもの。きっと次は勝って見せるとリベンジを誓った。
「あの、すみません」
「ん?」
「笹森と言います。俺とも一戦お願いできませんか?」
すると、さらに別のC級隊員がライへと声をかける。
ソバカスとツンツンした黒髪が特徴の隊員、笹森だった。
C級隊員 笹森日佐人
先ほどのランク戦の様子を見ていたようだが、それに動じず自分の腕を試したい様子だ。
「……わかった。受けてたとう」
「お願いします!」
まだ一戦くらいならば問題ないだろうとライはその挑戦を受け入れた。
再びブースに戻り戦いが始まる。
「――ッ!」
横からの斬撃がいなされ、返す刀の反撃が笹森の胴体を切り裂いた。
ライ対笹森。【五本先取勝負】
ライ 〇〇〇〇〇 5
笹森 ××××× 0
今回も危なげなく勝利を収める。
「……ありがとうございました」
「こちらこそ。ランク戦は初めてだったから助かったよ」
「ええっ!? ランク戦初!?」
勝負を終え、笹森は頭を下げながら礼を言った。自分の実力を計れたのだろうか、わずかに悔しさがにじみ出ている。
笹森の肩を叩くライ。
彼が初のランク戦に挑戦したという話を聞き、小荒井たちは再び驚かされた。
「でも悔しいなー。3人もやって一本も取れないなんて」
「よかったらもう一回やりませんか?」
まだ心残りがあるのだろう。奥寺が再戦の可否を問う。
「嬉しい誘いだけど……ごめん。この後用事があるんだ」
だが、時計を見たライは彼らの誘いを断った。
気づけば予定の時間まであと10分ほどとなっている。さすがに遅刻するわけにはいかない。
3人にまた機会があればと断りを入れて、ライはその場を後にした。
――――
「やあ。こうして話すのは初めてかな、紅月君」
「はい。初めまして忍田本部長。紅月ライです」
「まあ座ってくれ。楽にしてもらっていい」
「失礼します」
部屋に入ったライは許可を得て椅子に腰かける。
彼の用事の相手とは本部長の忍田だった。先の会議でその姿を確認した上に、加えて三輪達から話も聞いている。資料にも目を通していたので存在は知っていた。だが会話をするのはこれが初めてだ。
「順調に隊員としての生活を送っているようで何よりだ。少し安心したよ」
「ありがとうございます」
「嵐山隊長達からも話を聞いている。随分と優秀な成績のようだね。それに――どうやら太刀川たちが余計な世話になったようだ。これに関しては謝罪させてもらう」
「いえいえ。気にしていません。むしろ様々な形で交流が出来てよかったと思っています」
間違いなく勉学の事だろう。報告したのは三輪だろうか。
訓練の事に加えて隊員達との交流の事。あらゆる報告が届いているがどれも良い話題ばかりだ。むしろ他の隊員に悪い印象を抱くほどに。
相変わらず波風立てないような返答はありがたかった。
「それで、わざわざ本部長が直々に僕に話したい事があるとはどういったご用件でしょうか?」
長々と世間話をする必要はないとライが単刀直入に問う。まさかこんな会話をする為に本部長が一隊員を呼び出すとは考えられなかった。
「……うむ。時期はもう一月。ボーダーは学生が多く、高校受験や大学受験を控えているものが多い。そうでなくても新学年に向けて準備しているものばかりだ」
「はい」
「そこで、君も学校に通うつもりはないか? 本来紅月君くらいの年齢ならば高校へ通うのが普通だろう。もしも君が望むのならば転校や受験の手続きをこちらで手伝いたいと考えている」
忍田が彼を呼んだ理由。それはライに学校へ通う事を提示する為だった。確かにライは16歳。高校に通うのが普通である。
丁度他の隊員達も新しい学年、高校へと備えている時期だ。環境を新たにするという意味で都合が良かった。
だからこれを機にライも他の隊員同様に高校に所属してみてはどうかと忍田は提案した。
「ありがとうございます。そこまで僕の事を考えてくれた事、嬉しく思います」
「では……」
「ですが、申し訳ございません。――お断りします」
だが、ライは忍田の話をその場で拒絶した。