REGAIN COLORS   作:星月

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麒麟児達

 5月のボーダー隊員正式入隊日。一年に3回のみ開かれる、新入隊員が新たな門出を迎える日の一つだ。

 丁度4か月前には自分も同じ経験を経た。まだ日が浅い事もあってその時の記憶が鮮明によみがえり、観客席に腰かけているライはくすりと笑みを浮かべた。

 

「何をやっているんだライ?」

「荒船」

 

 突然の戦闘訓練と聞き、新入隊員達の驚く様子を眺めていると横から声がかかる。短い茶髪に帽子を被った視線の鋭い男性。ライと同じB級隊員の荒船だった。

 B級荒船隊 攻撃手(アタッカー) 荒船哲次

 一度だけ個人(ソロ)ランク戦で戦い、年齢も近いという事で二人は面識がある。荒船にとっては滅多にランク戦にも出ない彼がこういった公の場にいる事を珍しく思ったのだろう。

 

「新入隊員の様子を見に来ただけさ。僕と一緒に入隊した鈴鳴支部の来馬さん。彼の後輩が今日入隊するんだよ」

「鈴鳴支部の? ああ。そういえば確かにそんな話もあったな」

「前に会ったけど、一人は確か荒船と同じ年齢だったはずだ。しかもかなり伸びていくだろう弧月使い」

「へえ。お前が言うんだから相当できるのか?」

 

 嬉しそうに笑う荒船を見て、ライは大きく頷いた。

 荒船は落ち着いた風貌だがその実かなりの武闘派である。同年代で同じ武器を使う相手が現れたとなれば興味が湧くのは当然だった。

 

「面白い。どいつだ? 今丁度終わったやつか?」

「ん?」

 

 荒船の視線の先で一人の隊員が戦闘訓練を終え、部屋を退室する。

 

「フゥ。心底同情するよ君たち。僕の同期となると存在が霞んでしまうからね」

 

前髪を指で流し、得意げな振る舞いを見せる彼は唯我尊。59秒という記録で初の戦闘訓練を終えた。

 C級隊員 銃手(ガンナー) 唯我尊 初期ポイント:アステロイド(拳銃)3950

 

「いや違う。そもそも彼、拳銃ホルダーを身に着けているから銃手(ガンナー)だと思う」

「なんだ。ま、お前が認める相手ならもっと良い記録をだすか」

 

 決して悪いタイムではないものの、突出して優れているというわけでもない。荒船の厳しい指摘の前に、ライも短く「まあね」と同意するにとどまった。

 

「見れば荒船もすぐにわかると思うよ。剣の筋が良い上に、成長速度が異常でね。ひょっとしたら——あっ。いた」

「どこだ?」

「あそこだよ。三号室。そして、もう終わる」

 

 「ひょっとしたら僕の記録も抜いてしまうかもしれない」と言葉が続くことはない。

 ライの視線が鈴鳴支部で見かけた灰色の髪を捉えた。荒船も彼に促されるまま視線を三号室へと向ける。

 丁度村上が弧月を振るう場面だった。

 踏みつけようとした大型近界民(ネイバー)の足を刀で薙ぎ、すぐさま跳躍する。大型近界民(ネイバー)の目玉に刀を突きつけた。

 

『三号室、終了。記録、十五秒』

 

 村上の一撃が炸裂し、近界民(ネイバー)が大きな音を立てて崩れ落ちる。トリオン体が崩落するとアナウンスが鳴り響き試験の終了を告げた。時間は十五秒。歴代記録に載るであろう好成績である。

 

「十五秒か。随分早いな」

「うん。やっぱり近界民(ネイバー)との戦闘には慣れているみたいだね」

「まさかお前の記録がこうもあっさり抜かれるとは思わなかったぞ」

「そう? でも僕はわかっていたよ。——村上鋼。彼はきっと将来攻撃手(アタッカー)界でも上位に君臨するはずだから」

「鋼、か」

 

 訓練相手の弧月使いがいなくても、仮想近界民(ネイバー)との戦闘訓練は続けていたのだろう。以前よりも迷いがなくなった動きを見てライは感心した。初期ポイントも3350(弧月)と高い。鍛えていた姿は容易に想像できた。

 近い未来で防衛隊員の中でもトップクラスの腕になる。ライがそう語ると、荒船も村上の姿を食い入るように見るのだった。

 

「面白え。なら都合があえば少し鍛えてやるか」

「君の荒船メソッド確立の為か?」

「勿論その一環でもある。だがこんな逸材、支部に埋まらせておくのは勿体ないだろ?」

 

 そう言って荒船は笑う。

 荒船には目的がある。現在彼は攻撃手(アタッカー)だが、個人(ソロ)ポイントがマスタークラスの基準である8000ポイントに達すれば狙撃手(スナイパー)に転向し、そちらでもマスタークラスになれば最後に銃手(ガンナー)のマスタークラスになる。そして現在ボーダーに一人しかいない完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)となった暁には荒船流のメソッドを構築し、完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)を量産する。それが荒船の夢だ。

 ライも現在攻撃手(アタッカー)狙撃手(スナイパー)の二つのトリガーを使用し、訓練に参加している。そんな彼の存在は荒船にとって貴重であり、自身が掲げている目的を彼に打ち明けていた。

 

(きっと上手くいくだろうな)

 

 その考えにライも賛同し、協力できる事があれば協力すると約束している。

 熱心な荒船の事だ。おそらく村上の指導にも力が入る。二人の仲はよくなるだろうなと想像した。

 

「楽しみにしているよ。鋼はこの入隊隊員達の中でもトップだろう。彼ほどの人物が荒船の手でさらに成長できるというのなら」

『一号室、終了。記録、九秒』

「……えっ?」

「おいおい。マジか」

 

 ボーダーにとっては心強い。そう続けようとしたライの発言は、村上よりさらに優れた成績を収めたという知らせによって遮られる。

 機械音声に従い一号室を見ると、短い黒髪をぴっちり分けた髪型の、きつい目つきの少女・木虎が部屋から退出してきた所が目に映った。

 C級隊員、銃手(ガンナー)木虎藍 初期ポイント:アステロイド(拳銃)3600

 木虎は村上の存在が気にかかったのだろう、彼と軽く挨拶をかわすと唯我の声掛けを軽くあしらい凛と姿勢を正す。非常に落ち着いた物腰だった。

 

「これは、さすがに驚いた。鋼が同期では一位になると思っていたのに」

「二桁を切るとはな。お前の記録が霞んでしまいそうだ」

「あはは。確かにね。まさか女の子に負けるとは思わなかったよ」

 

 木虎の戦闘や物腰を見て二人は感心する。

 村上だけでも十分な戦力の向上と思われた中に木虎の出現はボーダーにとっては非常に大きなもの。うかうかしていられないなと気を引き締めた。

 

「後は狙撃手(スナイパー)組で新戦力が出るかどうかだな。少し聞いてみるか」

「そういえば穂刈や半崎が手伝いに行っているんだよね?」

「ああ。あっちにも腕の良い奴が入ってれば面白いんだが」

「うーん。あの二人以外にもいるかな?」

 

 荒船はチームメイトで狙撃手(スナイパー)である穂刈へと内部通信を繋ぐ。この入隊式では嵐山隊だけでなく、狙撃手(スナイパー)の訓練には現役の狙撃手(スナイパー)隊員が訓練補助として駆り出されていた。

 あちらでも誰かいないか、期待を込めて荒船は返答を待つ。少し待って穂刈の声が帰ってきた。

 

『荒船か』

「よう。どうだ、狙撃手(スナイパー)組には戦力になりそうなやつはいたか?」

『いたぞ。面白そうなやつが』

「面白そう?」

 

 趣旨が曖昧な答えに荒船が首をかしげる。精確とか伸びしろがあるという表現ならわかるが、面白いとはどういう事なのか。

 

『見せた方が早いだろうな。これは。待ってろ。すぐに見せてやるから』

 

 すると穂刈は一度通信を切る。30秒ほど待つと、穂刈から荒船へ写真データを同伴した一通のメッセージが届いた。すぐに荒船はモニターを起動し、目の前に添付された写真とそれを成し遂げた隊員の名前を表示する。

 

「おいおい。中々ふざけたやつが入ってきたな」

「……なるほど。当真と同じか」

 

 的の中心を撃ちぬいたわけではなかった。その代わり放った弾丸全てが中央の円の縁を射貫いている。

 狙えば当てられるはずなのに、あえて中心を外して狙撃を行う技量は、現狙撃手(スナイパー)一位に通じるものがあった。

 この点数で測る事が出来ない力を見せつけた新入隊員の名前は絵馬ユズル。彼も村上や木虎にも匹敵する実力者である。

 C級隊員、狙撃手(スナイパー)絵馬ユズル 初期ポイント:イーグレット 3200

 

 

————

 

 

「おつかれ、鋼」

「ん? ——ライ! 久しぶりだな」

 

 個人(ソロ)ランク戦の説明も受け、ラウンジで同期の者と小休憩を挟んでいる村上。そこにライが荒船と共に訪れていた。彼に気づくと村上は立ち上がり、再会の挨拶をかわす。

 

「訓練の様子、見ていたよ。前よりも腕が上がっているみたいだね」

「見ていたのか。ああ。すぐB級に上がる為にもな」

「来馬さんの為にもね。そうだ、紹介しておくよ。こちらは荒船哲次。僕と同じB級隊員の攻撃手(アタッカー)だ」

「荒船だ。よろしく」

「こちらこそ」

 

 ライの紹介を受けて荒船と村上が手を取った。手を離すと荒船は早速本題に切り込んでいく。

 

「中々できるみたいだな。俺も同じ弧月を使う。そろそろ誰か弟子を取ろうと思っていたんだが、どうだ? お前が望むのなら俺が弧月の戦い方を教えるぞ?」

「荒船と鋼は同じ学年みたいだし、お互いにとって良い経験になると思うけどどうだい?」

「ありがたい。こちらからお願いしたいくらいだ。よろしく頼む」

「おう!」

 

 そろそろ誰かに本格的に指導をしたかった荒船と弧月の指導役が欲しかった村上の思惑は綺麗に一致した。年齢も同じという事で抵抗もなかったのだろう。二人はあっという間に打ち解けている。

 

「ああそうだ。俺からも紹介を。こっちの二人は俺と同じく今日から入隊となった唯我と木虎だ」

「はじめまして先輩方。唯我尊です」

「木虎藍です。よろしくお願いします」

 

 その後、村上からも背後にいた二人の紹介を行った。

村上の声に従って唯我と木虎も話に加わり、軽く会釈する。

 

「おう。荒船哲次だ」

「僕は紅月ライ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 二人の自己紹介に倣い、荒船達も改めて自己紹介を行った。貴重な先輩との交流という事で木虎達も積極的に話へ加わっていく。

 

「驚きました。昨日まで仮隊員だったというのに、村上先輩は既に本部の先輩とも交流があったんですね」

「ああ。鈴鳴支部の先輩と僕は四か月前の同期入隊でね。それで以前僕が支部を訪問した時に一度だけ戦ったんだ」

「そうでしたか」

 

 村上は鈴鳴支部の所属。加えて昨日まで仮隊員だった身だ。その為本部の人間とは交流がないはずなのでライと村上が馴染みがあった事に驚いたが、ライの説明を受けて木虎も腑に落ちた。

 

「いやはや。納得しましたよ。僕よりも好記録をたたき出す人がいたのは、既に先輩との訓練を行っていたからなんですね。なるほど」

(私は違うけど)

(戦ったのは一度だけで基本は鋼の実力なんだけどな)

 

 対して唯我はこれが自分の記録が更新された理由だろうと一人思い込む。見当違いな考えに木虎は呆れた表情を呈するが気づいていないようだった。ライは自尊心が高い性格なのだろうなと検討付け、唯我の行く先を悲観する。

 

「お二人はチームメイトなんですか?」

「いいや。俺はB級の荒船隊で隊長をやってるが、ライはどこにも所属してない」

「え?」

「そう。僕はフリーの隊員なんだ。今のところはどこに所属するとかは決めてない」

 

 変な空気を変えようと、木虎は二人に話題を振るも、予想外の答えを聞いて木虎は目を丸くした。

 

「B級以上の隊員は基本的に部隊に入ってより上位を目指すと聞きましたけど」

「そうだね。でもまだボーダーの隊員やトリガーの事とか知りたい事は多くある。だからもう少し外から学ぼうと思ったんだ」

「……そうですか」

 

 口では理解した様な素振りだ。しかし木虎は興味を失ったと言わんばかりにライから視線を外す。

 

(期待外れ、だったかな)

 

 勿論ライも彼女の変化を察し、自分の返答が原因であると悟った。彼が知る由もない事だが、木虎はプライドが高く努力家だ。目標を達成するために強くなろうという意志を持つ。

その為に今回のライの方向性が不明瞭な発言が彼女にとっては聞こえが悪かったのかもしれない。

 

「鋼は鈴鳴支部に入ると聞いているけど、二人は誰かチームを組む約束とかはしてるのかい?」

「いえ、私は特にはまだ」

「僕は上の方と話をしていましてね。近々A級の部隊に入る事が決まる予定です」

「A級!?」

「おいおい。お前がか?」

 

 A級はB級よりさらに上位に位置する精鋭部隊だ。三輪隊などがこれに当てはまる。とてもではないが誰もがなれるわけではない部隊へ入ると聞いてライが驚き、荒船が半信半疑の形相で唯我を見る。彼らの反応に唯我は気を良くして前髪をサラッと流した。

 

「実は親がボーダーに資金を提供していましてね。そのつながりで上層部に依頼したんですよ」

「スポンサーという事か」

「なるほどね」

 

 事情を把握した荒船達が小さく息を吐く。

 唯我の話を聞く限り、彼は個人の実力ではなく親の財力を使って精鋭部隊への入隊を強行したという事だ。理解は出来たが、同時にこの先彼は苦労する事になるだろうなと彼の行く末を察して心の中で合掌した。

 

「そういう事なら将来の事はその部隊先次第ってわけだ」

「ええ。まあどこであろうとしっかりとチームに貢献したいとは思っています」

「ま、そういう気持ちがあるなら大丈夫かな。——おっといけない」

「どうした?」

 

 最低限の意思を持ち合わせているのならば厳しい扱いを受けても大丈夫だろう。そうライは判断し、ふと時計を見て表情が一変する。村上が気づいてライに問うと、彼は軽く頭を下げた。

 

「ごめんね。実はこの後防衛任務が入っているんだ」

「そうだったのか」

「うん。本当は個人(ソロ)ランク戦の様子とかも見ておきたかったけど、また今度にしよう。皆、頑張ってね」

「それじゃあ俺もそろそろ同僚の様子を見に行くとするか。じゃあな」

「ああ。ありがとう」

「またの機会に」

「ありがとうございました」

 

 実は今日、ライは防衛任務が組まれていたのだ。

 村上の訓練の様子を見届けるという最低限の目的は達成できた。あとは彼らならばうまくやれるだろうとライは手を振ってラウンジを後にする。荒船も穂刈達と合流するべく席を立つと、村上たちも3者3様の答えを返して彼らと別れた。

 

 

————

 

 

 同時刻、本部作戦室。

 

「忍田本部長。お客様です」

「うん? 客? ——おお。瑠花じゃないか!」

 

 新入隊員への挨拶を終えて本部長である忍田は通常業務に戻っていた。

 積み上げられた報告書へ念入りに目を通していると、補佐官である沢村から来客の存在を告げられる。今日は誰かと会う予定はなく首を傾げたのだが、訪問客である女性の姿を見てすぐに笑顔が浮かび上がった。

 

「はい。本部長、お久しぶりです」

 

 その忍田の様子を窺って瑠花と呼ばれた女性、忍田瑠花も微笑んだ。

 本部所属オペレーター 忍田瑠花

 黒髪セミロングのヘアスタイルと琥珀色の瞳、少し幼さが残る顔立ちの少女は忍田の姪である。彼女も今日から新たにボーダー本部のオペレーターとして入隊を果たしていた。

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