REGAIN COLORS   作:星月

28 / 106
B級ランク戦①
奇襲


 新シーズンのB級ランク戦開始の時が刻一刻と近づいていく。

 作戦室では隊員達が戦いの準備を進めている中、観客席には多くのC級隊員は勿論、正規隊員の姿もちらほら見られていた。初戦という事もあって試合の展望や勝敗の予想に想像を膨らませている。

 

『ボーダーの皆さんこんにちは! 本日の実況を務めます海老名隊オペレーターの武富桜子です!』

 

 定刻となり、今日のランク戦の実況担当者・武富が進行を開始した。

 B級海老名隊オペレーター武富桜子

 

「本日よりB級ランク戦は新シーズン開幕です。まずは初日、昼の部を実況します。本日、解説席には太刀川隊の出水隊員、冬島隊の当真隊員にお越しいただきました。本日はよろしくお願いします!」

『どうぞよろしく』

 

 武富の紹介を受けた出水と当真が声をそろえて挨拶を済ませる。

 A級太刀川隊 射手(シューター) 出水公平

 正規隊員であり、しかも両者ともに個人の強さにも秀でた隊員だ。彼らが解説を務めるという事も観客席に人が集まっている原因の一つであった。

 勿論理由はもう一つある。この試合から部隊(チーム)ランク戦に初参入を果たす新参チームが戦うという事も観客席では話題となっていた。

 

「では本日はランク戦開幕という事で。出水先輩、簡潔にB級ランク戦について説明お願いします」

「ああ俺? そうだな。B級ランク戦は各チームが上位・中位・下位の三つのグループに分かれて三つ巴か四つ巴のチーム戦となる。他の部隊の隊員を一人倒すごとに一ポイント獲得、最後まで生存できれば生存点としてさらに2点がもらえる。当然この点が高い程順位は上がる。最終的にB級一位、二位のチームはA級昇格への挑戦権が得られる。ぜひA級目指して頑張ってくれ」

「説明ありがとうございます。また、ランク戦開幕にあたって前シーズンでの順位に応じた初期ボーナスが上位チームにはあらかじめ加算されています。その分のアドバンテージがありますね」

「ああ。だから各シーズン毎に全力で上の順位を獲得する事が重要だな」

 

 その言葉で締めくくりB級ランク戦の説明が終了する。

 丁度時間も頃合いとなった。

 ランク戦では組み合わせの中で一番順位が低いチーム(今回は紅月隊)が戦闘ステージの決定権を持つのだが、その紅月隊が舞台選択を終え、初戦の場が発表される。

 

「さあ紅月隊がステージ選択を終了しました。選ばれたのは……『市街地C』! 坂道と高低差が大きい住宅地です」

「これは当真さんの専門だな」

「だな。何せ狙撃手(スナイパー)用のステージだ」

 

 ステージを見て出水は当真へと話を振った。戦いの場によってポジションの有利不利が出るのだが、その中でも市街地Cは特徴的な舞台である。

 

「山が近いから基本は小っちゃな家が階段状に、山の斜面に沿って続いてる。上に登るにはどこかで家の間にある道路を横切らなきゃなんねえが、この時に狙撃手(スナイパー)に先に上の場所を取られると的にされるっていう狙撃手(スナイパー)有利のマップだ」

 

 山の斜面に作られた坂道と高低差のある住宅地マップは上下の移動の際に狙撃手(スナイパー)に狙われやすく射線を切りにくい。もしも狙撃手(スナイパー)に高い位置を取られると反撃は難しいステージとなっていた。

 

「これは紅月隊が狙撃戦を狙っているという事でしょうか?」

「だろうけど俺紅月先輩の事はよく知らねえんだよな。太刀川さんとか槍馬鹿と戦ってたって聞いたから攻撃手(アタッカー)だと思ってたんだがちげえの? 狙撃手(スナイパー)なのか?」

 

 そう言って出水は手元の隊員資料へと視線を落とす。やはりこちらにも彼は攻撃手(アタッカー)として登録されていた。となるとこのステージ選択には疑問が残る。攻撃手(アタッカー)には特に有利な事はないマップであるのだが。

 

「どっちもだよ」

 

 その悩みを当真が一刀両断する。

 

「紅月は攻撃手(アタッカー)だが狙撃手(スナイパー)訓練にも出てる。だが正規隊員入りしたのが攻撃手(アタッカー)の時だったし、今も個人(ソロ)ポイントが攻撃手(アタッカー)の方が高いからそっちのポジションで登録されてんだ」

「なんと! ではやはり狙撃手(スナイパー)として振る舞う為に市街地Cを選んだという事ですね!」

「まあそうだろ。他のチームには狙撃手(スナイパー)がいねえみたいだし」

 

 今回のランク戦は間宮隊、早川隊、松代隊、紅月隊の4つ巴。4部隊の内狙撃手(スナイパー)適性があるのはライだけだった。その為彼がいち早く高台のポジションを取れれば数の差はあれど有利に立てるステージだ。確かにそう考えれば悪くない選択であると考えられる。

 

「紅月隊は先月発足されたばかりのチームという事ですが、戦闘員は隊長一人のみです。当真隊員は紅月隊長の事をご存知のようですが、強さの方はどうなのでしょう?」

「強ぇよ」

 

 武富に話を振られた当真は簡潔にそう答えた。

 

「訓練の数値だけで言うのはあれかもしんねえが、少なくとも狙撃手(スナイパー)訓練ではいつも上位に入ってる。そこらの狙撃手(スナイパー)相手には負けねえだろうな」

「なるほど! それならこのマップ選択も納得です」

「しかも攻撃手(アタッカー)としてもできるみたいだからな。寄られれば落ちる、っていう事はそうそうないと思う。多少転送位置が不利でも取り返せると考えたのかもな」

「確かに攻撃手(アタッカー)トリガーを持っているならば逆転もありえそうです。——さあその新加入した紅月隊を含む4つ巴。スタートまであとわずかです!」

 

 新たに加わった実力者の話を聞いて観客席にさらに熱が篭る。

 B級暫定16位松代隊、同暫定17位早川隊、19位間宮隊、21位紅月隊。

 各部隊は戦いへ向けて最終確認を行っていた。

 

「——それじゃあ瑠花。手はず通り頼むよ」

「はい。任せてください」

「作戦は3段階。2つ目については失敗に終わるかもしれないが、一人落とせれば御の字だ。成功の有無に関わらずその後は近い敵から落としていこう」

「やるべきは隊員の位置補足、データとマップの照合ですね」

「その通りだ」

 

 紅月隊ではライと瑠花が事前の方針について確かめている。瑠花の言葉にライは満足して頷いた。

 

「市街地Cとなれば最初は誰もが皆移動を考える。だからこそ今回は転送後、隊員達は混乱するだろう。そこでさらに場を動かして敵の動向を止める」

「成功の為には始動が重要」

「ああ。対応させる時間を与えない。立て直しが終わる前に勝負を決める」

 

 マップ選択が許されたチームだからこそ事前にたてられた作戦。初戦であろうと遠慮は必要ない。ライはこの試合で大量得点をするべく計画を企てていた。

 

「——ではここで全部隊(チーム)、仮想ステージへ、転送完了!」

 

 そして戦いの幕が切って落とされる。

 武富の声を合図に、隊員達が市街地Cへと転送されていった。

 

————

 

 

(いよいよ始まるか。とにかくまずは一人でも先に高台を取る!)

 

 間宮隊の隊長、間宮は強く意気込んで転送の時を迎えた。

 市街地Cは予想外のステージだが間宮隊にとっても悪いものではない。間宮隊は3人全員が射手(シューター)。高台を押さえられれば彼らが得意とする追尾弾(ハウンド)を一方的に相手へ降り注げる可能性がある。

 当然狙撃手(スナイパー)と比べれば射程で劣るものの、そこは数で補う事も可能だ。

 いずれにせよ最初の転送位置が重要な戦い。

 まずは真っ先に転送位置を確認しようと、間宮は転送されながら作戦方針をもう一度頭の中で繰り返し——

 

「うわっ!?」

 

 突如体中を襲う強烈な冷気に、彼は身動きを封じられた。

 

「こっ。これは!」

 

 冷たい空気にさらされながら必死に間宮は目を見開き現状確認に努める。

 市街地Cは一面が銀世界に染まり、大粒の雪が白く吹き乱れていた。

 

 

————

 

 

「各隊員の転送が完了しました! マップ『市街地C』! 天候『吹雪』! 各隊員、一定以上の距離を置いてランダムに転送された地点からスタートします」

 

 市街地Cは吹雪に見舞われている。

 武富の解説通り、隊員たちはすぐに合流できないように平等に離れた距離からランク戦は始まった。従来ならば市街地Cではまず高台を目指すべく移動するのだが、今回は降り積もる雪、吹き荒れる風によって皆初動が遅れている。

 

 

「積雪量は50センチほどでしょうか。戦闘体でも走るには慣れを要し、さらに吹き荒れる吹雪が隊員の視界を奪います」 

「……マジかよ。一瞬で状況変わったな」

「吹雪のせいで視界が制限されてる。こりゃ視認での狙撃は無理だな」

「マップ選択には天候や時間帯の設定も可能です。しかしここまでハードな設定は前例がないでしょう! 紅月隊、初めてのランク戦でこれ程の大胆な策を打ってくるとは誰が予想できたでしょうか!」

 

 普段のランク戦では見られない天候設定は正規隊員達も驚きを隠せなかった。吹雪となっては有利となる狙撃もほとんど不可能である。ここからの展望は全く予想できないものとなっていた。

 

「やはり皆行動に遅れが出ています。天候の事もあり、作戦の変更はやむをえないですね」

「だろうな。皆高台に行くって考えてたから仕方ない。とりあえず部隊の合流に方針を変えるだろうが」

 

 そこで出水は言葉を区切る。

 彼の視線の先にはただ一人、ランク戦開始直後から行動を始めていたライの姿が映っていた。

 

「そんな余裕はなさそうだ。紅月先輩が何かやるぞ」

 

 

————

 

 

「くっ!」

『隊長!』

「……ああ。仕方ない。高台を目指しても無駄だ。とりあえず俺と箱田で合流する。土崎はバッグワームを起動しておけ!」

『了解です!』

 

 松代隊の隊長である松代は手短に命令を告げて移動を開始する。

 雪のせいで動きにくく、索敵も難しい状況だが幸いにもまだ誰もバッグワームを展開していない為レーダーで敵の補足は出来た。初期の転送でマップの東側に飛ばされた松代は南にいる箱田と合流し、近くの敵に当たろうと作戦を切り替える。

 トリオン体でもこの雪の深さでは移動が難しいが条件は敵も同じだ。とにかく仲間と合流し敵の動きを見ようと必死に足を動かした。

 必死に南下を開始する松代。

 するとその直後、彼は西から何か白い物体が数回にわけて宙高く撃ち上げられる光景を目にする。

 

「なんだ? 攻撃か?」

 

 射撃(シューター)トリガーによるもので間違いないだろう。だがその目的は理解できなかった。

 吹雪の為にそのトリガーの目標はよくわからないが、高台方面に撃ち上げられたように見える。この積雪の為に誰も上には登れていないというのに、どうしてそちらへ攻撃を仕掛けたのか。

 他の隊員も同じ光景を目にしたがすぐには答えは出ない。

 ——しかし直後地面が揺れるような大きな音が耳に響き、彼らはここから先起こる事を理解した。

 

「まさか!」

『隊長! すぐにそこから離れてください!』

「……おいおい。マジかよ、嘘だろ?」

 

 オペレーターの羽鳥の声が響く。彼女の警告が自分の考えが正解だと示していた。

 

『早く! あと2秒で——来ます! 雪崩です!』

 

 すなわち降り積もった雪が崩れ落ち、斜面を傾れ落ちる雪崩。

 松代は必死に離脱を試みるが時すでに遅し。高速で滑り落ちる大量の雪の波が、隊員達を飲み込んでいった。

 

 

————

 

 

 吹雪によって多くの隊員が押し流されていった事をレーダーで確認し、ライは苦笑した。

 

「上へ登ろうとした敵を押しつぶす。——同じ手を繰り返す事はあまり好きじゃないけど、あの時は僕の作戦ではなかったから関係ないか」

 

 自分の正式な初陣が似たような形となり、結果も似たものとなれば昔を思い返さないわけがない。思えばあの時もそこから快進撃が始まったのだったなとライは以前の記憶を懐かしんだ。

 

『ライ先輩。奇襲は成功です。東に転送された隊員の身動きは封じられました』

「ああ。これで自主的な緊急脱出(ベイルアウト)もできなくなった」

 

 ランク戦では周囲半径60メートル以内に敵の隊員がいる場合は自発的に緊急脱出(ベイルアウト)をする事が不可能という仕組みになっている。そして今雪崩に押し流された事で4人の隊員達はその範囲に全員が収まってしまった。つまり身動きもできず、撤退も出来ないという事である。

 

『また、西側で一人レーダーから反応が消えています。警戒を』

「わかった。こちらでも確認済みだ。——作戦は次の段階へ移行する。この間に残る西を片付けよう。瑠花、予定通りに」

『わかりました』

 

 ステージ中央に立つライにとっては後方の憂いを立ち、反対側の西の敵に専念できる様相となった。

 一人部隊である彼にとって敵の大多数を封じ込める事は非常に重要だ。さらに貪欲に戦況を動かそうと、ライは新たなトリガーを起動する。

 

 

————

 

 

「どああああ!? なんと、マップ東側で突然の雪崩が発生! 松代隊長、箱田隊員、鯉沼隊員、船橋隊員が雪の中へと飲み込まれてしまいました!」

 

 武富の悲鳴のような絶叫が観客席中に響く。それほど突如発生した雪崩の被害は甚大なものだった。松代、箱田、鯉沼、船橋の4名がこの雪崩によりフィールド上から姿を消している。皆レーダー上に反応は残っているので緊急脱出(ベイルアウト)はしていないようだが戦線復帰は困難な状態だ。

 

「今のは紅月先輩のトマホークだな。高台に数発撃ちこんで爆発。その勢いで雪崩を引き起こしたんだ」

「合成弾か。しかも結構溜めの時間短かったように見えたぜ」

「そっすね。多分3秒か4秒くらいか? 予想が完全に外れちった。射手(シューター)トリガーも使ってんのかよ」

 

 再度戦いの展望が異なる事態に進んだこと、そして何よりも同じ射手(シューター)としてライの練度を知って出水は舌を巻く。

 合成弾は元々出水が開発したものだった。今回は変化弾(バイパー)炸裂弾(メテオラ)を合わせたものだが、誰でもそう簡単に出来るものではない。慣れない者では撃ち出すまでに1分は時間を要するだろう。

 

「多分、紅月先輩もリアルタイムで弾道引いてんな」

 

 それをここまで短時間で、一発ごとに着地点が異なるようにルートを設定して撃ち出す事が出来るのはおそらくボーダー中を探しても出水と那須くらいのはずだ。

 

「いやビックリした。俺と那須さん以外に出来る人いたんだな」

「おそらく紅月の副作用(サイドエフェクト)がそれを可能としてるんだろうぜ」

「資料によると『超高速精密伝達』と言うそうですが」

「——ああなるほど。そういう事か」

 

 二人の説明と手元の資料の情報を見て合点がいく。確かに本来なら不可能な事でも、この力があるのなら十分可能であった。

 

射手(シューター)の弾道設定にはイメージする空想力、状況を把握する客観的な視点、位置関係を補足する空間認識能力が求められる。それらの情報を統合する能力もだ。その情報をあっという間に整理して伝達できるってんなら、確かに変化弾(バイパー)を使えるのも当然ってわけだ」

「おう。なんだよ出水、ちゃっかり自分の自慢話か?」

「そんなんじゃないっすよ」

 

 冷やかしの指摘を受けて出水は軽く否定する。

 口にするのは容易だが、これが出来るのは出水も語ったように現時点では3人だけだろう。その中のトップに君臨する隊員の言葉だけに信頼性は強く、試合を見ている隊員達は新たな戦力が出現したのかと肝を冷やした。

 

「紅月隊長のトマホークにより4人の隊員は生き埋めの状態となってしまいました。こうなるとまず脱出を図りたいところでしょうが……」

「まず無理だろ」

 

 いずれにせよライの策で多くの隊員が動きを封じられている。

 どうにか彼らはこの危機を脱したいところだろうが、雪崩の中ではどう対処すべきなのか。武富が二人に尋ねると当真があっさりと断じた。

 

「トリオン体って言ったって万能じゃねえ。寒さの感覚はマシになるだろうが、寒さによる体の反応がなくなるわけじゃねえからな。雪の中じゃ方向感覚を掴むのも難しいから動きにくくなった状態じゃ脱出はキツイ。そんな事できるくらいならうちの隊長が船酔いなんてしねえよ」

「また冬島さん酔ったのか……」

 

 隊長の姿を思い返して当真が解説する。

 トリオン体は便利ではあるが当真が語るように万能というわけではないのだ。トリオン体は寒さや暑さの感覚を調節は出来るが、感覚を感じなくなったとしても体温の変化によって引き起こされる現象は起こりえた。船に乗って船酔いがする事もあれば、水を飲んで咳き込む事だってあり、寒さで筋肉の動きが弱まる事もある。人体に起こりうる事はトリオン体でも生じるのだ。

 幸いにも呼吸効率は非常に良くなっている為窒息の危険性は低いだろうが、慣れない環境では精神的な辛さもあるはず。人の助けがなければ自力での脱出は難しい状態だった。

 

「となると残る隊員が合流あるいは救助に向かうのが得策、という事でしょうか?」

「まあそれが出来るならな」

「ただ、仕掛けた側の紅月隊がそれを許してくれるとは思えねえよ」

 

 ならば巻き込まれなかった隊員が、という楽観的な考えを解説席の二人は即座に否定する。

 策を講じた側は次の動き出しも早かった。ライは右手に別のトリガーを起動し、次の目標へと狙いを定めていた。




初期転送位置


            秦
   間宮                 船橋
      土崎    
              紅月        松代

                   鯉沼
  丸井      
        早川           箱田
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。