REGAIN COLORS   作:星月

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分析

 初戦のランク戦を終えた翌日。

 派手な初陣を飾った紅月隊の様相は録画映像を通じて次の対戦相手達にも伝わっていた。

 

「お、おおっ! マジかよ全員落としやがった!」

 

 ビデオを見終えた諏訪が歓声を上げる。

 B級諏訪隊隊長 銃手(ガンナー) 諏訪洸太郎

 たった一人の隊員が9人の敵全てを撃破するという滅多に見れない光景は諏訪にとっても衝撃的なものだった。

 

「紅月君。まさかここまで強かったとは」

「たまにランク戦で見てましたけどやっぱり桁違いですね」

「そういやお前らは前から紅月の事を知っていたんだったか?」

 

 話を振られ、チームメイトである堤と笹森がそろって頷く。

 諏訪にとってはライはたまに本部で見かける程度の認識だったのだがこの二人は違った。彼らは様々な事情でライとつながりをもっている。

 

「はい。彼は——勇者です」

「一体あいつが何をしたんだよ、オイ」

「俺や太刀川さんが屈した地獄を4度も乗り越えて行ったんです……」

「その面子にあいつが入る共通点がわからねえんだが?」

 

 閉ざした両目からほろりと涙を零して堤がそう断言した。要領を得ない発言に諏訪が突っ込むも、堤は遠くを眺めたまま惨劇を思い返すばかりで詳細は不明である。

 

「俺はC級時代に一度だけランク戦を挑みました」

「おう。そんでスコアは?」

「5本勝負で5対0で負けました」

「完封かよ!」

 

 一方の笹森の方はランク戦つながりだが、一年ほど前互いが訓練生時代の勝負とはいえ手も足も出なかったという知らせでは正直参考になりえなかった。せめて何かしら傷跡をつけていてくれたならば突破口も見えただろうが、一本も取れないとなると話にならない。

 

「ちっ。仕方ねーか。こんなやつがそう簡単に弱点晒すはずもねーし」

「どーすんの諏訪さん? 次は諏訪隊(うち)がマップ選択できるから手を打つ事は出来ると思うけど」

 

 情報戦で優位に立つ事は難しかった。

 とはいえ今回に関しては諏訪隊に大きなアドバンテージがあるだろうと小佐野が指摘する。

 B級諏訪隊 オペレーター 小佐野瑠衣

 彼女の言う通り今回は諏訪隊がマップ選択権がある為彼らに有利なマップを選ぶ事が出来るのだ。

 

「そうだな。とにかく次戦は那須隊、紅月隊どっちも射程持ちがいる。射線を切れるステージは絶対だ」

「ええ。その上でうちが得意とする銃撃戦が出来る所が望ましい」

「ただ相手も近・中距離戦で点を取れますよね」

「そこは仕方ないでしょ。二部隊とも全ポジションに対抗できるんだもん」

 

 那須隊も紅月隊もどのポジションであろうと対抗できる武器を持つ。特に那須が熊谷との連携による近距離から中距離戦を得意としていた。諏訪隊の強みとかぶるところはあるが、距離を無くした銃撃戦における攻撃力で負ける事はない。ならば多少のリスクは覚悟するべきだろうと諏訪は方針を固めた。

 

「ああ。俺と堤の火力で押し切るしかねえ。とにかく日佐人、お前は熊谷、紅月を抑える事だけを考えろ。お前が止めてる間に俺達が吹っ飛ばす」

「それ俺も吹っ飛びませんか?」

 

 おそらく文字通り吹っ飛ばすのだろうなと思いながら、笹森は苦笑する。

 近距離での面攻撃を得意とする諏訪隊。彼らの強みは至極簡単だった。

 すなわち、相手を止めて吹っ飛ばす。

 

 

————

 

 

 同時刻、那須邸。

 熊谷と日浦の二人が那須の自宅を訪れ、那須と共に作戦会議を行っていた。オペレーターの志岐は自宅からパソコンを通して参加している。

 

「——戦闘員一人って聞いた時は驚いたけど、実際に試合をしてみると納得するね。11得点なんて聞いたことがないよ」

「そうね。私も教えていた時からわかっていたつもりだけど、昨日の試合は予想をはるかに超えていたと思うわ」

 

 熊谷はおろか、ライに変化弾(バイパー)を教えた那須でさえ昨日の紅月隊のランク戦を見て衝撃を覚えていた。

 近・中・遠距離と全てにおいて隙が無い。たった一人で味方の支援もなしに暴れまわる姿は凄まじいものがあった。

 

『オペレーターも新米って感じがしないですね。あの早いタイミングで狙撃を成功できたのはオペレーターの腕もあったはずです。分析能力が高いかも』

「紅月先輩は狙撃訓練でもいつも上位の方に入っているんです。そこにここまで支援が入ったら厳しいですよ」

「そういえば昨日の解説で当真さんがそんな事言っていたわね」

 

 それを可能としたオペレーターの支援能力にも目を見張るものがある。彼女も新しくオペレーターとなった人間とは思えなかった。必要とされる情報を早くかつ正確に隊員へ届け、相手もそれを信用する関係には二人の信頼関係が窺える。

 

「となるとマップを活かして戦いたい所だよ。次戦は諏訪隊がマップを選択する。多分工業地区か市街地A、Bのあたりだろうね」

「ええ。私達も紅月隊も狙撃手(スナイパー)がいるからそうするはず」

「諏訪隊って銃手(ガンナー)なのに近距離から撃ってくるから怖いんですよね」

『しかも両攻撃(フルアタック)を平気で仕掛けてくるし』

 

 志岐の言葉に皆が揃って頷いた。

 本来ならば銃手(ガンナー)攻撃手(アタッカー)と比べて射程が長く、距離をとって相手を削る戦法が多い。

 だが諏訪隊は違った。主力である諏訪・堤両隊員は射程が短い代わりに攻撃力に特化した散弾銃を両手に持って戦う戦法を得意とする。攻撃手(アタッカー)寄りの銃手(ガンナー)という印象であった。

 

「工業地区ならマップが狭い。合流もしやすいから選ばれる可能性は高いと私も思う。狙撃手(スナイパー)を簡単に見つけられるし、逃げ場所も少ないから」

 

 だからこそ工業地区はうってつけの場所であるという那須の分析は的を射ている。

 工業地区は遮蔽物となる建造物が乱立している為射線が通りにくい上に、マップ自体が狭かった。転送場所によって多少の差はあれ合流に困る事は少ないだろう。連携を駆使した近接戦闘が予想される。

 

「そうなると私はどうしましょう? 諏訪隊は機動力がそれほど高くないので場所を確保すれば大丈夫だと思いますけど、紅月先輩のあのエスクードジャンプはヤバいです」

「射線確保できたらとにかく支援を続けて、紅月先輩が来たら即脱出で良いよ。さすがにあの人に近づかれたら狙撃手(スナイパー)で凌げる人なんてB級にいないって」

『そうですね。むしろ茜で紅月先輩を釣る事だけでも出来るなら十分お釣りが出ると思います』

「私はエサですか!?」

 

 あんまりじゃないですかと日浦が嘆いた。とはいえ熊谷達が語るように弧月も使うライに接近されたら対処は難しいだろう。この判断は仕方がない。

 

「ただ、紅月先輩を相手にするなら茜ちゃんの力も必要になるわ。あの回避能力の高さを掻い潜るには狙撃が欠かせないはず。場合によっては茜ちゃんに最後の一手をお願いするかもしれないわ。ここぞという時には、迷わず狙ってね」

「——はい!」

 

 とはいえ勿論日浦をただ敵をつり出す役で終わらせるわけはなかった。

 相手は回避行動が人並み以上。彼を上回る手数はあればあるほど有効なのだから。

 那須の期待を篭められた視線に日浦が元気よく答える。普段の訓練を見ているからこそ彼女にはわかっていた。一対一では到底勝てる相手ではない。しかしこれはチーム戦である。ただでやられはしない。

 

 

————

 

 

「おはようございます。——ライ先輩?」

 

 その頃の紅月隊。

 本部にやって来た瑠花が作戦室へ入室するも、部屋の明かりが消えている事に違和感を覚えた。

 時間は朝の九時を回った頃。規則正しい生活を送るライならばもう起きている時間帯だ。個人ランク戦のブースにも姿が見えなかった為ここにいると踏んだのだが人の気配が感じられない。不思議に思いながら瑠花はゆっくりと音をたてないように部屋の奥へと進んでいった。

 

「……寝てる」

 

 すると作戦室の最奥に設置されたベッドで静かな寝息を立てて眠っているライの姿を発見する。普通の作戦室は緊急脱出(ベイルアウト)用に簡易ソファが置かれているのだが、ライはここに住んでいる為ベッドとなっているのだ。

 普段は隙が無い人が無防備な姿を晒しているのを初めて目にし、瑠花の頬がわずかに緩む。

 

(こう見るとやっぱり綺麗だな)

 

 男性に対する表現としては不適切かもしれないが、真っ先に浮かんだ感情がそれだった。容姿が良い事は知っていたつもりだったが改めてじっくり見てみるとまるで作り物のように整った顔立ちに吸い込まれそうになる。

 

「——いけないいけない。そろそろ起こさないと」

 

 いつまでも観察している場合ではないと瑠花は自制した。今日は次戦へ向けての作戦会議を行う手はずになっている。午後には防衛任務も入っているため余裕があるわけではないのだ。

 

「ライ先輩。起きてください。もう朝ですよ?」

 

 とにかく隊長に起きてもらおうと彼の肩を揺らそうと手を伸ばす。

 

「ッ!」

「えっ——? キャッ!」

 

 瑠花の手が彼の肩に触れた瞬間、手が勢いよく引き寄せられて体が浮遊感に包まれた。

 突然の事に理解が追いつかないまま彼女の体はベッドに沈み込む。右手を相手に押さえ込まれて身動きが出来ず、さらに相手の左腕が鋭く彼女の顔元近くのベッドに突き付けられ、瑠花は驚きのあまり言葉を失った。

 

「何者だ」

 

 冷たく鋭い声色が突き刺さる。聞きなれたはずなのに、聞いた事がないような言葉の調子に瑠花は『この人は誰?』と自分を拘束する相手を疑った。

 

「————瑠花?」

 

 しかしすぐに普段の柔らかいライの声色が耳に響く。ようやく意識が覚醒したのだろうか、彼はハッと驚いたような表情を浮かべていた。

 

「ごっ、ごめん! ビックリしてつい!」

「い、いえ。大丈夫です」

 

 すぐさまライは手を引いて彼女を解放する。瑠花もようやく落ち着き、そして現状の体勢を顧みて視線を逸らした。

 

「おうライ。邪魔するで。ドア空いてたけど不用心すぎるで自分」

 

 間の悪い事に、その現場へ生駒がやって来た。

 

「あっ」

「————」

 

 瑠花の短い呟きが響く。直後、二人の様子を目にした生駒は衝撃のあまり口を大きく開けてその場で凍り付いた。

 

「で、弟子が中学生の女の子を襲っとるー!? アカン! 通報せな!」

「違います!」

「誤解です!」

 

 最悪の方向に解釈した生駒の悲鳴のような叫びが木霊した。

 これは釈明に時間がかかるだろうなと理解しつつ、二人は必死に説明を始めていく。

 

 

————

 

 

「なんやねん。誰かに寝込みを襲われたと思ったなんて、自分王様にでもなったつもりか? 言い訳にも苦しいで。顔が良ければ何しても許されると思ったら大間違いやぞ」

「……そうですよね。本当にごめんよ」

「い、いえ」

 

 王様という言葉にライが反応した事など二人は気づく由もない。一応生駒は納得して引き下がり、瑠花も彼の謝罪を受け入れた。

 ライの話によると那須隊、諏訪隊のデータを見ていた件と今日の朝も米屋に弁当を作っていた為少し睡眠不足になっていたという。朝食も済ませた後、瑠花が来るまで一休みしようかと思っていたら本格的に眠ってしまったという事だった。

 

(ただ、本当にびっくりした。まるで別人みたいだった)

 

 今は平常心を取り戻した瑠花だが、だからこそ先ほどのライの様子を思い返して違和感を覚える。先ほどの様子は違う人のようだった。まるで自分を殺しに来た敵に対峙したような、冷たい感覚。一体あれは何だったのか。疑問は残るが瑠花はそれを胸の奥へと封じることにした。

 

「それで、イコさんは本日はどのような用件で?」

 

 話題を変えようとライが生駒へ質問する。

 こんな朝早くから生駒が来室するとは驚きだった。特に会う予定も入れてなかったはずの師匠が訪れた理由がライには思い当たるものがない。

 

「いや大した件ではないで。まあただ初戦も終えて次のランク戦の相手も決まったやろ?」

「ええ。僕達は次に那須隊、諏訪隊と当たります」

「せや。その試合、俺が解説するからな。それを伝えとこと思って」

「えっ」

「解説する人ってそんな早くに決まるものなんですか?」

 

 ランク戦では従来なら二人、多い場合は三人の正規隊員が解説役を務めるのだが、次戦ではそのうちの一人を自分が勤めるのだと生駒は語った。

 とはいえ組み合わせが決まったのが昨日の出来事。解説は基本的にその時間帯に予定が空いている隊員に頼むという事になっていて特に誰が行うと決まっているものではない。それなのにこんな早くに決まるものなのかと瑠花は疑問を呈した。

 

「本当はちゃうで。ただ、昨日自分たち大勝したやん」

「まあそうですね」

「せやから次のランク戦の始まりの時には『俺が師匠や』って皆に教えとこ思てな。那須さんも出るなら観客も多いやろし。うちの試合は夜だから時間の都合もええしな」

「なるほど」

 

 師匠の狙いを良く知るライは納得して頷く。確かに注目を浴びたい生駒ならば人が集まるであろう次戦に顔を出したくなるという点が理解できた。

 

「もう大方のオペレーターの子達には声をかけといたからな。せやから恥ずかしい試合は許さんで」

「勿論です。きちんと弧月も使いますから解説するならばお願いしますよ?」

「任しとき。——ほな、そろそろ俺は行くわ。朝早くに邪魔したな」

 

 最後に弟子に発破を促すと生駒は部屋を後にする。

 

「嵐のような人でしたね」

「イコさんはいつもああいう人だよ」

 

 面白いでしょと話を振られて瑠花がクスリと笑った。突然やってきて用件を済ませたとなれば颯爽と去っていく。瑠花の人物評は正しいものだった。

 

「それで、どうしますか。次のランク戦の打ち合わせですが」

「そうだね。まず最初に言っておくけど——次の試合は昨日のような大量得点はまず無理だ」

「はい」

 

 ライの言葉に瑠花も同意を示す。

 

「前提としてそもそも三つ巴であるため隊員数が少ない事。そしてマップ選択権がない事だ」

「そうですね。昨日の大量得点は最初の策が嵌った事が大きいです。マップは勿論ですが天候の操作が出来ない以上は同じ事は出来ないでしょう」

 

 昨日の大量得点は市街地Cというマップも重要なポイントだったが、それ以上に吹雪という特殊な天候が大きく影響していた。あれがなければ4人もの隊員の動きを封じ込め、他の隊が点の取り合いを行う事を防ぐ事は出来なかっただろう。

 

「となると時間稼ぎは難しい。加えてもし諏訪隊が狭いマップを選べば合流を阻止する事も困難だろう」

「はい。しかも諏訪隊が得意とするマップには該当するものもあります」

「そうだ。今までのデータを見ると、彼らはおそらく面倒な設定はしてこないはずだろうから天候や時間帯の指定はないだろう。ならば地形を動かす考えは除外した方が良い」

 

 敵の性格も考えて次戦はシンプルな戦いになるだろうと二人は予測する。

 故に昨日のように点を獲得する事は難しかった。しかも相手はB級の中位であり、A級にも匹敵しかねない力を持つ隊員が集うチームだ。そう簡単には行かないだろう。

 

「だが一人部隊であることは必ずしも不利というわけではない。他の隊に点を取られるのを防ぐためには——瑠花、時間稼ぎ以外にも考えはあると思うが、何だと思う?」

 

 とはいえ何も戦法を想定していないというわけではなかった。ライは試すように瑠花へと質問を投じる。

 

「……シンプルな考えですか?」

「そうだね。何も難しく考える必要はない」

 

 彼女の戦術面を鍛えようとしているのだろう。隊長の意図を理解して瑠花も頭を働かせた。

 確かに一人部隊はよほどの事がない限り一つの戦局にしか関われないなど問題点も多い。だがメリットもあるのだとライは考えていた。

 

 

————

 

 

 その後各部隊はランク戦や訓練に励み、連携の確認や個人の実力向上に努めた。勿論引き続き敵戦力の分析や作戦立案も欠かさない。

 そして時が進み、水曜日の朝。この日も観客席には人が集まっていた。

 B級ランク戦第二戦、試合当日。紅月隊がB級中位に上がって初めての試合となる。迎え撃つ立場となった者の底力が試されるランク戦が始まりの時を迎えようととしていた。

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