ライの姿を視界に捉えた笹森はすぐさま諏訪たちへと通信を繋げる。
「紅月先輩がこっちに来ました! 真っ直ぐ突っ込んできます!」
『だー! 一番面倒なやつがいきなり来やがったのか!』
最悪の報告に諏訪が悪態をついた。正直な話、今回の敵の中で一対一で最も相手にしたくない敵はライであると諏訪は考えている。近・中・遠距離全ての武器を持つ上に先日の試合でその力を大いに示していた。加えてたとえ倒したとしても一点しか得られないという厄介な敵である。
その相手がいきなり勝負を仕掛けて来た事に苛立ちを隠せなかった。
『マズいな。俺と諏訪さんがそちらに着くまでに時間がかかるぞ。日佐人、何とか時間を稼げ!』
「了解です!」
初期の転送位置は堤と諏訪の位置は近かったものの、その分笹森と二人の距離は遠く、合流には時間を要するだろう。となれば何とか笹森が単独でしばらく凌ぐしかない。
堤の指示に従い笹森はカメレオンを起動。ライの視界から姿を消した。
「瑠花!」
『はい。——出ました。逃走経路予測ルートです』
「ありがとう!」
しかしあくまでも視界から消えただけでありレーダー上にはしっかりと笹森の姿が浮かび上がっている。ライの要請に応じ、瑠花がすぐに敵の動きを分析・予測するとライは
(この
カメレオンを使っている状態ではシールドが使えない為、仕方なく笹森はカメレオンを止めてシールドを展開した。
「くそっ!」
かろうじて防御は間に合うも、笹森の足は止まってしまう。
「捉えた」
「紅月先輩!」
「笹森隊員、カメレオンを使って逃亡を図りましたが失敗。紅月隊長が弧月で斬りかかります!」
「まーそう簡単には逃げられないよね」
「紅月隊長からしてみれば取っておきたい一点やからなあ」
「これは転送位置が悪いわ」
やはりこうなったかと解説席では皆当然のように呟く。二対一ならば味方の援護でどうにか出来た可能性もあるが、単独での突破ではやはり厳しいものがあった。
「一応近くに那須隊の二人もおるみたいやが」
「彼女たちがどう動くかな? 凌ぎ合うのを放置して合流を狙うもよし、奇襲をしかけてもよしの場面だ」
しかし戦場にはもう一部隊、那須隊の隊員も二人の戦場の近くにきている。特に熊谷は仕掛けやすい距離まで動いていた。二人の隊員の動き次第ではこの展開も変わるのだが、果たしてどう動くのか。
『玲! 紅月先輩が仕掛けたよ! どうする?』
「……まだ攻撃はしないで。攻撃するなら同時じゃないと紅月先輩は落とせないわ。くまちゃんは北から迂回して私と合流を」
『わかった!』
「茜ちゃんは二人を狙えるポイントまで移動して。多分諏訪隊の二人も直にこっちへ来るわ」
『了解です!』
ここで那須は静観を決断。下手に単独で仕掛ければ返り討ちにあうと考え、熊谷と那須の得意な連携戦術を展開しようと試みる。
「——那須隊はどうやら合流を選んだみたいだね」
「射撃戦を想定すれば下手に前衛を失うわけにはいかんからなあ」
「ならライは猶更早く仕留めたいとこやな。諏訪隊の二人も揃いそうやし、那須隊まで合流されたらやばいやろ」
「確かに。南東から堤、諏訪隊員が合流して笹森隊員の援護に向かう模様です。この間に仕掛けた紅月隊長は点をもぎ取れるか!?」
北西では那須隊が、南東では諏訪隊が合流しようと動きを見せていた。
敵の態勢が整ってしまえば迎撃は困難となるだろう。紅月と笹森の戦いがどのような決着を迎えるのか、隊員達の注目が集まる。
『ライ先輩。北から一人、西へと抜けていきました!』
「北。笹森隊員を無視するって事は那須隊だね。この距離で仕掛けてこないなら熊谷さんの可能性が高いな。となると西側にいるのがおそらく那須さんだ。マークをお願い」
『はい。タグをつけておきます』
笹森と切り結びながらもライは瑠花と戦況の把握に努めた。
那須隊も合流を狙っている。もしも二人が合流すればすぐに仕掛けてくるだろう。彼に時間の余裕は残されていなかった。
(これ以上時間をかけられない。ここで、決める!)
笹森に休める時間など与えずにライは続けざまに切り込んだ。一際強く弧月がぶつかり、その反動で笹森が後退する。
「
距離が空いたとみるやライは
「シールド!」
身体を覆いつくすのではないかと錯覚するほどの弾丸の数。すかさず笹森もシールドを展開し対応する。
(ぐっ。視界が——ッ!?)
その爆炎により視界は奪われ、さらに足元に落ちた炸裂弾が地面をえぐり飛ばし、笹森はバランスを失いよろけてしまった。
『日佐人! 前、構えて!』
小佐野の声が耳に響く。その声でなんとか冷静さを保ち、その場で踏ん張る事に成功した。
直後、煙を突っ切ってライが切り込んでくる。横合いからがら空きの胴体へと刀を叩きこもうと突撃してきた。反射的に笹森も刀を添えるように方向を変える。
「無駄だ」
だがそれさえもライに読まれていた。
ライ突如急停止すると右足を軸に旋回。あっという間に背後へと回り込むと笹森の背中から彼の胴体を切り落とした。
「——ッ!」
『戦闘体活動限界。
肩から斜めに斬られてしまえば致命傷だ。笹森は一足早く脱落する事を余儀なくされた。
「おーっと! ここで笹森隊員が
「鮮やか。無傷で一点手に入れたね」
「他の部隊は間に合わなかったかー。笹森君も頑張ったんやけどな。相手が悪いわ」
狙い通りこの試合初の得点を挙げた紅月隊。他の部隊に横槍を入れられる前に笹森を落とせたのは大きい。笹森の奮闘を讃えつつ、犬飼や水上はライの腕を称賛した。
「いやー。凄いな、彼。この前までフリーだったなんて信じられんわ。あんなに弧月使える人なんてそうそうおらんやろ。誰が師匠なんやろな? 見てみたいわ」
「鏡持ってきましょうか?」
「いや。いらんわ。——皆! 俺やで!」
「イコさんもう帰ってええですよ?」
一方生駒はライが弧月で点を取ったのをみると、ここぞとばかりに観客席へとアピールを行う。彼の反応をみて「もはやこの人解説席に乗り込んできたただの観客だな」と水上は適当にあしらうのだった。
「ですが、休んでいる暇はなさそうです。那須隊の集結が完了した模様です!」
「うーん。日浦ちゃんもポジションについてるし、こりゃキツイ」
「ああ。来るで。那須さんの本領発揮や」
そんな中、戦況は新たな展開を迎える。
那須と熊谷が揃い、さらに日浦も狙撃位置についた。彼女達の瞳にはライが映っている。
初戦を終えたライは早くも第二ラウンドを迎えようとしていた。
『ライ先輩。来ます!』
「那須さんか!」
笹森を撃破したライは一時後退しようと考えたが、上空より降り注ぐ
(予想より早いな。もう合流したか。やはりマップが狭い分、隊が揃うのも早い。こうなったら逃げ切るのは難しい。このまま迎え撃つ!)
右手に
『諏訪さーん。那須隊が紅月隊とぶつかったっぽい』
「おっ! あっちが先にぶつかったか!」
「一人レーダーには映っていませんがおそらく3人揃ってますね。さすがにこれなら紅月君も辛いでしょう」
『上手くいけば横取りできますよ! お願いします!』
「わかってる! 日佐人、テメエこの試合終わったら説教だからな! 真っ先に落ちやがって!」
『いや、あれは無理ですって!』
その頃諏訪は堤と合流し北上していた。ライが彼らから逃げるようにマップ北部へと向かおうとしていた為那須隊とどちらを狙うか悩んだものの、その二部隊が先にぶつかってくれたならば話は早い。隙が出来たところで襲撃しようと二人はレーダーから姿をくらました。
『那須先輩! 諏訪隊の二人が消えました!』
「諏訪隊が? それじゃあこっちに来るかな?」
『大丈夫です。もしも那須先輩たちの近くに接近すれば私から見えるはずです!』
「了解。じゃあ茜は諏訪隊の索敵と紅月先輩の妨害頼むよ!」
突如居場所が消えた事でわずかに動揺が伝わる。しかし那須隊には
『ライ先輩! 諏訪隊がバッグワームを展開しました。注意してください』
「わかった。多分くるなら僕達が接近戦になってからだろうね。どちらか一方でも残れば逆に挟撃を受ける危険性もあるから同時に仕留めたいはずだ。バッグワームを解除したら教えてくれ」
『はい!』
対してライはあくまでも意識するにとどめ、戦闘を続行した。やはり索敵手段をもたない以上は仕方がない。ライは今一度大きく跳躍した。
(那須さんの
別の部隊がバッグワームを使っている以上下手にトリガーを使って那須の猛攻を防ぐ事は危険である。そこでライは地面を蹴って階段の上へと一挙に飛び上がるとエスクードを起動。自分を追って来た
「捉えた!」
『玲!』
「お願い!」
そしてついにライが那須の姿を視界に捉える。
彼女たちは開けた場所で陣取っていた。ここならば射撃戦を優位に進められ、日浦の狙撃も届きやすいと考えたのだろう。
那須は両手で
「ちっ」
攻撃が防がれるとライは大きく後ろへ跳んだ。直後、彼がいた場所に那須の
「那須隊と紅月隊長が激突!
「うっわー。これは大変。一手間違えると致命傷だよ」
「本当にな。那須隊はこの連携が辛いんや。熊谷さんが盾役になって那須さんが射撃すれば、今度は熊谷さんが斬りかかる。これが辛い」
那須隊は攻守の連携がうまかった。熊谷が防御して時間を稼ぎ、那須が攻める。その間に隙が生じれば熊谷が容赦なく攻撃を仕掛けていく。単純だが非常に厄介だ。特に那須の攻撃は刻一刻と変化するために対応が非常に困難なものとなっていた。
「女の子ばっかに狙われるとか羨ましいやんけ」
「じゃああの中に入ってきたらどうです?」
「死んでまうやろ!」
さすがに生駒もこの攻撃をいなすのは辛いのか、そう短く返すにとどまった。
『茜ちゃん!』
「はい!」
そうしている間にも那須隊の猛攻は続く。
那須が再び
『ライ先輩!』
「——大丈夫だよ瑠花」
瑠花の声が響く中、ライは冷静だった。
数多くの射撃が迫る間も熊谷の攻撃はやまない。距離が空いたとみるや弧月をライの脇腹へと突き出した。
これをライは腕を上げてかわすと、彼女の腕を脇に抱えて後ろへと引き寄せる。
「なっ!」
『あっ。熊谷先輩! 危ない!』
『シールド!』
位置をずらされた事で熊谷が
「なんと。紅月隊長、熊谷隊員を利用して敵の攻撃を防ぎ切った!」
「えぇ。同じ部隊3人の同時攻撃受けてなんで彼まだ無傷なん?」
「うちの辻ちゃんだったらもう30回は死んでるよ」
「それ絶対違う意味を含んどるやん」
「おいおいおいおい。可愛い女の子を盾にするとか男として恥ずかしくないんか!?」
「もうただのヤジなんでやめてください」
敵の集中マークを受ける中、まだライは被弾一つ受けていなかった。第一戦の時もみられた敵を利用して自分を守る戦い。やはり彼の回避能力は伊達ではなかったのだと生駒を除く全員が感心した。
『あ、危なかった。ありがとう、玲』
「くまちゃん!」
とりあえず難を逃れ、熊谷が那須へと礼を告げる。だが那須は彼女の声に応える事なく声を荒げた。
咄嗟に熊谷が視線を戻すと、彼女の頭上に弧月の刃が迫る。反射的に熊谷はその場にかがみこんだ。何とか彼女の行動は功を奏する。弧月はシールドを叩き割ったものの刀が彼女の体を襲う事はなかった。
「くっ!」
「よしっ」
『待ってください!』
『ライ先輩! 来ます! ——諏訪隊です!』
態勢を立て直そうとする熊谷、追撃をかけようとするライの耳元にオペレーターの叫びが響く。
諏訪と堤がバッグワームを解除。急襲を仕掛けたのだ。
(諏訪隊! ここでフルアタックか!)
諏訪と堤の二人が両手に散弾銃を構えて熊谷・ライへ横撃を加える。
「うちの隊員が世話になったな、紅月!」
「悪いけどここは貰うよ!」
銃口が火を噴いた。接近しながら発せられた銃弾が二人へと襲い掛かる。
「ぐうっ!」
「くまちゃん!」
熊谷はシールドを展開しながら後退するも完全には防ぎきれず、銃弾は彼女の胸元をえぐり、左肩から先が吹っ飛んだ。かろうじて那須もシールドを展開して致命傷は避けたものの大きなダメージを負ってしまう。
「——エスクード」
一方のライはエスクードを起動。自分の足元から小さな盾を出現させると、その勢いを利用して大きく後退した。
(エスクードジャンプ!)
ライが初戦でも見せていた移動術である。盾であるエスクードを様々な用途で使いこなしていた。
「この野郎!」
すかさず諏訪がライの跳躍先へと銃口を向ける。幸いにもエスクードが小さいために飛距離も伸びなかった。追撃すればまだ落とせる。
「エスクード」
だが、着地したライが再びエスクードを展開した。諏訪隊と紅月隊の接近を阻む壁が瞬時にせり上がる。
「だーっ! くそっ! 逃げやがったか!」
「さすが。判断が早い」
これでライの追撃は不可能となった。奇襲であったにも関わらずあっさりと逃げ切ったライに諏訪隊の二人は苦言を呈する。
「——
しかしライは逃げたわけではなかった。
もう一度
「うおっ!?」
「諏訪さん、那須さんの
「マジかよ! ちっ。一瞬で挟み撃ちの形になっちまったか!」
ライだけではなかった。体勢を立て直した那須も
「おっと。奇襲で熊谷隊員を負傷させた諏訪隊ですが、二部隊に挟撃される形となってしまった!」
「あっちゃー。あの一発で落とせなかったか」
「熊谷さんにはダメージ負わせたけど、紅月君はいつ来ても大丈夫なように備えてたみたいやな。回避から反撃までイメージしてたんやろ」
両取りするはずが一瞬で危機に陥った諏訪隊。惜しかったと犬飼は彼らの失敗を嘆く。
無傷でかわしたライはおそらく最初からこの展開を考えていたのだろうと水上は分析した。エスクードの小ジャンプで攻撃をかわし、次は接近を防ぎ盾となる大盾を作って那須隊との挟み撃ちとする。熊谷を攻撃された直後ならば那須も諏訪隊に仕掛けるという事まで考えた。先ほどの那須隊の猛攻をトリガーで避けなかったのも諏訪隊の襲撃に備えてという事ならば納得出来る。
「諏訪隊は一回下がらんとマズイんとちゃう? このままだとただ削られるだけやろ」
「……まあそうですね。あるいは熊谷ちゃんを追い詰めたんで那須隊に強引に突っ込んでもいい気はしますけど」
さすがに試合の分岐点という事で空気を読んだのか生駒が疑問を呈した。
彼の言う通りこのままでは射程が短い諏訪隊は削られるだけ。紅月隊に接近できない以上、那須隊に突撃するか一度下がるしかない。
「でもリアルタイムで設定する
とは言え今回は瞬時に弾道を引ける
——ならば諏訪の性格を考えればここで仕掛けるはず。
犬飼は冷静に、危機に陥った諏訪隊を見つめていた。
「——よしっ。堤!」
「何ですか!?」
お互いに分割シールドを展開して必死に防御を試みる中、諏訪が窮地を脱する考えを堤へと切り出す。
「那須隊に仕掛けるぞ! 俺の後ろに続け!」
「了解です!」
諏訪が選んだ答えは突撃。点を取りに行こうと素早く駆け出した。
『諏訪隊が動きました! 那須隊に仕掛ける模様です!』
「突撃? 退かずに勝負に出たか。さすがに諏訪隊が二人とも残るのは厳しい。援護するか」
『来るよ、玲!』
「うん。シールドはお願い」
『
ライと那須が
(ここだ!)
勝負所とみた諏訪の目が鋭く光る。目線はそのままに大声で堤へ指示を飛ばした。
「堤! 前を重点的に全力でシールド張れ!」
すると諏訪が大きく横へ飛び、先ほどライが展開したエスクードに乗ると、盾を蹴って方向転換と同時に加速した。半分の
(諏訪隊もエスクードを利用して!)
急速な方向転換。障害物を利用した動きに那須隊の動きがわずかに鈍った。
『玲!』
『わかってるわ』
負けじと那須はもう一度
「先輩!」
同時に日浦も味方を支援するべくライトニングを発射する。ライトニングは堤の右足を撃ちぬき、彼をその場で転倒させた。
「堤!」
「——諏訪さん、行ってください!」
諏訪が呼びかける中、堤が必死に叫ぶ。彼は自らの防御を捨て、諏訪の周囲へと分割シールドを展開した。
(堤さんの分のシールドが!)
これでは
『戦闘体活動限界。
「諏訪さん!」
最後に味方の支援役をしっかり果たし、堤が脱落する。
「よくやった堤!」
「玲!」
「ッ。シールド!」
もう一度
「ブッ飛ばす!」
散弾銃の銃口が二人へと向けられた。
「ぁっ!?」
瞬間、諏訪の頭部が衝撃と共に大きく揺れる。
「なっ」
後方からの攻撃。
諏訪がゆっくりと振り返るとそこにはイーグレットを構えるライの姿があった。いつの間にか二部隊を隔てていたエスクードが消えている。
「ヒット」
「……くそったれ」
『戦闘体活動限界。
「ここで堤隊員に続き諏訪隊長も
ついに諏訪隊は三人全員が落とされてしまった。那須隊の三人とライの四人が戦場に残されている。
「エスクードを利用した所とか堤さんの支援は悪くない手だとは思ったけどね。でも今回は相手が上回ったな」
「ランク戦は点を取るのが重要やからなあ。点を取れると思ったなら自分が落ちてでも味方を守るってのは良い考えや。——ん?」
諏訪の発想、堤の咄嗟の判断。結果には結びつかなかったもののどちらも良い動きであった。犬飼、水上は彼らの動きに理解を示した。
その一方でなぜか無言で俯き肩を震わせている生駒を目にし、水上は恐る恐る声をかける。
「イコさん? どないしたんです?」
「なんでやライ! 今こそ旋空弧月の見せ場やったやろ! なんで自分狙撃やってんねん!」
「なんで弟子の点の取り方で一々文句言っとんやこの人!?」
どうやら生駒はライの狙撃が気に食わなかったらしい。旋空を見せれば堂々と自慢が出来たのにと生駒が天を仰いだ。
(まあ、確かにイコさんじゃないが疑問は残るなあ。さっき旋空を使えば諏訪さんは勿論那須隊の二人、最低でも熊谷さんは落とせたやろ。それくらいわからんはずないのに、なんで紅月君は諏訪さんしか落とせないイーグレットを使ったんや?)
とはいえ生駒の考えには理解できる点もある。
ライの踏み込み旋空弧月を使えば諏訪隊だけでなく那須隊も落とし、得点を挙げれたはずだ。それにも関わらず彼は近距離では当てるのが難しいイーグレットでの一点狙いとした。踏み込みをレーダーで探知されて旋空を読まれるのを警戒したのだろうか、水上は様々な思考を巡らして、
(まさか、彼は——)
ライが旋空を使わなかった理由へと思い至る。
「さあこれで那須隊と紅月隊の一騎打ちとなりました! 3対1とはいえ熊谷隊員は負傷し、紅月隊長はいまだ無傷のまま! どちらがこの試合を制するのか!?」
綾辻の声で水上は現実へ意識を引き戻した。
あくまでもこの考えは一つの可能性にすぎない。考えるのは後にしようと視線をモニターへと戻し、戦いの行方を見守るべく集中した。
「やったれ那須さん! その綺麗な顔吹き飛ばしたれー!」
「頼むから解説しないなら黙っててもらえます!?」
冗談ではなく本心で水上はそう口にする。ランク戦はさらに白熱した様相を呈するのだった。