REGAIN COLORS   作:星月

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姉弟子

 諏訪隊を殲滅すると、ライはイーグレットを解除した。入れ替わる形で彼の右手に分割されたトリオンキューブが浮かび上がる。

 

『玲!』

「ええ!」

 

 臨戦態勢に入った敵を見て那須も負けじと二つのトリオンキューブを生成した。

 

変化弾(バイパー)

 

 隊員の設定したルートに沿って弾が放出される。

 やがて二人の放った弾同士は衝突。一部は相殺され、残った弾が那須隊とライの双方を襲った。さらに日浦のライトニングも発射された中、ライは一歩さがって狙撃をかわすと変化弾(バイパー)を分割した盾で防ぐ。那須隊も熊谷が展開したシールドにより事なきをえた。

 

「紅月隊長と那須隊長、二人の変化弾(バイパー)対決が再開しました。エース対決でこのランク戦の決着がつくか!?」

「一見味方がいる上にメインとサブ両方に変化弾(バイパー)を入れてる那須さんの方が有利に見えるけど、トリオン量は紅月君の方が上みたいだから油断は出来ないね」

「まだ紅月君が被弾しとらんからなあ。狙撃手への警戒も十分余裕をもっとるみたいやし」

 

 熊谷という前衛も残っている上に那須は弾の数での優位も持っている。とはいえ純粋な威力という一点に関してはライの方が上であった。その為射撃戦でもどちらか一方に傾くという事はなく、二人の射撃の応酬が続く。

 

「変化が起こらんとこの膠着状態は続きそうやな」

「なら那須隊が動かんとあかんとちゃう? 長引くと熊谷ちゃんがトリオンキツイやろ」

「そうなんですよね」

 

 この戦況を変えるには自分から動いていくしかなかった。生駒が言うように熊谷が先ほど諏訪によって大きな損傷を受けてしまったために長期戦は彼女がトリオン切れを起こすリスクがある。

 なので動くとしたら那須隊からだろう。そう水上が考えていると、彼の予想通り那須隊に動きが生じた。

 

『……茜ちゃん、今から言う場所まで移動して』

 

 那須から日浦へと指示が飛ぶ。彼女の言葉に従って日浦が移動を開始すると、那須は炸裂弾(メテオラ)をライではなくステージ中央へ向けて撃ち上げた。

 

(どこに?)

 

 ライも彼女の真意を読めない中、彼女の放った弾がマップ高くにそびえ立つ燃料タンクを貫いて大爆発を起こす。煙が立ち込めると、日浦の撃ったライトニングがその煙を引き裂いてライに迫った。

 

「ッ!」

 

 瞬間的にシールドを張る。咄嗟の判断で防げたものの、これで変化弾(バイパー)を防ぐ手立てを失った。

 那須の変化弾(バイパー)が再び放たれる。ライの変化弾(バイパー)で全てを防ぐことは出来ず、回避に専念するも全方位から襲い掛かる鳥籠の一発が彼の腹部を抉った。

 

「くっ」

 

 初めて負ったダメージにライの表情がゆがむ。

 

「ここで紅月隊長が被弾! 那須隊長の鳥籠が紅月隊長を捉えました!」

「射線を通したか。しかも黒煙の中突っ切ってくるライトニングはきっついなあ。むしろよく反応するわ」

「第一戦では紅月君が地形を動かしていたけど、今回は敵側に狙撃手(スナイパー)が残っているから同じ手は自分を追い詰めちゃうからできないね。これはキツイ」

 

 いよいよライが負傷した。視界を奪い、高速の攻撃を仕掛ける。咄嗟に出来ないであろう攻防に解説席も熱を帯びた。

 

「やっぱりこうなると厳しいね。紅月君は少し攻め急いじゃったかな」

「どういう意味や犬飼?」

 

 犬飼の小さなつぶやきに生駒が反応する。生駒はふざけている面もあるが、わからない事があればすぐに教えを聞き反省に活かす器用さも持ち合わせていた。

 生駒に聞き返されて犬飼は先ほどの諏訪隊との攻防を嚙み砕いて説明する。

 

「さっき諏訪隊が那須隊に仕掛けた場面があったでしょ? あの時、諏訪さんを取る所は良いと思うけど、もう少しタイミングを遅らせれば熊谷ちゃんは落ちていた。最低でももっとダメージを負っていただろうね。そうすれば那須隊の盾役が減ってもう少し楽になっていたと思うんだ」

「熊谷隊員のポイントを諏訪隊に取られてもその後の戦況を優先する、という事ですか?」

 

 綾辻の問いに犬飼はうなずいた。

 

「そう。生き残る確率を上げた方が良いでしょ。生存点の二点の方が大きいからね。だから今の展開を見てさっきの戦いは失敗だったかなって。諏訪隊がいなくなった以上、那須隊は注意を割く必要がないし、余力を残す必要もなくなったからね」

 

 犬飼の言う通りもし熊谷がいなければこの膠着は成立していない。前衛を失って那須も今ほど攻撃に専念できなかったはずだ。それどころか那須隊に反撃の機会を許している。

 

「今だ。仕掛けるよ!」

『深入りは駄目よ。くまちゃん』

「わかってる!」

 

 変化弾(バイパー)の打ち合いが繰り広げられる中熊谷が再び突撃した。射線が通り、ライの注意も薄れた今を好機と見たのだろう。勝負を決めるべく、残った右腕に弧月を握り斬りかかる。

 

(仕掛けて来たか)

 

 熊谷の前進を見てすぐにライも弧月を起動。彼女の切り込みを弧月で防いだ。

 

(止められた。でも、この距離を維持したままなら変化弾(バイパー)は撃てない!)

 

 攻撃は防がれたが目的は達成している。熊谷は今ならばいけると確信した。

 

『玲!』

『ええ』

 

 熊谷がライと切り結びながらも那須へ呼びかける。既に彼女は変化弾(バイパー)を起動していた。

 たちまち彼女の手を離れた弾があらゆる角度からライを襲う。

 

「ッ」

 

 ライが短く舌を打った。熊谷の剣の切っ先を刀身で払い落とすと地を蹴って後退。日浦のライトニングをかわして変化弾(バイパー)とシールドを展開した。

 

(チャンス! 今なら弧月は使えない!)

 

 今もライは弧月を握っているものの、変化弾(バイパー)を起動しているという事は機能をオフにしているという事だ。切れ味がないただの重い棒にすぎない。

 ここで熊谷が仕掛ければ防ぐ手立てはなかった。熊谷も一歩踏み込むと弧月を横一閃に振る。

 

「決める!」

「——まだだ」

 

 するとライは後ろに倒れこむように体を傾けるとその場で一回転。弧月で熊谷の刀を叩き上げた。

 

「ハッ!?」

 

 予想外の反撃に熊谷が驚愕する。その間にライは一歩後ろに下がり那須の追撃をかわすと、着地の勢いを加えて熊谷へ急接近。弧月を熊谷の右肩へと突き刺した。

 

「なっ!」

『くまちゃん、危ない!』

「ッ!」

 

 衝撃により熊谷が後ずさる。しかも彼女に驚いている暇はなかった。

 先ほどライが放った変化弾(バイパー)の一部が突如向きを変えて熊谷を背後から襲い掛かる。

 予想外の出来事にシールドの展開は完璧に行う事はできず、彼女の左足を弾が撃ちぬいた。

 

『警告。トリオン漏出甚大』

「そんな……」

 

 トリオン体からの知らせに熊谷の表情が曇る。

 那須の援護によりライの追撃が熊谷を襲う事はなかったが、仕留められたはずの場面で逆に追い詰められた影響は大きなものだった。

 

「那須隊の総攻撃に見舞われる中、再び紅月隊長が凌ぎました。熊谷隊員が後退し再び射撃戦に移る模様です」

「ちょい待ち。今のどういう事? 紅月君、今熊谷さんの攻撃を弧月で防いどらんかった? 変化弾(バイパー)起動していたのに何で弧月使えたん?」

 

 解説席からでも今の攻防が理解できなかったのか水上が首をかしげている。

 そんな彼の悩みを解決したのは意外にも彼の隊長である生駒だった。

 

「簡単や。機能をオフにした弧月でいなしたんやろ。弧月はスコーピオンと違ってオフにしてもただの重い棒きれとはいえ形を残せるからな。逆に言えばただの棒として使えるっちゅう事や」

「棒で刀防ぐとかできるものなの?」

「せやから真っ向からは受けなかったんやろ。切れ味ないから斬られれば折れてたはずや。そうならん為に熊谷ちゃんの刀に合わせて刃先を受けないように叩いたんや。刀の役割は斬るだけじゃないからなあ」

 

 弧月は待機状態ではただの重い棒きれとなる。その状態でライは熊谷を凌いだのだと生駒は語った。まともに斬り合えば間違いなく負ける。だからこそ刀の向きや位置まで考えて棒きれを振り上げたのだと。

 

「変態すぎん?」

「ああ。あいつは変態やで」

「いやそういう意味ちゃいますから。ここぞとばかりに弟子の評価下げて引き摺り下ろそうとすな!」

 

 思わずそう水上が呟くと、生駒が同調する。せっかくまともに解説していたのにどうしてすぐ無駄にするのだろうと水上は嘆くのだった。

 

「へえ。たしかにそれはすごい」

(ただ、それだけの技量があるなら余計に謎だな。そんな事が出来るなら変化弾(バイパー)撃った後に弧月をオンにしてれば間違いなく熊谷ちゃんを取れたはずなのに。攻め気がなさすぎるような?)

 

 犬飼も生駒の言葉に感心しつつ、一抹の疑問を浮かべる。彼はライが攻めに消極的であると考えていた。明らかに点を取れる場面で取りに行っていないと。

 何か考えがあるのだろうか。犬飼が考えに耽る中、戦局が大きく動き出そうとしていた。

 

《……皆》

 

 那須が内部通信で3人へ呼びかける。通信とは言え彼女の強い意志が籠っているような声色を皆感じ取っていた。

 

《このままでは埒が明かないわ。私が隙を作る。ここで決めに行こう》

 

 そう言うと那須は左右に二つのトリオンキューブを生み出す。

 左手の弾は複雑な軌道を描いて進み、対して右手の弾は一直線にライへと向かっていった。

 

変化弾(バイパー)じゃない? いや、フェイントか?)

 

 ノーフェイクの軌道が読みやすい弾道だ。いつもの那須らしくない行動だった。

 

「シールド!」

 

 疑問を覚えつつ、ライは警戒し前方の遠い位置にシールドを展開する。同時に右手の変化弾(バイパー)で迎撃を行った。変化弾(バイパー)同士の激突は相殺されるものの、シールドで防ごうとした弾は盾にあたるとその場で爆発する。ライの視界を奪った。

 

炸裂弾(メテオラ)か)

 

 那須隊の真意に気づき、次の動向を探るライ。

 

「旋空——」

 

 すると熊谷の声がライの耳に響く。

 

「弧月!」

 

 直後、弧月の伸びる刃が横一閃に振るわれた。

 

「くっ!」

 

 ライの足元を狙った斬撃。煙を薙ぎ払って現れた攻撃をライは跳躍してかわした。

 

『今!』

 

 さらに那須隊の攻撃は終わらない。先ほど放ったはずの変化弾(バイパー)の一部が遅れてライへと直進した。ライの回避を予想してあらかじめ設定していたのだろう。さらに日浦の狙撃が今一度ライへ目掛けて放たれた。

 

(ここで追撃か。だが、この弾の量なら分割シールドで——)

 

 再度の追撃にライは冷静に対処すべく自分に向かう攻撃へと目を向ける。

 

『違います! ライ先輩!』

「ッ!?」

『ライトニングじゃありません!』

 

 突如として彼の耳に瑠花の警告が響いた。ライ自身も日浦が放った弾を見て、その弾速から武器を分析。ライトニングではなく威力に特化した武器・アイビスであると理解して目を見開く。

 

『————勝った』

 

 那須隊の面々が勝利を確信した。那須が、熊谷が、日浦が、志岐が同時に呟く。

 ここまでの局面、日浦は全てライトニングの狙撃に専念していた。その方がライの回避を制限できるという目的もあったが、そもそも日浦の狙撃能力でライトニングが最も練度が高かったためだ。他の武器はライトニングと比較するとやや見劣りしており、この情報は共に狙撃訓練に臨んでいたライにも勿論届いている。

 だが、だからと言ってライトニング以外を使えないわけではない。限られた場面で成功できるように日浦も日々訓練を重ねて来た。弟弟子が出来てからは猶更彼に後れを取らないように。

 そして今、那須と熊谷の連続攻撃によって動きを封じられ、今までライトニングしか使ってこなかったために日浦のアイビスを想定していなかったライにはこれを防ぐ手段がない。そうでなくても先ほど日浦のライトニングに不意をつかれたばかりだ。主要武器以外でくるという発想までは至らなかった。

 

『場合によっては茜ちゃんに最後の一手をお願いするかもしれないわ。ここぞという時には、迷わず狙ってね』

 

 彼女たちの脳裏に作戦会議で話していた那須の言葉がよみがえる。

 

(茜はライトニングを使ってくると思わせれば、分割シールドでも防げると考える。でもアイビスではその盾を容易に吹き飛ばせる。エスクードは生やす場所がない空中では使えない! 勝った!)

 

 『戦術で勝負する時は敵の戦術のレベルを計算に入れる』

 かつて始まりの狙撃手と呼ばれた隊員が解説で言っていた事だ。相手がこちらの戦力を把握し、瞬時に対応してくるのならばその先を行くまで。

 完全に相手の読みの裏をかいた。もはやライにはこの攻撃を防ぐ手立ては残されていないはず。志岐は宙に浮かぶ相手を目にして勝利を宣言した。

 

「——さすが」

 

 そんな中、ライはわずかに口角を上げる。

 敵をひいては姉弟子たちを称賛すると同時に、まだ勝負は終わっていないと示すような発言であった。

 ライは空中で弧月を真下へ向けると、剣を両手でつかむ。

 

「エスクード」

 

 すると弧月から大きな盾が出現。その重みに引き寄せられてライの体が急降下し、アイビスと変化弾(バイパー)は何もない空間を突き抜けていった。

 

『はっ!?』

 

 那須隊の面々が、解説席や観客席の隊員達が驚愕に目を見開く。皆那須隊の勝利を考えていた。だが必殺の一撃は傷を負わせるどころか空振りに終わってしまう。

 

(エスクード!? なんもない所から、いや弧月から生やしたんか!? 盾としてではなく軌道をずらすただの重し(・・・・・)として?)

 

 本来は防御用として使用するエスクード。ライはその重さで自分を落下させるだけに使用していた。

 

『弧月はスコーピオンと違ってオフにしてもただの重い棒きれとはいえ形を残せるからな。逆に言えばただの棒として使えるっちゅう事や』

(弧月のデメリットを逆手に……!)

 

 水上は先ほどの生駒の発言を思い返し、この発想に至ったライの戦術眼に感服するのだった。

 

「嘘やろ。なんやの、彼?」

 

 咄嗟に思いつく思考。即座に成功させる判断。どれもが抜きんでている。

 チームメイトを通じて何度もあっていた相手であるというのに、水上は彼の恐ろしさに背筋が凍る感覚を覚えた。

 

(悪いが、当真や奈良坂の狙撃だってかわしたんだ。今さら他の人の狙撃は食らわない)

 

 だがそれも無理のない事。

 これまで数多くの狙撃手訓練にライは参加してきたが、ボーダー内の数多くの実力者でさえライを狙撃する事は難しいのだ。だからこそそれをなしてきた彼には簡単に被弾してなるものかという意地があった。

 

「姉弟子が相手であろうと。負けるわけにはいかない!」

 

 たとえ姉弟子・日浦だとしても。

 ライは役目を終えた弧月を破棄する。新たに出現したエスクードを足場にその上に立つとイーグレットを起動し、アイビスを放った日浦の方角へとお返しの一撃を放った。

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