REGAIN COLORS   作:星月

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克服

 時はあっという間に進み——B級ランク戦第三戦、試合当日。

 

「みなさんこんちはー。今日実況担当の太刀川隊国近でーす」

 

 観客席に国近の穏やかな声が響く。

 A級 太刀川隊オペレーター 国近柚宇

 第三戦は静かに始まりを迎えようとしていた。

 

「解説席には米屋君と緑川君が来てまーす」

『どうぞよろしく』

 

 国近の隣には米屋、緑川が陣取っている。今日もA級隊員による解説に期待が高まった。

 

「さてー、今日のB級中位グループ夜の部は8位の紅月隊、9位の香取隊、11位柿崎隊、12位の荒船隊でーす。荒船隊が選んだマップは『市街地C』。荒船隊が必ずと言ってよいほどよく選ぶ所です」

「だろうなー」

「荒船隊はここしか選ばないでしょ」

 

 マップがモニター上に表示されると当然の事だと米屋と緑川が揃って頷く。

 市街地Cは初戦でライが選んだマップでもあった。狙撃手(スナイパー)に有利とされるマップは狙撃手(スナイパー)を二人要する荒船隊のホームグラウンドと有名である。

 

「でも今回柿崎隊、香取隊は狙撃手(スナイパー)がいないけど、紅月隊長は狙撃手(スナイパー)もやるんだよねー? そこは無視?」

「そうでしょ。ってかそんな事いったらあいつどこでも対応できるし」

「相手の苦手を選ぶよりは自分たちの得意な所を優先って事だろうね。最悪紅月先輩は無視でもいいんじゃない?」

「なるほどー」

 

 ライは先の二試合でイーグレットを見せている為彼にも有利なマップ選択となった。だがそれを覚悟の上で荒船隊は選んだのだろうと二人は断言する。

 

「問題は香取隊と柿崎隊だよなー。この二部隊は早々に荒船隊を片付けるか高所とらねえとしんどいぞ」

「その辺りは転送位置によるよね」

「おー。ちゃんと解説してる。——さあ、B級ランク戦Round3。全部隊(チーム)、転送開始」

 

 残る二部隊は早いうちにこの問題点を取り除かなければならない厳しい戦いだ。

 一通り解説が済み定刻を迎える。

 国近の宣言を合図に全ての隊員達が仮想ステージへと転送されていった。

 

 

————

 

 

「B級ランク戦Round3、全部隊転送完了! マップは市街地C! 転送位置はランダムですが、高所が有利なこのステージ。一番高台に近いのは半崎隊員!」

 

 全隊員が戦闘マップに転送される。開始早々、半崎と穂刈の狙撃手(スナイパー)二人はバッグワームでレーダー上から姿を消した。

 ランダムな位置からスタートする中、高台に最も近いのは半崎だ。彼を筆頭に次々と隊員達が坂をかけあがっていく。

 

「うわっ。ずり」

「荒船隊が有利な所で理想的な立ち上がりじゃん」

「んー。ただ、その近くに香取隊二人いるな。これ多分だけど見つかるぞ」

 

 とはいえ位置の有利はあったものの、完璧な位置取りであったかと言えば全く別の話だ。

 半崎のすぐ後ろには香取隊の若村の姿があった。バッグワームはレーダーから確認できないが肉眼での視認は可能だ。案の定、若村は坂道を駆け上がる半崎の姿を捉える。

 

「いた! 半崎だ!」

『高台は取られそうだけど、これなら大丈夫そうだね』

『雄太、麓郎君は西と南から半隠密で挟み込んで。狙撃手(スナイパー)を確実に一人落とすチャンスよ。見失わない様、狙撃の直後を狙って』

『了解!』

 

 市街地Cは狙撃手の独壇場となるステージだ。ここでその一人を見つけたのならば逃す手はないと香取隊オペレーターである染井が冷静に作戦を告げた。彼女の指示に従い、若村がバッグワームを、三浦がカメレオンを展開して半崎に迫る。

 

「おっと。米屋君の予想通り香取隊が半崎隊員を見つけたかな? カメレオンとバッグワームで追ってるね」

狙撃手(スナイパー)には滅茶苦茶嫌な展開だな。牽制しようにも相手も姿を消してるからめんどくせえ」

「しかも二対一。これ狙撃無理なんじゃない?」

「だな。やるとしたら、自分が落ちるの覚悟で確実に誰かを落とすタイミングなんだろうが。その間に他の盤面がどう動くやら」

 

 片やマップでは見えるものの視界に捉える事は出来ない三浦、そしてレーダーで場所が判明出来ない若村と徹底的な狙撃手(スナイパー)対策だ。これではまともに狙撃手(スナイパー)の仕事をする事は出来ない。

 

狙撃手(スナイパー)見つけたの? じゃあそっちは任せるわよ』

「葉子?」

『私はこっちで点を取るわ』

 

 一方、香取隊の隊長である香取は二人との合流を狙わず、一人の隊員へと狙いを定めて駆け出した。

 

『ライ先輩! 西から来ています!』

「……ああ。見えているよ。香取さんだね」

 

 その先にいたのは彼女と同じくマップ南に転送されたライである。北上しようとしていた彼にスコーピオンで襲い掛かった。対するライは弧月を展開して迎え撃つ。

 ランク戦開始早々、各隊のエースの激突が繰り広げられた。

 

「隊長。南で香取さんと紅月先輩がぶつかりました」

『よし。好都合だ。敵のエース同士がつぶし合うのは放っておいていい。北で消えたのは香取隊で間違いないはず。なら荒船隊のサポートはほとんどないだろう。俺達はこのまま連携して荒船を叩くぞ』

『了解!』

 

 隊員がそれぞれの戦場で戦闘が始まる中、唯一中央に集まっていた柿崎隊は三人揃って中央近くの荒船を最初の獲物と定める。

 柿崎の指揮のもと、単独行動を行っていた荒船へと向かっていった。

 

「ちっ。柿崎さん達が来やがったか」

『凌げ、荒船。まもなく俺もつくぞ、狙撃ポジションに』

「ああ。わかってる。しっかり頼むぞ」

 

 三人の反応が自分に近づいている事を知り、荒船も弧月を抜刀する。

 半崎の支援は望めないだろう。だがまもなく穂刈の狙撃支援が来るならばなんとかこの場を凌げるかもしれない。

 そう簡単にやられてなるものかと、荒船は柿崎隊をにらみつけ刃先を彼らに向けるのだった。

 

「おー。徐々に局面が分かれていく! マップ南端の方では香取隊長と紅月隊長。中央では柿崎隊と荒船君が衝突する模様!」

「なんだ。全部隊のエースがさっそくぶつかってんな」

「荒船さんきつそー。射程持ちの相手と3対1だし香取隊が抑えているせいで支援がいつもの半分でしょ? 無理やり突破しないと駄目かもね」

「柿崎隊は3人いるから狙撃の警戒も出来るしな」

 

 開始早々に各々のエースが大きな局面を迎えるという事で観客の注目度は彼らに集まる。特に厳しいのは荒船だった。柿崎隊は3人全員が射程を持つ隊員であり、連携がうまい。そんな彼らに攻撃手(アタッカー)が囲まれたら対応するのは難しいだろう。

 

「最低でも荒船さんはここで一人はとっておきたいだろうがどうなるかな。むしろ南の香取とライの戦いがどうなるかが大きいぜ」

「たしかに。前回のRound2で紅月隊は那須隊に敗北。香取隊長は上位グループでも得点できるほどの実力者。紅月隊が上位グループに登れるかどうかが試される一戦となるか!」

 

 米屋の言う通り中央の戦いは柿崎隊と香取隊の思惑が一致している以上、柿崎隊の優位は揺るがないだろう。

 となると問題は南側。エース同士の一騎打ちとなった二人の隊長対決の行方がこの先のランク戦にも大きく影響するだろうと国近は解説する。

 多くの者の注目が集まる中、二人が激突した。

 

「どんくらいの力か知らないけど、那須隊に負けたんでしょ? ならさっさと終わらせる!」

 

 香取は記録を見返さない。その為ライのデータはほとんど持っていなかった。

 知っているのはRound2で紅月隊が那須隊に敗北したという情報のみ。その相手なら単独でも十分勝てるだろうと判断したのか、グラスホッパーで加速すると真っ向からぶつかっていく。右手のスコーピオンを手に高速で斬りかかった。

 

(機動性の高い万能手(オールラウンダー)。さすがに速いな。だが)

 

 スコーピオンの軽さ。さらに急加速を可能とさせるグラスホッパーの組み合わせは見事なものだ。

 だがライの表情に焦りは微塵もない。

 

「あいにくと、速い相手にはもう慣れている」

 

 スコーピオンの長所はその軽さを活かした連続攻撃だ。重さのある弧月では反応しきれなければ一方的に削られてしまう危険性がある中、ライは上下左右から仕掛けられた斬撃を全て弧月でいなしていく。

 

「ちっ!」

 

 連続攻撃を防がれた香取が短く舌を鳴らした。

 しかもライはただかわすだけではない。隙が出来たとみるや弧月を横一閃に振るう。この横撃は香取のシールドを軽く叩き割った。かろうじて香取が伏せた事でダメージはないが、軽々とあしらうその姿には余裕が感じられる。

 たまらず香取は後退しつつ拳銃へと切り替えた。至近距離からのアステロイドに、今度もライはシールドを展開して防ぎきる。

 

(速い! 弧月を使っているのに!)

 

 ライは至近距離の戦いで手数が多い相手を初見で防ぎきった。早く仕留めて他の戦場へ向かおうとしていた香取の思惑はあっさりと崩れ落ちる。

 

 

「……何なの。普通にできるやつじゃないの」

 

 香取は舌を鳴らしてそう呟いた。苛立ちと不満が彼女の中に募っていく。

 

「あー。駄目だよ香取先輩。その人、スピードで勝とうとしたらまず無理だから」

 

 すると二人の戦いを見ていた緑川は香取にとって残酷な現実を突きつけた。

 決して香取の実力は低いわけではない。スコーピオンと拳銃を使い分けた彼女の機動戦は上位でも通用する程の実力者だ。

 ただ、相手が悪かった。

 

「普段、もっと速い相手と戦っているからね」

 

 ライが小さな笑みを浮かべてそう呟く。

 異常な反射神経を持つライは普段から緑川達とランク戦を繰り広げる事でさらに回避能力に磨きがかかっていた。並大抵の速さでは彼を攻略する事はできない。

 

「——ムカつく!」

 

 その言葉を挑発と受け取った香取は苛立ち、もう一度グラスホッパーで仕掛けていった。

 相手がどれだけ強かろうと、スコーピオンを使う香取は速さで翻弄し続けるしかない。スコーピオンを両手に展開し、再び斬りかかった。

 左右、斜め、あらゆる方向からの斬撃が繰り出される。7合、8合と切り結んでなおライの体に傷がつくことはない。刀の方向に弧月を置き、スコーピオンを受け止め弾き飛ばして、

 

「——ごめん」

「ッ!」

 

 弧月を香取の肩へと振り下ろした。

 咄嗟に香取が二つのスコーピオンで受け太刀を狙うも、弧月はそのスコーピオンを軽々と破壊し、香取の体を肩から斜めに斬り落とす。

 

「なっ」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

「うそ、でしょ」

 

 ランク戦開始からまだ1分しか経っていなかった。香取は屈辱な無得点という状態で戦線離脱を余儀なくされる。

 香取が脱出を果たし、紅月隊に一点が記録された。

 

「先制点は紅月隊! 紅月隊長がエース対決を制しての得点!」

「これであいつ三試合連続で先制点だな。やっぱり強ぇ」

 

 相手部隊のエース、しかも隊長を撃破。ランク戦は始まりから大きな分岐点を通過する。早速の速攻に観客席から歓声が湧いた。

 特に相手が香取であるというのも大きい。彼女は香取隊の貴重な得点源だ。彼女を失った事で戦況は大きく変化する。

 

(てか、ライって普通に女を斬れたのかよ。那須隊相手に全く弧月を使わねえから駄目だと勘違いしてたわ)

 

 また、米屋に至っては先のランク戦からライが女性から得点を取れないと思っていた為に余計に大きな誤算であった。

 

『ライ先輩。上では3人部隊が一人を襲っているようです。おそらく柿崎隊かと』

「了解。相手は荒船だろうね。とにかく狙撃を警戒しつつ、僕も上に行くよ」

『はい!』

 

 先制点を挙げた勢いを無駄にする手はない。

 さらにこの試合で得点を挙げようとライは階段を駆け上がっていった。

 

 

————

 

 

「大丈夫、玲?」

「ええ。ありがとうくまちゃん」

 

 熊谷から心配そうに声をかけられ、那須は無事をアピールするようにそう返す。

 今日、那須隊は昼の部でランク戦を終えていた。その後那須が通院する病院にて診察があったために本部を後にしていたのだが、その日の治療を終えると彼女は熊谷と共に再びボーダー本部を訪れる。

 

「ごめんね。我儘言っちゃって」

「いいよ。でも珍しいね。玲が直接試合を見たいだなんて」

「うん。一応これでも私は師匠だし気になったんだ」

 

 目的は彼女が変化弾(バイパー)などを仕込んだライの試合を観戦する事だった。

 同じ中位グループの戦い、しかも先日那須が発破をかけた直後の戦いとなれば気にもなる。前の戦いで那須隊に対してライが見せていた考えを払拭できているのか、それを確かめたかった。

 

「まああの人の戦いは見てて驚かされるから私も見たかったのは確かだよ。さて、試合はどうなってるのかな?」

 

 熊谷とてランク戦の様相は興味がある。

 今日は果たしてどのような戦況が繰り広げられているのだろうかと、熊谷は期待をもって観客席の扉を開けた。

 

「——おっ」

「もう終盤だね」

 

 眼前の巨大なスクリーンには最後に残った二人の隊員の姿が映し出されている。ポイントも各隊にそれぞれ分散されており、試合は最終局面を迎えていた。




初期転送位置
            半崎
     三浦
             若村
                 巴
 穂刈               
     柿崎     
             荒船
   照屋 
         香取
                ライ
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