「ん? 那須さんじゃないか」
「お疲れ様」
「おーっ。お疲れ様」
「嵐山さん達。上位グループの方を見ていたんですか?」
「お疲れ様です」
すると彼女たちが入って来た入り口とは別の入り口、隣の部屋から嵐山に時枝、佐鳥と嵐山隊の面々が歩み寄る。
「ああ。上位グループの方は綾辻が実況していたんだ。それが終わって、まだこっちがやっているようだったから柿崎がどうなっているのか気になってね」
「そうだったんですね」
隣の部屋、上位グループの実況は綾辻が担当していた。彼女は嵐山隊のオペレーター。共に観戦したいと思っても不思議ではない。
そして今こちらの部屋で戦っている柿崎はかつて嵐山隊の隊員であった。こちらにもやはり関心が強い。
「ただ、驚いたな。まさかその柿崎が最後まで残って一対一をしているとは思わなかった」
「……ええ。そうですね」
そう言って嵐山は視線をスクリーンに向けた。
彼につられて那須や時枝たちも席について静かにランク戦の行方を見守る。
このランク戦の最後の戦いは、柿崎対ライ。二部隊の隊長の一騎打ちの様相を呈していた。
「柿崎隊長が紅月隊長を追う!
最後の二人という事で国近の声にも熱が篭っている。
実況の中、嵐山や那須の出現に気づいた彼女は試合の流れ、得点の動向がわかるように要点を抽出して語り始めた。
「今回荒船隊が選んだ『市街地C』! やはり高台を押さえたい荒船隊は最も近かった半崎隊員が押さえにむかいましたが、そこを若村・三浦隊員に捕まりました。その為得意の狙撃戦は穂刈隊員に託し、開始直後は南でぶつかった香取隊長と紅月隊長、中央で合流を果たした柿崎隊と荒船隊の戦いとなりました」
序盤は半崎が封じられたこともあり、それぞれ近い位置に転送された隊員達の争いに。ここまではまだ試合の流れはわからないものだった。
「すると南では紅月隊長が香取隊長との戦いに勝利。その勢いに乗って荒船隊長と柿崎隊の戦いに割って入ります」
「この時のライの出現は荒船隊にとって嫌だっただろうな。前の戦いで散々
「もし荒船隊長がやられちゃったら、荒船隊は紅月隊長に打つ手がほとんどなかったもんね。だから本当にやばかった」
「と思うじゃん? だけどこっから一気に動いたんだよ」
ただでさえ3対1。穂刈の支援でしのいでいたというのに新たに全ての距離で戦えるエースの出現は厳しいものである。荒船は最大のピンチとなったが、ここでランク戦は大きな分岐点を迎えた。
「なんとここで半崎隊員の狙撃が炸裂。紅月隊長が
「あのまま潜伏しても厳しいと判断したんだろうな。自分がやられてでも一点とるって覚悟が強かった」
「しかも一発で仕留めたんだからすごいよね。タイミングばっちりだったよ」
敵が迫っていたにも関わらず、半崎が狙撃を敢行したのである。この一撃で照屋が脱落し、撃った半崎も香取隊に見つかってしまい脱出となった。これで荒船隊、香取隊、柿崎隊がそれぞれ一人ずつ駒を失う。
「ただ、照屋隊員もただでは終わらない。脱出の間際に放ったハウンドが荒船隊長を横撃するとこれによって防御が崩れた。柿崎隊長、巴隊員、紅月隊長の射撃に削られて
「盾に援護にと大活躍だったよな。あれがなかったらまだ荒船さんもやれたと思うし大きな流れだった」
さらにその後、照屋の間際の一撃が功を奏し、荒船隊は隊長まで離脱した。非常に大きな痛手であったといえる。
「そしてこの後は残った柿崎隊と紅月隊長の中距離戦が始まりました。半崎隊員を撃破した若村隊員・三浦隊員がバッグワームを展開して姿を消し、いつ・誰を狙うのかと注目が集まる中、二人は紅月隊長への奇襲を選択」
「てっきり
「荒船隊長も脱出しちゃって、この先穂刈先輩が狙撃するかわからなかったからだろうね。潜伏された状態じゃ見つけるの難しいし」
隊員が減ってきた頃合い、香取隊が勝負に出た。三浦、若村の両名が紅月隊への奇襲を仕掛けたのである。
「これを紅月隊長は弧月とエスクードでガード。三すくみの状態になると思われましたが、穂刈隊員がこのタイミングを見逃さなかった。体勢を立て直そうとした若村隊員を撃ちぬきます」
するとその局面を破ったのは穂刈であった。荒船隊唯一の生き残りとなった彼が若村を撃ち、戦場を動かした。
「撃つならライにかとも思ったんだけどな。香取隊、柿崎隊の狙いがライに向かっていたから合わせても良い場面ではあった」
「獲れる点を獲りに行ったよね。注目が紅月先輩に集まってたから注意力が散漫だった。やっぱり普段から狙撃訓練で当てるのは厳しいってわかってたんじゃない? で、次は紅月先輩がエスクードで敵を分断すると三浦先輩も撃破。すぐにエスクードジャンプで穂刈先輩を獲りに行ったと」
「しかしこれを見た穂刈隊員は自主的に
「まあ前回ライが滅茶苦茶な方法で狙撃回避してたからな。逃げるのも仕方ねえ」
戦力が抜ければそこを狙われる。若村も脱落すると、穂刈は接近される前に脱出を果たした。
前回那須隊の日浦がやっていた事でもある。あるいは今後も
「これで残ったのは巴隊員、柿崎隊長、紅月隊長の3人。紅月隊長は階段を駆け上がり高所を取ると、狙撃から逃れるべく建物の陰に隠れた柿崎隊へ
「えげつねえよな」
「狙撃に障害物が邪魔なら
「あいつらの初戦だった第一戦でも使ってたマップだ。かなり研究してたんだろうぜ。オペレーターの支援も的確だったと思う」
残る隊員が絞られると、ライは高所の優位を獲得し、
「これ以上はまずいと柿崎隊も高台を目指します。しかしその途中で罠があった。紅月隊長の
「登りながら置き玉しかけていたんだよな。柿崎隊は高所の有利が狙撃や射撃によるものだと思っていたから対応できなかった。場を動かして罠のところまで誘き寄せるためだったとはな」
窮地を変えようとした場面を狙われ、ついに柿崎隊ものこるは柿崎のみとなる。柿崎隊にとって厳しい現状となってしまった。
「しかし何とか柿崎隊長も高台へたどり着いた。アサルトライフルで仕掛けると、紅月隊長は東へ退がりつつ、射撃トリガーで応戦」
「柿崎さんとライだと中距離の射程はだいたい同じ。だがトリオン量はライの方が上だ。撃ち合いにはなっているが
「一対一だとね。せめてあと一人いれば変わってただろうけど」
辛うじて高台へとたどり着いた柿崎とライの射撃戦。柿崎のアサルトライフル、ライの
今一度ライの右手より放たれた変化弾が前後左右あらゆる角度から柿崎へと襲い掛かった。
「うおおおお!」
柿崎が分割シールドを展開。肩や腹に何発か弾が命中するがそんなの関係ない。致命傷にさえならなければ。
(負けられねえ!)
なおも柿崎は突撃を続けた。このまま鳥籠を対処し続けるのは難しい。元々のトリオン量がライの方が多い上に柿崎は被弾していた。持久戦は柿崎にとって不利。なんとか近づいて一撃入れる事さえできれば。
(絶対に決めてやる!)
一対一の勝負が厳しいという事はわかっていた。
だが柿崎にも隊長としての意地がある。
照屋も巴も柿崎を庇って脱落した。柿崎には隊長として彼らの思いに答える責任がある。
何としても勝ちたかった。柿崎は弾幕の嵐の中を駆け抜けていく。
(近距離戦闘で一撃を決めるつもりか)
その気迫には目を見張るものがあった。だが、ライとて負けられない。部隊を率いているのは彼も同じなのだから。
「柿崎さん。悪いですが、もらいます」
ライはもう一度右手にキューブを展開すると弾が分割し、あらゆる方向へと跳んでいった。
(また鳥籠か!)
相手に多角的な射撃で一気に襲い掛かる得意技だ。シールドを張る位置を少しでも間違えれば被弾は間違いない高度な技。ギリギリまでそのルートを見極めようと柿崎がその弾をじっと見つめて——
「
「ッ!?」
柿崎が鳥籠を警戒して射撃ルートを警戒する中、ライの左手に展開されたキューブが撃ち出される。今までの弾とはくらべものにならない、弾速に特化した
(煙幕か! マズイ!)
これでは射撃を防ぐ事は難しい。柿崎は大きく後退した。
すると、先ほどライが撃ち出した
「なにっ!!?」
突然の軌道変化に柿崎の目が見開いた。この技には見覚えがある。Round2で那須が見せていたものだ。
(鳥籠じゃねえ! 一点集中攻撃だ!)
咄嗟に柿崎は両方のシールドを集中的に展開。間一髪シールドが間に合い、柿崎は事なきをえた。
(危なかった。こいつ、本当に戦い慣れしてやがる)
もう少し反応が遅れていたならば、煙幕に捉われていたならばきっと被弾していただろう。柿崎は胸をなでおろす。
「うっ!?」
その柿崎の体を、一発の弾が撃ちぬいた。
「なん、だと……!?」
どういう事だ。もう一度射撃トリガーを起動したにしても早すぎる。
「防いだのは見事です。ですがこの勝負、僕の勝ちです」
柿崎は最後まで何が起こったのか理解する事が叶わず、今度こそライの放った鳥籠に飲み込まれていった。
『戦闘体活動限界。
柿崎のトリオン体が崩壊。
最後の生き残りであった柿崎も脱出し、ランク戦は終わりを迎えた。