REGAIN COLORS   作:星月

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到達

『柿崎隊長が緊急脱出(ベイルアウト)! ここで試合終了! 生き残った紅月隊には生存点の二点が加わります。最終スコアは6対2対1対1。紅月隊の勝利です!』

 

部隊得点生存点合計
紅月隊426
荒船隊2 2
香取隊1 1
柿崎隊1 1

 

 終わってみれば生存点を含めて一人で6得点。しかも隊長二人を仕留める戦果を挙げた。紅月隊の大勝利である。

 

「うおー。6得点はデケえ!」

「さすが。市街地Cで狙撃無しで大量得点だよ」

「残念だったなー、柿崎」

「凄い……」

 

 これには解説、観客席問わず感嘆の声が上がった。生存点も含めて6点。滅多に上げられない得点である。

 

「よしっ。勝ったね!」

「ええ。中位グループでの勝利は大きいです」

「ああ。瑠花もよくサポートしてくれた」

 

 勝利したライも作戦室へ戻り、オペレーターの瑠花と喜びを分かち合った。二戦目では敗れたが、その敗戦を十分補って余りある得点だ。

 

「……マジか」

「今回は相手が上でしたね」

「でも柿崎隊長も良い動きでしたよ」

 

 柿崎隊作戦室では柿崎が驚きと悔しさが入り混じった複雑な表情を浮かべていた。最後まで残っていた分より悔しい。とにかく解説を聞いて次に活かそうと皆意識を切り替える。

 

「2点か。まあ最低限っすよね」

「悪いな。今回はお前達に助けられてばかりだった」

「仕方ねえよ。柿崎隊が全員揃っていたからな」

 

 一方の荒船隊は得意のマップで2得点にとどまった事を反省していた。特に荒船は柿崎隊に押し切られた事が口惜しい。転送位置は良くも悪くもなかった。次こそはやり返そうと前を向く。

 

「何なのあいつ! あんなの知らないし!」

「だから記録(ログ)見ておけっていっただろ!」

「うるさい! そんなの命令される筋合いない!」

「まあまあ落ち着いて」

「……葉子。せめて解説が終わるまでおとなしくして」

 

 対して香取隊は香取が苛立ちを隠すことなく、不満を周囲に発散しているため大荒れの状態であった。何とかオペレーターの染井の指示に従って香取が静かになるも、彼女の性格はそう簡単には直らないだろうなと染井はため息を吐く。

 

「さて、今回の試合はどうだったかね? 解説のお二人?」

「紅月隊、荒船隊、柿崎隊はそれぞれの強みがでて、香取隊がちょっと厳しかったなって試合ってところか」

「だねー。香取隊は隊長が落とされちゃったからなー。他の隊は荒船隊が狙撃、柿崎隊が連携、紅月隊長は近中距離にと強みが出てた分差が感じられた」

 

 国近から話を振られ、米屋と緑川が各々の意見を述べた。Round3はほとんどの隊の特色が活きた試合である。ただ香取隊は香取の得点力がうりのチームであるため、そこだけはいつもと異なる展開となったと。

 

「ただ香取隊はその分若村・三浦の二人が頑張ってた。あいつらが盤面押さえていたから序盤の荒船隊が中々動けなかったし、狙撃手がいない部隊では十分すぎるものだったんじゃねーの」

「荒船隊も狙撃手(スナイパー)の思い切りの良さが光ったね。二人とも不意をついた一発だったよ」

「で、柿崎隊がもう少しだったな。早い段階でいつもの3人揃うパターンができてたし、ラストの局面も巴が生き残ってたらもう少し粘れたはずだ」

 

 負けた3部隊とも序盤から流れを掴むべく積極的に動いていた。4つ巴という普段よりも隊が多い中でここまで立ち振る舞えたなら十分だろうと負けた3部隊に米屋と緑川は及第点を下す。

 

「そういえば最後の紅月隊長のあれ、わかった? なんか一点集中攻撃のあとの一発で柿崎隊長を撃ってたけど、新しく変化弾(バイパー)を起動したわけじゃないんだよね?」

 

 大方の解説を告げ、国近は皆が抱いていたであろう疑問を二人に投げかけた。

 ライと柿崎の一対一の場面。ライはメテオラで視界を封じ、柿崎がよける事も考えた上で真横からの一点集中という攻撃を仕掛けた。これは柿崎も対応したが、その後の一発の弾に沈む。だが新たにトリガーを起動するには早すぎるのでは、という意見に米屋が口を開いた。

 

「多分だけど最初の変化弾(バイパー)の設定を一部だけ別にしたんじゃねえかな。他の弾を先に柿崎さんにぶつける一点集中攻撃とした。で、これが本命だと思わせて柿崎さんのフルガードを誘発する。その後に遅れて発射した弾が煙幕を真っすぐ突き破ってがら空きの柿崎さんにぶつけるっていう。一部だけなら威力もさほど変わらねえし、逆に少しの弾でもトリオン体に損傷与えるには十分だ。見えねえから気づけなかったんだと思うぜ」

「あーなるほど。Round2で那須隊がやってた事を一人時間差攻撃で再現してたんだ」

 

 米屋の説明に納得して緑川が何度も頷く。

 ずっと鳥籠を続けた事で敵にそれを意識させ、そして煙幕の横から現れた新技が本命だと思わせた。そしてガードがなくなった相手へ煙幕の中から遅れて発射された弾が時間差で貫通する。

 鳥籠からの一点集中攻撃に煙幕からの奇襲。どちらも那須隊がRound2でやっていた事だ。あの敗戦からライもしっかり学び、吸収していたのだ。

 

「私達、敵に塩を送っちゃったかな?」

「かもしれないわね。紅月先輩……」

 

 勝とうとした戦術であったとはいえ、敵に強くなる機会を与えてしまっただろうかと熊谷が呟くと、那須は苦笑して同意を示す。

 

(香取隊長を落として、さらに私達の技をすぐに取り入れての大量得点。私が考えている以上の存在なのかも)

 

 心配は杞憂に終わった。それどころか予想以上の強さを見せつけられ、那須は自分が教えた相手が想定よりもはるかに強い隊員なのではないかと一抹の疑問を覚えた。

 

「やっぱり陽介達にはすぐにバレるか」

「ライ先輩といつもランク戦をしているからではないですか?」

「それをふまえても即座に答えを出せる観察眼は素晴らしいよ。後は、その頭の回転をもう少し勉強とかにも活かしてくれたらな……」

 

 ライが珍しく口を尖らせた発言に、瑠花は短く「そうですね」と頷くにとどまる。

 

「さて、そんなわけで今日のランク戦は全部終了でーす。暫定の順位が更新されて——おー。今日の勝利で紅月隊は8位から5位へと上昇! A級予備軍と言われるB級上位グループ入りでーす」

「おっ。ライのやつもう来やがった」

「三戦目で上位グループ入り!? 嘘。早っ!」

 

 この試合で今日全ての試合は終了となった。6得点という成果は紅月隊に大きなものであり、紅月隊はB級上位グループ入りを果たす。

 

「やりましたね!」

「ああ。まずは目標の一つをクリア。ここからだ」

 

 A級にも匹敵する部隊たちとの凌ぎ合いとなればさらなる激戦が繰り広げられるということは想像に難くなかった。だが元々より高い位置を目指している。次からが本番であると彼らの士気は高まった。

 

「そしてそしてー。ついでに紅月隊にはもう一つおめでたい事がありまーす」

「ん? 何?」

「もう一つ?」

 

 だがよい知らせはそれだけではない。国近が緩い語り方のまま話を付け加えた。

 

「おめでたい事?」

「なんでしょう?」

 

 しかし突然言われても米屋や緑川は勿論、当事者である紅月隊でさえなんのことなのか見当がつかない。互いに顔を見合わせて首をかしげるのだった。

 

「今日のランク戦のポイント変動で、紅月隊長の変化弾(バイパー)個人(ソロ)ポイントが6000点を突破した模様! これで晴れて正式に万能手(オールラウンダー)の仲間入りでーす! おめでとー!」

「あー。なるほど。そっちか!」

「今まで紅月先輩は攻撃手(アタッカー)詐欺してたもんね」

「あいつ攻撃手(アタッカー)のくせに射程持ちだったからなあ……」

 

 わからないのも無理もない。国近のおめでたい事とはライが万能手(オールラウンダー)の条件を満たしたという事だった。

 万能手(オールラウンダー)とは攻撃手(アタッカー)および射手(シューター)トリガーか銃手(ガンナー)トリガーの両方で6000ポイントを超えた者のポジションの事。部隊ランク戦でも成績によって武器のポイントが増減する。そして今日の戦いで変化弾(バイパー)の得点が基準を超えたのだ。

 

「——知らなかった」

「あ、本当だ。確かに変化弾(バイパー)が柿崎隊長を撃破したポイントで6000を超えています」

 

 言われて瑠花が確認すると、確かに個人ポイントが更新されている。これでライは攻撃手(アタッカー)から万能手(オールラウンダー)に、名実共にあらゆるポジションで戦う万能の隊員であるという称号を得たのだ。

 

「なるほど。国近もよく見てるな」

「……国近先輩とは親しいんですか?」

「ああ、親しいというか同じ年代だし——」

 

 国近を珍しく呼び捨てで呼ぶ事に瑠花が気づいて食いつく。その点についてライが説明しようとすると、それより早く解説席からの声が重なった。

 

「改めておめでとー! 後でお祝いするからまた勉強教えてねー! 多分太刀川さんもお世話になると思うからー」

「ちゃっかりこの場で会話を済ませてるし!」

「えっ。なんだ。国近先輩も紅月先輩から勉強を教わってるの?」

「そーだよー。紅月隊長とうちの隊は太刀川さんとわたしが教わってるし、出水君が先週くらいから訓練室で延々と射撃対決とかしてるし仲良いよー」

「後半のそれは何っすか?」

 

 だが確かに言われてみればライも弾馬鹿の一種なのか。米屋は自分も勉強を教わっている身にも関わらず、勝手に納得する。

 

「——まあそういう訳なんだ」

 

 国近の言葉を肯定するよう、ライが瑠花に振り返って頷いた。

 

「なるほど。ライ先輩って人脈広いんですね」

「もしも良ければ今度瑠花も教えようか? 学校の教科書やノートを持ってくれば教えるよ?」

「良いんですか? いやでも、お忙しい中こんな事を頼むのは……」

「A級の人だって言ってくるくらいだから大丈夫だよ」

「それなら嬉しいです。ではもしライ先輩がよろしければ」

「決まりだね」

 

 最初は抵抗を覚えた瑠花であったが、せっかくの好意を無碍にするのも気が引ける。

 ならば時間がある時にわからないところがあればという条件付きで二人は約束を交わすのだった。

 

「では、以上をもってB級ランク戦Round3夜の部を終わります。皆さんお疲れさまー。米屋君、緑川君も解説ありがとー」

『ありがとうございました』

 

 こうしてRound3も終わりを迎える。

 国近の挨拶をもってその場は解散となった。

 

「改めて上位グループ入り、そして万能手(オールラウンダー)到達。やりましたね」

「ああ。本当の勝負はこれからだ。次からも点を獲りに行く。支援、よろしくね」

「はい!」

 

 作戦室でもライと瑠花が今一度奮起を誓う。

 そして彼の言葉通り、ここから紅月隊の躍進はさらに続いて行くのだった。

 

 

 

 

「そういえば、意外とライ先輩が大丈夫だったのでびっくりしました」

「大丈夫? 何の話だい?」

「いえ。那須隊との戦いの時に女性と戦う事に抵抗があるようだったので。今日はいきなり香取隊長と戦う事になったのに。ためらいもなくすぐに撃破していたじゃないですか」

「ああ。その事か。僕自身少し不思議だったんだけどね。何というか、違和感があったというか」

「違和感ですか?」

「そうなんだ。言葉にするのは難しいけど、何というか香取隊長を見て本物じゃない偽物を見たような違和感を感じたんだ」

「本物じゃないって何がですか?」

「僕もよくわからないんだよ。ただその違和感のせいで割り切る事が出来たんだ。言われてみれば確かにあれはなんだったんだろう?」

 

 答え:香取のサイドエフェクト。トリオン体の時のみバストサイズがアップする。

 文字通り副作用となってしまったサイドエフェクト。しかしこれがライには良い方向へと作用し、ここからライの抵抗はなくなり、本当に対等の戦いがはじまってゆくのだった。

 

 

 

 紅月塾受講者(勉強)

 太刀川(月額制)

 米屋(月額制)

 当真(月額制)

 緑川(無料)

 国近(無料)

 黒江(無料)

 瑠花(予定・無料)

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