REGAIN COLORS   作:星月

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心理戦

「さあ各隊員が動き始めました! 初期転送位置は全員ばらけて転送されています。中央の大型ショッピングモールには三人が転送された模様。また、若村隊員・隠岐隊員・紅月隊長の三人がバッグワームでレーダーから姿を消しています!」

 

 開始と同時に隊員達は動き出す。最初の転送でモール内に転送されたのは屋上に生駒、二階に水上、四階に若村の計三人。特に合流が重要とされる開始直後、三部隊の隊員が一人ずつレーダーから姿を消していた。

 

「紅月隊長がいきなりバッグワームを使う展開は珍しいですね。不意を突いての奇襲狙いでしょうか?」

「うーん。その可能性も高いと思いますが決め付けるにはまだ早いですね。攻撃するとまではいかずとも、仕掛ける側の香取隊の様子を見るという考え方もあるでしょう」

 

 開始直後は速攻が多く、あまりバッグワームを多用しないライがいきなり使っている事に疑問を覚える武富。彼女だけでなく嵐山達もこの意図を正確に読むことは難しい。敵の出方を見るというだけかもしれないと嵐山は首をひねった。

 

(俺達以外に二人がバッグワーム? 一人は隠岐先輩だとして、あとは誰だ? 紅月先輩なのか? この配置ならモール内にはいねえはずだが……紅月隊も奇襲を狙っているのか? それともまさか生駒隊がもう一人?)

 

 現にモール内では若村がレーダーの反応を見て頭を悩ませている。

 予定では紅月隊が生駒隊の誰かに速攻を仕掛けている間に潜伏した香取隊が他の合流していない生駒隊を叩く予定であったのに、その隊長が香取隊と同じ手を使っている可能性が浮上した。

 紅月隊ほどではないが香取隊も得点が欲しいのは一緒である。

 もしもライまで潜伏してRound1のような大掛かりな策を狙っているのなら——。かつてみた記録の映像を思い返し、若村の頬を冷や汗が伝った。

 

『麓郎。何止まってんのよ』

「……ッ! いや、なんでもねえ。とにかく作戦は続行だ。このまま近い方の敵を叩く!」

『ふん』

『わかった!』

 

 そんな彼の考えを知ってか知らずか、香取の煽るような口調が若村の注意を現実に呼び戻す。

 考えていても答えは出なかった。

 ならばとにかく今は当初の予定通り近くの点を取ろうと動きだす。なんとしても勝ってやると若村は己を鼓舞した。

 

「モール内に二人。……消えてるのは僕を含めて三人か」

『はい。一人は隠岐先輩で間違いないでしょう。もう一人は若村、三浦隊員のいずれかでしょうか』

「そうだろうね。そしてこの配置の距離を見る限り、香取隊のバッグワームを使っている方がモール内に潜伏している。やはり屋内での戦闘を狙っているようだな」

 

 当のライは瑠花と意見交換を交えつつモールへと向かっている。並行してレーダーを見ながら敵戦力の分析を行っていた。

 

『どうしますか?』

「——このままこちらも潜伏活動を続行する。消えてるだけで何かあると思わせる事で敵の思考を割けるしね。戦闘行為が予想される場合、敵が接近する場合、急速な移動が見られたら教えてくれ」

『わかりました』

 

 そしてライはこのままバッグワームを使用する事を選択。瑠花にいざという時の警告を託し、自らは北の入り口からモール内へと侵入していった。

 

「さあ。隊員達が次々と動いていきます。マップを選択した香取隊を始め、全部隊がモールでの合流を目指す動きです! やはり屋内戦が繰り広げられるか!」

「生駒隊も生駒隊長と水上隊員がすでにモール内にいますからね。その方が手っ取り早いでしょう」

「それにこの雨。視界が遮られて狙撃は厳しそうね。隠岐君もモールの中での戦闘を余儀なくされたんじゃないかしら?」

「やはり雨という天候設定は狙撃手(スナイパー)対策という事でしょうか?」

 

 武富の質問に加古が頷く。

 

「そうでしょうね。これで合流前の狙撃を警戒する必要もなくなるわけだし、狙撃手(スナイパー)は近寄れば対処しやすくなるもの。隠岐君は機動力が高い狙撃手(スナイパー)とはいえ、香取ちゃんも彼と同じグラスホッパーを持っているから十分攻略できると考えたんじゃない?」

 

 狙撃手(スナイパー)の厄介な点は合流を果たす前に単独で行動している所を攻撃範囲の外から狙撃出来る事だ。だからこそ香取隊はそれを封じ、屋外からの狙撃を完全に封じるために天候を操作した。

 

「あららー。こらあかん」

 

 現に天候を目にして隠岐は苦笑いを浮かべている。

 

「これじゃ外で撃つのは無理ですよ。どうします?」

『——やっぱキツイか? 狙えんの?』

「まず動いてる相手を狙うのは無理ですね」

『しゃーない。なら隠岐も中や。ライトニングで俺らサポートしてや。最悪グラスホッパーで撃ち合いしてもらうで』

「了解」

 

 勿論近距離での戦闘となれば狙撃手(スナイパー)の強みがなくなってしまうが、戦力外とするよりはましであった。水上は当初の方針を変更、隠岐をモール内へ入るよう進言し、自分も生駒と合流すべくフロアを駆け上がる。

 

(ただ、ちょっと気になるなあ。モール内に俺とイコさんしか映っとらん。誰かおるよな?)

 

 レーダーを見て水上は思考を巡らした。

 今彼のレーダーにはモール内の反応は生駒と水上、二人の隊員しか映っていない。同じ部隊の人間が二人だけが最初に同じ場所へ転送されるとは考えにくかった。

 

『俺も気になる事あったんやけど、レーダーから消えとるの誰や? 隠岐以外に二人消えとるよな?』

「ええ。それは俺も考えてました」

 

 生駒も同じ疑問を抱いたのだろう。通信が直接耳に響いた。

 全体のマップを見たところ隊員の人数が合わない。隠岐を含む三人の隊員がバッグワームを展開して姿を消していた。

 

『当然一人は香取隊の誰かでしょうけど、もう一人は誰ですかね? 紅月先輩って可能性もありですか?』

 

 人数を考えれば一人が香取隊の誰かである事は間違いない。ならばもう一人は誰なのか。ライが潜伏しているのではないかと南沢は提言するが。

 

「どうやろなー。彼が初手で潜伏するのは基本狙撃手(スナイパー)として動く場合やろ? けど今回狙撃無理やしなあ。地形戦やるにはこのモールじゃ難しいはずやし、可能性は低いと思うんやけど……」

『それもそうっすね!』

 

 水上はライが潜伏しているとは考えられなかった。彼はあらゆる立ち回りを出来るとはいえその思考には一定の法則がある。今までの記録(ログ)を見る限り、最初にバッグワームを使うときは狙撃手(スナイパー)として振る舞うか、何かしら策を利用して地形戦を挑む場合の移動手段などが多かった。

 そして今回はその両方が難しいマップである。故にライが潜伏するとは考えにくかった。

 

(それに彼は得点を獲りに来るはず。潜伏なんてする余裕があるんか?)

 

 加えてライは4点以上が欲しいはずだ。一人部隊である彼には同時に点を獲るような手段は限られている。だからこそ今までも敵の数を少しでも減らすべく序盤から動いてきた。

 それは今回も変わらないはず。むしろ生駒隊があと一点で二位以上が確定するとなればなおさら積極的に動いてくるだろう。

 ならば今回も速攻を仕掛けてくる方が合理的である。敵に接近を気づかれまいとしているのか、それとも何か自分が見落としている事があるのだろうか。そもそも姿を消しているのは香取隊の二人なのか。水上は思考を巡らした。

 

(アカン。情報が圧倒的に足らんわ。滅多に使わんマップやから詳しいエリアとかもわからんし)

 

 とはいえやはりすぐに答えは出てこない。

 そう考えている間にも水上は一つ上の3階フロアに到達し——

 

「ッ!」

 

 さらに上のフロアへ登ろうとして、真上の階から降り注ぐ銃弾に気づき横へと跳んだ。

 

「水上先輩発見だ!」

 

 バッグワームで潜伏していた若村がバッグワームを解除。4階よりアステロイドを連射してきたのである。

 

「いたわ! 若村君や! 4階に香取隊おったで!」

『やっぱりモールの中におったんかい!』

『上手くしのいでくださいよー』

『もうちょっと時間かかるっす!』

 

 水上もすぐにアステロイドとシールドを展開。反撃に転じた。

 同時に味方へ報告、応援を要請するが生駒隊の合流にはまだ時間がかかる。

 最終戦の序盤は若村と水上、二人の銃撃戦で幕を開けるのだった。

 

「さあ最初の三人に加えて紅月隊長と三浦隊員もモール内へ! 徐々に部隊合流の目途が立とうとする中、若村隊員が水上隊員へ仕掛けました!」

「三浦隊員もモール内に来ましたからね。それまでの足止めという事でしょうか。生駒隊長達が到着するよりも早く揃いそうですし」

 

 生駒はまだ上のフロアにいる。距離を考えれば先に合流できるのは香取隊。その為に水上を3階に留めようとしているのかと嵐山が分析すると。

 

「そうかもしれないけど。——3階くらいならもう一つ手があるわね」

 

 加古が艶やかな笑みを浮かべて呟いた。

 彼女の視線の先には香取隊の隊長である香取の姿がある。香取はモールへ近づくと直接入り口には向かわず、二人が衝突しているであろう場所へと方向を変えた。

 

「グラスホッパー」

 

 すると跳躍と同時にメイントリガーのグラスホッパーを起動。空中で急加速した事により一挙に三階の高さに到達すると、勢いそのままに窓ガラスを割って店内へと侵入を果たす。

 

(香取ちゃん! ダイレクト入店!? この子、外から一気に三階まできおった! 嘘やろ。お店には入り口から入りなさいって常識すら知らんのか!?)

 

 ガラスが割れた衝撃音により水上も香取の出現に気づいた。

 ——マズイ。

 上から若村の射撃、横から香取の接近と挟み撃ちの様相を呈してしまう。

 

「一気に行くわよ」

「わかってる!」

「あかん。あかん!」

 

 香取隊は狙い通り合流前の敵を挟み込む事に成功して勢いに乗った。やはりマップ選択権を持っている為に前情報を持っているという優位は大きい。

 対する水上は炸裂弾(メテオラ)で香取の接近を防ごうと試みるも、香取は分割したグラスホッパーで幾度も方向転換を繰り返して水上に接近していった。

 

「しゃーない。水上! 上手く避けてな!」

『はぁっ!? ちょっとイコさん? どういう事です!?』

「もしもし。マリオちゃん? 俺がいま見てる所に逃げるよう水上に教えてな?」

 

 するとここで動いたのは生駒である。まだ彼がいるのは6階だ。攻撃手(アタッカー)である生駒にはこの攻防に参加する手段はないはず。

 

『ホンマにやる気か!? ああもう! ——水上! ここまで逃げ!』

 

 だがこのピンチを凌ぐためには仕方がないと細井も彼の提案に乗った。

 水上の視界にすぐ後ろの雑貨店にマーカーが浮かび上がる。急いで水上がそこへ駆け込むと、生駒が6階の吹き抜けの柵の上に登り、そして跳び降りた。

 

「——行くで」

 

 落下しながらも生駒は狙いを定める。

 居合の構えから弧月を素早く振りぬくそれは、生駒得意の必殺技であり彼の代名詞。

 

「旋空、弧月!」

 

 最大40メートルまで伸ばす事が可能であるという生駒の伸びる刃がモール内に放たれた。

 

「ッ!」

「うおっ!?」

 

 旋空は容易に柵やガラスを叩き割り、その先にいた隊員達にも襲い掛かった。香取は反応してかわしたものの、若村はよけきれず右腕を失ってしまう。

 

(これが生駒旋空! 俺ら二人を簡単に止めやがった!)

 

 生駒の旋空を初めてその目で見た若村はその威力に肝を冷やした。

 これ程の威力と射程を兼ねた隊員はそうそういない。

 急いでアサルトライフルを左手に持ち変えて態勢を整えた。

 ——そんな彼の前に。

 

『麓郎君、水上先輩ではないわ。横、来るわよ』

「えっ——」

 

 染井の警告が現実と化す。

 突如、吹き抜けの柵が壊される音がその場に響いた。

 若村がすぐにそちらへ銃口をむけると、そこには先ほどまで6階にいた生駒が立ち尽くしている。

 

「おう。うちの隊員が世話になったな」

「生駒さん!」

 

 再び冷や汗が頬を伝った。

 形勢逆転。今度は若村が危機に陥るのであった。

 

「生駒隊長が水上隊員の危機を救った! 香取隊長が外から一挙に3階へと侵入するや、生駒隊長も吹き抜けを跳んで6階から4階へと移動しつつ生駒旋空! 相手二人の動きを封じるとそのまま若村隊員を追い詰めました!」

「……皆移動手段が派手ですね。高さがある建物ではこういうフロアを跳んだ移動は確かに有効的ですが」

「でもこれで香取隊の数的優位はなくなったわ。それに、香取ちゃんがグラスホッパーで3階まで来られるって生駒隊に見せちゃったのはちょっと痛かったかもしれないわね。外の生駒隊の隊員もこれに続けるもの」

 

 ほとんどの隊員が従来の移動法を無視して行動しているという現状に嵐山は苦笑いである。特に同年代の生駒がモニターに視線を向けながら跳んでいる姿は彼にとって色々思う所があったのだろう。

 いずれにせよこれで戦局は大いに変化した。

 特に重要なのは水上が香取の動きを見ている事。外にいるのは隠岐と南沢だ。ならばこれで二人も続くだろうと加古が断じる。

 すると彼女の予想通り、隠岐と南沢がほとんど時を同じくして3階へと姿を現した。

 

「今来ました!」

「多少の遅刻は許してくださいよ」

「オッケー。上はイコさんがおれば大丈夫やろ」

 

 二人もグラスホッパー持ちの隊員だ。香取と同じ方法で窓ガラスを叩き割り、合流に成功する。

 

「3対1や。紅月君たちが来る前に仕留めるで」

 

 若村は生駒が抑えた。香取は厄介な存在だが3人がかりならば十分に仕留められる。

 三人は一斉に香取へと襲い掛かった。

 

「……ふんっ」

 

 だが、数的不利となったにも関わらず香取は落ち着いている。

 

「3対1? 何言ってんのよ」

「あっ——?」

 

 間違いを正すような言葉にどういう意味だと水上が考えた瞬間。

 

「なっ——」

 

 ——水上の首が、斜めに斬り落とされた。

 

「3対2でしょ。今一人減ったけど」

「やったよ、葉子ちゃん!」

「——そっちやったんかい」

 

 弧月の斬撃は三浦によるもの。ここまでカメレオンで姿を消していた彼が水上の隙をついて攻撃したのだった。

 

(読み誤ったか)

 

 水上が己の失敗を悔やむ。ライがバッグワームを使っていないだろうと考えた為にレーダーで見える反応は彼のものだと思っていた。だがそれはカメレオンで姿だけ見えなくなっていた三浦のもの。つまりまだライはどこかに潜伏しているという事だ。

 

「なっ」

「水上先輩!」

「しゃーない。後は頼むで」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 味方が突然の奇襲に驚く中、水上が戦場を離脱する。

 最終戦の先制点は香取隊。生駒隊は中距離戦の要であり頭脳戦にも長けた戦場のコントロール役を失うという大きな痛手を負う事となった。

 

 

————

 

 

『ライ先輩! 誰か一人が脱落しました!』

「……反応を見る限り最初からモール内にいた隊員のようだ。しかもさっき上から飛んできた斬撃はイコさんの旋空弧月とみて間違いない。少し姿が見えたし。そしてそのイコさんは同じく最初からモール内にいた隊員と相対しているようだ。となるとおそらく生駒隊の誰かが、水上か南沢がやられたな」

『はい。加えて先ほど外にいた3人の隊員が急速にモール内へと侵入に成功していました。おそらくグラスホッパーによるものだと思われます』

「なるほど。となるとやられたのは消去法で水上とみて間違いないね。加えてイコさんが相手にしているのはその水上を距離が空いている中で足止めをしていたようだから射程持ち。そっちが若村隊員だ」

 

 モール内のある場所で隠密に行動しているライは瑠花の報告を聞いてすぐに情報を整理し、戦況の確認を済ませた。

 ライは今もバッグワームをつけている。その為彼は始まった直後からすぐにレーダーから消えている隊員とモール内にいる隊員に当たりをつけていた。

 基本的に初期転送位置は部隊ごとに差が出ないように均等にエリア内に振り分けられる。そのことからライは4人部隊である生駒隊のうち二人がモール内に転送され、そして香取隊の誰か一人もモール内にいるだろうと予想していた。

 

(こうなると生駒隊は一気に攻勢に出るはず。とにかくイコさんの居場所がわかってよかった)

 

 特に生駒が上にいるとわかった事は大きい。実は先ほどライが準備をしている最中、近くの壁が偶然切り落とされて衝撃を覚えていた。危うく偶々の攻撃で脱落する所であったが、おかげですぐにその方角を警戒した事で生駒の補足に成功。結果的に大きな収穫となる。

 

『他の隊員も全員バッグワームを解除した模様です。隠岐先輩もモール内にいるようですね』

「ああ。イコさんなら一対一でも問題なく勝つだろう。となるとやはりこのモール内で決着がつきそうだ」

 

 いずれにせよ全隊員がモール内に集結した以上はここが決戦の場とみて間違いなかった。

 ならばライにとって、紅月隊にとっては好都合。

 先制点を許す形にはなかったが問題はない。その間に準備を進められたのだから。

 

「——よし。仕掛けはこれくらいで良いだろう。瑠花、そろそろ僕も動くよ。近くのフロアの詳細を送ってくれ」

『わかりました!』

 

 そして全ての準備が整った。

 瑠花からマップのデータが送られ、確認を済ませるとライも移動を開始する。

 水上の脱落により動き始めた最終戦。戦局はライの参戦により、さらなる変化が生まれようとしていた。

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