話は今から一週間程前の事。
ボーダー本部の訓練室には三人の人影があった。
一人はモニター室でオペレーターを務めている瑠花。彼女の視線の先で複数体の
『戦闘終了です』
オペレーターである瑠花の声がエリア内に響く。それを耳にしてライは手にする弧月を鞘に納め、肩の力を抜いた。
「——さすがに、これは驚いたな」
以前の騒動の際にライと交わした約束『見てもらいたいもの、指導してもらいたいものがある』を果たそうと忍田はこの場を訪れていた。
だが実際に忍田が彼に指導した時間は一時間にも満たない。その短時間で完璧に技をマスターしたライの技量を見て、忍田は息を飲む。
「君の戦いはここまであえて見てこなかったが、いや想像以上だった。誰かに教えるのは慶以来の事だが、その慶を彷彿させるほどだよ」
忍田は現最強の
「買いかぶりすぎですよ。いくらなんでも最強と比べられては霞んでしまいます」
「ふむ。君はもう少し自分を誇ってもよいと思うが」
謙遜とは少し違った。むしろ彼も個人戦で何度も戦っているからこそ正しく自分と太刀川の力量の差を理解し、分析しているのだろう。とはいえ本人はそう言っても忍田からしてみればライの剣術が優れているという事実は変わらなかった。
(剣筋に関してはボーダー内でも随一と言っていい。少なくとも技術だけならば慶にも勝るとも劣らない)
恐るべきはその卓越した技術力だ。
戦闘への応用が利く
もしも彼がこちら側ではなく向こう側として現れたのならば。有り得たであろう最悪の未来が脳裏に過ぎり、彼がこちらに来てくれて本当に良かったとこの巡り合わせに感謝した。
「——紅月君」
「はい?」
忍田がゆっくりとライの下へと歩み寄る。
まもなく今シーズンのB級ランク戦は終了する頃合いだ。残りの試合は今までとはくらべものにならないほど重要になってくるだろう。当然彼らに降りかかるプレッシャーも相当なもの。
しかし忍田は彼らならば無事にやり遂げるだろうと期待の意味もこめて笑顔を浮かべた。
「これで私から教える事はもうないだろう。ここからは君が自分の手でより腕を磨いてほしい」
「——ありがとうございます。お忙しい中、貴重な時間を割いていただき感謝してもしきれません」
「問題はないさ。私としても楽しい時間だった」
そう言うと忍田はすれ違いざまにライの肩へポンと手を置いた。
「頑張ってくれ。君が目標に届くよう、私も応援している」
「はい。次は本部長へ良い報告をお届けします」
「ああ。楽しみにしているよ」
声量は決して大きなものではなかったが、気負いも迷いもなく、強い意志が感じられた返答だった。
沈黙を挟まずに即答できるのだから大したものだ。
まだまだボーダーの未来は明るいなと忍田は嬉し気に目を細める。
「瑠花! 君も頑張ってくれ。あまり贔屓は出来ないが、私も最終戦は観戦する。しっかり応援するぞ」
『——はい! 精一杯頑張ります!』
そして勿論姪にも声をかける事は忘れなかった。
彼女も意気揚々としており緊張している素振りは感じられない。良い部隊になったものだと感心した。
(勝負が決まるのはおそらく最終戦だな。さて、二つの椅子を手にするのはどこの部隊になるか)
A級への挑戦権を得られるのはわずか二チームのみ。
初参戦となる彼らが手にしたとなれば記録に残る快挙だ。
決して簡単な事ではないが、是非とも成し遂げてほしいと期待を抱いて忍田はその場を後にする。
その後は忍田が彼らに関与することはなかった。
最後に勝負を決めるのは、戦場に立つ少年少女たちなのだから。
————
「おーっと! ここで香取隊のカメレオン戦術が綺麗に決まった! 水上隊員が
最終戦、重要となる最初の得点は3部隊の中では最も順位が低い香取隊が上げた。
マップ選択権を持っているが故に有利となる序盤で確実に得点を挙げたという点は非常に大きい。この先の戦局を左右しかねない得点に武富の解説もここぞとばかりに熱が篭った。
「今のはうまかったですね。生駒隊が情報の共有に忙しい場面を見逃さずに隙をついた」
嵐山も香取隊のタイミングを呼んだ動きを称賛する。
「生駒隊は水上隊員への逃走指示、生駒隊長の旋空の距離範囲の設定、そして南沢隊員と隠岐隊員のモール内への侵入経路の確保とオペレーターの負担が非常に大きなものとなっていました。その為にカメレオンで隠れていた三浦隊員への警戒がおろそかになったわずかなチャンスを見逃しませんでしたね」
「紅月君も姿を見せていない中でカメレオンの意識が薄れちゃったのでしょうね。多分バッグワームで消えてるのが彼だと思っていなかったんじゃないかしら?」
ただでさえいまだにライが戦場に姿を見せていない中、彼に対する警戒もあって余計に対策がおろそかになってしまったのだろうと加古が分析した。彼女の言う通り今回は三浦ではなくライがバッグワームを使用している。狙い通り意識を割かれてしまい、重要な要を失ってしまった。これは生駒隊にとっては大きな痛手だろうと加古は口を尖らせる。
「なるほど。参戦していない紅月隊長の存在も大きかったという事ですね。——さあ水上隊員が脱落したものの戦闘はまだ続きます! 4階では若村隊員と生駒隊長が、3階では香取隊長・三浦隊員と南沢隊員・隠岐隊員が衝突! ここでさらに得点が動くのでしょうか!?」
いずれにせよ水上の脱落は痛いがあくまでも一点だ。まだランク戦の行方は決まっていない。
ここからの逆転もまだ十分あると武富が会場の騒めきにも負けじと声を張り上げた。
モニターでは生駒隊と香取隊の面々がそれぞれのフロアでしのぎを削っている。
同数の隊員達の凌ぎ合い。次の一点次第では順位も確定しかねない局面で、試合が動いた。
————
横から迫る
三浦もこれを弧月で受けると、2合3合と切り結んだところで後ろに控える隠岐からライトニングの援護射撃が数発放たれた。
威力は低いものの弾速に優れた弾丸は、しかし三浦を襲う事はなく香取のシールドに受け止められる。
「あらら。普通に連携できるんかい」
「ちっ。そんなの効かないわよ!」
水上を失い、2対2の様相を呈した生駒隊と香取隊の戦い。
生駒隊は前線の南沢を隠岐がグラスホッパーとライトニングで支援していた。対する香取隊は香取と三浦が交互に南沢を攻め立て、時には片方が防御役に努め、あるいは香取が得意の機動力を生かして隠岐へと急襲を仕掛けていく。
今もまた香取がグラスホッパーで急加速すると隠岐へと迫った。
しかし相手もまた同じグラスホッパー使いだ。南沢の支援もあって香取の
「——ッ! このっ!」
軽々と攻撃をかわされて香取は苛立ちを露にした。
水上を落としたとはいえ若村が生駒に捕まっている以上、香取隊の射程持ちは香取のみ。一方の生駒隊は機動力に長けた二人が射程の長い隠岐の存在もあって上手く時間を稼ぎ、香取隊が深く攻め込む事を防いでいる。
『よっし。隠岐その調子や。そのまま凌げばうちの勝ちや』
「わかってますって」
水上の指示に了承を返しつつ、隠岐が今度は三浦へ目掛けてライトニングを連射した。咄嗟にシールドを張って防御を試みるが、高低の角度をつけた射撃の一発が三浦の右足を貫く。
「しまった!」
「よっしゃあ!」
足を撃ちぬかれ、バランスを崩した三浦へ南沢が追撃をかけた。
一撃目こそ弧月で防いだ三浦だったが二撃目はシールドを割られ、今度は右腕を失ってしまう。さらにここで仕留めようと南沢が仕掛けると、ここで香取がアステロイドを発射。香取自身も引き返してスコーピオンで切り込んできたため追撃は叶わなかった。
「うおっとぉ! あっぶな。もう少しだったのに」
「十分や。下手にフロアの移動がしにくい今、俺らはこのままこの二人を釘付けにしてればええからな」
「そっすね」
取り損ねたのは残念だが、隠岐の言葉にもっともだと南沢が同意を示す。
生駒隊は香取隊のエースを引き付けた上で優位に立ち回っていた。個人能力を活かす事は勿論連携を持って役割を果たしている。さすがB級トップチームと呼べる実力であった。
(紅月君がどこにおるかわからない今、下手にフロア移動すれば狙われるかもしれんからなあ。それは香取隊も十分わかっとるはずや。ならうちはイコさんが来るまで凌げればそれでええ)
いまだに最大の敵が潜伏している現状ではこれで十分だと水上は分析する。
あまり動きすぎると挟み撃ちを受ける可能性とて考えられた。ならばこのまま香取隊を足止めし、生駒の戦果を待とうと生駒隊が戦局を上手くコントロールする。
「——ちょこまかと!」
こうなると敵対している香取はフラストレーションがたまっていった。
せっかく先制点を挙げ、生駒隊の隊長を分断して優位の態勢に立ったはずなのに生駒隊に上手く攻撃をかわされて追い詰めきれない。ライもどこにいるかわからない為あまり攻撃に専念できない事も響いていた。
《麓郎! あんたこっちに来れないの!?》
《無茶言うな! 出来るか!》
ならばと香取は内部通信で若村に合流を要請するも、若村は射程があるとは言え相手は生駒だ。そもそもやられないように逃げるのが精一杯の状態だった。
「——旋空弧月!」
「うわっ!」
アステロイドをシールドで防ぎ、盾の後ろから生駒の鋭い斬撃が放たれる。
足元を狙った刃を若村は必死に跳躍してかわすが、この隙に生駒は逃げる若村との距離を詰めていった。
(やべえ! 追いつかれる!)
勝っている射程を活かしたいところだが生駒旋空を持つ生駒から逃げ切る事は至難の業だ。アサルトライフルでは生駒のシールドを削り切る事は叶わなかった。
このままではただ狩られるのみ。しかももしも生駒隊が得点するような事になれば生駒隊は2位以上が確定し、彼らは戦闘の中断さえあり得る話だ。
(どうする。どうすれば良い!?)
名案が思い浮かばず、若村の頬を冷や汗が伝った。
『——麓郎君。あなたも吹き抜けを跳んで。一気に葉子達に合流して』
その瞬間、若村の悩みを察したかのように染井の指示が飛ぶ。
「華さん!? でも逃げながらとなると、グラスホッパーとかの移動手段がない俺には」
『いいから。急いで。紅月先輩の奇襲にだけ気を付けて』
無理だ、と言おうとした若村を遮って染井は命令を下した。
「……ッ! くそっ!」
「おっ? 隠岐、海。若村君がなんか吹き抜けを飛び降りたで」
他に打開策はない以上、若村に選択の余地はない。最後に生駒へ向けアステロイドを放って若村も6階から飛び降りた。
それを見て生駒もすぐに下のフロアへ報告するが、その意図はつかめない。
合流を狙うにしても跳躍の勢いがなかった上に早すぎた。移動系統のトリガーを持たない彼はこのままではただ下へと落ちるだけなのに。
『葉子、サポートして』
「——そういう事ね。ったく」
続いて染井は香取へ指示を出した。彼女の言葉で香取は行動の意図を理解し、グラスホッパーを吹き抜けに展開。空中に加速装置を設置する。
(そうか。葉子のトリガーで!)
グラスホッパーを味方に踏ませて合流手段とした。これならば多少の無理な移動も可能である。
——なるほど、この手があったか。若村はようやく一息つく事が出来た。
「グラスホッパー」
直後、香取のものとは別のグラスホッパーが若村の目の前に出現する。それは若村が元来た方向、すなわち上空へと加速する作用が働いたトリガーだった。触れてしまった若村はうち上げられて無防備な体を晒してしまう。
「なっ!?」
『よくやったで隠岐』
「そう簡単に合流なんてさせんで」
水上の指示の元、隠岐が展開したものだった。
単純に飛び降りただけならばその進行先を分析する事も容易である。水上はすぐに細井と連携して隠岐にグラスホッパーを仕掛けさせたのだった。
「よう。おかえりやな、若村君」
「——ッ!」
若村の眼前に弧月を構える生駒の姿が映る。彼も咄嗟にアサルトライフルを生駒へ向けるが、もはや手遅れだった。
再び生駒の旋空弧月が放たれる。
伸びる刃は若村の体を一刀両断した。
「そして、サヨナラや」
「くっそっ……!」
『戦闘体活動限界。
無機質な声が若村の脱落を告げる。瞬く間にトリオン体が崩壊し、若村は戦場を後にするのだった。
これで生駒に得点が記録され、生駒隊が暫定一位に上昇。このシーズンの二位以上が確定する。
————
第二の脱落者は若村。生駒隊に得点が記録され、武富の叫びのような声が観客席に木霊した。
「ついに生駒隊長の生駒旋空が標的を捉える! 若村隊員を斬り落としました!」
「若村隊員が逃げ切るのは難しかったですね。生駒隊長に追われ、紅月隊長の行方も分からない中、吹き抜けを使って逃走するのは難しい。グラスホッパーを使うという手段は良い判断でしたが、これは相手が上でしたね」
決して判断が誤っていたわけではない。ただB級上位チームの判断力と戦闘力が上だっただけの事だと嵐山が冷静に断じた。
「これで生駒隊は暫定二位以上が確定です。しかもこのまま終われば紅月隊に逆転される事もないため一位で終了となります。ここから先はタイムアップを狙っても良い展開にはなりましたが……」
この得点は非常に大きい。武富の視線の先、モニター上では暫定順位が更新されて暫定一位となり、生駒隊の二位以上は確定した。生駒隊の順位変動は紅月隊の逆転によってのみ生じるという事になる。
ならばここからは逃げ切りを図るのだろうかと武富は解説席に問いを投げた。
「まあないでしょうね」
「そうね」
しかしそれはないだろうと嵐山も加古も彼女の意見を否定する。
「どうしてでしょう?」
「水上隊員などはその手を考えたりするでしょうが、おそらく生駒隊長が否定するでしょう」
「ええ。他の隊員が相手ならまだしも、相手が紅月君でしょう? ならきっと勝負を続けるはずよ」
生駒やライの事を、二人の関係を知っている二人はその性格を読み、まだまだ試合は続くだろうと予見していた。
————
『ライ先輩! 若村隊員のものと思われる反応が消えました!』
「ああ。おそらくイコさんが獲ったね」
『この得点で生駒隊が暫定一位です。下手すればモール外に出て一位の座を守ろうとするかもしれません』
「——いや、それはないよ」
『えっ?』
一方、ライもまた瑠花の不安を一蹴するように生駒は戦闘を続行するだろうと指摘する。
「どうしてですか」と問われるとライは小さく笑みを浮かべて話を続けた。
「『逆転されるのを恐れた』と言われかねない展開だからだ。イコさんにはこれまで何度か似たような話をしてきたからね」
生駒は決して戦闘狂というわけではないが人気を欲するという一面を持つ。
そんな彼がここで戦闘を放棄するような事はしないだろうと、かつての経験からライは師の性格と行動を読んでいた。これが生駒隊の得点機会が迫る中、ライが落ち着いて行動できていた理由である。
「そしてこうなればきっとイコさんは合流を選ぶだろう。香取隊も得点が欲しいから潜伏されるのを恐れて逃げる事はしないはずだ。つまり敵が同じフロアに集まる。——新技の見せ所だ」
まもなく敵だらけのエリアが発生する、一人部隊である彼には厳しい展開であるはずなのに。
ライは狙い通りだと言うように笑みを浮かべるのだった。
————
「——駄目や。続けるで」
案の定、生駒は水上の『撤退も手ですよ』という提案をバッサリと切り捨てる。
『まあそう言うと思うとったけどなあ』
「アカンやろ。師弟対決がまだやっちゅうのに俺が逃げてどうすんねん。真っ向から弟子を打ち破ってこそ意味があるんや」
『この人はまだあん時の話を……』
『相変わらず負けず嫌いやなあ』
わかっていた事だとチームメイトはため息をついた。
そう。かつてライが何度か生駒をのらせるべく発言した内容が今もなお響いているのだ。
こうなったら譲らないだろうなと皆生駒の頑固な性格を理解している為それ以上強く指摘する事はない。
『わかりましたよ。まあじゃあイコさんもとりあえず隠岐達と合流や』
「おう。今行くで。——せや。ついでやからライを釣れるようにまた吹き抜け通ってくわ」
『えっ。ちょっ、イコさん!?』
「隠岐、海。またグラスホッパーをどっちか頼むで」
まるで「少しコンビニに寄って行くか」くらいの感覚で生駒は吹き抜けの柵を蹴った。
一応防御不能である旋空の不意打ちが来たら危険である為、彼もすぐに反撃できる体勢——すなわち常に抜刀し旋空を撃てるように構え、カメラ目線で落ちていく。
『またっ!? 俺ら今戦闘中なんですけど!?』
突然の命令にたまったものではないと隠岐達は不満の声を上げた。だがもう行動してしまった以上は仕方ないとグラスホッパーを再び起動。生駒の進路上にグラスホッパーの光が出現する。
これで問題はない。生駒は一応周囲を警戒して見回した。
「——エスクード」
「おっ!?」
すると隠岐たちがいる3階よりさらに下の階、2階からカタパルトエスクードによってすさまじい加速をつけたライが弧月を手に生駒へ切り込んでくる。
「どこおったんや自分!? ようやく来おったな!」
負けじと生駒も弧月を抜刀。辛うじてこの奇襲を受け切るが、勢いは完全に殺しきれず生駒は3階に弾き飛ばされた。
「うおっ!?」
「イコさん!」
「おっ。ナイスや海」
南沢が新たにグラスホッパーを使い、生駒の足場とする。すかさず生駒は二人の下へと駆け込んだ。
「あいつっ!」
「葉子ちゃん、一度下がろう!」
「なっ。ちょっと!」
新たに姿を見せた二人の隊員。生駒、そしてライの姿を見て香取の目が憤怒に染まる。
三浦は二部隊に挟まれてはまずいと香取の手を引いた。勝手に決めるなと香取は声を荒げるが。
「——ッ!」
着地したライがすかさずバッグワームを解除。弧月を一度鞘にしまい、居合の構えを取った事で香取の注意力は高まった。彼と生駒隊、そして香取隊との距離は同じくらい離れておりおよそ30メートルといったところ。
普通の
「あっ。アカン。こらアカンわ」
——だが。
香取だけではない。生駒もまた本能が危険を察知していた。
生駒も反撃に転じれば多少は防げるだろうが、おそらくその全てを防ぐ事は難しい上にライが放つ方が早い。
「隠岐! 海! 全力で逃げや!」
「はっ?」
「へっ?」
すぐに生駒は二人へ命令を出した。自分もシールドを起動し、弧月を構えて防御の体勢を取る。
「旋空——弧月!」
そして、
南沢が、隠岐が、三浦が。三人が同時に斬り落とされる。
ライが三連続で起動した旋空弧月によって。
「えっ——えっ?」
「……嘘やん」
「そんな」
『戦闘体活動限界。
一気に3人の隊員が戦場を離脱した。
「——こいつっ!」
味方がやられ、香取は歯を食いしばってライをにらみつける。
彼女は運よく勘づけたからこそ回避が間に合った。だがもう少し遅ければ彼らと同様に一刀両断されていただろう。
「おいおい。完成してた上に、改良されとるやんけ」
生駒もまたかつての自分の発言を思い返して小さく舌を鳴らす。
『ヤバいな。えっヤバない? ヤバいよな。あと一年もしたら紅月旋空とか呼ばれる技作ってそうなんやけど』
「ようやく出おったな。『紅月旋空』」
防御は勿論回避も難しいライの切り札だ。
予想した時期よりも早く完成し、そして予想の威力を超えた剣技。
弟子の新技は師匠の度肝を抜くには十分すぎるものだった。
「——あと一点。取らせてもらいますよ」
一挙に3得点を獲得したライは再び弧月を構えると改めて師匠達へ宣戦布告する。
A級昇格の挑戦権は目前だ。残るはただ一点。必ずや手にしてみせると火花が散った。