「——見事だ」
従来の観客席の上に設置されている談話室。一部のA級隊員や上層部の人間が他の隊員達とは離れ、落ち着いた空気でランク戦を観戦するために設置された部屋だ。
その一室で上層部の一人である忍田が短く呟く。彼の右腕が小さな握りこぶしを作り、彼の感情を示していた。
「まさに一閃ですね。今のはもしや忍田本部長の教えですか?」
忍田の隣で観戦していた唐沢はかつて一度だけ防衛任務の映像でみた忍田の四連続の斬撃を思い返して呟く。今のライが放った技は『ノーマルトリガー最強の男』と呼ばれる忍田の技を彷彿させるものだった。
「確かに私も少し指導はしましたが、以前から素質はあったようです。私は最後の仕上げをしただけですよ」
「これは驚いた。距離もそうだが威力が凄まじい。三連続で放てるとなればより脅威は増すでしょう」
「ええ。彼の大きな武器となりうる」
防ぐことが難しい旋空の連撃だ。
並の隊員ではたとえ来ることがわかっていたとしてもよけきれない可能性が高い。何も対策がない状態では今のように撃破されてしまう事だろう。
最終戦に至ってこの破壊力を武器にできた事は非常に大きなものだった。
「これで残るは三部隊の隊長のみだ。地力の勝負になるでしょう」
そう言って唐沢はモニターへと視線を戻す。
隊長達はみなダメージがなくトリオンの消費も少ない状態だった。
残り人数が同じとなればあとは純粋に隊長達の実力勝負だ。どの部隊にも勝機がある。
「——頑張れ」
短い期間とは言え教え子であり、そして姪の部隊である紅月隊は勿論の事、生駒隊・香取隊へも向けて忍田は声援を送った。
この試合が終わった時、誰も後悔しないように今ここで精一杯戦い抜いて欲しい。それが忍田の本音だったから。
————
「決まったー! 紅月隊長、旋空弧月を三連撃! 紅月隊の本日初得点は一瞬で戦況を変える大量得点となりました! 南沢隊員・隠岐隊員・三浦隊員が一斉に
同じころ、観客席では武富のはち切れんばかりの声が木霊する。
普段はオーバーリアクションが目立つ彼女だが、今回ばかりは仕方がなかった。他の観客たちも皆彼女と同じような反応を示している。それだけ彼ら彼女らの眼前で放たれた技はすさまじいものだった。
「驚きましたね。ランク戦が始まる前、加古隊長が話していた事がこのような形で本当に実現するとは思いませんでした」
「私もよー。まだあんな隠し技持っていたなんて知らなかったもの。まさか最終戦まで取っておくなんて紅月君も意地が悪いわね」
嵐山に話を振られた加古は不機嫌そうに頬を膨らませる。
『一度に敵を殲滅する術』。初戦のように何かしらステージに仕掛けをして戦略的な策を実行するという事は想像していた。だがまさか今回のような力技で戦術的に敵を一掃するとは予想外の事である。
「あれは誰だってビックリするって。俺らだって初めて見たぜ。本部長を思い出したわ」
いつもライと個人戦をしている米屋達とて同じこと。まだ余力を残していたのかと冷や汗を浮かべた。
「数で押せるのは大きいな。距離では生駒さんに後れを取るかもしれないが、射程に入れたならば旋空同士での打ち合いでも押し勝てる可能性が出て来た。タイミングによってはあるいは……」
一方、米屋の隣では三輪が冷静に分析を続ける。
まだ敵には旋空弧月のスペシャリスト・生駒が残っていた。彼がいる中では本来旋空弧月で得点する事は難しいが、ライの新技ならばそれも出来るかもしれない。これは大きな強みである。
「さあこれで三部隊の戦力は拮抗する形となりました! 最終戦残るは三人のみ! 生き残るのはどの部隊だ!?」
いずれにせよ生駒、ライ、香取と三人の隊長達が残った現状ならばまだ勝負の行方は読めなかった。
勝負の行方は如何に。武富の実況はまさに隊員達の心を代弁するものであった。
————
「やってくれるやんけ」
生駒はゴーグルの位置を調整しながら呟く。
いつかは来るとは思っていた。そのいつかがまさかこのような大舞台となるとは。
なんとも——羨ましい。
「アカン。これ絶対観客席盛り上がっとるやろ。またあいつばっか目立っとるやん。俺も旋空決めたっちゅうのに」
まさにその通りなのだが、生駒はこれを見ている人たちがライに注目しているのだろうなと憤りを覚えていた。
『落ち着いてください、イコさん。前にライ君も言ったでしょ? そのライ君倒せば一気にイコさん大注目ですよ』
「せやな! やっぱ勝った方が正義か!」
『——もうそれでいいんで気をつけてください。まだ香取ちゃんも残ってますから』
そう言って水上はため息を吐く。
本人がやる気を出してくれるならばこれで良いだろう。水上の言う通りまだ三つ巴の状態。下手に動いて二部隊が連動されても困る。動きに注意してくれと厳しく忠告し、彼も敵の一挙一動を観察するのだった。
「……何なのよあいつ! あんなの前は使ってなかったじゃない!」
『葉子落ち着いて』
『突っ込もうとか考えるなよ! 旋空で吹っ飛ばされるぞ!』
「うるさい! わかってるわよ!」
対して香取は怒りの感情を隠せずにいた。表情の変化が露骨に生じている中、染井や若村の静止の声が飛び交う。
言われずとも香取とて無策に飛び込む程冷静さを失っているわけではなかった。
もしも香取がどちらか一方に突撃すれば残った隊員の旋空弧月が飛んでくる事は明白である。旋空はシールドさえたやすく破壊する強力な武器だ。グラスホッパーがあるとはいえ慢心はできなかった。
(できればあいつらが仕掛けた時に動きたい。——可能なら二点欲しい。その上で生存点も加われば、間違いなく残れるはず!)
この戦いは香取隊にとっても上位グループ残留がかかった大事な試合なのだ。
安易に動いてしくじるわけにはいかない。香取は必死に感情を押し殺した。
『ライ先輩。このフロアマップとの情報適合が終了しました』
《ありがとう。これで条件は全てクリアだ。もしも二人——いや、違うな。イコさんだけでいい。イコさんが条件に達したら教えてくれ》
『わかりました』
一方の紅月隊はライが声にはださない形の内部通信で瑠花との情報共有を行う。
三得点を手にした直後とはいえ油断はなかった。必ずや勝利を掴むべく、ライは敵を仕留める策を試みる。
《いずれにせよあと一得点は必ず必要となる。もう少しだ。——行くよ》
『はい!』
最後に今一度瑠花に奮起を促してライは仕掛けていった。彼が足元に右手を付けると、その手と触れた部分の地面がうっすらと光る。
「エスクード」
再びエスクードカタパルトが発射された。ライが突撃する先は、剣の師である生駒である。
「ッ! 来るんか、ライ!」
「あなたをフリーにさせるわけがないでしょう!」
「上等や!」
その急加速を前に旋空弧月の起動は間に合わなかった。生駒は手にした弧月でライの斬撃を受けると、ここから二人の斬り合いが始まる。
二撃、三撃と金属音が耳を打った。
(向こうに仕掛けていった? 今なら!)
ライの突撃を見て、香取がしめたと口角をあげる。敵同士がぶつかり合っている今はチャンスだ。香取は拳銃を手に取った。
『待って、葉子!』
「はっ?」
『そっちじゃない!』
だがある事に気づいた染井が制止の指示を出す。
何事かと香取が問おうとしたその瞬間。ライが加速したエスクードの陰からいくつもの射撃が香取へ向けて撃ち放たれた。
(
ライの発射と同時に仕掛けていた
おそらく香取の意識が攻撃に割かれると考えて設置していたのだろう。しかし染井の助けもあり香取はシールドで防御する事に成功した。
「おいおい。女の子を狙って不意打ちするようなやつに育てた覚えはないで!」
「大丈夫ですよ。男女平等に接するようにと、もう一人の師匠に教わりましたから」
「ああん!?」
遠くで射撃トリガーが発射された光景を目にし、生駒はライに説教を始める。そんな師匠の叫びを右から左へと受け流してライは笑みを浮かべた。
すると全弾が香取へと向かっていったと思われた
「那須さんかっ!?」
「ええ! その通りです!」
まさに那須本人のものかと思わせるような攻撃。
生駒はサブトリガーのシールドで防ぐものの、これで意識がわずかに逸れたのかライの突きが生駒の頬を捉える。
「チッ!」
わずかに漏れ出したトリオンを見て生駒が小さく舌を鳴らした。
(アカンわ。近すぎる!)
何とかライを突破したいが、この近距離では旋空弧月の真の威力を発揮できない。普通の相手ならば剣の勝負でも十分打ち勝てるが目の前の敵は並の実力ではなかった。
「——ホンマ、楽には勝たせてくれんなあ!」
「当たり前でしょう。勝ちに来てるんですから」
再び切り結ぶ二人。剣と剣の打ち合いが繰り広げられ、互角の展開が続く。一歩も譲らない師弟対決だった。
「うっ!?」
「おっ?」
だが突如何の前ぶれもなく斬り落としを計ったライの体が後方へと弾きだされる。
生駒の攻撃ではなかった。香取の起動したグラスホッパーにライがぶつかり、その衝撃で後方へと飛ばされたのである。
すかさず生駒が警戒すると香取の放った
(負けられない!)
香取隊としてもこのまま二人の得点を許すわけにはいかなかった。同時に行われている中位グループの様子がわからない以上、一点でも多くの得点が欲しい。まだ香取隊の得点は一得点のみ。これ以上得点の機会をみすみす失いたくはなかった。
ならばと香取が勝負に出る。
「さすがに来たか」
「落とす!」
突然の衝撃にバランスを失ったライ目掛けて香取が接近。機動力に関しては香取とて負けないのだ。
さすがに予想できなかった仕掛けにライの笑みが苦笑に変わった。
『ライ先輩。後ろに設置物があります!』
「——ありがとう」
すると彼を助けたのは瑠花だ。
彼女の言う通り、彼の吹き飛ばされた後方——アクセサリーショップのお店の前には看板が立てられていた。すぐさまライは左手を伸ばしてショップの看板を手に取ると香取目掛けて投擲する。
「なっ!」
斬りこもうとしていた上に加速していた状態では防御は間に合わなかった。咄嗟に左腕でガードするも、香取は看板の直撃を食らって怯んでしまう。
そこにライの斬撃が襲い掛かった。
「——こっ、のおっ!」
刃先が目前に迫る中、香取は必死に回避を試みる。
彼女が起動したのは機動戦の命であるグラスホッパー。腕の先に展開するとこれを叩いてあっという間に姿勢を下げる。
頭を狙った剣をかわすと同時に足にスコーピオンを展開し、ライの足元に足を振った。
「さすが」
「ッ」
これをライはシールドを展開して防ぐ。
執念の一撃さえ封じられ、思わず香取は歯を食いしばった。とは言え悔しがってもいられない。すぐに地面を蹴って次の行動に備えようと動き出すが。
「旋空、弧月」
「むっ」
無情にも生駒の旋空が解放される。起動に気づいたおかげでライは跳躍して回避できたものの、直線状にいた香取は右足を切り落とされてしまった。
「ッ――」
『葉子、下がって!』
「くそっ」
染井の指示に従い、香取はグラスホッパーを使って距離を離す。
三つ巴の中、自分だけが大きなダメージを負い、自慢の速さも半減となった。これは戦況に影響するだろう。
再び距離が空いた事で戦況は一時停滞した。衝突前と同じ状況だが、状況は少し異なる。
(さすがに先ほどのような突撃は無理だろうな)
先ほどのライはカタパルトエスクードを使って生駒との距離を詰めて旋空を封じたものの、今は生駒も警戒している為、加速の為にエスクードを使おうとすれば距離を詰める最中に旋空を放たれるだろう。そうなればライも防ぐことは出来ない。
(かといって旋空を、と簡単には選べない。見せた直後だからイコさんも警戒しているだろうし、何より一発目が遅れればやられるのは僕の方だ)
ならば旋空での対決と言いたいところだが生駒は居合の達人だ。射程は勿論のこと抜刀速度も速い。その為もしも旋空のタイミングがわずかでも遅れてしまったならば一方的に斬られてしまう恐れがあった。
『……瑠花。一つ確認したい。——————?』
『はい。———————————————————』
『そうか』
ライが瑠花に確認しようと通信を繋ぐ。
ある事を問い、そして彼女から臨んだ返答を耳にしてライは通信を切った。
条件は問題ない。ならば上手く立ち振る舞えれば生駒を撃破する事が出来る可能性が高かった。
(——やるしかないか)
香取が足を失った直後であり、タイミングを窺っている今が好機。大きく息を吐いて呼吸を整え、ライは勝負に出ようと決意を固める。
「イコさん」
「おっ? なんや?」
大きな声で生駒を呼んだ。呼びかけに生駒が用件を問うと、ライは弧月の切っ先を生駒に向けて話を続ける。
「今なら香取隊長も動きにくいでしょう。どうですか? ここで決着をつけるつもりはありませんか?」
「——おう。奇遇やな。俺もそう言おうかと思っとった所や」
生駒にとっても悪い話ではなかった。むしろ彼は師弟対決を制しての勝利を望んでいたので好都合である。
「来いや。旋空でもエスクードでも
弧月を鞘にしまい、半身を退いて身構える生駒。いつでも旋空を撃てる姿勢を取りライを待ち構えた。
生駒とて先ほどのライの旋空を目にしたが、それでも十分自分の技ならば勝てると考えている。
伊達に生駒旋空と呼ばれていたわけではなかった。付け焼刃の技くらい、凌いで見せる。
「本家本元の旋空、見せたるで」
なによりも、敵の新技が出たこの戦いで生駒が生駒旋空で勝ってこそ価値がある。
二人の距離は旋空の射程範囲だった。どのような手を講じようと、生駒はそれを己の代名詞である旋空で乗り切って見せようと断言する。
「望むところ」
生駒の返答を聞いてライは口角を上げた。
——やはりイコさんは勝負にのってくる。
予想通りの展開だ。
ライは弧月を右手に持ったまま、左手を地面につけた。
(エスクード? 突撃か?)
あの構えは先ほどのカタパルトエスクードを起動した時と同じ。旋空はエスクードさえも容易に切り裂く威力を誇っている為防御に使う可能性は低い。ならば旋空よりも早く切り込もうとしているのか、あるいはどこかで壁を蹴るなどの手段で旋空をかわし、その隙を突こうというのか。
「舐められたもんやな。同じ手は二度も通用せんで!」
いずれにせよ同じ手は通用しない。
たとえ向きを変えようとしても、構えている今ならばライの発射後、軌道を見極めた上で旋空を撃つことだって可能なのだから。
生駒が冷静にライの動きを観察する中、ライが位置する地面が光り輝く。
「エスクード」
「やっぱりか! 無駄や!」
どれだけ勢いをつけようと無駄だ。この一閃で勝負を決めてやると生駒は弧月を握りしめる。
変わらずライの動きをしっかりと見極め続けて——
「……あっ?」
突如生駒の足元で大きな爆発音が轟いた。
体に生じた謎の衝撃と浮遊感に包まれる。
一体何が起きたのか、生駒が恐る恐る視線を下に下げると——彼の下半身は跡形もなく吹き飛ばされていた。
「……はっ?」
生駒の体は爆風に飲み込まれ、彼の下半身が地面ごと爆ぜたのである。
「はっ? おい。なにしたんや、これ? エスクードちゃうんか?」
先ほどの構えから考えても、地面に生じた光から考えてもエスクードで間違いないはずだ。
それなのに何故。
生駒の理解が追いつかぬまま、残った上半身にも亀裂が生じた。もはや緊急脱出は免れない中、生駒はこれを実行したであろう弟子に最後の問いを投げかける。
「解説なら後でいくらでもしますよ」
「……そっかー。折角の見せ場やったのに悔しいわ」
『戦闘体活動限界。
「ほな、また後でな。瑠花ちゃんにもよろしく」
上体だけとなった生駒は最後にライと問答をかわしてその場を離脱していった。
これで紅月隊の得点は四点。暫定ではあるものの単独首位に立ち、同時に今シーズンの二位以上も確定させる。
(……生駒隊が全滅! じゃあ残るは私とあいつ一人。こうなったら何としてもあいつを取って生存点を獲らなきゃ。上位グループ残留なんて無理じゃない!)
二人の会話を外から眺めていた香取はランク戦の展開を理解し、悔し気に唇を咬んだ。
前回一対一で手痛い敗北を喫した相手との一騎打ちするしかない展開だ。
「さあ、あと一人」
「——嫌なやつ」
自軍の勝利は既に決まっていながら、タイムアップを狙うのではなくまだ強欲に点を獲ろうと自分を見るライに香取は心底嫌気がさした。
(とはいえ長期戦では足がないしこっちが不利なはず。こうなったら、速攻で勝負を決めてやる!)
ならばその表情を崩してやると香取が勝負に出る。
サブトリガーの
「ッ!」
「そこっ!」
残った左足で天井を蹴り、両腕のスコーピオンで斬りかかる。
弧月で受けられるが、ここで先ほど放った
「ぐっ!」
シールドで防ぐものの、この間にも香取は再び切り込んでくる。ライも得意とする一人時間差攻撃だった。
「——
戦況を打破すべく、ライは弧月を大振りし香取を弾き飛ばすと、後退しながら
香取は舌打ちしながらも分割シールドでこの攻撃を防ぎきる。そしてしのいだ直後、ライが弧月を鞘にしまい、居合の構えを取る光景を目にした。
(旋空! させない!)
あの三連撃を撃たれてしまえば今の状態では十中八九防ぐことは出来ない。香取は先ほどライがやったように旋空を撃つ前に接近しようとグラスホッパーで加速した。
片足を失って機動力が下がっている今、香取に余裕はない。
(撃つ前に止めてやる!)
相手の行動が放たれてからでは手遅れだという思考が彼女を急かした。
だからこそ、ライの構えから旋空であると判断した香取は敵の足元が光っている事に気づけない。
「ッ!?」
突如横から加わった衝撃に香取は目を見開いた。
それは香取のすぐ横、吹き抜けの硝子から生やされた小さなエスクード。凄まじい勢いに押し飛ばされ、片足しかない彼女は簡単にバランスを失ってその場に倒れこんでしまう。
「あっ!?」
「——旋空弧月」
そして身動きの取れなくなった香取に向け、旋空の三連撃が容赦なく襲い掛かった。
————
「——とりあえず、私たちの試合はこれで終わりですね」
「ええ。そうね」
那須隊の作戦室には隊員である4人が全員揃っていた。
日浦が少し寂し気にそう言うと熊谷も彼女の意見に同調する。
彼女たちも上位グループと同じ時間に始まった中位グループ夜の部で戦っていたのだ。それが先ほど終わり、上位グループより一足先に今シーズンを終えていた。
「大丈夫ですか、那須先輩?」
「ありがとう。大丈夫よ」
志岐が心配そうに顔を覗き込むと、那須は彼女を手で制して無事をアピールする。
「最後は勝ちたかったから、少し残念だけどね」
那須が悔し気にそう呟いた。
最終戦の那須隊は二得点を挙げたものの、柿崎隊・荒船隊との勝負に敗れている。
| 部隊 | 得点 | 生存点 | 合計 |
| 柿崎隊 | 3 | 2 | 5 |
| 那須隊 | 2 | 2 | |
| 荒船隊 | 2 | 2 |
僅差の試合であったが為、余計に残念に思ってしまった。
「……ねえ。たしかここから他の試合も見れるのよね?」
とはいえいつまでも悔しがってばかりいるわけにもいかない。
それよりも確かめなければならない事があった。那須は室内のモニターを指差して志岐に問う。
「はい。映しますか?」
「お願い」
「わかりました。少し待ってくださいね」
隊長の願いに応えるべく志岐はすぐに自分の机に戻り機器の操作を始めた。慣れているだけあり彼女のキーボードを叩くスピードはとても速い。
「やっぱり上位グループの試合?」
「ええ。私達の順位と——紅月先輩達の結果も気になるから」
やっぱりねと熊谷はうなずいた。上位グループの結果次第で那須隊の順位も変動する。加えて知人がA級昇格の挑戦権を得られるかどうかという試合でもあった。気にならないわけがない。
程なくしてモニターに上位グループの試合画面が表示された。
「あっ——」
その画面を目にして、那須は目を丸くする。
彼女だけではなかった。熊谷も、日浦も、志岐も。
マップにただ一人だけ立っている男の隊員が、弧月を天高く掲げている光景を目にして、全てを理解した。
「——勝ったんですね。紅月先輩」
————
「ここで試合終了!」
最後の
C級隊員だけではない。解説席の加古や嵐山も微笑を浮かべて彼ら彼女らの奮闘を讃え、正規隊員達も訓練生同様の反応を示していた。
活気だつ周囲の声に負けじと武富も実況の役目を全うする。
「B級ランク戦ROUND20。上位・夜の部は——紅月隊の勝利です!」
| 部隊 | 得点 | 生存点 | 合計 |
| 紅月隊 | 5 | 2 | 7 |
| 生駒隊 | 1 | 1 | |
| 香取隊 | 1 | 1 |
勝ち取ったトップの座。紅月隊が最終戦で勝利をおさめ、A級への挑戦権を手にした瞬間であった。