「——勝った」
「ライ先輩!」
「瑠花」
ランク戦が終了。ライが紅月隊の作戦室に戻ると瑠花がすぐに彼の下へと走り寄って来た。
「お疲れ様」
「はい。お疲れ様です。ようやく、終わりましたね」
「——ああ。ありがとう。ここまでご苦労様」
瑠花の笑顔につられるようにライも笑みを浮かべる。
3か月という長い期間に及んで行われた戦いが実を結んだのだ。その喜びは計り知れない。
「無事に目標達成だ」
「よかったです。本当に、よかった」
「最後まで助けられたね。まずは総評を聞くとしようか」
全てのランク戦が終わりを迎え、あらゆる緊張感から解放された。
あとはただ結果を聞くのみである。二人は肩の荷を下ろして解説に耳を傾けた。
————
「あー。やっぱ最後あいつが全部取ってったなー。旋空打てんかったのが痛いわ」
同時刻、生駒隊は隊長の生駒が敗戦を嘆いていた。
最後の師弟対決さえ制していれば単独首位。このランク戦の勝利も可能だったのだ。悔やむのも仕方のない事である。
「それもそうですけど、彼の潜伏を許しちゃったのが痛かったですよ。あれでイコさんやられちゃったわけだし」
「そういえばあれ結局何やったの? あいつエスクード使ったんとちゃうの?」
隠岐の言葉にふと先の記憶を思い返して生駒は疑問を呈した。
ライの足元に見えた光は幾度と見たエスクード起動の合図であるはず。しかしながらエスクードにはあのような攻撃性能は持ち合わせていなかった。一体どういうカラクリなのかとチームメイトに意見を求める。
「まあおおよその予想はつきますけど、とりあえず解説を待ちましょ。嵐山さん達が全部話してくれるでしょ」
「そういえば今日の解説嵐山やったんか! そら聞かな!」
この件については水上が既に分析を終えていたが既に勝負がついた以上、焦る事ではなかった。
水上の指示に従って生駒は解説席へと移ったモニターへ視線を戻す。
全ての勝負は終わったのだ。ならばあとはさらなる強さを身に着ける為。精鋭と呼ばれるもの達の言葉に耳を傾けた。
————
一方、その頃の香取隊作戦室。
「葉子。解説そろそろ始まるわ」
「……聞きたくない」
脱出後から香取は未だにソファから立ち上がらず、枕に顔を埋めている。
幼馴染である染井の声にすら従わずに不満をあらわにしていた。
「お前な。終わってしまったものは仕方ねえだろ! さっさと切り替えろよ!」
「うるさい。あんただってあっさりやられてたんだから黙ってて」
「ああ!?」
「やめてよ! ろっくん、僕達だけでも解説を聞いておこう?」
視線さえ上げることなく痛い所を突いてくる香取に若村の怒りは高まるばかりだ。
このままではいつまでたっても話が進まない。三浦は強引に間に入って話を打ち切ると、部屋を出てモニターの前まで移動していった。
「……くそっ」
声が聞こえなくなった事を確認し、香取はソファを乱暴に叩きつける。
「これが、壁だって言うの?」
認めたくはなかった。
これまで通り自分の才能で上に行けると信じたい。
だが、幾度もの試合を経て香取は壁を感じていた。自分の力では乗り越えられない『上級者の壁』と呼ぶべきものを。
その
(葉子?)
彼女らしからぬ発言を耳にして、染井は首をかしげるのだった。
————
「前半戦は香取隊、生駒隊が交互に得点を取り合い、その後潜伏していた紅月隊長が怒涛の連続得点を挙げ、紅月隊が逆転勝利をもぎ取ったこの試合! 解説のお二方としてはいかがだったでしょうか!?」
解説席では武富が嵐山と加古へ話題を投げ、二人の言葉を待った。
「やはり紅月隊長が出現と同時に見せた新技が大きかったですね。あれで一度に敵を減らせた事が大きかった」
「そうね。生駒君と香取ちゃんは少し勘づいたように見えたけど、皆反応が間に合ってなかったわね。ただの旋空ならばよけきれると思ったのかもしれないけど、さすがに3連撃は予想出来ていなかったはずよ」
「今回の紅月隊の勝利はあの三得点が大きく響いたと言ってもよいでしょう。一度に敵を減らした事で二部隊の圧は大きく減りました」
やはりポイントとなったのはライの新技が決まった瞬間だろうと二人は話す。
あの時点では生駒隊は3人、香取隊は2人残っており、3対2対1と紅月隊は数的不利となっていた。その場面から一撃で1対1対1へと持ち込む。簡単に出来る事ではなかった。
得点の面からみてもぐっと勝利に近づいている。
大きな勝因になっていたという事は誰の目から見ても明らかであった。
「あの旋空は範囲が広いから敵が残っていればいる程効果が期待できそうね。多分、生駒君が来るであろう瞬間を狙っていたんじゃないかしら」
「ありえますね。戦局が三つ巴に変われば基本的に後ろを取られるのを避けるため間合いを取るのが自然です。そこを狙ったというのも大きなポイントでしょう。そう考えると潜伏していたのは、敵が揃うのを待っていたという狙いもありそうですね」
多人数の敵を同時に撃破出来る程の威力を誇る新技だ。
加古も嵐山も、ライの狙いをしっかり理解していた。
一人部隊であるライにとっては敵の合流が果たされる事は不利である為、普段は速攻をしかけている。だからこそ今回はその裏をついた。一度に敵を多数葬る新技で意表を突くためにあえて合流を許したのだと。
「えっ。あいつそこまで考えてたん?」
「まあ実際あれ下手すればもっとやられてもおかしくなかったですからねー。まんまと予想を外されましたわ」
大量得点は紅月隊にとっては必須な事。故に敵が揃うのを待っていたのだという弟子の狙いを知った生駒は開いた口が塞がらない。
下手すれば一人である彼が撃破される危険性が高まるというのに、そのリスクを承知で本番で大技を決める。
とんでもない事を簡単にやってのけたものだと水上はライを称賛するのだった。
「というかそうするしかなかった、というのもあるけどね。4点必要となると最低でも二人は落とさなければならない。でもさすがにショッピングモール内での戦闘となる以上、遠距離狙撃は出来ない上にステージを動かす手は簡単ではなかったから安全を確保しにくい。マップ選択権を持つ香取隊の狙いがこっちに向くのは避けたかったし、速攻中にイコさんの旋空を受ければ何もせずに落ちる可能性だってある」
「うまく事が運んでよかったです。生駒隊も合流を狙って水上隊員の下へと向かってくれたのが助かりました」
「生駒隊の強みは4人部隊という数の多さにもある。そう簡単に一人失うわけにはいかないだろうからね」
もちろん彼らの言う事は実に的を射ていた。同時にその裏にはそれ以外に手がなかったという事情もある。
マップが選択された時点でライは地形戦や遠距離の狙撃は不可能であると判断していた。ショッピングモールは大型の施設とあって耐震設備なども整っており崩す事は難しい。
そうなると速攻を仕掛けたとしても上下に広いマップでは敵の位置を把握する事は簡単な事ではなく、連続で撃破する事は簡単ではなかった。下手すれば敵の奇襲を受ける可能性も高い。
だからこそ今日のライはあえて敵が揃うのを待って一斉に撃破する手段を選んでいた。
「同時に潜伏はその後の展開を考えてのものでもあった。序盤から様々な思惑があったようです。試合を通して振り返ってみればわかりやすいでしょうか」
「ええ。ではさっそくこの試合を振り返っていただきましょう!」
いずれにせよライの潜伏には大きな意味がある。
嵐山の解説を元に武富は最初から今日のランク戦について振り返り始めた。
「まずは開始直後。各部隊はモール内への合流を目指しました。雨というステージの都合上、
序盤の戦い。マップ選択権を持つ香取隊の策により
「これは香取隊にとって作戦通りといった形でしょうね。モール内では上下の位置取りを掴むのが難しいため、この時すでに若村隊員がバッグワームを、三浦隊員がカメレオンを起動して敵を惑わしていました」
「相手が揃う前に地の利を生かして先制点を奪う。ここまでは予想通りだったでしょうね」
「そうですね。特に若村隊員がモール内に転送されていたという点も有利に働いたでしょう」
加古の賛同を受け、嵐山はさらに補足する。
挟み撃ちを行い敵の足を止めるという都合上、射程持ちが屋内である事が重要であった。しかも外にいるのが香取であるため合流も容易である。立ち上がりは香取隊にとって理想的な展開であった。
「そして二部隊が合流を急ぐ中、紅月隊長は準備を進めていましたね」
「香取隊は先制点が確実に欲しいし、生駒隊は数の利を失いたくないもの。そんな二部隊の思惑を考慮していたんでしょうね。決戦の場が3階になると踏んで、彼は2階に潜伏して罠を仕掛けていた」
モニター上には二階でライがメイントリガーにセットしたメテオラを起動し、準備する映像が流される。序盤戦で合流を果たしたいという皆の行動心理をついた落ち着いた判断だった。
「3階であると判断したのは、やはり敵隊員の数が揃っていたからでしょうか?」
ここでどうしてそこまで決め付ける事が出来たのかと疑問が浮かぶ。
やはり人数が多いからなのかと武富が疑問を呈すると、隣に座る嵐山は大きく頷いた。
「ええ。この時紅月隊長はバッグワームで姿を消していたから他の部隊はあまり多人数が何度も移動するのは避けたい。移動中は狙われやすいですからね」
移動中は防御も支援も難しい。だからこそ敵は移動を避けるだろうと考えたのだと。
「それに、生駒君が旋空を使って上にいるって教えてしまった点もあるかもしれないわ。彼が上にいるとわかった事で上での戦闘が早く終わる可能性が高いとわかった。それなら敵がいなくなる生駒君が合流する方がリスクは少ないでしょう?」
「なるほど!」
そして3階になるであろう展開を予測できた理由はもう一つあると加古は断じた。
生駒が水上を救うために放った旋空だ。
あの唯一無二の技により生駒が上のフロアにいると教えてしまった。生駒は
「しかもレーダーの移動速度から香取隊長が3階に移動したとわかったのも大きい」
「実際に生駒さんが会敵してすぐに撃破したからやっぱりすごいと思いましたね」
「香取隊には悪いけれど、正直に言えば若村・三浦の両名が揃ってもイコさんを止めるのは難しかった可能性が高い。だからこそイコさんの場所は大きな情報だったよ」
瑠花の言葉にライが頷く。
ライは敵を過大評価も過小評価もしない性格だ。淡々と敵の戦力を比較し、その戦闘の予測を行っていた。
「その後、姿を消していた三浦隊員がカメレオンを解除。水上隊員を撃破しました」
疑問が解決し武富はさらに話を進める。話題は一番最初のポイントとなった香取隊の動きへ移った。
「綺麗にカメレオン戦術が嵌りましたね」
「紅月君の潜伏も上手く作用したわね。生駒隊はこの時まで紅月君が潜伏しているかどうかさえわからなかったんじゃない?」
やはりこの一点は大きなものである。
バッグワームを使っているのが誰なのかこの時点ではまだ明らかになっていないからこそ、レーダー上では映っているものの姿が見えないカメレオンは効果的であった。嵐山も加古もこの作戦を称賛している。
「そしてこの戦闘を起点に、3階では二対二の戦い、上では生駒隊長と若村隊員の
そしてここから戦いは新たな展開を見せた。各フロアで二部隊の争いが行われ、優勢劣勢がひっくり返った瞬間である。
「若村隊員が単独では勝てないと判断して逃げに徹したのは良い判断でしたね」
「ただトップチームの経験が上だった。隠岐君の判断が的確だったわね。あれはひょっとして水上君の指示かしら?」
「たしかに。水上隊員は視野が広いですから、脱出後もしっかり働いた可能性が高いでしょうね」
この時特に厳しかったのは若村だ。単独で生駒を相手にする厳しい場面で、奇襲の可能性を考慮したうえで合流を選択。思い切りのよい判断ではあったが、生駒隊に上を行かれて得点を許してしまった。
「ここで生駒隊長も得点を挙げて得点は一対一に。上の階が片付いた事で生駒隊長は合流を選択。紅月隊長を釣ろうとしたのか、吹き抜けを飛び降りていき、そして紅月隊長が突撃を開始」
「多分その通りね」
「ええ。生駒隊にとってはこれで3対2と再び人数で有利となりましたので、あとは早く紅月隊長の居場所を特定したかったという所でしょう」
若村の脱出で生駒隊の数的有利に転じる。やはりライの所在を明らかにしたかったのだろうと解説の見解が一致した。
「紅月君にとっては上手くいけば生駒君も狙えるから悪い話ではないものね」
しかもライの視点からは新技で生駒をも仕留める事も可能であっただろうと加古は語る。
先も言ったようにライの旋空が複数人の相手を狙えるならば、ここで相手を一掃する可能性とてあっただろうと。
「じゃあまさかあの新技でこのランク戦を終わらせる事も考えていたという事!?」
「信じられねえ。だが、確かに改めてあれを見てみると、葉子だって落とされてもおかしくなかったからな……」
加古の言葉を耳にして三浦や若村は背筋が凍る感覚を覚えた。
放たれた旋空はあの場にいた者達を全て落としかねない威力を誇っている。
下手すればあの一撃で全てが終わっていたというのか。若村は冷や汗が止まらなかった。
「それと実はこの場面、紅月隊長のトリガー構成が変わっているという事に気づけた瞬間でもあるんですよね」
「と言いますと?」
武富が相槌を打つと、嵐山はさらに話を続ける。
「突撃後まで紅月隊長は奇襲を読まれなくするためにバッグワームで姿を消していたのですが、ここで紅月隊長は同時にエスクードを使っていました。メインとサブでトリガーを一枠ずつしか使えないとなると、普段はサブトリガーに入れているバッグワームかエスクードのどちらかをメインに据えているとわかります」
「——言われてみれば確かに!」
「おそらくこの後に仕掛けてくる仕掛けをバッグワーム下で行う為にもトリガー構成を変えていたのでしょう」
嵐山の観察眼に武富は感心するばかりだった。
トリガーはメイントリガーとサブトリガーの一枠ずつしか使えない。そして普段ライはサブトリガーにエスクードとバッグワームを入れていた。
この二つが同時に使えたという事は、ライがこの試合で普段とは別のトリガー構成に変更しているのだと嵐山は分析する。
「えっ。そもそもライのやつトリガー変えてたん?」
「気づきませんでしたね。ああでも確かに。言われてみれば納得しますわ」
武富だけではなかった。実際に戦っていた生駒でさえこの衝撃の事実に驚きを隠せない。分析が得意な水上でさえ嵐山の解説でようやく状況を理解できた現状であった。
「なるほど。ここでもう嵐山さん達には気づかれていたか」
「気づかれるなら罠が発動した瞬間だと思いましたが……」
「うん。僕もそこかあるいはサブに変えた
事実、ライはランク戦が始まる直前でトリガー構成を変更している。とはいえ彼らもここで勘づかれるとは予想外の事であり、精鋭部隊と呼ばれる彼らの瞬時の分析力、判断力に脱帽していた。
今日のライのトリガー構成は
メイントリガー:弧月、旋空、
サブトリガー:
嵐山の語る通りイーグレットを外し、メテオラとエスクードをメイントリガーに据え、バイパーをサブトリガーへ移動するなど変更を行っていたのである。市街地Dと香取隊の方針から屋内戦のみに限定されるだろうと判断しての変更であった。
「そしてここでこの試合一番の分岐点とも呼べる瞬間となります! 紅月隊長の旋空3連撃が炸裂! 南沢隊員、隠岐隊員、三浦隊員が
さらに場面が移り変わり、ライの新技が炸裂した場面へ。やはりここが大きかったなと武富の声に加古や嵐山は何度も頷くのだった。
「さっきも言ったようにこの得点が重要ね。これで紅月隊は生存点を抜きにしてもあと一点まで迫れた」
「ええ。精神的にも余裕が出来た場面だと思います。恐れるべきは紅月隊長の技術でしょうか」
「それもそうでしょうけど、紅月君の
確かにと嵐山は加古の言葉に納得する。
ライの
「こうして残り人数が限られた中、紅月隊長と生駒隊長がぶつかります。得点によって順位も変動するという重要な局面となった隊長同士の一騎打ちは、紅月隊長に軍配」
新技により3人のみとなった戦場で、やがて師弟対決へと戦いは動いていった。武富は先ほどの戦いを振り返って実況を進めていく。
「……しかしこの一騎打ち。紅月隊長がエスクードを起動して、生駒隊長が下からの爆撃で撃破されたように見えましたが……!?」
そしてその場面で生じた戦闘に武富は理解が追いつかなかった。
防御用のトリガーを起動したかと思えば突然の爆発で生駒が脱落する。
一体どういう事なのかと解説席に話を振ると、専門分野である加古が口を開いた。
「あれはおそらく紅月君が潜伏中に仕掛けた
「なんと……!」
防御用のトリガーを防御ではなく、仕掛けを作動する起爆スイッチとして用いる。聞けば原理は簡単だが、咄嗟にできるかと言われればそう簡単なものではなかった。武富の頬を冷や汗が伝う。
「紅月隊長の発想力が光りますね。射撃トリガーは発射前に浮かせたり動かす事ができて、それを任意の場所に設置することで罠とする置き弾の使い道がある。しかも屋内の天井に設置したとなれば、屋内の照明が置き弾をある程度隠してくれる。たとえ敵に二階に来られても見つけにくかったでしょうね」
加えて屋内というのも大きなポイントだろうと嵐山が付け加えた。
射撃トリガーを起動したキューブは一定の明かりを放つ。これは暗闇では目立ち、逆に屋内の明かりの近くでは発見しにくいという特徴があった。
こういう点も罠としては重要なのだろうと嵐山が冷静に語る。
「そういう事かい。ただ、そんな罠あったんなら最初から起動すればよかったんちゃうの? なんで出し惜しみしてたんや?」
理解しつつ、生駒は納得しきれずに疑問を呈した。
ライは最初からエスクードを使った戦闘を仕掛けている。ならば生駒の姿を捉えた時点で起動すればよかったはずなのに、どうしてわざわざ生駒を煽ったりする必要があったのかと。
「そりゃ確実に罠にかけるためでしょ?」
生駒の問いに隠岐が簡潔に返答する。
おそらくそれが答えだろうなと水上も彼の話に続いた。
「
「そういうことやろな」
上手く考えを見抜かれたものだと細井がため息をつく。きっと生駒が戦いを続ける事も勝負にのってくる事も想定していたのだろう。
「はー。マジか。あいつ頭の回転どうなっとんねん。弟子の癖に俺よりも早く生まれとるような錯覚を覚えるわ」
チームメイトの解説を聞き、生駒は感動さえ覚えてライの奮闘を讃えるのだった。
「その辺り、瑠花の分析には助かったよ。下のフロアとのマップ照合も早かったしね」
「ありがとうございます!」
もちろん彼一人の働きではない。ライはこれを可能とした瑠花の働きに感謝した。
たとえ生駒の足を止める事が出来ても罠と生駒の位置を把握しきれなければ意味がない。
だからこそライは瑠花と何度も通信を重ね情報を共有していたのだった。
「そして最後、残った香取隊長と紅月隊長の戦いは、香取隊長が足を失っていた弱点をつかれて敗退。紅月隊長が最後の得点をも手にしました」
「香取隊長が片足の中よく動いていたと思いますよ。機動力が武器であるので非常に不利な中、上手くグラスホッパーや時間差攻撃を使って振る舞っていました」
「ただ彼のエスクードの使い方が上手かったわね。旋空の大技をみたばかりだからそっちを警戒されがちな所を、フェイントとして使ったのだもの」
最後残った香取とライの戦いはライが勝利を収める。
とはいえ敗れた香取もよく戦ったと嵐山は賛辞を贈った。
加古の言う通りライの戦い方が上回っただけであると。
「——さあ、この試合の結果を受けて全ての得点が出そろいました! 総合順位表が更新されます!」
一通りの総評を終えて武富は手元のキーボードの操作を行う。
彼女の行動に伴ってモニター画面が試合画面から総合順位表へと変わり、今シーズン最後の更新が行われた。
「最終戦の得点で紅月隊は単独一位に躍り出ました! 紅月隊、生駒隊にA級昇格試験を受ける権利が与えられます!」
3位であった紅月隊が1位へと上り詰める。紅月隊が目標としていたA級への挑戦権を獲得するのだった。
| 001紅月隊 67点 |
| 002生駒隊 63点 |
| 003弓場隊 63点 |
| 004東隊 55点 |
| 005鈴鳴第一 53点 |
| 006漆間隊 51点 |
| 007諏訪隊 50点 |
| 008那須隊 50点 |
| 009荒船隊 50点 |
| 010香取隊 49点 |
| 011柿崎隊 48点 |
「……チッ! 仕方ねえか。次シーズンは取り返してやる」
これで弓場隊は昇格試験の権利は獲得できない事が正式に発表される。
隊長である弓場が短く舌を打ち、次シーズンへのリベンジを誓うのだった。
「10位か……!」
「1得点ってのが痛かった。那須隊、荒船隊が得点伸び悩んでいたってのに……!」
悔しいのは彼らだけではない。
三浦や若村も上位グループ残留を逃し、悔しさのあまり地面を蹴った。
同時刻に行われた中位グループも順位を競っていた二部隊が得点に伸び悩んでいる。あと1点でも取れれば上位グループに滑り込めていた。その事実がかえって重くのしかかる。
「8位! 8位です! 私達8位に入ってます!」
「やった! 最高順位更新ですよ!」
そして嬉しいのも紅月隊だけではなかった。
那須隊の作戦室では志岐が順位結果を皆に知らせると、日浦の明るい声が室内に響き渡る。那須隊の今シーズン8位という成績はこれまでの結果でも最高のもの。努力が実を結んだのだと喜びをわかちあった。
「結果的に紅月先輩に助けられたね。あと1点で順位が一つ変わってたよ」
「そうね。——本当に、よかった」
熊谷の言葉に那須も頷く。
上位グループが中位グループの結果を気にしていたように彼女たちも得点の動向を気にしていたのだ。
結果的に香取隊の得点が1点に終わったおかげで最良の結果を得た。
那須隊は最高順位を獲得し、弟子である存在がトップに立つ。これ以上ない報告だろう。那須の表情には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「なんと今シーズン初参加となった紅月隊がA級昇格試験へ挑むという衝撃的な展開となりましたね!」
「ええ。かつての風間隊を彷彿させる活躍です。今後にも期待したいですね」
初参戦で即昇格試験を獲得。これは歴代でも圧倒的な勝率でランク戦を駆け上がった風間隊にも匹敵するものだろうと嵐山が語る。
現A級三位部隊の名前が出た事で観客席には再び声にならないどよめきが走った。
「あとは昇格試験で認めてもらえるかどうかね。——さて、受けた事がある生駒隊はもちろんの事、紅月君はどうなるのかしら」
後は課題である試験で実力を発揮できるか否か。
加古は妖艶な笑みを浮かべてそう口にする。
かつて自分の誘いを蹴り、自らの力でたどり着いて見せると語った彼がその目前まで来た。果たしてこの機会をものにする事が出来るのか。彼女はさらに好奇心を強くする。
「最終戦という事で非常に盛り上がる試合となりましたね! これにてROUND20夜の部、今シーズンのB級ランク戦は以上で終了になります! 皆さん、お疲れ様でした! 解説の嵐山さん、加古さん。ありがとうございました!」
『ありがとうございました』
こうして最後の試合が、今シーズンのB級ランク戦が終わりを迎えた。
最後に武富が挨拶をして締めくくり観客席は徐々に静けさを取り戻す。
解説が最後まで滞りなく行われた事を確認してライもゆっくりと体を伸ばすのだった。
「——よしっ!」
そして一息ついて、ライは握りこぶしを作る。
ようやく戦いが終わったのだ。何も感じないわけがない。
「やりましたね!」
「ああ!」
正式に昇格試験獲得の宣言がなされ、歓喜の声が室内に響いた。
ライは瑠花と勝利のハイタッチを交わし喜びを体現する。
「3か月、お疲れさま。疲れただろう」
「とんでもありません。無事に目標が達成できたおかげで全て吹き飛びました」
「そうか。ああ、そうだな」
事実最上の結果は疲れや苦難を忘れさせるには十分なものだ。
瑠花の発言にライもクスリと笑みを浮かべる。彼女もランク戦を通じて一回り成長したように見えた。それがとても嬉しく思う。
「——よしっ。とにかく今日はゆっくり休もうか。瑠花、今日はこの後何か予定とかあるかい?」
「いえ。特にはありません。ランク戦も終わりましたししばらくは大丈夫です」
「そうか。それじゃあこの後食事はどうだろう? ランク戦を終えた祝賀会という事でね」
「良いんですか? それなら、喜んで!」
トップに立ったのだ。これを祝わない手はない。ライの誘いに瑠花も喜んでのるのだった。
「うん。それじゃあ少し休んだら出かけようか。僕はちょっと飲み物を買ってくるよ。ゆっくり休んでいてくれ」
「いえ、そんな……」
「いいからいいから」
遠慮する瑠花を手で制し、椅子に座らせるとライはトリガーを解除してその場を後にする。
長い緊張の糸がほどけたのだ。少しくらい休んで欲しいとライは瑠花を気遣った。
(それにまたここから始まるんだ。今は彼女にしっかり英気を養ってもわらないとな)
ランク戦が終わったとはいえある意味本番と言える昇格試験が残っている。
内容は詳しく聞かされていないもののオペレーターである瑠花の力は必要不可欠であることは明確だった。ならば終わった後くらいはゆっくりしてほしいとライは思う。
とにかく今は二人分の飲み物を買って、またそこから話をしようと扉に手をかけた。
「——おう。さっきぶりやなライ」
そして扉を開けた瞬間、ゴーグルをかけた強面の男性・生駒の姿が目に映り、ライはすぐに扉を閉めるのだった。さすがは
「おおい! 自分何閉めとんねん!? 俺師匠やぞ!? なんや、今回勝ったからってもうお役御免か。さすがトップの隊長様は薄情なやつやなあ!?」
すると扉の外から生駒が叫びをあげ、同時に扉を何度か叩き始める。
発言内容が内容な為、さすがにライも放置は出来ずにもう一度扉を開けるのだった。
「違いますって。部屋の前でそんなに騒がないでくださいよ」
「自分がいきなり閉めるからやろ」
「いきなり目の前にイコさんが現れたらそうしますって」
糾弾を続ける生駒にライが釈明する。
実際扉を開けたらそこには生駒となれば誰だって驚くだろうが、生駒が知ったことではなかった。
「まあええわ。それよりもライ」
弟子の指摘を聞き流し、生駒は突然の訪問理由に切り込んでいく。
「随分と世話になったなあ。ちょっと面貸してもらうで」
「……一体何用ですか?」
「内緒や」
用件を問うライに生駒はいつもと変わらぬ口調でそう続けた。
ちなみに原作でヒュースがバッグワームを使いながらエスクードを起動している場面がありますが、同じくハーメルンでワートリ作品を投稿している方とその話題になってやはり同じサブトリガーのものは使えないという判断に至り、何かしらトリガー構成を変更したという結論に至りました。エスクードも防御用トリガーである為バッグワームと同時に起動は出来ないという判断です。今回もその観点からこのような話となりました。