REGAIN COLORS   作:星月

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回顧

 初めて訪れた者たちも寿寿園の種類豊富な焼き肉の味を堪能し満足を覚え、あっさりした味わいから濃い味わいの肉へと移り始めた頃。

 各テーブルの隊員達も徐々に食事以外の事についても話題が広がっていく。

 

「最初お前達が部隊を申請したって聞いた時は、戦闘員一人と聞いて驚いたもんだ。それがまさかトップまで駆け抜けるんだからさらに驚かされたぜ」

「いえいえ。一人と言っても支援してくれるパートナーがいますから。柿崎さん達も最後は無事に順位を大幅に上げられたみたいで良かったですよ」

 

 ランク戦終了直後という事で柿崎は当然今シーズンより参加し、ランク戦を駆けあがっていった紅月隊の健闘ぶりを讃えた。

 初参戦でこれ程の成果を上げる部隊は今後現れるかどうかわからない。惜しみない賛辞を受け、ライも同じように柿崎隊の最終戦の勝利を祝うのだった。

 

「でも実際どうなの? 隊長とオペレーターの一対一という部隊で何か困った事とかあったりする?」

 

 すると柿崎の隣に座る照屋も会話を弾ませようと瑠花に話題を投げる。

 照屋と瑠花は年齢が近かった。照屋の方が一歳年上という事もあって幾分か余裕があるように見える。

 

「特にそんな事ありませんよ。一人ではありますけど、ライ先輩基本的に何でもできますし。いつも勉強させてもらっています」

 

 オペレーターの発言を耳にし、ライは何度も頷いた。

 彼自身、瑠花との仲は良い方であると自覚はしているが、こうして改めて直接言葉にされることでより強く実感できる。

 

「まあライ先輩はたまに抜けている所もありますけど」

「えっ?」

「そこも良い所なのかなって」

「……瑠花?」

 

 しかし続けられた人物評の前にトングを手にするライの動きが制止した。

 そんな事ないだろうと網から視線を瑠花へと移し、じっと見つめる。

 すると視線に気づいたのか瑠花は少し困ったような表情を浮かべ、そしてニコリと笑みを浮かべた。——まあ瑠花が笑っているなら別に構わないか。ライは深く考える事をやめた。

 

「わかる。うちも似たような感じだから」

「……!?」

 

 そして瑠花だけではなく照屋までもが彼女の意見に同意した事で柿崎の表情が崩れる。

 女性同士だからこそ通じるものがあるのだろうか。柿崎は首を傾げた。

 

 

――――

 

 

 時間の経過につれて徐々に席の移動も行われ、当初は部隊ごとに固まっていた面々は少しずつその配置が換わっていく。

 あらゆる年代の隊員が集まり会話が弾む中、中心になったのはやはり紅月隊の二人であった。

 

「おめでとう、忍田さん」

「ありがとうございます!」

 

 隣の椅子に座った今がコップを手に取ると、瑠花もコップを持ってグラスをコツンと軽く合わせた。

 現在このテーブルにライの姿はない。彼は生駒たちに連れられて別の席で談笑していた。彼女が座る席とその隣の席はオペレーターを含む女性隊員達8名で固められている。

 

「あっという間にB級ランク戦を駆け抜けていったわよね。私達の間でも話題になっていたけど、本当にすごい速さだったわ」

「せやなあ。紅月隊、一度上位に上がってからは最後まで上位グループを守りぬいたからなあ。作戦の組み立てとかも面白かったわ。あれ二人で考えたりしとるの?」

「基本的にはライ先輩が考えています。でも作戦会議の時には相手の戦力やマップとか色々情報を照らし合わせて、私にも考える時間をくれますね」

「じゃあうちとちょっと似たパターンか。それで結果も残したんだから強いわけだ」

 

 なるほどと人見がこくりと頷いた。

 指揮能力に長ける隊長だけでなく隊員達にも作戦立案の機会を与え、成長を促すという点では東隊に通じる部分がある。東隊も作戦会議では小荒井・奥寺の若い隊員が積極的に方針を立て、ランク戦に臨んでいるのだ。

 経験豊富な東率いる部隊だからこそ出来る指針だが、それを他にもやれるだけの戦闘理論を持つ者がいるとなればこの快進撃にも納得というものだ。

 

「その辺りはうちとは正反対やなあ。こっちなんてランク戦前とかほとんど打ち合わせしとらんで」

「むしろそれで上位に立っているのが凄いですよ……」

「生駒隊って一見ふざけているようでしっかりしているのよね」

「だからこそ強くは言えんわ」

 

 対して苦言を呈したのは細井だ。

 生駒隊は最終戦でさえ作戦の打ち合わせを行っていなかった。

 しかしその上で生駒隊は2位をキープしている。各隊員が各々の高い適応力を活かし、存分に力を振るっているのだから恐ろしい存在だ。瑠花や今は先のランク戦、常に安定した戦いぶりを見せた生駒隊の地力の強さを思い返して苦笑する。

 

「そう考えると余計にライ君が生駒隊長の弟子というのが想像できないのよね。性格が正反対じゃない?」

 

 ふと今はライが生駒から旋空を教わっているという話を思い出して呟いた。

 今日の話を聞く限りでも二人の考えは真逆に感じられる。果たしてうまく関係を構築できるのだろうかと首をかしげると、細井が「イヤイヤ」と眼前で手を横に振った。

 

「そう思うかもしれんがな? これがあの二人結構うまく咬み合っとるで」

「そうなの? 意外ね。生駒隊長もその辺りは人付き合いは心得ているという事かしら」

「あー。あれはどっちかっちゅうと紅月君が上手く遇っとる感じか?」

「弟子なのに……?」

 

 それはそれでどうなのだろうかと人見は首を傾げる。

 

「まあ彼は結構人付き合いが上手い人だから」

 

 言われてみれば確かにライは人と程良い距離感を保ち、その上で人の感情を機敏に察知したり要求を悟って行動できる人物だった。二人がそうなるのも当然の事だったのかもしれないと今は二人の性格を考えた上で納得するのだった。

 

「せやな。部隊組んだのは最近とはいえ意外と交流関係も深いしな」

「師弟と言えば、変化弾(バイパー)をライ君に教えたのは那須さんなんだっけ?」

「えっ? そうなんですか?」

「ああ。そういえばランク戦の解説で水上君がそんな事言ってたっけ」

 

 今が新たな話題を隣のテーブルで食事を楽しんでいた那須隊へと放る。

 知らなかった照屋は驚きの表情を呈するが、人見はログで見返したランク戦を思い返し、感心しながら頷く。

 

「——ええ。そうですよ。もう半年くらい前になるでしょうか?」

 

 話を振られた那須は昔を懐かしむように穏やかな笑みを浮かべて、そう答えた。

 

「確かあの時は透君を介して紹介されましたね」

「奈良坂先輩ですか」

「はい! 紅月先輩は奈良坂先輩の弟子でもあるんですよ! だから私の弟弟子でもあるんです!」

「そうなの!?」

「それは初耳」

 

 すると那須の話に同調して日浦も元気よく手を挙げてアピールする。

 那須や生駒との師弟関係は噂や解説で聞いていたが、さらにナンバーツー狙撃手(スナイパー)の名前まで上がるとは。皆驚きを隠せなかった。

 

「ええ。だからうちの隊って結構紅月先輩とつながりが深いんですよね。玲と茜の二人が関係ありますから」

「こうやって人とのつながりは広がっていくのね」

「……これ聞くと余計にイコさんの存在が特殊に感じるなあ」

 

 熊谷の発言になるほどと頷く。奈良坂も元をたどれば東の弟子だ。狙撃手(スナイパー)の隊員は数多くいるが、このように人との関係はつながっていくのかと人見は嘆息した。

 その一方で細井は那須に奈良坂と王道の強さを師として仰ぐ中、一際癖が強い生駒の名前が並ぶ事に違和感を覚える。

 

「——ん」

「どないしましたイコさん?」

 

 突如生駒が視線を女性隊員が集まったテーブルへと移し、じっと見つめ始めた。一体何事かと水上が聞くと、生駒はゆっくりと口を開く。

 

「なんか、今褒められた気がする」

「きっと気のせいでしょ。あっち女性しかおりませんよ?」

「はっ? おい。どういう意味や」

 

 そのまんまの意味ですよと水上は隊長を適当にあしらうのだった。

 そんな短いコントが男性陣の中であったとは露も知らず、肉の味を堪能しながらさらに会話は弾んでいく。

 

「私達の隊に初めて土をつけたのも那須隊でしたよね」

「そういえばあの試合の後、玲ってどこか不満げだったのに外出して戻ってきたら機嫌良さそうだったよね? なんかあった?」

 

 今回のランク戦でライが脱出を強いられた戦いは6戦。東隊の二回と弓場隊、生駒隊、漆間隊、那須隊の一回ずつだ。(那須隊は自発的な緊急脱出(ベイルアウト)

 その最初の一回目とあっただけあってその戦いの事は瑠花もよく覚えていた。

 同時に熊谷もその戦いの後那須の様子がいつもと少し違った事を思い出して問いを投げる。

 

「————別に。何もなかったわよ」

 

 少し間をおいて、那須は視線を逸らしてようやく言葉を絞り出した。

 この反応に隣のテーブルの4人は事態を察して聞こえないように声量を落としてひそひそ話を始める。

 

「……絶対に何かあったわね」

「話の流れ的にライ君と何かあったのは間違いないはず」

「そういえば確かライ先輩が那須先輩と話したと言ってましたよ」

「確定やん」

 

 瑠花の証言が証拠となった。おそらくは二人の間で何かしらの交友が深まる出来事があったのだろう。

 

「そういえばあの時紅月先輩に関しては噂も流れましたね」

「女性と戦えない、辻先輩と同じって話ですか?」

「でも次戦で香取ちゃんを普通に斬ってたのよね。そのせいでむしろ油断させるためにわざと演じたんじゃないかって話も流れたっけ」

 

 照屋の話題に「そういえばそんな話もあったな」と日浦達は記憶を掘り起こした。

 確かにあの戦いではライの行動が消極的であり、しかもその次の戦いで大量得点を獲得したことから「次戦を見据え、敵を油断させるためにあえて今回のような立ち振る舞いをしたのでは?」と考える者さえいた。

 結局真偽は不明なままだが、いずれにせよ真相はこのまま明らかにならないだろう。ライたちとてこんな事をわざわざ語る事はしないはずだ。熊谷は深くは言及しようとはしなかったが。

 

「——そうね。不思議な出来事だったわね」

 

 何故か彼女の隣の席に座る那須が再び横の壁へと視線を逸らし、自分の髪先を触り始めた光景を周囲の隊員が目ざとく発見すると再び色めき立つ。

 

「ああ! これも絶対何か知っとる反応やで!」

「那須さん、何があったの!?」

 

 細井は席から勢いよく立ち上がり、人見も興味津々に身を乗り出した。

 

「いえ、そんな。——私はちょっと応援しただけですよ」

 

 応援しただけ、と那須は言うが当然周囲の反応は決してそれで満足するはずもなく。

 

「……ただの応援であんな反応すると思う?」

「私も詳しくは聞いていないので、後でライ先輩に聞いてみます」

 

 今が瑠花にそう尋ねると、彼女は不満げな表情で決意を固めた。

 ——応援。様々な意味が考えられるだろう。だがまさかその内容が圧力を与えかねないようなものであったとはこの時の彼女たちは想像できなかった。

 

「あの時は彼にもちゃんと弱点があったんかと思ったんやけどなあ。結局すぐにその疑いなくなってもうたし」

「確かに彼ってそういう話題聞かないね。本部内で生活しているから人目に付きやすいはずなのに」

 

 何か弱点の一つでもないのだろうかと細井も一時は考えたが、結局女性絡みの話もすぐに否定されている。

 ライはボーダー本部で住み込みの生活を送っていた。ならば何かしら話題に上がってもおかしくはないのだが、滅多にそんな話は浮かばない。不思議だなと人見も首をかしげる。

 

「隊務規定違反の話も瑠花ちゃんを庇っての話なんでしょう?」

「はい。恥ずかしい話ですが」

「……いえ。恥ずかしいのは迅さんの方だから」

 

 よく連携を取る支部所属だからこそ今もこの話題は知っているのだろう。拳を強く握りしめ、行き場のない感情を抑え込んだ。

 

「その辺り、一緒の部隊という事で瑠花ちゃんは何か知らないの? 戦闘に関するような話せない事はいいから。普通に生活している時とかでさ」

「あっ。それ私も気になる」

「私も知りたいです!」

 

 ならば時間を共有する事が多い瑠花ならば何か知っているのではないかと熊谷が瑠花へと話を振る。

 するとここぞとばかりに那須や日浦も声を揃えて尋ねた。二人とも師匠として、姉弟子として色々と情報を握っておきたいという意志表示なのだろうか。

 

「ライ先輩の弱点ですか?」

「そうそう」

「うーん。でもライ先輩って基本何でも出来るし、大きな失敗とかも見たことないですから難しいですね」

 

 やっぱりかと皆同じ反応を示した。

 知っている人こそ知っている事だが、ライは食堂で働いたり同僚に勉強を教えたりとあらゆる方面で活躍している。私生活でも炊事や洗濯などもしっかり行っていて瑠花も何度か彼の世話になっており、彼の弱点など想像がつかなかった。

 

「——ああ。そうだ。弱点と呼べるのかはわかりませんけど」

 

 しかししばし考え込んで瑠花はある出来事を思い出して顔を上げる。

 

「ちょっと違うかもしれないですが、そういえばこの前の4月1日に加古さんがライ先輩を驚かそうと黒江ちゃんのトリガーの設定を改造したんですが。それを知らずに模擬戦をした時には一時間くらい泣き崩れていましたね」

『一体二人の間に何があったの!?』

 

 とてもその光景が想像できず、皆動揺を隠す事は出来なかった。




実際玉狛と鈴鳴支部は近く合同で任務を行う事もあるとの事なので交流は深そうですが、迅は今に対してもセクハラしているのだろうか……性格的に通報するような人ではなさそうですが。
4月1日の話は今後短編を書く機会があれば書こうかな。
次回、男性陣の様子も描き、昇格試験の話にも触れて試験へ移行していきます。
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