REGAIN COLORS   作:星月

51 / 107
天敵

 迅悠一。

 玉狛支部に所属する、ボーダーのランク規格から外れたS級隊員の一人。現ボーダー本部設立の前から忍田本部長などと共に戦い続けた古参でもある。

 並外れた実績を持ちながらも彼は普段から防衛任務では一人で一部隊として数えられる上にランク戦には一切参戦しない為にその実力を正しく把握しているものは少なかった。

 だが迅の力を良く知る一部の古株や上層部の人間は彼の副作用(サイドエフェクト)の力もあって彼の事を高く評価している。

 そんな彼がとある隊員の腕を見るために駆り出されたとなれば、いかにこの試験が大きな意味を含んでいるかは語るまでもなかった。

 

 

「さて。どうみますか皆さん? 本日の昇格試験、紅月隊について」

 

 貸し切りとなった訓練室の観覧席に幹部の面々が移動すると、真っ先に口を開いたのは唐沢だ。

 彼の視線の先では今日の試験対象であるライが瑠花と何やらやり取りを交えている。試験前最後に作戦の打ち合わせであろうか。彼ら二人にとっては予想外である試験相手であるだろうが、少なくとも戦闘員であるライには緊張の色は見えなかった。

 突然の出来事にも怖気づくことなく平常心を保つ事は大切だが普段から心がけていなければ出来ない事。力は勿論精神的な安定感も感じ取れ、それを見て鬼怒田も息を鳴らす。

 

「ランク戦を勝ち抜いた以上、今さらあやつの力に疑問を覚えるものはおるまい」

「そうですねえ。一人部隊で勝ち上がるとは城戸司令もおっしゃる通り異例の事。それを成し遂げた以上は疑う余地もない。ただ——さすがに今回ばかりは、相手が少々悪いとも感じますが」

 

 そう語る根付の視線はライから離れた場所で準備運動を行っている迅へと向けられた。

 彼は普段から本部にも来ない上にランク戦にも参加していないためあまり実力は知られていないが、少なくともここに集結した面々にとっては既知の事である。

 下手なA級部隊との戦闘よりもよっぽど困難であろうなとこれから戦う紅月隊の面々に幾分か同情した。

 

「まあ異例だからこそ普段とは違う試験相手というのもわかりますけどね。それに彼の場合、意外とA級の面々とも交流が深いみたいですから。ねえ、忍田本部長?」

「ああ。確かに普段から慶をはじめ当真隊員や加古隊長、三輪隊長といった面々とは親しくしているとは聞いている」

「あらら。改めて聞くとすげえ面子だ」

 

 忍田が挙げた名前を聞いて林藤が肩を竦める。ライの入隊までの経緯と経歴を考えれば人間関係は乏しいはずなのだが、よほど社交性に長けているという事だろうか。

 

「だから城戸司令はわざわざ本部とは関係ない、うちの隊員を選出したってわけですか?」

「——別にこの度の試験相手の選抜については彼の交流関係や経歴を考慮したわけではない。先も言ったように一人部隊となればより強さと対応力が求められる」

 

 故に、と城戸は途中で言葉を区切るとわずかにライの方へと注意を向けた。

 

「この戦いでいかに彼が未知の強敵に、自身の難敵になるであろう相手に立ち振る舞えるのかを見させてもらう。それをもって彼ら紅月隊がA級を名乗るに値するかの判定とする」

 

 異論はないなと城戸は林藤をにらみつける。有無を言わさぬ圧力を前に林道は息を吐いて頷くのだった。

 

 

 ボーダー本部の幹部が独特の緊張感を醸し出している中、彼らと反対側の席でライと迅の様子を見守る影が4つあった。

 

「面白い戦いになったな。迅が来るとわかっていたなら朝から個人戦をやっても良かったんだが。この試験が終わったらあいつら二人を誘って三つ巴でもやるか」

「いやいや太刀川さん。迅さんはまだしも紅月先輩の方は駄目でしょ。仮にもこの試験、彼らの命運がかかった重要な試験なんですよ?」

 

 出水が諌めると太刀川は「わかってるって」と適当にあしらう。

 彼らは紅月隊の昇格試験の審査員を務める二人だ。昇格試験では上層部の人間の他にも実際の戦術などを評価するために戦闘員もこの場に集められていた。

 普段よくランク戦をしているライ、そしてかつてのライバルであった迅という注目の対決は太刀川にとっては非常に興味をそそるもの。彼の表情が好戦的な笑みを浮かべている。

 これはおそらく終わった後が大変だろうなと、出水は試験の後に繰り広げられる出来事を悟ってため息を零した。

 

「まあ確かに太刀川の気持ちもわからない事もないがな。迅のやつが黒トリガーを使わずに戦闘というのは滅多にあることではない」

「やっぱりそう思うよな、風間さん!」

 

 ほれみろ、と太刀川は同じく審査員を務める事となった風間の同意を得て得意げに笑う。

 普段は冷静な風間でさえ好戦的になるとは。攻撃手(アタッカー)とは血の気が多いポジションなのだろうか。出水が首を傾げた。

 

「——あれ。そういえば今回うちと風間隊が審査員なんですか? てっきり加古隊あたりかと思いましたけど」

 

 ふと疑問を覚えて出水が風間へと尋ねる。

 太刀川隊と風間隊はA級の中でもトップクラスに位置する部隊だ。基本的に審査員はA級の中でも対戦する部隊以外の二部隊、順位が離れた部隊かつ試験を受ける隊員が得意とするポジションの隊が務める事が多い。今回のライでいうならば万能手(オールラウンダー)であり、その中でもよく得点を挙げるのが弧月と変化弾(バイパー)だ。その為攻撃手(アタッカー)の太刀川、そして射手(シューター)の面から考えて加古隊あたりが選出されると思っていたのだが。

 

「どうやら加古隊は黒江さんが紅月先輩の弟子という事で外されたようです。師弟関係となれば採点に偏りが出ると考えたのでしょう」

「ああ、そうだったのか」

 

 この質問に答えたのは歌川だ。今回、風間隊からは風間と歌川が審査員を任されている。

 公正な判断が求められる審査員という都合上、よほどの事がない限りは師弟関係である隊員がいる部隊は審査員から外されるのだ。

 となれば風間隊が選ばれるというのも納得である。他の隊はスカウトに出ている部隊もあり、加古隊の他にもライと師弟関係にある三輪隊、広報部隊も任せられている為多忙である嵐山隊は外されて当然だ。

 風間は太刀川と同じ攻撃手(アタッカー)ではあるが思考が冴えており戦術にも広く通じていた。しかも歌川は万能手(オールラウンダー)。射手に関しては本職であるランカーたちには後れを取るとはいえ近・中距離で活躍するという点で一致している。妥当な人選であった。

 

「安心しろ出水。太刀川が手心を加える事がないようにしっかり監視しておく」

「お願いします」

「えっ。いや風間さん。俺はこういう事はしっかりやる人間だぞ?」

「どうだか」

 

 太刀川の弁護をよそに、風間は冷静な声色で話を続ける。

 

「今回の試験はいつも以上に注意を払ってみる必要があるからな。おそらく、紅月がここまでの部隊ランク戦で勝ち上がってきた原動力が封殺される事になるだろう」

「二人の副作用(サイドエフェクト)ですか?」

「ああ」

 

 隊長の発言の意図を読んだ歌川の発言に風間がコクリと頷く。

 

「その武器を封じられた中で、いかに紅月が立ち振る舞うか。それを見届けなければならない」

 

 ライが苦しい戦いを強いられるだろうと予測して風間が告げた。いつも以上に彼の表情が強張っているように見える。あるいは部隊ランク戦よりも厳しい展開になるかもしれないと彼は分析していた。

 

 

————

 

 

「——よしっ。それじゃあ、頼むよ」

「はい。任せてください」

「これが、ひとまず最後の戦いだ。頑張ろう」

「はい!」

 

 最後にライが一つ喝を入れると瑠花が気を引き締めて応えた。

 長かった戦いもこれで終わりを迎える。必ずや成し遂げようと約束して瑠花はオペレータールームへと戻り、二人は別れた。

 

「——よしっ。さて、紅月君」

 

 瑠花が去り、その場にいるのが迅とライだけとなった事を確認して迅がライへと話しかける。

 

「悪いが俺も試験を任された以上、本気でやらせてもらうよ。前に約束した協力の件は、今回はなしだ」

「わかっていますよ」

 

 当たり前の事だとライは表情を崩さなかった。

 言われるまでもない。そもそも誰かの情けで昇格を果たすなど彼の本意ではなかった。

 ライはゆっくり瞼を閉ざす。一息つくと、開かれた目は鋭い視線で目の前の迅を睨みつけた。

 

「迅さん。あなたに個人的な恨みは——まあ確かにありますが」

「えっ。ちょっと待って。瑠花ちゃんの一件は水に流してくれたんじゃなかったのか?」

「しかし!」

 

 迅の悲痛な訴えを無視してライは力強く宣言する。

 

「それはあくまでも私情であり試験とはまた別の事。今は一人の隊員として、隊長として。紅月隊昇格の為に、この戦い勝たせてもらいます」

 

 勿論ライは迅の起こした出来事を忘れたわけがなかった。だが今は関係ない。ただ紅月隊の為に勝利を手にすると誓うのだった。

 

「——ああ。受けてたとう」

 

 宣誓を受け、迅が不敵に笑う。

 彼もライのランク戦を幾度か見てその実力は評価していた。

 その上で恐れることはないと飄々とした態度を貫く。

 この時、やはり彼の目には未来が見えていたのかもしれない。

 

————

 

 

『全部隊、仮想ステージへ転送完了。ランク外対戦、A級昇格戦。開始』

 

 二人の準備が整い、定刻を迎えると機械音を合図に迅とライが仮想マップへと転送された。

 高いビルやマンションが点在する市街地が視界全体に広がる。

 個人ランク戦などで見慣れたステージを舞台に、二人の戦いは幕を開けた。

 

「——さあ行こう。瑠花、手はず通り最初から行くよ」

『はい。迅さんまでの最短経路を設定しています』

「頼む。一気に行く。倒せればそれでよし。いずれにせよ迅さんの力を試させてもらうとしよう」

 

 転送直後からバッグワームを起動し、マップから姿を消しているライは場所を移動しながらメイントリガーを起動し、瑠花と連絡を取る。

 迅が噂で聞くように未来を見る能力を持つというのならば手をこまねいている余裕はなかった。まずは先手を打ち迅の力を見ようとライは颯爽と駆けていく。

 一方、迎え撃つ立場である迅はゆっくりと市街地の車道を歩んでいた。

 

「さて。どう来るかな」

 

 迅には今回彼を補佐するオペレーターはついていない。

 そもそも迅が普段は部隊を組んでいない隊員である上に他のポジションよりも補佐の役割が薄い攻撃手(アタッカー)、何よりも彼の持つ副作用(サイドエフェクト)が下手なオペレーターよりも有効に働いてくれるという事情もあった。

 だからこそ普通の隊員ならば支援がない中で敵が消えているとなれば慌てふためくものもいるだろうが、当の迅に焦りの表情は一切ない。

 

「——おっ」

 

 その時とある未来が迅の瞳に映しだされた。

 すぐに迅は両方のトリガーでシールドを眼前に展開する。

 するとほとんど時を同じくして、迅の顔面目掛けて一発の弾丸がビルの屋上から放たれた。弾丸は盾を貫くには至らず、衝突して四散する。

 

「来たか」

 

 すぐに迅は狙撃の方角へと視線を向けた。

 その先にいたのはやはりバッグワームを展開し、姿を消していたライである。

 

(反応が早い。いや、早すぎる。僕が撃った時にはすでに迎撃の構えを取っていた)

 

 恐るべきは迅の副作用(サイドエフェクト)か。

 あっさりと奇襲を見破り、防ぎ切った迅を心の中で称賛した。

 これでは狙撃だけで彼を仕留める事は難しいだろう。そう判断するやライはイーグレットとバッグワームを解除した。

 

「エスクード」

 

 そしてライは右手に弧月を握りしめると、斜めに角度をつけたエスクードを屋上に起動。エスクードカタパルトで飛び上がり距離を詰めていった。

 

「おいおい。いきなり全ての攻撃系トリガーを起動か? 随分早い展開じゃないか」

「ッ――」

 

 接近するライに対し、迅は右手だけにスコーピオンを起動して迎え撃つ。

 先を全て見越しているかのような発言が耳に届き、ライは顔をしかめるが怯まず攻撃を続行。勢いそのままに迅へ斬りかかった。

 これを迅はバックステップで回避する。すかさずライが追撃の突きを放つも、これをスコーピオンを当てて起動をずらし、横から迫った変化弾(バイパー)を分割したシールドで

防ぎ切った。

 

「ふむ、なるほど。変化弾(バイパー)は狙撃の前に放っていたのか。さすがB級トップ。確かにこれは事前にわかっていないと対応は難しそうだ」

「凌いでおいて何を!」

 

 あっさりとこちらの手を見破った迅にライは吐き捨てるようにそう口にする。

 狙撃を防ぎ、斬撃を見切り、そして時間差で迫る射撃にも余裕をもって対応した。

 未来を予知するという迅の副作用(サイドエフェクト)。どれだけ情報が確かなのか明らかではなかったが、この一連の攻防だけでもその能力がいかに正確で、かつ強力であるか理解するには十分なものである。

 

「悪いね。一応試験官として、あっさりやられるわけにはいかないんだ」

 

 そして迅も攻勢に出た。右手に続いて左手にもスコーピオンを起動。軽量の利点を生かした二刀流でライへ素早く肉薄する。

 

「ッ!」

 

 二刀のスコーピオンが上下左右あらゆる角度から襲い掛かった。負けじとライも弧月でこの連続攻撃を受け、時にシールドで防ぐ。

 至近距離での斬り合い。ライもスコーピオンをいなし、反撃を試みるが迅は攻撃を無理に受けずに斬撃の軌道を逸らして回避した。一方の迅の刃は徐々にではあるがその剣速が増し、少しずつライの防御をかわし、ライの体を削っていく。

 

(攻撃が当たらない。読まれている! 逆に向こうはこちらのシールドの位置や剣の置く場所を見切って、見抜いている——!)

 

 信じがたい事だ。

 ライの副作用(サイドエフェクト)とされる反射神経はたとえ速さに長けたスコーピオンを相手にしても後れを取らないほどの速さと正確さを誇っている。

 だが、その行動の先を迅に見抜かれ、その上を行かれていた。

 

「——チッ!」

「おおっと」

 

 至近戦では不利と察したライが大振りに弧月を横に振るう。

 当然これを迅は上体を倒して回避した。直後、今度はライの右足が迅の体目掛けて蹴りを仕掛ける。負けじと迅は大きくバックステップを踏みこの攻撃をも凌いだ。

 

(トリガー以外の攻撃も読まれるのか)

 

 反撃は失敗に終わったがこれでいい。

 元々この動きは迅との距離を空けるためのものなのだから。

 距離が空くやライはすぐにサブトリガーの炸裂弾(メテオラ)を起動。迅の足元へと狙いを定めて——

 

「はい。予測確定」

 

 ライが展開したトリオンキューブ目掛けて、迅がスコーピオンを投擲した。

 

(しまっ——!)

 

 放出の瞬間。刃とキューブが衝突し、その場で大爆発を起こす。

 寸前でライは左手を引き横に跳んだ為に致命傷は免れたが彼の左肘から先と左腹の一部は吹き飛び、視界は煙で遮断された。

 

「おっ。今のを避けたか」

 

 間を置かずにその煙の中を突っ切って迅が突撃する。右手に持つスコーピオンが振り下ろされた。ライが弧月を掲げて一撃を受けるも、その間に再生成した左手のスコーピオンがライの体を引き裂いた。

 

「ッ――!」

「紅月君。確かに君は強い。B級の隊員達との争いを勝ち上がってもおかしくはないだろう」

 

 だけど、と迅は一度言葉を区切ると笑みを浮かべて続ける。

 

「俺の副作用(サイドエフェクト)は君の副作用(サイドエフェクト)と相性が良すぎるんだ。悪いな」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 非情な現実を突きつけられ、ライは表情を歪めてその場を後にした。

 最初の一戦目。ライは迅の前に撤退を余儀なくされる。迅が精鋭と呼ばれる力を遺憾なく発揮するのだった。

 

 

————

 

 

「——予想以上に迅さんが押していますね」

「そうだな」

 

 歌川が呟くと風間が小さく頷く。

 二戦目が始まったものの、優勢なのは迅の方だった。

 ライの行動を予知し攻防を優位に進めている。

 

「紅月の副作用(サイドエフェクト)は攻撃ではトリガーの切り替えや射手(シューター)トリガーの軌道設定などに働き、防御では相手の攻撃を見切ったうえで回避に移れるという非常に戦闘向きなものだ。だが」

「この場では、迅さんの方がその行動の先を行っていると」

「そうだ」

 

 風間の台詞を引き継ぐ歌川。彼もきちんと二人の攻防の優劣が働いている仕組みに思い至っていた。

 ライの副作用(サイドエフェクト)はBランクである特殊体質に分類された『超高速精密伝達』。簡潔に言えば後の先を取るというもの。対する迅の副作用(サイドエフェクト)はSランクである超感覚に分類された『未来視』。要は対の先を取るというもの。

 決してランクの値が強さに直結するわけではなかった。

 だが少なくともこの場においては相手の動きを読んで行動するライの動きを未来で予知している迅が有利である。ライは行動を起こした後だからこそ次の動作への切り替えが難しく、迅の連続攻撃も相俟って後手に回ることを余儀なくされていた。

 

「こりゃ、キッツいなー。紅月先輩どうすんだ? 距離開けて旋空とか変化弾(バイパー)勝負が一番速いか?」

「まあ変化弾(バイパー)に関して言えばそうだが。旋空については使いどころが少し難しいな」

「えっ?」

 

 出水は中距離戦の要である武器で取り返しを計るだろうかと提言するが、太刀川は己の得意分野である旋空について否定意見を述べる。

 どういう意味だと聞き返すと、その直後ライがまさにその旋空を迅目掛けて起動した。

 だが彼の単発の伸びる刃はスコーピオンを砕くものの迅にいなされ撃破には至らない。

 

「普通の旋空? 最終戦で見せた連発はしねえのか?」

「しない。というか出来ないんだろうな」

 

 疑問を浮かべる出水に太刀川が解説を続ける。

 

「そもそも旋空自体が撃つのにタメが必要というのがまず一つ。でもってさらに言うとあいつのあの旋空連発は、かえって範囲が広すぎる。マップとなってる市街地の建造物まで巻き込んで削っちまうだろ」

「——そういう事っすか」

 

 なるほどと出水がようやく理由に思い至り、その行動理由に感心した。

 確かに旋空は撃つのには準備が必要となる。加えてあの連撃でさえ完全に敵を撃破出来るわけではなかった。現にランク戦最終戦では初発の際でも生駒、香取両名にかわされている。未来を予知する迅ならば猶更その斬撃の軌道を読んでかわせるだろうという事は容易に想像できた。

 加えて問題となるのはその攻撃範囲だ。

 旋空は強力な威力を誇るが故にシールドを破壊するのは勿論周囲の建造物まで破壊してしまう。3連撃となればなおさらだ。そうなると障害物を利用する事でより弾道を読みにくくする変化弾(バイパー)などの戦いの強みが薄れてしまう恐れがあった。

 ならばその旋空の射程を縮めれば、となると今度はかえって旋空での撃破が難しくなる。その為ライは最終戦で見せた旋空の連撃を出す事に二の足を踏んでいた。

 

「紅月にとっては非常に厄介な相手となったな。副作用(サイドエフェクト)が通じない上に、最終戦で見せた必殺技も使いにくい。奴にとっては天敵とも呼べる相手かもしれない」

 

 そう語る風間の視線の先で、弧月を手にしていたライの右腕が切り落とされる。

 すかさず左腕で弧月を持ち直して反撃に移るも片手となってしまえばこの均衡は長くは続かなかった。

 試験開始からおよそ13分後。ライが二度目の緊急脱出(ベイルアウト)を記録する。

 残り時間は半分ほど。

 未だ突破口が見出せぬ中、ライが徐々に追い込まれていくのだった。

 

 

————

 

 

「どうした紅月君。こんなものか?」

 

 三度目の戦いを前に、距離を離してライと向かい合った迅が煽るような口調で語り掛ける。

 

「一応言っておくと、このままだと紅月隊は昇格の夢は叶わないみたいだ。俺の副作用(サイドエフェクト)がそう言っている」

 

 そう言って迅は口角を上げた。

 未来視(サイドエフェクト)で予知して敵を揺さぶる。迅の常套手段である心理作戦だ。追い詰められた相手には効果的だろう。

 

「——ふう」

 

 だがライはあくまでも平常心を保とうと大きく息を吐いた。

 

「やはりA級昇格の道は険しく厳しいか」

 

 確かに迅の言う通りだ。このまま迅を撃破できなければA級昇格など夢のまた夢だ。それは疑いようのない事実である。

 ならばそれを強がりで否定する事に意味はなかった。

 とにかく今はこの状況を打開するのみ。

 その為にも。

 ——ライは覚悟を決めた。

 

《瑠花。聞こえるか》

『はい。勿論です』 

 

 迅が目前に控えている為、ライは内部通信で瑠花と意志疎通を試みる。

 

《このままでは埒が明かない。ちょっと君に無理をさせるかもしれないけど、頼みがある》

『では』

《ああ。事前に打ち合わせした通りだ。ここからは賭けになる。僕と君の呼吸が合わなければ意味をなさないかもしれない。やってくれるか?》

 

 今の戦いを続けても勝機は薄い事は二人ともわかっていた。

 ならば多少のリスクは背負うべきだろうとライは勝負に出ようと考える。

 瑠花にこれまで以上の負担を強いる選択である上に必ずうまくいくわけでもなかった。

 故にライは最後の決断を命令するのではなく、頼むようにそう伝える。

 

『——任せてください』

 

 隊長の依頼に、瑠花は短く最良の答えを示した。

 

《ありがとう。ならばやろう。未来を超えてやるとしよう》

『はい! 支援します!』

 

 ライが小さく笑みをこぼす。

 気のせいだろうか幾分か肩が軽くなったような感覚を覚えた。

 

「よしっ」

「おっ。なんだ、気持ちが引き締まったかな?」

「ええ。——行きますよ、迅さん」

 

 飄々とした態度を貫く迅に、ライも笑顔でそう口にする。

 まだ時間は半分も残されていた。

 ならばここからである。ライは必ずや取り返してやろうとトリガーを起動するのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。