REGAIN COLORS   作:星月

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昇格

 生駒隊がA級昇格試験を受けたのは紅月隊が受験した翌日の夕方の事だった。

 先にも述べた通り、昇格試験においてはその部隊の特性を特に重要視される。生駒隊ならば4人編成という特殊性、さらにはエースである生駒・隠岐両隊員のポジションである攻撃手(アタッカー)狙撃手(スナイパー)という個の強さだ。

 その為当然のことながら四人の中でもその二人の活躍が必須であった。近距離と遠距離、異なる距離で戦うエースが最後まで生き残る事が理想とされる。

 

「——アカンわ。かわしきれん。すんません、イコさん」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 だからこそ、試合時間の半分を残して隠岐まで脱落してしまったという事実は生駒隊にとって非常に痛手となった。

 隠岐は狙撃の直後、奇襲を警戒してグラスホッパーを展開。高速でその場を離脱したのだが、そのグラスホッパーの移動先をライトニングで逃げ道を次々と制限され、そしてイーグレットの一撃で離脱してしまう。

 

「ライに当てる事と比べれば、難しい事ではない」

 

 徹底的に相手の動きを封じ込め、確実な一撃で敵を沈める。

 当真に次ぐナンバーツー狙撃手(スナイパー)と名高い奈良坂は生駒隊にとって強大な壁として立ちはだかった。

 これで生駒隊の残る隊員は生駒のみ。

 一方対峙している本日の試験官を任された三輪隊は三輪・奈良坂の主力二人が生き残っていた。

 

『三輪くん。奈良坂くんが隠岐くんを仕留めたわ。あと二十秒ほどで援護ができる狙撃位置に移動するから、それまで生駒くんを抑えてね』

「了解。問題ない。もう既に、勝負は決まっている」

 

 隠岐の撃破がオペレーターである月見から三輪へと伝えられる。

 返答する三輪の声は非常に落ち着いていた。

 彼の言葉通り、すでに決着はほとんどついている。

 三輪は顔や腹部に多少の切り傷は見られるもののトリオンの漏出は少なくまだまだ戦える状態だった。

 一方、現在彼と切り結んでいる生駒は所々に傷が見られる上に左腕を失い、右腕と左足に機動力を奪う重石・鉛弾(レッドバレット)(改)を被弾しているという苦しい状態である。誰の目から見ても生駒の苦戦は必至だった。

 

「おいおい。アカンやろ。洒落にならんで。ただでさえ同じ四人部隊が相手な上に隠岐まで脱落したら、本当に俺の旋空が凄いだけの部隊(チーム)やで」

 

 『まあその旋空ももう撃てんのやけどな』と生駒は小さく愚痴をこぼす。

 今日の生駒隊は非常に厳しい展開となった。そもそも生駒隊が合流前に三輪隊の強襲を許してしまった点が痛い。

 米屋が生駒の足止めをしている間に水上は古寺に動きを封じられ、南沢は三輪に突っ込んでいき、そして撃破されてしまった。

 早々に三人となった生駒隊は古寺が水上を抑えている間に三輪がその場に参戦。この戦いでさらに水上まで失ってしまい、生駒が米屋と三輪の連携に挟まれる。辛うじて生駒が米屋を退けるものの、この戦いで生駒は鉛弾(レッドバレット)を被弾。反対の腕も米屋に最後の一撃で持っていかれてしまい、大きなダメージを負った。

 古寺を隠岐が仕留めると、その隠岐も奈良坂の狙撃によって落とされてしまい、生駒隊は大量の負荷を強いられた生駒を残すのみ。

 

「旋空さえ封じてしまえば、あなたの強みは半減だ」

「言うやんけ。三輪隊長」

 

 右手に弧月を、左手に拳銃を構えて三輪が生駒を煽る。

 片腕な上に利き腕が重石によって自在に振るえなかった。三輪が完全に生駒の生駒旋空を封じている。

 これこそ三輪隊が選抜に選ばれた本当の理由だった。

 四人部隊である上に射程持ちの隊員が二人、攻撃手(アタッカー)が二人。さらに敵の機動力を封じる鉛弾(レッドバレット)持ち。生駒隊のグラスホッパー対策であると共に命中させることが出来れば生駒の必殺技も封じる事が可能なのだ。

 

「本当、狙い通りになってまうのが悔しいわ」

 

 そしてその思惑通りになってしまった以上、生駒の敗北は避けられなかった。

 生駒も必死に弧月を振るい、シールドで防ごうと試みるが、キレの鈍った刀は容易に弧月で止められ、鉛弾(レッドバレット)はシールドを貫通。さらに生駒の動きを封じると、三輪の斬撃が生駒の体を一刀両断する。

 

「——ああ。今回もアカンかなあ」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 最後に軽口を一つ残して生駒は戦場を離脱した。

 

「任務完了。さすがに二部隊も同時に昇格(・・・・・・・・・)するような事があっては、A級が軽く見られてしまうからな」

 

 三輪が奈良坂の合流を待たずして最後の一人である生駒を撃破。三輪隊の勝利で昇格試験は終わりを迎える。

 まだ結果が知らされていないにも関わらず、三輪はすでに先日の試験結果を察しているような言葉を残し、訓練場を後にするのだった。

 

 

————

 

 

「——駄目だな」

「ええー。二宮さん、開口一番にそれですか? 厳し—」

「当然だろう」

 

 最後まで戦いを見終えて、この試合の評価を任された二宮隊の隊長・二宮は厳しい評価を下した。

 A級 二宮隊隊長 射手(シューター) 二宮匡貴

 同部隊である犬飼はもう少し何かないのだろうかと意見を求めるが、太刀川に次ぐ個人総合ランク二位にまで上り詰めた男は一切態度を崩さない。

 

「決して勝敗が全てではないが、生駒隊は秀次と奈良坂の主力二人を残してしまった。何よりこの試合、上層部が求めるA級昇格の条件を満たせていない。」

「四人部隊の利点、そして得意の武器を封じられた時の対処ですか?」

 

 同じく担当を務める嵐山が尋ねると二宮は「そうだ」と一言述べて頷いた。

 

「南沢が独断専行して突っ込んだのが大きな減点。さらに言えば生駒が得意の旋空を封じられ、米屋の迎撃に精一杯だった為に秀次の対応に手が回らなかった点が大きなマイナスだ」

「確かに南沢隊員が生駒隊長か水上隊員と合流できていれば展開は大きく変わっていましたからね」

 

 二宮が語っている事は全て正論だ。時枝も先の戦いを振り返り、その意見を肯定した。

 南沢の突撃で人数を減らしてしまった動きは敵の出だしを抑えられるのならば問題はないが、相手が悪い。三輪を相手とするならば最低でも水上か隠岐の支援を得られる場所で戦うべきだった。結果他の隊員達はそれぞれ足止めされ、各個撃破されてしまい、生駒も不利な戦いを強いられてしまう。

 

「生駒の旋空対策に攻撃手(アタッカー)は常に距離を空けないように振る舞っていましたからね。決していつもより動きが悪かったという事はないですが、しかし対策を講じる相手に打開策を講じる事が出来なかった」

「そうなるとやっぱ、合流できなかった時点でイコさん達はかなりきつかったんだねー。むしろ三輪隊の皆の方が普段より動きがよかったみたいだし」

 

 仕方がないのだろうかと嵐山が少し残念そうに呟いた。同年代である生駒の部隊の昇格がかかった試合だ。心苦しく思うのも当然だろう。

 一方犬飼は変わらぬ調子で試合を振り返ると同時に三輪隊の戦いぶりを称賛した。

 特に米屋の働きぶりは凄まじい。ランカーである生駒を足止めする役割をしっかり果たし、三輪と連携してエースを封じ込め、撃破されてもただでは終わらなかった。色々思う所があったのだろう。

 

「三輪隊は紅月隊と仲が良いみたいですよ。昨日紅月隊の試験があったから彼らもやる気があふれたんじゃないでしょうか?」

「ああ。そっかー。昨日紅月君が挑戦したんだっけ。向こうはどうだったのかな?」

 

 時枝の言葉でそういえば前日に紅月隊の挑戦もあったのだと犬飼も思い出して呟いた。

 ライは犬飼にとって同年代の相手である。あまり親交はないがランク戦で解説した事もあって犬飼も彼の強さには興味を抱いていた。

 

「——どうやら向こうは合格で間違いないらしい。迅を相手に互角以上に戦ったそうだ」

「迅に!?」

「うっそ。迅さんを相手に? というかなんで二宮さんが知っているんですか?」

 

 すると二宮から予想外の答えが示される。

 対戦相手がランク外である迅であるという事実に嵐山は驚愕し、犬飼はどうしてまだ発表もされていないのにそこまで知っているのだろうと疑問を呈した。

 

「昨日の晩、迅とランク外対戦を行っていた太刀川と遭遇してな。太刀川が得意げに語っていた」

「えぇ。嘘でしょ太刀川さん」

 

 明かされたまさかの事実に犬飼は言葉を失う。戦闘以外では確かに少し抜けている所がある太刀川だが、そんな簡単に話してしまって良い事なのだろうか疑問であった。あるいは太刀川と二宮が同年齢だから口を滑らしてしまったのだろうか。

 

「でも、そっか。紅月君やり遂げたんですね」

「1シーズンでの昇格。これは上層部でも評価が高いでしょう」

 

 いずれにせよ喜ばしい事だ。犬飼は幾分か顔をほころばせて祝福した。

 短期間で実力を示したとなれば隊員間だけではない。幹部の間でもきっとこの話で持ち切りになるはずだ。時枝は今後もさらに彼が注目の的になる事を予想して言った。

 

「俺達もうかうかしていられないな。A級でも新勢力が台頭となれば順位の変動もあるだろう。気を引き締めて行かないとな」

「ふん。誰が相手だろうといつも通り撃ち落とすだけだ。——と言いたいところだが」

「ん? どうしました?」

 

 珍しく歯切れの悪い言葉を返す二宮。嵐山が問いかけると「大したことではない」と前置きをして話を続ける。

 

「もうすぐ俺達は近界(ネイバーフッド)へ遠征に行く事になっている。だから俺達が紅月隊を試す事があるとしたら、それは先の話になると思ってな」

 

 そう言って二宮は笑みをこぼした。

 彼の話す通り彼が率いる二宮隊は先日行われた遠征の選抜試験を通り、来月には近界(ネイバーフッド)へ赴くことが決まっている。その為二宮隊はしばらくの間本部不在となる為、もしも彼らが紅月隊と競う事があるならばそれは大分先の事であった。

 

「そういえばそうでしたね」

「いよいよですね。ま、こっちは紅月君みたいな戦力も増えたし防衛は頼みますよ」

「ああ、もちろん」

「はい」

 

 犬飼も二宮に続いて遠征への気持ちを示し、嵐山隊の面々に後を託す。任された嵐山と時枝も彼らを快く送り出すよう凛とした顔立ちで応えるのだった。

 

 

————

 

 

 さらにその翌日。

 紅月隊は夕方の防衛任務を終えた直後、忍田本部長に召集を受けて彼の執務室へ呼び出されていた。

 内容は読まなくても理解できる。もちろんA級昇格試験の結果通知であった。

 ライと瑠花は二人並んで執務室へと足を踏み入れる。

 期待と不安が入り混じった緊張が幾分か表情にうかがえた。

 そんな二人の心をほぐすように忍田は笑い、一束の書類を机の前に、二人が見えるように突き出した。

 

「——二人ともおめでとう。君たちの戦いぶりは目にした我々幹部一同、そして今回の試験審査員を務めた太刀川隊・風間隊の賛同を得た。よって正式に紅月隊をA級認定とする」

 

 それは紅月隊のA級昇格を認める公式の文面だ。B級ランク戦を勝ち上がり、迅と渡り合い、二人の戦力が評価された。

 忍田の、後ろに控えている沢村の笑みを目にして瑠花も釣られるように頬を緩ませる。

 

「やっ、た。ライ先輩!」

 

 喜びを隠しきれず、瑠花は声を上げて感情を爆発させた。

 期待していた事が目前で叶った事が何よりもうれしい。飛び跳ねる程の勢いで嬉しさを表現する。

 

「ありがとうございます。謹んで拝命いたします。忍田本部長」

 

 するとライは彼女とは対照的にわずかに口角を上げるにとどめ、その場で頭を下げるのだった。

 

「あっ。——ありがとうございます」

 

 遅れて瑠花も姿勢を正すとライに倣っておじぎをする。

 

(……ずっと戦い続けて一番嬉しいはずなのに)

 

 大人だなあと瑠花はライの素振りに感服した。

 最上の結果を目にしてなお落ち着きを払い、上司に礼を尽くす。平然たる態度を貫く姿勢は見習わなければならなかった。場所を忘れてはしゃいでしまった自分が恥ずかしく思う。

 

「そのように堅苦しい挨拶は不要だよ。今日は君たちが主役なのだから。改めて、おめでとう」

「よかったわね。皆あなたたちの事を褒めていたわ」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

 忍田と沢村から祝福されて二人は頭を上げるとお礼の言葉を述べた。

 これでようやく本当の意味で彼らのランク戦シーズンが終了したと言える。満足のいく結果を得て、二人とも肩の荷が下りたような安心した表情を浮かべた。

 

「さて。A級に上がったらその特権や任務、さらには紋章(エンブレム)のことなど詳しく説明する事がある。だが、それはまた日を改めてとしよう。今日はゆっくり英気を養ってくれ」

「わかりました。それではまた。失礼します」

「失礼します」

 

 ここで解散してくれるというのは非常にありがたい事だ。今はこの気持ちを味わうだけで精一杯だったから。

 書類を受け取るともう一度二人は頭を下げ、しっかりとした足取りで執務室を後にする。

 

「——よし。瑠花」

「はい?」

「ごめんね」

「えっ?」

 

 すると扉が確実に閉められたことを確認し、ライは瑠花の名前を呼んだ。

 どうしたのだろうと瑠花が窺うとライは短く謝罪の言葉を述べる。どういう意味だと彼女が尋ねるよりも先に。

 

「キャッ!」

 

 突如背中から軽い衝撃が走り、彼女の体がライの下へと抱き寄せられた。

 

「——よかった。ありがとう」

 

 柔らかい笑みを浮かべ、ライは安堵と感謝の気持ちを口にする。

 嬉しくないはずがなかった。

 あくまでも忍田たちの手前で感情を晒さなかっただけで。

 彼もしっかり昇格の報に喜びを覚えていた。

 

「……はいっ! ありがとうございます!」

 

 瑠花もまたここまで連れて来てくれた隊長に礼を述べる。

 ——ようやく二人でこの喜びを分かち合う事が出来た。

 

 

————

 

 

 その頃、近くの曲がり角の影で身を潜めていた隊員達の姿があった。

 

「……えっ。これ、今出てったらマズイ空気とちゃう?」

「そうですね。完璧に感動ぶち壊しですよ」

「折角急いで作戦室に戻ってクラッカーとか持ってきたっちゅうのに。いっそ隠岐だけ特攻させるか? イケメンなら何やっても許されるやろ」

「いやいや。これは無理でしょ。絶対嫌われますって。おとなしく撤退しときましょ」

「そもそも上がれなかったうちらが行った所で微妙な空気になりそうやからなあ」

「俺らも作戦室で打ち上げにしましょう!」

「せやなあ。しゃあない、撤収や。行くで」

 

 紅月隊よりいち早く昇格試験の不認定の知らせを受けていた生駒隊の面々である。彼らの昇格は叶わなかったものの、忍田の口から紅月隊のA級認定の知らせを聞き、苦労を労おうと『本日の主役』と書かれたたすきやパーティー帽子にクラッカーなどの祝福する道具を作戦室から持ち出し、彼らが出てくる瞬間を待ち構えていたのだ。

 しかし二人の部隊である為か、彼らの予想以上に仲睦まじい姿を目撃し、さすがの生駒もここで介入しては無粋であろうとおとなしく引き下がる。彼も空気を読むだけの器量は持ち合わせていた。




なぜそんな小道具が作戦室にあるのかと聞かれると生駒隊だからですとしか答えられない。

明日はSQ発売日なので皆さんそちらも読みましょう!
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