REGAIN COLORS   作:星月

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瓜二つ

 「あなたに話したい事があるの」と言って作戦室を訪れた加古はライを伴ってボーダー本部屋上へと移動した。

 普段から解放されている場所とは言え、人気が多い場所ではないため今日も二人以外の人影は見つからない。

 加古は風になびく髪をなでながら、広がる街の景色や大空を眺めるのだった。

 

「今日はこの後雨が降るかもしれないわね。太陽にも雲がかかりはじめてるわ」

「そうですね」

「——私ね。あなたの事を太陽のようだと思ったの」

「太陽? どういう意味ですか?」

「大きく輝いては、あっという間に沈んでしまう。そんなあなたの様子がね」

 

 ライのいる後方へと振り返り、加古が少し寂し気な笑みを見せる。

 的確な例えにライは思わず息をのみ、言葉を詰まらせた。

 

「……ならばまた昇るだけですよ。もう一度輝くために」

「あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ」

 

 だが少しでも雰囲気を変えようとライは必死に言葉を絞り出す。

 無理やり笑みを作ったうえでの強がりのような発言だが、自然と彼の発言には説得力があった。つられるように加古も笑みを深くする。

 

「それで、どうしたんですか加古さん? 僕に話があるとのことでしたが」

「あまり長居をしてはあなたが怪しがられるかしら。それなら単刀直入に聞くわね。——大丈夫よ。あなたたちに一体何があったかを聞くつもりはないから」

「ありがとうございます」

 

 事情を察して事件について深く聞こうとはしなかった。

 その配慮が今はとてもありがたい。

 彼も城戸司令達より今回の件については他言無用であることを厳しく言いつけられた身だ。尋ねられても説明ができない以上、加古のように最初から聞かないでおくという姿勢を見せてくれる人物は非常に貴重だった。

 

「一度は断られた事は承知の上で聞くわ。紅月君、私の部隊に入らない?」

 

 そして加古は今一度ライを加古隊へと勧誘する。

 かつて断りを入れた誘いである上にライの降格直後である状況でのこの話題。予想外だった発言にライは目を丸くした。

 

「僕が加古隊にですか? ……どういう意味です? 加古さんもわかっているでしょう。降格を受けたとは言え僕はまだ紅月隊の隊長ですよ。なのにそんな話に乗ると?」

「ええ。確かにそうね。でも、これがあなたの——いいえ。あなたたちの為だからよ。あなたも一つの案として考えていたはずじゃない? 今回のような処分を受けた今、このまま部隊の存続は望む事ではないと」

「————」

 

 反論はない。

 もしも的外れの意見であったならばライは即座に反論したはずだ。

 だがそうしなかった。

 彼の反応で可能性を見出した加古はさらに話を続ける。

 

「あなたは既にB級ランク戦を経て自らの力がA級に値すると証明した。あなたにはそれだけの力がある。それは皆も認めてるわ。真に周囲の期待に応えるためにも、私達と共に戦う事こそ選ぶ道ではないのかしら?」

「——たとえ加古さんの仰る事が事実だとして、上層部がそれを許すとでも? 仮にも降格の命令を下されたばかりの隊長が、そのような事を」

「許すわよ」

 

 ライは冷静な観点から問題を指摘するも、彼の言葉を遮って加古は自らの意見の正当性を主張する。

 

「ボーダーにはそのような取り締まりを罰する規則はないもの。城戸司令は規則を破るものには厳しいけれど、その範疇に収まるものならば強引なものでも認めるわ。そしてA級部隊は一名までならばB級隊員がシーズン中に加入したとしても、その部隊はA級として扱われると規則に明記されている。何も問題はないわ」

 

 あくまでもルールの範囲内での交渉。

 確かに最終的な判断を下す城戸司令はルールに厳格な人物であり、その枠から外れる人物には厳しかった。

 だからこそそのルールに則ったこの勧誘は全く問題がないのだと加古は目を光らせる。

 

「どうかしら、紅月君? あなたがB級の部隊に甘んじるのは惜しいと思う。防衛隊員として責任を果たす為にも、力を貸してくれないかしら。もちろんあなただけじゃない。瑠花ちゃんの事も精一杯フォローすると約束するわ」

 

 そう言って加古は右手をライへ向けて差し出した。

 ライにとっては好条件な話だ。加古の話す通りルールに関しては何も問題はない。もちろん降格した隊長が加わるとなれば批判は避けられないだろうが、彼女はそれも覚悟の上なのだろう。

 瑠花の事も気にかけてくれているという点もライにとっては非常に頼もしい話だ。

 力がある者が責任を果たすという非常に心動かされる話でもある。

 

「——申し訳ございません。加古さん。その手に応える事はできません」

 

 だが、ライはその手を取ることなく静かに首を横に振った。

 

「瑠花ちゃんと共にB級に残るつもり? そのもたらす結果がわかっているはずなのに。今回のあなたたちの降格はランク戦とは全く別のもの。おそらく、昨シーズンのようにすぐ上がるという事は難しいはずよ」

 

 冷静に分析し、何とか説得できないものかと加古は勧誘を続ける。

 事実彼女の言う事は正しかった。まだ彼らに正式に伝えられていないが、処罰によって降格された部隊はたとえランク戦で上位に勝ち残ってもこれまでのように昇格試験をすぐに受ける事は叶わない。

 ライもそれは予想していた。だが彼女の指摘を受けても表情一つ変えない。

 

「縁を捨てて、自分から動くつもりはないの? それともA級に残るより責任の少ないB級にいる方が居心地がよいと思ったのかしら?」

「その縁も含め、僕は僕自身の守りたいものを守ってきたつもりです。隊長としての責任を果たす自分の立場として、今は加古さんの誘いに乗る事こそ、責任を放棄し易きに流れる事となる。それは僕の望む事ではありません」

 

 確かにB級にいるという選択は楽な道であるかもしれない。

 だがそれ以前の話として隊長である自身が部隊を捨て、一人この勧誘を受ける事こそが無責任な行為であるとライは考えていた。

 力のある者の責務。加古の言いたい事は重々理解している。その上で隊員を率いるものとしての立場から、易々と彼女の手を取るわけにはいかなかった。

 

「……相変わらず意志が固いのね」

 

 右手を引っ込め、加古は残念そうに息を吐く。その表情を見て、ライは申し訳なさそうに眉を寄せるが、意志を変える事はしなかった。

 

「わかってくれとは言いません」

「いいえ。むしろ余計に惜しいと思うわ。——本当にもったいない。双葉もその方が喜ぶと思ったのだけど」

「申し訳ございません。ですが、無理です」

 

 返答を聞き、今一度加古は深いため息をつく。黒江の名を出しても意見を曲げないのならばこれ以上の説得は厳しいだろう。それくらいは容易に想像できた。

 

「わかったわ。私だってここまで言われて無理に引き抜こうとは思わないもの。でも、瑠花ちゃんも幸せね。ここまで言ってくれる隊長が一緒なんて」

 

 どこかうらやまし気な声色で加古はそう口にする。

 二人部隊である中、隊長がこれほど部隊の事を考えて発言した。ともに戦うものとしてこれ以上嬉しい事はないだろう。

 

「——いいえ」

 

 だが、ライはゆっくり瞼を閉ざすとその意見を否定した。

 

「瑠花に関しては、この先も共に行動するのはもう難しいでしょう」

「えっ? どういう意味?」

「先ほど話していた通りです。この度の一件、僕は隊長としての責任を取らなければなりませんから」

「……紅月君。あなた、まさか」

 

 重々しく意見を述べるライに、加古が目を丸くしてその真意を問う。

 ライはその問いにゆっくりと頷くのだった。

 

 

————

 

 

 学校を飛び出し、ボーダー本部へと向かった三輪の行動は素早かった。

 隊員専用の通路を伝って本部へと入場すると一目散に紅月隊の作戦室へと向かう。

 すぐにでも目的の人物を呼び出そうとして、しかし三輪の行動は作戦室の前に立つ二人の隊員によって制された。

 

「とまれ、三輪」

「よっ。秀次おつかれ」

「ッ!? 風間さん!? それに、迅!? ……さん」

 

 部屋の前にいたのは風間と迅だ。思わぬ実力者たちの出現に三輪は再び驚愕する。

 

「どういう事ですか、風間さん。どうしてここに?」

「……処罰に関する報告はみただろう。それを受け、しばらくの間紅月への面会には制限を設けさせてもらっている。同時に会えるのはオペレーターを除いて一人だけ。今は加古が紅月と会っていて、さらに先ほど別の面会の予約があってな。しばらくは無理だ」

「制限? どういう事ですか? 一体何があったんですか? 何故紅月を!」

 

 意味がわからず三輪は言葉を荒げた。事情がわからぬ中、そんな話は受け入れられない。説明を要求するのだが。

 

「悪いが説明は出来ない。今回の辞令について関係者達には緘口令が布かれた」

「緘口令? ……まさかそれは、城戸司令からですか?」

「そうだ。ここまで言えばお前ならばわかるだろう」

 

 ——他でもない、城戸司令直属の部隊長であるお前ならば。

 風間の話を聞いて三輪は息をのんだ。

 理解している。城戸司令がここまでの制限を下すという事は、公に出来ない何か裏の事情があり。

 それにライは深く関与しているという事だ。

 三輪は強く歯を食いしばる。理解できたからこそこれ以上強く聞く事は出来なかった。

 

「まあそういう事なんだ、秀次。だから様子見ならひとまずここは日を改めてくれないか? お前だって多分学校を抜け出してきたんだろ?」

「迅! ……どういうことだ。何故お前がここにいる。お前がこの一件に絡んでいるのか?」

「おいおい。さっき言ったろ。説明できないんだって」

 

 普段から嫌悪しているためだろう。風間の時とは比べ物にならない敵意を向けると、迅は降参するように両手を挙げて事情を説明する。

 

「なるはど。やはり関与していたか」

「なんでそうなるんだよ? そうとは限らないだろ?」

「関わっていないならばお前はいつものように呆気なく否定していただろう」

 

 普段の迅の飄々とした態度を思い出して三輪は舌を鳴らした。

 そもそも本来玉狛支部にいるはずの彼がいる事こそが異例なのだ。その彼がここにいるという事が何よりの証拠である。

 

「迅。一つだけ聞かせろ」

「だから俺からは何も言えないんだって――」

「お前は紅月が、あいつの部隊がこうなる未来が見えていた上で、この未来を選んだのか!? あいつらがこうなる運命になることを許容したのか!?」

 

 迅の話を遮り、三輪は怒りの感情さえ含んだ言葉を彼にぶつけた。他人事とは思えない覇気に迅も身がすくむ感覚を覚える。

 

「三輪」

「……ああ。確かに秀次が言うように、こうなる未来もあるという事は見えていた。この未来を通る事で悲しむ事や思い悩む人が減る。そう見えていたんだ」

 

 二人の間に風間が割って入ろうとするも、そんな風間を迅が手で制し、迅は三輪の意見を肯定した。

 迅には未来が見えている。ライが鳩原を助けようと動いた時にも、その行動によって彼らの降格が避けられないと知ったうえで手助けをした。

 もちろんライ自身が覚悟していた事ではある。

 だが、それでも迅が協力しなければ今回の処罰にはならなかった。この結果に迅も責任を感じている。

 

「ふざけるな」

 

 そんな迅の事情を知らない三輪は迅の胸倉をつかみ、目を見開いて訴えた。

 

「おい三輪!」

 

 風間が制止を呼びかけるが三輪は振り向こうともしない。

 

「部隊結成から半年たらず。そんな部隊ならば構わないとでも思ったのか? ——違う。一年だ。あいつはチームを発足する前から部隊の事を考え、すでに力を持ちながらもあらゆる人物たちのもとへ赴き頭を下げ、腕を磨いていた。あいつの事情から知人もいないからこそ余計に機会は限られた。それでも、必ず昇格するためだと語っていたのに」

 

 三輪も似たような境遇を持っているからこそライと接する時間は多かった。

 時に自ら教え、人を紹介していた彼だからこそ人一倍紅月隊のために奮闘していた隊長の事を知っている。

 1シーズンでの昇格ではなかった。昇格の機会の為にもっと周到に準備をし、戦力を蓄える。そんなライの姿勢を知っていたからこそ。

 

「——変わらないな、迅。多くの者のためならば目の前の者を見捨てる。あのときと何ら変わらない!」

 

 かつての自分と大切な家族の事を思い返し、三輪はいら立ちをぶつけた。

 そう言って三輪は迅を開放すると彼の返事も待たずに足早にその場を去っていく。

 

「びっくりした。秀次が珍しく紅月君に心を開いていると思ったら、まさかここまでとは」

 

 遠くなっていく背中を見つめ、迅は驚いた様子でそう口にした。そんな様子を見て風間はおかしそうに小さく笑みをこぼす。

 

「三輪の言うことは中々言い得て妙だな」

「えー。ひどくない風間さん」

「事実だろう。多くのもの(ボーダー)のために目の前の者(自分)を見捨てる。今だって何一つ言い訳も弁明もしなかっただろう」

 

 ——それがボーダーの為とはいえ。

 

「……さて。なんの事?」

 

 的確に真意を読み取る風間に、迅はとぼけながら深く息を吐くのだった。

 

「あっ、風間さん。迅さん。お疲れ様です」

「むっ。紅月か」

「よっ。加古さんとの話は終わりかい?」

「……ええ。大丈夫です」

 

 直後、曲がり廊下を通ってライが姿を見せる。

 迅が問うと少しライは表情をゆがませて頷いた。

 その様子から何かあった事を察しつつ、迅は話を続ける。

 

「ならよかった。ちょうどいい。もう一人君に会いたいという人が部屋の中に来てるよ」

「えっ?」

 

 

————

 

 

 迅から自分に会いたい人がいると告げられたライはすぐに作戦室の中へと戻った。

 平日であるため高校生以下の隊員という可能性は低い。

 誰か年長の人たちだろうかとライは予想を立てながら作戦室の中に戻ると。

 

「ライ先輩!」

「……瑠花?」

 

 彼の予想に反し、部屋のソファに腰かけているオペレーター・瑠花の姿があった。

 中学校に登校するように促し、部屋を去った事は確認していただけに驚きを隠せない。

 

「一体どうしたんだ、学校は?」

「早退させていただきました。あのような知らせを受けた後では、居ても立っても居られませんから」

「そうか……」

 

 まっすぐ言い切った彼女の声を聞いてわずかに眉を寄せると、ライはそれ以上事情は聴かずに席へ座るように促した。

 自分も彼女と向かい合うように腰掛けると話を切り出す。

 

「ならば知っての通りだ。先の会議で処分が決定された。紅月隊はB級へ降格。僕も個人ポイントを剥奪される事となる」

「——はい」

 

 重々しい話を聞いて、瑠花もゆっくりと頷いた。

 

「仕方がない事であるとは私も理解しています。ですが、ライ先輩があまりこの事を長く引きずる事はないと思います。ライ先輩は自分の守るものを守ったのですから。その点は誇ってよいと思います」

「——そうか。そう言ってくれると少しは心の負担が軽くなるかな」

 

 自分は割り切っているから問題ない。ライも行動の結果の果てに守った人がいる事を忘れないでほしい。

 そう語る瑠花にライは笑みを浮かべた。

 

「君には悪い事をした。折角素晴らしい初陣を果たした君まで巻き込んでしまった事、本当に申し訳なく思う」

「何を仰いますか。昇格は一人のものではありません。ですからそのような事を仰らないでください」

「……ああ。そうだね」

 

 ハキハキと的確にライの心境をくみ取って発言する瑠花の姿は非常にありがたいものだろう。

 降格となれば部隊によっては揉め事も生じるはず。なのにそう言った気配はみじんも見られない。

 

「とにかく今回の件は関係者以外には口外する事を禁止された。難しいと思うが君も気をつけてくれ」

「大丈夫です。事の大きさは私も理解しておりますから」

「そうか。助かるよ。——ところで、一つ君に聞いておきたい事があるんだけど」

「何でしょうか?」

「うん。大したことではないんだけどね」

 

 そう言うと、ライは一度頬をかいてゆっくりと言葉を吐き出した。

 

「——君は誰だ?」

 

 一瞬の静寂が生まれる。

 問われた瑠花はライが告げた言葉の意味が分からず、首をかしげるのだった。

 

「誰だって、どうしたんですかライ先輩? 私ですよ?」

「ああ。二人部隊だから知らなくても無理はないだろう。確かに誰かがいる人前では君が言うように接していたからな」

 

 苦笑を続ける瑠花に向け、ライは確信をもって話を続ける。

 

「瑠花はね。作戦室で二人っきりの時は僕のことをお兄様と呼ぶんだよ」

 

 瑠花が目を見開いた。

 一体何を言っているんだと、理解に困った——わけではなく。

 

「……確かにその話は聞いていませんでした。あなたたちはそういう関係なのね」

 

 意味していたのは驚愕だった。ライの話に参ったと示すように深々と息を吐く。

 取り繕うのをやめた素の姿はやはり普段の瑠花がライに示す態度とは似ても似つかなかった。

 

「いや、それは冗談だ」

「えっ?」

「だが今の君の反応で僕の予想が正しいとわかったよ」

「私を試したのかしら?」

「ああ。言葉や様子の節々がおかしかったからね。ブラフを使うのが手っ取り早いと考えたんだ」

 

 当然の事ながら嘘であるのだが、その嘘を見切れなかった以上、ライの憶測が的中したという事を意味している。

 不審な点はいくつもあった。

 そもそも瑠花が学校を早退してこちらに来たのに連絡がなかった事。ライが彼女の進学について十二分に気を配っているだけあって学校を最優先させている。そんな彼女が早退した上に急いでいたとはいえ先に部屋についたにも関わらず連絡をしなかった事だ。

 また、会話の内容そのものは決して問題はなかったのだが、言葉の節々に普段の瑠花よりもどこか彼女よりも育ちの良さがうかがえた事。

 そして何よりも、瑠花がライの身を案じるセリフが少なかった事だ。彼女は賢いが、それだけでなく人一倍優しい性格であり、今回の報告を受けた直後ならば必ずライの身を案じているはず。だが「強くあれ」とそう勇気づける言葉はあれ彼を心配するそぶりは少なかった。

 

「さあ質問に答えてくれないかな? 君は誰だ? 瑠花の姿を使い、名前を騙って。一体何の目的かな?」

 

 今の問答を経てライは目の前の人物が自分の知る彼女でないと結論づけ、視線を鋭くする。口調は丁寧なままだが言い逃れは許さないという意志が声色に現れていた。

 

「誰、ですか。そうですね。あなたの疑問はもっともです。ですがそれなら私からではなく、あの人に託した方が良いでしょう」

「あの人?」

 

 そう言って彼女はポケットから携帯端末を取り出してある人物を呼び出す。

 ほどなくして一人の男性が足早に作戦室の中へと駆け込んだ。

 

「やあ。すまない、紅月君。何の説明もないままで驚いただろう? 私は何度も言ったのだが、彼女が聞かなくて」

「忍田さん?」

「遅いですよ、忍田」

 

 やって来たのは会議でも出会っていた本部長の忍田だ。

 何故彼がここに、とライは疑問を呈する中、彼女は本部長である忍田を咎めるように口をとがらせる。一方の忍田は「これでもすぐに来たんだが」と取り繕うばかり。

 ライは自分の知る瑠花とはあまりにもかけ離れた態度を忍田に取る彼女に、何よりそれを怒ろうともしない忍田の関係に疑問を深めていった。

 

「驚くというような話ではありません。ライは私が明かすことなく彼女との違いに気づいたのですから」

「そうだったのか? さすが、瑠花と長く一緒にいるだけあるな」

「……あの、忍田さん。先に説明をお願いしてもよろしいですか? 彼女は誰ですか?」

 

 女性と忍田が紅月隊の結束に感心する。しかし話についていけないライはすぐに忍田へ事情の説明を求めた。

 てっきりライは何者かがトリオン体の能力を使って瑠花の姿を借り、何かを狙っていたのではないかと考えていたのだが、二人の様子はそうと考えられないものである。

 

「ああ、すまない。彼女について説明させてもらう」

 

 一つ咳払いをすると忍田は改めてライへと説明を始めるのだった。

 

「彼女は忍田瑠花。私の親戚という事になっている。容姿や声も非常に似ているが——紅月隊のオペレーターである瑠花とは同姓同名の別人だ」

「挨拶が遅れましたが、はじめまして。忍田から話はよく聞いています」

 

 そして告げられたのは驚愕の真実。

 ライがよく知る瑠花とは別人である瑠花が目の前にもう一人いる。

 大切なオペレーターと瓜二つな存在の出現に、ライはすぐに理解する事はできなかった。




「瑠花はね。作戦室で二人っきりの時は僕のことをお兄様と呼ぶんだよ」
「……えっ、と? 何を言っているんですかライ先輩?」
「あれ?」

もしも予想が外れていた場合、ライが大変な事になっていた。
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