REGAIN COLORS   作:星月

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不変

 雨取家の捜索から時間が経過した数日後の夕方。

 ライはある部隊の作戦室へ向かっていた。

 相手と約束した時間までおよそ7分ほど。十分余裕のある時間だ。これならば大丈夫だろうと足を進め——そして目的の作戦室へとたどり着き、その扉が開いている事に気づいて足を止める。

 

「こんばんは。弓場さんは——あっ。いらっしゃいますね」

 

 扉近くの壁を3度ノックした後にそっと部屋の中をのぞき込む。

 すると入り口からすぐそばの場所に会う約束を交わした相手であり部屋の主でもある弓場隊の隊長・弓場が厳つい顔つきで立ち尽くしていた。

 

「おお。よく来たな、紅月ィ」

「お久しぶりです。弓場さん。ランク戦以来ですね。今日はどうしましたか?」

「ああ。まあお前には色々言いたい事も聞きたい事も山ほどあるが、今日の主な用事はそっちじゃねェー。——帯島ァ!」

「ッス!」

 

 弓場の力強い叫びに呼応し、部屋の影から中性的な顔立ちと日焼けした肌が特徴的な隊員が顔を表した。

 B級弓場隊 攻撃手(アタッカー) 帯島ユカリ

 

「客だ。挨拶しろ」

「は、はい。えっと。は、はじめまして。帯島と言います」

「ああ。はじめまして。紅月隊隊長の紅月ライだ。よろしく」

 

 言葉に詰まりながらも帯島は軽く会釈をしつつライに名乗るとライも呼応して自己紹介を済ませる。

 初対面で年上の相手となれば緊張するのも仕方ないだろう。

 ライは軽く笑って緊張をほぐそうとするが。

 

「おい。帯島ァ」

「うっ」

「挨拶くらいきちんとしろや、もっと声出せ!」

「——っス!」

 

 弓場はそんな態度を諫め、もっと背筋を伸ばすようにと声を張り上げた。そんな声に当てられ、帯島はゆっくり深呼吸すると今一度ライへ向けて先ほどとは打って変わって凛と姿勢を正し、名乗りを上げる。

 

「自分、弓場隊に加わることとなりました攻撃手(アタッカー)帯島っス! 昨シーズンの紅月先輩の柔軟な戦いぶりに感銘を受けました! 自分はこの先、万能手(オールラウンダー)になるべく精進しようと思っています! よろしければ、自分に戦い方についてご教授ください!」

「——弟子入り?」

 

 真っ直ぐな言葉に驚きつつ、ライは相手の意図を理解して短くつぶやいた。すると彼の意見を肯定するように弓場が代わって話に入る。

 

「ああ。おめェーはもう知っているかもしれねェーが、王子と蔵内が独立して自分の隊を持つことになった」

「ええ。たしかに聞いています」

「そこで、この帯島が新たに弓場隊へ加わる事になったんだが、俺や神田の負担を減らすためにもこいつには剣の腕を磨きつつ射手(シューター)のトリガーも使わせるようにしてェー。一つ、頼まれてくれや」

 

 なるほど、とライは頷いた。

 昨シーズンまでの弓場隊には王子・蔵内という隊員が在籍していたが、この二人が隊を離れ新たに王子隊を発足する事となっている。

 そのため減った人員を補うために入ったのがこの帯島なのだが、銃手・弓場と万能手・神田と合わせるためにも帯島に万能手として学んでほしいと弓場は語った。

 戦略を立てる上でも非常に理解できる話だ。

 まだ次シーズンまで数週間はあり、新たなトリガーを練習するには十分だろう。

 

「本当に良いのですか、弓場さん? 教える相手が僕で。正直に言ってあまりお勧めはできません」

 

 教える事は決して苦痛ではない。

 だがライはこの誘いに対して否定的な意見を述べた。

 理由はもちろん己の立場を考慮してだ。

 ライは二宮隊と行動を共にする事になったという事情もあって他の隊員たちとの接触の制限については解除された。

 だからと言って処分を受けた彼の心象が消えたわけではない。特に彼の事を知らぬ隊員たちの目は冷ややかなものだ。ゆえに初対面であり、見たところ中学生くらいであろう帯島の相手をするのが自分であるという事にライは前向きに考える事はできなかった。

 

「……あぁ。そう言うと思ったから、おめェーに声をかけた」

「はっ?」

 

 するとライがすぐに応じるとは思っていなかったのか、弓場は「それがどうした」と言わんばかりの表情で応じる。真意が読めずライは首をかしげて先の言葉を促した。

 

「あんな処分を食らった後ならおめェーが他の奴らと関わらないようにするだろうとは思っていたからなァ。——あんまり自分を過小評価してんじゃねェーよ、紅月ィ。もう一年近くの付き合いだろうが。降格したからって俺らの評価はそう簡単に変わりはしねェーよ」

 

 今までのライの人間性を見て、聞いて、その上で弓場は紅月ライという人間が何の理由もなしに隊務規定違反を犯すはずがないと考えて。そして彼がふさぎ込まないようにとライのためにもこういった人との交流の場を設けていた。

 だからそんな事で縮こまるなと弓場は笑う。

 

「紅月先輩。自分も、緑川君たちから先輩の話は少し聞いてました。皆先輩の事嬉しそうに話してて、そんな人ならば自分も教えを受けたいと、そう考えました」

 

 さらに帯島も弓場の意見を後押しするように、一歩前に出て再び教えを願った。

 帯島はライと交流も多い緑川と同じ年代だ。ひょっとしたら彼以外にも年代が近い黒江などからも話を聞いていたのかもしれない。帯島の言う通り、きっとライの話を以前から聞いていたのだろう。初対面の相手に対する緊張感はなく、帯島はじっとライの目を見つめている。他の隊員と同じような接し方だった。

 

「……わかった。僕で良ければ力になろう。女の子の頼みを無碍にするわけにはいかないしね」

 

 ——今はその態度がライにとって非常にありがたかった。

 だからライもその期待にはしっかり応えるべく肯定の返事をする。

 こうして新たな師弟がここに誕生したのだった。

 

 

————

 

 

 帯島とライは弓場隊の作戦室で軽く10本の手合わせを行った。

 現時点で帯島がどれほどの腕を持ち、どのような戦い方をするのかをみるための模擬戦である。

 数分後、仮想戦闘場から二人がゆっくりと出てきたのを見て外から眺めていた弓場が声をかける。

 

「おぅ。どうだ、帯島の腕は?」

「悪くないと思います。特に防御に関して反応が良い。身軽な分手数で押す事もできるでしょう。B級上位陣のエース級と当たるのは厳しいでしょうが、そうでなければ条件さえよければ単騎での行動も不可能ではないかと」

「ありがとうございます!」

 

 純粋に戦った身として適切な評価をライが下した。

 まだ幼いとは言えB級に上がるだけあって筋が良い。特に守りに関しては得意なのか対応力が優れていた。弓場隊の一員として迎え入れるとしても問題はないだろうと彼女の腕を認めている。

 

「ただ、今すぐに射手のトリガーを使う事は反対です。少なくとも今シーズン中は弧月に専念する方がよろしいかと」

「あぁ? なんでだ?」

 

 しかしライは頼まれていた万能手への必須要件でもある射手トリガーの教えには反対意見を呈した。

 腕を認めているならば問題はないだろうと弓場は当然疑問の声をあげる。

 

「理由は単純にまだ彼女自身が弓場隊に、部隊ランク戦に慣れていないという事。まずは部隊としての戦い方に慣れさせるためにも使える武器を一つに決め、新生弓場隊の方針を立てていくことが重要と考えます」

「まあ確かにすぐ使いこなせるとは俺も思ってはねェーがなぁ」

「それと何よりも新たに手にしたばかりの武器を使いがちになる。かえって弧月の戦いがおろそかになり、注意力が散漫になる恐れがあります。弧月の戦いにおいて基礎が固まっている今はさらに経験を積ませてより柔軟性を持たせたい。そのうえで射手トリガーを教え、万能手として活躍するのが上策かと」

「——なるほど。おめェーなりにきちんと考えたみてェーだな」

 

 弓場自身も思うところがあるのだろう。納得して小さく笑った。

 覚えたての技術を使いたくなるというのは人の性だ。使える武器が少なく選択肢が限られているからこそ自分の戦い方を明確に理解し、存分に力を発揮できるという事もある。

 

「最初は弧月でチーム戦の経験を積んでいき、少しずつできる事を増やしていくのが彼女の、ひいては弓場隊のためになると思います」

「良く分かった。そもそも帯島の指導についてはおめェーに一任するつもりだった。万能手に関しても俺より知ってるだろうしな。おめェーの方針通りに進めてくれ」

「わかりました」

 

 教えを一任され、ライが力強く頷いた。剣だけだとしても教える事は多くある。出来うる限り力になろうと改めて帯島に向き直った。

 

「というわけだ。しばらくは剣のみでの指導になると思う。頃合いを見て十分経験を積んだと判断したら射手トリガーの方も僕が教えられることは教える予定だ。それで良いかな?」

「っス! どうかよろしくお願いします!」

「うん。よろしく」

 

 まるで体育会系のようなノリで力強く返答する帯島。そんな彼女につられるように笑いつつ、ライは「それと」と小さな声で付け加えた。

 

「弓場さんがいない時はもっと力を抜いて良いよ」

「えっ?」

「無理して気を張ると疲れるだろう? 僕といるときはもっと自然体でいて欲しい」

 

 弓場に聞こえないようにそっと耳打ちする。

 ライは最初の帯島の言動とその後の表情から帯島は本来は大人しい性格であり、弓場の教えで今のような振る舞いをしているのだろうと考えていた。

 もちろんその指導方針も一つの教えとして正しい。

 だがライはあまり無理をしないでありのままの姿でいて欲しいと願っていた。

 

「……は、はい。ありがとうございます」

 

 帯島は軽く会釈をしながら礼を述べる。核心を突かれたためか、わずかに赤くなった頬を隠すように。

 

「おう。もうこんな時間か。紅月ィ、帯島ァ。この後迅と生駒のやつらと飯食いに行く予定なんだ。一緒に来るか?」

「良いんですか?」

「皆さんがよろしければ……」

「おう。これから世話になるわけだし奢ってやる。じゃあ着替えたら行くぞ」

 

 チラッと掛け時計に視線を移し、彼と同年代の隊員である二人と約束していた時間が迫っている事を知り、弓場が二人へ提案する。

 折角の誘いだ。断る理由はないとそろって了承した。

 3人はトリガーを解除し、私服になると迅たちが待つであろうラウンジへと向かうのだった。

 

 

————

 

 

 そのころ、ボーダー本部のラウンジの一角に迅と生駒が並んで腰かけていた。

 

「そういえば生駒っち聞いた? 弓場隊に女の子入るって」

「おお。弓場ちゃんに聞いて写真も見たわ。またメッチャ可愛い子やで」

「ねえ。俺もチラッと見たけどボーダーには珍しい小麦肌でいいよね」

「せやな。いろんなタイプの可愛い女の子がおるけど健康的な感じがしてええなあ。弓場ちゃん、すでに藤丸ちゃんもいるのに羨ましいわ」

 

 話題の種はやはり同級生の部隊に入ることとなった女性隊員・帯島である。

 しかし彼らの場合、性格の事もあって話は帯島の容姿に関するものであった。

 他の隊員がいれば話題に関して制するよう諫めただろうが、案の定二人に突っ込める年上隊員は不在であり、嵐山や柿崎もこの場にはいない。

 

「気になるのはあの肌スポーツで焼けたのかな? 元々黒かったのかな? 野球部とかテニス部とかに入ってると噂も流れてるけど」

「自分そういうの未来予知で見れんの?」

「俺の副作用はそんな万能じゃないって」

「うーん。どうやろなあ。活発そうやし焼けたと考えてもおかしくなさそうやな。服の下も見れればどっちかわかるんやけど」

 

 さらに話題は発展し帯島の肌が先天性のものなのか後天性のものなのかについても広がった。

 あまり触れられないような事に関しても二人は真面目に討論している。

 いっそ見えない部分の肌も確認できれば結論はつくのだが。そう生駒が話したところで——

 

「……あっ。生駒っち、やばい」

「ん? どないしたん?」

 

 迅の表情に冷や汗が浮かんだ。突然の豹変ぶりに生駒は何事かと顔をのぞき込む。

 

「今、未来が確定した」

 

 そして迅は自分たちに訪れる悪い可能性が目前に迫っていると生駒に告げるのだった。

 どういう事だと生駒は周囲360度を見回し、何かあるのだろうかと警戒して。

 

「——紅月ィ」

「何でしょうか、弓場さん」

「おめェーは(生駒)をやれ。俺は()だ」

「紅月了解」

 

 いつの間にかチームメイト並に素早く連携をとるようになった弓場・紅月の二人が帯島を伴い、殺意を纏って迅と生駒に迫っていた。

 

「いや、違うから! 確かにちょっと公共の場で話すような内容ではなかったかもしれないけど深い意味はないから!」

「ちょっと純粋な疑問を話し合っただけやって!」

「それが遺言で良いのか? 最後の言葉にしては変わってるじゃねーか」

「弓場ちゃん目が笑ってない!」

「イコさん、食事の前に腹ごしらえの為に軽く運動と行きましょうか。ブースに入りましょう」

「運動どころか自分殺る気満々やろ!」

 

 この後、個人ランク戦において二人の男性隊員の悲鳴が木霊したとのうわさが流れたが、その主が誰だったのか真実は定かではない。

 

 

————

 

 

「——本気でやりおって」

「あんな話をあんな所でするのが悪いです。中学生が恥ずかしがると思わないんですか?」

「あかん。ぐうの音も出んわ」

 

 完全に師弟の立場が逆転している生駒とライの二人。さすがの生駒も反省しているのか、強く言い返そうとはしなかった。

 

「おう。そっちも終わったか」

「生駒っちも存分に絞られた感じ?」

「なんや。自分もとちゃうんか?」

「まあ俺が悪かったという事で受け止めたよ」

 

 異なるブースから出てきた弓場と迅も似たような様子である。おそらく迅の言う通り弓場から厳しい制裁を受けたのだろう。

 

「ん? ところでなんでライが弓場ちゃんたちと一緒におったんや? 偶然鉢合わせたんか?」

 

 ここでようやく生駒がライと弓場達が行動を共にしていたという事に疑問を抱き、ライ達へ問いかける。

 普段から時間を共にすることが多いわけではなく師弟関係でもない二人だ。当然の疑問だろう。

 

「偶然ではないですよ。弓場さんから彼女の師匠になってくれないかと頼まれましてね。先ほどまで手合わせしていたんです」

「はい。はじめまして、お二人とも。帯島っス」

 

 ライに視線で促され、帯島が挨拶を交わす。新たな師弟の誕生に迅は感心の声をあげた。

 

「へえ。帯島ちゃん、紅月君に教えてもらってるんだ。師匠探しは苦労するからね。早くに見つかって何よりだ」

 

 師匠は相手の都合もあってそう簡単に見つかるものではない。

 特に隊長職につく隊員は個人の私生活の用事もあるのでなおの事だ。その点ライという人材にたどり着けたのは得策と言えるだろう。

 

「……ライ。自分、またか!」

「えっ? イコさん、何がですか?」

 

 一方で生駒は視線を落とし、肩を震わせ、重々しい声をライにぶつける。意味が分からずライは呆けた声を出すと、そんな彼の両肩を握りしめ、生駒が涙交じりに口を開いた。

 

「また女の子を弟子にとったんか! 自分どんだけ女の子に声かけとんねん!」

 

 案の定、女の子と仲良くなる弟子への嫉妬の声であった。以前に黒江を弟子に取ったという話も後押ししている。

生駒は真剣そのものだがあまりにも熱すぎるその反応に周囲の声は冷めていた。

 

「生駒っち。さすがに大人気ないよ……」

「そうですよ。それに双葉もそうですが僕から声はかけていませんよ?」

「なんでや! 弓場ちゃん、なんで俺に声をかけなかったんや!」

「さっきの会話をしておいてよくそういう意見を出せるじゃねーか」

「あっ。はい。すいません」

 

 先ほどの話を出されては反対の声はあっさりと引っ込む。弓場もきちんと同僚の性格を見抜いていた。

 

「そっかー。帯島ちゃんもライの弟子になったんかー。……おい、ライ。ちょっと耳貸しや」

「なんでしょうか」

 

 『前にもこんな形の展開があったな』と思いつつ、ライは生駒に言われるがまま彼の元へと近づいていく。

 そして他の者には聞こえない様に細々とした声で弟子に語り掛けるのだった。

 

「つまり帯島ちゃんも俺の孫弟子になるってことやろ? 自分の口からちゃんと後で俺の弁明頼むで? 自分を立派に鍛えてくれた素晴らしい師匠やったってな。黒江ちゃんの時みたいに防犯ブザーは勘弁やで」

「自分で言えばいいじゃないですか」

「いや、あかんやろ。だってあの子中学生やろ? 俺が話しかけたら色々マズくない?」

「普通に話すだけなら問題ないですって」

 

 女の子が好きなのにいざ接しようとすると恥ずかしがる生駒。

 普段のように堂々としてればいいのに、とライは変わらぬ様子の生駒にため息を吐き、同時に嬉しさを覚えた。

 

「……生駒さん。良いんですか? 僕と師弟だなんて話してしまって」

「ん? 何がや?」

「僕の処分の話は聞いているでしょう? あるいは、僕とは出来るだけ関わりを持ちたくないと考えるかと思いました」

 

 いつものように軽い調子の生駒に、ライは諭すように話題を変える。

 違反を犯したものが弟子となれば師匠のイメージも悪くなるかもしれない。生駒の事を案じてライは指摘するのだが。

 

「——何言ってんねん。甘く見んなや。俺達が自分の処分について何も考えずにいると思うたんか? それなりに察してるわ」

 

 真面目な表情で生駒がつぶやく。

 仮にも師匠としてライと接してきたのだ。弟子の事はある意味人一倍理解している。

 だからこそ生駒も弓場同様に彼の事を信頼していた。

 

「本当ですか?」

「ああ。——どうせまた迅と女の子が絡んどるんやろ?」

「ちょっと、生駒っち?」

 

 惜しい。確かに迅と女の子(鳩原)が絡んでいるため実に的を射た指摘なのだが、根本的な所で色々と間違っていた。

 会話が聞こえていたのかそれとも未来予知で自身の悪い予知が見えたのか、たまらず迅が二人の会話に割り込む。

 

「……さすがですね。その通りです、イコさん」

「せやろ」

「ちょっと! 紅月君、君わかってない!? わかってて言ってない!?」

 

 生駒の発言を肯定するライに、大きく何度も頷く生駒。

 迅はそうじゃないだろうと慌てて弁明するのだが、身の潔白を証明する事はしなかった。

 

「なんやねん迅。違うんか? じゃあ何があったのか教えてや」

「えっ。いや、それは————言えない」

 

 緘口令が布かれている現状では何も詳しく話す事は出来ない。そんな迅の都合を知らない生駒は静かに「そっか」と小さく息を吐き、ライの肩にポンと手を置くのだった。

 

「安心せえ。全部わかっとる。俺は味方や」

「いや、生駒っち、何もわかってない!」

 

 優しい声色のつぶやきに、迅はひたすら待ったをかける。だが日頃の行いの為か生駒がこれ以上迅に振り返る事はなかった。 

 

「——せやからあんな事二度と言うなや。師弟やろ。自分とてもし黒江ちゃんとかが同じ事になっても同じようにするはずやで」

 

 瑠花だけではない。

 どのような事があろうと生駒たちもライとの関係が変わる事はないのだと年長者として、師匠としてそう語った。

 

「そうですね。はい。——ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

 

 だからライも素直に礼を述べる。

 この関係がこれからも続くことを願って。

 再び師匠と強くなれる未来を夢見て。

 

 

 

 

 

 

「——道に迷う弟子を諭す師匠。これはモテるんちゃうんか?」

「ええ。それさえ言わなければ」

「やっぱりそうなん? 水上にも似たような事言われたわ」

 

 明後日の方向を眺めてつぶやく生駒にライがツッコむ。

 やはりこの関係はしばらく続く事になるようだ。

 




「おめェーは間違わなかったな、紅月ィ」
「何がですか?」
「帯島の事だよ。よく初見であいつが女とわかったじゃねえかァー。結構間違うやつもいるんだがなァー」
「間違うもなにも。見て話してみればわかるじゃないですか」

 違いがわかる男・ライ。
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